2020年12月31日

第980回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンが英国で供給可能に 
  • COVID-19:リジェネロンの抗体医薬は入院患者の一部には無益ではない 
  • BMS、オプジーボの小細胞性肺癌適応を撤回 
  • Aprea社、p53再活性化剤の第3相がフェール 
  • Chi-Med社、米国でもsurufatinibの承認申請に着手 
  • CARA社、透析患者の掻痒治療薬を承認申請 
  • ファイザー、ローブレナを米国でも一次治療に申請 
  • BMS、欧州でZeposiaを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請 
  • Alkermes、ALKS 3831を再承認申請 


【今週の話題】


COVID-19:アストラゼネカのワクチンが英国で供給可能に
(2020年12月30日発表)

アストラゼネカは、COVID-19 Vaccine AstraZeneca(開発コードAZD1222/ChAdOx1 nCoV-19)の非常時供給がMHRA(英国の薬品承認機関)に承認されたと発表した。医薬品規制法第174条に基づくもので、有害な病原体、毒物、化学物質、放射性物質の拡散に対処するために、未承認の薬品等の供給を一時的に容認するもの。18歳以上に、0.5mLを4-12週間おいて2回、筋注する(三角筋が好ましい)。元日から接種が始まる見込み。

先に承認された二種類のmRNAワクチンとの違いは、遺伝子組換え型複製不能チンパンジー・アデノウイルス(二重連鎖DNAウイルス)をベクターとしてスパイク蛋白の遺伝子とtPA leaderを細胞に導入、スパイク蛋白を発現させること。

英国で実施された第2/3相髄膜菌結合ワクチン対照試験とブラジルの第3相偽薬対照試験のプール分析では、ワクチン効率(リスク削減効果、効果がフルに発揮される2回目接種の14日後からの感染症例数を対照群と比較)が70%だった。一回当たり5x10^10ウイルスパーティクルを投与する。当初、至適用量の誤認があったために初回に半量しか接種しなかったサブグループのワクチン効率が90%と高かったため、アストラゼネカはこのレジメンに期待したが、MHRAは本来の用量を採用した。この用量のワクチン効率は62%程度と、先に承認された二種類のmRNAワクチンの約95%と比べて見劣りする。また、65歳以上の高齢者に関するデータは限定的だ。

接種間隔の長さが印象的だが、これは臨床試験のプロトコルを反映している。MHRAの医療従事者向け情報に掲載されている、接種間隔と二回目接種後の幾何抗体価(GMT)の関係を分析したデータ(n=819、ベースライン値は57)によると、12週以上だった154人は63,181と、9-11週、6-8週、6週未満の各サブグループより2-3倍高く、間を開けた方が良い可能性を示している。一方で、一回接種によるワクチン効率は5-6割なので、二回目接種までのプロテクションが手薄になる。

有害反応は一回目より二回目のほうが軽微で発現率が低い由。mRNAワクチンと逆なのが興味深い。ベクターや接種間隔の違いが影響したのかもしれない。

アストラゼネカのワクチンの長所は、第一に、通常の冷蔵庫で最長6ヶ月、保存可能であること。第二に、オリジンがオックスフォード大学であるためか、アストラゼネカは儲けゼロで供給すること。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: MHRAの医療従事者向け情報

COVID-19:リジェネロンの抗体医薬は入院患者の一部には無益ではない
(2020年12月29日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-COV2(casirivimabとimdevimab)のCOVID-19入院患者試験のアップデートを行った。ハイフロー酸素や人工呼吸器装着の患者の成績が今一つだったため、新規組入れはローフロー酸素(鼻カニューレにより酸素飽和度が93%超)の患者に限定されたが、そのうち、ベースライン時点で抗SARS-CoV-2抗体を保有していなかった血清陰性サブグループ217人に関して無益性検定を行ったところ、無益ではないとの結果になった。

具体的には、死亡・人工呼吸器装着のハザードレシオが偽薬比0.78、80%信頼区間は0.51-1.2、片側p<0.3となった。一回点滴投与するが、一週間後の時点ではリスクが半減していた。この試験は標準療法アドオン試験で、remdesivirもコルチコステロイドも被験者の7割前後が使用していた。

