2022年10月30日

第1074回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • TREM-1阻害剤が危機的COVID-19試験で良績 
  • コミナティの市場価格は110~130ドル? 
  • その他の領域: 
  • アルナイラム、薬価規制を恐れて遺伝病臨床試験を見送り 
  • FDAがlurbinectedinの承認を取り消さない理由 
  • アストラゼネカ、乳癌二新薬のデータを発表 
  • ノバルティス、PNH治療薬の第3相が成功 
  • バビースモの静脈閉塞症試験が成功 
  • GSK、抗GM-CSF抗体のリウマチ試験は期待外れの結果に 
  • ファセンラの好酸球性食道炎試験は案外な結果に 
  • 代謝性アシドーシス試験がフェール 
  • CD3・CD20二重特異性抗体を欧米で承認申請 
  • 解離性ステロイドをDMDに承認申請 
  • 抗IL-13抗体をアトピーに承認申請 
  • BMS、心ミオシン阻害剤の適応拡大を申請 
  • マイクロバイオーム療法の承認申請が受理 
  • FDA諮問委員会、透析期腎性貧血にはダプロデュスタットを支持 
  • FDA諮問委員会、Y-mAbsの新薬の承認を支持せず 
  • D型肝炎用薬、米国では承認見送り 
  • BCMAとCD3の二重特異性抗体が米国でも承認 
  • アストラゼネカの抗CTL抗体が承認 
  • リンヴォックがnr-axSpAに適応拡大 
  • EUもJAK阻害剤の適応縮小へ 
  • PRAC、ステラーラに曝露した胎児の出生後生ワクチン接種を警告 



【COVID-19関連】


TREM-1阻害剤が危機的COVID-19試験で良績
(2022年10月25日発表)

フランスのInotrem社は、フランス政府の補助を受けて実施しているLR-12(nangibotide)の第2相危機的COVID-19試験の結果をEuropean Society of Intensive Care Medicineの年次総会で発表した。数値上の延命効果は大変高く、欧米の承認審査機関と今後を相談する考え。

LR-12は免疫細胞が発現するTREM-1(Triggering receptor expressed on myeloid cells 1)の第94-105アミノ酸の合成ペプチド。レガンドに結合してTREM-1が調停する免疫の異常活性化を抑制する。先日、敗血症ショックの後期第2相試験の成功が発表された(数値は未公表)。

今回のESSENTIAL試験はICUに入室し換気補助を受けている患者を組入れて、1mg/kg/時の連続点滴静注を最大5日間施行し、標準療法だけの群と転帰を比較した。当初は730人を組入れる第2/3相試験という位置付けだったが、危機的患者の減少により、目標症例数220人の第2相に衣替えされた。

主評価項目の28日臨床症状(7点序数による評価)はp=0.040と有意な差があった。副次的評価項目の28日死亡は相対リスク削減率が43%でp=0.030、絶対リスク削減率は12%と大きな差があった。

現時点では良く分からない点が多い。小規模な試験なので患者背景に偏りがあるかもしれない。p値は十分に低いとは言えず、この試験一本だけでは心許ない。臨床症状序数を主評価項目とするCOVID-19試験が成功するのは珍しく、死亡率でこんなに大きな差が出ることもあまりない。

リンク: 同社のプレスリリース


コミナティの市場価格は110~130ドル?

COVID-19感染症の脅威が緩和しつつある中、現在は欧米日などの政府が一括購入し国民の負担なしで提供しているワクチンや医薬品の有償化が現実のものになりつつある。米国は連邦議会が予算を認めなかったため、政府在庫が無くなった段階で民間調達に変わる見込みだ。

各種報道によると、ファイザーは、BioNTechと共同開発販売しているCOVID-19ワクチンについて、5倍程度の値上げを検討している模様。現在は、全人類の敵と戦う道義的な観点や、発注量が大きく医療施設などへの配送料がかからずバイアル1瓶に複数回分を纏めていることなどによる費用節減を踏まえて、米国の場合で一回分を20~30ドルで契約しているが、民間向けは110~130ドルとすることを検討している。4価インフルエンザ・ワクチンより1~3割高い。子宮頸癌や髄膜炎の予防用ワクチンよりは安いが、毎年接種することになるだろうから、負担は小さいとは言えない。

米国は公的・民間医療保険が負担する見込みだが、ワクチンを重視していない国では自己負担率3割として4000~6000円、プラス診療報酬、そして場合によっては保険証のマイナンバーカード統合に伴う上乗せを自己負担することになる。

モデルナは、9月の投資家向けプレゼンテーション・ミーティングで、民間向け価格を64~100ドルと前提して市場規模を試算していた。Comirnatyのほうが高いが、二社分の利益を稼がなければならないお家の事情があるようだ。実際は、コミナティが120ドルならスパイクバックスも120ドルに設定されるだろう。


【今週の話題】


アルナイラム、薬価規制を恐れて遺伝病臨床試験を見送り
(2022年10月27日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、2022年第3四半期決算発表会で、年内に開始する予定だったAmvuttra(vutrisiran)の第3相スタルガルト病適応拡大試験を見送ると発表した。理由は米国でInflation Reduction Act(IRA:インフレ抑制法)が成立したこと。2026年以降、メディケアが支出金額上位の処方薬に関してメーカーと価格交渉を行うことが決まったが、適応が一つの希少疾患だけである薬は対象外であるため、適応拡大しないほうが有利になる。

Amvuttraはトランスサイレチン型家族性アミロイドーシス(hATTR)患者のポリニューロパチーを治療するRNA介入薬。今年6~9月の間に米日欧で承認された。遺伝性ではないATTRアミロイドーシスも含む心筋症治療試験が進行中で24年始めに成否が判明する見込み。成功すれば対象患者数が5倍増することになる。それでも世界で25万人程度と希少疾患であることに変わりはない。

スタルガルト病は黄斑ジストロフィーの一種で失明のリスクがある。多くの場合、網膜の黄斑が強い光を受けた時に生じる有害代謝物の移送に必要なABCA4が欠乏する、常染色体性劣性遺伝がある。こちらも希少疾患だ。

米国で年46万ドルと、希少疾患用薬なので超高価だが、適応拡大しても例えばPD-1/PD-L1阻害剤やTNF阻害剤ほど超大型化するようには思えない。おそらく、薬価規制を強化するなら研究開発を縮小するぞと抗議するのが狙いなのだろう。

何れにせよ、この会社が難病で苦しむ人よりも自社の将来の利益を最優先していることが明確になった。

リンク: 同社のプレスリリース


FDAがlurbinectedinの承認を取り消さない理由
(2022年10月25日発表)

加速承認された薬の市販後薬効確認試験がフェールする事例が増えており、FDAは、特に抗癌剤について、メーカーに承認返上を促すなど対応を強化している。そんな中、FDAがZepzelca(lurbinectedin)の加速承認取消しを求めた市民請願を却下したことが明らかになった。請願したFoley Hoag, LLPに対する最終回答書が公開されたため。理由も記されており、FDAが即時退場のラインをどこに置いているのか、推測する上で参考になる。

ZepzelcaはスペインのPharmaMar(Madrid:PHM)が創製したポリメラーゼII阻害剤。日本では大鵬薬品が販売しているYondelis(trabectedin)の誘導品だ。Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)が米国における開発販売権を取得、20年6月に、第2相試験のcORR(確認客観的反応率)に基づき、白金薬歴を持つ転移小細胞性肺癌用薬として加速承認を取得した。

加速承認の場合、市販後に改めて薬効確認試験を行い、延命またはそれに準じる効果を確認する必要があるが、承認されている用途・用法で偽薬対照試験を行うのは医療倫理に反する可能性があり、そもそも、被験者が集まらない。このため、かっては新興企業を中心に責務を果たさない『加速承認の食い逃げ』が散見された。対策として、FDAの腫瘍学薬担当部門は、加速承認の段階で薬効確認試験の組入れが5割以上完了していることを求めるようになった。その結果、食い逃げは減ったが、治験がフェールしても承認を返上しない『居座り』が散見されるようになった。

Zepzelcaの事例では、小細胞性肺癌二次治療doxorubicin併用実薬対照試験が実施されたが、全生存期間のハザードレシオが0.967と、CAV三剤併用レジメン又はtopotecan単剤を用いた対照群と有意な差がなかった。

しかし、FDAは、メーカーに承認返上を求めず、別の試験の結果が25年頃に判明するのを待つ姿勢を示した。理由は、加速承認されている用量用法(3.2mg/m2を3週毎に単剤投与)とは異なる、2mg/m2を3週毎にdoxorubicinと併用投与をテストしていること。フェールしたのは用量が足りなかったのかもしれないし、doxorubicinの毒性が治療の妨げになった可能性も考えられる。

だが、このような違いは市販後薬効確認試験ではごく一般的であり、成功すれば、用量用法が追加承認されるとともに、加速承認が本承認に切り替わる。フェールした時だけ違いを主張するのは片面的な印象だ。

尤も、今回の試験は実薬対照試験である。非劣性試験ではないので効果が確立したとは言えないが、ダメダメのようには見えない。また、新たな市販後薬効確認試験は3.2mg/m2単剤群と2.0mg/m2とirinotecanの併用群を標準療法と比較しており、加速承認の内容を直接検証することができる。結果が判明するのは3年後だが、加速承認の5年後というタイムスパンは特に遅いわけではないだろう。

結局のところ、加速承認返上が直ぐ求められるか否かは、メーカー側の意欲や誠意にも依るのだろう。

リンク: FDAのFoley Hoag, LLPに対する最終回答


【新薬開発】


アストラゼネカ、乳癌二新薬のデータを発表
(2022年10月26日発表)

アストラゼネカは、乳癌用薬として開発しているAKT阻害剤の第3相試験と、SERD(選択的エストロゲン受容体零落剤)の第2相直接比較試験の成功を発表した。主評価項目はPFS(無進行生存期間、治験医評価)なので、一抹の不安もあるが、遅かれ早かれ全生存期間も明らかになるだろう。

AZD5363(capivasertib)は05年にAstex(現在は大塚製薬グループ)などと締結したATKを標的とする創薬開発販売提携の成果。エストロゲン受容体陽性転移性乳癌の5割程度で異常活性化しているPI3K/AKT/PTEN経路に介入する。PI3K阻害剤は既に実用化されているが、川下のAKTを阻害したほうが副作用が小さくなる可能性もあるようだ。それでも反復投与に懸念があるのか、一日二回経口投与を4日続けて3日休む週休三日制が採用されている。

複数の第3相が進行しているが、今回、CAPItello-291試験のトップラインが判明した。局所進行性または転移性のホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌で、アロマターゼ阻害剤歴を持つ患者を組入れて、SERDのFaslodex(fulvestrant)に追加する効果を偽薬追加と比較した。主評価項目は全集団のPFSと、被験者の4割を占めるよう組入れたPI3KCA/AKT1/PTENに特定の変異を持つサブグループのPFS。全生存期間は未成熟だが好ましい数値が出ているようだ。どちらも数値は未公表。

AZD5363は前立腺癌でも第3相試験中。

AZD9833(camizestrant)は次世代SERD。経口投与できる。第3相は乳癌一次治療CDK阻害剤併用試験や、アロマターゼ阻害剤とCDK阻害剤による一次治療を受けていて進行はしていないがESR1変異が生じた患者のスイッチ試験が進行中。今回の第2相SERENA-2試験は閉経後エストロゲン受容体陽性局所進行/転移乳癌で進行転移後に内分泌薬歴を持つ患者を組入れてPFSをFaslodexと比較した。統計的にも臨床的にも有意に上回ったとのことで、次世代品という呼び名が誇張ではない可能性を示唆した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(CAPItello-291試験)
リンク: 同(SERENA-2試験)


ノバルティス、PNH治療薬の第3相が成功
(2022年10月24日発表)

ノバルティスは、LNP023(iptacopan)の第3相発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療試験が成功したと発表した。もう一本の結果を待って23年に承認申請する考え。

PNHの治療はC5補因子に対するアレクシオン・ファーマシューティカルズの抗体医薬、Soliris(eculizumab)とUltomiris(ravulizumab)が用いられている。LNP023は血液凝固カスケードでC5より上流で機能する補因子Bを阻害する。

今回のAPPLY-PNH試験は抗C5抗体に十分応答しない成人患者97人をLNP023群(200mgを一日二回、経口投与)と抗C5抗体継続群に8対5無作為化割付して非盲検下でヘモグロビン値の変化を比較した。主評価項目は24週後の二種類の奏効率。一つはヘモグロビン値が2g/dL以上上昇かつ輸血無し、もう一つは12g/dL以上で持続的に推移し輸血無しを奏効と定義した。データは未公表。安全性は良好だった模様。

