2019年11月17日

2019年11月17日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群に適応拡大申請へ 
  • ファイザー、ゼルヤンツのJIA離脱試験成功 
  • Reata、アルポート症候群の第三相試験が成功 
  • アストラゼネカ、SLE用薬の二本目のP3は成功 
  • ロシュ、SMA用薬の承認申請用試験が成功 
  • ASLAN社の汎her阻害剤は胆管癌試験もフェール 
  • アストラゼネカ、MEK1/2阻害剤を神経線維腫I型に承認申請 
  • BMS、オプジーボとヤーボイの併用を肝癌に承認申請 
  • FDA諮問委員会、EPA製剤の心血管転帰改善効果を支持 
  • FDA諮問委員会、ジャディアンスに関しても一型糖尿病には反対 
  • CHMP、クッシング症候群の新薬などに肯定的意見 
  • FDA、ノバルティスの鎌状赤血球症治療薬を承認 
  • FDA、塩野義の画期的抗生剤を承認 
  • FDA、百済神州のBtk阻害剤を承認 
  • MSD、エボラワクチンがEUで条件付き承認 
  • CHMP、ゼルヤンツを65歳以上に用いることなどを警告 


【新薬開発】


GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群に適応拡大申請へ
(2019年11月13日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)の好酸球増多症候群(HES)適応拡大試験が成功したと発表した。300mgを4週毎に皮注した群は32週間に症状フレア(悪化、または好酸球数が治療をステップアップすべき水準まで増加)を経験した患者が28%と、偽薬群の56%より少なかった(p=0.002)。二次的評価項目である症状フレア年率発生率も、レイト比が0.34となり、統計的に有意だった。20年に適応拡大申請する予定。

NucalaはIL-5を標的とするヒト化抗体で、重度好酸球性喘息症などの治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: GSKのプレスリリース

ファイザー、ゼルヤンツのJIA離脱試験成功
(2019年11月12日発表)

ファーザーは、Xeljanz(tofacitinib citrate、和名ゼルヤンツ)を若年性特発性関節炎(JIA)の治療に用いる第三相試験が成功したと発表した。18週間のランイン期に全員に投与して、所定の改善が見られた患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して26週間、対照試験を行ったところ、再燃に有意な差があった。20年に適応拡大申請する予定。

この種の離脱試験を見る度に当惑するのは、薬が効いた人は継続したほうが良いことは分かった。しかし、薬が効くのかどうかは分からない。ランイン期のデータをもっとちゃんと説明してほしい。

リンク: ファイザーのプレスリリース

Reata、アルポート症候群の第三相試験が成功
(2019年11月11日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)は、RTA402(bardoxolone methyl)の第三相アルポート症候群治療試験が成功したと発表した。米国などで加速承認申請する計画。

アルポート症候群は糸球体や内耳などの構成物である4型コラーゲンの遺伝子に変異を持ち、多くがやがて末期腎疾患を合併する。患者数は米国で3-6万人と推定されている。RTA402はNrf2転写因子の発現を増やす作用を持ち、ミトコンドリア機能を改善したり炎症を抑制したりすることが期待されている。

第三相は米欧日豪の医療施設で157人を組入れ、eGFR改善効果を偽薬と比較した。eGFRが改善したからといって腎障害リスクを抑制できるとは限らないので、FDAと相談して、48週間偽薬対照試験を行った後に4週間、両群に偽薬を投与し、更に48週間偽薬対照試験と4週間偽薬投与試験を行う複雑なプロトコルを採用した。偽薬スイッチ後の残存効果を検証することによって、腎臓をこき使うことでeGFRを一時的に改善するがやがて疲弊させて病状を悪化させるという懸念を検証する意図である。

Reataは最初の52週間のデータで承認申請して加速承認を得て、104週間のデータで本承認を得る考え。今回、前者のデータが判明した。主評価項目の48週後eGFR(単位:mL/分/1.73m2)は、試験薬群、偽薬群、治療効果が各+4.72、-4.78、+9.50となった(p<0.0001)。二次的評価項目の52週後eGFR(同)は-0.96、-6.11、+5.14でp=0.0012。偽薬投与期間が4週間の割には両群の低下スピードが速いのに驚かされるが、何れにせよ、RTA402がeGFR悪化を抑制するだけでなく腎機能低下を遅らせる効果が示唆された。

