2022年8月27日

第1065回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • パキロビッド、イスラエルの疫学研究で高齢者には便益 
  • コミナティの乳幼児試験結果 
  • BA.4/5対応ワクチンを承認申請 
  • その他の領域: 
  • ファイザーの高齢者用RSVワクチンも第3相が成功 
  • AB、何度でも立ち上がる 
  • ミネルバの向精神薬は嵐に飛び立つ 
  • ペマジールがFGFR1再編成骨髄/リンパ腫に承認 
  • ギリアド、カプシド阻害剤がEUで承認 


【COVID-19関連】


パキロビッド、イスラエルの疫学研究で高齢者には便益
(2022年8月24日発表)

ファイザーのCOVID-19治療薬Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)の疫学試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。イスラエルの大手管理医療組織の治療記録を用いて、40歳以上でPaxlovidの投与対象となりうる感染者約11万人のその後の入院・死亡リスクを分析したところ、65歳以上で大きなリスク抑制効果が見られた一方で、40~64歳はトレンドに留まった。

具体的には、65歳以上では10万人当たり入院率が投与群では14.7件、非投与群では58.9件で、調整ハザードレシオは0.27(95%信頼区間0.15-0.49)となったが、40~64歳は各15.2件、15.8件、0.74(0.35-1.58)だった。COVID-19による死亡の調整ハザードレシオは65歳以上では0.21(0.05-0.82)、40~64歳は1.32(0.16-10.75)だった。

免疫(感染/ワクチン接種歴)の有無によるサブグループ分析では、65歳以上ではどちらにも有意な違いがあった。40~64歳ではどちらも有意ではなかったが、免疫のない患者の点推定値は0.23と悪くなかった(95%信頼区間は0.03-1.67と広い)。

PaxlovidやMSDのLagevrio(molnupiravir)は軽中等症で重症化リスク因子を持つ患者が適応になる。承認の根拠となった臨床試験では入院・死亡率が0.8%と偽薬群の6.3%を大きく下回った。但し、この試験はワクチン接種者が除外されており、また、現在流行しているオミクロン株は元々の重症化リスクが小さいため、今日の患者群における治療意義は必ずしも明確ではない。

今回の疫学研究は1~3月の感染者が対象で米国でもまだあまり使われていなかった時期に行われたが、それにしても、約11万人のうち実際に投与されたのはたった4%に留まっており、医療従事者が限定的にしか処方していないように感じられる。

結果も、医療従事者の躊躇を裏付けるものと呼んでも過言ではないだろう。65歳以上でも非投与群の入院死亡率は第3相試験の偽薬群より二桁小さい。二本の試験は患者背景が異なる可能性があり比較できるものではないかもしれないが、二桁の違いは無視できない。オミクロン流行下でのPaxlovidの適応範囲は承認されているより狭いと考えるべきかもしれない。

リンク: Arbelらの疫学試験論文(NEJM)


コミナティの乳幼児試験結果
(2022年8月23日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、6ヶ月児から4歳児までを組入れたComirnaty(tozinameran)の臨床試験の結果を発表した。中間解析に基づき6月にEUA(非常時使用認可)済みだが、今回は、発症患者が21例に到達した時点で行われた正式解析の結果だ。

3mcg三回接種完了の7日後以降の症候性COVID-19感染は、6~23ヶ月児ではワクチン群が296人中4人、偽薬群は147人中8人、ワクチン効率は75.8%。2~4歳児は各498人中9人と204人中13人でワクチン効率71.8%となった。2~4歳児は中間の82.7%より低下したが、信頼区間が広いので概ね同程度と考えておけばいいだろう。

それにしても驚かされるのは偽薬群の感染率の高さ。12~15歳の試験では1%台、5~11歳の試験では2%台だったが、今回は5~6%台に跳ね上がっている。オミクロン株だからなのか、他の要素も影響したのか、明らかではない。

リンク: 両社のプレスリリース


BA.4/5対応ワクチンを承認申請
(2022年8月23日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、COVID-19二価ワクチンを欧米で12歳以上のブースター接種用にEUA(非常時使用認可)/条件付き承認を申請したと発表した。Comirnaty(tozinameran 30mcg)に含まれる抗原と現在流行しているオミクロン株のBA.4/5亜系統に対応した抗原を15mcgずつ配合したmRNAワクチンで、速やかに承認されれば9月にも供給開始できるとのこと。

モデルナもBA.4/5亜系統対応二価ワクチンmRNA-1273.222を米国で承認した。18歳以上に50mcgをブースター接種する。こちらも9月に供給開始可能。

日欧で両社が先に承認申請した起源株とBA.1亜系統に対応した二価ワクチンとは異なる。開発はBA.1対応版のほうが進んでおり、BA.4/5対応版の申請は臨床データに関してはBA.1対応版のものを援用した。BioNTech/ファイザーは今月内に臨床試験を始める予定。

BA.1亜系統対応ワクチンに含まれるBA.1抗原の臨床試験では、BA.1ウイルスに対する中和抗体幾何平均力価が従来のワクチンを有意に上回ったが、起源株に対する数値と見比べるとどちらのワクチンも一桁小さい。BA.4やBA.5ウイルスに対する数値は更に低かった。FDA諮問委員会が、まだ臨床試験すら始まっていないBA.4/5対応ワクチンを所望したのは、流行株が更に変遷する可能性も踏まえて、少しでも現状にマッチするワクチンのほうがマシと考えたからだろう。この期待に答えることができるのか、判明するのはEUAの後になるかもしれない。

尚、バイデン政権はCOVID-19対策予算が議会に圧縮されたため医薬品の無償提供を止める方向だが、オミクロン対応ブースター・ワクチンは当面、無償提供を続ける考えのようだ。

リンク: BioNTechとファイザーのプレスリリース(米国申請、8/22付)
リンク: 同(EU申請、8/26付)
リンク: モデルナのプレスリリース(8/23付)

【新薬開発】


ファイザーもRSVワクチンの高齢者試験が成功
(2022年8月25日発表)

ファイザーは二価RSVワクチンの第3相RENOIR試験が成功したと発表した。60歳以上の高齢者4万人を組入れる予定だが中間解析で目的を達成、米国などで承認申請する予定。現行のRSV予防薬は高リスク乳幼児向けで高齢者向けが実用化すれば画期的。

主評価項目の、二つ以上の症状を伴うRSV関連下部気道疾患を予防する効果(ワクチン効率)は66.7%(96.66%信頼区間28.8-85.8%)、シーケンシャルな主評価項目である三つ以上の症状のワクチン効率は85.7%(同32.0-98.7%)だった。安全性懸念は浮上しなかった。

RSVは健康な人なら自然治癒することが多いが、65歳以上の高齢者は米国で年17.7万人以上が入院、14000人が死亡と推定されている。世界では年33.6万人が入院と推定されている。感染時の重症化リスク因子を持つ新生児や幼児にはRSVのF蛋白に結合する抗体医薬、Synagis(palivizumab)を月一回、投与して予防することが可能だが、リスク因子を持たない乳幼児に対する便益は確立しなかった。

成人向けワクチンの開発は難航したが、NIH(米国医療研究所)がRSVの宿主細胞融合前の結晶構造を解明するなど、産官学の基礎研究の成果が表面化。6月にはGSKもGSK3844766Aの第3相高齢者試験が成功した(データは未発表)。どちらもF蛋白のサブユニットを抗原としているが、ファイザーはA型とB型のRSVに対応した二価ワクチンを開発、GSKはAS01アジュバントで免疫原性を高めた。どちらも一回接種。

ファイザーは出産を控える妊婦に接種して新生児のRSVを予防する第3相試験を実施中。GSKがGSK3888550Aで実施した同様な第3相試験はデータ監視委員会の勧告により途中で打ち切られた。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


AB、何度でも立ち上がる
(2022年8月24日発表)

フランスのAB ScienceはEMA(欧州薬品庁)がAlsitek(masitinib)の承認申請を受理したと発表した。この活性成分はイヌの肥満細胞腫用薬として欧米で販売されているが、ヒト向けは様々な疾患に4回申請し、全て、CHMPの否定的意見を受けた。今回の用途は直近と同じALS(筋萎縮性側索硬化症)で、エビデンスは前回と同じ試験の新規解析とのことなので、5連敗とならないか危惧される。