今回は言わば二次治療試験だが、初めて薬物治療を受ける患者の第3相単群試験、APPOINT-PNHも進行中。15年の市販歴を持つ抗C5抗体の一次治療におけるシェアを奪うためには直接比較試験にしたほうが良いが、経口剤なので、需要はあるだろう。

抗C5抗体は多くの適応を持つ。LNP023もC3糸球体症やIgA腎症、溶血性尿毒症症候群の第3相が進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


バビースモの静脈閉塞症試験が成功
(2022年10月27日発表)

ロシュはVabysmo(faricimab)の第3相網膜中心静脈閉塞症黄斑浮腫試験と網膜静脈分岐閉塞症試験が成功したと発表した。網膜浮腫の治療効果がリジェネロン/サノフィのEylea(aflibercept)と非劣性だった。適応拡大申請する予定。

Angiopoietin-2とVEGF-Aに結合する二重特異性抗体で、22年に米日欧で糖尿病性黄斑浮腫と血管新生加齢黄斑変性の治療薬として承認された。米国の承認用法は月一回、硝子体注射して、5回目からは網膜の状態に応じて1~4ヶ月に一回投与するというもので、VEGFだけに結合する薬より回数が少なくて済む可能性がある。

今回の試験は両群とも月一回投与なので、これだけではVabysmoの長所が感じられない。

リンク: ロシュのプレスリリース


GSK、抗GM-CSF抗体のリウマチ試験は期待外れの結果に
(2022年10月27日発表)

GSKはGSK3196165(otilimab)の第3相試験三本のうち二本が成功したが期待したほどではなかったことを明らかにした。承認申請は見送る。

13年にドイツのMorphoSys(FSE:MOR)からライセンスした、GM-CSFに結合するHuCAL抗体。第3相は中重度リウマチ性関節炎のうちMTXに応答不十分/不耐を対象とするContRAst-1試験と伝統的治療薬またはバイオ薬に応答不十分/不耐のContRAst-2試験、そしてバイオ薬やJAK阻害剤に応答不十分/不耐のContRAst-3試験で、90mgあるいは150mgを週一回皮下注する効果を偽薬と比較した。最初の二本は主目的である第12週ACR-20を達成したが、おそらく、ファイザーのJAK阻害剤Xeljanz(tofacitinib)を投与した群やサノフィの抗IL-6受容体アルファ抗体Kevzara(sarilumab)を投与した群と見比べて有望ではなかったのだろう。また、新薬の一番の出番であるバイオ薬/JAK阻害剤応答不十分/不耐に効果が見られなかったことも痛い。

リンク: 同社のプレスリリース


ファセンラの好酸球性食道炎試験は案外な結果に
(2022年10月25日発表)

アストラゼネカはFasenra(benralizumab)の第3相好酸球性食道炎試験、MESSINAの成否を公表した。共同主評価項目のうち、患部における好酸球数を抑制する効果は確認されたが、おそらく一番重要な、嚥下障害を改善する効果は確認されなかった。

協和キリンのBioWaからライセンスした抗IL-5受容体アルファ鎖ポテリジェント抗体で、17~18年に米日欧で重度好酸球型喘息症治療薬として承認された。GSKの、受容体ではなくIL-5を標的とするNucala(mepolizumab)と似ているが、適応拡大にてこずっている印象があり、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(Nucalaの適応の一つ)は承認申請に到達したが、今年3月にFDAから審査完了通知を受領した。

今回の試験は12歳以上の症候性患者210人を組入れて30mgを4週毎に24週間、皮注する効果を偽薬と比較した。病理学的寛解率(顕微鏡生検でピーク時好酸球数が高倍率視野当り6個以下だった患者の比率)は偽薬を有意に上回ったが、食道炎の主訴の一つである嚥下障害症状(患者自身が評価)はフェールした。

この用途はNucalaは承認されていない。リジェネロン・ファーマシューティカルズの抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)に任せることになる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


代謝性アシドーシス試験がフェール
(2022年10月24日発表)

Tricida(Nasdaq:TCDA)は、TRC101(veverimer)の第3相代謝性アシドーシス試験がフェールしたと発表した。資金不足により繰上げ完了された経緯があるが、検出力の問題ではなく点推定値自体が偽薬と大差なかった。

最初の第3相試験で血中重炭酸値が偽薬比有意に減少し、身体機能も有意に改善したことから、同社は19年に加速承認を求めたが、FDAは臨床的便益が確立していないことや海外データの外挿性などに疑問を持ち、審査完了通知を発出した。同社は腎臓死・透析期腎疾患・EGFR40%低下の複合評価項目を主目的とするVALOR-CKD試験をロンチしたが、ハザードレシオ0.99、26.7ヶ月の追跡期間中の発生率が年9.9%(偽薬群は同9.8%)と、フェールした。

偽薬群も血中重炭酸値が改善した模様。結局、加速承認の根拠となり得るようなサロゲート・マーカーではないということなのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


CD3・CD20二重特異性抗体を欧米で承認申請
(2022年10月28日発表)

アッヴィはジェンマブが創製したDuoBody-CD3xCD20(epcoritamab)を欧州で承認申請し受理されたこと、及び、米国ではジェンマブが承認申請したことを発表した。難治再発大細胞型B細胞リンパ腫(欧州はこのうちびまん性のもの)の3次以降の治療に用いる。

第2相試験でメジアン3治療歴を持つ大細胞型B細胞リンパ腫157人に投与したところ、cORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が63.1%、完全反応率は39%、メジアン反応持続期間は12ヶ月だった。G3サイトカイン放出症候群の発生率は2.5%、G4やG5は発生しなかった。治療関連有害事象による死亡は1例(クラス・イフェクトである免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群によるもの)。

両社のすみわけは、日米は共同、それ以外はアッヴィが開発販売する。

リンク: アッヴィのプレスリリース


解離性ステロイドをDMDに承認申請
(2022年10月27日発表)

スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)と米国のReveraGen BioPharmaは、vamoroloneをデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として欧米で承認申請したことを明らかにした。米国はローリング承認申請を完了。欧州は9月に申請していた。

DMDの治療ではしばしばステロイドが用いられる。vamoroloneはReveraGenからライセンスした解離性ステロイドで筋骨格系副作用が小さいとされる。

欧州の歩行可能な少年121人(平均年齢5歳)を組入れで24週間治療し仰向けから起立するまでの時間を検査した後期第2相試験では、6mg/kg/日投与群が6.0秒から4.6秒に改善した一方、偽薬群は5.4秒から5.5秒とほとんど変わらなかった。治療効果は0.06起立/秒、p=0.002だった。副次的評価項目である2mg/kg/日群の治療効果も0.04起立/秒、p=0.017。あまりピンとこないが、見慣れた評価指標である6分歩行テストでは各用量の治療効果が42メートル(p=0.003)と37メートル(p=0.009)だった。

リンク: 両社のプレスリリース


抗IL-13抗体をアトピーに承認申請
(2022年10月28日発表)

スペインのAlmirallは、lebrikizumabをEMA(欧州薬品庁)に中重度アトピー性皮膚炎用薬として承認申請したと発表した。12歳以上の患者に2週毎皮下注した第3相試験二本で、16週EASI75達成率が一本では59%(偽薬群は16%)、もう一本では51%(同18%)だった。共同主評価項目のIGA奏効率も各43%(13%)と33%(11%)。有害事象は結膜炎が若干増加したのが特徴的。

ジェネンテックが創製した抗IL-13抗体。喘息症で第3相に進んだが増悪抑制効果が不十分で開発を中止し、17年にDermira(20年にイーライリリーが買収)に導出、Almirallは欧州における開発販売権をサブライセンスした。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、心ミオシン阻害剤の適応拡大を申請
(2022年10月21日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブはCamzyos(mavacamten)を閉塞性肥大性心筋症(oHCM)患者におけるSRT(中隔縮小治療)代替的治療法として米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。審査期限は来年6月16日。

今年4月に米国で成人のNYHAクラスII-IIIのoHCM治療薬として承認された、心臓ミオシン選択的可逆的アロステリック・インヒビターで、エビデンスとなるEXPLORER-HCM試験ではNYHA分類の改善且つ又心肺運動負荷試験の成績の改善が見られた。

今回のエビデンスは第3相VALOR-HCM試験。米国で年1500件施行される、心筋切除/エタノール焼灼術が適応になるまたは本人が望んだoHCM患者112人を組入れて、治療にも関わらずSRTが決定した、あるいは16週経過時点でも適応外にならなかった患者の比率を偽薬と比較したところ、各群18%と77%となり有意な差があった。但し、差があったのは専ら、適応外にならなかった患者の比率であることに留意したい。副次的評価項目のNYHA機能分類改善でも有意な差があった。

この薬は左心駆出率が一時的に低下することがあり、用量漸増だけでなく小まめな調整が必要。本試験でも試験薬群で2名が50%未満に低下、用量調整した。

リンク: 同社のプレスリリース


マイクロバイオーム療法の承認申請が受理
(2022年月日発表)

Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)はSER-109の承認申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年4月26日。ネスレ・グループのAImmune Therapeuticsが販売する予定。

健常者ドナーの腸から採取したファーミキューテス門(Firmicutes)細菌の芽胞を精製、エタノール処理して経口カプセル化した、マイクロバイオーム(微生物叢)療法。難治性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)を抗生剤で治療した後に、再燃予防目的で一日一回、3日間投与する。

第3相のECOSPOR III試験では、8週間内に再燃した患者の比率が12%と偽薬群の40%を大きく下回った。24週間追跡でも各21%と47%だった。深刻有害事象発生率は各7.8%と16.3%と数値上少なかった。試験薬群では投与の15~164日後に3人(3%強)が膠芽腫、血腫、敗血症により死亡したが、試験薬との関連はないと判定された。偽薬群の死亡はゼロだった。

安全性データを充実させるために実施されたECOSPOR IV単群試験では、8週内再燃比率が8.7%だった。フェールした第2相と同様にPCRに基づくCDAI診断を認めていたはずだが、遺伝子ではなく生きた細菌が分泌する毒素の検査に基づきスクリーニングしたECOSPOR III試験と大差ない数値になっている。安全性に関しては、ACG(米国消化器病学会)年次会議の抄録によると、治療時発現深刻有害事象の発生率は7.6%、死亡は6人(2.3%)だったが、いずれも試験薬との関連は無いと判定された。

似たような薬では、スイスのFerring Pharmaceuticalsが18年に子会社化したRebiotixの糞便移植療法、Rebyotaが9月に諮問委員会の支持を受けた。承認申請は昨年11月なのでこちらが先に承認されるかもしれない。臨床試験の主評価項目は奏効率(8週間に亘りCDIによる下痢が発生しない)でSER-109と異なるが、70%と偽薬群の58%を上回った。この試験でも死亡者が18人と偽薬群のゼロを上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、透析期腎性貧血にはダプロデュスタットを支持
(2022年10月27日発表)

HIF-PH阻害剤は日本や欧州で腎性貧血治療薬として承認されているが、FDAは安全性に懸念を持っており承認していない。GSKのGSK1278863(daprodustat)も日本では20年に透析期又は保存期の腎性貧血症治療薬として承認されたが、欧米は申請が2年以上遅れ、まだ審査中だ。FDAが心臓腎臓薬諮問委員会に意見を求めたところ、透析依存患者については16人中13人が便益や危険を上回ると判定したが、非透析依存患者に関しては5人だけで残りは全員、上回るとは言えないと回答した。

標準療法である赤血球造血刺激因子製剤(ESA)は静注用なので経口剤であるHIF-PH阻害剤のほうが簡便だが、透析を受けている患者は一緒に投与できるので大きな支障はなく、どちらかと言えば保存期患者向きだろう。諮問委員会が透析患者のみ支持したのは、市場性とミスマッチだ。

ボトルネックとなったのは二点。心血管安全性確認試験ではESA比でリスクもヘモグロビン矯正効果も非劣性だったが、心不全入院や胃出血が数値上増加した。非透析患者を組入れた試験では、更に、一部の心血管疾患や急性腎障害が増加する兆しが見られ、特に、米国施設のデータが良好とは言えなかった。

データを見ても酷いとは感じないが、ESA自体がリスクを持っているので、それを更に上回る可能性が否定できないことをFDAや諮問委員は懸念しているのだろう。だが、もしそうなら、どのようなメカニズムで保存期患者に害を与え透析期患者には問題ないのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


FDA諮問委員会、Y-mAbsの新薬の承認を支持せず
(2022年10月28日発表)

