2020年12月25日

第979回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • Rhythm社、MC4Rアゴニストの適応拡大試験が成功 
  • ロシュ、Ang2/VEGF-A二重特異抗体のDME試験が成功 
  • BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール 
  • 抗TSLP抗体の経口ステロイド減量試験がフェール 
  • アステラス、ゾスパタの一次治療試験がフェール 
  • JNJ、BCMA標的CAR-Tのローリング申請に着手 
  • ビベグロンが米国でも承認 
  • FDA、第2のエボラ治療薬を承認 

訂正:第978回で、BioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチンについて、規格上はバイアル一瓶が5回分だが実際にはもっと入っていてFDAが使い残しを集めて使うことを認めた、と書きましたが、正確には、6回分または7回分を取れる場合は使うことを容認しましたが、保存剤不添加のため、異なったバイアルの使い残しを寄せ集めて一回分に充てることは認めませんでした。お詫びして訂正します。第978回は修正済みです。

【新薬開発】


Rhythm社、MC4Rアゴニストの適応拡大試験が成功
(2020年12月22日発表)

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)はImcivree(setmelanotide)の第3相バルデー・ビードル症候群(BBS)・アルストレム症候群(AS)試験が成功したと発表した。主評価項目の体重10%減少奏効率は34.5%となり、平均では6.2%減量となった。但し、ASにおける効果は確認できなかった。

この試験はBBSを32人とASを6人組入れて、52週間に亘って一日一回皮注する効果を検討した。但し、一部の患者は偽薬を14週間続けた後に試験薬を遅延開始した。薬効解析対象は52週間の治療を完了した28人と遅延開始群(試験薬の投与は52週間未満)の3人を合わせた31人。

BBSは28人中11人、39%が奏功した。ASは3人の何れも奏功しなかった。治療時発現有害事象は注射箇所反応と悪心嘔吐などで、深刻なものはなかった。有害事象による治験離脱は5人で、うち1人は偽薬期間中の離脱だった。

Imcivreeはメラノコルチン4受容体アゴニスト。今年11月に米国でPOMC、PCSK1、またはLEPRの欠乏による肥満症の体重管理薬として承認された。米国の対象患者数は数百人から数千人の超希少疾患用薬で、優先審査バウチャを取得した。欧州でも承認審査中。

BBSとASは常染色体性劣性遺伝性疾患で、肥満は症状の一つ。BBSの米国患者数は2000人程度と推測されている。

リンク: 同社のプレスリリース

ロシュ、Ang2/VEGF-A二重特異抗体のDME試験が成功
(2020年12月21日発表)

ロシュは、RG7716(faricimab)の第3相糖尿病性黄斑浮腫(DME)試験が二本とも成功したと発表した。6.0mgを8週毎に硝子体注射する群と、投与頻度を16週毎まで広げることが可能なフレックス群の1年後の最良矯正視力を、実薬であるリジェネロン・ファーマシューティカルズ/バイエルのEylea(aflibercept、和名アイリーア)を2.0mgを8週毎に硝子体注射する群と二重盲検で比較したところ、非劣性が確認された。また、フレックス群では1年経った段階で過半の患者が16週毎投与に移行していた。

RG7716はAngiopoietin-2とVEGF-Aに結合する二重特異抗体。VEGF-AとPlGFに結合するEyleaより効果が高いのかと思ったが、それほどでもなさそうだ。Eyleaもフレックス法が可能なので、米国では未承認のようだがフレックス同士の直接比較も見たかった。

RG7716は加齢性黄斑変性の第3相も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール
(2020年12月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第3相CheckMate-548試験の独立データ監視委員会が延命効果を確認することはできないであろうと判定したことを公表した。盲検解除する予定。

この試験は多形性膠芽腫(GBM)の切除後の標準的アジュバント療法にOpdivoを追加する効用を検討した。代表的なGBM用薬であるtemozolomideはMGMT(DNAの修復に係る酵素)のプロモーター部位がメチル化されているタイプには効果が高いがされていないタイプには弱いとされる。このため、BMSは前者のタイプは548試験に組入れて放射線療法とtemozolomideによる化学療法の併用にOpdivoを追加する手法を偽薬追加と比較し、後者のタイプは498試験で放射線療法にOpdivoを追加する手法とtemozolomide追加を比較した。結果は思わしくなく、498試験は昨年5月に主評価項目である全生存期間の解析がフェールした。548試験も昨年9月、共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がフェールした。

残りの共同主評価項目である全生存期間は全症例とベースライン時点でコルチコステロイドを使っていない患だけの解析が行われたが、今回、どちらも目的達成できない見込みになった。尚、治験中止につながるような安全性懸念は観察されていない。

Opdivoは二次治療bevacizumab対照試験もフェールした。脳腫瘍に有効な新薬はなかなか現れない。

リンク: 同社のプレスリリース

抗TSLP抗体の経口ステロイド減量試験がフェール
(2020年12月22日発表)

