2023年5月28日

第1104回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:ブレヤンジはCLLにも有効 
  • ASCO:一次治療におけるReblozylの効果 
  • cytisiniclineの第3相禁煙試験がまた成功 
  • 経口高量セマグルチドで体重が15%減 
  • PTC、フリードライヒ運動失調症試験がフェールも承認申請を検討 
  • MDM2阻害剤の第3相がフェール 
  • Mirati社、TAM阻害剤の開発を断念 
  • カービクティの早期投与をEUで承認申請 
  • ボノプラザンをFDAに再申請 
  • DMD遺伝子療法の承認審査が遅延 
  • CHMP、CDKL5欠乏障害用薬などの承認を支持 
  • 新規SGLT阻害剤が心不全治療薬として承認 
  • パキロビッドが米国で本承認 
  • アシネトバクター用薬が承認 
  • Ayvakitが緩徐型全身性肥満細胞腫に適応拡大


【新薬開発】


ASCO:ブレヤンジはCLLにも有効
(2023年5月25日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはASCO(米国臨床腫瘍学会)でキメラ抗原受容体-T細胞療法薬Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の第1/2相TRANSCEND CLL 004試験の結果を発表する。同薬は難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として21~22年に米日欧で承認されたが、今回は成人のBTK阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ難治再発CLL(慢性リンパ性白血病)を対象とする試験のうち、BTK阻害剤に応答せずbcl-2阻害剤の治療歴も持つ患者49人のデータを発表する。完全反応率は18.4%、メジアン反応持続期間はメジアン21ヶ月追跡しても未達、ORR(客観的反応率)は42.9%でメジアン35.3ヶ月持続した。CAR-Tに付き物のサイトカイン放出症候群の発生率はG3が8.5%、G4/5はゼロ。神経学的イベントはG3/4が18.8%だった。CLLでCAR-Tの有効性が示されたのは初めて。

同社は当局と相談する考え。単群、少人数の試験なので上手くいくか分からないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO:一次治療におけるReblozylの効果
(2023年5月25日発表)

BMSはIIB型アクティビン受容体融合蛋白Reblozyl(luspatercept-aamt)をベータ・サラセミアやエリスロポイエチン不応不耐骨髄異形成症候群(MDS)による貧血症治療薬として欧米で販売しているが、後者は5月に一次治療向けに適応拡大申請し、日本でも新薬承認申請した。ASCOで裏付けとなるデータが発表される。

第3相COMMANDS試験でエリスロポイエチン歴を持たない成人のvery low/low/intermediateリスクMDSで輸血依存貧血患者を組入れて3週毎皮下注する効果をepoetin alfa週次投与と比較したもので、奏効率(12週間の治療期間中に赤血球輸血を受けずヘモグロビン値がベースライン比1.5g/dL超増加、独立評価委員会判定)が各群58.5%と31.2%となり、有意な差があった。24週間の奏効率も有意に上回った。治療時発現有害事象は疲労や下痢、末梢浮腫が増加した。

FDAはMDS貧血の二次治療における適応をRS(環状鉄芽球)型に限定した。報道によると今回もRS型では大きく上回ったがそれ以外では数値上、下回ったとのことで、各国の審査機関の判断が注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


cytisiniclineの第3相禁煙試験がまた成功
(2023年5月23日発表)

Achieve Life Sciences(Nasdaq:ACHV)は、cytisiniclineの二本目の第3相禁煙補助試験が良好な結果になったことを明らかにした。一本目と同様に、米国の施設で約800人の患者を組入れて、3mgを一日三回投与する効果を偽薬と比較した。治療期間は12週間で、試験薬群は6週間投与しその後の6週間は偽薬にスイッチする群も設定された。承認薬と同様に、最後の4週間に呼気CO濃度を行って禁煙成否を判定した。

結果は、12週間コースは禁煙成功率30.3%となり、偽薬群の9.4%のほぼ3倍で統計的に有意。6週間コースは14.8%と6.0%でこちらも有意だった。主な有害事象は不眠や異常夢、悪心、頭痛など。

一本目の試験では12週間コースが32.6%、偽薬群は7.0%、6週間コースは25.3%と4.4%だったので、概ね似たような結果だが、6週間コースの成績は低下したように見える。

cytisiniclineは植物アルカロイドで、構造がニコチンと似ており、アルファ4ベータ2ニコチン・アセチルコリン受容体部分作動作用を持つ。同社は、中東欧などで禁煙補助薬として20年以上、2000万人以上の市販歴を持つブルガリアのSopharmaから西欧米国などでの開発・輸入販売権を取得、1.5mg一日6回で開始し漸減という新用量用法で第3相に進んだ。24年に承認申請する考え。

承認されても競争は厳しそうだ。同様な作用機序を持つファイザーのChantix(varenicline)とそのGE薬は、一日一回服用で済む。第3相試験における治療効果(成功率の偽薬群との差)は大差ない。また、物質特許が存在しないので誘導体や塩、投与方法の特許と、すべての新薬に供与される排他権が頼りだ。6週間コースの設定が独自だが、成功率はあまり高くなく、現実の医療では(Chantixの米国レーベルが推奨するように)成功後もしばらくは服用を続けることになるだろうから、セールストークにはなり難そうだ。ニコチンEシガレット使用者の禁煙試験も進行中だが、どの程度の差別化要因になりうるのだろうか。

リンク: 同社のプレスリリース


経口高量セマグルチドで体重が15%減
(2023年5月22日発表)

ノボ ノルディスクは皮下注用semaglutideを二型糖尿病薬Ozempicと肥満症薬Wegovyとして、経口剤を二型糖尿病薬Rebelsusとして、日米欧などで販売しているが、経口剤の第3相肥満症治療試験も年内に欧米で承認申請する計画。今回、第3相OASIS 1試験で統計的に有意な治療効果が見られたことが公表された。

肥満症またはオーバーウェイトで疾病リスク因子を持つ患者667人を偽薬群と50mg群に無作為化割付けして一日一回、68週間治療したところ、体重がベースライン時点の平均105.4kgから偽薬群は2.4%、試験薬群は15.1%低下した(服用中止などがあっても最後まで計測するtreatment policy estimandベース)。中止前までのデータしか考慮しないtrial product estimandベースでも各群1.8%と17.4%減少した。

第3相は日本を含む東アジアで198人を組入れる同様な試験と、中国で200人を組入れて44週間治療する試験が進行中。また、後期第3相として、25mgを偽薬と比較する試験も進行中だ。

semaglutideなどのGLP-1作用剤は米国ではセレブの人気を集めているらしく、日本でもオフレーベル処方する医療施設が出てきたようだ。世界的に品不足になっており、ノボは、肥満症向け経口剤の欧米以外での承認申請は生産能力や取扱品の優先順位次第と記している。

semaglutideシリーズの比較
Ozempic:血糖治療薬。最大1mgを週一回皮下注。
Wegovy:体重管理薬。最大2.4mgを週一回皮下注。体重治療効果は6~12%。
Rybelsus:血糖治療薬。最大14mgを一日一回経口投与。
新薬:体重管理薬。最大50mgを一日一回経口投与。OASIS 1試験における治療効果は16%

リンク: 同社のプレスリリース


PTC、フリードライヒ運動失調症試験がフェールも承認申請を検討
(2023年5月23日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はPTC-743(vatiquinone)の第3相MOVE-FA試験の結果を公表した。成人小児のフリードライヒ運動失調症患者143人を組入れてmFARS(修正フリードライヒ運動失調症評価尺度)の上昇を抑制する効果を72週間に亘り検討したところ、有意水準に到達しなかったが、一部の症状や一部の副次的評価項目で名目p値が0.05を若干下回ったことから、当局と承認申請に向けた相談を行う考え。この希少疾患の治療薬は2月にReata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)のnrf2アクティベータ、Skyclarys(omaveloxolone)が承認されたが、不純物対策が承認されるまで発売できない状態にある(審査期限は8月)。

PTC-743はミトコンドリアにおけるエネルギー・酸化ストレス経路を制御する重要な酵素である15-lipoxygenaseの阻害剤。第3相の主評価項目は7~21歳の患者123人だけが対象で、試験薬の上昇は1.22と偽薬群の2.83を下回ったが、p=0.14だった。この尺度は嚥下や構音、上肢下肢の協調、直立安定性を評価するが、幾つかの項目では名目p値が0.02~0.04とボーダーライン上だが閾値下に収まった。また、修正疲労尺度の変化もp0.025だった。更に、最後まで治療を中止しなかった96人だけの解析では上昇が3.08対0.77となり、名目p=0.054と、数値が若干改善した。

p値が0.06ではダメ、0.04ならOK、という訳ではないので、どの解析もボーダーライン上またはアウトと受け止めた方が良さそうだ。FDAの希少疾患における審査ハードルは明らかに低下していることが頼りだ。

リンク: 同社のプレスリリース


MDM2阻害剤の第3相がフェール
(2023年5月22日発表)

Rain Oncology(Nasdaq:RAIN)は、milademetanの第3相脱分化脂肪肉腫試験がフェールしたと発表した。メジアンPFS(無進行生存期間)が3.6ヶ月と、ジョンソン・エンド・ジョンソンがPharmaMarからライセンスして開発した脂肪肉腫用薬、Yondelis(trabectedin)群の2.2ヶ月と大差なく、ハザードレシオ0.89、p=0.53に留まった。用量を減らした患者が対照群より多かったと記しているので、おそらく、忍容性がボトルネックになったのだろう。この用途の開発は断念。MDM2増幅癌など、他の希少腫瘍に対する第2相や第1相がまだ進行中。

