2019年8月31日

2019年9月1日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカ、MEDI-548の二本目のSLE試験は成功 
  • MDCO、PCSK9のsiRNAを承認申請へ 
  • トルツがaxSpAに適応拡大 
  • 協和キリン、ノウリアストが米国でも承認 
  • BMS、欧州でエムプリシティの用法追加 
  • FDA、一部の抗HCV薬の肝障害副作用症例を通知 


【新薬開発】


アストラゼネカ、MEDI-548の二本目のSLE試験は成功
(2019年8月29日発表)

アストラゼネカは、MEDI-546(anifrolumab)の第三相SLE(全身性エリテマトーデス)試験が成功したと発表した。MEDI-546はタイプ1インターフェロン・サブユニット1を標的とする完全ヒト化抗体。標準療法を受けている中重度患者に300mgを4週毎点滴静注したところ、疾病活動評価スコア(BICLA)が偽薬群より統計学的に有意な、そして臨床的にも意味のある、改善を示した。

昨年開票した一本目の試験は150mgと300mgをテストしたが、主評価項目であるSRI4(SLEレスポンダー・インデックス4)がフェールした。事前に設定されたBICLAに基づく解析は良好であった模様で、今回の二本目の試験の主評価項目はBICLAに変更された。一本目で浮上した仮説を二本目が検証成功したことになる。

SLEの第三相はなかなか成功せず、適切な主評価項目を模索するのは珍しいことではない。BICLAの妥当性に問題がなければ、二本目の試験を薬効のエビデンスとして、一本目は支持的データとして、承認申請することが認められるのではないか。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

MDCO、PCSK9のsiRNAを承認申請へ
(2019年8月26日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は、inclisiranの第三相LDL-Cコレステロール治療試験が成功したと発表した。データは9月2日にESC(欧州心臓学会)で発表される予定。今年第4四半期に米国で、来年第1四半期には欧州でも、承認申請する予定。

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)からライセンスしたPCSK9のmRNAを切断するsiRNA薬で、LDL-C引き下げ効果は抗PCSK9抗体のRepatha(evolocumab、和名レパーサ)やPraluent(alirocumab、和名プラルエント)と同程度と推測される。

同じGalNAc結合技術を用いたALN-AS1(givosiran)は急性肝性ポルフィリン症の治療薬として欧米で承認審査中だが、第三相試験で肝機能検査値の3倍増が14%の患者で発生した。Hyの法則該当例はなかったとのことだが、症例数が少なく表面化していないだけかもしれない。inclisiranはマスマーケットを狙う薬なので臨床試験の規模も大きく、リスクがあるなら表面化するだろう。学会発表が注目される。

リンク: MDCOのプレスリリース


【承認】


トルツがaxSpAに適応拡大
(2019年8月26日発表)

イーライリリーは、FDAがTaltz(ixekizumab、和名トルツ)をr-axSpA(X線陽性体軸性脊椎関節炎)の治療に用いることを承認したと発表した。単剤、または既存薬に追加投与する。

Taltzは抗IL-17A抗体。乾癬や乾癬性関節炎の治療に承認されている。臨床試験ではX線陰性の体軸性脊椎関節炎にも効果があったはずだが、少なくとも今回の承認はX線所見のあるタイプに限定された。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

協和キリン、ノウリアストが米国でも承認
(2019年8月27日発表)

FDAは、協和キリンのNourianz(istradefylline、和名ノウリアスト)をパーキンソン病治療薬として承認した。レボドパ/カルビドパの効果が持続しなくなり症状が悪化する、オフ・エピソードの治療に用いる。FDAのプレスリリースによると、4本の試験全てでオフタイムが偽薬比有意に減少した。有害事象はジスキネジア(レボドパが効きすぎると発生する運動障害)、めまい、便秘、悪心、幻覚、不眠など。

アデノシンA2A受容体拮抗剤で、ドパミン感受性を改善する。日本では13年に承認。米国は07年に承認申請されたが、有効性やラット試験における用量依存的な鉱質沈着の検討が不十分として、承認されなかった。有効性に関しては第三相試験三本のうち一本しか主評価項目で有意差が出なかったことがネックになったと推測される。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 協和キリンのプレスリリース(和文、pdfファイル)

BMS、欧州でエムプリシティの用法追加
(2019年8月27日発表)

BMSは、抗SLAMF7抗体Empliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)の用法追加がEUに承認されたと発表した。多発骨髄腫でlenalidomideとプロテアソーム阻害剤による治療歴を持ち最終治療抵抗性の患者の三次治療として、pomalidomide及び低量dexamethasoneを併用するもので、米国は昨年11月に承認、日本でも用量用法追加申請中。

第二相試験は、PFS(無進行生存期間、担当医評価)がメジアン10.25ヶ月とpomalidomideと低量dexamethasoneだけを用いた対照群の4.67ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.54、p=0.0078だった。

lenalidomideとpomalidomideは多発骨髄腫用薬の大手であるセルジーンの製品。BMSはセルジーンを買収する予定なので、販売シナジーが生まれる。

リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、一部の抗HCV薬の肝障害副作用症例を通知
(2019年8月28日発表)

FDAは、慢性C型肝炎治療薬として承認されている三薬について、中重度肝障害または高リスクの患者に投与して肝機能悪化・肝不全を来した症例が報告されていることに注意を促した。

この三剤は、アッヴィのMavyret(glecaprevirとpibrentasvirの合剤、和名マヴィレット)、MSDのZepatier(elbasvir、和名エレルサ、とgrazoprevir、和名グラジナ、の合剤)、ギリアドのVosevi(sofosbuvir、velpatasvir、voxilaprevirの合剤、voxilaprevirは本邦未承認)。何れも適応が肝硬変を合併していない、または軽度肝障害の患者に限定されているか、中重度肝障害が禁忌となっている。

肝機能悪化・肝不全に至った症例は、19年1月までに63例報告された(各剤46例、14例、3例)。2018年に米国で調剤を受けた患者数は72000人(各剤の構成比は89%、6%、5%)とのことなので発生率は決して高くない。

FDAは、肝細胞腫やアルコール飲酒過多などリスク因子を持つ患者についても治療前、治療中のチェックを強化するよう促した。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

2019年8月25日

2019年8月25日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • グラクソ、虎の子の抗体医薬を承認申請へ 
  • フォシーガの心不全アウトカム試験が成功 
  • イミフェンジの抗CTLA4抗体併用試験がまたまたフェール 
  • Retrophin、PKAN試験がフェール 
  • 中国のBeiGene、FDAがBtk阻害剤の承認申請を受理 
  • Vanda、Hetliozの適応拡大は承認されず 
  • サレプタ、エクソン53スキップ薬は承認されず 
  • FDAが新規作用機序の広域抗生剤を承認 
  • FDA、諮問委員会がモンテルカストの小児安全性を検討へ 


【新薬開発】


グラクソ、虎の子の抗体医薬を承認申請へ
(2019年8月23日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK2857916(belantamab mafodotin)の第二相多発骨髄腫試験でポジティブな結果が得られたと発表した。従来からの予定通り、今年末までに承認申請する予定。

この抗体薬物複合体は、協和発酵キリン・グループのバイオワの技術を用いて開発した抗BCMA(B細胞成熟抗原)抗体と、細胞毒のauristatin-Fを、シアトル・ジェネティクスからライセンスした切断不能リンカーで結合したもの。最初の臨床試験で難治再発多発骨髄腫のORR(総合反応率)が60%と良績を上げ、注目された。米国でブレークスルー・セラピー指定、EUでPRIME指定を受けている。

今回のDREAMM-2試験は免疫調停薬とプロテアソーム阻害剤に難治性を示し抗CD38抗体Darzalex(daratumumab)がフェールした患者196人を組入れて、二種類の用量のORRを検討した。データは学会で発表される予定。上記の試験では類似したサブグループにおけるORRは38%だった。