FDA腫瘍学薬諮問委員会は、Y-mAbs Therapeutics(Nasdaq:YMAB)が神経芽腫の中枢神経転移治療薬として承認申請したI-131標識抗B7-H3マウス抗体、8H9(omburtamab)を検討、16人の委員全員が薬効の挙証不十分と判定した。FDAの見解が追認されたため、審査期限である11月30日までに、審査完了通知が発出される可能性が高い。

難病小児の親が新薬を探して承認まで漕ぎ着いた事例はJohn Crowley(アミカスセラピューティクス会長兼CEO)が有名だが、Y-mAbsの会長兼創業者兼社長のThomas Gadの令嬢も、2歳で神経芽腫と診断されて以来、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)が開発していた抗GD2抗体や再発後にはomburtamabの投与で十年経った今も良好な健康状態にあるとのことだ。Y-mAbsは2020年に前者の改良版であるDanyelza(naxitamab-gqgk)の承認を取得。今年3月には8H9の承認申請を断行した。

しかし、FDAは初めから承認申請に後ろ向きだった。エビデンスがMSKCCにおける第1相試験のみで、延命効果はドイツの患者登録との事後的比較に基づく。転移治療なので手術や放射線療法、化学療法を受けた患者が多いが、年代や地域が異なるせいか、事前治療の集中度に偏りがあり、FDAがそれを調整して分析したところ、ハザードレシオは1.02で有意ではなかった。また、ORR(客観的反応率)が評価対象ではなかったため、事前治療の効果と分別することができない。

小児癌や脳腫瘍では今日でも偽薬対照ではない試験が多いが、その分、ノイズを除去し厳格かつ多面的に評価する必要性を示す、反面教師になってしまった。

リンク: 同社のプレスリリース


D型肝炎用薬、米国では承認見送り
(2022年月日発表)

ギリアド・サイエンシズは、22年第3四半期決算発表会で、Hepcludex(bulevirtide)の審査完了通知をFDAから受領したことを明らかにした。成人の代償性デルタ型慢性肝炎の治療薬として承認申請していたが、生産体制や薬剤のデリバリーに関する指摘を受けた。追加臨床試験は不要な模様であり、速やかに対応する考え。

NTCP(ナトリウム・タウロコール酸共輸送体ポリペプチド)阻害剤で、D型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスが幹細胞のNTCPに結合し細胞内に侵入するのを妨げる。24時間毎に皮注する。21年にドイツのMyr社を買収して入手した。EUでは20年7月に条件付き承認されており、米国でも早晩承認されるのではないか。

リンク: 22Q3決算発表会における口述(6-7ページに記載)

【承認】


BCMAとCD3の二重特異性抗体が米国でも承認
(2022年10月25日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Biotechが申請したTecvayli(teclistamab-cqyv)を加速承認した。難治/再発多発骨髄腫用薬で、プロテアソーム阻害剤と免疫調節剤及び抗CD38抗体を含む4次以上の治療歴のある患者が適応になる。欧州では8月に承認されたが、対象は、エビデンスとなる臨床試験の組入れ条件と同じ、3次以上の治療歴を持つ患者だった。FDAが適応を絞ったのは、薬効解析対象110人のうち78%は4次以上の治療歴を持ち、メジアン値は5次だったためだろう。同社のCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)も、日欧では3次治療歴以上だが米国では4次治療歴以上となっている。

Tecvayliは癌化した形質細胞のBCMAに結合する部位とT細胞のCD3に結合する部位を持つ二重特異性抗体。上記110人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)は61.8%、反応者の90.6%は6ヶ月以上持続した。CarvyktiはBCMAに結合する部位をT細胞に導入したCAR-T療法で、似ている。Tecvayliの特徴は、患者のT細胞を採取して処理するための準備期間が不要なこと、反応率は見劣りすること、但し重度のサイトカイン放出症候群や神経学的毒性が少ないこと。

リンク: FDAのプレスリリース


アストラゼネカの抗CTLA4抗体が承認
(2022年10月24日発表)

アストラゼネカは、FDAがImjudo(tremelimumab-actl)とImfinzi(durvalumab)を併用で成人の切除不能肝細胞腫の一次治療に用いることを承認したと発表した。前者はブリストル マイヤーズ・スクイブのYervoy(ipilimumab)と類似したCTLA4に結合する抗体で、非小細胞性肺癌の一次治療Imfinzi併用が先に申請されたが、優先審査バウチャーを用いた今回の適応が初承認となった。

第3相HIMALAYA試験ではImjudoを一回だけ300mg点滴静注、Imfinziは1500mgを4週毎点滴静注したところ、全生存期間がsorfenib群を有意に上回った。ハザードレシオは0.78、メジアン生存期間は各16.4ヶ月と13.8ヶ月、3年生存率は31%と20%だった。この試験ではImfinziだけの群も設定されたが、sorafenib比ハザードレシオ0.86で非劣性だった。尚、少なくとも現時点でImfinzi単剤は承認されていない。

肝細胞腫一次治療はロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevcizumb)の併用も承認されている。sorafenib対照試験の全生存ハザードレシオは0.58だった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


リンヴォックがnr-axSpAに適応拡大
(2022年10月21日発表)

アッヴィは、FDAがRinvoq(upadacitinib)をnr-axSpA(X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の成人の治療に用いることを承認したと発表した。FDAはJAK阻害剤の副作用に懸念を持っており、他の多くの適応と同様に、TNF阻害剤に十分に反応しないまたは不耐の患者だけが対象。EUでは非ステロイド抗炎症薬に反応不十分な患者にも承認されている。日本でも適応拡大申請中。

Rinvoqは一部のリウマチ性関節炎、乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎、強直性脊髄炎、そしてアトピー性皮膚炎にも承認されている

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUもJAK阻害剤の適応縮小へ
(2022年10月28日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの市販後監視委員会、PRACは、リウマチ性関節炎などの治療に用いられているJAK阻害剤5品について、心血管疾患や血栓、腫瘍、深刻感染症の副作用を抑制するための処方制限を勧告した。CHMP(医薬品科学的評価委員会)の検討を経て添付文書に反映される見込み。

内容は、65歳以上の患者、心血管疾患や癌のリスク因子を持っている人、喫煙者や長期喫煙歴のある人は、代替的治療が無い場合にしか使わない。また静脈血栓塞栓リスクのある人には、注意が必要。使う場合は、用量を減らす。

対象は、ファイザーのXeljanz(tofacitinib)とCibinqo(abrocitinib)、ガラパゴス(Euronext: GLPG)/ギリアド・サイエンシズのJyseleca(filgotinib)、イーライリリーのOlumiant(baricitinib)、アッヴィのRinvoq(upadacitinib)。骨髄線維症などの治療に用いられているノバルティスのJakavi(ruxolitinib)やセルジーンのInrebic(fedratinib)は対象外。また、OlumiantをCOVID-19感染症の治療に一時的投与する場合も対象外。

添付文書改訂の動機は、Xeljanzの市販後安全性確認試験と、Olumiantの市販後観察的試験。FDAと同様に、PRACもJAK阻害剤のクラス・イフェクトと判定した。但し、FDAが患者背景を問わずバイオ薬不適に限定しているのと比べると、緩やかな規制に留まっている。

リンク: EMAのプレスリリース


PRAC、ステラーラに曝露した胎児の出生後生ワクチン接種を警告
(2022年10月28日発表)

乾癬や乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎の治療薬であるJanssen-CilagのStelara(ustekinumab)は胎盤を通過するため妊娠中は使用しないほうが良い。PRACは、新たに、曝露した胎児について、出生後6ヶ月間は生ワクチンの接種を行わないよう添付文書で警告するよう勧告した。明らかに必要な場合は、薬剤の血清濃度が探知不能であれば6ヶ月前でも接種可能。

エビデンスは欧州やカナダ、米国などでの観察的研究やメーカー側データである模様。

リンク: 10月のPRAC会合に関するプレスリリース






今週は以上です。

2022年10月21日

第1073回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 日本政府、使えない抗SARS-CoV-2抗体を1600億円以上調達へ 
  • その他の領域: 
  • 遺伝子組換え型プロバイオティクスでフェニルケトン尿症の第3相へ 
  • オプジーボ、黒色腫完全切除後の再発死亡を半減 
  • 点鼻用CaブロッカーのPSVT洞調律試験が成功 
  • rhALPの敗血症性球性腎障害試験が無益中止に 
  • FDA諮問委員会、圧倒的多数が早産予防薬の承認取消に賛成 
  • Minerva、向精神薬の承認申請が受理されず 


【COVID-19関連】


日本政府、使えない抗SARS-CoV-2抗体を1600億円以上調達へ
(2022年10月18日発表)

ロシュは、Ronapreve(casirivimab、imdevimab)の日本における売上高が第4四半期に11億スイスフラン(約1650億円)と急増する見込みであることを2022年第3四半期決算発表会で明らかにした。オミクロン株には無効であることを考えると、税金の無駄遣いと言わざるを得ない。何とかキャンセルできないものだろうか。

RonapreveはRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)が開発した二種類の抗SARS-CoV-2抗体。元々は二本のバイアルに分かれていたが、米国では合剤も承認されている。軽中等症COVID-19患者の重症化抑制や濃厚接触者の曝露後発症抑制に承認され、21年の同社の売上高は58億ドル、米国外で販売するロシュは17億ドルと超大型化した。しかし、オミクロン株には無効であることから、22年の1-6月のRegeneronの売上高は僅少、中外製薬の日本の売上高も1-3月の608億円が4-6月にはゼロだった。ロシュの決算発表によると、7-9月の日本における売上は為替変動の影響もありマイナスとなっている。

このような薬に更に1650億円も払うのは、おそらく、二つの理由があるだろう。既に契約してしまったこと、そして、この薬が有効な株が今後、流行しないとは限らないことだ。だが、この種の契約は開発に成功し承認されることが成立条件であり、現在流行している株に効かないということは、承認されていないことと実質的に大差ない。また、少なくとも現状では、シンガポールなどを除いて、BA.5系統以外のウイルスは大流行の兆し(シェアが10%以上に上昇)を見せていない。

そもそも、オミクロン株は重症化リスクが比較的小さいので、重症化リスクを抑制する薬の価値は低下している。

パンデミックやテロに立ち向かう薬は国家にとって重要であり、開発費を補助するだけでなく、調達価格に成功報酬を上乗せすることも必要だろう。しかし、環境が変わり成功とは言えなくなった現時点ではナンセンスだ。不良在庫になるのが目に見えており、希望者に無償供与することはできないので安倍のマスクより酷い話だ。

リンク: ロシュの3Q決算発表スライド(165頁に記述)

【新薬開発】


遺伝子組換え型プロバイオティクスでフェニルケトン尿症の第3相へ
(2022年10月18日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジのSynlogic(Nasdaq:SYBX)は、第2相PKU(フェニルケトン尿症)試験で好成績を上げたSYNB1934を23年上期に第3相入りさせると発表した。大腸菌Nissle株の遺伝子に装飾を加えたプロバイオティクスで、9人に14日間経口投与したところ、空腹時血漿フェニルアラニン(Phe)がベースライン比34%低下した。

SYNB1934はSYNB1618をベースにPhe消費効率を向上すべく改変したもの。当試験ではSYNB1618も11人に経口投与したが、Phe低下率は20%と数値上、見劣りした。

PKUは飲料や食料に含まれるPheを代謝できず、蓄積する。薬物療法はサントリーが創製したエンザイムコファクター、sapropterinなどが用いられている。当試験ではsapropterin服用者に追加投与した症例でも効果が示された由。

深刻有害事象は発生せず、二群合計で胃腸関係による有害事象で3人、紅潮(アレルギー反応の可能性)で1人が離脱した。

SYNB1934群は9人中5人しか完了しなかったが、主因は記されていない。

リンク: 同社のプレスリリース


オプジーボ、黒色腫完全切除後の再発死亡を半減
(2022年10月19日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブは、Opdivo(nivolumab)の第3相CheckMate-76K試験が成功したと9月に発表したが、具体的な内容をSociety for Melanoma Researchの年次総会で公表した。ステージIIBまたはIICの黒色腫を完全切除した患者を組入れて480mgを4週毎、最長12ヶ月間投与したところ、中間解析でRFS(無再発生存)の偽薬比ハザードレシオが0.42(95%信頼区間0.30-0.59)となり、成功認定された。12ヶ月無再発生存率は89%(偽薬群は79%)で、IIBサブグループでは93%(同84%)、IICは84%(同72%)だった。G3/4治療関連有害事象発生率は10%(同2%)、治療関連有害事象による治験離脱率は15%(同3%)だった。

