2020年12月11日

第977回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:FDA諮問委員会がBNT162b2ワクチンの承認を支持 
  • COVID-19:英国でワクチン接種後にアレルギー反応3例発生 
  • COVID-19:オックスフォード大/アストラゼネカのワクチンは高齢者に効くのか? 
  • TG社、糖鎖装飾抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功 
  • イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤の最初の第3相が成功 
  • ASH:ノバルティス、慢性骨髄性白血病新薬の第3相結果を発表 
  • ASH:イエスカルタは低悪性度非ホジキンリンパ腫にも有効 
  • FDA:MRI検査ではマスクの金属を確認すべし


【今週の話題】


COVID-19:FDA諮問委員会がBNT162b2ワクチンの承認を支持
(2020年12月10日開催)

FDAはVRBPAC(ワクチン等生物学的製品諮問委員会)を招集して、ファイザーがCOVID-19ワクチンとしてEUA(非常時使用認可)を求めたドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)が創製したBNT162b2について、意見を聞いた。賛成17名、反対4名、棄権1名となり圧倒的多数が『便益が危険を上回る』、即ち承認に値すると評価した。先に非常時使用認可/条件付き承認した英国やバーレーン、カナダに続いて、米国でもEUA承認・接種開始となりそうだ。

尚、英国で発生したアナフィラキシーについても言及されたようだが、次項でまとめて取り上げる。

BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを一部修飾しリピッド・ナノパーティクルに封入したmRNAワクチン。30mcgを21日置いて2回、筋注する。

16歳以上の健常者約43000人を組入れた第2/3相評価者盲検試験で、症候性COVID-19感染症のリスクを偽薬比95%削減した。但し、追跡期間は2回目の接種の7日後から起算して1.5ヶ月程度であり、半年後、1年後、2年後の予防効果は明らかではない。1~2年に一回接種と想定する声もあるようだ。偽薬群のボランティアの人権を考えれば、承認後に接種するのを禁じる訳にはいかないので、接種者を長期追跡して発症者がいつ頃から増えるか見当をつけるしかないだろう。

忍容性は、深刻有害事象の発生率は0.5%未満と低く、例えば1億人が接種したとすると50万人未満となる。G3以上の有害事象は疲労や頭痛の発生率が各3.8%と2.0%となっている。もっと軽い副反応は多くが経験する。注射箇所反応(84%)、疲労(63%)、頭痛(55%)、筋痛(38%)、悪寒(32%)、関節痛(24%)、発熱(14%)などで、これらの多くは、一回目より二回目の接種後のほうが発生率が高い。尚、欧米ではインフルエンザ・ワクチンも筋注で、慣れているので、日本人とは注射時の感じ方が異なるかもしれない。

ワクチン群でベル麻痺が4例発生、偽薬群はゼロより多かったが、人口全体の発生率と比べると決して高くないとのことだ。

追跡期間が短いことを除けば効果や忍容性に大きな問題はなく、毎日多くの米国人が死亡していることを考えれば承認しない危険を看過できないので、圧倒的多数が支持したのは頷かれる。

棄権1名は、16-17歳の接種実績が限定的であるため適応を18歳以上とすることを提案したが認められなかった。反対4名の中にも同じ理由で反対した委員がいそうだが、1名は、mRNAワクチンという新しい技術を採用しているので長期的な安全性を確認すべきであり、また、接種後に感染すると重症化しやすくなるワクチン誘導性疾患増強の懸念を十分に検討すべきという考えのようだ。

尚、HHS(米国保健福祉省:FDAの上部組織)でワクチンを担当している委員は反対票を投じた。自由闊達に自分の意見を表明できる国は羨ましい。政府の方針に反対しても学術会議から爪弾きされないのだろう。

英国のアナフィラキシー事例に関連して、卵アレルギーやピーナツアレルギーを対象に安全性確認試験を行うよう求める意見もあった。ということは、米国は英国と異なり、他のワクチンや薬品、食品に重度アレルギー反応歴を持つ人も、少なくとも現時点では、禁忌にしない考えなのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:英国でワクチン接種後にアレルギー反応3例発生
(2020年12月9日発表)

英国は12月8日にがファイザーと共同開発したCOVID-19ワクチン、BNT162b2の接種を開始したが、初日にアナフィラキシーが疑い例を含めて3例、報告された。何人が接種したのかは明らかではないが、当初は1日5000~7000人に接種する計画なので、1000人中3人程度の頻度なら想定外ではないだろう。

英国の添付文書や米国の諮問委員会用ブリーフィング資料には記されていないが、報道によると、第2/3相試験におけるアレルギー反応系有害事象発生率は0.63%で、偽薬群は0.51%だったからだ。

その多くは軽中等症だった。深刻例はアナフィラキシー反応・アナフィラキシーショックが両群1名ずつ、薬品過敏症は1名対偽薬群ゼロと、頻度の差は1万人当たり1~2人だ。