腫瘍抑制蛋白であるp53の活性化を抑制するMDM2(murine double minute 2)を阻害しアポトーシスを誘導する経口剤。Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)が第一三共との共同研究を通じて創製、Rainは20年に第一三共からライセンスした。

リンク: 同社のプレスリリース


Mirati社、TAM阻害剤の開発を断念
(2023年5月24日発表)

Mirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)はMGCD516(sitravatinib)の第3相試験がフェールし、他の用途も含めて開発を中止すると発表した。非扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬とチェックポイント阻害剤による治療歴を持つ患者の二次、三次治療としてOpdivo(nivolumab)と併用する群の全生存期間をdocetaxel群と比較したが、有意な差はなかった。

MGCD516は経口マルチキナーゼ阻害剤で、TAMファミリー受容体やVEGFR2、KIT、RETを阻害する。PD-1阻害剤などに抵抗性を生じる微小環境を是正する効果が期待され、第2相単群試験が実施され、ORR(客観的反応率)20%、メジアン生存期間15.1ヶ月という良さそうな結果を出したが、やはり、ORRや単群試験は当てにならないのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


カービクティの早期投与をEUで承認申請
(2023年5月25日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、キメラ抗原受容体-T細胞療法薬Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)をEUで成人の多発骨髄腫の二次治療に一部変更申請した。一次治療でlenalidomideに難治性を示した患者が対象。22年に米欧日で4~5次治療薬として承認されたが、2次治療で承認されればCAR-Tでは初。

第3相CARTITUDE-4試験で1~3次治療歴を持ちlenalidomide抵抗性の成人患者419人を組入れてPFS(無進行生存期間)を代表的な3剤併用レジメンと比較したところ、中間解析で目的を達成、独立データ監視委員会が盲検解除を推奨した。欧州の学会の抄録が誤って公開されてしまった模様であり、報道によると、ハザードレシオは0.26、完全反応率は各群73%と22%、全生存期間は未成熟であるもののハザードレシオ0.78となった模様。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ボノプラザンをFDAに再申請
(2023年5月23日発表)

Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)は武田薬品が日本で販売しているカリウムイオン競合的アシッドブロッカー、vonoprazanをライセンスし、22年にピロリ菌除菌療法用薬としてFDAの承認を取得したが、様々な薬で懸念が浮上している癌原性物質の類似物、NVP(N-nitroso-vonoprazan)が微量検出されたため、発売が先送りされた。びらん性食道炎の適応拡大申請も審査完了通知を受領したが、製剤を一部見直し、3ヶ月間の安定性試験の成績と推計モデルにより有効期間(24ヶ月、因みに日本は3年)中に含有量がFDAの許容限度を超えないことを確認、今回、FDAに再承認申請した。6ヶ月審査の見込みで、順調なら第4四半期に審査結果が出ることになる。承認されたら両方の適応症で上市する予定。

3ヶ月で足りるものなのかどうか、全く分からないが、同社は6ヶ月追跡データも提出する予定。もう一つ分からないのは、Phathomの製品はCatalent社が製造するが、日本で販売されている製品は問題ないのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


DMD遺伝子療法の承認審査が遅延
(2023年5月24日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)はデュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子療法であるSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec)を米国で承認申請し、5月12日の諮問委員会で多くの支持を受けたが、予想通り、審査期限が5月29日から6月22日に延期された。また、FDAは対象を4~5才の患者に限定する考えを通知してきたとのこと。

通常は3ヶ月延期するところを1ヶ月足らずに抑えたのは、やはり、諮問委員会から17日という短期間で承認手続きを完了するのが困難だったことが主因なのだろう。加速承認される可能性が更に高まったともいえるだろう。

SRP-9001は本来のものより短縮したジストロフィンの遺伝子をアデノ随伴ウイルスに組入れて患者の筋細胞で発現させるもの。臨床試験で症状評価スコアが偽薬群ほど悪化しなかったが有意水準には達しなかった。4~5才の患者では悪化が小さかったが6~8才では偽薬より悪化した。今回の申請はマイクロジストロフィン発現をエビデンスとするもので、臨床的便益は、第4四半期にEMBARK試験の結果が出てから確認することになる。6歳以上における便益も明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、CDKL5欠乏障害用薬などの承認を支持
(2023年5月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。また、ノバルティスの鎌状赤血球病治療薬Adakveo(crizanlizumab)の条件付き承認を取消すよう勧告した。

リンク: EMAのプレスリリース

Marinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)のZtalmy(ganaxolone)は中枢神経選択的GABA Aポジティブ・アロステリック・モジュレーター。脳が正常に機能する上で必須のcyclin-dependent kinase-like 5(CDKL5)の遺伝子に変異を持ち頻繁に癲癇を発症するX染色体性遺伝子疾患、CDKL5欠乏障害の癲癇頻度を減少させる。有害事象は傾眠や発熱など。2~17歳で治療を開始、18歳以降も継続可。

米国では3月に承認され、年13万ドル強の価格で販売されている。欧州ではフィンランドのOrionが販売する。

リンク: EMAのプレスリリース

パリのCurium社のPylclari(piflufolastat (18F))は前立腺癌のPET造影剤。根治治療を受ける患者や根治治療後にPSA値が上昇し再発転移が疑われる患者のステージングや病変部位特定に用いられる。既存の薬剤と比べて、比較的早期段階の癌やPSA値が低い場合でも造影できる。米国ではライセンス元ののLantheus(Nasdaq:LNTH)がPylarify名で承認を取得した。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を切除可能非小細胞性肺癌の切除術前化学療法に併用することが支持された。CheckMate-816試験で化学療法・偽薬併用群と比べてEFS(無イベント生存期間、盲検独立評価)のハザードレシオが0.63だった。米国では審査期限の5か月前倒しで承認されたが、CHMPはPD-L1発現(≧1%)に限定している。昨年の学会発表によると、PD-L1陰性癌ではハザードレシオは0.85に留まり、1~49%の腫瘍細胞で発現していたサブグループにおける0.58、50%以上における0.24と比べて見劣りした。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、フランスのイプセンが進行性骨化性線維異形成症用薬として承認申請したSohonos(palovarotene)は、5月に否定的意見がまとまり、メーカー側の請求に応じて再審査が行われたが、評価は覆らなかった。臨床試験のデザインや結果が万全でないことや、成長板早期閉鎖リスクが影を落とした。

リンク: EMAのプレスリリース

5月に承認申請が撤回されたのは、大塚製薬のAbilify Asimtufii(aripiprazole)。米欧日などで統合失調症などの維持療法に承認されているAbilify Maintenaは月一回筋注だが、Asimtufiiは2ヶ月毎で足りるのが長所。米国では4月に承認されたが、EUはメーカー側の戦略変更により撤回となった。CHMPは、エビデンスとなるべき生物学的同等性試験の対照薬がEUで流通しているAbilify Maintenaではないことに疑問を持っていたとのことだが、初耳であり、詳細は不明。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュも新生血管加齢性黄斑変性治療薬Susvimo(ranibizumab)の申請を撤回した。Lucentisの活性成分を放出するインプラント製品で、6ヶ月に一度リフィルする。米国では21年に承認されたが、シーリングの耐久性に問題が発覚し、22年に自主回収となった。今回の申請撤回も同じ理由の模様だ。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、CHMPは、ノバルティスの抗Pセレクチン抗体、Adakveo(crizanlizumab)の承認取消をECに勧告した。20年に16歳以上の鎌状赤血球症患者の血管閉塞性クリーゼを抑制する薬として条件付き承認されたが、公式な市販後薬効確認試験であるSTAND試験で効果が確認されなかった。

第3相STAND試験と条件付き承認のエビデンスとなった第2相SUSTAIN試験のデザイン上の違いはそれほど大きくなく、明確なのは、新たに12~15才も対象としたこと、2.5mg/kgと5mg/kgではなく5mg/kgと10mg/kgをテストしたこと、組み入れ数が254人と2割程度増えたこと位だ。それなのに、偽薬群の鎌状赤血球性疼痛クリーゼによる受診頻度が前回は年率2.96、今回は2.30とそれほど変わらなかったのに対して、5mg/kg群は前回1.63が今回2.49と偽薬群を上回る水準まで上昇した。在宅治療を含めた副次的評価でも効果は見られなかった。

結果が食い違った理由はよくわからないが、『鎌状赤血球症関連疼痛クリーゼ』の判定は簡単ではない模様で、EUの審査報告書によると、SUSTAIN試験では担当医の認定を独立評価委員会が否定した症例がかなりあり、特に、試験薬群で目立った模様だ。公表されているリスク削減率48%というのは独立評価委員会ベースだが、実際はもっと小さい可能性も否定できない模様。FDAは19年に普通に承認したのにEUが条件付き承認に留め更なるエビデンスを求めたのは、これが一因のように見受けられる。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


新規SGLT阻害剤が心不全治療薬として承認
(2023年5月26日発表)

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)のInpefa(sotagliflozin)が米国で心血管疾患リスク抑制薬として承認された。心不全、または、心血管リスク因子を持つ二型糖尿病性慢性腎不全の患者の心血管死/心不全による緊急受診・入院を抑制する。第3相試験では偽薬比3割程度少なかった。

SGLT-2だけでなくSGLT-1も阻害する経口剤で、欧州では一型糖尿病治療薬Zynquistaとして承認されたが後に返上。FDAは糖尿病性ケトアシドーシスを懸念して承認しなかった。サノフィと共同開発していたが、EU承認後に提携解消となった。

リンク: 同社のプレスリリース


パキロビッドが米国で本承認
(2023年5月25日発表)