有害事象はアミノトランスフェラーゼ値の上昇。作用に伴うもので、総ビリルビン値の上昇は伴っていない模様なので肝障害のリスクは小さいかもしれない。筋痙攣も見られた模様。有害事象による治験離脱の発現率は各群12%と5%で上回った。治療時発現深刻有害事象は5%と13%でなぜか小さかった。

RTA402は糖尿病性腎症の第三相で心不全による入院や死亡が偽薬群の1.8倍と多く発生し、治験中止になった前歴を持つが、今回の試験はリスク因子を持つ患者を除外したこともあり、水分過負荷や主要心臓有害イベントは発生しなかった由。

提携関係は、9年前にアボットが欧州などでの開発販売権を取得したが、今年10月にアボットのスピンアウトであるアッヴィから権利を取り戻した。代価としてReataが3年分割で合計3.3億ドルを払う。日本と中国などアジアでの権利は協和キリンがライセンス、上記の治験中止事件を受けて開発を一旦、停止したが、先駆け指定を受けて、昨年5月に糖尿病性腎症の第三相試験を開始した。やはりeGFRの短期的な変化だけでは足りず、2~3年間追跡してeGFRが30%以上低下または末期腎疾患に進行するリスクを偽薬群と比較する。

リンク: Reata社のプレスリリース(pdfファイル)

アストラゼネカ、SLE用薬の二本目のP3は成功
(2019年11月11日発表)

アストラゼネカはMEDI-546(anifrolumab)の二本目の第三相中重度全身性エリテマトーデス(SLE)試験が成功したと発表した。一本目のTULIP 1試験は主評価項目に採用したSLI-4応答率が偽薬並みに留まったが、今回のTULIP 2試験は一本目でよい数値が出たBICLA疾病活動スコア応答率に変更したのが奏功したのか、300mgを4週毎に点滴静注した群が47.8%と偽薬群の31.5%を有意に上回った。

TULIP 1試験の300mg群のBICLA応答率は37%、偽薬群は27%なので、水準は異なるものの治療効果(偽薬群との差)は似たようなものであり、再現性がありそうだ。問題は、なぜスコアによって異なる結果が出るのか、どちらが患者にとって重要なのか、ということだ。

この二本の結果はACR米国リウマチ学会で発表されるとともに、TULIP 1の治験論文がLancet Reumatologyに刊行された。論文著者によると、SLI-4は完全解消しないとその評価項目の点数が変わらないのでBICLAのほうが治療効果に敏感である。また、SRI-4は臨床的評価だけでなく血清学的評価も反映するため、ステロイドなど同時服用薬の増減量の影響を受けやすい(この二本の試験は標準療法に追加投与した)。

20年後半に承認申請される予定だが、承認審査ではこの指摘の妥当性がポイントになりそうだ。

MEDI-546はアストラゼネカの子会社であるメディミューンが04年にメダレックス(09年にBMSが買収)からライセンスした、タイプ1インターフェロンのサブユニット1を標的とする完全ヒト化抗体で、アルファ、ベータなど全てのタイプ1インターフェロンを阻害する。

有害事象で特徴的なのはヘルペスの増加。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ロシュ、SMA用薬の承認申請用試験が成功
(2019年11月11日発表)

ロシュは、RG7916(risdiplam)のSUNFISH試験のパート2が成功したと発表した。脊髄性筋委縮症(SMA)2型または3型の180人を組入れて一日一回経口投与したところ、1年後のMSM-32(運動機能のスケール)が偽薬比有意に改善した。データは未発表。

パート2はパート1で決定した用量の治療効果を仮説検証するものだが、パート1では58%の患者でMSM-32が3ポイント以上改善した。2-25歳を組入れたが、2-11歳に限定すれば71%と更に高い効果が見られた。