グラクソは伝統的に特定の領域で高いシェアと収益性を達成するこ戦略を取り、近年も、大手製薬会社の殆どが腫瘍学を重点研究開発領域に抜擢する中、14年に腫瘍学事業をノバルティスのワクチン事業とアセットスワップするなど、独自路線を歩んできた。個社にとって最適な戦略であったとしても、業界全体が一斉に同じ方向に進むなら、相対的な優位性は向上しないからだ。

しかし、ゲノム研究の進歩の恩恵が顕著な分野である腫瘍学、ウイルス学、遺伝子疾患の中で、最も市場規模が大きい腫瘍学をいつまでも軽視するわけにはいかず、重点分野に位置付けを変えた。

グラクソは腫瘍学の開発初期パイプラインについてはノバルティスに譲渡せず、優先交渉権の供与に留めていたため、GSK2857916が再始動のファンファーレになった、

リンク: GSKのプレスリリース

フォシーガの心不全アウトカム試験が成功
(2019年8月20日発表)

アストラゼネカは、二型糖尿病のSGLT2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ、欧州名Forxiga)の第三相DAPA-HF試験が成功したと発表した。NYHA分類でII度からIV度の慢性心不全で駆出率が40%以下に低下した、HFrEFの患者約4700人を組入れて転帰を偽薬群と比較した試験で、統計学的だけでなく臨床面でも有意な差があったとのこと。データは学会発表の予定。

SGLT2阻害剤は血液中のグルコースを尿とともに排出させる。利尿作用も見られ、そのせいか、二型糖尿病の心血管アウトカム試験で心不全による入院などを抑制する効果が見られた。FarxigaもDECLARE-TIMI 58試験で、二型糖尿病患者のMACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)は偽薬比非劣性に留まったが、心血管死と心不全入院の複合評価項目は後者中心に有意に抑制した(ハザードレシオ0.73)。

今回の試験で同程度の相対リスク削減が見られたのなら、エビデンスがより強固になる。尚、DAPA-HF試験は糖尿病ではない患者も組入れたが、患者構成比をみると二型糖尿病併発が45%、前糖尿病(HbA1cが5.7%以上、6.5%未満)が36%で、正常(5.7%未満)は18%なので、二型糖尿病ではない心不全患者にも便益があるのかどうかは、学会・論文でサブグループ分析が発表されるまで分からない。

Farxiga以外では、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)も同様なアウトカム試験が進行中。また、両剤とも、駆出力が維持されている心不全のアウトカム試験を進行中。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: DAPA-HF試験のデザインペーパー(McMurrayら、Eur J Heart Fail)
リンク: DAPA-HF試験の患者背景に関する論文(同)

イミフェンジの抗CTLA4抗体併用試験がまたまたフェール
(2019年8月21日発表)

アストラゼネカは、転移性非小細胞性肺癌の一次治療における抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフェンジ)と抗CTLA4抗体tremelimumabの併用療法の効果を化学療法と比較したNEPTUME試験がフェールしたと発表した。主評価項目である腫瘍変異負荷(TMB)が20 mut/Mb以上のサブグループにおける全生存期間が対照群を有意に上回らなかった。データは今後、発表の予定。

この併用法は、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用法と似ているが、なぜか、これまでの臨床成績は失敗続きだ。今回と同じ非小細胞性肺癌一次治療のMYSTIC試験がフェール、三次治療試験もフェール、難治性転移頭頚部扁平上皮腫試験もフェールした。

tremelimumabはファイザーが第三相悪性黒色腫試験を実施したがフェール、11年にアストラゼネカにライセンスアウトした経緯がある。Yervoyに似ているといっても、固定領域がG1型ではなくG2型であることや、CTLA4の多型に対する親和性に違いがあるともいわれる。Yervoyと併用すればうまく行くのか、興味があるが、答えは永遠に得られないだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Retrophin、PKAN試験がフェール
(2019年8月22日発表)

Retrophin(Nasdaq:RTRX)は、RE-024(fosmetpantotenate)の第三相FORT試験がフェールしたと発表した。PKAN(パントテン酸キナーゼ関連神経変性症)の日常生活機能を改善する効果を検討したが、主評価項目のPKAN-ADLスケールも、副次的項目のUPDRSパートIIIも、偽薬を有意に上回らなかった。

PKANはPANK2遺伝子の常染色体性劣性遺伝による進行性神経変性疾患で、パントテン酸がリン酸化されず、コエンザイムAが欠乏し、ジストニアなどの運動障害や知的機能低下をもたらす。患者数は世界で5000人と推測されている。RE-024はリン酸化されたパントテン酸の補充療法。

Retrophinはヘッジファンド運用者だったMartin Shkreliが2011年に設立した新興製薬会社。安価だが供給源が限られる医薬品の事業権を買収し、価格を数十倍に値上げする手法で荒稼ぎしたため、「アメリカで最も憎まれている男」と呼ばれた。証券詐欺疑惑で逮捕され、14年9月にRetrophinなど数社のCEOを退任した。

リンク: Retrophinのプレスリリース


【承認申請】


中国のBeiGene、FDAがBtk阻害剤の承認申請を受理
(2019年8月21日発表)

2010年に北京(Beijing)で設立された新興製薬会社、BeiGene(Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)は、米国でBGB-3111(zanubrutinib)を承認申請し受理されたと発表した。アッヴィがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売しているImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)と同じBtk阻害剤で、再発難治性マントル細胞腫に用いる。ブレークスルー・セラピー指定されており、優先審査を受け、審査期限は来年2月27日となっている。

BeiGeneが米国で承認申請したのは今回が初めて。エビデンスは中国で行われた第二相試験とグローバルの第1/2試験で、第三相は一次治療や、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症や慢性リンパ性白血病・小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)などのImbruvica対照試験がなどが進行中。類薬が多いため競争は激しい。

リンク: BeiGeneのプレスリリース


【承認審査・委員会】


Vanda、Hetliozの適応拡大は承認されず
(2019年8月19日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)はHetlioz(tasimelteon)をジェット・ラグ障害(時差ボケによる睡眠障害)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請していたが、審査完了通知を受領した。取り急ぎFDAとミーティングを持つ考え。

このMT1/2受容体作動剤はブリストル・マイヤーズ・スクイブのBMS-214778をライセンスして開発し、非24時間障害(全盲患者の多くが患う睡眠サイクル障害)の治療薬として14年に米国で、15年にEUでも、承認を取得した。

ジェット・ラグ障害に関しては、大西洋を横断した旅行者のその後3夜の睡眠時間を調べたクロスオーバー試験で、Hetliozを使わなかった時と比べて3時間近く長期化した。しかし、FDAは、このような試験の臨床的な意義は不明と断じた。

先月、Vandaは、FDAから、適応拡大申請に欠陥があるためレーベルや市販後コミットメントに関する協議(通常は承認審査の最終段階で行われる)は行わない旨の通知を受けたと発表している。このため、承認されなかったことはサプライズではない。

リンク: Vandaのプレスリリース

サレプタ、エクソン53スキップ薬は承認されず
(2019年8月19日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)はSRP-4053(golodirsen)をエクソン53スキップ薬に応答するデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。これまでの協議と異なり、点滴関連感染症のリスクや腎毒性懸念を指摘された由。サレプタは粘ってExondys 51(eteplirsen)のFDA承認を取得したトラック・レコードがあるので、今回も科学ではなくネゴで承認獲得を目指すのではないか。

腎毒性懸念は、臨床用量の10倍以上を投与した毒性試験や別のアンチセンス・オリゴヌクレオチドの臨床試験で発生したが、承認申請の根拠となったP1/2試験では見られなかった由。別のアンチセンス・オリゴヌクレオチドとは、おそらく、エクソン45スキップ薬SRP-4045(casimersen)のことだろう。この二剤は第三相ESSENCE試験の別のコフォートでテストされているが、昨年2月、この試験でエクソン45スキップ薬を投与され横紋筋融解症を発症した被験者の保護者がFacebookに書き込んだことがきっかけで、英国で治験一時停止になったことが表面化した。独立データ監視委員会が試験続行を勧告した模様だが、深刻度や転機どころか、サレプタは事実関係すら一般には公表していない。