OpdivoはステージIIIB以上の黒色腫の完全切除後再発予防試験でYervoy(ipilimumab)を凌ぐ効果を示し、米国などで承認されている。ライバルのKeytruda(pembrolizumab)はステージIIIだけでなくIIBやIICでも承認されており、今回のOpdivoに相当するハザードレシオは0.65(95%信頼区間0.46-0.92)と、点推定値が見劣りするものの、信頼区間が重なっているので何とも言えない。

リンク: BMSのプレスリリース


点鼻用CaブロッカーのPSVT洞調律試験が成功
(2022年10月17日発表)

カナダのMilestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)は、MSP-2017(etripamil)の第3相RAPID試験の成功を発表した。PSVT(発作性上室性頻拍)が洞調律に至るまでの時間が偽薬比有意に短かった。安全性確認試験の結果を待って23年央に米国で承認申請する考え。

PSVTは突然頻拍が発生し数分から数時間、続く。多くの場合、深刻ではないが、患者は不快で心配もする。MSP-2017は短期作用性のカルシウム・チャネル・ブロッカーの点鼻スプレー製剤。発症して直ぐには治らなかった時に患者が自己判断で用いる。

最初の第3相、NODE-301はフェールした。洞調律までの時間を偽薬と比較したが、観察期間が5時間と長かったせいか、メジアン値は各群25分と50分で結構違ったが、p=0.12だった。同社は、FDAと相談の上で、この試験の第2部をRAPID試験に模様替えした。主な変更点は、観察期間を30分に短縮したことと、10分経っても収まらない場合はもう一回、スプレーするようにした。

結果は、ハザードレシオが2.62(p<0.001)、洞調律奏効率は各群64.3%と31.2%だった。一本目の試験の同じ評価項目のハザードレシオは1.87(p=0.02)、奏効率は各群54%と35%だったので、似たような結果だ。

二本の試験のプール分析でER入室リスクも有意に低下した。

点鼻薬なので鼻の有害事象が増加したが深刻な薬物関連有害事象は両群大差なかった模様。

リンク: 同社のプレスリリース


rhALPの敗血症性球性腎障害試験が無益中止に
(2022年10月20日発表)

オランダのAM-Pharmaは、遺伝子組換え型ヒトアルカリホスファターゼ(ilofotase alfa、通称recAP)の第3相REVIVAL試験が中間解析で無益認定されたこと、しかし副次的評価項目の一つでは望ましいデータが出たことを発表した。ClinicalTrials.govによると治験は8月に完了しており、その後2ヶ月間、夢をつなぐデータを探し続けたのかもしれない。

小腸型アルカリホスファターゼを改変し半減期を延長したもので、アデノシンA2a受容体経路を活性化し炎症を抑制する作用に着目、敗血症による急性腎障害の改善剤として臨床開発が進められてきた。15年にファイザーが完全子会社化オプションを取得したが第2相がフェールしたため行使しなかった。同社は28日全死亡が偽薬比39%少なかったことに注目、19年にベンチャー・キャピタルなどから1億ユーロ超の資金調達を行い第3相を開始、21年には協和キリンに日本での独占開発販売権を供与するなど、リバイバルを図った。

REVIVAL試験は1400人を偽薬群または1.6mg/kgを一日一回、1時間点滴静注する群に無作為化割付して28日全死亡を比較する予定だったが、400人の中間解析でデータ監視委員会が無益認定した。良好なデータが出たのは、本試験の567人と、別途組み入れられた、敗血症による急性腎障害を合併したCOVID-19患者33人および中重度慢性腎疾患患者49人、総計649人における、90日主要有害腎臓イベント(MAKE90)。偽薬群は65%、試験薬群は57%だった。尚、主評価項目は両群大差なかった。

MAKE90は死亡、透析、eGFRの25%低下、または再入院の複合評価項目で、事前に設定されたとのことだが、ClinicalTrials.govには再入院が記されていない。同社のプレスリリースは、death, need for dialysis, substantial kidney function deterioration (>25% decline in estimated glomerular filtration rate (eGFR)) by day 90, and rehospitalizationと記されており、再入院だけ追跡期間が90日ではないような書きぶりになっているが、もしそうだとしたら奇妙だ。そもそも、COVID-19や中重度慢性腎疾患の患者を含んだ数値を説明する前に、本試験だけのデータを示すべきではないか。全体的に、都合のよいデータをチェリーピックしたような印象を受ける。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、圧倒的多数が早産予防薬の承認取消に賛成
(2022年10月19日発表)

FDAは、Covis Pharmaの早産予防薬、Makena(hydroxyprogesterone caproate、通称17-OHPC)の加速承認取消に関する公聴会とORUDAC(産科、再生産、泌尿器科用薬諮問委員会)を開催した。3年前の諮問委員会では承認取消賛成が9人、反対が7人と票が分かれ、特に産婦人科医の委員は6人中5人が反対したが、今回は賛成14人、反対1人と圧倒的多数が支持した。

米国で販売中止になる薬は殆どがメーカー側の自発的行動によるものだが、実際は、FDAが促している。承認取消権限を行使しないのは、メーカーが抵抗した場合に、法定手続きに何年も費やされ、十分な効果がない、あるいは重要な副作用のある薬の販売が続く事態を回避するためのようだ。今回はメーカーが徹底抗戦を選んだため、加速承認後薬効確認試験がフェールしてから3年、FDAの担当部門が自主的承認返上を促してから2年が既に経ったが、いよいよ承認取消が断行されそうだ。

Makenaの活性成分は日本でも早産歴のある妊婦などに用いられている。元々は別の病気に使われていたが、NIH(米国衛生研究所)が主導した試験が成功、オフレーベル使用されるようになった。未承認薬の広範な使用に警戒感を持ったFDAが正式に承認申請する企業を募ったところ、KV Pharmaceuticalsが手を上げ、紆余曲折を経て、2011年に、37週より前の自然単体早産歴を持つ女性の早産予防に用いる薬として加速承認された。

7年後、市販後薬効確認試験PROLONGがフェールした。35週未満の早産も、新生児の罹病・死亡率も偽薬群と大差なかった。経営破綻したKVのMakena事業を買収したAMAG Pharmaceuticalsはノイズの影響や事後的解析で一部のサブグループには効果の片鱗が見られたことなどを指摘、再試験の実施を主張したが、FDAの小分子薬担当部門、CDERは、2020年、承認を自主的に返上するよう促した。直後、ClovisがAMAGを買収、牛歩作戦など戦闘態勢に入った。

承認取消された場合、次の注目は、米国や日本の学会や医療機関の対応だ。治験フェールが周知であることを考えれば、今でも17-OHPCを用いている医療施設は確信犯だろう。エビデンスの無い医療が続けられるかもしれない。


Makena問題の推移

1956年、スクイブ社が米国で販売承認を取得(適応は不明。当時は安全性データがあれば承認された)
2003年、New England Journal of Medicine誌がNIH主導試験の論文を刊行。自然単体早産歴のある妊婦の37週未満出産リスクを抑制したことが各種メディアで報道され、普及
2006年、FDAの開発要請に応じたKV Phamaceuticalsが承認申請
2008年、FDA諮問委員会で21人の委員中12人が35週前の切迫早産の予防効果を認めたが、FDAは非承認可能通知を発出
2011年、市販後薬効確認試験が開始されたことを受け、FDAが加速承認(37週より前の自然単体早産歴を持つ女性の早産予防)。KVが薬局調剤品の100倍の価格で発売したが、政治介入などにより薬局調剤品の販売を禁止できず、半値に引き下げても売れず、裁判所に破産法の適用を申請
2013年、KVの会社更生が認められ、AMAG PharmaceuticalsがMakina事業など、Perrigoがそれ以外を分割買収
2019年、市販後薬効確認試験のPROLONGがフェール、35週未満の早産も新生児の有病・死亡率も偽薬群並みだった。FDA諮問委員会で9人が承認取消を支持、7人がもう一度薬効確認試験を促すことを支持(但し産婦人科医の委員に関しては6人中5人が再試験を支持)
2020年10月、FDAの小分子薬担当部門、CDERが自発的承認返上を推奨
同年11月、Covis PharmaがAMAGを買収
2021年8月、Covisがやっと公聴会の開催を要請
2022年10月17~19日、FDAが公聴会とORUDAC(産科、再生産、泌尿器科用薬諮問委員会)を開催。15人の諮問委員中14人が承認取消を支持。

リンク: Covisのプレスリリース


Minerva、向精神薬の承認申請が受理されず
(2022年10月17日発表)

Minerva Neurosciences(Nasdaq:NERV)はMIN-101(roluperidone)を統合失調症の陰性症状治療薬としてFDAに承認申請していたが、受理されなかった。承認は難しいと想像していたが、あっけなく結論が出た。

5-HT2A、アルファ1a、およびシグマ-2のアンタゴニストで、07年に前身のCyrenaic Pharmaceuticalsが田辺三菱製薬からMT-210をライセンスしたもの。一日32mgと64mgをテストし一本で64mg群が成功したがもう一本はp=0.064とフェールした。同社はFDAに承認申請前会議を申し入れたが拒否され、第3相試験後に行われるタイプC会議を3月に実施。米国外の試験であることや他の向精神薬と併用した場合の薬効や安全性などを指摘されたが、承認申請を断行した。

米国の新興新薬開発会社は1年分程度の現金しか保有しないことが多く、FDAの要求に応じてもう一本試験を行うのは難しい。今のように株式市場が不安定だと資金調達が一層難しくなる。もし開発しているのが大手・中堅企業だったら、と思わざるを得ない。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2022年10月15日

第1072回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ラゲブリオは現実の世界で効く?効かない? 
  • ワクチン二品が小児のブースターにEUA 
  • その他の領域: 
  • Helsinn、FGFR阻害剤の販売を終了へ 
  • GSKの高齢者用RSVワクチンも第3相成功 
  • iBAT阻害剤のアラジール症候群試験が成功 
  • activinブロッカーの肺動脈高血圧症試験が成功 
  • NMDA受容体拮抗剤の鬱病試験がフェール 
  • アイリーアを米国でも未熟児網膜症に適応拡大申請 
  • TROP-2標的ADCを適応拡大申請 
  • 活性化PI3Kデルタ症候群用薬を欧州でも申請 
  • ドパミン連続点滴器の承認はお預け 
  • CHMP、デング熱ワクチンや他家T細胞療法などの承認を支持


【COVID-19関連】


ラゲブリオは現実の世界で効く?効かない?
(2022年10月6日発表)

MSDは、抗SARS-CoV-2薬Lagevrio(molnupiravir)の現実の世界での治療成績を調べた英国とイスラエルにおける臨床試験論文二本の草稿が公開されたと発表した。承認のエビデンスとなった第3相と同じ主評価項目を採用し再現性を検討したが、一勝一敗だった。また、トランスジェニックマウスの癌原性試験が好ましい結果になったことも明らかにした。

英国の試験はオックスフォード大学が主導して、英国における承認内容に即して、50歳以上、または高リスクの18歳以上、且つ、発症5日以内のCOVID-19患者25783人を対象としたオープンレーベル試験。被験者の平均年齢は56歳、多くが65歳未満だった。第3相との大きな違いは9割超がワクチン接種済であることと、無作為化割付時期は昨年12月8日から今年4月27日で主としてオミクロン株流行期に実施されたこと。

主評価項目の28日間全入院/全死亡はLagevtrio服用者12516人中103人、服用しなかった12484人中では96人で、両群とも0.8%前後、有意差はなかった。一方、副次的評価項目の一つであるメジアン罹病期間(患者評価)は各9日と15日、年齢や持病の調整後でも10.4日対14.5日で、症状が早く解消する可能性が浮上した。

イスラエルの試験は大手管理医療機関Clalit Health Servicesの医療記録の後顧的解析。40歳以上で高リスク、オミクロン株に感染し、かつ薬物相互作用リスクや腎障害によりPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)不適の19868人が対象で、82%がワクチンや感染による免疫を持っていた。

主評価項目はCOVID-19による入院。65歳以上の13569人では、Lagevrio治療群が10万人日当り74.6、非治療群では同127.6、調整ハザードレシオ(aHR)は0.55で有意だった。副次的評価項目のCOVID-19死は845人中4人と12724人中137人、aHRは0.26でこちらも有意。一方、40~64歳の6229人ではCOVID-19入院が10万人日当り125.8と49.1、aHRは1.80と酷い成績になったが有意ではない。COVID-19死は224人中4人と6075人中7人でaHR12.82、95%信頼区間は3.4~48.2で統計的に有意。

英以で矛盾する結果になったが、英国試験は65歳未満が少なく、イスラエル試験は65歳未満には却って有害である懸念が浮上しており、同じ方向を指し示していると考えることもできる。イスラエルの試験は後顧的試験であり、また、65歳未満の症例数は疫学研究としては決して多くないので、別の試験で再現されるかどうか、気になるところだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: ButlerらのPANORAMIC試験論文草稿(SSRN)
リンク: ArbelらのClalit試験論文草稿(Research Square)