ロシュはSMA1型のFIREFISH試験も実施中で、仮説検証的パート2の結果は今4四半期に判明する見込み。来年には承認申請に向かうのではないか。

RG7916はPTC TherapeuticsがSMA財団と共同開発したものを11年にライセンスした。SMN2スプライシング調節剤とされており、survival motor neuronを作る能力がSMN1遺伝子より劣るSMN2遺伝子のスプライシングを変えて、多くの全長mRNAが作られるようにする。

SMA治療薬は16年に米国でIonis(Nasdaq:IONS)/バイオジェンのSpinraza(nusinersen)が1型限定なしで承認。19年にはノバルティスのZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)が1型に承認された。RG7916は作用メカニズム的にはSpinrazaに似ているが経口投与できることが特徴(乳児にはカテーテルで供給する)。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASLAN社の汎her阻害剤は胆管癌試験もフェール
(2019年11月11日発表)

シンガポールのASLAN Pharmaceuticals(TPEx:6497、Nasdaq:ASLN)は、ASLAN001(varlitinib)の第2/3相胆管癌二次治療試験がフェールしたと発表した。欧米日の医療施設でcapecitabineに追加する効果を検討したが、メジアンPFS(無進行生存期間)は2.83ヶ月と、偽薬追加群の2.79ヶ月と大差なかった。ORR(客観的反応率)は9.4%対4.8%で若干上回った程度だった。

varlitinibはEGFR、her2、her3、her4を阻害する小分子薬。昨年1月にArray BioPharma(今年7月にファイザーが買収)から世界開発販売権を取得したが、今年1月にはEGFR/her2陽性転移性胃癌の第二相もフェールしており、開発中止の可能性がありそうだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、MEK1/2阻害剤を神経線維腫I型に承認申請
(2019年11月14日発表)

アストラゼネカとMSDは、AZD6244(selumetinib)を3歳以上の全身性、切除不能叢状神経線維腫I型の治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4-6月期。

この病気は、ニューロフィブロミンの遺伝子変異によるrasそしてPI3K/AKT経路の異常活性化により神経に良性腫瘍が生じ、疼痛や様々な障害をもたらす。悪性腫瘍化するリスクもある。3000~4000人に一人の希少疾患で、欧米で希少疾患用薬指定を受けている。

AZD6244はアストラゼネカが16年前にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)からインライセンスした経口MEK1/2阻害剤。MSDと共同開発提携を結んでいる。これまでに肺癌などの第三相が実施されたが、フェールした。今回の用途では、NCI(米国立癌研究所)が主導した上記疾患の第2相試験で50人の患者のうち66%で腫瘍が20%以上縮小した。FDAのブレイクスルー・セラピー指定を受け、承認申請に至った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

BMS、オプジーボとヤーボイの併用を肝癌に承認申請
(2019年11月11日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)をsorafenib歴を持つ肝細胞腫に併用する適応拡大を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年3月10日。

エビデンスはCheckMate-040試験。上記併用を検討した拡大コフォートでは三種類の投与スケジュールを検討した。OpdivoとYervoyを、各1mg/kgと3mg/kgを3週毎に投与する群と、各3mg/kgと1mg/kgを3週毎の群、そしてOpdivoは3mg/kgを2週毎、Yervoyは1mg/kgを6週毎に投与する群に約50人ずつ組入れた。

ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は各群32%、31%、31%と大差なかったが、G3/4の治療関連有害事象の発現率は53%、29%、31%となっており、この用途でも、OpdivoではなくYervoyの用量をモノセラピー時より減らす方が良さそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、EPA製剤の心血管転帰改善効果を支持
(2019年11月14日発表)

FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会(EMDAC)を招集し、アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験、REDUCE-ITのデータについて意見を聞いた。16人の委員が全員一致で、適応拡大・効能追加を支持した。

Vascepaは高純度EPA製剤。12年に重度高トリグリセライド血症(TG≧500mg/dL)の治療薬として米国で承認された。一方、499mg/dL以下の患者に関しては、TG値を引き下げれば心血管疾患を減らせるというエビデンスが確立していなかったため、承認されなかった。積み残した課題に挑戦したのがREDUCE-IT試験だ。