サレプタはSRP-4045を今年年央に承認申請する予定だったが、こちらも遅れる可能性がありそうだ。

リンク: サレプタのプレスリリース


【承認】


FDAが新規作用機序の広域抗生剤を承認
(2019年8月19日発表)

FDAは、アイルランドのNabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)のXenleta(lefamulin)を成人の地域感染細菌性肺炎(CABP)の治療薬として承認した。ほぼ20年ぶりの新規作用機序を持つ、半合成プロイロムチリン系抗生物質で、既存薬とは異なった箇所に結合し蛋白合成を阻害する。臨床試験ではmoxofloxacinベースの治療と奏効率が非劣性だった。

Nabrivaによると、CABPの原因として最も一般的な、グラム陽性菌や陰性菌、そして非定型的病原体にin vitroで活性を示した。ベータラクタムやフルオロキノロン、グリコペプチド、マクロライド、テトラサイクリンと交叉耐性がないとのこと。また、経口錠と点滴静注用が用意されていて、患者の状態や退院スケジュールに合わせて使い分けることができる。一日二回、5-7日間投与する。

主な有害事象は、下痢、悪心嘔吐、注射箇所反応、肝酵素上昇など。QT延長や胎毒性がある。WAC(卸取得価格)は錠剤が$275/日、点滴用が$205/日。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Nabrivaのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、諮問委員会がモンテルカストの小児安全性を検討へ
(2019年8月20日発表)

FDAは、9月26日と27日に小児諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会の共同会議を開催すると発表した。初日はOxyContin(oxycodone hydrochloride)持続放出錠などの安全性評価を議論する。二日目は、montelukastやzafirlukastなどのロイコトリエン受容体拮抗剤の神経精神性副作用に関してFDAが行った医療処方データベース分析の結果について議論する。

ロイコトリエン受容体受容体拮抗剤は喘息症やアレルギー性鼻炎の治療に用いられている。FDAは09年に激高、不安、鬱、睡眠異常、自殺思慮・実行などの神経精神イベントに関する警告をレーベルに記載するよう製薬会社に要求した。一昨年、小児におけるmontelukastに付随する有害事象、特に深刻な鬱病や自傷、自殺に関して、Sentinel研究(医療管理組織などの患者データベースを疫学的に分析)を開始した。

どの程度深刻な内容なのかは不明。小児用薬の安全性評価はFDAの重要な政策課題の一つなので、諮問委員会の場を通じて活動成果をアピールすることが主目的かもしれない。もし深刻なものなら諮問委員会を招集するまでもなく警告追加されていただろう。一方で、懸念が具体化したり想定以上だったりする可能性も否定しきれず、注目される。

リンク: FDAのプレスリリース








今週は以上です。

2019年8月17日

2019年8月18日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • DRC、エボラ治療を二剤に絞り込み 
  • リジェネロン、抗ANGPLT3抗体の第三相試験成功 
  • リムパーザの卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功 
  • KIT阻害剤抵抗性GISTの第三相試験が成功 
  • アッヴィ、JAK1阻害剤がリウマチ性関節炎に承認 
  • セルジーン、新規JAK2阻害剤が骨髄線維症に承認 
  • ロズリートレクが米国でも承認 
  • 新規作用機序のナルコレプシー治療薬が米国でも承認 
  • FDA、肺結核の新薬を承認 
  • FDA:entacaponeは前立腺癌のリスクを高めない 


【今週の話題】


DRC、エボラ治療を二剤に絞り込み
(2019年8月12日発表)

米国のNIH(国立医療研究所)は、コンゴ民主共和国(DRC)で行われているエボラ治療薬臨床試験で、独立データ安全性監視委員会が中間解析に基づき治験の繰上げ完了を勧告したことを明らかにした。今後、良績を上げた二剤だけをDRCの医療施設で使う予定。

このPamoja Tulinde Maisha試験は、DRCの国立医学研究所や米国の国立アレルギー・感染症研究所、WHO、国境なき医師団などが中心となって昨年11月に開始した。過去の臨床試験で死亡リスクを抑制したMapp BiopharmaceuticalのZMappを対照薬として、三剤をテストした。リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-EB3、米国マイアミの未上場企業であるRidgeback Biotherapeuticsが米国NIHからライセンスしたmAb114、そしてギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)である。

目標症例数は1050人、中間解析段階で499人が組入れられていた。報道によると、REGN-EB3は主評価項目である28日死亡率が29%となり、ZMappの49%を数値上、上回るだけでなく、中間解析における成功認定基準をクリアした。mAb114は34%、GS-5734は53%だった。組入れ時に低ウイルス量だった症例では、夫々6%、11%、24%、33%だった。詳細は論文などで発表される見込み。

今後はDRC全体でREGN-EB3またはmAb114をエボラ治療に用いる。この二剤は、ZMappと同様に、エボラ・ウイルスに感染しながらも死亡を免れた人から採取した抗体を元に開発したもの。ZMappは三種類の抗体のカクテルで4時間点滴静注を3日おきに3回施行するが、mAb114は一種類で30-60分の点滴静注を一回、REGN-EB3は三種類の完全ヒト化抗体で2時間点滴静注を一回と、投与スケジュールがZMappより簡便だ。

エボラはこれまで数年おきに流行してきたので、沈静化しても油断ができない。治療薬やワクチンを開発する上の障害は、臨床試験を早くやらないと流行が終わって目標症例数を達成できないリスクがあることで、今回、臨床試験を完遂したことは大きな意義がある。エボラにも複数の種があるようなので上記二剤が万能とは限らないが、政情が不安定で近代的な医療・科学を信じない住民も多いDRCでの経験は他の地域での新薬開発にも生きるだろう。

リンク: NIHのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: Ridgeback Biotherapeuticsのプレスリリース(PR Newswire)


【新薬開発】


リジェネロン、抗ANGPLT3抗体の第三相試験成功
(2019年8月14日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-1500(evinacumab)の第三相ホモ接合型家族性高コレステロール血症試験が成功したと発表した。トリグリセライドなどの分解に係るリパーゼのインヒビターであるangiopoietin-like 3(ANGPTL3)を標的とするIgG4型の抗体医薬で、65人の患者を組入れて4週間毎に投与したところ、24週間でLDL-Cが47%低下し、偽薬群の2%上昇と有意な差があった。

高脂血症の抗体医薬というと同社やアムジェンの抗PCSK9抗体を連想するが、この試験ではベースライン時点で被験者の98%がスタチンを、81%が抗PCSK9抗体を、使用しており、平均LDL-C値が255mg/dLとホモ接合型としてはまずまずな水準だった。治療効果は平均132mg/dLとなっており、ホモ接合型でも多剤併用すれば正常値を目指せる展望が開けた。

主な有害事象はインフルエンザ様疾患など。リジェネロンは2020年に米国で承認申請する計画。抗PCSK9抗体は価格や投与方法、発売当時は心血管アウトカム試験の裏付けがなかったことなどから売上が伸び悩んでいる。リジェネロンが価格戦略やライフ・サイクル・マネジメント戦略面で抗PCSK9抗体の経験をどう生かすか、注目される。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

リムパーザの卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功
(2019年8月14日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)のPAOLA-1試験が成功したと発表した。進行卵巣癌で白金薬ベースの化学療法薬とAvastin(bevacizumab)による一次治療に部分反応以上だった患者を組入れて、Avastinによる維持療法に追加する効果を検討した第三相試験で、データは学会などで発表する予定。LynparzaはPARP阻害剤で卵巣癌ではBRCA変異型患者の一次治療後維持療法に単剤投与することが米国で承認されている。Avastin併用も用法追加申請されることになろう。尚、今回の解析はintent-to-treatベースで、BRCA変異を持たない患者も対象になっている由だが、陰性患者にも効果があったかどうかは明らかではない。