ワクチン二品が小児のブースターにEUA
(2022年10月12日発表)

BioNTech/ファイザーとモデルナは、夫々、オミクロンBA.4/BA.5対応COVID-19ワクチンを小児の追加接種に用いることが米国でEUA(非常時使用認可)されたと発表した。

前者のtozinameran・famtozinameran二価ワクチンは12歳以上のブースター接種にEUAされていたが、新たに、5~11歳にも認められた。12歳以上の用量は30mcgだが5~11歳は10mcg。

後者のmRNA-1273.222二価ワクチンは18歳以上に加えて6~17歳も認められた。12~17歳は成人と同じ50mcg、6~11歳は25mcgを接種する。

リンク: BioNTech/ファイザーのプレスリリース
リンク: モデルナのプレスリリース

【今週の話題】


Helsinn、FGFR阻害剤の販売を終了へ

スイスのHelsinn社がTruseltiq(infigratinib)の米国での販売を23年3月末をもって終了することが明らかになった。市販後薬効確認試験も打ち切られるので、承認返上になるのだろう。

米国カリフォルニア州の新興製薬会社BridgeBioPharma(Nasdaq:BBIO)がノバルティスからライセンスし、子会社のQED Therapeuticsを通じて開発製造しているFGFR阻害剤。21年に米国でFGFR2融合/再編のある切除不能局所進行/転移胆管癌の再発治療薬として加速承認された。21年に中国以外の市場で開発販売提携したHelsinn社が販売していたが、BridgeBioPharmaは、提携解消通知を受領したことを公表済み。更に、今回、中国市場における提携先であるLianBioが、米国における販売と市販後薬効確認試験が打ち切られることを明らかにした上で、中国市場における開発は続行すると公表した。

BridgeBioPharmaは提携の対象外である軟骨形成不全症の開発は続行する考え。

胆管癌は欧米で年2万人が罹患し、うち15~20%でFGFR2融合/再編成が見られる。希少疾患薬は高価でも許容される時代になったので患者が数千人でも採算を取るのは可能だろうし、他の領域に適応拡大することも可能だろう。それでも行き詰ったのは、インサイトのPemazyre(pemigatinib)が20~21年に米欧日で同じ用途に承認されるなど、競合が激しいことが影響したのではないか。

リンク: 永続的販売中止通知(米国向け製品ウェブサイト)

【新薬開発】


GSKの高齢者用RSVワクチンも第3相成功
(2022年10月13日発表)

GSKは6月にRSVワクチンGSK3844766Aの第3相成功を公表したが、今回、トップラインを明らかにした。日本などを含む17ヶ国で60歳以上の人を組入れて、一回接種後のRSV下部気道感染症リスクを偽薬と比較したところ、偽薬群は12494人中40人が発症したが試験薬群は12466人中7人に留まり、ワクチン効率は82.6%(96.95%CI:57.9-94.1)だった。複数の症状を伴う重度RSV下部気道感染症も94%少なかった(95%CI:62.4–99.9)。サブグループ分析では、高リスク持病を持つ人や70~79歳でもワクチン効率は94%前後。一方、80歳以上は33%で信頼区間がゼロを跨いだ。

年内に承認申請する予定。ファイザーもPF-06928316を承認申請する計画で、第3相でワクチン効率が66.7%(96.66%CI:28.8-85.8%)、重度は85.7%(96.66%CI:32.0-98.7%)だった。両社のプレスリリースの記述を見ると、ファイザーのワクチン効率66.7%に対応するGSKの数値は94%と思料されるが、現時点では、厳密な比較は現時点では不可能だ。

リンク: GSKのプレスリリース


iBAT阻害剤のアラジール症候群試験が成功
(2022年10月11日発表)

Albireo Pharma(Nasdaq:ALBO)はBylvay(odevixibat)の適応拡大試験成功を発表した。21年に欧米で乳児も含む進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)の治療薬として承認された局所作用性iBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤で、今回、常染色体優性遺伝性疾患で胆管に形成不全を生じるアラジール症候群の第3相が成功した。欧米で承認申請する予定。

0~17歳の患者52人を一日120mcg/kgをカプセル剤または散剤として24週間経口投与する群と偽薬群に2対1割付し、掻痒評価スコア(PRUCISION介護者評価スコア、レンジは0-4)の変化を比較したところ、試験薬群はBL平均の2.80から1.69低下し、3.01から0.80低下した偽薬群と有意な差があった。尚、ベースライン時点でほぼすべての被験者が掻痒治療薬を用いていた。

副次的評価項目のうち血清胆汁酸はベースライン(両群240μmol/L前後)から90μmol/L低下し、22μmol/L上昇した偽薬群と有意差があった。

薬物関連下痢が11.4%の患者で発生した(偽薬群は5.9%)。深刻有害事象は14%で発生(同12%)、有害事象による治験離脱は発生しなかった。

アラジール症候群ではMirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)の類薬であるLivmarli(maralixibat)が昨年米国で承認っされている。

リンク: Albireoのプレスリリース


activinブロッカーの肺動脈高血圧症試験が成功
(2022年10月10日発表)

MSDはMK-7962(sotatercept)の第3相肺動脈高血圧症試験、STELLARが成功したと発表した。標準医療を受けるクラスIIまたはIIIの患者324人に試験薬または偽薬を3週毎皮注したところ、24週後の6分歩行テスト成績に統計的に有意かつ臨床的に意味のある差があった。死亡や臨床的悪化までの期間などの副次的評価項目も一つを除き成功した。データは学会発表の予定。

第2相試験の本試験と同じ用量群は6分歩行テストが50m改善し、偽薬群の25m改善を上回った。治療時発現有害事象の発生率は各24%と9%だった。

activin受容体IIAとIgG1の融合蛋白で、Acceleron Pharmaがセルジーンと共同開発していたが17年に提携解消。MSDは21年にAcceleronを企業価値ベース115億ドルで買収して入手した。

リンク: 同社のプレスリリース


NMDA受容体拮抗剤の鬱病試験がフェール
(2022年10月13日発表)

Relmada Therapeutics(Nasdaq:RLMD)はREL-1017(esmethadone)の第3相鬱病モノセラピー試験がフェールしたと発表した。25mg錠を一日一回、28日間投与してMADRS10(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)の変化を偽薬と比較したところ、各14.8ポイントと13.9ポイント改善し、有意差がなかった。但し、偽薬群の数値が異常に高い/低い施設を除いた事後的解析では良い数値が出た由。

鬱病の第3相は承認されている薬でもフェールが珍しくない。モノセラピー試験は偽薬しか投与しない群が設定されるのであまり重くない患者を組入れるのが一般的であり、偽薬効果が更に出やすくなる。対策としては、実薬群を設定して、もし実薬もフェールなら試験薬ではなく臨床試験がフェールしたと判定したリ、3~4本実施して2本成功すれば良しとするのが一般的だが、同社は追加投与試験も二本実施する手法を選んだ。株価は暴落したが、希望が残っていないわけではない。

esmethadoneはオピオイドのS異性体で、副作用が緩和されている。今回の試験でもオピオイド関連有害事象は見られなかった由。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


アイリーアを米国でも未熟児網膜症に適応拡大申請
(2022年10月12日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、Eylea(aflibercept)を米国で未熟児網膜症(ROP)に適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年2月11日。日欧で昨年11月に承認申請、日本では9月に承認されたが、米国は遅れた。

網膜の血管は妊娠後期に成長するので低出生体重児はしばしばROPを合併する。網膜剥離などのリスクがある場合はレーザー凝固術で何万発というレーザー光を充てて異常形成を阻止するが、近年はEyleaのような硝子体注射用抗VEGF抗体/融合蛋白も用いられるようになった。

Eyleaの臨床試験のうち、開発販売パートナーであるバイエルが実施した第3相試験では、奏効率が85.5%とレーザー凝固術群の82.1%を数値上上回ったが、非劣性解析はフェールした。同社が主導した試験もフェールした模様だ。レーザー凝固術群の奏効率が過去文献より高かったことも影響した模様。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


TROP-2標的ADCを適応拡大申請
(2022年10月11日発表)

ギリアド・サイエンシズは米国でTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の適応拡大申請を行い受理されたと発表した。切除不能/転移トリプル・ネガティブ乳癌の3-4次治療薬として欧米で承認されているが、新たに、her2だけ陰性の切除不能局所進行/転移乳癌で内分泌薬歴や転移後に二次以上の全身性治療歴を持つ成人向けに申請した。優先審査指定され、審査期限は23年2月。

エビデンスとなる第3相TROPiCS-02試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン5.5ヶ月と医師が選んだ化学療法薬の4.0ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.66だった。この時点の全生存期間の中間解析はメジアン13.9ヶ月対12.3ヶ月、ハザードレシオ0.84と心許なかったが、二回目の中間解析は14.4ヶ月対11.2ヶ月、ハザードレシオ0.79と、決して大きく変わったわけではないものの、承認のハードルを越え得る数値に変貌した。

20年に210億ドルで買収したImmunomedicsの製品。

リンク: ギリアドのプレスリリース


活性化PI3Kデルタ症候群用薬を欧州でも申請
(2022年10月11日発表)

オランダのPharming(Euronext Amsterdam:PHARM)は、leniolisibを欧州でも承認申請したと発表した。PI3Kデルタ阻害剤で、PI3Kデルタが異常活性化し免疫細胞の成熟が妨げられる希少原発性免疫不全疾患、活性化PI3Kデルタ症候群(APDS)の治療に用いる。ライセンサーのノバルティスが主導した臨床試験で、一日二回経口投与したところ、リンパ節腫脹やナイーブB細胞比率が偽薬比有意に改善した。米国では7月に承認申請済み。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ドパミン連続点滴器の承認はお預け
(2022年10月10日発表)

Supernus Pharmaceuticals(Nasdaq:SUPN)はSPN-830(apomorphine)をパーキンソン病のオン/オフ症状の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加的臨床試験は要求されなかったが、機器や薬剤に関する様々な情報や分析を求められた。また、COVID-19関連の渡航制限により工場査察が未実施となっている。

連続皮注用機器で、胃腸インプラントやdeep brain刺激療法の代替を狙っている。20年にUS WorldMedsから買収した中枢神経系ポートフォリオの一つ。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、デング熱ワクチンや他家T細胞療法などの承認を支持
(2022年10月14日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬と適応拡大に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

武田薬品のQdengaはデング熱ワクチン。血清型2型ウイルス抗原をバックボーンとして1型、3型、4型の抗原も追加した、4価生弱毒化ワクチンで、4歳以上が対象。8月にインドネシアで初承認。東南アジアや中南米の風土病で、EMAは加盟国だけでなくこれらの地域の低中所得国向けにも、承認することになる。臨床試験の4年半追跡データでは、デング熱症状のワクチン効率が61%、デング熱による入院は84%だった。デング熱は二回目の感染が重症化しやすいと言われるが、サノフィのデング熱ワクチンとは異なり、Qdengaは感染歴を持つ人にも有効だった。13年にInviragenを買収して入手したパイプライン。

リンク: EMAのプレスリリース

Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)のEbvallo(tabelecleucel)は他家T細胞療法。例外的環境条項に基づく承認が支持された。臓器/骨髄移植を受けた2歳以上の小児または成人の深刻なエプスタイン・バー・ウイルス陽性リンパ増殖性疾患の二次治療に用いる。ドナーから採取したT細胞を、エプスタイン・バー・ウイルスに曝露したB細胞で感作した上で培養したもので、第3相ALLELE試験の中間解析では、ORR(客観的反応率、独立評価)が38人中19人、50%だった。うち11人は反応が6ヶ月以上持続した。欧州はPierre Fabreが販売を主導する。

米国はFDAがアカデミアが実施した試験と量産用バッチの同等性などの確認を求めたことなどから、未だ承認申請されていない。

リンク: EMAのプレスリリース

Radius HealthのEladynos(abaloparatide)は遺伝子組換え型ヒト副甲状腺ホルモン関連蛋白。骨折リスクの高い閉経後骨粗鬆症の治療に用いる。米国では17年にTymlos名で、日本でも昨年3月に帝人のオスタバロとして、承認されている。EUでは15年に申請されたが、一部施設でのcGCP違反や心毒性がネックとなり、承認されなかった。意見が変わった理由は不明。

05年にイプセンから開発販売権を取得した。Radius社は今年8月にファンドが約9億ドルで買収、Nasdaq上場廃止となったため、プレスリリースを出さなくなっている。