心血管疾患歴または高リスクで、LDL-Cはスタチンで管理できているがTGが135~499mg/dLの患者約8200人を偽薬(鉱油入り)群とVascepa群に無作為化割付してメジアン4.9年間追跡したところ、後者の方がMACE(主要有害心臓イベント、冠再貫通術や不安定狭心症入院も含む)が25%少なかった(p<0.001)。

EPA製剤の心血管アウトカム試験は、日本だけで行われたJELIS試験も成功した。一方、EPAのほかにDHAも含有する医薬品の心血管アウトカム試験は何れもフェールしている。額面通りに受け止めれば、少なくとも今回の用途に関してはEPAが重要ということになる。EPA・DHA製剤に含まれるEPAだけでは量が足りないのか、あるいは、DHAが心血管に良くないと考える余地もありそうだ。

アマリンの適応拡大・効能追加申請は優先審査で、当初は9月28日までに結果が出る計画だったが、諮問委員会開催に伴い12月28日に延期された。何か拙いことが発覚したのか心配したが、無事承認にたどり着けそうだ。米国の重度高TG血症の潜在患者数は約400万人、今回の適応拡大は、現時点ではまだ対象(初発予防を含むかなど)が確定していないが、1500万人規模と推測される。Vascepaの18年の売上高は2億ドル足らずだったが、REDUCE-IT試験の学会発表や、複数の学会が治療ガイドラインで推奨したことを受けて、今年は倍増ペースで推移している。

Vascepaは米国で2030年まで特許があるが、特許挑戦を受けており、無効認定された場合は来年にもGE化してしまう。アマリンは危機管理策として持田製薬が開発しているEPA新製剤をインライセンスした。

リンク: アマリンのプレスリリース

FDA諮問委員会、ジャディアンスに関しても一型糖尿病には反対
(2019年11月13日発表)

FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会(EMDAC)を招集し、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を一型糖尿病の治療に用いる適応拡大申請について意見を聞いた。諮問委員会は14対2の圧倒的多数で承認に反対した。

二型糖尿病の血糖治療薬はmetforminやSU剤、DPP4阻害剤、SGLT2阻害剤、GLP-1作用剤と様々な選択肢があるが、一型糖尿病は欠乏するインスリンを補充するくらいしかない。SGLT2阻害剤は血糖を尿と一緒に排出させる単純なメカニズムであるため一型にも有効だが、糖尿病性ケトアシドーシスという深刻な副作用のリスクが高まるため、開発が遅れた。

ついに、アストラゼネカが18年にFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の適応拡大を申請、欧州や日本では承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)はSGLT1/2阻害剤Zynquista(sotagliflozin)を一型糖尿病をリード・インディケーションとして新薬承認申請し、EUでは今年4月に承認されたが、米国はEMDACが賛成8人、反対8人と意見が分かれ、審査完了通知を受領する結果になった。

Jardianceは一型糖尿病の用量を2.5mg(一日一回)と、二型糖尿病の承認用量(10mg、25mgまで増量可)より大きく抑えて申請したが、2.5mgの臨床試験は少人数、短期の一本だけであることが響いたのか、A1c低下効果が0.26%と小さいせいか、Zynquistaの時と比べても多くの委員が反対する結末になった。

リンク: 両社のプレスリリース

CHMP、クッシング症候群の新薬などに肯定的意見
(2019年11月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、ノバルティスのIsturisa(osilodrostat)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Isturisaは副腎皮質におけるコルチゾール合成の最後の過程に係る酵素、11ベータ・ハイドロキシラーゼを阻害する経口剤。クッシング症候群の治療に用いる。ノバルティスが欧米で承認申請した。同社はクッシング症候群ではSignifor(pasireotide)も販売しているが、両剤とも、今年7月にRecordatiに世界権を譲渡した。

リンク: Recordatiのプレスリリース(pdf)