PARP阻害剤ではグラクソ・スミスクラインが子会社化したTesaroのZejula(niraparib)も第三相卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功、適応拡大申請される見込み。この試験もBRCA変異陽性に限定していない。

リンク: 両社のプレスリリース

KIT阻害剤抵抗性GISTの第三相試験が成功
(2019年8月13日発表)

米国マサチューセッツ州の新興新薬開発会社、Deciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)は、DCC-2618(ripretinib)の第三相INVICTUS試験が成功したと発表した。進行GIST(消化管間質腫瘍)でimatinib、sunitinib、regorafenibの三剤による治療歴を持つ129人を組入れて150mgを一日一回、経口投与したところ、PFS(無進行生存期間、独立中央放射線学的評価委員会が盲検判定)がメジアン27.6週間と偽薬群の4.1週間を大きく上回り、ハザードレシオは0.15、p値は0.0001を下回った。

二次的評価項目のORR(客観的反応率)は9.4%対0%で、p=0.0504となりフェールした。全生存期間はメジアン15.1ヶ月対6.6ヶ月と、偽薬群の患者はPFS認定後に試験薬にクロスオーバーすることが可能であった割には大きな差が出た。ハザードレシオは0.36、p=0.0004と数値上は良かったが、上位評価項目であるORRがフェールしたため、統計学的に有意とはいえない。

DCC-2618は広域KIT/PDGFRアルファ阻害剤で、既存のKIT/PDGFアルファ阻害剤に抵抗性を持つ癌を標的としている。類似したアイディアではBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)もBLU-285(avapritinib)を今年6-7月に欧米で承認申請しており、Decipheraも急ぐ必要がありそうだ。

リンク: Deciphera社のプレスリリース


【承認】


アッヴィJAK1阻害剤がリウマチ性関節炎に承認
(2019年8月16日発表)

アッヴイは、FDAがRinvoq ER錠(upadacitinib)を抗リウマチ薬として承認したと発表した。一日一回経口投与のJAK1阻害剤で、中重度活性期リウマチ性関節炎でmethotrexate(MTX)に十分に反応しない、あるいは耐容しない患者に用いる。JAK阻害剤は深刻な副作用リスクを持っており、Rinvoqも深刻な感染症やリンパ腫などの腫瘍、動脈静脈血栓症のリスクが枠付警告されている。また、MTX未経験の患者を組入れた第三相試験ではACR奏効率がMTX群を大きく上回ったが、このような患者に用いることは承認されなかった。

報道によると、卸取得価格は類薬であるファイザーのXeljanz(tofacitinib)と同社のベストセラー抗TNFアルファ抗体Humira(adalimumab)の中間である年59000ドルに設定される模様。

RinvoqはEUでは昨年12月に、日本でも今年2月に承認申請されている。

リンク: アッヴィのプレスリリース

セルジーン、新規JAK2阻害剤が骨髄線維症に承認
(2019年8月16日発表)

FDAは、セルジーン(Nasdaq:CELG)のInrebic(fedratinib)を骨髄線維症用薬として承認した。リスク評価が中程度2または高度の一次性及び二次性の骨髄線維症が適応になる。一日一回経口投与。

fedratinibはサノフィが企業買収を通じて入手し第三相試験を成功させたが、ウェルニッケ脳症という深刻な有害事象が発生、13年11月にFDAが治験停止を命じた。共同発明者の一人が新会社を設立して権利を取得、発生頻度や対処法の検討を進め、17年8月に治験停止解除を勝ち取った。セルジーンはその会社を当初金11億ドルと開発目標達成報奨金最大12.5億ドル、そして販売目標達成報奨金45億ドルという条件で昨年、買収したという経緯。尚、セルジーンは新薬導入や企業買収の成果があまり上がらず、BMSに買収されることに今年1月、同意した。

ウェルニッケ脳症は他のJAK阻害剤にもインプリケーションがあるため、FDAがリスクをどう評価するか注目されたが、結局、淡々と開示すれば十分と判定したようだ。臨床試験でウェルニッケ脳症などの深刻で致死的な脳症の発現率が1.3%(608人中8人)と偽薬群の0.16%を大きく上回り、一名は死亡したことが枠付警告された。ウェルニッケ脳症はチアミン(ビタミンB1)の欠乏が原因と考えられるので、治療開始前と治療中定期的にチアミン検査を行う。

深刻有害事象の発生率は21%で、内容は心不全や貧血症など様々。致死的な心原性有害事象が1%の患者で発生した。

報道によると、卸取得価格は30日分が21000ドルに設定される模様。

JAK阻害剤はリウマチまたは骨髄線維症の治療薬として複数のコンパウンドが承認・開発されており、競争激化していきそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: セルジーンのプレスリリース

ロズリートレクが米国でも承認
(2019年8月15日発表)

FDAは、ロシュのRozlytrek(entrectinib、和名ロズリートレク)を加速承認した。適応は、NTRK融合陽性の局所進行性/転移性固形癌のサルベージ療法と、ROS1陽性転移性非小細胞性肺癌。第一相試験と第二相試験の統合解析に基づくORR(客観的反応率)は夫々57%と77%だった。前者は12歳以上の青少年に用いることも、成人の薬効データに基づき、承認された。深刻な有害事象は心不全、認知機能低下やうつ病などの中枢神経系障害など。

18年にIgnytaを17億ドルで子会社化して入手したTRK/ROS1阻害剤。日本では中外製薬が承認申請、今年6月に先駆け承認されている。

類薬ではバイエルのVitrakvi(larotrectinib)が米国で昨年11月にNTRK融合陽性固定癌用薬として承認されている。報道によると、ロシュはRozlytrekのWAC(卸取得価格)をVitrakviのほぼ半値に当たる$17050/月に設定する考え。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

新規作用機序のナルコレプシー治療薬が米国でも承認
(2019年8月15日発表)

Harmony Biosciencesは、FDAがWakix(pitolisant)をナルコレプシーの成人の日中の過剰眠気の治療薬として承認したと発表した。選択的H3受容体アンタゴニスト/インバース・アゴニストで、
覚醒に係るヒスタミン・ニューロンの活性を増強する。一日一回、起床時に経口投与する。麻薬指定されていないナルコレプシー治療薬は米国初。主な有害事象は不眠、悪心、不安症、QT延長など。重度肝疾患は禁忌。

Bioprojet Societe Civile de Rechercheが設計開発、EUで2016年3月に承認された。Harmony社は17年に設立された新興企業で、前後してWakixの米国における開発販売権を取得した。

リンク: Harmony社のプレスリリース

FDA、肺結核の新薬を承認
(2019年8月14日発表)

FDAは、Global Alliance for TB Drug Developmentのpretomanidを肺結核治療薬として承認した。多剤耐性菌など、高度に治療抵抗性の肺結核の成人に、JNJのSirturo(bedaquiline)及びlinezolidと併用する。107人を組入れた臨床試験で治療完了6ヶ月後時点の成功率が89%だった。承認に伴い、開発インセンティブである熱帯病優先審査バウチャーが交付される。

米国で肺結核治療薬が承認されたのは過去40年以上の期間で三剤目。また、 Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugsという超希少感染症の開発を促すための新制度に基づく承認の第二号。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: TB Allianceのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA:entacaponeは前立腺癌のリスクを高めない
(2019年8月13日発表)

FDAはentacapone(ノバルティスのパーキンソン病薬Comtanの活性成分)の前立腺癌リスクを検討していたが、高まらないと結論した。

entacaponeはドパミンに反応しにくくなった患者に追加投与するCOMT阻害剤。最初から併用する効果を検討したSTRIDE-PD試験で心血管疾患や前立腺癌がcarbidopa/levodopa群だけを投与した群より増加したため、FDAが2010年にリスク評価を開始した。心血管リスクについては追加試験の結果に基づき15年に無垢判定。今回、前立腺癌についても無垢判定となった。FDAの要請でノバルティスがフィンランドで行った疫学試験ではハザードレシオ1.05で大差なかった。米国の退役軍人会データベースに基づく疫学試験でも調整ハザードレシオが1.08となった。