この第2/3相AB10015試験は病歴3年以内、FVC60%以上の患者にriluzoleと偽薬または試験薬を48週間投与し、ALSFRS-R(運動機能評価スコア)の低下を抑制する効果を調べた。試験薬は3mg/kg/日と4.5mg/kg/日をテストした。ALSでは進行が特に早い患者も見られるため、正常進行者(ALSFRS-R進行率が月1.1ポイント未満)における4.5mg群と偽薬群の比較を主評価項目とした。結果は、試験薬群は9.2ポイント低下、偽薬群は12.6ポイント低下で、27%小さかった。但し、p値はそれほど低くなく、また、各群4割前後が途中でドロップアウトしているため、欠測データの扱いが論点になり得る。

AB社は16年に条件付き承認を求めたが、18年にCHMPの否定的意見を受けた。正常進行者だけを取り上げる意義や根拠が明確ではなく、治験施設二ヶ所で不適切な行為が発見され、欠測データに関する問題などがボトルネックとなった。

今回の申請は、上記試験の中等症患者サブグループのメジアン生存期間が偽薬群より25ヶ月長く、ハザードレシオ0.56(95%信頼区間0.32-0.96)だったことをアピールしている模様だ。昨年7月にALSFD誌で刊行された論文と同内容だろう。この種の事後的サブグループ分析は信憑性が低く、本来なら、前向き試験で確認すべきである。EMAが受理した理由は明らかではないが、ALSは命に係わる難病なので門前払いを躊躇したのでないか。

masitinibのCHMP評価歴:
  • 消化管間質性腫瘍は13年11月に否定的意見。エビデンスが不適切なデザインの第二相試験のみであることがネックに。
  • 膵癌は14年1月に否定的意見。第3相gemcitabine併用試験がフェール、一部のサブグループに効果が見られたが事故的分析。副作用、不純物懸念、治験品と量産品との同等性懸念も。
  • 全身性肥満細胞腫は17年5月に否定的意見。治験実施施設で深刻な治験実施基準違反。安全性検討が不十分。好中球減少症などの副作用懸念。
  • ALSは18年4月に否定的意見。正常進行者だけを対象とすることの意義や根拠が曖昧。一部治験施設で不適切な実施行為。欠測データ問題)。
リンク: 同社のプレスリリース


ミネルバの向精神薬は嵐の中を飛び立つ
(2022年8月22日発表)

Minerva Neurosciences(Nasdaq:NERV)はMIN-101(roluperidone)を統合失調症の陰性症状治療薬としてFDAに承認申請した。試験成績が一勝一敗であることなどを考えると、承認されるかどうか不透明だ。IPO市場が低迷しリストラに走る新興企業が増える中、知恵の神ミネルバの梟が飛び立つ時期、即ち、開発史の黄昏を象徴するイベントにならないと良いが...

5-HT2A、アルファ1a、およびシグマ-2のアンタゴニストで、07年に前身のCyrenaic Pharmaceuticalsが田辺三菱製薬からMT-210をライセンスしたもの。一日32mgと64mgをテストし64mg群が米国外の試験で成功したがもう一本はp=0.064とフェールした。同社はFDAに承認申請前会議を申し入れたが拒否され、第3相試験後に行われるタイプC会議を3月に実施、今回、承認申請を断行した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


ペマジールがFGFR1再編成骨髄/リンパ腫に承認
(2022年8月26日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、FDAがPemazyre(pemigatinib)をFGFR1の遺伝子再編成を伴う再発/難治MLN(骨髄性/リンパ性新生物)に用いることを承認したと発表した。米国で10万人当たり一人未満の超希少疾患で、第2相FIGHT-203試験では、慢性期の患者では18人中14人、ブラスト期(急性期)では4人中2人が完全反応(MDS/MPN作業グループ基準)した。EMD(髄外性疾患)のみの患者3人でも一人が完全反応(ルガノ基準)した。日本でも今月、適応拡大申請されている。

PemazyreはFGFR阻害剤。20~21年に欧米日でFGFR2融合/再編成を伴う切除不能局所進行性/転移性胆管癌の二次治療に承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


ギリアド、カプシド阻害剤がEUで承認
(2022年8月22日発表)

ギリアド・サイエンシズはSunlenca(lenacapavir)がEUに承認されたと発表した。米国はガラス・パーティクル生成懸念によりバイアルの素材をホウケイ酸塩からアルミノケイ酸塩に切り替えたことが尾を引き審査完了通知を受領、6月に再申請したところだが、欧州承認は良い兆候。

HIVのRNAを包むカプシドを阻害する経口/皮注用薬で、多剤耐性HIV/AIDSのサルベージ治療に用いる。当初は経口剤を一日一回、その後は皮注用製剤を6ヶ月に一回、投与する。今回の用途は他の薬と併用しなければならないので利便性はあまり感じられないかもしれないが、第3相試験中の暴露前予防用途には特に適していそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース




今週は以上です。

2022年8月21日

第1064回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 二価ワクチンが英国で条件付き承認 
  • EMA、SKのワクチンの承認審査を開始 
  • その他の領域: 
  • EUもサル痘ワクチンの皮内注射を容認 
  • KIT阻害剤の非進行性全身性肥満細胞腫試験が成功 
  • 抗TROP-2抗体薬物複合体の転移乳癌実薬対照試験が成功 
  • エンハーツ、市販後薬効確認試験も成功 
  • 抗IL-1抗体の肺癌試験は三連敗 
  • サノフィ、SERDの開発競争から零落 
  • リムパーザをプリキモ前立腺癌に適応拡大申請 
  • 米国でもポライビーを一次治療に適応拡大申請 
  • チクングニア熱ワクチンの申請手続きに着手 
  • Hutchmedと武田が申請撤回 
  • 経口NMDA受容体拮抗剤が承認 
  • ベータサラセミアの遺伝子療法が承認 


【COVID-19関連】


二価ワクチンが英国で条件付き承認
(2022年8月15日発表)

英国の薬品規制機関、MHRAは、モデルナのSpikevax二価ワクチン(オリジナル/オミクロン)を成人の追加接種用COVID-19ワクチンとして条件付き承認した。昨年11月にMSDの抗SARS-CoV-2薬Lagevrio(molnupiravir)を承認した時と同様に、日米欧に先駆けた。

オミクロン株対応ワクチンは現行のBA.5とBA.4をベースにしたものとBA.1ベースがあるが、英国は欧州大陸や日本と同じ、2020年のオリジナルの株とBA.1の抗原を25mcgずつ配合したもの。興味深いのは2020年と明記していることで、おそらく、中国で最初に流行した武漢株ではなく、欧州や中東に伝播した時に流行したD614G変異を持つ変異株をオリジナルと見做しているのだろう。

米国はBA.4/BA.5対応二価ワクチンを選択した。9~10月には接種が始まる見込みなので、メーカーは二種類の二価ワクチンを並行して生産しなければならない。mRNAワクチンは変異株対応ワクチンを素早く開発できることが長所だが、早いが故の悩みである。

リンク: MHRAのプレスリリース
リンク: モデルナのプレスリリース


EMA、SKのワクチンの承認審査を開始
(2022年8月18日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、SK Chemicals GmbHのSKYCovione(開発コードGBP510/AS03)の条件付き承認に関する審査を開始した。SK Bioscienceがワシントン医科大学の技術を元にビル・アンド・メリンダ・ゲーツ財団やCEPIの支援を受けて開発したSARS-CoV-2スパイク蛋白ナノパーティクル・ワクチンで、GSKのパンデミック・アジュバント、AS03を添加して抗原性を強化している。

韓国、タイ、ベトナム、ニュージーランド、ウクライナ、フィリピンの施設で18歳以上の4037人を組入れて、4週おき2回接種の効果をアストラゼネカ/オックスフォード大学のVaxzevriaと比較した試験で、中和抗体力価も、抗体陽転率も、上回った。4月に韓国で本承認されている。

それにしても、COVID-19ワクチン開発の3番手グループがVaxzevriaを対照薬に選ぶのは、何故だろうか?有効期限が切れるまで待って廃棄するよりは臨床試験で活用したほうが良い、という考え方なのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース


【今週の話題】


EUもサル痘ワクチンの皮内注射を容認
(2022年8月19日発表)

EMA(欧州薬品庁)のエマージェンシー・タスク・フォースは、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のImvanexを皮下注射ではなく皮内注射する投与方法を是認した。但し、ワクチンが足りない時の便法として加盟国が実施することを容認しただけで、FDAのように、承認内容の一部変更を断行するわけではなさそうだ。

EUは13年にImvanexを天然痘予防ワクチンとして例外的環境条項に基づき承認、今年7月にはサル痘予防に用いることも承認した。0.5mLを4週おいて二回、皮下注射するが、皮内注射なら同程度の抗体を0.1mLで誘導できる。このため、Jynneos名で両用途に承認しているFDAは、今月上旬、皮内注射をEUA(非常時使用認可)し、更に、18歳未満の接種(皮下注射)もEUAした。