COVID-19用薬やワクチンは迅速承認に向けて各国が様々な制度を利用した。米国のEUA(非常時使用認可)は公衆衛生に対する脅威が存在する期間だけ有効で、経過措置はあるものの、やがて失効する。既に複数の治療薬が本承認を取得しているが、今回、ファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)が成人の軽中等症COVID-19で入院死亡リスク因子を持つ患者の治療薬として正式に承認された。尚、12~17歳の小児適応はEUAのまま。

EPIC-HR試験で発症5日以内に治療を開始した患者の28日COVID-19入院・全死亡率が0.9%と、偽薬群の6.5%を大きく下回った。但し、本試験はワクチンがまだ普及していない、かつ、現行より重症化率が高い株が流行していた時期に実施されており、現在は治療しないリスクはもっと小さいはずだ。だからといって便益がないわけではなく、EPIC-SR試験では、ワクチン接種していても高齢などリスク因子を持つサブグループでは便益が見られた、

リンク: FDAのプレスリリース


アシネトバクター用薬が承認
(2023年5月23日発表)

FDAはEntasis TherapeuticsのXacduro(sulbactam、durlobactam)を承認した。本製品に感受するアシネトバクター・バウマンニ-カルコアセティカス複合体による院内感染細菌性肺炎や人工呼吸器関連細菌性肺炎の治療に用いる。第3相試験で28日死亡率が19.0%となり、colistinを投与した実薬対照群の32.3%と比べて非劣性だった。臨床的治癒率も68.3%対41.9%で非劣性だった。

アシネトバクター・バウマンニは抗生剤抵抗性が高く、新薬のニーズが高い。sulbactamはベータ・ラクタマーゼ産生菌が増え無効になったが、新開発の広域ベータ・ラクタマーセ阻害剤、durlobactamを併用することで蘇った。

同社は15年にアストラゼネカの抗感染症開発品を継承してスピンアウト、22年にInoviva(Nasdaq:INVA)の子会社となった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Inovivaのプレスリリース


Ayvakitが緩徐型全身性肥満細胞腫に適応拡大
(2023年5月22日発表)

Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)は、FDAがAyvakit(avapritinib)の適応拡大を承認したと発表した。20年に欧米で承認されたKIT/PDGFRアルファ阻害剤で、PDGFRアルファにエクソン18変異を持つGIST(消化管間質腫瘍)や進行全身性肥満細胞腫に承認されているが、緩徐型の全身性肥満細胞腫が追加された。臨床試験では症状スコア(患者評価、合計値は0~110の範囲で大きいほど重い)が24週間の治療でベースライン時点の50点から15.3点低下した(偽薬群は9.6点低下)。EUでも申請中。

全身性肥満症の9割超は緩徐型であり、GISTと比べても患者数が一桁多いので、商業的にも大きな適応拡大だ。

リンク: 同社のプレスリリース


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年5月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
  • 23/5/31  ファイザーのPF-06928316(60歳以上のRSVワクチン)
  • 23年6月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/6/15  イプセンのBylvay(odevixibat、アラジール症候群に適応拡大)
  • 23/6/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)
  • 23/6/16  BMSのCamzyos(mavacamten、閉塞性肥大性心筋症における中隔縮小治療の必要性の抑制に適応拡大)
  • 23/6/17  F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
  • 23/6/20  argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
  • 23/6/21  Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
  • 23/6/22  Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
  • 23/6/22  Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/6/23  Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
  • 23/6/27  Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
  • 23/6/30  Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)

諮問委員会:
  • 23/6/8  AMDAC:アストラゼネカのnirsevimab(RSV下部気道感染症予防)
  • 23/6/9  PCNSDAC:エーザイ/バイオジェンのLeqembiのアルツハイマー病本承認
  • 23/6/15 VRBPAC:2023-24シーズンのCOVID-19ワクチン配合株について
  • 23/8/13 ODAC:Mesoblastのremestemcel-L(ステロイド難治急性移植片宿主病)
  • 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)


今週は以上です。

2023年5月20日

第1103回

【ニュース・ヘッドライン】

  • FTC、アムジェンの企業買収に介入 
  • WHIM症候群用薬の感染症予防効果を確認 
  • PTC、フェニルケトン尿症の第3相が成功 
  • Dermavant社、アトピー適応拡大試験が成功 
  • 武田、ADAMTS-13補充療法を承認申請 
  • FDA諮問委員会、NASH治療薬の承認に反対 
  • FDA諮問委員会、胎児用RSVワクチンを支持 
  • 第3のher2標的ADCは承認されず 
  • 表皮水疱症の局所性遺伝子療法が承認 
  • 二重特異性抗体がまたまた承認 
  • 新作用機序のドライアイ治療薬が承認 
  • リンヴォックがクローン病に適応拡大 


【今週の話題】


FTC、アムジェンの企業買収に介入
(2023年5月16日発表)

アムジェンは、昨年12月、Horizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)を約280億ドルで買収すると発表したが、FTC(米国連邦取引委員会)が裁判所にtemporary restraining order(差止仮処分)とpreliminary injunction(予備的差止命令)を請求したため、今年上期中に完了という当初計画を先送りせざるを得なくなった。FTCは民主党政権誕生以来、規制強化を示唆していたが、遂に、競争制限的行為が未だ発生していない段階での介入に動き出した。

FTCによると、巨大企業であるアムジェンがそのリソースを活用してHorizonの主力製品である甲状腺眼症治療用の抗IGF-1R完全ヒト化抗体、Tepezza(teprotumumab-trbw)や、重度痛風の二次治療用ブタ由来尿酸酸化酵素、Krystexxa(pegloticase)の市場独占的地位を増強する虞がある。アムジェンは赤血球生成刺激剤や顆粒球コロニー形成刺激剤市場における新規参入企業に対抗するために、医療施設や保険組織に対して複数の製品の合計売上高に応じたボリューム・ディスカウントを提供したことがある。ラインアップが乏しい会社にはとても太刀打ちできない、賢い方法だ。

尤も、当時FTCが介入した記憶はないし、今日でも、違法になるのだろうか?しかも、上記二品は競合品が無い/殆ど無いので、目の前の懸念というよりは将来発生するかもしれないが、しないかもしれない懸念だ。

それだけに、今回の動きは驚きだが、同時に、訴訟の成否が気にかかる。Prometheus Biosciencesと買収合意しているMSDや、Seagenと買収合意しているファイザーはもっと注視しているだろう。

リンク: FTCのプレスリリース

【新薬開発】


WHIM症候群用薬の感染症予防効果を確認
(2023年5月16日発表)

X4 Pharmaceuticals(Nasdaq:XFOR)は、リードコンパウンドであるX4P-001(mavorixafor)の第3相WHIM症候群試験が成功、400mg一日一回経口投与により循環好中球絶対数(ANC)を臨床的に意味のある水準以上に長時間維持することができた(24時間中15時間、偽薬群は3時間弱)。当然、感染症予防効果も期待できるところだが、今回、副次的評価項目の成功を発表した。年率1回と偽薬群の4.5回を有意に下回り、G3以上の感染症や受診治療も抑制した。7月以降、早い段階に承認申請する考え。

WHIW症候群は希少常染色体優性遺伝性の原発性免疫不全の一つでW(ヒトパピローマウイルスによる疣贅)、H(低ガンマグロブリン血症)、I(再発性細菌感染症)、M(骨髄性細胞貯留)などの症状を示す。CXCR4受容体の遺伝子の機能獲得変異が原因で白血球のトラフィッキングが抑制されるため、免疫力が低下することが原因。

mavorixaforはCXCR4受容体アンタゴニスト。類薬ではMozobil(plerixafor)が自家造血幹細胞移植の補助薬として10年以上使われているが、どちらもオリジンはAnorMedで、X4はAnorMedを子会社化したジェンザイムを子会社化したサノフィから9年前にライセンスした。

リンク: X4社のプレスリリース


PTC、フェニルケトン尿症の第3相が成功
(2023年5月17日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は、PTC923(sepiapterin)の第3相フェニルケトン尿症試験が成功したと発表した。承認申請に向けて当局と相談する考え。

フェニルケトン尿症はBH4(テトラヒドロビオプテリン)やPAH(フェニルアラニン水酸化酵素)の欠乏によりフェニルアラニン(Phe)の代謝ができず、精神症状などを発現する。治療薬はサントリーが開発した合成BH4、ビオプテンが欧米ではバイオマリン・ファーマシューティカルのKuvan(sapropterin)として販売されており、同社はPheアンモニアリアーゼをPEG化したPalynziq(pegvaliase-pqpz)もラインアップしている。

PTC923はBH4の前駆体を化学合成したもの。2020年にCensa Pharmaceuticalsを買収して入手した。第3相APHENITY試験は変わったデザインで、パート1では156人全員に2週間投与し、血中Phe値が15%以上低下した患者をパート2として試験薬群と偽薬群に無作為化割付けして6週間治療した。主評価項目はパート1でPheが30%以上低下した患者のベースライン比Phe減少率。

パート1では2/3の患者で30%以上低下した(平均66%減、比較的難治性の古典的フェニルケトン尿症患者16人でも60%減)。パート2では試験薬群(n=49)では63%減、偽薬群は1%増で、有意な差があった。

有害事象は頭痛や下痢が増加したが有害事象全体の発生率や深刻有害事象は大差なかった。

リンク: PTCのプレスリリース


Dermavant社、アトピー適応拡大試験が成功
(2023年5月16日発表)

Roivant Sciences(Nasdaq:ROIV)の子会社であるDermavant Sciencesは、Vtama(tapinarof)の二本目の第3相アトピー性皮膚炎試験が成功したと発表した。来年第1四半期に適応拡大申請する考え。

Vtamaはアリル炭化水素受容体(AhR)モジュレーターの局所クリーム製剤。民間療法であるコールタール療法と同様な作用機序を持ち表皮細胞の分化や防御力強化を促す。昨年5月に米国で軽度から重度までの尋常性乾癬治療薬として承認された。