10年近く前の話題なので今更リスクなしと言われてもピンと来ないが、だからこそ、キチンと取り上げるべきと思う。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2019年8月11日

2019年8月11日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ゾルゲンスマのデータ操作問題 
  • リムパーザ、前立腺癌試験がまた成功 
  • 遺伝性肥満症治療薬の第三相試験が成功 
  • テセントリクの膀胱癌一次治療試験が成功 
  • DBV、ピーナツ・アレルギーの経皮的減感作療法薬を承認申請 
  • アラガンら、黄斑変性治療薬の承認申請をEUが受理 
  • アマリン、EPA製剤の心血管リスク削減効果の承認が遅れる 
  • FDA諮問委員会、デシコビの適応拡大を概ね支持 
  • サチュロ、12-18歳にも承認 
  • デュピクセント、EUでアトピーの青少年に適応拡大 


【今週の話題】


ゾルゲンスマのデータ操作問題
(2019年8月6日発表)

FDAは、今年5月に脊髄性筋萎縮症I型(SMN1)治療薬として承認したZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)に関して、承認申請書類に記された一部前臨床データにデータ操作が発覚したことを明らかにした。承認されている製品の効果や安全性に影響するものではないと現時点では判断しているため承認取消・製品回収は行わないが、引き続き調査を進めるとともに、承認申請者が承認後まで不正を報告しなかった経緯について、検証する考え。民事・刑事罰に進展する可能性もあるようだ。

Zolgensmaは両アレル型SMN1患者が欠乏しているSMN1遺伝子をアデノ随伴ウイルスを使って導入する遺伝子療法。AveXis社がオハイオ州のNationwide Children's Hospitalから技術導入して開発、昨年10月に日米欧で承認申請し、今年5月24日にFDAの承認を得た。尚、AveXisは昨年5月にノバルティスが87億ドルで子会社化している。

データ操作があったのは、開発段階で行われたマウスベースのin vivo力価検査。商業用製品の評価は異なるアッセイを用いている。ノバルティスの経営側がデータ操作の報告を受けたのは今年3月で、当局の承認審査中であったが、調査・評価を進めて結果をFDAに報告したのは6月28日、承認の1ヶ月後だった。EMAに報告したのは7月1日、PDMAは7月2日だった。FDAは7月24日から8月2日にかけて立ち入り調査を行い、ノバルティスに問題点を通知するとともに、プレスリリースを出した。

FDAは、もし承認前にデータ操作を知ったとしても最終的には承認することになっただろうが、審査期限延期となり承認が遅れただろうと主張している。ノバルティスは、このような場合にキチンと調査して適切な評価、報告を行うのが一般的な方針と反論している。どちらも一理あるように感じられる。

日本で騒ぎになった事件と同じで、組織の中で誰かが嘘をついた場合、本人だけでなく、その嘘を真に受けて他のステークホルダーに伝達した者も責任を問われる。なぜ嘘を見抜けなかったのか、法令順守研修はちゃんとやっているのか、今度は本当なんだな、万一にも嘘がないことを徹底的に調べて裏を取ったのだろうな、もし新たな不祥事が出たらウチは致命的な打撃を受ける、分かっているんだよな、...

だから、ノバルティスが直ぐに報告しなかったのは理解できる。FDAだって公表したのはメーカーの報告の1ヶ月後だった。

但し、日本の事件と同じで、ノバルティスは3ヶ月後ではなくもっと早く当局に報告すべきだったのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: FDAがAveXisに送付した検査結果通知(pdfファイル)
リンク: ノバルティスのプレスリリース


【新薬開発】


リムパーザ、前立腺癌試験がまた成功
(2019年8月7日発表)

アストラゼネカとMSDは、両社で共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)のPROfound試験が成功したと発表した。PARP阻害剤は卵巣癌や乳癌の治療薬として複数の製品が承認されているが、今回の第三相試験は前立腺癌という男性の癌であることがユニーク。適応拡大申請に向かうのではないか。

PROfound試験は、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)でHRR(相同組換え修復)に変異を持ち、第二世代抗アンドロゲン(enzalutamideやabirateroneなど)による治療歴を持つ患者を組入れて、rPFS(放射線学的無進行生存期間、盲検独立中央評価)を対照群(enzalutamideまたはabirateroneを投与)と比較した。

主評価項目は、15種類のHRR関連遺伝子のうちBRCA1/2またはATM(BRCA1などをリン酸化する酵素の遺伝子)に変異を持つサブグループだけの解析。データは未発表。二次的評価項目の一つである全ユニバースの成否は未公表。

LynparzaはmCRPCでdocetaxelによる治療歴を持つ患者にabirateroneと併用した第二相試験で良績を上げ、注目された。今ではdocetaxelより先に第二世代抗アンドロゲンを使うケースが多いだろうから、第三相ではmCRPCの最初の選択肢としてabiraterone併用試験を行っている。MSDと提携しているので、Keytruda(pembrolizumab)併用試験の結果も要注目だろう。

PARP阻害剤は適切な癌種や遺伝子スクリーニング方法の特定に手間取り、実用化が数年遅れたが、当初のターゲットであった乳癌や卵巣癌から、思わぬ方向に展開しようとしている。次世代シーケンサーなど診断技術の向上・低廉化の恩恵を受けて、適応を原発部位で分類するのではなく遺伝子署名で判定する、組織に捉われない薬が増えていくだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

遺伝性肥満症治療薬の第三相試験が成功
(2019年8月7日発表)

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)は、RM-493(setmelanotide)の第三相遺伝性肥満症治療試験二本の成功を発表した。POMC(pro-opiomelanocortin)欠乏性肥満症10人を組入れた試験では、10%以上の減量に8人が成功。LEPR(leptin receptor)欠乏性肥満症11人の試験では5人が成功した。同社は今年第4四半期乃至は来年第1四半期に米国のローリング承認申請を完了する予定。欧州でも申請予定。

どちらも希少疾患で、治療対象になり得る米国の患者数はPOMC欠乏性が100-500人、LEPR欠乏性は500-2000人と推測されている。米国でブレークスルー・セラピー指定、EUでPRIME指定を受けている。

この試験は6歳以上の患者を組入れた単群試験で、一日一回皮注を12週間続けた後、離脱期として偽薬を8週間投与し、その後32週間試験薬を投与した。対照群は自然歴で、治療しないと10%減量成功率は0%と推測されるため、保守的に5%と前提してp値を算出した(POMC試験は<0.0001、LEPR試験は0.0001)。ちゃんとした対照試験ではないので本当に薬の効果なのか疑問を感じるが、離脱期には体重が5kg程度リバウンドしたとのことなので、ある程度の証左になるだろう。

setmelanotideは2010年にフランスのイプセンからライセンスしたMC4R(melanocortin-4受容体)アゴニスト。過去に開発された小分子薬は効果が限定的で血圧上昇リスクがあったが、setmelanotideはアミノ酸8個のペプチド薬で、今回の試験でも血圧影響はなかった模様。主な治療関連有害事象は注射箇所反応、悪心嘔吐、色素沈着異常など。LEPR試験で1名が軽度の好酸球増加症で治験を離脱した。

リンク: Rhythm社のプレスリリース

テセントリクの膀胱癌一次治療試験が成功
(2019年8月5日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相膀胱癌一次治療試験、IMvigor130試験の主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、担当医評価)解析が成功したと発表した。データは学会発表予定。もう一つの全生存解析はデータが成熟していないためトレンドに留まっている由。適応拡大申請に向かうことになろう。

