2019年11月30日

2019年12月1日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田薬品、デング熱ワクチンの第三相が成功 
  • アストラゼネカ、FDAがイミフィンジの適応拡大申請を受理 
  • インサイト、FDAがFGFR阻害剤の承認申請を受理 
  • 伝染性軟属腫治療薬が米国で承認申請受理 
  • 膀胱癌の遺伝子療法が米国で承認申請受理 
  • ロシュの脊髄筋委縮症用経口剤が米国で承認申請受理 
  • FDA、鎌状赤血球症治療薬を承認 


【新薬開発】


武田薬品、デング熱ワクチンの第三相が成功
(2019年11月25日発表)

武田薬品は、デング熱ワクチンとして開発しているTAK-003(別名DENVax)の第三相試験、TIDESの最終解析結果をASTMH(米国熱帯医学会)第68回年次学術集会で発表した。11月にNew England Journal of Medicine誌に掲載された初回解析結果と比べてワクチン効率がやや低下したが、1型と2型のウイルスに感染するリスクに関しては高い効果が再確認された。一方、3型は数値がかなり低下し、特に、ベースライン時点でデングウイルスに対する血清反応が陰性、つまり、デング熱感染経験がないと推定される青少年に関しては、ワクチン効率はマイナスだった。また、最終解析でも4型感染者は少なく、症例不足で有意な結果にならなかった。

ワクチン効率(%)
  ワクチン効率 95%信頼区間
最終解析 73.3 66.5~78.8
(初回解析) 80.2 73.3~85.3
デング熱入院 90.4 82.6~94.7
ウイルス学的に確認された重症例 2.3 -977.5~91.1
サブグループ分析:
デング感染歴あり 76.1 68.5~81.9
なし 66.2 49.1~77.5
ウイルス型別:
1型 69.8 54.8~79.9
2型 95.1 89.9~97.6
3型 48.9 27.2~64.1
(うち、感染歴あり) 61.8 43.0~74.4
(無し) -68.2 -318.9~32.4
4型 51 -69.4~85.8

TAK-003は弱毒化した2型デングウイルスをバックボーンとして1型、3型、4型の構造蛋白を導入したもの。13年にInvitragenを企業買収して入手した。90日おいて2回皮注する。TIDES試験の初回解析は初回接種後15ヶ月間、最終解析は21ヶ月間、追跡したものだが、総計では4年半追跡するので、今後、3型や4型に関する長期追跡データがまとまるかもしれない。

もう一つ重要なテーマである、未感染者がワクチン接種後に感染すると重篤化するリスクがあるのかどうかについても、サンプル数が増えるにつれて結論が出るだろう。

ワクチンを必要とする国は感染経験者が多いので、サノフィのデング熱ワクチンDengvaxiaのように経験者限定でも多くの人に便益をもたらすが、血清検査は手間や費用が掛かり、自己申告に委ねるのは、デングは自覚症状がない場合も多いようなので、誤判定の懸念を伴う。TAK-003が感染未経験者にも安全であることが確認できれば、事前検査不要になるので、武田にも公衆にも大きな意義があるだろう。

しかし、楽観するのは早いのではないか。過去にタイで行われた疫学研究では、二回目のデング感染で重症化した症例は一回目と異なる型の感染が多かった。TAK-003は2型ウイルス・ベースで、予防効果も2型に対するものが最も高く、もし『キプロスの蜂』現象が起きるなら、一回目は2型による感作となる。3型ウイルス感染症が偽ウイルス群より多かったという現象は、3型ウイルスの侵入例が多かったのではなく、医療施設で受診するほどの重さの症状が発生したことを意味する。結局、「一回目と異なる型に感染した重症例」に近い。