FDAの審査文書が公開され、皮内注射をFDAに承認申請したのはBavarian NordicではなくNIAID(米国立感染症アレルギー疾患研究所)の微生物学感染症部門であったことが判明した。青少年適応のほうは申請者が明記されていない。医師などが一部の患者について行う個別治験許可申請が100件に達しようとする中、FDAが成人の治験データや過去の天然痘生ワクチンの青少年データなどに基づき、自発的に認めた模様だ。

Bavarian Nordicは皮内注射に懐疑的と一部で報道されているが、FDA審査文書も、EMAがSPC(添付文書)一部変更を考えていない模様であることも、メーカー側のスタンスを反映しているのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

【新薬開発】


KIT阻害剤の非進行性全身性肥満細胞腫試験が成功
(2022年8月17日発表)

Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)はAyvakit(avapritinib)の第3相非進行性全身性肥満細胞腫試験が成功したと発表した。第4四半期に適応拡大申請する予定。

20年に欧米で承認されたKIT/PDGFR阻害剤で、現在の適応は進行性の全身性肥満細胞腫とPDGFRアルファにD842V変異のある切除不能/転移消化管間質腫瘍(GIST)。全身性肥満細胞腫は9割以上でKITのD816V変異が見られる。臓器不全や血液疾患を合併する進行性患者よりも非進行性のほうが予後が良い。

第3相はISM-SAF(緩徐全身性肥満細胞腫症状評価フォーム)を用いて25mg一日一回服用の効果を偽薬と比較した。当初は30%低下奏効率を主評価項目としたが、FDAのアドバイスを受け入れ、スコアの平均低下幅に変更した。結果は、各群15.6と9.2、p=0.003となった。群間差は6点で当試験のパート1の16点よりだいぶ縮小した。副次的評価項目の解析はすべて成功。有害事象では末梢/眼窩周囲の浮腫が若干増加した。治療関連有害事象による治験離脱率は0.7%だった(偽薬群はゼロ)。

今後の注目はプライシング。既存の適応における一日用量はGISTは300mg、進行性全身性肥満細胞腫は200mgで開始して、不耐なら前者は100mg、後者は25mgまで減量するので25mg錠から300mg錠まで用意されているが、価格は全て同じなので、新しい用途でも薬剤費が月3万ドルを超えることになる。それほど深刻な病気ではないだけに、患者や医療保険が受け入れるかどうか、不透明だ。

リンク: 同社のプレスリリース


抗TROP-2抗体薬物複合体の転移乳癌実薬対照試験が成功
(2022年8月15日発表)

ギリアド・サイエンシズは、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第3相TROPiCS-02試験の全生存解析が成功したと発表した。データは未公表。米国ではすでに適応拡大申請したことも明らかにした。

腫瘍細胞で高発現するTROP-2を標的とする抗体とirinotecanの活性代謝物をリンカーで繋いだ抗体医薬複合体。20年に米国で転移トリプル・ネガティブ乳癌の三次治療薬として加速承認された。ギリアドは20年にImmunomedicsを約210億ドルで買収して入手した。

今回の試験は乳癌で最も多いタイプであるホルモン受容体陽性、her2陰性の転移乳癌で、内分泌療法薬、CDK4/6阻害剤、かつ2~4次の化学療法歴を持つ患者543人を試験薬群と医師がeribulin、capecitabine、gemcitabine、そしてvinorelbineの中から選ぶ群に無作為化割付した。主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はメジアン5.5ヶ月対4.0ヶ月、ハザードレシオ0.66、p<0.0003となったことが6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表済み。ハザードレシオは良好だがメジアン値の差は1.5ヶ月に過ぎず、やや物足りない印象だった。

この時点(293人死亡)の全生存期間の中間解析は、メジアン値が13.9ヶ月対12.3ヶ月、ハザードレシオは0.84。イベント数が少ないため有意差が出なかったのはやむを得ないが、点推定値はやや失望的だった。今回の350人死亡時点の第二次中間解析は統計的だけでなく臨床的にも意味のある差があったとのことだが、データが公表されていないので何とも言い難い。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツ、市販後薬効確認試験も成功
(2022年8月15日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の第3相DESTINY-Breast02試験が成功したと発表した。データは未公表。欧米で最初に承認された適応と同じだが、EUで条件付き承認された時の市販後薬効確認試験なので、取り敢えず良かった。

この試験はher2陽性の切除不能/転移乳癌でロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)による治療歴を持つ患者約600人を試験薬群とher2標的薬とcapecitabineの併用群に2:1割付してPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較したもの。

EnhertuはKadcyla対照試験が成功しており、今後は、今回のようなher2標的薬の中の三次治療薬ではなく二次治療薬として、あるいは、他のher2標的薬の追随を許さないher2低発現乳癌用薬として、使われていくだろう。その分、三次治療における出番は減るだろうから、その意味でも、今回の成功で得るものは多くないだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


抗IL-1抗体の肺癌試験は三連敗
(2022年8月15日発表)

ノバルティスはIlaris(canakinumab)の第3相CANOPY-A試験がフェールしたことを明らか亜にした。ステージII/IIIの非小細胞性肺癌を全摘し、必要に応じて術後アジュバント療法も施行した患者1382人を組入れて、canakinumab(200mg)を3週毎皮注する効果を偽薬と比較したが、無病生存期間を有意に伸ばすことができなかった。

IlarisはIL-1ベータを標的とする抗体医薬で、クリオピリン関連周期性症候群や全身型若年性特発性関節炎などの治療に充てることが承認されている。ノバルティスの、市場性が小さくても作用機序が最もマッチする用途を優先し、承認後に大市場を狙う開発方針に則り、hsCRP亢進型冠動脈疾患に展開、第3相CANTOS試験が成功したが適応拡大は承認されなかった。

非小細胞性肺癌は二/三次治療docetaxel併用試験と一次治療免疫療法化学療法併用試験も行ったが、何れもフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース


サノフィ、SERDの開発競争から零落
(2022年8月17日発表)

サノフィはamcenestrantの第3相エストロゲン受容体陽性乳癌試験二本を中止すると発表した。3月にホルモン療法歴のある局所進行/転移癌に単剤投与するピボタル試験がフェールしたのに続き、palbociclibに追加する効果をletrozole追加群と比較した第3相が中間解析で無益認定されたため。術後アジュバント歴を持つ患者を組入れた第3相も中止する。

選択的エストロゲン受容体零落剤(SERD)という、選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)とは若干異なった作用を持つ薬は複数の製薬会社が開発しており、先頭を走るRadius Healthはエーザイからライセンスしたelacestratを6~7月に欧米で承認申請した。他社の治験成績はそれほどでもなく、ドロップアウトする会社が増えるかもしれない。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認申請】


リムパーザをプリキモ前立腺癌に適応拡大申請
(2022年8月16日発表)

アストラゼネカと開発販売パートナーのMSDは、Lynparza(olaparib)を化学療法歴のない転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の治療にabiraterone及びprednisone(prednisolone)と併用する適応拡大を米国で申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年第4四半期。

第3相PROpel試験に基づくもので、PFS(無進行生存期間、放射線学的な盲検独立中央評価)のメジアン値が27.6ヶ月とabiraterone・prednisone・偽薬併用群の16.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.61だった。

LynparzaはPARP阻害剤の先駆者で、ある種のmCRPCや卵巣癌や乳癌、膵臓癌に承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース


米国でもポライビーを一次治療に適応拡大申請
(2022年8月16日発表)

ロシュはPolivy(polatuzumab vedotin-piiq)をCD20陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の一次治療に用いる適応拡大を米国で行い、受理されたと発表した。審査期限は来年4月2日。EUでは5月に承認、日本でも7月に第二部会で報告されたが、米国はFDAがより長期の追跡を求めたため、遅れた。

CD79bに結合する抗体をチューブリン重合阻害剤と結合した抗体薬物複合体で、19~21年に米欧日で難治/再発DLBLCの三次治療にbendamustine及びrituximabと併用する用途で承認された。一次治療におけるエビデンスはPOLARIX試験。標準的なレジメンであるR-CHOP(rituximab、cyclophosphamide、doxorubicin、prednisone、vincristineの5剤併用)と、このうちvincristineに代えてPolivyを用いる用法を比較したもので、PFS(無進行生存期間、担当医評価)のハザードレシオが0.73と良好な結果になった。G3/4有害事象の発生率は大差ないが、深刻な、あるいは致死的な有害事象は若干増加した。