アトピー性皮膚炎の第3相では2歳以上の小児・成人患者に乾癬用と同じ1%クリームを一日一回塗布して8週後の奏効率を偽薬と比較した。今回のADORING 1試験も、3月に成功発表されたADORING 2試験も、IGAベースの主評価項目もEASI75ベースの副次的評価項目も偽薬群をかなり上回った。

第3相アトピー性皮膚炎試験の奏効率

ADORING 1ADORING 2
EndpointVtamaビークルp値Vtamaビークルp値
vIGA-AD45.4%13.9%<0.000146.4%18.0%<0.0001
EASI7555.8%22.9%<0.000159.1%21.2%<0.0001
出所:会社資料より作成

有害事象や深刻有害事象の発生率は両群大差なかった。注視すべき有害事象のうち接触皮膚炎の発生率は大差なかったが、乾癬試験と同様に、毛包の炎症などの有害事象発生率が今回の試験では10.0%(偽薬群は0.7%)、ADORING 2試験では8.9%(偽薬群は1.5%)だった。

tapinarofはGSKが09年に子会社化した皮膚用薬メーカー、Stiefelが12年にWelichem Biotechからライセンスしたもの。その後、GSKは皮膚用薬に興味を失ない、18年にRoivantに権利を譲渡した。日本の皮膚疾患領域における権利は20年にJTが取得、鳥居薬品を通じて開発している。

リンク: Dermavantのプレスリリース

【承認申請】


武田、ADAMTS-13補充療法を承認申請
(2023年5月17日発表)

武田薬品はTAK-755をcTTP(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)用薬として米国で承認申請し受理された。優先審査を受ける。審査期限は言及されていない。

cTTPは米国で300~400人が罹患する希少疾患。vW因子を切り出す酵素、ADAMTS-13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)の欠乏により、vW因子の超高分子量複合体が血栓を形成し、溶血性貧血や虚血性臓器障害、血小板減少症などを齎す。TAK-755は遺伝子組換え型ADAMTS-13。バクスアルタと合併したシャイアを武田が買収して入手した。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、NASH治療薬の承認に反対
(2023年5月19日発表)

FDAは胃腸薬諮問委員会を招集し、Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)がステージII/III非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)治療薬として承認申請したobeticholic acidについて意見を聞いた。便益が危険を上回ると認めたのは16人の委員のうち2人だけで12人が否と答え2人は棄権した。病理学的評価に基づき加速承認すべきと答えたのは一人だけで残りは第3相試験が更に進捗し臨床的便益が確認されるのを待つべきと回答した。

obeticholic acidは胆汁酸誘導体で、Ocaliva名で原発性胆汁性肝硬変の治療に10mgを一日一回経口投与することが欧米で承認されている。NASH用途はNIH(米国衛生研究所)主導試験の成功を受けて、第3相REGENERATE試験に進んだ。ステージII/IIIの患者を偽薬、10mg、25mgの三群に無作為化割付けして臨床的転帰(全死亡、末期肝臓疾患、肝移植など)を比較しているが、中間主評価項目に設定された18ヶ月時点の組織学的解析で25mg群が偽薬比有意な改善を示したため、承認申請された。FDAがガイドラインで示した、肝線維症が1ステージ以上改善しNASHが悪化しなかった患者の比率と、NASHが解消し肝線維症が悪化しなかった患者の比率のうち、前者が23.1%と偽薬群の11.9%を上回ったのである。但し、後者は両群大差なく、また、別途実施されたNASHによる非代償性肝硬変の第3相は前者と同様な評価項目がフェールした。

諮問委員会が懐疑的だったのは、線維症の改善が臨床的な便益につながるかどうか判然とせず、安全性面では、10mgでも薬物誘導性肝障害(DILI)のリスクがあるのに25mgを投与するリスクや、血糖値やコレステロール値などが上昇するリスクがあるため。DILIの発生頻度は偽薬群より1000人年当り2.4も高く、これは、FDAがDILIに関するガイドラインで示した、信頼区間上限が1000人当り1より小さいという基準を大きく上回っている。致死例はないが、試験薬群827人のうち一人がDILIにより肝移植を受けた。

承認は厳しそうだ。審査期限は6月22日。同社は欧州でも適応拡大申請したが、好ましい評価を得られず撤回を余儀なくされた。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA諮問委員会、胎児用RSVワクチンを支持
(2023年5月18日発表)

FDAはVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)を招集し、ファイザーが承認申請した二価RSウイルスワクチン、Abrysvoを妊婦に接種して胎児が出生後に感染するリスクを抑制する用法の便益と安全性について意見を聞いた。便益は14人の委員全員が支持、安全性は10対4で支持が上回った。このワクチンは先に高齢者用に申請されており、VRBPACで便益も安全性も7対4対棄権1で多数の支持を獲得、審査期限は5月31日となっている。妊婦接種の審査期限は8月21日。

AbrysvoはA型とB型のRSウイルスのFサブユニットの融合前構造を抗原とするワクチンでアジュバントは無し。今回の用途は日本でも2月に承認申請された。エビデンスとなる第3相MATISSE試験は妊娠第2~3トリメスター(妊娠13週以降)に120mcgを一回接種して、出生後180日間の医療が必要な重度RSV性下部気道疾患などのリスクを偽薬と比較した。中間解析でワクチン効率69.4%(99.5%信頼区間44.3-84.1%)、ワクチン群の罹患率0.5%に対して偽薬群は1.8%となり、成功認定された。尚、共同主評価項目のうち90日間のデータも有意だったが、重症以外の症例も含む解析は180日間も90日間もフェールした。

安全性で4人が疑問を呈した主因は早産の発生率が5.6%と偽薬群の4.7%より数値上、多かったことのようだ。第2相でも、GSKのワクチンでも、同様な傾向が見られた模様。ワクチン群の新生児の死亡は8例あったが、接種の10日後の早産に伴う合併症で死亡した一人については、ワクチンとの関連性を否定できないとFDAは判定した。尚、安全性解析対象は約3600人なので発生率は高くはない。但し、人口全体の早産率は1割程度といわれているので、この試験でも臨床試験バイアス(病弱だったり色々なリスクを持っている人は組み入れられないため実医療では同じ成績は望めない)が働いている可能性があり、現実の医療ではリスクがもっと高まるかもしれない。

効果の持続期間は明確ではないが、生後180日から360日の期間の感染者数は両群大差ないので、半年と考えた方がよさそうだ。流行期は冬なので予定日が9月の場合は効果をフルに享受できることになる。4月の場合はあまり期待できないことになるが、早く生まれる可能性もあるので、一概には言えないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


第3のher2標的ADCは承認されず
(2023年5月15日発表)

オランダのByondisは欧米でSYD985(vic-trastuzumab duocarmazine)をher2陽性切除不能局所進行性/転移性乳癌の3次治療薬として承認申請しているが、米国は審査完了通知を受領した。詳細は不明だが、FDAの指摘/照会事項に対する回答を用意するには時間と追加的な経営資源が必要としているので、提携や身売りのような戦略的選択肢の検討を迫られるかもしれない。

抗her2抗体とストレプスマイシン系の新規DNA結合剤の抗体薬物複合体。二種類以上のher2標的レジメンまたはKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)による治療歴を持つ患者を組入れた第3相TULIP試験でPFS(無進行生存期間、第三者評価)のメジアン値が7ヶ月と、trastuzumabとcapecitabineの併用など4種類のレジメンから医師が選んだ薬を投与した群の4.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.64だった。全生存期間は予備的解析でメジアン値は20.4ヶ月と16.3ヶ月で4ヶ月程度の延長が示唆されたがハザードレシオは0.83、p=0.153に留まっている。

同じ用途で先に承認された第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)はDESTINY-Breast02試験でlapatinibまたはtrastuzumabをcapecitabineと併用した群と比べたPFS(同)が0.36、全生存期間も0.66で有意、13ヶ月程度の延命効果が見られた。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


表皮水疱症の局所性遺伝子療法が承認
(2023年5月19日発表)

FDAはKrystal Biotech(Nasdaq:KRYS)のVyjuvek(beremagene geperpavec-svdt)を栄養障害型表皮水疱症(DEB)の治療薬として承認した。COL7A1遺伝子変異を持つ生後6ヶ月以上の患者が適応になる。同社は第3四半期に上市の予定。欧州でも下期に承認申請する予定で、日本でも25年上市を目指してPMDAと相談中。

DEBは真皮と表皮を繋ぐ係留線維の構成成分である7型コラーゲンの遺伝子、COL7A1の機能喪失変異により、皮膚が脆弱で水疱やびらんが生じやすく、感染症や扁平上皮腫を合併するリスクもある。患者数は米国で3000人程度の希少疾患。Vyjuvekは増殖能やゲノム統合能を除去した遺伝子組換え型1型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)をベクターとしてCOL7A1遺伝子をケラチノサイトや線維芽細胞に導入する。ゲル製剤を創傷箇所に週一回、閉鎖するまで皮内注射を反復する。優性DEB30人と劣性DEB1人を組入れた試験で、塗布部位の完全閉鎖率は65%、同じ患者の偽薬塗布部位は26%で有意な差があった。

口内や目に症状が出る場合もあるようだが、塗布できないので効果は期待できない。皮膚は新陳代謝するので治療効果は永続しない。主な有害事象は掻痒、悪寒、扁平上皮腫など。

同社は7年前にDEB治療薬を開発するために設立された。今回の承認で希少小児病用薬優先審査バウチャを取得した。価格はバイアル当り$24250の予定で、患者一人当り平均年63万ドル程度を見込んでいる模様(リベート前)。