用量は8g群と2.4g群が設定されたが、効果は用量相関がなく、上記は二群合計を偽薬と比べたもの。高用量は注射箇所反応やそれによる離脱がやや多く、2.4gがベストということになる。米国でEUA(非常時使用認可)を受けている軽中等症外来患者に対する用量も2.4g。

尚、血清陽性サブグループ270人ではハザードレシオが0.98と、便益が見られなかった。

REGN-COV2は外来試験でも血清陽性患者には十分な効果がなかった。EUAの適応は血清陰性に限定されていないが、エビデンスが重なるにつれて見直されるだろう。

入院患者試験は全滅は免れたが、95%ではなく80%信頼区間でも1を跨いでおり、今回のサブグループ解析でも有意性はない。解析対象症例数が当初の予定より大きく減少したため検出力不足に陥ったのかもしれない。オックスフォード大学が入院患者を対象とするRECOVERY試験を行っており、リジェネロンがハイフロー酸素・人工呼吸器患者の組入れを中止した後もプロトコルを変えずに続行している。既に2000人以上を組入れており、ファイナル・アンサーが出そうだ。

同社とイーライリリーの抗体医薬は米国政府が購入して国民に無償で提供しているが、需要は期待外れであるようだ。外来患者は陽性判明した時点では自宅などにいるので、点滴治療を受けるためには、他者に感染しないよう細心の注意を払って、医療施設に行く必要があることがボトルネックのようだ。入院患者なら問題ないのだが、両剤とも、入院患者試験で良い結果が出ていないのが裏腹だ。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

BMS、オプジーボの小細胞性肺癌適応を撤回
(2020年12月29日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の小細胞性肺癌における米国の適応を撤回すると発表した。18年に三次治療薬として加速承認されたが、市販後コミットメントである実薬対照試験がCheckMate-331試験(二次治療のtopotecan/amrubicin対照試験)も、CheckMate-451試験(進展型小細胞性肺癌で一次治療を受け安定化した患者のYervoy併用維持療法試験)も、フェールした。

米国は第1相、第2相試験の反応率などサロゲートマーカーに基づいて加速承認する場合、市販後に延命またはそれに準じる効果を確認するよう求める。しかし、承認された用途で改めて偽薬対照試験を行うのは倫理上問題がないとは言えず、かといって実薬対照試験は優越性を確認するにはハードルが高く、非劣性検定試験は試験自体のハードルが高く制約も多いため、製薬会社のリスクが高い。このため、かっては市販後コミットメントを果たさない、加速審査の食い逃げが新興企業を中心に頻発していた。

腫瘍学諮問委員会が厳しいスタンスを取ったこともあり、加速承認する時点で市販後コミット試験の患者組入れが相当程度進展していることが求められるようになったが、今度は、フェールした時の対応が難問になった。試験のデザインや実施内容が適切でなかったことが原因かもしれないので、もう一度チャンスを与えるか、承認を取消すか、判断が難しい。11年にロシュのAvastin(bevacizumab)の転移性乳癌が適応撤回となったが、日欧では依然として承認されている。その後も市販後コミットメント試験のフェールが散見されるが、今回のように、撤回に至るのは珍しい。

Opdivoと同じ抗PD-1/PD-L1抗体ではロシュのTecentriq(atezolizumab)が進展型小細胞性肺癌の一次治療薬として19年に日米欧で承認。20年にはアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に白金薬などと三剤併用することが日米欧で承認。再発がんでも19年にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が三次治療薬として米国で加速承認と、他の治療手段が増えてきたことも適応撤回の背景になっていそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【新薬開発】


Aprea社、p53再活性化剤の第3相がフェール
(2020年12月28日発表)

p53は腫瘍抑制因子として知られているが、一部の癌では、その遺伝子であるTP53が変異して発現が減少している。p53を再活性化する手法を研究しているAprea Therapeutics(Nasdaq:APRE)は、APR-246(eprenetapopt)の第3相TP53変異型MDS(骨髄異形成症候群)試験を行ったが、フェールした。azacitidine併用とazacitidine単剤の完全寛解率を比較したところ、各33.3%(95%CI:23.1-44.9%)と22.4%(95%CI:13.6-33.4%)となり、p=0.13だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