リンク: 同社のプレスリリース


チクングニア熱ワクチンの申請手続きに着手
(2022年8月18日発表)

フランスのワクチン・メーカーであるValneva(Euronext Paris:VLA)は、米国でVLA1553のローリング承認申請手続きに着手した。年内に完了する予定。チクングニア熱ワクチンが承認されれば初。

チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカが媒介するウイルス性疾患の一つ。致死率はそれほど高くないようだ。VLA1553は弱毒化生ワクチン。米国の施設で18歳以上に一回接種したところ、28日後に268人中98.9%が防御的中和抗体力価を獲得していた。6ヶ月経過時点でも96.3%とあまり低下しなかった。重度有害事象の発生率は1.6%程度。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Hutchmedと武田が申請撤回
(2022年8月19日発表)

EMAは承認申請が二件、撤回されたことを明らかにした。

Hutchmed(和黄医薬、Nasdaq:HCM)はSevsury(surufatinib)を切除不能/転移進行性NET(神経内分泌腫瘍)薬として承認申請していたが、8月に撤回した。EMAは薬効評価方法やGCP(臨床試験実施基準)適合性、生産方法などに疑問を持ち、承認できないと考えていた。FDAも4月に審査完了通知を出しているが、こちらは、中国だけの試験であることや渡航制限により立入調査ができないことなどがボトルネックになったようだ。尚、中国では20年に膵臓以外のNETに、21年には膵NETにも、承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

武田薬品がExkivity(mobocertinib)の承認申請を撤回したことは7月に武田側も公表している。EGFRにエクソン20挿入変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として米国では昨年9月に加速承認され、当該市場をジョンソン・エンド・ジョンソンのRybrevant(amivantamab-vmjw)と二分している模様だが、CHMPは、反応率が低いことや対照試験のエビデンスがないことなどから、条件付き承認をしない考えだった。

米国の処方情報によるとORR(総合反応率)は28%、反応の持続期間はメジアン17ヶ月。特に低いようには感じないが、抗PD-1/PD-L1抗体など他にも選択肢があることや、今回のEMAのリリースでは言及されていないが、命に係わるQTc延長などのリスクがあることも、考慮したのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


経口NMDA受容体拮抗剤が承認
(2022年8月19日発表)

米国ニューヨーク州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、FDAがAuvelity(dextromethorphan Hbr、bupropion HCI)を成人の鬱病治療薬として承認したと発表した。前者の活性成分は鎮咳去痰薬として広く用いられているNMDA受容体アンタゴニストかつシグマ-1受容体アゴニストで、一錠に45mg配合。後者は鬱病治療や禁煙補助に用いられているが配合量は105mgで、開始用量(一日一回)でも維持用量(一日二回)でも従来の用途より3割強少ない。ノルアドレナリンやドーパミンの再取込阻害作用ではなく、dextromethorphanの代謝に係るCYP2D6を阻害する副作用を利用している。

第3相試験では、MADRS(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度、ベースライン値は約33)が6週間で15.9低下し、12.1低下に留まった偽薬を有意に上回った。有害事象による治験離脱率は6.2%(偽薬群は0.6%)。

処方情報には抗鬱剤のクラス枠付警告である自殺思慮・試行が記された。禁忌は癲癇や過食症、拒食症など。配合成分を既に服用していないか、2D6相互作用のある薬を服用していないか、などを事前にチェックし、治療中は血圧上昇や双極障害躁症状の活性化に注意する。

19年に米国で承認された点鼻用NMDA受容体アンタゴニスト、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)は麻薬取締法上のスケジュールIII指定を受けており、処方や流通などにある程度の制限を受ける。一方、Auvelityは、麻薬指定されていない。適応も前者は難治鬱病限定、後者は限定なしだが難治鬱病試験はフェールと、かなり違っている。

優先審査指定された割には承認が1年遅れた。理由は明らかではない。

リンク: 同社のプレスリリース(Global Newswire)


ベータサラセミアの遺伝子療法が承認
(2022年8月17日発表)

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)はFDAがZynteglo(betibeglogene autotemcel)を輸血依存ベータサラセミアの治療薬として承認したと発表した。280万ドルという価格で販売する予定。患者から採取したCD34陽性細胞にT87Q置換を施したベータ・グロブリン遺伝子をレンチウイルス・ベクターを用いて導入し、患者に戻す。第3相試験では36人中32人が一年以上、輸血不要になった。

EUでは19年に条件付き承認を得たが薬価交渉が長引き、販売を断念した。ドイツの場合、メーカー側は約180万ドルを5年分割払いとすることを提案したが、政府案は79万ドル(効果が持続したら成功報酬として更に16万ドル)と大きな隔たりがあった。米国は更に高価だが、費用対効果評価機関であるICERが5年分割で210万ドル(但し効果が持続しなくなったら分割払い打切り)なら見合うと判定している。

リンク: bluebirdのプレスリリース





今週は以上です。

2022年8月13日

第1063回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、天然痘/サル痘ワクチンの皮内注射と青少年に皮注をEUA 
  • Prevnar 20の乳幼児試験が成功 
  • アベクマ、多発骨髄腫の3次治療試験が成功 
  • 中国発抗PD-1抗体の肝細胞腫試験が成功 
  • PDE3/4阻害剤のCOPD試験が成功 
  • ムスカリン標的合剤の統合失調症試験が成功 
  • エンハーツ、肺癌の一部にも適応拡大 
  • ゾフルーザ、やっと5~11歳が適応に 
  • ニュベクオが米国で適応拡大 
  • 多少の不純物より安定供給のほうが大事? 


【今週の話題】


FDA、天然痘/サル痘ワクチンの皮内注射と青少年に皮注をEUA
(2022年8月9日発表)

FDAは19年にBavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)の弱毒化生ワクチン、Jynneosを天然痘やサル痘に感染するリスクのある成人向けに承認しているが、新たに、皮下注射ではなく皮内注射することをEUA(非常時使用認可)した。皮下の場合は0.5mLを4週間置いて二回注射するが、皮内なら0.1mLずつで足りる。米国政府は専らテロ対策として67万バイアルを配布、40万バイアルを戦略的国家備蓄し、メーカーに原液の大規模な在庫を保管させているが、単純計算で数百万回分以上に膨らむことになる。但し、皮内注射が一般的でないのは正確に行うことが簡単ではないからだ。

FDAは18歳未満に皮注することもEUAした。

リンク: JynneosのEUAファクトシート
リンク: 皮内注射のエビデンスとされたFreyらの治験論文(Vaccine誌)

【新薬開発】


Prevnar 20の乳幼児試験が成功
(2022年8月12日発表)

ファイザーは20価肺炎球菌結合型ワクチンPrevnar 20を開発、18歳以上を対象とする肺炎球菌性侵襲性疾患の予防用ワクチンとして、21~22年に欧米で承認を取得した。高齢者と並ぶ主用途である乳幼児の免疫についても、今回、第3相試験が良好な結果になったことを発表した。年末までに米国で適応拡大申請を行う予定。

乳幼児試験はPrevnar 13を対照薬として、どちらも三回の初回免疫と一回の追加免疫を行い、ウイルス型毎に免疫原性を比較した。共同主評価項目の一つである、4回目接種の1ヶ月後のIgG幾何平均濃度(GMC)は20の血清型全てについて、非劣性だった。もう一つの、3回目接種の1ヶ月後のIgG目標濃度到達率は14の型で非劣性、四つの型では僅かに届かず、二つは大きな差があった。

非劣性ならPrevnar 13で良いのではないか、と私は早合点してしまったが、MSDの競合品で一足先に乳幼児適応が承認されたVaxneuvanceの乳児Prevnar 13対照試験も非劣性解析だ。米国のレーベルによると、共通する13型に関しては群間比較したが、Vaxneuvanceだけがカバーする二つの型は、Prevnar 13群の型別データのうち最も低いもの(但し特定の型は除く)と比較した。おそらく、今回の試験も同じなのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


アベクマ、多発骨髄腫の3次治療試験が成功
(2022年8月10日発表)

2seventy bio(Nasdaq:TSVT)と共同開発販売パートナーのブリストル マイヤーズ・スクイブは、Abecma(idecabtagene vicleucel)のKarMMa-3試験が中間解析で成功したと発表した。2~4次治療歴を持ち最終治療に反応しなかった多発骨髄腫を組入れて、PFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を標準療法(DPd、DVd、IRd、Kd、EPdレジメンの中から医師が選択)と比較したもの。データは未公表。適応拡大申請に向かうだろう。

