2019年11月3日

2019年11月3日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィ、JAK1阻害剤の乾癬性関節炎試験が成功 
  • イミフィンジもNSCLC一次治療化学療法併用試験が成功 
  • ノバルティス、SMA遺伝子療法の髄腔内投与試験が部分停止に 
  • ロシュ、NMOSD用薬を欧米で承認申請 
  • FDA諮問委員会、多数が早産予防薬の承認取消を支持 
  • バイオジェン/Alkermes、テクフィデラ後継薬が米国で承認 


【新薬開発】


アッヴィ、JAK1阻害剤の乾癬性関節炎試験が成功
(2019年10月31日発表)

アッヴィは、Rinvoq(upadacitinib)の第三相乾癬性関節炎試験が成功したと発表した。延長試験で効果の持続性や安全性を検討した上で適応拡大申請に向かうのではないか。

この試験は、バイオ薬が十分に効かなかった活性期感染性関節炎患者を偽薬、15mg、または30mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して、12週後のACR20奏効率を比較した。結果は、各群24%、57%、64%となり両用量とも偽薬比有意な差があった。二次的評価項目のPASI75奏効率やHAQ-DIも有意に上回った。

安全性(24週間)は深刻な感染症の発現率が各群0.5%、0.5%、2.8%となり、リウマチと同様に、高用量のほうが若干高かった。MACE(主要有害心血管イベント、査読あり)や肺塞栓症は、逆に、15mg群で1例(発現率は0.5%程度だろう)発生しただけだった。稀だが深刻な副作用は通常の第三相試験一本では評価できないので、関節リウマチ試験を含めたメタアナリシスが必要だ。

RinvoqはJAK1阻害剤。今年8月に米国で中重度リウマチ性関節炎治療薬として承認された。日欧でも承認審査中。

JAK阻害剤のアイソフォーム選択性は良く分からないところがあり、第一号であるファイザーのXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)はJAK3選択的だが、JAK1とヘテロダイマーを形成している場合はJAK1を阻害したのと同じようなことになる。RinvoqはJAK1選択的で、安全性面で優れている可能性もあるが、FDAは、他のJAK阻害剤と同様に動脈静脈血栓症を枠付警告した。第三相ではMTX治療歴を持たない患者にもMTXを大きく上回る奏効率を示したが、MTX不応不耐にしか承認されなかったのは、安全性懸念が理由だろう。

JAK阻害剤は乾癬や炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、そして円形脱毛症など様々な用途に開発されている。tofacitinibは臓器移植後の免疫抑制剤として臨床試験入りしたが、強力すぎて安全性が懸念され、方向転換となった開発歴を持つ。同じく強力な免疫抑制力を持つカルシニューリン阻害剤と併用で、Xeljanzの承認用量の3-6倍を投与した試験の話だが、薬物動態や感受性には個人差があるので、忘れてはいけない過去である。

長期間使用する薬なので、Rinvoqも症例を積み重ねて稀だが深刻な副作用の発現率を評価する必要がある。

リンク: アッヴィのプレスリリース

イミフィンジもNSCLC一次治療化学療法併用試験が成功
(2019年10月28日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)のPOSEIDON試験が成功したと発表した。転移性非小細胞性肺癌の一次治療として化学療法に追加する効果を検討した第三相試験で、先行するMSDのKeytruda(pembrolizumab)との差を一歩縮めることになる。データは学会で発表し、承認審査機関にも提示する計画。

この試験は、Keytrudaなどの試験と同様に、EGFR変異やALK変異を持つ患者は分子標的薬があるので対象外とした。扁平上皮癌か否かは問わず、PD-L1陰性も組入れた。欧米日などの施設が参加した。

割付けは三群あり、対照群は5種類の化学療法レジメンの一つを最大6サイクル施行。Imfinzi群はこれら化学療法レジメンを最大4サイクルとImfinzi(1500mg)を最初の4サイクルは3週毎、その後は4週毎に投与した。第三の群は、更に抗CTLA4抗体tremelimumab(75mg)を最初の4サイクルは3週毎、その後は第16週にも投与した(会社側はトリプル・セラピー群と呼んでいる)。

主評価項目はImfinziだけを併用した群と対照群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)と全生存期間で、今回は前者が成功した。後者は2020年に解析予定。また、二次的評価項目だがトリプル・セラピー群と対照群のPFSも目標を達成した。