リンク: EMAのプレスリリース

Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)のLivmarli(maralixibat)はアラジール症候群の小児(2ヶ月児以上)と成人の胆汁鬱血性掻痒治療薬。例外的環境条項に基づく承認が支持された。

アラジール症候群は常染色体性優性遺伝性疾患で、胆道の形成不全により胆汁が鬱滞し、痒みや、肝腎心などの合併症を招く。Livmarliは頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤で胆汁の排泄を局所的に促す。米国では昨年承認。

シャイア(19年に武田薬品が買収)がLumena Pharmaceuticalsを買収して入手したが18年にMirumにアウトライセンスした。

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスのPluvicto(lutetium 177 vipivotide tetraxetan)は放射性医薬品。アンドロゲン受容体標的薬とタクサン・ベース化学療法を既に受けた成人のPSMA陽性転移CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)に、アンドロゲン枯渇療法と二剤併用又はアンドロゲン受容体標的薬も合わせて三剤併用する。臨床試験ではメジアン生存期間が15.3ヶ月と化学療法群の11.3ヶ月より長く、ハザードレシオ0.62だった。

治療前にPET造影でPSMA発現を確認する必要があり、3月に米国で承認された時は同社のLocametz(gozetotide)がコンパニオン診断薬として承認された。Gallium 68で標識して用いる。EUでは一次治療などを含む複数の用途で承認することが支持された。

リンク: EMAのプレスリリース(Pluvicto)
リンク: 同(Locametz)

ベーリンガー・インゲルハイムのSpevigo(spesolimab)は抗IL-36受容体抗体。無菌性膿疱が広範囲に生じる好中球性炎症性疾患、汎発性膿疱性乾癬(GPP)の増悪時治療薬。日米では昨年、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE)のbtk阻害剤Brukinsa(zanubrutinib)を成人の慢性リンパ性白血病に用いることと、Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)の抗PD-1抗体Libtayo(cemiplimab)をがん化学療法中または後に増悪した子宮頸がんに単剤投与することが支持された。




今週は以上です。

2022年10月8日

第1071回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ラゲブリオは案外効かないという論文草稿は撤回 
  • エバシェルドはBA.4.6が苦手 
  • ラムダ・インターフェロンのEUA申請を断念 
  • その他の領域: 
  • イクスタンジ・PARP阻害剤併用試験が成功 
  • ClovisのPARP阻害剤も前立腺癌試験が成功 
  • 金製剤のALS試験はフェール 
  • Tdapワクチンは胎児にも有益 
  • アルナイラム、PH1治療薬の便益追加 


【COVID-19関連】


ラゲブリオは案外効かないという論文草稿は撤回

MSDの抗SARS-CoV-2薬に関する英国の疫学研究論文の草稿が査読前論文レジストリーで公開されたが、既に撤回されたようで、内容の真偽は暗闇の中だ。報道によると、入院死亡は治療を受けなかったグループと有意差なし、但し、快復までのメジアン期間は通常医療が15日であったのに対して9日だった。どちらも驚くべき発見だが、原典にアクセスできないので、PICOをチェックできない。

MSDのRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤Lagevrio(molnupiravir)は、ファイザーの3CLプロテアーゼ阻害剤Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)と前後して、昨年12月に米国で重症化リスク因子を持つ軽中等症COVID-19の入院死亡リスクを抑制する薬として承認された。エビデンスとなる臨床試験の対象はワクチン未接種者で、実施時期はオミクロン株登場前だった。従って、成人人口の大半を占めるワクチン接種済みの人が、重症化率が低いオミクロン株に感染した場合の、重症化予防率とnumber-needed to-treatは臨床試験のデータより見劣りすると考えるべきである。

実際、Paxlovidの重症化リスク因子を持たない、あるいは、持っているがワクチン接種済の患者を組入れた試験は途中で中止された。どちらの患者でも入院死亡を5割以上抑制したのだが、偽薬群の入院死亡数が前提を下回ったため、検出力不足になってしまったのだ。下回った理由は明確ではないが、オミクロン株に代わったことが響いたのではないか。

今回のデータを見られないのは残念だが、今後、似たような疫学論文が医学誌に刊行されても驚くべきではないだろう。


エバシェルドはBA.4.6が苦手
(2022年10月3日発表)

FDAはアストラゼネカの抗SARS-CoV-2抗体カクテル、Evusheld(tixagevimab、cilgavimab)のファクトシートを改訂し、様々な亜系統に関する中和抗体試験データを掲載するとともに、米国では唯一の承認用途である暴露前予防を目的に投与してもオミクロンBA.4.6亜系統株に感染するリスクは残ることに注意喚起した。CDC(米穀疾病予防管理センター)の推測によると直近の亜系統構成比はBA.5が81%と依然として圧倒的だが、BA.4.6は7月の1%から13%に上昇した。主流になる亜系統はもっと急速に上昇するものなのでBA.5ほどの脅威ではなさそうだが、地域によってはもっと高いところもあるので、感染状況と抗体医薬の得手不得手を照らし合わせて治療方針を決める必要がある。

in vitroの中和抗体試験はウイルスの増殖を抑制するために必要な量を探索する。以下では野生株に対する倍率で示し、数値が大きいほど多くの量が必要であることを意味する。一番重要な感染予防効果とパラレルにリンクするとは限らないが、ある程度の目安になる。

Evusheldはアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、エプシロン株に対する数値は野生株と大差ないものの、オミクロン株はオーセンティック(本物)ウイルス試験でBA.1が12~30倍、BA.1.1は176倍、BA.2は5.4倍、BA.5は2-16倍と亜系統によって区々だ。以下はシュードウイルス(別のウイルスにSARS-CoV-2のスパイク蛋白を導入した偽ウイルス)試験のデータだが、BA.2.12.1は5倍、BA.2.75は2~15倍、BA.3は16倍、BA.4は33~65倍だが、BA.4.6は1000倍以上と著しく高く、効きそうな感じがしない。

CDCの流行株データを見ると、BA.5とBA.4.6の次はBF.7が構成比3%、BA.2.75とBA.4が各1%となっている。BA2.75とBA.4は他のオミクロン株と倍率が大差ない。BF.7はファクトシートにはデータが載っていない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: EvusheldのEUAファクトシート
リンク: CDCの変異株構成比


ラムダ・インターフェロンのEUA申請を断念
(2022年10月5日発表)

アイガー バイオファーマシューティカル(Nasdaq:EIGR)はPEG-Interferon lamda-1aのEUA(非常時使用認可)を断念した。FDAがEUA申請前会議の申し入れに応じず、第3相試験を実施して正式な承認申請を行うよう促したため。同社は海外での承認申請や戦略的オプション(ライセンスアウトなど)を検討する考え。

ブラジルなどの研究者が主導して、軽中等症だが重症化リスクのあるCOVID-19感染症1936人を外来治療した第3相TOGETHER試験で、28日間のCOVID-19関連入院/6時間以上ER入室率が2.7%と偽薬群の5.6%を大きく下回った(優越性ベイズ確率99.91)。専らER入室例が少なかったが、入院や死亡も数値上少なかった。オミクロン株を含む様々なウイルスに効果が見られ、有害事象は各群大差なかった。

しかし、FDAは、6時間以上ER入室という評価尺度の臨床的意義に疑問を呈しているようだ。そういえば、昨年の大流行期には、救急を脱してもベッドが開かずにERに留まるような事態が報道されている。TOGETHER試験では選択的セロトニン再取込阻害剤fluvoxamineの群も成功し米国の研究者がEUA申請したが、同じ理由でFDAは認めなかった。

PEG-Interferon lamda-1aはブリストル マイヤーズ・スクイブからライセンス。慢性D型肝炎用薬としても開発中。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


イクスタンジ・PARP阻害剤併用試験が成功
(2022年10月4日発表)

ファイザーはTalzenna(talazoparib)の第3相去勢抵抗性前立腺癌試験、TALAPRO-2が成功したと発表した。転移後初めての全身性治療を受ける1095人を組入れて、同社のアンドロゲン受容体標的薬Xtandi(enzalutamide)に追加する効果を検討したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)の偽薬追加群比ハザードレシオが前提である0.696を下回った。メジアン値は過去に行われた同様な試験を越えたとのこと。副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが好ましいトレンドを示したとのこと。

18~19年に欧米でBRCA変異を持つher2陰性局所進行/転移乳癌に承認されたPARP阻害剤で、Xtandiと同様、16年に買収したMedivation社のコンパウンド。同様な適応ではアストラゼネカのLynparza(olaparib)をBRCA1/2変異のある患者に単剤投与することが20年に米国で承認された。アストラゼネカはBRCA1/2以外も含む相同組換え修復不全のある患者の転移後初治療としてZytiga(abiraterone)・prednisoneと三剤併用も米国で承認申請中で今四半期中に結果が出る見込み。

今回、Xtandiと組み合わせたエビデンスを取得したことや、相同組換え修復不全の無い患者にも効果があったことは差別化要因になりうる。

リンク: 同社のプレスリリース


ClovisのPARP阻害剤も前立腺癌試験が成功
(2022年10月3日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)はRubraca(rucaparib)の第3相TRITON3試験が成功したと発表した。BRCAまたはATM変異のある転移性去勢療法抵抗性前立腺癌で、アンドロゲン受容体標的薬による治療歴を持ち、化学療法未経験の患者405人を試験薬群と化学療法/第2世代アンドロゲン標的薬に2:1割付してPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)を比較したところ、各群のメジアン値は11.2ヶ月と6.4ヶ月、ハザードレシオは0.50、統計的に有意だった。シーケンシャルに解析されたもう一つの主評価項目である全集団(Intent-to-treat)の解析も各10.2ヶ月、6.4ヶ月、0.61でp=0.0003と成功した。

同社はBRCA変異型については23年第1四半期に米国で適応拡大申請する計画。変異の無い患者についてはFDAと相談して申請の当否を検討する。Intent-to-treatの解析は成功したが、ATM変異のある103人の探索的解析は各8.1ヶ月、6.8ヶ月、0.97と失望的。また、全生存期間は未成熟だが、BRCA変異サブグループでは良好なトレンドが示された一方で、ATM変異型では対照群のほうが良い方向を向いていた。

尚、この試験は米国で20年にBRCA変異がありタクサン系抗がん剤歴も持つ患者に加速承認された時のフェーズIVコミットメントなので、本承認切替も申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

金製剤のALS試験はフェール
(2022年10月3日発表)

Clene(Nasdaq:CLNN)は、CNM-Au8(金のナノパーティクル懸濁液)のALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。しかし、低用量群の全生存期間データが好ましいものだったため、開発続行するとともにEAP(FDAの許可を得て未承認薬を提供する制度)を開始する考えだ。株価は下落した。

先週号のBiohaven社の経口ミエロペルオキシダーゼ阻害剤と同様に、Massachusetts General Hospitalが主導するHEALEY ALS試験でテストされた。161人の患者を偽薬群、30mg群、60mg群に無作為化割付してALSFRS-Rスコアの悪化を比べたが、偽薬群と2%しか違わなかった。副次的評価項目もフェールした。

ところが、低用量群は全死亡リスク(ベースライン時点のリスク因子の偏りを調整後)が偽薬比90%小さかった(p=0.028)。

探索的サブグループ分析はアテにならず、このp値は多重性補正を行っておらず、そもそも十分に低いとは言えず、また、ALSの死亡リスクは個人差が大きく一群50人程度の試験でキチンと調整できたのか良く分からない。それでも、闇夜には仄かな明かりでも貴重だ。前向き試験を行って承認に値する便益を確立すべきだ。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewsswire)

【承認】


Tdapワクチンは胎児にも有益
(2022年10月7日発表)

FDAはGSKの破傷風・ジフテリア・百日咳3種混合ワクチンBoostrixの効能を追加した。妊婦が第3トリメスターに接種すると、出生児が生後2ヶ月間に百日咳感染症を患うリスクも抑制できるというもの。観察的試験で78%少なかった。

本邦未承認だが医師が並行輸入して使うこともある、Tdapワクチンの一つで、米国では10歳以上のブースター接種に用いられている。高齢者にも承認されているのはBoostrixだけだ。この3種類の感染症は妊婦や胎児にとっても脅威であるため、米国では多くの妊婦が第3トリメスター(妊娠13~24週)に受けている。従って、今回の承認で対象者が増えるわけではない。

尚、主として幼小児用の3種混合ワクチンであるInfanrixは0.5mL当りで破傷風毒素を10Lf、ジフテリア毒素を25Lf、そして百日咳の不活化毒素25mcgとホルムアルデヒド処理されたFHA(繊維状赤血球凝集素)25mcg及びPRN(ペルタクチン)8mcgを含有しており、米国では生後2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月に3回接種し、15~20ヶ月と4~6歳に追加接種する。