この試験は局所進行性/転移性尿路上皮癌で未だ転移後の全身治療を受けていない患者1213人を、gemcitabineと白金薬(cisplatinまたはcarbopltin)を併用する群、更にTecentriqを追加する群、そしてTecentriqだけを投与する参考群に割り付けたもの。PD-L1発現は不問。日本の施設も参加しているようだ。

尿路上皮癌は抗PD-L1/PD-1抗体の代表的な用途の一つで、米国ではTecentriq、Keytruda(pembrolizumab)、Opdivo(nivolumab)、Imfinzi(durvalumab)、Bavencio(avelumab)の5剤が一次または二次治療にモノセラピーを施行することが承認されている。但し、PD-L1低発現・陰性癌の一次治療に用いる便益については不透明感があり、今回の試験のTecentriq単剤群や、Keytrudaの単剤投与試験では、全生存期間が化学療法群より見劣りしたため、FDAもEMAも承認内容を一部縮小した。

このような背景があるため、IMvigor130試験の意義は、化学療法併用ならPFSを向上できることを明確にしたことだ。学会発表の注目点は、PD-L1低発現・陰性にも便益があるのか、中高発現癌だけなのか、中高発現癌における便益はモノセラピーと見比べて十分に高いのか、など。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


DBV、ピーナツ・アレルギーの経皮的減感作療法薬を承認申請
(2019年8月7日発表)

フランスのDBV Technologies(Euronext:DBV)は、Viaskin PeanutをFDAに承認申請した。4~11歳のピーナツ・アレルギー患者の減感作療法で、最近多い錠剤ではなく、一日一回の貼付薬。12ヶ月治療した第三相試験では、奏効率が35.3%と偽薬群の13.6%を上回った。但し、群間差の95%下限は12.4%と閾値の15%を超過しなかった。

昨年10月に承認申請したが、生産プロセスや品質管理に関する瑕疵があった模様で二ヶ月後に撤回、今回、改めて申請したもの。

リンク: DBV社のプレスリリース(pdfファイル)

アラガンら、黄斑変性治療薬の承認申請をEUが受理
(2019年8月6日発表)

アラガン社は、2019年第2四半期決算発表リリースの中で、Molecular Partners(SIX:MOLN)からライセンスしたabiciparの承認申請をEUが受理したことを明らかにした。新生血管加齢性黄斑変性の治療に用いる。Molecular社のDARPin技術を用いて開発したVEGF-A結合蛋白で、分子量が小さく高力価・高安定性。8週毎と12週毎の二種類の投与スケジュールをテストした第三相試験では、効果がLucentis(ranibizumab)を4週毎に投与した群と非劣性だった。

硝子体注射薬なので目の副作用リスクは避けられないが、abiciparは眼内炎の発現率が15%程度とLucentis(1%未満)よりかなり高かった。生産工程の大腸菌を除去した後の製剤は9%程度に低下したが、依然としてLucentisより高いので、注意が必要だろう。

米国でも承認申請予定。

尚、アラガンはアッヴィに買収されることで合意した旨、6月に発表した。

リンク: アラガンの19年第2四半期決算発表リリース

【承認審査・委員会】


アマリン、EPA製剤の心血管リスク削減効果の承認が遅れる
(2019年8月8日発表)

Amarin(Nasdaq:AMRN)は、高純度EPA製剤Vascepa(icosapent ethyl)の適応拡大と心血管リスクを削減する効能を記載すべくFDAに追加承認申請を行っている。9月28日が審査期限だが、FDAから諮問委員会を招集する旨の連絡を受けた。暫定開催日は11月14日で、期限までに承認されないことがほぼ確実になった。

Vascepaは12年に米国で重度高トリグリセライド血症治療薬として承認された。その翌年、Amarinはトリグリセライド値が200-500mg/dLの中度患者に適応拡大申請したが、諮問委員会が、中度患者のトリグリセライド値を下げる臨床的な便益が確立していないとして反対。改めて心血管アウトカム試験(REDUCE-IT試験)を行うこととなった。

EPA・DHA製剤の心血管アウトカム試験はフェールが続いたため、REDUCE-IT試験も危ぶまれたが、意外にも、心血管イベントのリスクを偽薬比25%削減することに成功した。心房細動による入院や重度出血が増加したり、偽薬に鉱油が含まれていたせいか偽薬群はLDL-Cが上昇したり、難がない訳ではないが、結論を覆すような弱点はなさそうに見える。

FDAのガイドラインによれば、承認申請や追加申請を受理する時点で諮問委員会を招集する意向があるか、申請者に通知するのがgood practiceとされるが、今回はスタンスを明確にしていなかったようだ。何が問題なのか、想像がつかないだけに警戒せざるをえない。

リンク: アマリンのプレスリリース

FDA諮問委員会、デシコビの適応拡大を概ね支持
(2019年8月8日発表)

FDAの抗菌薬諮問委員会は、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のDescovy(emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarateの合剤、和名デシコビ)をHIV/AIDSの曝露前予防(PrEP)に用いる適応拡大申請を検討し、臨床試験の対象となったユニバースに関しては多数が承認を支持した。

Descovyは2020年9月末に米国でGE化が予想されるTruvada(和名ツルバダ)の後継薬で、tenofovir disoproxil fumarateをtenofovir alafenamide fumarateに置き換えることにより忍容性を改善したとされる。16年に米国でHIV/AIDS治療薬として承認された。

Truvadaは12年に米国で、16年にはEUでもPrEPに使うことが承認され、今日では主用途になっている。このため、Descovyの今回の適応拡大はギリアドにとって重要なテーマである。今年4月に、他社から購入した優先審査バウチャーを利用して、適応拡大申請した。

諮問委員会では、男とセックスする男性やトランスジェンダー女性(誕生時の判定は男性)に用いることを16対2の圧倒的多数で賛成した。一方、シスジェンダー(トランスジェンダーの対義語)女性に用いるのは賛成8、反対10と票が分かれた。PrEPの需要のうち後者は1割以下と少ないこともあり、第三相試験の対象外であったことがボトルネックのようだ。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


サチュロ、12-18歳にも承認
(2019年8月9日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、FDAがSirturo(bedaquiline、和名サチュロ)の適応年齢を拡大したと発表した。

多剤抵抗性結核菌にも活性を持つ肺結核治療薬として12年に米国で、14年にEUで、18年には日本でも承認された40年ぶりの新薬で、今回、12~18歳の患者に用いることが承認された。

体重30kg以上で、他に有効なレジメンがない場合に適応になる。15人を組入れた第二相試験における培養検査陰転成績に基づく加速承認。

リンク: JNJのプレスリリース

デュピクセント、EUでアトピーの青少年に適応拡大
(2019年8月6日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を12-17歳の中重度アトピー性皮膚炎の治療に用いる対象年齢拡大がEUに承認されたと発表した。米国でも3月に承認済み。

更に、6歳以上12歳未満の小児を組入れた試験が成功したことも発表された。今年第4四半期に適応拡大申請の予定。

Dupixentは抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体。米国では難治性の好酸球性喘息症や重度慢性副鼻腔炎を伴う鼻ポリープに用いることも承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース(EU承認)
リンク: 同(小児試験成功について)




今週は以上です。

2019年8月4日

2019年8月4日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • イーライリリーのパイプライン・アップデート 
  • キイトルーダのTNBCネオアジュバント試験が成功 
  • テクフィダラの改良薬は胃腸副作用が少ない 
  • CDK4/6阻害剤で延命効果確認報告が続く 
  • ファイザー、静脈閉塞クリーゼの第三相がフェール 
  • ICAM-1アンチセンス薬の回腸嚢炎試験がフェール 
  • ノバルティス、NEP阻害剤の対象患者拡大試験がフェール 
  • 大日本住友、米国で過食性障害治療薬を承認申請 
  • ヴィーブとヤンセン、月一回注射用抗HIV薬をEUでも承認申請 
  • アステラス、イクスタンジの適応拡大を米国でも申請していた 
  • FDA、第一三共の腱滑膜巨細胞腫用薬を承認 
  • キイトルーダが食道癌に適応拡大 
  • バイエル/オライオンの前立腺癌用薬が承認 