リンク: FDAのプレスリリース


二重特異性抗体がまたまた承認
(2023年5月19日発表)

FDAはジェンマブがアッヴィと共同開発したEpkinly(epcoritamab-bysp)を加速承認した。CD20とCD3を架橋する二重特異性抗体で、成人の二次以上の治療歴を持つ難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(not otherwise specified)やハイグレードB細胞リンパ腫に用いる。4週毎に皮下注した臨床試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が61%、メジアン反応持続期間は15.6ヶ月だった。完全反応率は38%。クラス・イフェクトであるサイトカイン放出症候群の発生率は51%、ICANS(免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群)は6%、深刻感染症は15%だった。

価格は月37500ドルの見込み(3割自己負担で毎月100万円以上!)。欧州でも昨年11月、日本は12月に、承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース


新作用機序のドライアイ治療薬が承認
(2023年5月18日発表)

Bausch + Lomb(NYSE/TSX:BLCO)とライセンス元のNovaliqは、FDAがMiebo(perfluorohexyloctane)をドライアイ治療薬として承認したと発表した。審査期限は6月で、同社は7月以降に発売する予定。

類液層にレイヤーを形成し涙が蒸発するのを防ぐ、新規作用機序を持つ。一日4回、一滴を点眼する。マイボーム腺機能不全によるドライアイを治療した第3相試験で角膜フルオレセイン染色検査値や乾燥度ビジュアル・アナログ・スケールが偽薬比有意に改善した。有害事象は霞目や充血。マイボーム腺機能不全はドライアイの多くで見られるためか、FDAは適応を限定しなかった。成人限定もされていないが、小児における効果や安全性は確認されていないと記されている。

リンク: 両社のプレスリリース


リンヴォックがクローン病に適応拡大
(2023年5月18日発表)

FDAはアッヴィのRinvoq(upadacitinib)を成人の中重度活性期クローン病に用いることを承認した。TNFブロッカーを用いても十分に応答しない、または不耐の患者が適応になる。寛解導入期は45mgを一日一回、12週間投与する。寛解維持の推奨用量は15mg一日一回だが重症例などは30mgも可。

RinvoqはJAK1阻害剤で、これまでにリウマチ性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎に承認されている。枠付き警告は感染症、死亡リスク、腫瘍、心筋梗塞や脳卒中、血栓症。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年5月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
  • 23/5/22 Blueprint MedicinesのAyvakit(avapritinib、緩徐全身性肥大細胞腫に適応拡大)
  • 23/5/27 Lexicon Pharmaceuticalsのsotagliflozin(心不全)
  • 23/5/29 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/5/29 Innovivaのsulbactam-durlobactam(アシネトバクター感染症)
  • 23/5/31 ファイザーのPF-06928316(60歳以上のRSVワクチン)
  • 23年6月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/6/15 イプセンのBylvay(odevixibat、アラジール症候群に適応拡大)
  • 23/6/16 GSKのmomelotinib(骨髄線維症)
  • 23/6/16 BMSのCamzyos(mavacamten、閉塞性肥大性心筋症における中隔縮小治療の必要性の抑制に適応拡大)
  • 23/6/17 F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
  • 23/6/20 argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
  • 23/6/21 Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
  • 23/6/22 Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
  • 23/6/23 Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
  • 23/6/27 Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
  • 23/6/30 Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)

諮問委員会:
  • 23/6/8 AMDAC:アストラゼネカのnirsevimab(RSV下部気道感染症予防)
  • 23/6/9 PCNSDAC:エーザイ/バイオジェンのLeqembiのアルツハイマー病本承認
  • 23/6/15 VRBPAC:2023-24シーズンのCOVID-19ワクチン配合株について


今週は以上です。

2023年5月13日

第1102回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボとヤーボイの併用、日本の試験で死亡者が想定以上 
  • RTA 402は腎機能悪化を抑制できず 
  • バビースモ、米国でもRVOに申請 
  • FDA諮問委員会、DMD遺伝子療法の評価が分かれた 
  • FDA諮問委員会が経口避妊薬のOTCスイッチを支持 
  • 高力価IL-15は承認されず 
  • アステラスのホットフラッシュ治療薬が米国で承認 
  • レキサルティがアルツハイマー性アジテーションの治療に適応拡大 
  • フォシーガが米国でも駆出率低下の限定解除 
  • EMAも早産予防薬の安全性や効果を検討へ 


【新薬開発】


オプジーボとヤーボイの併用、日本の試験で死亡者が想定以上
(2023年4月28日発表)

JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)は、nivolumabとipilimumab(小野薬品/BMSのOpdivoとYervoy)を化学療法と併用した非小細胞性肺癌一次治療試験を中止したと発表した。死亡率が想定を上回ったことなどが理由。致死的な副作用に注意するよう呼びかけた。

このJCOG2007試験は化学療法二剤と4剤併用する便益を化学療法二剤とpembrolizumab(MSDのKeytruda)を併用する標準療法と比較したもの。中間解析で治療との因果関係が否定できない死亡が131人中9人、6.8%と閾値の5%を上回ったため昨年4月に患者登録を一旦停止。除外基準に白血球数が多い患者などを追加して再開したが、順守されず、死亡例が発生してしまったことなどから中止を決めた。治療との因果関係が否定できない死亡は148人中11人、7.4%となり、海外で実施された類似した試験であるCheckMate-9LA試験の2%や、市販後監視試験における4000人中93人、2.3%と比べて高かった。

致死的となった有害事象は肺臓炎、サイトカイン放出症候群、敗血症、心筋炎、血球貪食症候群など。JCOGがプレスリリースを出したのは、このような免疫強化による副作用に注意するよう改めて呼びかける意図のようだ。

この影響で、小野薬品は肺炎領域における今年度の需要が減少すると予想している模様だ。

リンク: JCOGのプレスリリース(和文)


RTA 402は腎機能悪化を抑制できず
(2023年5月10日発表)

協和キリンはReata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)のRTA 402(bardoxolone methyl)を日本市場でライセンス、アルポート症候群治療薬として承認申請するとともに、糖尿病性腎症の第3相試験を実施していたが、後者は望ましい結果が出なかった。前者はReataも欧米で申請したが米国では承認されず欧州でも申請撤回となっており、両社はこれらの領域における開発を断念した。おそらく、他の用途も中止されるのではないか。

RTA 402はNrf2転写因子の発現を増やしNF-kappaBやSTATの経路を抑制する。今回の試験は目標一日用量15mgの便益を偽薬と比較した。主評価項目はeGFR(推定糸球体濾過率)が30%以上低下またはESRD(末期腎疾患)のリスク。有意な差が見られたようだが、臨床的に重要な転帰であるESRDに進行するのを遅らせる効果が見られなかった。PMDA(医薬品医療機器総合機構)もESRDだけの解析を重視していた模様であり、それなら、主評価項目の設定が間違っているのではないだろうか。

FDAや諮問委員会がアルポート症候群における便益を認めなかった主因は、eGFRは改善するものの腎機能低下を抑制する作用は動物試験を含めて確認されていないことや、Reataが実施した第3相糖尿病性腎症試験が心不全のリスクや死亡リスクから中止された過去だ。日本の試験では死亡リスクは見られなかったのだろうか?

リンク: 同社の23年第1四半期決算発表リリース
リンク: 協和キリンのプレスリリース(和文)

【承認申請】


バビースモ、米国でもRVOに申請
(2023年5月9日発表)

ロシュは米国でVabysmo(faricimab-svoa)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。VEGF-Aとアンジオポイエチン-2を標的とする二重特異性抗体で糖尿病性黄斑浮腫や中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性の治療薬として承認されているが、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)やBRVO(網膜静脈分枝閉塞症)による黄斑変性の治療を追加する。臨床試験ではEylea(aflibercept)と非劣性だった。日本でも中外製薬が4月に申請した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、DMD遺伝子療法の評価が分かれた
(2023年5月12日発表)

FDAは細胞・組織・遺伝子療法諮問委員会(CTGTAC)を招集し、Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として加速承認を求めている遺伝子治療薬、SRP-9001について意見を聞いた。FDAはエビデンス不足と見なしている模様だが、諮問委員は賛成8人、反対6人と票が分かれた。臨床的便益を支持するエビデンスが不十分である点では一致しているが、賛成派は治療を受けた患者が元気に飛び回るビデオやマイクロジストロフィンが増えれば便益が生まれるはずというエキスパート・オピニオンを重視し、反対派は臨床試験でNSAAスコアの有意な改善が見られなかったことや、3倍の数の患者を組み入れた第3相試験の結果が年内に判明する見込みであることを重視した模様だ。

FDA諮問委員会は多数決制ではないので支持が上回っても最後に決定するのはFDA。承認されるかどうかは不透明だ。同社はDMDのアンチセンス薬二品の加速承認を受けたが、第4相試験のコミットメントを未だ果たしていないため、かって抗癌剤で見られたような新興企業による加速承認の食い逃げに対する懸念もFDAは持っている模様だ。

審査期限は5月29日。審査期限が諮問委員会から1ヶ月以内である場合、審査期限延長になることが多いが、今回はどうだろうか。

SRP-9001はDMD患者で欠損するジストロフィンの遺伝子の一部(マイクロジストロフィン)をアデノ随伴ウイルスをベクターとして患者に導入する。類似した、しかし症状はDMDほどではない、ベッカー型筋ジストロフィーの患者が発現する短縮ジストロフィンをヒントに開発されたもので、全長が3.6kbとジストロフィン遺伝子の1/4程度であるためウイルスベクターに組み込むことができた。オリジンはNationwide Children's Hospital。米国外はロシュ(日本は中外)がライセンスした。