一方、Boostrixは0.5mL当りで破傷風毒素を5Lf、ジフテリア毒素2.5Lf、不活化百日咳毒素8mcg、ホルムアルデヒド処理されたFHA8mcg、PRN2.5mcgを含有し、DTaPワクチンやTdワクチンを接種済の場合は5年以上後に、Boostrixを含むTdapワクチン接種済の場合は9年以上後に、接種する。以上、米国のレーベルによる。

リンク: FDAのプレスリリース


アルナイラム、PH1治療薬の便益追加
(2022年10月6日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)治療薬Oxlumo(lumasiran)のレーベル変更がFDAに承認されたと発表した。

PH1は常染色体性劣性遺伝性疾患で、腎臓などにシュウ酸カルシウムが蓄積、尿路結石など様々な障害が生じる。Oxlumoはグリコール酸酸化酵素の遺伝子を標的とするsiRNA薬で20年に欧米で承認された。この段階での便益は尿中シュウ酸量の抑制だけだったが、今回、腎機能低下/透析期の患者を組入れた試験のエビデンスに基づき、血漿シュウ酸値も抑制できることが認められた。

腎機能低下/透析は主要な合併症なので、病気が進行した患者にも有益であることを示す治験データが掲載されたことも重要な点だろう。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

2022年10月2日

第1070回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ゾコーバの第3相が成功 
  • BioNTech/ファイザー、二価ワクチンを5~11歳にも申請 
  • その他の領域: 
  • レカネマブの早期アルツハイマー病試験が成功 
  • ロフルミラストの頭体部乾癬試験が成功 
  • 週2回皮注型短腸症候群用薬の第3相が成功 
  • OCAのNASH肝硬変試験はフェール 
  • ミエロペルオキシダーゼ阻害剤のALS試験が打ち切りに 
  • DMDの遺伝子療法を承認申請 
  • バイオマリン、A型血友病の遺伝子療法を再申請 
  • 活性化PI3Kデルタ症候群用薬を承認申請 
  • FDA、大鵬の胆管癌用薬を承認 
  • FDAがALS治療薬を承認 
  • デュピクセントが結節性痒疹に適応拡大 
  • エイベリス点眼液が米国でも承認 
  • リムパーザの4次治療データ 
  • PRAC、terlipressinのリスク対策を発表 



【COVID-19関連】


ゾコーバの第3相が成功
(2022年9月28日発表)

塩野義製薬は、日韓ベトナムの施設で実施したS-217622(エンシトレルビル フマル酸、和名ゾコーバ)の第2/3相COVID-19試験の第3相部分が成功したと発表した。オミクロン株流行期に、COVID-19治療薬としては初めて、罹病期間短縮効果を示した。海外でもACTIV-2d/SCORPIO-HR試験が進行中。

ファイザーのPaxlovid(nirmatrelvirとritonavirを同梱、和名パキロビッド)と同様に、SARS-Cov-2の複製に必要な3CL蛋白分解酵素を阻害する経口剤で、北海道大学発。第3相部分の特徴は、ワクチン接種の有無を問わず、Paxlovidなどが適応にならないリスク因子を持たない患者も組入れていること。軽症・中等症の1821人を偽薬、低用量、高用量の3群に無作為化割付して、一日一回、5日間投与した。先行二品の第3相は重症化リスクを主評価項目としており、罹病期間短縮作用は確認されていないが、塩野義はオミクロン株に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、疲労感)が消失するまでの期間という、インフルエンザ治療薬と類似した分かりやすい指標を採用した。

結果は、承認申請中の低用量群が偽薬比有意に短かった。メジアン値は167.9時間(約7日)、偽薬群は192.2時間(約8日)で、ほぼ1日早かった。インフルエンザ薬の治療効果も同程度だ(罹患期間が短いので短縮率で見ると見劣りするが)。

留意点は、この分析は発症から72時間以内に割付けられた患者のサブグループ分析であるような書きぶりであること。上記1821人が全集団の数値であった場合、このサブグループのサンプルサイズはもっと小さくなる。また、現実の医療では発症→ウイルス検査→結果判明まで数日かかかるため、72時間以内に投与できないことも多いだろう。72時間超だと無効なのか、データを知りたいものだ。

同薬は後期第2相試験に基づき日本で2月に承認申請されたが、この段階では罹患期間短縮効果が見られなかったことや、薬物相互作用(Paxlovidも同じ)や催奇性(MSDのLagevrio<molnupiravir>も同じ)などから、承認が見送られた。事後的分析で一部の症状には効果が見られたため、今回、評価症状を絞り込んで前向きに確認した。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


BioNTech/ファイザー、二価ワクチンを5~11歳にも申請
(2022年9月26日発表)

BioNTechとファイザーは、オミクロンBA.1とBA.4/BA.5に適合したCOVID-19二価ワクチンを5~11歳のブースターに用いるEUA(非常時使用認可)をFDAに行った。10mcgを一回筋注する。12歳以上の申請と同様に、5~11歳を対象とする臨床試験は第1/2/3試験のサブスタディDとして着手されたばかりで、エビデンスは限定的。

両社は4歳以下の治験計画についても開示した。6~23ヶ月児の初回免疫はサブスタディAの第1相ポーションで3mcg、6mcg、10mcgから至適用量を決定し、第2/3相ポーションで3回接種とブースター接種をテストする。6ヶ月以上4歳以下で一価ワクチンを2回または3回接種した幼児はサブスタディBで3mcgで通算4回まで接種する。並行して、サブスタディCで3回接種済を対象に6mcgや10mcgを検討する。

リンク: 両社のプレスリリース

【新薬開発】


レカネマブの早期アルツハイマー病試験が成功
(2022年9月27日発表)

エーザイとバイオジェンは、BAN2401(lecanemab)の第3相CLARITY AD試験が成功、主目的と主要な副次的評価項目を達成したことを明らかにした。症状評価スコアの悪化を偽薬比有意に抑制した。米国で加速承認を申請中だが、今回のデータで来年3月までに本承認も申請し、日欧でも申請する考え。治療効果は議論の余地がありそうだが、両社の収益には貢献しそうだ。

スエーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス社からライセンスした抗アミロイド・ベータ抗体で、抗アミロイド・ベータ抗体の泣き所であるARIA(アミロイド関連画像異常:浮腫や出血)の発生率が比較的低い。早期アルツハイマー病(eAD:アルツハイマー性軽度認知障害または軽度アルツハイマー病)の治療薬として上記二社が共同開発している。後期第2相でアミロイド蓄積が減少することを確認、今年5月に加速承認を申請した。審査期限は23年1月6日。

第3相は脳にアミロイド蓄積が確認されたeAD患者1795人を組入れて10mg/kgを2週毎に点滴静注する効果を18ヶ月に亘り偽薬と比較した。主評価項目はCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)。悪化は偽薬比27%小さかった。群間差は0.45、p=0.00005。6ヶ月経過時点から有意差が見られた由。

副次的評価項目ではアミロイド量、ADAS-cog14、ADCS MCI-ADLなどの解析が成功した。有害事象ではARIAが患者の21.3%で発生(偽薬群は9.3%)、ARIAによる症候性浮腫の発生率は2.8%(同0.0%)、症候性出血は0.7%(同0.2%)だった。

さて、統計的に有意であることはデータが真実に近いことを示唆し承認を取得する上で極めて重要だが、患者にとっては治療効果の多寡や費用も最重要事項だ。CDR-SBの上昇が18ヶ月間で0.45小さいことは、どの程度重要なのか?

CDRは記憶力や社会活動力、介護など6項目について、障害の度合を0(障害)、0.5(軽いまたは疑い)、1(軽度)、2(中等度)、3(重度)の5段階で評価する(但し介護のみ0.5がない)。合計値がCDR-SBで0から18の範囲。早期ADは点数が低く、lecanemabの後期第2相のベースライン平均値は2.9、Aduhelm(aducanumab)の第3相EMERGE試験では2.5(高用量の治療効果は0.39)だった。CLARITY AD試験の偽薬群の平均低下幅がEMERGE試験と同じ1.7だったとすると、試験薬群は1.25となる。

ベースライン時点で介護以外の5項目全てが「軽いまたは疑い」の患者をモデルとして考えると、偽薬群は18ヶ月後に3~4項目が「軽度」に悪化するが試験薬群は2~3項目に留まるイメージだ。また、何もしなければ18ヶ月間に1.7進むところを1.25で済むということは、13ヶ月分しか進行しない、つまり、進行を5ヶ月分遅らせる計算になる。効果が高いと言えないこともないが進行することに変わりないとも言える。

アセチルコリン還元酵素阻害剤は軽度以上の患者が適応だが、モデル的には、症状が半年前の状態に改善し、そこからまた悪化し始める。少なくとも短期的には既存薬のほうがインパクトが大きい。

長期的にはどうか?アセチルコリン還元酵素阻害剤は効かなくなったら止めるべきとの意見があるが、効果の有無を判別するのは難しく、また、本当に止めてもいいのか明確なエビデンスはない。英国で研究者主導試験が行われたが、メーカーの協力が得られなかったことなどから、計画通りには進まなかった。lecanemabも長期的な効用は曖昧なままだろう。

今回の試験結果は11月29日にCTAC(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表される予定。APOE4陽性/陰性やMCI/軽度AD別のサブグループ分析や、ADAS-cog14などにおける治療効果の多寡、オピニオン・リーダーの評価などが注目される。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)


ロフルミラストの頭体部乾癬試験が成功
(2022年9月26日発表)

Arcutis Biotherapeutics(Naasdaq:ARQT)はPDE4阻害剤roflumilastのフォーム製剤を用いた第3相頭部体部乾癬試験、ARRECTORが成功したと発表した。一日一回塗布を8週続けたところ、頭部と体部の奏効率が偽薬を有意に上回った。同社はroflumilastクリーム製剤のZoryveを7月に米国で発売した。次のターゲットがフォーム製剤の脂漏性皮膚炎用途で23年第1四半期に承認申請する計画。乾癬患者の4割で見られる頭部乾癬用途はその後になる。

今回の試験の共同主評価項目はS-IGA(Scalp-Investigator Global Assessment)奏効率とB-IGA(Body-Investigator Global Assessment)奏効率。前者は67.3%(対照群は28.1%)、後者は46.5%(同20.8%)だった。痒みなどを評価した副次的評価項目もすべて成功した。治療時発現有害事象の発生率は両群大差なく、有害事象治験離脱率は2.5%(同1.3%)に留まった。

roflumilastはアルタナがCOPDでPOCに成功、化学事業を売却し薬品事業に特化する戦略を打ち出したが、180度方向転換。薬品事業を買収したナイコメッドが11~12年に欧米で承認取得した。その後、紆余曲折を経てアストラゼネカが権利を取得。Arcutisは皮膚科領域のライセンスを得た。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 頭部乾癬と脂漏性皮膚炎の違い(Mayo Clinic)


週2回皮注型短腸症候群用薬の第3相が成功
(2022年9月30日発表)

Zealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)はZP 1848(glepaglutide)の第3相単腸症候群治療試験、EASE 1が成功したと発表した。他の第3相は延長試験だけのようなので、長期安全性が確認された段階で承認申請に向かうのではないか。一日一回皮注型のGattex(teduglutide、和名レベスティブ)が欧米で承認されてから既に10年経ち将来はGE薬とも競合するであろうことを考えると、成功したのは週2回投与群だけで週一回群がトレンドに留まったのは残念。

胃腸ホルモンGLP-2のアミノ酸を一部置換したり追加したりして実効半減期を88時間に延ばした、長期作用性GLP-2作用剤。小腸における栄養吸収を促進する。経静脈栄養を必要とする単腸症候群の患者106人を偽薬、10mg週一回、10mg週2回の3群に無作為化割付して24週間治療したところ、週間非経口栄養量がベースライン比で各2.85L、3.13L、5.13L減少し、週2回群は偽薬比有意だった。副次的評価項目である2割減達成率も同様な結果になった。

大先輩のデータより良いが、10年以上前の臨床試験のデータの比較に基づいて議論するのは勇気がいる。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


OCAのNASH肝硬変試験はフェール
(2022年9月30日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)は、obeticholic acid(OCA)の第3相NASH(非アルコール性脂肪肝炎)性肝硬変試験がフェールしたと発表した

このREVERSE試験はNASHによる代償性肝硬変(NASH CRNスコア4)の919人が対象。偽薬、10mg、25mgの3群に無作為化割付して18ヶ月治療し、線維症が1段階以上改善してNASHは悪化しなかった患者の比率を比較したところ、各群9.9%、11.1%、11.9%と大差なかった。