【新薬開発】


イーライリリーのパイプライン・アップデート
(2019年7月30日発表)

イーライリリーは2019年第2四半期決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。印象的なのは、第一に、抗NGF抗体を日米欧で承認申請する意向を表明したこと。第二に、GLP-1作用剤の高量試験の成功が明らかにされたこと。

イーライリリーはファイザーのPF-4,383,119(tanezumab)を共同開発している。疼痛感受性を高める神経成長因子をブロックする抗NGF抗体医薬で、変形性関節炎に伴う疼痛を緩和するが、一部の患者で関節炎の急速な悪化(RPOA)が見られたため、2010年にFDAが各社のパイプラインを治験停止とした。その後、解除され数社が再開したものの、tanezumabの長期安全性試験でRPOA(2.5mg群は発生率3.2%、有意な治療効果が見られた5mg群は6.3%、対照群(非ステロイド消炎鎮痛薬を使用)は1.2%)や全関節置換(各群5.3%、8.0%、2.6%)の増加が見られ、懸念が現実に変わった。尚、死亡者数は試験薬が二群合計で9人、対照群は1人だった。

鎮痛剤は使ううちに体が反応しにくくなり用量をどんどん増やしてしまったり、モルヒネ依存になったり、色々なトラブルが見られるが、それだけ充足されないニーズが高いのだろう。抗NGF抗体は安全性に難があるが、既存薬で足りなくなった患者には必要かもしれない。イーライリリーは中重度の変形性関節炎の治療薬として2020年第1四半期に米国で、その後にEUや日本でも、承認申請する考え。慢性疼痛でも多くの第三相試験が実施されたが、承認申請は見送る意向。

Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)はGLP-1と抗体固定領域の融合蛋白。二型糖尿病の血糖治療薬として週一回皮注する。日本の承認用量は0.75mgのみだが、米国では0.75mgで開始後に1.5mgまで増量が認められている。インスリン大手の同社が長期作用性GLP-1作用剤に本格参入したため注目されたが、ライバルであるノボ ノルディスクの長期作用性GLP-1作用剤、Ozempic(semagutide)の直接比較試験でHbA1c改善効果に有意差が出てしまったため、巻き返しが求められる環境だった。

今回の試験は、3.0mgと4.5mgのHbA1c改善効果を既承認の1.5mgと比較したもの。36週時点の薬効優越性解析が成功した。52週間追跡して安全性を確認した上で19年末までに用量追加申請を行う予定。データは未発表だが、Ozempicの試験で付けられた差は0.3%程度なので、おそらく、高量なら肩を並べることができるのだろう。承認申請用第三相試験で3mg以上をテストしなかったのは忍容性を危惧したためではないだろうか。だとしたら、今回の試験も注目は悪心嘔吐などがどの程度増えるかだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

キイトルーダのTNBCネオアジュバント試験が成功
(2019年7月29日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)のKEYNOTE-522試験が成功したと発表した。エストロゲン受容体もプロゲスチン受容体もher2も過剰発現していない、トリプル・ネガティブ乳癌を対象に、摘出術前のネオアジュバント治療レジメンに追加する効果や、術後アジュバント療法として単剤投与する効果を検討したもので、成功したのはネオアジュバント部分の中間解析。治療効果はPD-L1発現と関連しなかった由。もう一つの主評価項目であるEFS(再発転移などのイベントが起きずに生存)を検討するため治験は続行する。

Keytrudaは様々な薬のネオアジュバント療法における可能性をスクリーニングしているI-SPY 2試験で良績を上げ、15年に卒業した。今回の試験成功で、少なくともKeytrudaに関しては、I-SPY 2試験のスクリーニング能力の高さが確認された。

リンク: MSDのプレスリリース

テクフィラダの改良薬は胃腸副作用が少ない
(2019年7月30日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、再発型多発硬化症治療薬Tecfidera(dimethyl fumarate、和名テクフィダラ)の改良薬、Vumerity(diroximel fumarate)を昨年12月に米国で承認申請した。偽薬対照試験では胃腸有害事象の発現率が31%、それによる治験中止率は0.7%と、Tecfideraのデータより良さそうな結果が出ている。

今回、もっと良いエビデンスである胃腸副作用直接比較試験の結果が発表された。再発寛解型多発硬化症患者506人を組入れて、Vumerity(462mgを一日二回、経口投与)群とTecfidera(同、240mg)群の症状評価スコアを5週間に亘って一日二回、調べたところ、有意に低かった。

VumerityはAlkermesが創製したプロドラッグで、体内で迅速にmonomethyl fumarateに変換される。Tecfideraの特許切れを控えるバイオジェンが世界の独占販売権を保有している。

リンク: 両社のプレスリリース

CDK4/6阻害剤で延命効果確認報告が続く
(2019年7月31日発表)

CDK4/6阻害剤はホルモン陽性転移性乳癌用薬として承認されているが、PFS(無進行生存期間)延長効果は確認されているものの延命効果は曖昧だった。転移性乳癌の臨床試験ではしばしば見られる現象なので拙速は避けるべきだが、ロシュのAvastin(bevacizumab)のようにFDAが承認を取り消した先例もあるので、楽観できない。幸い、二社が相次いで延命効果確認を発表した。

何れも主評価項目であるPFSの解析が既に成功している第三相試験の全生存(OS)解析に基づくもの。まず、ノバルティスのKisqali(ribociclib)。ホルモン受容体陽性、her2陰性局所進行・転移性乳癌の閉経後女性の一次/二次治療薬としてfulvestrantと併用する効果を検討したMONALEESA-3試験のOS解析が成功した。データは学会発表および承認審査機関に提出の予定。因みに、PFS解析はメジアン20.5ヶ月と偽薬・fulvestrant併用群の12.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、統計的に有意だった。

Kisqaliは同様な患者の一次治療薬としてletrozoleと併用したMONLEESA-2試験のPFSデータに基づき欧米で承認されたが、延命効果はデータが未成熟。一方、閉経前女性を組入れたMONALEESA-7試験はPFSだけでなくOSでも、CDK4/6阻害剤で初めて、有意差を出した(PFSはハザードレシオ0.55、OSは0.71)。

Kisqaliは日本では開発中止になったようである。

次に、イーライリリーのVerzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)。ホルモン受容体陽性her2陰性の閉経後乳癌で内分泌薬療法歴を持つ患者を組入れたfulvestrant併用試験、MONARCH 2試験のOS解析が成功した。データは学会発表および承認審査機関に提出の予定。因みにPFSはハザードレシオ0.553と、上記のKisqaliのデータと似ている。

さて、CDK4/6阻害剤の第一号であるIbrance(palbociclib、和名イブランス)はPALOMA-1試験もPALOMA-2試験もOS解析がフェールした。ハザードレシオ0.81なので本当は効果があるのかもしれないが、検出力不足もあり有意差が出なかった。他の二剤とは忍容性面で差がありそうに見えるのでこれがボトルネックになったのかもしれないが、真相は不明だ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース(7/30付)

ファイザー、静脈閉塞クリーゼの第三相がフェール
(2019年8月2日発表)

ファイザーはGMI-1070(rivipansel)の第三相試験がフェールしたと発表した。

2011年にGlycoMimetics社からライセンスした汎セレクチン阻害剤で、白血球が血管内皮細胞に結合するのを妨げる作用に着目して15年に鎌状赤血球症の急性静脈閉塞クリーゼを治療する第三相を開始したが、主評価項目も副次的評価項目も達成できなかった。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ICAM-1アンチセンス薬の回腸嚢炎試験がフェール
(2019年7月31日発表)