リンク: Sareptaのプレスリリース


FDA諮問委員会が経口避妊薬のOTCスイッチを支持
(2023年5月10日発表)

Perrigo(NYSE:PRGO)は経口避妊薬Opill(norgestrel)のOTCスイッチをFDAに承認申請しているが、諮問委員会の支持を得た。初のOTC避妊薬になりそうだ。

非処方薬諮問委員会と産科・生殖・泌尿器科用薬諮問委員会の共同会議で17人の委員全員が賛成した。プロゲスチン製剤なので乳癌歴や異常出血のある女性は医師に相談すべきであり、また、10代前半の人たちは添付文書の内容を理解できるか分からないが、諮問委員会は、効果の高さや半世紀に及ぶ使用歴、処方薬を入手するハードルの高さなどから、便益が危険を上回ると判定した。

Opillは米国で1973年にOvrette名で承認されたが、05年に安全性や有効性以外の理由で販売中止された。HRA Pharmaが商品名変更・レーベル改訂を申請し17年に承認を取得、22年6月にOTC薬として申請した。PerrigoはOTC薬の大手企業で、同年5月に18億ドルでHRA Pharmaを企業買収した。

リンク: 同社のプレスリリース


高力価IL-15は承認されず
(2023年5月9日発表)

ImmunityBio(Nasdaq:IBRX)は米国でAnktiva(N-803)をBCG不応の局在性NMIBC(筋層非浸潤性膀胱癌)用薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAがCMO(生産受託組織)の承認前査察時に指摘した欠陥が主因のようだ。

AnktivaはIL-15のN72D変異体を受容体や抗体と細胞融合したもの。通常のIL-15より力価や半減期が上回る。BCGと共に尿路カテーテルで週一回膀胱内投与する。臨床試験では完全反応率が71%、メジアン反応持続期間は26.6ヶ月だった。

リンク: 同社のFORM 8-K

【承認】


アステラスのホットフラッシュ治療薬が米国で承認
(2023年5月12日発表)

FDAはアステラス製薬のVeozah(fezolinetant)を閉経期の中重度血管運動神経症状(VMS)の治療薬として承認した。ニューロキニン3受容体を阻害する、この適応症では初めての作用機序を持つ。エストロゲン製剤が有効だが乳癌や子宮癌、血栓性疾患、肝障害など禁忌や要注意があるので、承認薬ではこの薬や、13年に承認されたNoven PharmaceuticalsのBrisdelle(paroxetine)が代替的な選択肢になる。ベルギーのOgeda社を17年に買収して入手したもの。

第3相試験二本では24時間当たり発症頻度がベースラインの11回前後から4週後に6回前後減少し、偽薬群の3~4回減少を有意に上回った。有害事象は腹痛や下痢、不眠などが若干増加した。肝障害リスクがあるため開始前と3、6、9ヶ月経過時点に肝機能検査を行う。禁忌は肝硬変、重度腎障害、CYP1A2阻害薬併用。

同社は1億ドル弱で購入した優先審査バウチャを用いて申請したが、審査期限が延長されたため標準審査と大差ない結果になった。米国の医療技術における費用対効果分析機関であるICERは昨年11月のエビデンス・レポートでこの薬の適正価格を年2000~2500ドルと査定したが、アステラスは3倍前後の価格で販売する考えのようだ。

リンク: FDAのプレスリリース


レキサルティがアルツハイマー性アジテーションの治療に適応拡大
(2023年5月11日発表)

FDAは、大塚製薬がルンドベックと共同開発販売している非定型向精神薬、Rexulti(brexpiprazole)をアルツハイマー患者のアジテーションの治療に用いることを承認した。非定型向精神薬を認知症関連精神症の高齢患者に用いると死亡リスクが高まるという枠付き警告は解除されておらず、他剤より高い可能性すら残っているが、他剤と異なり臨床試験で便益が確認されたことや、医療従事者や介護者のニーズが大きいことなどを重視したのだろう。

既承認用途である統合失調症や鬱病より低用量で開始してゆっくりと増量していく。最大用量は4mgではなく3mg。第3相試験では三本中二本で主評価項目のCMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)総合スコアが偽薬比有意に低下した。このスコアは不適切な言動や暴力的/攻撃的行動、奇声、物を隠すなど29の項目について発生頻度を7段階(7点が一番高い)で評価するもので、最低は29点、最大は203点。臨床試験のベースライン平均値は70~80点で、試験薬群は19~23点低下したが、偽薬群は16~18点の低下に留まり、2~5点の治療効果が見られた。

FDAが実施した非定型向精神薬の高齢認知症関連精神症試験のメタアナリシスでは死亡リスクは1.6~1.7倍だったが、Rexultiの試験では4.16倍だった。数が少ないため有意差は出ていない。メタアナリシスと比べて偽薬群の死亡率が一桁低いので、世間一般の患者より死亡リスクが低い患者が組み込まれた可能性もありそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース


フォシーガが米国でも駆出率低下の限定解除
(2023年5月9日発表)

アストラゼネカのSGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin)は、20年に米国で駆出率低下を伴う心不全の治療に適応拡大したが、今回、駆出率を問わずに用いることが承認された。LVEF≦40%の患者を組入れたDAPA-HF試験では心血管死/心不全入院・緊急受診のリスクを26%抑制したが、40%超の患者を組み入れたDELIVER試験でも18%抑制する効果を示し、今回の承認に繋がった。EUでは1月に限定解除、日本でも1月に電子添付文書が改訂された。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAも早産予防薬の安全性や効果を検討へ
(2023年5月12日発表)

EMAは、フランスの承認審査機関の要請を受けて、ヒドロキシプロゲステロンの安全性や便益の検討を開始した。FDAは便益無しと判定して承認取消を決めたが、EMAは胎児が出生後に癌を罹患する懸念を示す疫学研究も検討する考えだ。副作用に耐えながら受けた治療が実は効果がなかったというだけなら過ぎた話だが、子供に害を及ぼすなら今後も安心できず、酷い話だ。

hydroxyprogesterone caproate、通称17-OHPCはスクイブ社が1956年に米国でDelalutin名で承認を取得、半世紀以上の使用歴がある。当初の適応は流産や中絶の予防だが、2003年にNIH(米国国立衛生研究所)主導試験で早産歴のある妊婦の早産リスクを抑制したことがNew England Journal of Medicine誌に発表され、オフレーベル使用されるようになった。その時点では販売中止されていて薬局調剤品しかなかったが、FDAの開発要請に応じた企業が2011年に加速承認を取得した。ところが、市販後薬効確認試験がフェール。メーカー側が自主的承認返上に応じなかったため、数年に及ぶ公式手続きを経て、今年4月に承認が取消された。

安全性懸念は、今年1月、MurphyらがAmerican journal of obstetrics and gynecologyに疫学論文を刊行、胎児が出生後に癌を罹患するリスクが2.5倍に上昇する可能性を指摘した。1959年から1966年にカリフォルニア州で出生前のケアを受けた18000人以上の記録と癌レジストリーを統合分析したもので、第1トリメスター(妊娠0~12週)に子宮内曝露した人が癌を発症する修正ハザードレシオは2.57(95%信頼区間1.59、4.15)だった。1~2回投与例では1.80だが3回以上では3.07、男性の場合は第2トリメスターや第3トリメスターも曝露した症例では5.51と、曝露量とリスクの相関性も浮上している。但し後者は女性の場合0.30で95%信頼区間が1を跨いでいる。腫瘍別では結腸直腸癌が5.51、前立腺癌は5.10、小児脳腫瘍は34.72だった。

これらの症例は投与目的も開始タイミングも早産予防で使う時とは異なるので、過去20年間に曝露した人たちのリスクとは差異があるかもしれないが、慰めにはならない。キチンと検討して貰いたいものだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Murphyらの疫学論文(Am J Obstet Gynecol. ~PubMed Central、フリー・アクセス)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:

  • 23年5月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
  • 23年5月 ファイザーのPF-06928316(60歳以上のRSVワクチン)
  • 23年5月 Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、心不全)
  • 23/5/12 ByondisのSYD985(vic-trastuzumab duocarmazine、her2陽性乳癌)
  • 23/5/19 Krystal BiotechのVyjuvek(beremagene geperpavec、栄養障害型表皮水疱症)
  • 23/5/21 アッヴィのepcoritamab(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫3次治療)
  • 23/5/22 アステラス製薬のESN364(fezolinetant、閉経期血管運動神経症状)
  • 23/5/22 Blueprint MedicinesのAyvakit(avapritinib、緩徐全身性肥大細胞腫に適応拡大)
  • 23/5/29 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/5/29 Entasis Therapeuticsのsulbactam-durlobactam(アシネトバクター感染症)


諮問委員会:

  • 23/5/18 VRBPAC:ファイザーのAbrysvo(妊婦接種による新生児RSV予防用ワクチン)
  • 23/5/19 GIDAC:Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)



今週は以上です。

2023年5月7日

第1101回

【ニュース・ヘッドライン】

  • リリーの抗アミロイド抗体も第3相が成功 
  • ImmunoGen、市販後薬効確認試験が成功 
  • ヤンセン、新システムでNMIBCの反応率が72%に 
  • イクスタンジのnmHSPCデータが発表 
  • 円形脱毛症用新規JAK阻害剤の高用量が治験停止に 
  • ロキサデュスタットのMDS貧血試験はフェール 
  • インサイトのPI3Kデルタ阻害剤、三番目の用途でも挫折 
  • AT1/ETAブロッカーのFSGS試験がフェール 
  • BMS、Reblozylを一次治療に承認申請 
  • アセンディス、副甲状腺ホルモン補充療法薬は審査完了に 
  • ノボ、画期的血友病治療薬が承認されず 
  • 初の高齢者用RSVワクチンが承認 
  • 夜中に起きなくてもよいナルコレプシー治療薬が承認 
  • 植物細胞培養型ファブリー病治療薬がEUで承認 