AbecmaはBCMAを標的とするCAR-T療法。21~22年に米欧日で難治再発多発骨髄腫用薬として承認された。エビデンスとなる第2相試験は作用機序の異なる三種類の薬による治療を既に受けた患者を対象としたが、FDAは抗CD38抗体も含む4種類による治療歴を持つ患者にしか承認しなかった。

適応拡大が認められればもっと早い段階の患者にも使えるようになる。

リンク: 両社のプレスリリース


中国発抗PD-1抗体の肝細胞腫試験が成功
(2022年8月9日発表)

BeiGene (百済神州、NASDAQ: BGNE)はBGB-A317(tislelizumab)の第3相RATIONAL 301試験が成功したと発表した。承認申請に向かう考え。

欧米アジアの施設で未治療の切除不能肝細胞腫を組入れ、全生存期間をsorafenibと比較したもの。主評価項目は全生存期間だが抗癌剤としては珍しい非劣性解析だ。VEGFR阻害剤とは効果の発現タイミングや持続性、副作用プロファイルなどが異なるだろうから、リンゴと梨を食べ比べるような難しさがないのか、気になる。

tislelizumabは抗PD-1抗体で中国では肝細胞腫の二次治療などに承認されている。中国外の権利を持つノバルティスが米国で全身性治療歴を持つ進行切除不能/転移食道扁平上皮腫に承認申請したが、渡航制限によりFDAの査察ができないため、審査期限超過状態にある。欧州では非小細胞性肺癌の一次、二次治療と合わせて承認審査中。

リンク: 同社のプレスリリース


PDE3/4阻害剤のCOPD試験が成功
(2022年8月9日発表)

英国のVerona Pharma(Nasdaq:VRNA)は、RPL554(ensifentrine)の第3相ENHANCE-2試験が成功したと発表した。もう一本進行中で、順調なら23年上期にも承認申請する予定。

英国のVernalis社が開発していたネブライザ吸入用PDE3/4阻害剤で、同社を買収したLigand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)がVeronaにアウトライセンスした。第3相はLAMA(長時間作用型ムスカリン拮抗剤)またはLABA(長時間作用型ベータ2刺激剤)による治療を受けている患者を組入れて3mgまたは偽薬を一日二回、投与した。主評価項目のFEV1(第12週における投与後12時間の曲線下面積)は偽薬比94mL改善した。もっと馴染みのあるFEV1のピーク値(投与後4時間)は同146mL、谷は同49mL、改善した。

また、24週間の中重度増悪が偽薬比42%少なかった。789人程度の試験なのでp値が0.01と、著しく低くはないため、もう一本の試験を見てから判断したほうが良さそうだ。

症状やQOLも改善する傾向が見られたが有意水準には達しなかった。

ENHANCE-1は年末ごろに開票する見込みだが、ロシアの施設も参加しているので、遅れる可能性もあるのではないか。

この試験に感じる素朴な疑問は、COPDにおけるステップ・セラピーは一剤で足りなければ二剤併用なのだから、偽薬対照ではなく、LAMA・LABA併用と比較すべきではないだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


ムスカリン標的合剤の統合失調症試験が成功
(2022年8月8日発表)

Karuna Therapeutics(Nasdaq:KRTX)は、KarXT(xanomeline、trospium)の第三相統合失調症試験が成功したと発表した。もう一本の結果を待って23年央に米国で承認申請する考え。

イーライリリーがLY 246708としてアルツハイマー性精神症に第2相を行ったが開発中止したムスカリンM1・M4受容体アゴニストと、Indevus(後にEndoが買収)が過活動膀胱治療薬Sancturaとして04年に発売した末梢性ムスカリン受容体アンタゴニストの合剤で、前者の中枢神経性作用を維持しながら末梢性副作用を緩和するアイディア。KarunaのCEOであるSteve Paul氏はリリーで前者の開発を担当していたとのことであり、中々の執念だ。

第3相は統合失調症急性期の治療を目的に、xanomeline(50mg一日二回で開始して一回用量を100mg、125mgと8日かけて漸増)とtrospiumu(20mg一日二回で開始、30mgに増量)の併用を偽薬と比較した。結果は、5週後のPANSSが各21.2と11.6低下し、有意な差があった。

治療時発現有害事象治験離脱率は7%対6%、治療時発現深刻有害事象は各群2%(自殺思慮や統合失調症の悪化、虫垂炎)で、大差なかった。失神は発生せず、心拍数上昇は見られたがその後に緩和した。

リリーが行った試験では失神などが発生し、過半が有害事象で治験離脱したことを考えれば、だいぶ改善している。延長試験で忍容性等を検討しているので、承認される頃には長期投与時の安全性も明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


中国発VEGFR阻害剤のグローバル試験が成功
(2022年8月8日発表)

Hutchmed(Nasdaq:HCM、和黄医薬)は、fruquintinibの第3相FRESCO-2試験が成功したと発表した。米欧日豪の施設で実施した進行性/難治転移性結腸直腸癌のサルベージ療法試験で、全生存期間が偽薬群を有意に上回った。これらの国の承認審査機関と申請に向けて相談する考え。

VEGFR1/2/3を阻害する経口剤。18年に中国で結腸直腸癌の三次治療薬として承認された。中国はイーライリリーが共同販売しているが海外は提携していない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


エンハーツ、肺癌の一部にも適応拡大
(2022年8月12日発表)

第一三共と共同開発販売パートナーのアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を全身性治療歴のあるher2活性化変異型切除不能/転移非小細胞性肺癌に用いることがFDAに加速承認されたと発表した。このような変異は非小細胞性肺癌の2~4%で見られる由。コンパニオン診断薬として、Guardant Health(Nasdaq:GH)の次世代シーケンサー、Guardant360 CDxリキッド・バイオプシー・テストも承認された。

エビデンスとなる第2相DESTINY-Lung01試験の中間解析では、上記に該当する非扁平上皮腫52人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)は57.7%、メジアン反応持続期間は8.7ヶ月だった。

Enhertuといえば、先日、FDAがher2低陽性転移性乳癌に適応拡大したばかり。5月28日に申請し8月5日に承認という、17世名人並みの光速の審査だった。今回は2月16日の申請なので、6ヶ月弱と少し早いだけだ。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Guardant Healthのプレスリリース


ゾフルーザ、やっと5~11歳が適応に
(2022年8月12日発表)

ロシュは抗インフルエンザ薬Xofluza(baloxavir marboxil)を5~11歳の小児の暴露後予防と急性期非複雑感染症の治療に用いることが米国で承認されたと発表した。日本では18年の初承認時から年齢限定なしに治療に用いることが承認されているが、欧米はこれまで12歳以上に限定されていて、今回も5歳未満は適応外になっている。抵抗性ウイルス選択リスクが影を落としているのだろう。

米国のレーベルには、Xofluza感受性に係るウイルス遺伝子変異と、過去の臨床試験における当該変異の発現率が記されている。A/H1N1、A/H3N2、B型の各ウイルスにおける発現率は、12歳以上の試験では各5%、11%、1%、5~11歳の試験では17%、18%、0%、5歳未満では24%、65%、0%だった。これらのデータを比較できるとは限らないが、ノイズと信じる理由もない。

問題は、これらの変異が臨床的効果にどのように影響するかだが、気になるのは、曝露後予防試験のデータだ。ベースライン時点ではこれらの変異は見られなかったが、発症例の全てで変異が見られた。発症しなかったグループでは少数だった。サンプル数が少ないので確定的ではないが、やはり、影響なしと断定するのは勇気がいる。

リンク: 同社のプレスリリース


ニュベクオが米国で適応拡大
(2022年8月8日発表)

バイエルはNubeqa(darolutamide)を転移性去勢感受性前立腺癌(mHSPC)の治療にアンドロゲン枯渇療法(ADT)及びdocetaxelと併用することがFDAに承認されたと発表した。この用途で化学療法と三剤併用は初めて。第3相試験では、全生存期間のハザードレシオが0.68、メジアン値は未達(偽薬・ADT・docetaxel併用群は48.9ヶ月)だった。欧日でも申請中。

mHSPCではアステラス製薬/ファイザーのXtandi(enzalutamide)なども承認されているが、ADTと二剤併用だ。

Nubeqaはオライオン社からライセンスした非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニストで、19~20年に米日欧で遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に用いることが承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


多少の不純物より安定供給のほうが大事?
(2022年8月9日発表)

FDAはMSDの二型糖尿病用薬、sitagliptinの安全性・安定供給性に関するリリースを出した。一部のサンプルでNTTP(Nitroso-STG-19)というニトロソアミン不純物が検出されたが、供給が足りなくなる可能性があるため、一時的に販売することには反対しないことを決定した。