人々に役に立つ情報を提供する人たちは、嘘も方便とばかりに、甘い話ばかりをしてしまうことがある。だが、上手く行っているうちは良いが、良かれと思ってやっていたことが、ひとたび、『但し、』以下に言及せざるを得ない事態になった場合、大衆の信頼が不信に変わってしまう。ヒトパピローマウイルスワクチンだって、日本より先に発売された多くの国で稀だが深刻な神経性障害が報告されていた。インフルエンザワクチンで筋注に慣れている国でもそうなのだから、日本も、長所も短所もキチンと説明していれば、ワクチンとの因果性が確認されていない有害事象が表面化しても、過敏反応を誘導しなくてすんだのではないか。

閑話休題。武田は20年後半に承認申請する予定。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、FDAがイミフィンジの適応拡大申請を受理
(2019年11月29日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は20年第1四半期とだけ開示された。

小細胞性肺癌は肺癌の1~2割を占め、その2/3は進展型と診断される。申請の根拠となる第三相CASPIAN試験では、etoposideと白金薬を併用する標準療法に更にImfinziを追加したところ、メジアン生存期間が13.0ヶ月と標準療法だけの群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、統計的に有意だった。有害事象治験離脱率は両群とも9.4%だった。

尚、この試験は盲検ではなく、三剤併用群は標準療法レジメンを最大4サイクル施行、標準療法群は6サイクル施行し予防的頭蓋内照射も行った。また、抗CTLA4抗体tremelimumabと4剤併用する群も設けられた。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

インサイト、FDAがFGFR阻害剤の承認申請を受理
(2019年11月27日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、INCB54828(pemigatinib)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。治療歴を持つFGFR2融合・再編成陽性の局所進行性・転移性胆管癌に用いられる見込み。優先審査を受け、審査期限は来年5月30日。

pemigatinibは選択的FGFR(線維芽細胞成長因子受容体)阻害剤。治療歴を持つ局所進行性・転移性胆管癌の第二相試験で13.5mgを一日一回、2週間オン、1週間オフのスケジュールで経口投与したところ、FGFR2融合・再編成を持つ患者を組入れたコフォートのORR(客観的反応率、独立中央放射線学的評価)が107人中36%、メジアン反応持続期間が7.5ヶ月と、比較的良好な結果が出た。

G3以上の治療時発現有害事象は低リン血症(12%)、漿液性網膜剥離(1%)などで、臨床的に深刻なものではなかった模様。尚、軽度のものも含めれば最も多いのはG1、G2の高リン血症だった。

第三相は一次治療におけるPFS(無進行生存期間、独立評価)をgemcitabine・cisplatin併用レジメンと比較する試験を今年6月に開始した。

FGFR阻害剤は、スイスのBasilea Pharmaceutica(SIX: BSLN))がArQule(Nasdaq:ARQL)からライセンスしたderazantinibなど複数のコンパウンドの第二相FGFR2融合・再編成陽性胆管癌試験の結果が今年、発表された。pemigatinibと前後して承認申請されることになりそうだ。

リンク: インサイトのプレスリリース

伝染性軟属腫治療薬が米国で承認申請
(2019年11月27日発表)

Verrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)は、VP-102(cantharidin)局所用溶液を伝染性軟属腫治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は2020年7月13日。

伝染性軟属腫はポックスウイルスの一種に接触感染することで発生する皮膚病で、丘疹が通常は一ヶ所に群発する。治るまで1年、場合によってはそれ以上、かかることがある。米国の推定患者数は600万人で子供が多い。承認されている治療薬はない。

カンタリジンは一部の昆虫が持つ物質で、人が触れると水疱ができることを逆用し、いぼの治療などに用いられることがある。VP-102は特許性局所用溶液で、文献データなど他者のデータに頼らない505(b)(1)条項に基づく承認申請だ。尋常性疣贅などの臨床開発も進行中。

リンク: Verricaのプレスリリース

膀胱癌の遺伝子療法が米国で承認申請
(2019年11月25日発表)

スイスのフェリング・ファーマシューティカルズは、ブラックストーン系のファンドと遺伝子療法の開発販売を担う合弁会社を設立したこと、そして、当該遺伝子療法は既に米国で承認申請し受理されたことを発表した。優先審査指定を受ける。