但し、この試験では過去にワクチンを接種して重症アレルギー反応を経験した人は除外されている。報道によると、英国の3例のうち疑い例を除く2例は、何れもNHS(国民医療制度)のスタッフで、重度アレルギーの既往があるのか、EpiPenなどのアドレナリン製剤を携帯していたという。何のアレルギーなのか、本当にワクチンのせいなのかは明らかではないが、少なくとも、臨床試験のデータを引用して議論できる症例ではないだろう。幸い、この2人は軽快したようだ。

本件を受けて、MHRA(英国の薬品承認審査機関)は、以下の勧告を行った。

・ワクチンや医薬品、食品に関する即発性アナフィラキシー歴を持つ人は接種すべきではない。一回目の接種でアナフィラキシーが生じたら二回目を接種すべきではない。
・ワクチン接種後に15分間(必要と臨床判断した場合は更に長時間)、モニターする。アナフィラキシーが発生した場合は直ぐにアドレナリンを0.5mg筋注し、支援を求めるとともに、5分ごとに投与を繰り返す。
・他のワクチンと同様に、蘇生機器を備えた施設で接種する。

ついでに付記すると、英国の添付文書的資料では妊婦を禁忌とはしていないが、MHRAは、前臨床試験の結果が明らかになるまで、妊娠や授乳している人は接種しないよう勧告していることが分かった。二回目の接種の2ヶ月後まで妊娠しないようにする。妊娠したかもしれないが未だ分からないというような人はどうすればよいのかは、アドバイスはない。

リンク: MHRAのプレスリリース

COVID-19:オックスフォード大/アストラゼネカのワクチンは高齢者に効くのか?
(2020年12月8日発表)

オックスフォード大学が創製しアストラゼネカと共同開発しているCOVID-19ワクチン、AZD1222の第2/3相試験論文がLancet誌に刊行された。事前に予定していた用量を接種した群ではワクチン効率が62%(95%信頼区間41.0-75.7%)とmRNAワクチンの90%超と比べて見劣りするが、アクシデントにより初回に半量しか接種できなかった2741人は90%(95%CI67.4-97.0)という意外な結果だったため、原因に関する考察が注目されたが、良く分からないようだ。

一番意外だったのは、高齢者に関するサブグループ分析が載っていないこと。56歳以上は全被験者の12%と少ないので自粛したのかもしれないが、ワクチン接種が始まった場合、最優先になるのは高齢者と医療・介護従事者であることを考えれば、無責任といわれてもしかたないだろう。

特に、アストラゼネカが一番評価している初回半量、二回目全量接種した群は、全て18~55歳であり、このレジメンが56歳以上に有効であることを示すエビデンスはないことになる。

同社はEUやカナダで非常事態使用認可/ローリング承認を申請しているが、米国は米国試験の結果が出るのを待つ考え。米国試験も二回とも全量投与したはずなので、初回半量・二回目全量接種レジメンのエビデンスにはならない。困ったものだ。インドは承認しなかったと報じられているが、他の国はどうするのだろうか。

リンク: Merryn Voyseyらの治験論文(Lancet、オープンアクセス、pdfファイル)


【新薬開発】


TG社、糖鎖装飾抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功
(2020年12月10日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、TG-1101(ublituximab)の第3相再発型多発性硬化症試験が成功したと発表した。21年央に承認申請する考え。

TG-1101は糖鎖を装飾してADCC(抗体依存性細胞障害)を増強した、CD20を標的とするIgG1型キメラ抗体。他の抗CD20抗体とは結合するエピトープが異なるようだ。

同社が開発中のPI3Kデルタ阻害剤、TGR-1202(umbralisib)と併用した第3相慢性リンパ性白血病実薬対照試験が成功、年内に承認申請の計画だが、抗CD20抗体のもう一つの用途である多発性硬化症も、今回、第3相が二本とも成功した。96週間のARR(年率再発頻度)が0.10を下回り、対照薬であるサノフィのAubagio(teriflunomide)より50~60%低かった。

他の抗CD20抗体より効果が高そうには見えないが、例えばロシュのOcrevus(ocrelizumab)と比べると、投与頻度は最初の2回は二週おき、その後は6ヶ月おきで同じだが、点滴静注時間が初回(150mg)は4時間以上かけるが、2回目以降(450mg)は1時間と短いことが長所だ(Ocrevusは最初の2回は2.5時間以上、3回目からは2時間以上かけて投与)。

リンク: 同社のプレスリリース

イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤の最初の第3相が成功
(2020年12月9日発表)