Chi-Med社、米国でもsurufatinibの承認申請に着手
(2020年12月29日発表)

Hutchison China MediTech(AIM/Nasdaq:HCM、通称Chi-Med)は、米国でもHMPL-012(surufatinib)のローリング承認申請に着手したと発表した。21年上期に完了する予定。血管新生に係るVEGFRやFGFRに加えて、マクロファージによる免疫に係るCSF-1Rも阻害する小分子薬で、膵臓あるいはそれ以外の部位の神経内分泌腫瘍(NET)に用いる。中国で実施された第3相試験では、膵NETにおけるPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.49、非膵NETでは0.33だった。G3以上の有害事象は高血圧症や蛋白尿など。

近年、中国の新薬開発ベンチャーの米国進出が目立つが、Chi-Medも今回の申請が初になる。上記中国試験をメインに、米国試験を補助的エビデンスとして承認申請することでFDAの了解を得ている由だ。

中国では12月30日に非膵NET用薬として承認された。膵NETも審査中。欧州でも21年に承認申請の予定。

リンク: 同社のプレスリリース

CARA社、透析患者の掻痒治療薬を承認申請
(2020年12月28日発表)

米国コネチカット州のCara Therapeutics(Nasdaq:CARA)は、Korsuva(difelikefalin)をFDAに承認申請した。末梢作用性カッパ・オピオイド受容体アゴニストで、透析期慢性腎疾患患者の中重度掻痒の治療に用いる。優先審査を要求している。

週3回、12週間に亘って静注した第3相試験では、奏効率が一本では51%(偽薬群は31%)、もう一本は54%(同42%)だった。

日韓以外の国や米国のうちフレゼニウスの透析センター向けの商業化権はVifor Fresenius Medical Care Renal Pharmaが保有している。

リンク: 同社のプレスリリース

ファイザー、ローブレナを米国でも一次治療に申請
(2020年12月28日発表)

ファイザーは、Lorbrena(lorlatinib、和名ローブレナ)をALK融合遺伝子陽性の非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大申請を米国で行い受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4月だが、Real-Time Oncology Reviewの対象になったので前倒し承認もありそうだ。日本でも今月、一変申請を行った。臨床試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が同社のXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を大きく上回った。

ALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤で、18~19年にALK阻害剤歴を持つALK融合遺伝子陽性非小細胞性肺癌用薬として日米欧で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、欧州でZeposiaを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2020年12月28日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Zeposia(ozanimod)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療薬としてEUで適応拡大申請し受理された。今年3月に米国で、5月にはEUでも再発型多発硬化症用薬として承認されたS1PR1/5調節剤で、米国でも適応拡大に向かうと推測される。第3相試験では前治療が十分奏効しなかった患者を組入れて、寛解導入効果と寛解維持効果を検討した。共同主評価項目の一つである臨床的寛解奏効率は18.4%と偽薬の6.0%を有意に上回った。寛解維持率は、各群の応答者を組入れて試験薬群に関しては継続投与群と偽薬スイッチ群に再無作為化割付けすることによって、継続投与の必要性を検討したところ、継続投与群は37.0%、偽薬群は18.5%と有意な差があった。尚、偽薬群は再燃による離脱率が34%と試験薬群の14%よりだいぶ高く、試験完了率が55%と試験薬群の80%よりだいぶ低かった。

リンク: BMSのプレスリリース

Alkermes、ALKS 3831を再承認申請
(2020年12月29日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、ALKS 3831を成人の統合失調症や双極障害一型の治療薬として再承認申請し、受理された。非定型向精神薬olanapineにミュー・オピオイド受容体拮抗剤samidorphanを加えることで体重増加副作用を緩和した合剤で、11月に工場関連の理由で審査完了通知を受領したが、臨床・非臨床データに関する指摘事項はなかった模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

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