英国のAtlantic Healthcare社は、Camligo(alicaforsen)の第三相試験がフェールしたと発表した。一部の評価項目では良さそうな結果が出た模様であり、FDAと相談する意向だが、再試験なしで承認される可能性は低いのではないか。

alicaforsenはIONIS Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製したICAM-1を標的とするアンチセンス薬。Atlanticは浣腸用製剤をライセンスし、活性期炎症性腸疾患患者の回腸嚢炎の治療薬として第三相試験を開始するとともに、17年にFDAに非臨床データを提出してローリング承認申請を開始した。

18年に第三相の組入れを完了、結果発表は思ったより遅かったが、主評価項目である内視鏡的寛解や腸運動に係るメイヨー・スコアの解析がフェールした。サブグループ分析で効果の兆候が見られた模様で、FDAと今後を相談する考え。欧米の患者数20万人の希少疾患なのでデータが万全でなくても大目に見てもらえる可能性があるが、サブグループ分析は当てにならないことが多いので、楽観の根拠が開示されるまで静観したほうが良さそうだ。

リンク: Atlantic社のプレスリリース

ノバルティス、NEP阻害剤の対象患者拡大試験がフェール
(2019年7月29日発表)

ノバルティスは、EntrestoのPARAGON-HF試験が僅かにフェールしたことを明らかにした。2015年に欧米で駆出率低下慢性心不全の治療薬として承認された新種の合剤で、NEP阻害剤sacubitrilとアンジオテンシンII受容体valsartanが一つの分子になっており、体内で分離して夫々の作用を発揮する。今回の試験は駆出率を維持している慢性心不全の4822人を組入れて、心血管死・心不全入院(2回目以降もカウント)のリスクをvalsartanと比較した。データは9月のESC欧州心臓学会で発表の予定。

症状改善作用の兆候が見られたようで、ノバルティスは、承認審査機関と相談する考え。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


大日本住友、米国で過食性障害治療薬を承認申請
(2019年7月31日発表)

大日本住友製薬は、米国子会社であるサノビオン・ファーマシューティカルズがdasotralineを成人の中等症から重症の過食性障害治療薬として承認申請し、受理されたと発表した。審査期限は2020年5月14日。

dasotralineは、サノビオンの前身で異性体技術に基づき新薬創製していたセプラコーがSEP-225289として開発していたもので、選択的セロトニン再取込阻害剤Zoloft(sertraline)の活性代謝物の光学異性体。作用はsertralineとやや異なりドパミンとノルエピネフィリンの再取込を阻害する。鬱病の第二相試験はフェール、ADHDは一日4mgを投与した第三相小児試験が成功したが、もっと少量で足りるのではという疑問を私は感じた。サノビオンが17年にADHD治療薬として承認申請したが、翌年8月に審査完了通知を受領している。

過食性障害は一日4-8mgの滴定法を採用した第2/3試験と4mgと6mgをテストした固定用量第3相試験が成功、今回の承認申請につながった。過食日数が大きく減少する訳ではないが、精神疾患の薬なので、製薬会社は偽薬比有意な結果を出して承認を取れば使命が完了、後は、医師が実際に使ってみて採否を決めることになるのだろう。

リンク: 大日本住友のプレスリリース(和文、pdfファイル)

ヴィーブとヤンセン、月一回注射用抗HIV薬をEUでも承認申請
(2019年7月29日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアと、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、前者のインテグラーゼ阻害剤cabotegravirの経口剤と長期作用性注射用製剤と、後者の非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの長期作用性注射用製剤を、この二剤で完結する治療レジメンとしてEUに夫々が承認申請したことを発表した。米国では4月に申請済み。

HIV/AIDS、の成人で抗ウイルス療法によりウイルス量を抑制できている、どちらの活性成分にも抵抗性を持たない患者がスイッチする用途が想定されている。当初は経口剤を併用するが、その後は月一回、二剤を注射するだけで足りる。臨床試験では、通常の経口剤三剤併用レジメンと効果が非劣性だった。

HIV/AIDSの治療が成功し積極的に活動できる状態の患者は、例えば海外旅行時に税関でHIV/AIDS薬の説明をしたりするのが煩わしい。月一回投与なら薬を持ち運ばなくて済むケースが多いだろうから、このような人たちに歓迎されそうだ。また、感染予防試験が良好な結果になるならば、経口剤より利便性が高そうだ。但し、筋注なので痛いのではないか。

リンク: ヴィーブのプレスリリース
リンク: ヤンセンのプレスリリース(pdfファイル)

アステラス、イクスタンジの適応拡大を米国でも申請していた
(2019年7月30日発表)

アステラス製薬は、経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を転移性ホルモン感受性前立腺癌に用いる適応追加を日本で承認申請したと発表した。EUで申請し受理されたことは7月24日に発表済みだが、米国でも6月に承認申請していたことが今回、明らかにされた。

アンドロゲン除去療法(ADT)と併用する。ARCHES試験では偽薬・ADT併用群と比べてPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオが0.39、p<0.0001だった。全生存の解析は未成熟。G3/4有害事象の発生率は両群大差なかった。

リンク: アステラス製薬のプレスリリース(和文)


【承認】


FDA、第一三共の腱滑膜巨細胞腫用薬を承認
(2019年8月2日発表)

FDAは第一三共のTuralio(pexidartinib)を腱滑膜巨細胞腫(TGCT)用薬として承認した。重体または機能低下を伴う症候性で、切除不応不適な成人に用いる。適応になるのは米国で数千人と推測される。

11年に買収したPlexxikon社の開発品で、CSF-1RやKIT、FLT3などを阻害する経口剤。第三相試験ではORR(客観的反応率)が38%、うち完全反応は15%だった。偽薬群のORRはゼロ。

この試験は深刻な肝毒性が表面化しデータ監視委員会が組入れ中止を勧告したが、その時点では目標126例中121例を組入れ済みだったため、主目的を達成することができた。FDAは致死的な肝毒性を枠付警告とし、REMS(リスク評価管理戦略)を導入した。胎毒性があり妊娠可能年齢の女性が用いる時は避妊する。精液に入るので男性も注意。母乳に入るため乳児の発達に影響するリスクもある。

リンク: FDAのプレスリリース

キイトルーダが食道癌に適応拡大
(2019年7月31日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab)を難治局所進行性転移性の食道癌に単剤投与することを承認した。扁平上皮の腫瘍でPD-L1検査のCPS値が10以上の患者が適応になる。628人を組入れたKEYNOTE-181試験のサブグループ分析に基づくもので、メジアン生存期間が10.3ヶ月と化学療法群の6.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.64(95%信頼区間は0.46-0.90)だった。

この試験の主評価項目は全生存期間で解析対象はCPSが10以上のサブグループ、扁平上皮種サブグループ、全割付患者の三種類が設定された。CPS≧10サブグループでは有意差があったが、残りの二つはトレンドに留まった模様。FDAは、CPS≧10且つ扁平上皮腫というもっと狭い適応で承認したことになる。

同試験におけるG3-5治療関連有害事象の発生率は18.2%と化学療法群の40.9%より低かった。治療関連死は各群5例だった。

Keytrudaは第三相食道癌一次治療化学療法併用試験も進行中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

バイエル/オライオンの前立腺癌用薬が承認
(2019年7月31日発表)

FDAは、オライオンがバイエルと共同開発した非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニスト、Nubeqa(darolutamide)を、非転移性去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認した。アンドロゲン枯渇療法に追加して600mgを一日二回、経口投与した第三相試験では、主評価項目のMFS(無転移生存期間、盲検独立中央査読)がメジアン40.4ヶ月と偽薬を追加した群の18.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.41、p<0.001だった。

米国でローリング承認申請が完了したのは今年2月なのでスピード承認。日本やEUでも3月に承認申請されている。承認後はアステラス製薬のXtandi(enzalutamide)など類似の作用メカニズムを持つ先行品と競合することになる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: バイエルのプレスリリース




今週は以上です。