イーライリリーはLY3298176(tirzepatide)の第3相二型糖尿病試験を数多く実施しているが、モノセラピー試験の成績が発表された。アメリカ、メキシコ、インド、日本の医療施設で血糖治療薬を服用していない二型糖尿病患者478人を偽薬、5mg、10mg、15mgの4群に無作為化割付し40週間に亘って週一回皮注したところ、Hb1Ac(ベースライン値は7.9%)が各群0.0%、1.9%、1.9%、2.1%低下した。試験薬群はいずれも偽薬比有意。体重(ベースライン値は85.9kg)も各群0.9%、7.9%、9.3%、11.0%と偽薬比有意に低下した。

尚、この試験では2.5mgで開始して4週毎に2.5mgずつ増量する用法が採用されている。

試験薬各群の有害事象による治験離脱率は7%未満。重度低血糖は発生しなかった。尚、この試験はCOVID-19の影響で有害事象以外による離脱が通常より多かった。

薬効は後期第2相試験と概ね同様な結果であり、順調な進捗と言えるだろう。

LY3298176はGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体を作動する。後期第2相では同社のGLP-1作用剤、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)よりHbA1c低下や体重減少が大きかった。一方で、クラス・イフェクトである悪心嘔吐などの胃腸系有害事象の発現率は10mg群と15mg群でTrulicityより高かった。

リンク: 同社のプレスリリース

ASH:ノバルティス、慢性骨髄性白血病新薬の第3相結果を発表
(2020年12月8日発表)

ノバルティスは8月にABL001(asciminib)の第3相試験成功を発表したが、ASH(米国血液学会)でデータを公表した。反応率がファイザーのBosulif(bosutinib、和名ボシュリフ)を有意に上回った。21年上期に承認申請する考え。

ABL001は慢性骨髄性白血病(CML)の多くで見られるBCRとABLの遺伝子融合(フィラデルフィア転座)を標的とするBCR-ABL阻害剤。同社のGleevec(imatinib)などとの違いは、ABLのATPポケットではなくミリストイル・ポケットに結合するアロステリック・インヒビターであること。既存薬抵抗性変異に対する効果が期待されている。

今回のACEMBL試験はフィラデルフィア転座陽性のCMLで慢性フェーズにあるが2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤歴を持ち最終治療不応不耐の成人233人を、40mgを一日二回経口投与する群と、Bosulif 500mgを一日一回経口投与する群に2対1割付して24週間治療したオープンレーベル試験。MMR(分子遺伝学的大奏効)が25.5%対13.2%、p=0.029と有意に上回った。

ABL001群はベースライン時点で最終治療不応患者や3次以上の治療歴を持つ患者の比率がBosulifより低かったが、これらの点を修正した分析でもオッズ比が2.38(95%信頼区間1.06-5.35)と優越性が支持された。

G3以上の有害事象の発現率は各50.6%対60.5%。発現率10%以上はABL001群が血小板減少症と好中球減少症、Bosulif群はALT上昇、好中球減少症、下痢だった。有害事象による治験離脱率は各5.8%と21.1%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

ASH:イエスカルタは低悪性度非ホジキンリンパ腫にも有効
(2020年12月5日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は9月にYescarta(axicabtagene ciloleucel、和名イエスカルタ)を難治・再発濾胞性リンパ腫および辺縁帯リンパ腫の三次治療薬として米国で適応拡大申請したが、エビデンスとなる第2相ZUMA-5試験の成績がASH(米国血液学会)で発表された。

低悪性度非ホジキンリンパ腫で二次以上の前治療歴を持つ104人に施行したところ、ORR(客観体反応率)は92%、CR(完全反応)は76%だった。内訳は、濾胞性リンパ腫84人では各94%と80%、辺縁帯リンパ腫20人では85%と60%だった。CAR-Tに付き物のG3以上サイトカイン放出症候群の発生率は7%、同じく神経学的有害事象は19%だった。有害事象後の死亡例は3人で、うちサイトカイン放出症候群から多臓器不全を合併した1人が治療関連と見なされた。

Yescartaは、B細胞などで発現するCD19に結合する抗体の一部やT細胞に活性化刺激を送るCD3やCD28の一部を患者から採取したT細胞に導入した、CAR-T(キメラ抗原受容体)療法。17年に米国で難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として承認された。日本は第一三共がライセンス、今月、部会で複数の適応での承認が了承された。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA:MRI検査ではマスクの金属を確認すべし
(2020年12月7日発表)

FDAはMRI検査に関する安全性連絡を発出した。顔にマスクと同じ形の火傷を負った症例が報告されたことを機に、改めて、患者が装着しているマスクにワイヤーやホチキス針、ナノパーティクル、銀や銅などを含む抗微生物コーティングが施されていないか、確認するよう求めた。当人が知っているとは限らないので、医療施設側でマスクを用意することを推奨した。

マスクがマストになって、不織布だけでなくおしゃれな刺繍が付いた布製マスクとか、自分は使ったことはないが銀ナノ粒子抗菌マスクとか、多彩な商品が入手できるようになり、思わぬ落とし穴が生じた。関係者は『こんなこと前から知ってる』と受け止めるだろうが、そのほうが幸いだ。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