NTTPの摂取量上限は37ng/日だが、超過していても、246.7ngまでなら、FDAがケースバイケースで流通可否を判断する。246.7ngはFDAの科学者が決定した基準で、一時的ならば、37ng/日を永続的に摂取するより発癌性が低いと判断した。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2022年8月7日

第1062回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • COVID-19用薬の売上推移 
  • その他の領域: 
  • オンパットロのATTR-CM試験が成功 
  • ジャカビ類似薬の円形脱毛症試験も成功 
  • ファイザー、拡張型心筋症の第3相が無益中止に 
  • キイトルーダ、第3相が連敗 
  • オプジーボとヤーボイの併用は腎癌を摘出した患者には無効 
  • 抗NKG2A受容体抗体の最初の第3相はフェール 
  • オニバイドの小細胞性肺癌試験がフェール 
  • 新規葉酸系抗癌剤の第3相がフェール 
  • サレプタ、DMDの遺伝子療法を加速承認申請へ 
  • イーライリリー、アルツハイマーとMCLの新薬を承認申請 
  • mIDH1阻害剤を既に申請し受理されていた 
  • 臍帯血由来の造血幹細胞の承認申請が受理 
  • 強化IL-15の承認申請が受理 
  • Nuplazid、アルツハイマー性精神症に承認されず 
  • エンハーツがher2低発現乳癌に承認 
  • レルゴリクスが米国で内膜症に適応拡大 
  • カルケエンス、制酸剤と同時使用できる錠剤が承認 
  • 局所性PDE4阻害剤が乾癬に承認 


    【COVID-19関連】


    COVID-19用薬の売上推移

    COVID-19用ワクチンと治療薬の22年第2四半期の売上高をまとめた。ワクチンはオミクロン株対応版が秋に実用化されるまで政府が調達を抑えていること、治療薬は、欧米の場合、新規感染者数がBA.1株流行の3月頃にピークアウトしてBA.5の波は小さな山に留まっているため、売上高が第1四半期比減少した製品が多い。抗SARS-CoV-2抗体は流行株の変遷により効果を失うものが続出、売上減少傾向にある。

    唯一、第2四半期も売上高が伸びたのがファイザーのPAXLOVID(nirmatrelvir、ritonavir)だ。作るのに何ヶ月もかかるらしく、昨年12月にEUA(非常時使用認可)された当初の売上高は効果が見劣りするMSDのLagevrio(molnupiravir)を下回ったが、供給が追いついてきたのだろう。

    バイデン大統領がPAXLOVIDを服用してウイルス検査が陰転したが、数日後に再び陽転したと報じられている。SARS-CoV-2の変異は見られなかった模様なので、検査が偽陰性だったのか、あるいは、ウイルスがどこかに隠れてしまったのかもしれない。困った現象だが、抗ウイルス薬の「あるある」なので、リアル・ワールドの発生率が臨床試験のデータ同様1%程度であるならば、大騒ぎするほどではないのかもしれない。

    COVID-19関連売上高(百万ドル)
    製品名メーカー2021年22Q122Q2
    ワクチン:
    Comirnatyファイザー36,78113,2278,848
    Spikevaxモデルナ17,6755,9254,531
    Vaxzevriaアストラゼネカ3,9811,089451
    Ad26.COV2.SJNJ2,385457544
    Nuvaxovidノババックス-58655
    抗SARS-CoV2抗体:
    Ronapreveリジェネロン5,828--
    ロシュ1,78463623
    三剤合計イーライリリー2,2391,470129
    XevudyGSK1,3221,751587
    Evusheldアストラゼネカ-469445
    治療薬:
    Vekluryギリアド5,5651,525445
    Actemraロシュ3,898858687
    Olumientイーライリリー1,115256186
    Paxlovidファイザー761,4708,115
    LagevrioMSD9523,2471,177
    注:OlumientとActemraは他の疾患向けの売上高が中心。ComirnatyやRonapreveの売上高は夫々の会社が計上したもので提携収入なども含む。

    【新薬開発】


    オンパットロのATTR-CM試験が成功
    (2022年8月3日発表)

    Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、Onpattro(patisiran)の第3相APOLLO-B試験が成功したと発表した。年内に適応拡大申請する考え。

    TTR遺伝子のmRNAの非翻訳領域を標的とするRNA干渉薬。18~19年に米欧日で遺伝性トランスサイレチン型アミロイド・ポリニューロパチー用薬として承認された。今回の試験は心不全を合併するATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)の患者360人をTTR遺伝子変異の有無を問わず組入れて、承認されているのと同じ用量を3週毎に12ヶ月に亘り静注点滴した。主評価項目の6分歩行テストは偽薬比有意な(p=0.0162)差があった。最初の副次的評価項目であるKCCQ(QOL指標)もp=0.0397だった。シーケンシャルに行われた複合評価項目(全死亡、心血管イベント、または6分歩行テスト悪化)はp=0.0574となり、その後の検定は見送られた。

    心不全/死亡リスク抑制効果が見られなかったのは残念だが、BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)がacoramidisをテストした類似したデザインの試験がフェールした後なので、承認に必要なハードルをクリアできたのは一安心。同社は3ヶ月毎皮注の類薬、Amvuttra(vutrisiran)でもATTR-CMの心血管アウトカム試験試験を実施しており、組入れがAPOLLO-Bの2倍、想定追跡期間が3倍と大きいため結果が出るのは24年の見込みだが、OnpattroよりAmvuttraに勝負をかけていることが窺われる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ジャカビ類似薬の円形脱毛症試験も成功
    (2022年8月1日発表)

    Concert Pharmaceuticals(Nasdaq:CNCE)は、CTP-543(deuterated ruxolitinib)の二本目の第3相円形脱毛症試験も成功したと発表した。来年上期に承認申請する計画。6月に米国で適応拡大が承認されたイーライリリーのOlumiant(baricitinib)のデータと見比べて良さそうに見えるが、忍容性に関する情報が現時点では限られている。

    CTP-543は、Olumiantの導入元であるインサイト(Nasdaq:INCY)が開発しノバルティスに導出したJakafi(ruxolitinib)の活性成分の水素を重水素に置換したもの。円形脱毛症をリード・インディケーションとしている。第3相のTHRIVE-AA1とAA2は18~65歳で頭皮の50%以上が脱毛した(SALTスコアが50以上)中重度円形脱毛症の成人を組入れて、8mgまたは12mgを一日二回経口投与し、24週時点の奏効率(SALTスコアが20以下に低下した患者の比率)を偽薬群と比較した。

    二本ともベースラインのSALTスコアは平均88と、頭皮面積の12%しか髪に覆われていなかったが、24週後にAA1試験(706人)では8mg群の30%、12mg群の42%が80%以上、覆われていた(偽薬群は1%)。今回のAA2試験(517人)でも8mg群は33%、12mg群は38%だった(偽薬群は1%)。

    Olumiantの第3相では36週奏効率が一本は2mg一日一回が22%、4mg一日一回が35%(偽薬群は5%)、もう一本は各11%、28%、1%だった。CTP-543と同じ24週時点のデータを見ると、2mgはどちらも11%、4mgは27~28%、偽薬は1~5%となっている。

    直接比較試験ではないが、ベースライン時点のSALTは大差なく、目安にはなりそうだ。

    JAK阻害剤は感染症や癌、血栓塞栓性疾患など、深刻な副作用リスクを持っている。CTP-543の試験では帯状疱疹が1%未満の患者で見られた程度のようだが、深刻な治療時発現有害事象も8mg群で一名ずつ発症している。延長試験の安全性データ等が注目される。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ファイザー、拡張型心筋症の第3相が無益中止に
    (2022年8月3日発表)

    ファイザーはPF-07265803(emprumapimod)の第3相LMNA関連症候性拡張型心筋症試験が無益判定されたと発表した。24週間治療後の6分歩行テスト成績を偽薬群と比較する計画だったが、中間解析で成功の可能性が極めて低いと判明、開発プログラム全体の中止を決めた。

    LMNAはラミンA/C蛋白の遺伝子で、拡張型心筋症の患者の一部で変異が見られる。emprumapimodは19年にArray BioPharmaを買収した時に入手したp38アルファMAPキナーゼ阻害剤で、当時はARRY-797あるいはARRY-371797と呼ばれていた。第2相では6分歩行テストの改善が見られた模様。

    リンク: 同社のプレスリリース


    キイトルーダ、第3相が連敗
    (2022年8月3日発表)