この遺伝子療法薬は、大学研究者が創製したnadofaragene firadenovec。遺伝子組換え型アデノウイルス5型をベクターとしてインターフェロン・アルファ2bの遺伝子をin vivoで導入する。細胞感染を増強するために界面活性剤様分子Syn3を表面賦形剤として用いている。BCG不応のハイグレード筋層非浸潤性膀胱癌に3ヶ月に一回、膀胱内注入する。第三相試験の結果は12月にSUO(泌尿器腫瘍学会)で発表される予定。

フェリングは、米国承認時にFKD Therapies Oyから世界商業化権を取得するオプションを持っている。今回、米国における販売とグローバルな開発を行う会社としてFerGeneを設立、ブラックストーン・ライフ・サイエンスが4億米ドル、フェリングは最大で1.7億ドルを投資する予定。

リンク: フェリングのプレスリリース

ロシュ、脊髄筋委縮症の経口剤を承認申請
(2019年11月25日発表)

ロシュは、RG7916(risdiplam)を米国で脊髄筋委縮症(SMA)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年5月24日。欧州でも今年中に承認申請されるのではないか。

SMAはSMN1遺伝子の欠損・不全によりSMN蛋白が低下、身体機能障害が発症する。新生児で診断される場合も、成長後の場合もあり、発症が早いほど重症度が高い傾向がある。治療は過去3年間にバイオジェンがSMN2アンチセンス薬Spinraza(nusinersen)を、ノバルティスがSMN1遺伝子療法Zolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)を、相次いで発売。選択肢が増えている。

risdiplamはSMN2スプライシング修飾剤とされる。DNAを転写したRNAから必要な部分を抜き出してメッセンジャーRNAを作成するプロセスに介入して、得率が低いSMN2に基づくSMN生成を改善する。先行二剤と異なり経口液なので使いやすい。新生児発症の1型に加えて、2型、3型にも承認申請した。

元々はPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)がSMA財団と協力して研究開発したもので、ロシュは11年にPTCのSMAプログラム全体をライセンスした。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


FDA、鎌状赤血球症治療薬を承認
(2019年11月25日発表)

FDAは、Global Blood Therapeutics(Nasdaq:GBT)のOxbryta(voxelotor)を12歳以上の鎌状赤血球症の治療薬として加速承認した。審査期限より3ヶ月前倒しだ。

鎌状赤血球症は米国で10万人程度が罹患する希少疾患。アフリカ系が比較的多いとされ、世界では2000万人以上と推測されている。赤血球が鎌状に変形・重合し、毛細血管などを閉塞し疼痛や臓器障害などを合併する。Oxbrytaは前臨床で赤血球の重合・鎌状化を阻害し、変形能や流動性を改善する作用を示した。第三相試験では、一日一回、経口投与したところ、承認用量である1500mgの群では51%の患者でヘモグロビン値が1g/dL以上増加した(偽薬群は6%)。治療関連深刻有害事象の発現率は3%だった(同1%)。

FDAが10日前に承認したノバルティスのAdakveo(crizanlizumab-tmca)は、第三相で鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼを抑制する効果が確認済みだが、Oxbrytaは疼痛や臓器障害を抑制する臨床的効用が確立していないため、加速承認となった。フェーズIVコミットメントとして、年内に、2-15歳の患者を組入れてTCD(経頭蓋ドップラー)検査でフロー・ベロシティーの変化を計測する試験に着手する予定。この検査は脳梗塞リスクの評価に使えるとのことだ。

Adakveoのような対症療法よりもOxbrytaのような根源治療のほうが、将来的に根治の夢があるので、印象が良い。しかし、患者にとって重要なのは現在の苦痛や不便さ、将来の合併症の不安を解消することだ。フェーズIVが成功すれば、対象年齢拡大だけでなく薬自体のパーセプションも向上するだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GBTのプレスリリース





今週は以上です。

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