ノバルティスはMayzent(siponimod)も肯定的意見を得た。スフィンゴシン1燐酸受容体の1と5に選択的に作用する経口剤で、活性期二次進行型多発硬化症の治療に用いる。活性期か否かは症状の再発や、炎症痕跡画像に基づいて判定する。米国では今年3月に承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

このほかに肯定的意見を得たのは、まず、ロシュのPolivy(polatuzumab vedotin)。再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のP1b/2試験のデータに基づく条件付き承認を勧告した。rituximab及びbendamustineと三剤併用する。CD79bに結合する抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、Seattle Genetics(Nasdaq: SGEN)の技術を用いている。米国では今年6月に承認。

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のSunosi(solriamfetol)は、選択的ドーパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤。閉塞性睡眠障害やナルコレプシーによる日中の過度の眠気を治療する。米国は今年3月に承認。Aerial BioPharma社経由で韓国のSK Biopharmaceuticalsから世界開発販売権を取得したもの。

Rigel Phharmaceuticals(Nasdaq: RIGL)のTavlesse(fostamatinib disodium hexahydrate、米国の商標はTavalisse)は原発性免疫血小板減少症の治療薬。他の薬に反応しなかった患者に用いる。肥満細胞やマクロファージ、B細胞の免疫グロブリンG受容体の細胞内シグナル伝達に係るSykを阻害し、IL-6やMMP-3を削減する経口剤。米国では今年4月に承認。日本はキッセイ薬品が中韓台も含めて開発商業化権を取得した。

適応拡大では、まず、ロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine)をher2陽性早期乳癌後の地固め療法に単剤投与することが支持された。タクサンとher2標的療法の併用による術前化学療法を受けた後に乳房やリンパ節に浸潤性腫瘍が残った患者に用いる。米国では今年5月に承認。Kadcylaは抗her2抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、her2陽性転移性乳癌の二次治療に承認されている。米国子会社であるジェネンテックがImmunoGen(Nasdaq:IMGN)の技術を用いて創製した。

最後に、セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide)を再発難治濾胞性リンパ腫にrituximabと併用することが支持された。Revlimidは免疫調停薬とされ、多発骨髄腫などに承認されている。


【承認】


FDA、ノバルティスの鎌状赤血球症治療薬を承認
(2019年11月15日発表)

FDAは、ノバルティスのAdakveo(crizanlizumab-tmca)を鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼを抑制する薬として承認した。内皮細胞のPセレクチンに結合するヒト化抗体で、鎌状赤血球が内皮細胞に結合して激しい疼痛を引き起こすのを妨げる。第三相試験では頻度が偽薬比45%少なかった。有害事象は悪心、関節痛、背痛、発熱など。

鎌状赤血球症の患者は米国で10万人程度と推測されている。

16年にSelexys Pharmaceuticalsを買収して入手したパイプライン。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、塩野義の画期的抗生剤を承認
(2019年11月14日発表)

FDAは、塩野義製薬のFetroja(cefiderocol)をグラム陰性菌による複雑性尿路感染症の治療薬として承認した。18歳以上で、他に治療法がない、または限られている場合に用いる。第三相試験で2gを8時間毎に静注したところ、臨床的・細菌学的複合有効率が72.6%となり、imipenemとcilastatinを用いた群の54.6%と比べて、非劣性だけでなく優越性解析も成功した。但し、臨床的有効率は同程度だった。

深刻な有害事象の発現率は4.7%、対照群は8.1%だった。

Fetrojaはセフェム系だがグラム陰性菌に作用し、三種類の重大なカルバペネム耐性菌にもin vitroで活性を示した。ところが、意外なことに、カルバペネム耐性菌による重症感染を治療した臨床試験で、死亡率が対照群(主としてcolistinが用いられた)より高かった。感染症の悪化による死亡率が15.8%と対照群の8.2%より高かった。主として院内感染肺炎や菌血症、敗血症で偏りが見られた。

別途実施された院内感染肺炎meropenem対照第三相試験も非劣性解析が成功したが、治療時発現有害事象による死亡の発現率が26.4%と対照群の23.3%より数値上多かった。重篤な感染症には効果が弱いのかもしれない。