抗PD-1/PD-L1抗体の非小細胞性肺癌一次治療試験はフェールが珍しくなく、Imfinziも単剤もしくはtremelimumab併用試験のMYSTICやNEPTUNEがフェールした。それだけに、先週号で取り上げたOpdivoと抗CTLA4抗体YervoyのCheckMate-9LA試験に続いて化学療法併用試験が成功したのは朗報だ。

但し、どちらもデータは未発表なので喜ぶのは早い。全生存期間の延長を確認することも重要だ。市場競争力の面では、PD-L1陰性にも十分な効果があったかどうかも注目される。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ノバルティス、SMA遺伝子療法の髄腔内投与試験が部分停止に
(2019年10月30日発表)

ノバルティスは、米国で今年5月に承認されたI型脊髄性筋委縮症の遺伝子療法薬、Zolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)の髄腔内投与試験に関して、FDAが部分停止を命じたことを明らかにした。解除されるまで新規組入れができない。承認用法である静注は対象外だが、II型を対象とするSTRONG試験の高用量コフォートの組入れが遅れる見込み(低中用量コフォートは既に試験結果が出ている)。

FDAが動いたのは、ノバルティスの子会社でZolgensmaを開発したAveXis社が行った前臨床試験で、神経細胞体の変性・喪失を伴うこともある後根神経節単核細胞の炎症が見られたため。他の前臨床試験や臨床では観察されていない現象である由だが、SMAは希少疾患で投与症例が少ないので、何とも言えないだろう。

一部報道によれば、この前臨床の対象ヒト以外の霊長類。また、この現象が発覚したのは3月とのこと。マウスやラットの試験で毒性が見られたのなら次は長期投与試験とか、もっと高等な動物の試験に進むことになるが、サルならこれ以上の動物試験は行わないかもしれない。また、FDAが部分停止命令を出すほど重要な懸念を発見してから7ヶ月もの間、報告しなかったのだとしたら、ある程度の追加試験や研究を既に終えている可能性もあろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、NMOSD用薬を欧米で承認申請
(2019年10月30日発表)

ロシュは、RG6168(satralizumab、中外の開発コードはSA237)をNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。Actemra(tocilizumab)を開発した中外製薬が新開発のリサイクリング抗体技術を適用して作用を長期化した、抗IL-6受容体リサイクリング抗体で、ロシュは日韓台湾以外の開発販売権を持っている。

NMOSDは欧米の患者数が2~3万人の希少疾患で、その多くは、抗アクアポリン4抗体(AQP4-IgG)が視神経や脊髄、脳に損傷を与えることが原因と考えられている。第三相は免疫抑制剤による治療を受けている患者に追加する試験とナイーブ患者のモノセラピー試験が行われ、どちらも、AQP4-IgG陽性だけでなく陰性を含む全体の解析でも、再発抑制効果が確認された。

NMOSDと言えばAlexion Pharmaceuticals(Nasdaq:ALXN)のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)が欧米でAQP4-IgG陽性型に適応拡大が認められ、日本でも部会通過したところだ。臨床試験のハザードレシオはSolirisのほうがかなり良いが、異なった試験のデータを比較するのは容易ではない。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、多数が早産予防薬の承認取消を支持
(2019年10月29日発表)

FDAはBRUDAC(骨・再生産・泌尿器薬諮問委員会)を招集し、AMAG Pharmaceuticals(Nasdaq:AMAG)の早産再発予防薬、Makena(hydroxyprogesterone caproate)の市販後薬効確認試験がフェールしたことについて意見を聞いた。16人の委員のうち9人が承認取消を支持。再び臨床試験を行わせて結果が出るまで加速承認を維持すべきと回答したのは7人に留まった。AMAG社によれば、産科で医療に携わる6人では5人が再試験支持だった。承認され、広く使われている薬なので拙速を避けたいのだろう。

Makenaの活性成分は60年前に当時のスクイブ社がプロゲスチンが有効な疾患の治療薬としてFDAの承認を取得、発売したが、生産面の問題により2000年に承認返上した。ところが、その3年後に、米国医療研究所が主導した臨床試験で自然単胎早産歴を持つ妊婦の早産リスクを抑制したことが学会・論文発表され、KV Pharmaceuticalsが06年にMakenaとして承認申請、紆余曲折を経て11年に加速承認を獲得した。

加速承認は、臨床的便益は未確認だが代理マーカーの変化に基づいて合理的に推定できる場合に、前倒し承認するもの。米国やEUでは、承認後に薬効確認試験を成功させる必要があり、もしフェールした場合は承認取消しの可能性がある。有名な例では、Avastin(bevacizumab)を転移性乳癌に用いる薬効確認試験がフェールしたためFDA諮問委員会が適応拡大取消を求め、2011年にジェネンテックが承認返上した。