    MSDはKeytruda(pembrolizumab)の二種類の第3相試験がフェールしたことを明らかにした。

    一本はキモナイーブmCRPC(転移性去勢抵抗性前立腺癌)1030人を組入れてdocetaxel及びprednisoneのレジメンに追加する効果を検討したKEYNOTE-921試験。共同主評価項目の全生存期間とPFS(無進行生存期間)のどちらも数値上上回っただけだった。

    mCRPCではabiraterone・predonisoneまたはenzalutamideの何れかと化学療法歴を持つ患者にLynparzaと併用したKEYLINK-010試験も全生存期間やPFSがenzalutamideまたはabiraterone・predonisoneを投与した群と大差なく、無益中止が決まったことが3月に公表された。

    もう一本は、切除不能肝細胞腫の一次治療を受ける患者794人を組入れて、エーザイから共同開発販売権を取得しているVEGFR阻害剤、Lenvima(lenvatinib)にKeytrudaを追加する効果を検討したLEAP-002試験。こちらも共同主評価項目の全生存期間とPFSの改善がトレンドに留まった。

    両社は後期第1相試験に基づき米国で切除不能肝細胞腫における併用を加速承認するよう申請したが、ロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)の併用が先に本承認されたため、加速承認の条件が満たされず、審査完了通知を受領した。TecentriqとAvastinの併用sorafenib対照試験では同0.58だった。一方、Lenvimaの第3相sorafenib対照試験では全生存期間のハザードレシオが0.92だった。今回の試験で0.7とか0.6とかが出ればキャッチアップできたかもしれないが、実現しなかった。

    リンク: MSDのプレスリリース(CRPC試験について)
    リンク: MSDとエーザイのプレスリリース(肝細胞腫試験について)


    オプジーボとヤーボイの併用は腎癌摘出後の患者には無効
    (2022年7月29日発表)

    ブリストル マイヤーズ・スクイブは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の腎細胞腫術後アジュバント試験、CheckMate-914のパートAがフェールしたと発表した。完全/部分切除したが中程度以上の再発リスクを持つ患者を組入れて、DFS(無病生存期間、盲検独立中央評価)を偽薬と比較したが、両剤併用しても偽薬を有意に上回ることができなかった。データは未発表。パートBでOpdivo単剤もテストしているが、フェール又は中止になるのではないか。

    同様な試験はロシュのTecentriq(atezolizumab)も第3相IMmotion010試験で主評価項目のDFS(同、担当医評価)がフェールしたことが先日、明らかになった。一方、MSDのKeytruda(pembrolizumab)はKeyNote-564試験が中間で成功、DFSの偽薬比ハザードレシオが0.68、全生存期間も有意認定はされていないが0.54(95%信頼区間0.30-0.96)と良好な成績を挙げ、欧米で適応拡大と、明暗が分かれている。

    抗PD-1/PD-L1抗体の試験結果が区々になったことは以前にもあるが、改めて、臨床試験のデザインや実行の重要性を思い知らされる。

    リンク: BMSのプレスリリース


    抗NKG2A受容体抗体の最初の第3相はフェール
    (2022年8月1日発表)

    Innate Pharma SA(Euronext Paris:IPH)は、アストラゼネカが主導したIPH 2201(monalizumab)の最初の第3相試験が無益認定されたことを明らかにした。中止される見込み。白金薬と抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ難治/転移頭頚部扁平上皮種(SCCHM)患者を組み入れて、cetuximabに追加する効果を偽薬追加と比較したが、パピローマウイルス関連ではないサブグループにおける全生存期間を伸ばせなかった。

    IPH 2201は、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞やNK細胞が発現するNKG2A受容体を標的とする抗体医薬。腫瘍が発現するHLA-4から免疫抑制シグナルを受け取らないようブロックする。15年にアストラゼネカに共同開発販売権を供与した。cetuximabはブリストル マイヤーズ・スクイブの抗EGFR抗体で、アストラゼネカの狙いは、同社の抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)とのデュアル・チェックポイント・インヒビションと推測される。

    その意味で真贋が問われるのは4月に開始されたもう一つの第3相、PACIFIC-9試験だろう。ステージ3の切除不能非小細胞性肺癌で化学放射線並行施行療法に反応した患者の維持療法として、ImfinziにIPH 2201または抗CD73抗体MEDI9447(oleclumab)を追加して、PFS(無病生存期間)を偽薬追加と比較する。比較的進行リスクが小さいグループであるため、結果が出るのは26年とだいぶ後になる見込み。

    リンク: Innate社のプレスリリース


    オニバイドの小細胞性肺癌試験がフェール
    (2022年8月3日発表)

    イプセン(Euronext:IPN)はOnivyde(irinotecan liposome)の第3相RESILIENT試験がフェールしたことを明らかにした。イリノテカンのリポソーム製剤で、米欧日で転移性膵腺腫の二次治療薬として5-FU/LVと併用することが承認されている。今回は白金薬による一次治療中またはその後に進行した患者約450人を組入れて全生存期間をtopotecanと比較したが、大差なかった。副次的評価項目のORR(客観的反応率)は倍増したとのことなので、忍容性に難があったのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)


    新規葉酸系抗癌剤の第3相がフェール
    (2022年8月3日発表)

    スエーデンのIsofol Medical AB(Nasdaq Stockholm:ISOFOL)は、arfolitixorinの第3相切除不能転移結腸直腸癌一次治療試験がフェールしたと発表した。欧米豪日の施設で440人を組入れて、標準療法である5-FU/LV、oxaliplatin、bevacizumabの4剤併用レジメンと、leucovorinの代わりにarfolitixorinを使うレジメンを比較したが、主評価項目であるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)も主要副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)も、成功判定基準に達しなかった。同社は追加分析を行った上で来年上期に承認審査機関と今後を相談する考え。

    leucovorinなどの葉酸製剤の活性代謝物であるMTHFを製剤化したもの。日本はソレイジアが開発販売権を持っている。

    リンク: Isofolのプレスリリース


    サレプタ、DMDの遺伝子療法を加速承認申請へ
    (2022年7月29日発表)

    サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)は、SRP-9001(delandistrogene moxeparvovec)を歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として加速承認を申請する考えを明らかにした。アデノ随伴ウイルス(AAVrh74)をベクターとして通常より短いがある程度機能するDMD遺伝子を導入する遺伝子療法で、承認申請の時期はこれまでも紆余曲折したが、市販後薬効確認試験に位置付けることが可能な第3相が既に開始され、23年末にも成否が判明する見込みなので、今度は信憑性がありそうだ。

    サレプタは16年にエクソン・スキップ薬Exondys 51(eteplirsen)が臨床的効能ではなくジストロフィン量の増加というサロゲート・マーカーに基づき加速承認された。審査担当部署は否定的だったが、上役の鶴の一声が現在と同様にFDA長官であったRobert Cliff医学博士に支持され、逆転した。その後も類薬が続々加速承認されているので、SRP-9001が対象になっても不思議はない。但し、他社の遺伝子療法も含めて散見される横紋筋融解症のリスクは十分に検討する必要がありそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    イーライリリー、アルツハイマーとMCLの新薬を承認申請
    (2022年8月4日発表)

    イーライリリーは、2022年第2四半期決算発表とあわせて、新薬二品を米国で承認申請し受理されたと発表した。どちらも優先審査指定された。PDUFAデートは非公表。

    一つは抗アミロイド・ベータ(p3-42)抗体、LY3002813(donanemab)。バイオジェンのAduhelm(aducanumab)と同様に、アミロイド・ベータ量の減少というサロゲート・マーカーに基づく加速承認を求めたが、違いは、順調なら来年上期にも臨床的効用を検討する第3相、TRILBLAZER-ALZ2試験の結果が出る見込みであること。アミロイド・ベータ蓄積が見られる早期症候性アルツハイマー病の1300人を組入れて76週間治療し、iADRSを偽薬と比較する。

    iADRSは比較的新しい評価尺度で、過去の臨床試験のデータを元に、治療効果感受性を高めたもの。例えて言うならば、声が小さい人にもっとハッキリしゃべれと言うのはハラスメントと呼ばれかねないので、代わりに補聴器を着けるようなものだ。認知機能を評価するADAS-Cog14と手段的生活機能を評価するADCS-iADLを合算したもので、前者は0~90まで、後者は0~56までのレンジで評価する。前者は大きいほど悪く後者は逆なので、90 - ADAS-cog14 + ADCS-iADLで算出する。バイオジェンなども採用しているので近年の流行であるが、統計的に有意な差が出たとしても、臨床的にどの程度の差があれば満足できるのかは、議論の必要がありそうだ。