塩野義製薬は、QIPD制度に基づき有償譲渡可能な優先審査バウチャを取得した。

Fetrojaは今月のCHMPのアジェンダに挙がっていたが、結論持ち越しとなったのか、EMAのプレスリリースには載っていなかった。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、百済神州のBtk阻害剤を承認
(2019年11月14日発表)

FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)のBrukinsa(zanubrutinib)をマントル細胞腫の二次治療薬として加速承認した。高選択性経口Btk阻害剤で、2010年に北京で設立されたバイオベンチャー、BeiGeneにとって初の米国承認を自社創製品で獲得した。

中国で実施された第二相試験とグローバル第1/2相試験に基づくもので、どちらも、ORR(客観的反応率)は84%、メジアン反応持続期間は前者が19.5ヶ月、後者は18.5ヶ月だった。骨髄抑制があり、肺炎や出血の深刻有害事象が見られた。有害事象による治験離脱率は8%だった。妊婦・授乳婦は禁忌。サンスクリーンの使用が推奨されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Beigeneのプレスリリース(米国居住者向けサイト)

MSD、エボラワクチンがEUで条件付き承認
(2019年11月11日発表)

MSDは、EUがErveboをエボラウイルス疾患予防用ワクチンとして条件付き承認したと発表した。水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの遺伝子の一部と置換した弱毒化生ワクチンで、元々はカナダの公衆衛生庁が開発した。米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がライセンス、14年にMSDに世界独占開発生産販売権を供与した。

接種対象は18歳以上で感染リスクの高い人(感染者の同居人や医療従事者など)。一回、筋注する。

生産プロセスに関する情報の一部が未提出であるため、条件付き承認となった。MSDはドイツの工場で生産に着手し、20年3Qに供給を開始する予定。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: EUのプレスリリース


【医薬品の安全性】


CHMP、ゼルヤンツを65歳以上に用いることなどを警告
(2019年11月15日発表)

CHMPは、11月の会議で、ファイザーのJAK阻害剤、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の規制強化を決定した。発端は、米国で抗リウマチ薬として承認された時のフェーズIVコミットメントとして実施されたA3921133試験で潰瘍性大腸炎にしか承認されていない高用量に安全性懸念が生じたことだが、CHMPは一歩進んで全用量に関して、血栓リスクが高い患者に処方する時は注意を呼び掛けた。特に、潰瘍性大腸炎に10mgを一日二回投与するのは、他に適切な手段が無い場合に限定した。

この試験は中重度リウマチ性関節炎でMTXを服用しているが管理不良、そして心血管リスク因子を持つ4000人以上の患者を組入れて、承認用量である5mg(一日二回)とファイザーが申請したが承認されなかった10mg(同)の心血管・腫瘍安全性を抗TNFアルファ抗体(以下、対照群)と比較したもの。中間解析で10mg群の肺塞栓や全死亡が対照群より多かったため10mgの試験は中止、5mgにスイッチした。

今回の発表によると、肺塞栓発症数と分母となるべき暴露(人年)は、10mg群が17人/3123人年、5mg群は9人/3317人年、対照群は3人/3319人で、10mgのリスクは対照薬の6倍、5mgも3倍だった。全死亡についても、各28人/3140人年、19人/3324人年、9人/3323人年と多かった。何倍かは記されていないので統計的に有意ではなかったのかもしれないが、当方の概算では10mgは有意水準、5mgはわずかに有意でない程度だった。

今回の驚きは、65歳以上のリウマチ性関節炎あるいは潰瘍性大腸炎患者に用いることができるのは他に適切な手段が無い場合に限定されたこと。理由は血栓ではなく、JAK阻害剤の周知のリスクである感染症。65歳以上はそれより若い患者よりも深刻で致死的な感染症のリスクが高まる由。Availabe Dataによればと記されているので、A3921133試験だけでなくプール分析で懸念が浮上したのだろう。Xeljanzは中年若年の患者も多いはずだが、高齢者も使っているだろう。高齢者のほうが感染症に脆弱だろうから、深刻・致死例が多くても不思議はないが、逆に、なぜ今頃このような話が出てきたのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

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