【新薬開発】


リリーの抗アミロイド抗体も第3相が成功
(2023年5月3日発表)

イーライリリーは抗アミロイド・ベータ(p3-42)抗体LY3002813(donanemab)が第3相早期症候性アルツハイマー病試験で認知・機能面の悪化を有意に遅らせたと発表した。サルゲート・マーカーに基づく加速承認申請はFDAに認められなかったが、今回のデータなら承認基準を満たすだろう。治療効果は先に承認されたエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb)の第3相成績と大きく変わるようには見えない。ARIA(アミロイド関連造影異常)の発生頻度が若干高いように感じられるが、投与頻度が4週毎と少ない点や、アミロイド・プラクが消失したら投与を止めるという支払い側や患者にとって好都合な用法のエビデンスがあることが長所だ。

このTRAILBLAZER-ALZ2試験は、PETスキャンでアミロイド・プラクの蓄積が認められた早期症候性アルツハイマー病患者を組入れて4週毎点滴静注する効果を偽薬と比較した。主評価項目は76週時点のiADRS(アルツハイマー病統合評価尺度)。臨床試験で良い結果が出るように既存の評価尺度をチェリーピックしたもので、ADCS-iADL(ADCS-ADLのうち手段的項目をチェリーピックした尺度、0~56点、数値が小さいほうが悪い)とADAS-Cog14(0~90点、数値が大きいほうが悪いため、90から減算した数値を使用)を加算して算出する。主解析対象は、被験者のうちタウの値が低・中程度の1182人と、全1736人。前者は偽薬群では9.3点の悪化が見られたが、試験薬群の悪化は35%小さかった。試験薬群の数値は記されていないが6点程度悪化したのだろう。後者は偽薬が13.1点の悪化、治療効果は22%だった。

タウ値が高くない患者だけの解析も行ったのは、高い患者は進行しており今後の悪化も早く試験薬の効果が出にくい可能性があるからとのことだが、結果もそのような恰好になっている。

副次的評価尺度として代表的な尺度であるCDR-SBも検討された。前者のユニバースでは偽薬群が1.9点上昇、治療効果は36%なので試験薬群は1.2点程度悪化したのだろう。後者は偽薬が2.4点上昇、治療効果は29%で、これはLeqembiの27%と大差ない。尚、CDR-SBのベースライン値は未公表だがMMSEは全ユニバース平均で22となっており、Leqembiの第3相の25より少し軽症ということになる。

クラス・イフェクトであるARIAは、浮腫の発生率が24%、症候性は6.1%、出血は31.4%(偽薬群は13.6%)。多くは無症候性だが、深刻なARIAも1.6%で発生し、それによる死亡も2人(その後の死亡も含めると3人)あった。どちらの薬も深刻ARIA発生率が低いのでLeqembiとの比較は難しいが少なくとも数値上はLeqembiのほうが好ましい。

FDAが1月に審査完了通知を出した主因は1年以上の曝露症例数が100人未満と少ないこと。アミロイドが消失したら投与を止めるプロトコルなので効けば効くほど投与すべき患者が減っていくことが皮肉な結果に繋がった。今回の試験は安全性を確認するためのコフォートも設定されているので、広く使われる可能性のある薬に相応しいデータベースを獲得できるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


ImmunoGen、市販後薬効確認試験が成功
(2023年5月3日発表)

ImmunoGen(Nasdaq:IMGN)はElahere(mirvetuximab soravtansine-gynx)のMIRASOL試験で延命効果が示されたと発表した。米国で加速承認された時のフェーズIVコミットメント試験で、本承認切替を狙うとともに、欧州で承認申請する予定。

葉酸受容体(FR)アルファを標的とする抗体と微小管を阻害するDM4をリンカーで結んだ抗体薬物複合体で、昨年11月に成人の1~3次全身性治療歴を持つFRアルファ高発現の白金抵抗性卵巣癌に用いることが認められた。今回の試験の組入れ基準はほぼ同じで、違いは、医師が選んだ薬(paclitaxelなど)との対照試験でPFS(無進行生存期間、治験医評価)を主評価項目、全生存期間を副次的評価項目としていること。前者はハザードレシオ0.65、後者は0.67で共に統計的に有意、メジアン生存期間は16.4ヶ月と12.7ヶ月で3ヶ月余の延命効果が見られた。深刻有害事象や治療時発現有害事象による治験離脱は数値上、対照群より少なかった。

尚、ElahereはFRアルファ陽性患者を組入れた第2相がフェールしており、上記二試験は75%以上の腫瘍細胞で中程度以上に発現している高発現型だけを対象としている。

リンク: 同社のプレスリリース


ヤンセン、新システムでNMIBCの反応率が72%に
(2023年4月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、AUA(米国泌尿器学会)でTAR-200(JNJ-17000139)の第2相膀胱癌試験の当初結果を発表した。膀胱全摘不適/拒否のBCG不応高リスクNMIBC(非筋層浸潤膀胱癌)を組み入れた試験で、完全反応率は23人中72.7%だった。同社が開発中の抗PD-1抗体、JNJ-3283(cetrelimab)を投与した群は24人中38.1%で、承認されているMSDのKeytruda(pembrolizumab)と似たような成績だ。両剤併用群のデータは今後発表する予定。

また、根治治療不適/拒否の筋層浸潤膀胱癌にTAR-200を施行した第1相のデータも発表された。35人における完全反応率は31%、メジアン生存期間は27ヶ月となっており、進行する前の治療するほうがよく反応するのだろう。

TAR-200はシリコンチューブ型ディバイスで、膀胱内に留置すると浸透圧勾配によりgemcitabineが徐々に放出される。3週間毎に投与した後、維持療法を施行する。上記第2相における有害事象は排尿や膀胱感染症などに係わるものが主で、G3以上の有害事象発生率は30%だった(cetrelimab群は8%)。

リンク: Janssen Pharmaceuticalのプレスリリース
リンク: Tysonらの第1相論文(Journal of Urology)


イクスタンジのnmHSPCデータが発表
(2023年4月29日発表)

アステラス製薬と開発販売パートナーのファイザーは、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)のEMBARK試験成功を3月に公表したが、データをAUA(米国泌尿器学会)年次総会で発表した。根治的前立腺全摘/放射線療法を受けた後に、PSA値が9ヶ月足らずで倍増などのリスク因子を持つ、未転移ホルモン感受性前立腺癌の1068人を組入れてXtandiと・leuprolideの二剤併用群やXtandi単剤群のMFS(非転移生存期間)をleuprolide・偽薬併用群と比較した第3相試験で、二剤併用群が有意に上回った。ハザードレシオは0.42、5年非転移生存率は83.5%対71.4%。副次的評価項目であるXtandi単剤群もハザードレシオ0.63で95%上限が1を下回った。

全生存期間は最終解析の必要症例数271に対して130人と未だ成熟していないせいかトレンドに留まっているが、一部で報道されているハザードレシオ(併用が0.59、Xtandi単剤は0.77)が事実ならば、好感触だ。両社は適応拡大申請する考え。

PSA値が閾値を超えるのを待たずに薬物療法を開始する試験は良好な成果を上げているが、高齢者に多い病気で、5年経っても転移しない患者も多くいることを考えれば、施行するか否かではなく、誰にするかが重要な課題と言えそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース


円形脱毛症用新規JAK阻害剤の高用量が治験停止に
(2023年5月2日発表)

Sun Pharmaceuticalは、円形脱毛症用薬として承認申請予定のJAK1/2阻害剤、deuruxolitinibに関して、FDAが高用量の治験停止命令を発出したことを明らかにした。第3相試験二本では8mgまたは12mgを一日二回経口投与したが、長期延長試験の12mg群で深刻有害事象である肺塞栓が発生したため。塞栓性事象が一件も発生していない8mgは対象外で、同社は12mg群の患者を8mg群に移行させている。

臨床試験はリスク覚悟で実施するものなので承認審査より敷居が低い。同社は本年上期中に米国などで承認申請する計画だが、12mgがリスキーでも8mgなら安全とは考えにくいので、承認審査における焦点になりそうだ。また、奏効率は一本では偽薬が0.8%、8mgが29.6%、12mg群は41.5%、もう一本では各0.8%、33.0%、38.3%だったので、8mgだけだと若干低下することになる。

同剤はインサイト(Nasdaq:INCY)が骨髄線維症などの治療薬として実用化したJakafi/Jakavi(ruxolotinib)の活性成分を重水素化したもの。Concert Pharmaceuticalsの買収で入手した。FDAはJAK阻害剤の安全性に懸念を持っておりリウマチ性関節炎などの用途では日欧では承認されている高用量を認めないなどの措置をとっているが、Jakafiは用途が違うとして用量制限などは行っていない。慢性疾患用途でも、インサイトが開発したruxolitinibのクリーム製剤を既存局所製剤不応の軽中度アトピー性皮膚炎の間歇的治療薬として承認している。ruxolitinibが安全なのか、局所性製剤だから低リスクなのか、よくわからないが、deuruxolitinibが答えを出してくれるかもしれない。

リンク: Sunのプレスリリース(pdf)


ロキサデュスタットのMDS貧血試験はフェール
(2023年5月5日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)はHIF2-PH(低酸素誘導因子2-プロリン水酸化酵素)阻害剤roxadustatを貧血症治療薬として開発しパートナーのアステラス製薬やアストラゼネカと共に世界各地で承認申請したが、安全性のエビデンスが万全ではないためか米国では承認されなかった。同社は低中等度リスクのMDS(骨髄異形成症候群)で貧血治療のために透析を受けている患者を対象とする第3相MATTERHORN試験も実施していたが、今回、フェールしたことを発表した。奏効率(28週間の当初観察期間中に56日以上連続で輸血しないで済んだ患者の比率)が47.5%と偽薬群の33.3%を上回ったが有意水準に達しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