アストラゼネカとアムジェンは、AMG 157/MEDI9929(tezepelumab)の第3相SOURCE試験がフェールしたと発表した。吸入ステロイドや長期作用性ベータ作用剤に加えて経口ステロイドも服用している重度喘息症患者を組入れて、更に偽薬または210mgを4週毎に皮注して、喘息発作が起きないよう管理しながら経口ステロイドの服用量を減らすことを試みたが、有意な差がなかった。治験デザインが適切でなかった可能性があるようだ。

tezepelumabはアレルギー性疾患のマスタースイッチとも形容されるTSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)に結合する抗体医薬で、IL-4やIL-5、IL-13などTh2細胞性サイトカインを広範に抑制する。重度喘息症の喘息増悪を抑制する効果を検討した第3相NAVIGATOR試験が成功したので、後期第2相試験と合わせて承認申請に向かうものと推測される。好酸球増多を伴う喘息症だけでなく、150個/mcL未満と低値の喘息症にも有効であることが長所。但し、今回のフェールは訴求力の点で減点材料になりそうだ。

12年にアストラゼネカがアムジェンから共同開発販売権を取得した。

リンク: 両社のプレスリリース

アステラス、ゾスパタの一次治療試験がフェール
(2020年12月21日発表)

アステラス製薬は、Xospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)の第3相急性骨髄性白血病一次治療試験の独立データ監視委員会が無益性により中止勧告したことを明らかにした。FLT3変異陽性を持つ集中治療不適な患者にazacitidineと併用するレジメンの延命効果をazacitidine単剤とオープンレーベルで比較したが、目的達成の可能性は著しく低いと認定された。

XospataはFLT3阻害剤。18~19年に日米欧で再発難治FLT3変異陽性急性骨髄性白血病に用いることが承認された。一次治療試験のほかに二次治療試験や寛解導入療法後/造血幹細胞移植後の維持療法試験なども進行している。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdf)


【承認申請】


JNJ、BCMA標的CAR-Tのローリング申請に着手
(2020年12月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、JNJ-68284528(ciltacabtagene autoleucel)を再発難治多発骨髄腫用薬として米国でローリング承認申請に着手した。中国系のLegend Biotech(Nasdaq:LEGN)からライセンスしたCAT-T(キメラ抗原受容体T細胞)で、ブルーバード・バイオ/BMSが7月に承認申請したidecabtagene vicleucelと同様に、多発骨髄腫細胞で高発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的としている。

3次までの治療歴を持ち最終治療抵抗性の多発骨髄腫を日米の施設で組入れた試験の97人のデータが今年のASH(米国血液学会)で発表された。ORR(客観的反応率、独立評価委員会判定)は95%、CAR-T特有の副作用であるサイトカイン放出症候群の発現率は95%と高く、G3-G4は5人とそれほど多くなかったが、G5が1例あった。治療関連有害事象による死亡も6例あった。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


ビベグロンが米国でも承認
(2020年12月23日発表)

大日本住友製薬が昨年、子会社化し来年第1四半期にも完全子会社化する予定のUrovant Sciences(Nasdaq:UROV)は、FDAがGemtesa(vibegron)を承認したと発表した。成人の切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱の治療に用いる。臨床試験では切迫や失禁の頻度を偽薬比有意に抑制した。実薬であるtolterodineを投与する群も設定され、Gemtesaとの正式な比較は行われていないが、数値上は同程度の効果だった。

8年早く承認されたアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron、和名ベタニス)と同じベータ3作用剤。血圧上昇や高血圧の有害事象発現率が偽薬並みでCYP2D6相互作用もない点が長所。MSDからライセンスした。日本ではキョーリンが18年にベオーバとして承認取得、キッセイと共同開発販売している。

リンク: Urovantのプレスリリース

FDA、第2のエボラ治療薬を承認
(2020年12月21日発表)

FDAは、Ridgeback BiotherapeuticsのEbanga(ansuvimab-zykl、通称mAb114)をザイール種エボラウイルス疾患の治療薬として承認した。コンゴ民主共和国(旧ザイール)で行われた開発品同士の直接比較試験で、28日死亡率が35.1%と対照群(Mapp Biopharmaceuticalの3種類の抗体カクテルであるZMapp)の49.7%を有意に下回った。尚、10月に承認されたリジェネロン(Nasdaq:REGN)の3種類の抗体カクテル、Inmazebは33.5%で対照群(ZMappの追加設定群)の51.3%を有意に下回った。一方、ギリアド(Nasdaq:GILD)のremdesivirは53.1%で有意差がなかった。尚、ZMappの効果は確立していないので上記は偽薬と読み替えるのが保守的である。

臨床試験で観察された有害事象はエボラの症状と類似しており、副作用かどうかは明確ではない。

RidgebackはSAC Capitalなどヘッジファンドの出身者が設立した新薬開発会社。Ebangaはコンゴ民主共和国で感染後に回復し生き残った人の血清から単離された抗体で、NIH(米国立衛生研究所)から権利を取得、NIHの下部組織から助成を受け、開発した。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

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