    もう一つは19年にLoxo Oncologyを買収した時に入手したBTK阻害剤、pirtobrutinib。既存のBTK阻害剤による治療を受けている患者で発生することのある抵抗性変異にも活性を保持しており、BTK阻害剤治療歴を持つマントル細胞リンパ腫(MCL)の100人におけるORR(客観的反応率)は51%、その半分は完全反応だった。BTK阻害剤は命に係わる有害事象が改めて注目されているが、同薬は薬物関連有害事象による永続的治験離脱が618人中6人と、忍容性が比較的良さそうなことが注目される。

    リンク: 同社のプレスリリース


    mIDH1阻害剤を既に申請し受理されていた
    (2022年8月2日発表)

    米国マサチューセッツ州のForma Thaerapeutics(Nasdaq:FMTX)は、カリフォルニア州のRigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)とのライセンス契約の発表に合わせて、対象となるmIDH1阻害剤FT-2102(olutasidenib)を米国で承認申請し受理されていることを公表した。審査期限は来年2月15日とのことなので、受理されたのは4月か2月と推測される。2月以降のプレスリリースや四半期報告書をチェックしたが言及されてはいないので、今回が初公表の模様だ。コア・プログラムではないことは以前から明言していたが、上場新興企業が承認申請をこんなに長い間公表しないのは異例だ。

    第2相難治/再発IDH1変異型急性骨髄性白血病試験の中間解析で、主評価項目の完全反応率(血液学的回復が完全ではないCRh症例も含む)が123人中33%だった。完全反応者の18ヶ月生存率は87%。G3/4の治療時発現有害事象は熱性好中球減少症(20%)、好中球減少症(13%)、貧血(19%)、血小板減少症(16%)など。

    Rigel社は世界開発製造商業化権を取得した。

    リンク: 両社のプレスリリース


    臍帯血由来の造血幹細胞の承認申請が受理
    (2022年8月1日発表)

    イスラエル本拠のGamida Cell(Nasdaq:GMDA)は、omidubicelの承認申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年1月30日。

    臍帯血は採取量が少ないため細胞数が少なく、移植後の好中球数回復が遅くなりがち。omidubicelはニコチンアミド法を用いて培養することでCD34陽性造血幹細胞を重点的に増やしたもの。骨髄移植を受ける高リスク血液癌の患者125人を欧米アジアの施設で組入れた第3相試験では、好中球生着までの期間がメジアン12日と、標準的な臍帯血を移植した対照群の22日より有意に短かった。生着成功率も上回り、感染症発生率や入院日数は下回った。

    リンク: 同社のプレスリリース


    強化IL-15の承認申請が受理
    (2022年7月28日発表)

    米国カリフォルニア州のImmunityBio(Nasdaq:IBRX)は、N-803の承認申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は23年5月23日。

    IL-15のN72D変異型と、IL-15受容体アルファ・IgG1型Fc融合蛋白を結合したもので、天然のIL-15より力価や半減期が勝る。BCGがT細胞やNK細胞による免疫をプライムし、N-803がブーストすることが期待されている。第2/3相QUILY-3032試験でBCG不応ハイグレードNMIBC(筋層非浸潤性膀胱癌)に400mcgをBCGと混ぜて週一回、6週連続で膀胱内経カテーテル投与した試験で、上皮癌コフォート82人中58人、71%が完全反応し、メジアン反応持続期間は26ヶ月だった。Keytruda(pembrolizumab)などの文献データより良い。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    Nuplazid、アルツハイマー性精神症に承認されず
    (2022年8月4日発表)

    ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は米国でNuplazid(pimavanserin)をアルツハイマー病関連精神症の幻覚妄想症状の治療に適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効の立証が不十分として追加試験の実施を推奨された。

    Nuplazidは5-HT2Aインバース・アゴニスト。16年にパーキンソン病関連精神症の幻覚妄想症状の治療薬として米国で承認された。高齢者の認知症性精神症状の治療に用いると死亡リスクが高まることが枠付警告されている。この種の薬のクラス・ウォーニングだが、あまり遵守されておらず、潜在的な(顕在的な?)ニーズの強さを示している。

    ACADIAは認知症関連精神症に伴う幻覚妄想の治療薬として20年に承認申請したが審査完了通知を受領した。今回はサブグループ分析を行いアルツハイマー病患者だけに申請したが、結果は同じだった。エビデンスのうち、アルツハイマー性患者だけを組入れた第2相は単一施設試験であること、第3相試験で明確な治療効果が見られたのは既に承認されているパーキンソン性サブグループだけであったことなどがネックとなった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認】


    エンハーツがher2低発現乳癌に承認
    (2022年8月5日発表)

    FDAは、第一三共がアストラゼネカと共同開発販売している抗her2抗体薬物複合体、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の適応拡大を承認した。her2陽性度が高い乳癌だけでなく、低いが陰性ではない患者にも使えるようになり、対象患者数が約3倍に膨らんだ。

    her2標的薬を使う場合は、事前に乳癌細胞の成長因子受容体、her2の発現状況を検査して過剰発現していることを確認する。98年に米国で抗her2抗体の第一号であるHerceptin(trastuzumab)が承認された当初は、IHC(免疫組織化学)法で2+または3+であれば適応とされたが、2+における反応率は3+ほど高くないのが難点だった。その後、ISH(in situ hybridization)法という遺伝子検査が代替的な選択肢として登場、IHC法で2+だった場合はISH法でも検査して陽性なら適応とするプロトコルが標準となった。これに伴い、抗her2抗体が適応となる乳癌患者の比率は20%程度から15%程度に低下した。

    今回のher2低発現癌は、IHC法で2+且つISH法で陰性、そして、IHC法で1+の癌を指す。乳癌の新患の5割程度を占めると推定されている。Enhertuが適応になるのは、転移後に化学療法を受けた、または、術後アジュバント療法中または完了後6ヶ月以内に再発した場合。

    エビデンスとなるDESTINY-Brease04試験では、メジアン生存期間が23.4ヶ月と化学療法群の16.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.64だった。この試験はホルモン受容体陽性(乳癌の8割を占める)の場合は内分泌療法抵抗性であることも組入れ条件としていたため、9割の患者が二次治療歴を持っていた。

    リンク: FDAのプレスリリース


    レルゴリクスが米国で内膜症に適応拡大
    (2022年8月5日発表)

    住友ファーマの上場子会社であるMyovant Sciences(NYSE:MYOV)と開発販売パートナーのファイザーは、Myfembree(relugolix、estradiol、norethindrone)を閉経前女性の子宮内膜症に伴う中重度疼痛の治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。武田薬品からライセンスしたゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗剤にエストロゲンとプロゲスチンを配合したアドバック療法用薬で、特徴は、骨密度低下の副作用が小さく1年間服用しても平均1%未満に留まることと、類薬と異なり最長24ヶ月連続服用できること。

    relugolixは子宮筋腫による過剰月経治療薬として20年に米国で初承認された。日本では19年に子宮筋腫による諸症状の治療薬レルミナとして承認、内膜症は21年に承認された。

    リンク: 両社のプレスリリース


    カルケエンス、制酸剤と同時使用できる錠剤が承認
    (2022年8月5日発表)

    アストラゼネカはCalquence(acalabrutinib)の錠剤がFDAに承認されたと発表した。適応は従来同様、小細胞リンパ腫とマントル細胞腫。17年に米国で承認されたBTK阻害剤で、オリジナルのカプセル製剤はプロトン・ポンプ阻害剤は併用禁忌、H2ブロッカーなどは2時間以上離して服用する必要があったが、錠剤は同時使用できる。プロトン・ポンプ阻害剤は使いすぎと警告する研究者もいるほど広く用いられているので、大きな違いだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    局所性PDE4阻害剤が乾癬に承認
    (2022年7月29日発表)

    Arcutis Biotherapeutics(Naasdaq:ARQT)はZoryve(roflumilast)が12歳以上のプラク乾癬治療薬としてFDAに承認されたと発表した。COPD治療薬として承認されているPDE4阻害剤の活性成分をクリームに製剤したもので、一日一回、患部に塗布する。臨床試験では奏効率(IGAベース)が一本は42%(偽薬群は6%)、もう一本は38%(同7%)だった。中重度肝障害は禁忌。

    局所性乾癬治療薬ではDermavantのアリル炭化水素受容体モジュレータ、Vtama(tapinarof)が5月に米国で承認されている。経口roflumilastはGE化しているためZoryveは少なくとも価格面で優訴求力を高める余地があるのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース





    今週は以上です。