インサイトのPI3Kデルタ阻害剤、三番目の用途でも挫折
(2023年5月2日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)はINCB050465(parsaclisib)の第3相温式自己免疫性溶血性貧血症試験を打ち切ることを決めた。承認審査機関の規制が厳しいことを理由に挙げている。

PI3K(Phosphatidylinositol 3 kinase)デルタ阻害剤で、濾胞性リンパ腫や辺縁帯リンパ腫の治療薬として欧米で承認申請したが、対照試験のエビデンスがなく、既承認の類薬より優れていると信じる理由もないことから当局が難色を示し、取下げに至った。骨髄線維症の第3相試験が行われたが、3月に無益認定された。

リンク: 同社の23Q1決算発表リリース


AT1/ETAブロッカーのFSGS試験がフェール
(2023年5月1日発表)

Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)はブリストル マイヤーズ スクイブからライセンスしたアンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のデュアル・アンタゴニスト、sparsentanをIgA腎症治療薬として開発し、2月に米国で加速承認を取得したが、FSGS(巣状分節状糸球体硬化症)の第3相はフェールした。8~75歳の371人の原発性患者371人を組入れて第108週のeGFR(推算糸球体濾過量)をirbesartanと比較したところ、数値は若干良かったが有意水準には達しなかった(5.4mL/min/1.73m2対5.7ml/min/1.73m2)。会社側は承認申請に向けて承認審査機関と相談する構え。

同社はこの試験の36週時点におけるタンパク尿減少データに基づき加速承認を試みたが、FDAが認めなかった経緯がある。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


BMS、Reblozylを一次治療に承認申請
(2023年5月1日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはActRⅡB融合蛋白、Reblozyl(luspatercept-aamt)を低中度リスク骨髄異形成症候群(MDS)の成人の貧血治療に用いる時のESA(赤血球生成刺激剤)不応不耐限定を解除すべく欧米で承認申請し受理された。米国は優先審査を受け、審査期限は8月28日。

エビデンスは第3相COMMANDS試験。ESA歴を持たない成人のvery low/low/intermediateリスクの輸血依存MDSを組入れて、赤血球輸血なしでヘモグロビン矯正に成功する奏効率をESAと比較したところ、有意に上回った(データは未公表)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


アセンディス、副甲状腺ホルモン補充療法薬は審査完了に
(2023年5月1日発表)

アセンディス・ファーマ(Nasdaq:ASND)はTransCon PTH(palopegteriparatide)を副甲状腺ホルモン欠乏症の治療薬として22年に欧米で承認申請したが、米国は審査完了通知を受領した。4月に会社側が審査状況をアップデートしていたため意外な結果ではないが、今回、薬剤含有量の変動を抑えるため施策に関してFDAが懸念を持っていることが明らかになった。同社はFDAとミーティングを持つ予定。

デンマーク本社のアセンディスは体内で内在性ホルモンに変換されるプロドラッグとキャリアをリンカーで繋いで作用を長期化する技術を持っており、21~22年にSKYTROFA(lonapegsomatropin-tcgd)が成長ホルモン欠乏症用薬として欧米で承認された。これら二剤は日本でも第3相段階。

リンク: 同社のプレスリリース


ノボ、画期的血友病治療薬が承認されず
(2023年5月4日発表)

ノボ ノルディスクはNN7415(concizumab)をインヒビターを持つA型/B型血友病の出血予防薬として米日などで承認申請したが、FDAからは審査完了通知を受領した。適切な投与を担保するための施策や生産プロセスに関する指摘があった模様だ。

第3相試験では12歳以上の血友病患者133人を一日一回皮下注する予防群と出血時に投与する治療群に2対1割付けして出血頻度を比較したところ、平均年率は各1.7と11.8、メジアン値は0と9.8となり、有意な差があった。試験中に非致死的血栓性イベントが3例発生しFDAが治験停止命令を発出したこともあったが、開始用量や同時使用薬の用量制限などを改訂した後は1例も発生しなかったようだ。中外/ロシュのHemlibra(emicizumab-kxwh)も同様な経緯を持つので、この件がボトルネックになったとは考えにくいが、これらの制限を順守させるための施策に向上の余地があったのかもしれない。

concizumabはTFPIを標的とする抗体。活性化第VII因子と組織因子複合体による第X因子の活性化をTFPIが妨げるのを阻止する。ペン型の皮下注用ディバイスで投与する。

リンク: 同社の1Q決算発表リリース

【承認】


初の高齢者用RSVワクチンが承認
(2023年5月3日発表)

GSKはFDAがArexvyを60歳以上のRSウイルス感染症予防用ワクチンとして承認したと発表した。業界全体に開発が難航したが、NIH(米国立医療研究所)の研究者らがRSVが宿主細胞に結合する前の構造を解明したことがエポック・メイキングとなり急進捗、遂に第1号が実用化に漕ぎつけた。5月にACIP(ワクチン接種諮問委員会)で接種勧告の当否や範囲が検討される見込み。

第3相試験ではワクチン群のRSV性下部気道感染症罹患が12466人中7人、偽薬群は12494人中40人で、ワクチン効率は82.6%(96.95%信頼区間57.9-94.1)だった。NNTを試算すると400人程度に接種すると一人を救うことができることになる。重症化リスク因子を持つサブグループにおけるワクチン効率も94.6%と高く、NNTは300人程度と試算される。

ファイザーの製品も承認審査中で今月中に承認されそうだ。どちらも一回筋注用で、GSKの製品はRSV-Aの宿主細胞結合部位の結合前構造(PreF3)が抗原でサボニン・ベースのAS01Eアジュバントにより免疫原性を高めている。ファイザーの開発品はRSV-AとRSV-BのPreF3をカバーする二価ワクチンでアジュバントはない。効果の違いは明らかではなく、公衆衛生関連の人たちは細かいことは気にせず接種せよという姿勢を取りがちなので、今後も議論されないだろう。上記治験成績の観察期間は1シーズンだけで、効果が何年続くかは不明。GSKの第3相は3年間毎年接種する群と初年度だけの群のRSV性下部気道感染症リスクも検討しており、報道によると、ACIPの頃には2年目のデータが判明する見込みだ。結果次第で価格も変わってくる模様(毎年接種なら高量インフルエンザワクチン並みの60ドル前後、2年持つならShingrix並みの185ドル前後など)。

リンク: GSKのプレスリリース


夜中に起きなくてもよいナルコレプシー治療薬が承認
(2023年5月1日発表)

Avadel Pharma (Nasdaq:AVDL)はFDAがLumryz(sodium oxybate)をナルコレプシー患者の脱力発作/過度の眠気の治療薬として承認したと発表した。活性成分はJazz PharmaceuticalsがXyremや新製剤のXywavとして販売しているが、就寝前と夜中に服用する必要がある(実際には目が覚めずに服用しないケースも多いのかもしれないが)。Lumryzは管理放出製剤で一日一回、就寝前に服用すれば足りる。Xyrem/Zywavは22年売上高が約20億ドルの大型製品なので侵食の余地は大きそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


植物細胞培養型ファブリー病治療薬がEUで承認
(2023年5月5日発表)

Protalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)とChiesi Groupの希少疾患子会社は、EUがPRX-102(pegunigalsidase alfa)を成人のファブリー病治療薬として承認したと発表した。Protalixの技術を用いて、細菌や動物細胞ではなく植物細胞にPEG化アルファ・ガラクトシダーゼ-A酵素の遺伝子を導入、発現させたもの。臨床試験では既存製品と効果が非劣性だった。EMAは2月にCHMPの結果を公表した時に製品名をElfabrioと記していたが、両社の今回のリリースには記されていない。

米国でも承認申請中だが第3相の12ヶ月追跡データだけでなく2年追跡データも追加提出したためEUより遅れ、審査期限は5月9日となっている。

リンク: 両社のプレスリリース


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:

  • 23年5月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
  • 23年5月 ファイザーのPF-06928316(60歳以上のRSVワクチン)
  • 23年5月 Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、心不全)
  • 23/5/10 大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、アルツハイマー型認知症のアジテーションに適応拡大)
  • 23/5/12 ByondisのSYD985(vic-trastuzumab duocarmazine、her2陽性乳癌)
  • 23/5/19 Krystal BiotechのVyjuvek(beremagene geperpavec、栄養障害型表皮水疱症)
  • 23/5/21 アッヴィのepcoritamab(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫3次治療)
  • 23/5/22 アステラス製薬のESN364(fezolinetant、閉経期血管運動神経症状)
  • 23/5/22 Blueprint MedicinesのAyvakit(avapritinib、緩徐全身性肥大細胞腫に適応拡大)
  • 23/5/23 ImmunityBioのAnktiva(BCG不応ハイグレード筋層非浸潤性膀胱癌)
  • 23/5/29 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/5/29 Entasis Therapeuticsのsulbactam-durlobactam(アシネトバクター感染症)


諮問委員会:

  • 23/5/9-10 NPDAC・ORUDAC共同会議:Perrigoの避妊薬Opill(norgestrel)のOTCスイッチ
  • 23/5/11 PADAC:ARS Pharmaceuticalsのエピネフィリン点鼻スプレイ(アナフィラキシー治療薬)
  • 23/5/12 CTGTAC:Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/5/18 VRBPAC:ファイザーのAbrysvo(妊婦接種による新生児RSV予防用ワクチン)
  • 23/5/19 GIDAC:Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)



今週は以上です。