Makenaの場合、求められる便益は胎児・新生児が早産に伴う疾患を発症したり死亡したりするリスクが減ることで、早産の確率が低下するだけでは足りないとみなされ、加速承認となり市販後薬効確認試験が必要になった。

意外なことに、フェーズ4コミットメントとして実施されたPROLONG試験はフェールした。主評価項目である35週未満の出産はMakena群が発生率11%、偽薬群は12%で有意差がなかった。共同主評価項目の新生児疾病・死亡複合指数該当者比率も5.4%対5.2%で差がなかった。一方で、今回は、流産や死産が増加しなかった。

諮問委員会は、Makenaの臨床的便益が確認されなかったという評価で全員一致した。二本の試験を合わせても薬効のエビデンスにはならないと16人中13人が回答した。

なぜ試験結果が分かれたのか?二本の試験を比較すると、組入れ条件は自然単胎早産歴を持つ妊婦で同じ、用量・用法や治療開始時期も同じ。違うのは、一本目は米国の施設で463人を組入れ、うち59%は黒人だった。今回は1710人で、うち36%はロシア、25%はウクライナで米国は23%だけだった。今回のほうが症例数が多く、FDAが関与したので臨床試験のデザインや実行も厳格であっただろう。米国外が中心というのは米国人にとっては好ましくないだろうが、承認されている薬の偽薬対照試験を行うのは難しいので、やむを得ない。信憑性は二本目のほうが高そうだ。

データを見比べると、37週未満出産率は前回は37%対55%で17.8%低かったが、今回は23%対22%で大差なく、米国施設だけの集計は33%対28%でむしろ悪かった。

また、FDAの集計によると、プロゲスチン(主に膣投与)の早産予防効果を検討した治験論文6本の成績は2勝4敗で、文献エビデンスは弱い。

学会は今のところ従来の治療ガイドラインでの推奨を維持している。180度方向転換しなければならないかもしれないので、俄かには決断できないだろう。一方、FDAは、少なくともPROLONG試験のデータのレーベル収載を認めるかどうかに関しては審査期限までにAMAGに回答しなければならない。日本でも行われている、私事だが知人も受けた治療なので、正に他人事ではない。FDAがどのような結論を出すのか、注目される。

捕捉1:PROLONG試験の主評価項目が35週を閾値にしたのは06年の諮問委員会の意見に基づいた。FDAは今日では37週のほうが適切と判断している様子なので、上記ではこのデータを比較した。
捕捉2:ライセンス・ホルダーがKVからAMAGに代わったのは、KVはMakenaの価格を調剤薬局品の百倍に設定したため医師や議員の反発を招き、破産法適用を経てAMAGとペリーゴ社に分割買収されたため。

リンク: AMAGのプレスリリース
リンク: PROLONG試験論文(American Journal of Perinatology誌、オープン・アクセス)


【承認】


バイオジェン/Alkermes、テクフィデラ後継薬が米国で承認
(2019年10月30日発表)

バイオジェン(Nasdaq:BIIB)は06年にスイスのFumapharmを買収してフマル酸誘導体dimethyl fumarateを入手、13年に米国で多発硬化症薬Tecfidera(和名テクフィデラ)として発売した。一日480mgという用量に関する特許が米国では28年まで有効だが、米国特許商標庁がinter partes reviewという再審査手続きを開始した。結果が出るのは20年に入ってからと推測されているが、もし無効認定された場合、同年に用途特許が失効した段階でGE薬が発売される可能性がある。

製薬会社の伝統的な特許切れ対策は、類薬を新規活性成分として開発することだ。バイオジェンはAlkermes(Nasdaq:ALKS)が開発したdiroximel fumarateの世界独占販売権を取得、今回、FDAの承認を得た。

経口投与すると体内で迅速にmonomethyl fumarateに変換され、再発型多発硬化症治療効果を発揮する。エビデンスは2年間の安全性試験とTecfidera対照薬物動態試験だけで、再発予防効果などはTecfideraのデータを参照する。こういう薬のマーケティングは先行品との差別化が重要だ。Alkermesは再発寛解型多発硬化症患者506人を組入れた5週間の直接比較試験を行い、胃腸副作用の発現率や発現日数が有意に少ないことを確認した。有害事象による治験離脱率は1.6%とTecfideraの6.0%より低く、大きな差が出たのは胃腸有害事象による治験離脱率(0.8%対4.8%)だった。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

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