OCAAは欧米で原発性胆汁性胆管炎治療薬Ocalivaとして承認されている胆汁酸ベースのファルネソイドX受容体で、NASHに関しては肝線維症の治療薬として19年に欧米で承認申請されたが、米国は審査完了、EUは撤回となった。18ヶ月間の第3相REGENERATE試験で線維症が1ステージ以上改善し、かつ、NASHが悪化しなかった患者の比率が23.1%と偽薬群の11.9%を上回ったものの、NASHが解消し線維症が悪化しなかった患者の比率は大差なく、臨床的な効用が明確でないことや、心血管腎毒性などがネックになった。同社は線維症ステージをパネルに一元評価させたデータを用いて再申請する考え。REGENERATEの対象はNASH CRNスコア2と3が中心で、肝硬変に進行していない患者であるせいか、フェール後も考えは変わらないようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ミエロペルオキシダーゼ阻害剤のALS試験が打ち切りに
(2022年9月29日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、BHV3241(verdiperstat)の第2/3相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験が打ち切られる見込みと発表した。Massachusetts General HospitalのHealey Center for ALSが主導するアダプティブ・プラットフォーム試験、HEALEY ALSのデータ監視委員会が、verdipersta群の無益性を認定したため。

脳における酸化ストレスや炎症のドライバーとなるミエロペルオキシダーゼを阻害する経口剤で、18年にアストラゼネカからライセンスしたが、リード・インディケーションであった多系統萎縮症の第3相も昨年フェールした。

Biohavenは5月にファイザーに買収されることで合意したが、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)阻害剤以外の事業は、先日、社名を継承して、スピンアウトされた。パイプラインは既に様々な適応の第3相がフェールしたものが多く、船出は難航しそうだ。

尚、HEALEY ALSはUCBのC5阻害剤zilucoplanの群もフェール。Clene(Nasdaq:CLNN)の金ナノパーティクル懸濁液CNM-Au8の成否は10月3日に発表される予定。オランダのPrilenia Therapeuticsのシグマ1受容体アゴニストpridopidineとSeelos Therapeutics(Nasdaq:SEEL)のSLS-005(trehalose、点滴静注)も進行中。プラットフォーム試験なので逐次、別の薬の群が設定されることになる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


DMDの遺伝子療法を承認申請
(2022年9月29日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRP)は、SRP-9001(delandistrogene moxeparvovec)をDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)用薬として米国で承認申請したと発表した。SRP-9001ジストロフィン蛋白量の増加と、外部対照機能評価に基づく加速承認を求めた。

Nationwide Children's Hospitalからライセンスした遺伝子療法で、ジストロフィンの遺伝子をほぼ1/4に短縮したものをAAVrh74ベクターで導入、筋細胞、心細胞、横隔膜に特異的に発現させる。米国外はロシュ(日本は中外製薬)が開発販売権を持っている。

フェーズIVコミットメントとなる第3相EMBARK試験は120人の患者を組入れて52週後のNSA総スコアを偽薬群と比較する。23年末頃に結果が出る見込み。

アデノ随伴ウイルスをベクターとする遺伝子療法は補体系活性化などの有害事象が懸念材料となっている。SRP-9001では発生していない模様だが、横紋筋融解症やトランスアミナーゼ上昇、心筋症の症例が発生している。

リンク: 同社のプレスリリース


バイオマリン、A型血友病の遺伝子療法を再申請
(2022年9月29日発表)

バイオマリンファーマシューティカル(Nasdaq:BMRN)は、valoctocogene roxaparvovecを重度A型血友病用薬として米国で再承認申請したと発表した。1巡目の審査は審査完了となったが、FDAが要求した、量産用プロセスで製造された試験薬を用いた第3相の2年追跡データを取得したことや、8月にEUで条件付き承認を取得したことを考えると、朗報が期待できそうだ。

A型血友病で欠乏する第8因子の遺伝子をAAV5ベクターで導入する。効果は経年低下するように感じられ、EUも長期追跡データがまとまった後で承認した。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

活性化PI3Kデルタ症候群用薬を承認申請
(2022年9月28日発表)

オランダのPharming(Euronext Amsterdam:PHARM/Nasdaq:PHAR)は米国でleniolisibを12歳以上のAPDS(活性化PI3Kデルタ症候群)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年3月29日。EUでも10月に申請する予定で、既に加速審査指定を受けている。

APDSは100万人当たり1~2人の希少原発性免疫不全疾患。白血球の成熟に係る遺伝子の変異により、PI3Kデルタが異常活性化、副鼻腔感染やリンパ球増殖、自己免疫、肺損傷など様々な症状が現れる。症状だけでは確定できず、発症から診断まで7年かかると言われる。

leniolissibはノバルティスがCDZ173として承認申請用試験を実施した経口PI3Kデルタ阻害剤で、Pharmingは既存製品の販売チャネルを活用できることなどから19年にライセンスした。第2/3相試験の第3相部分では、70mgを一日二回、85日間投与したところ、リンパ節腫脹病変やナイーブB細胞比率が有意に改善した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


FDA、大鵬の胆管癌用薬を承認
(2022年9月30日発表)

FDAは大鵬薬品のLytgobi(futibatinib)をFGFR2遺伝子融合などのある切除不能/局所進行/転移肝内胆管癌用薬として加速承認した。治療歴のある成人が適応になる。103人を組入れたFOENIX-CCA2試験でORR(客観的反応率、独立中央評価)が41.7%、メジアン反応持続期間は9.7ヶ月だった。警告・事前注意事項は、網膜色素上皮剥離、高リン血症とそれに伴う軟組織などの石灰化、そして胚胎毒性。

20年に開始された第3相一次治療実薬対照試験がフェーズIVコミットメントと推測される。

汎FGFR阻害剤で、日本でも7月に承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース


FDAがALS治療薬を承認
(2022年9月29日発表)

FDAはAmylyx(Nasdaq:AMLX)のRelyvrio(sodium phenylbutyrate、taurursodiol)を成人のALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認した。同社の共同CEOであるJustin Kleesが、第3相がフェールしたら承認返上も含めて患者に最適な対応を取ると諮問委員会で言明したこともあり、当方は加速承認を予想していたが、本承認だった。カナダでは6月にAlbrioza名で条件付き承認されている。価格は田辺三菱製薬のedaravoneより若干安い年15.8万ドルと、米国の費用対効果評価機関であるICER(Institute for Clinical and Economic Review)が妥当とみなした30000ドルを大きく上回った。

尿素サイクル異常症の治療に用いられているフェニル酪酸ナトリウムを3g、癌発性胆汁性肝硬変の治療に用いられOTCサプルメントとしても販売されているタウロオルソデオキコール酸を1g、含有する固定用量合剤で、水に溶かした懸濁液を経口/経栄養チューブ投与する。最初の3週間は一日一回、その後は二回投与する。発症18ヶ月以内の137人を組入れた第2相CENTAUR試験では、ALSFRS-R(機能評価スコア)が24週後に7ポイント悪化したが、偽薬群の9ポイント悪化より有意に小さかった。群間差は2.32で、edaravoneの試験の2.49とそれほど変わらない。

尤も、エビデンスは明確ではない。。ALSFRS-Rは早期段階の患者と進行した患者で進行ペースが異なる可能性があるため、調整した分析ではp=0.11とフェールした。副次的評価項目もフェールした。同時使用薬の影響もグレーだ。ベースライン時点で被験者の28%がedaravoneとriluzoleの両方を、77%がどちらかを、使用していたが、群間の偏りがあり、そのせいか、期中開始例にも偏りがあった。

このため、3月に開催された諮問委員会では否(6名)が是(4名)を上回った。審査完了通知が予想されたが、意外なことに、9月に再招集され、7対2で賛成が上回った。3月の委員会でも、難しい判断だが、と前置きする委員が多かったのだが、今回、肩を押したのは、上記のCEOの発言と、ニューロサイエンス部門のディレクターであるBilly Dunnが、難病であるALSに関する承認審査にはフレキシビリティが必要と主張したことだ。

DunnはバイオジェンのAduhelm(aducanumab-avwa)に関しては諮問委員会を説得することはできなかったが、ALSは死に至る病気なので同列に論ずることはできない。逆に、Aduhelmは上役の説得に応じて本承認ではなく仮承認に譲歩を余儀なくされたが、今回は、本承認だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース


デュピクセントが結節性痒疹に適応拡大
(2022年9月28日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズとサノフィは、Dupixent(dupilumab)を成人の結節性痒疹の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。日欧でも申請中。

2週毎皮注した第3相試験二本で、24週治療後の痒み改善奏効率が一本は58%(偽薬群は20%)、もう一本では60%(同18%)だった。病変部位の治癒率も40%台と偽薬群の10%台を上回った。有害事象は鼻咽頭炎や結膜炎、ヘルペス感染など。

IL-4受容体αサブユニットに結合する抗体医薬で、アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症、好酸球性食道炎、鼻ポリープにも米国などで承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのリリース(2/19付)


エイベリス点眼液が米国でも承認
(2022年9月26日発表)

参天製薬とUBEは、FDAがOmlonti(omidenepag isopropyl)を原発開放隅角緑内障または高眼圧症の眼圧抑制薬として承認したと発表した。点眼用プロスタグランジンEP2受容体作動剤で、臨床試験では効果がプロスタグランジンF2アルファ誘導体のlatanoprostやベータ・ブロッカーのtimololと非劣性だった。

UBEが合成、参天製薬と共同開発し、日本で昨年8月にエイベリス名で承認取得。米国では昨年2月に申請が受理されたが、製造委託先で別の薬に関するcGMP問題が発覚、一巡目は審査完了となっていた。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)

【医薬品の安全性】


リムパーザの4次治療データ
(2022年月日発表)

アストラゼネカはPARP阻害剤Lynparza(olaparib)の数多くの適応症のうち、BRCA変異陽性白金感受卵巣癌の4次治療を米国で返上したが、裏付けとなるデータがIGCS(国際婦人科癌学会)で発表された。他のPARP阻害剤メーカーも同様な承認返上を行っている。

適応返上は、加速承認された時のフェーズIVコミットメントの一つであるSOLO-3試験の全生存期間の解析が好ましくない結果になったため。3次治療以降の患者約220人をLynparza群と非白金薬群に無作為化割付してORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)を比較したところ、各72.2%と51.4%だった。副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)はメジアン13.4ヶ月と9.2ヶ月でハザードレシオ(HR)0.62と、大変良い結果になった。

ところが、Leathらの抄録(IGCS 2002 LB001)によると、4次治療以降のサブグループのメジアン生存期間は各29.9ヶ月と39.4ヶ月でHR1.33(95%信頼区間0.84-2.18)だった。元々検出力不足である全生存期間の、事後的サブグループ分析なので、統計的に有意ではないことよりも、リスクが2倍以上である可能性が否定されていないことを重視すべきなのだろう。

3次治療サブグループのメジアン生存期間は各37.9ヶ月対28.8ヶ月、HR0.83(同0.51-1.38)と悪くはなさそうな数値になっている。奇妙なのは、化学療法群のメジアン生存期間が4次治療以降の患者の数値より良いこと。患者背景の偏りや進行後の治療の違いなどが影響しているのかもしれないが、Lynparzaではなく化学療法のデータがおかしい可能性もあるだろう。何れにせよ、薬に関しては疑わしきは罰するべき、であるが。

リンク: IGCC 2022抄録集のリンク
リンク: アストラゼネカの適応一部返上通知


PRAC、terlipressinのリスク対策を発表
(2022年9月30日発表)

EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス・リスク評価委員会、PRACは、選択的バソプレシン1阻害剤terlipressinで新たに浮上したリスクを抑制するための対策を発表した。中央手続きではなく個々の加盟国で承認されている薬であるためか、CHMPの評価を経ずにDHCPレター(直接的医療従事者向け通知)を発出する予定のようだ。

terlipressinは米国で9月に1型肝腎症候群治療薬として承認されたばかりだが、欧州などでは以前から用いられている。呼吸不全などの副作用を持つことが知られていたが、Wongらが行った臨床試験で発生率が11%とこれまで考えられていたより多かった。New England Journal of Medicine誌に刊行された論文によると、90日以内に呼吸器疾患によって死亡した患者の比率も11%と偽薬群の2%を大きく上回った。また、敗血症のリスクも顕在化した。

このため、PRACは、慢性肝疾患が急悪化している患者や急性腎不全に用いるのは避けること、呼吸障害がある患者場合は投与開始前に治療すること、治療中とその後は呼吸不全や感染症の兆候や症状を監視すること、を勧告した。リスクを抑制するためにボーラス投与ではなく連続点滴投与を考慮しても良い。


リンク: EPRACのプレスリリース
リンク: Wongらの治験論文(NEJM)




今週は以上です。