2019年11月10日

2019年11月10日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田、デング熱ワクチンが第三相で好成績 
  • AVEO、VEGFR阻害剤を20年に米国で承認申請へ 
  • JNJ、イムブルビカの用法追加申請
  • JNJ、エボラ・ワクチンをEUに承認申請 
  • ベータサラセミア治療薬が米国で初めて承認 
  • サノフィ、高齢者用4価インフルエンザワクチンが米国で承認 


【新薬開発】


武田、デング熱ワクチンが第三相で好成績
(2019年11月7日発表)

武田薬品が13年にInviragen社を買収して入手した4価弱毒化生デング熱ワクチン、TAK-003の第三相試験、TIDESの初回解析結果がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。ワクチン効率(VE)は80%と高く、1型、2型、3型に有効で、4型は発症者数が少ないため有意にはなっていないが点推定値は63%と悪くない。武田のプレスリリースによると最終解析も成功した模様。2020年から風土病地域で承認申請に向かう予定。

被験者の28%を占めるベースライン時血清反応陰性(デング感染歴がないことを示す)にも効果が見られた(VEは75%、陽性は82%)。但し、陰性者が3型ウイルスに感染するリスクに関しては、VEがマイナス39%と奇妙な点推定値が出た。

TAK-003は2型ウイルスをバックボーンとして1型、3型、4型の抗原を導入したもの。3ヶ月おいて二回、皮注する。TIDES試験はラテンアメリカとアジアのデング熱風土病地域に住む4-16歳の青少年約2万人をTAK-003と偽薬に2対1割付し、デング熱発症リスクを比較した。初回解析は2回接種後15ヶ月間、最終解析は更に6ヶ月間、追跡した。

2回接種者のper-protocolベースの初回解析では、ワクチン群の感染者は61人、偽薬群は149人で、VEは80.2%、95%下限は73.3%だった。うち、1型に対するVEは73%、2型は97%、3型は62%で良好な結果になった。

デングによる入院は95%少なかった。

最終解析は検出力が向上するので、4型に対する有効性や感染歴のない人に関する3型感染予防効果が確立するかどうか、注目される。

もっと重要なチェックポイントは、感染歴のない人が接種した後にデング感染した場合に症状が重症化する、キプロスの蜂現象を誘発しないかどうかだ。Dengvaxiaはフィリピン政府が自己負担ゼロの接種キャンペーンを行うなど積極採用したが、キプロスの蜂効果が発覚、政府とサノフィの関係が悪化した。現在では、感染歴のない人は適応外になっている。

上記のように、TAK-003の試験でも事前に感染歴の有無を検査している。初回解析ではワクチン群の陰性者のうちデング感染したのは20人に過ぎないので重症度を比較しても意味がないかもしれないが、最終解析では検討課題の一つになるだろう。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)
リンク: Biswalらの治験論文抄録(NEJM)

AVEO、VEGFR阻害剤を20年に米国で承認申請へ
(2019年11月4日発表)

Aveo Oncology(Nasdaq:AVEO)は、Fotivda(tivozanib hydrochloride)を20年に米国で再発難治腎細胞腫用薬として承認申請する考えを表明した。但し、来年央に予定されている二本目の第三相試験の最終全生存解析が不首尾に終わった場合は申請撤回することでFDAと合意した由。EUでは17年に承認されたが、米国はまだまだ踊り場がありそうだ。

FotivdaはVEGFRの1、2、3とc-kit、PDGFRなどを阻害する経口剤。協和キリンから導入した。VEGFR阻害剤やmTOR阻害剤歴のない腎摘出後の進行腎細胞腫を組入れた最初の第三相試験でPFS(無進行生存期間)がメジアン11.9ヶ月とNexavar(sorafenib)群の9.1ヶ月を上回り、p=0.04とボーダーライン上だが有意差が見られた。しかし、全生存期間のメジアン値は28.8ヶ月対29.3ヶ月と大差なく、ハザードレシオは1.245と悪かった。Aveoは12年に米国で承認申請したが諮問委員会が13対1の圧倒的多数で反対、審査完了となった。

二本目の三次治療試験もメジアンPFSが5.6ヶ月とNexavar群の3.9ヶ月を上回ったが今度もp=0.02とそれほど良くなく、全生存は未成熟だがハザードレシオ1.06と好ましくない方向を向いていた。FDAの要請で打切り例の追跡調査を進めたところ1.12とさらに悪化した。昨年8月時点の中間解析では0.99と、やっと点推定値が1を下回ったが、FDAは、最終解析でまた悪化する可能性を指摘、結果が出るまで承認申請を見送るようアドバイスした。妥協策として、Aveoは、承認申請を断行するが最終解析のハザードレシオが1を上回った場合は申請撤回するでFDAと合意した。

この二本の試験に共通する難点は、二重盲検ではないことだ。PFSは主観の入り込む余地があるので、信憑性が低い。第三者が盲検査読するなどの措置を取っても、進行認定されていない患者は査読の対象にならないので、客観性は担保されない。

PFSは全生存期間より早く答えが出るので開発期間や費用を節約できるが、全生存期間が延びることを後でキッチリ確認することが重要だ。

リンク: AVEOのプレスリリース(Business Wireのサイト)


【承認申請】


JNJ、イムブルビカの用法追加申請
(2019年11月8日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病/小リンパ球性白血病の初度治療にrituximabと併用する用法追加申請をFDAに行った。 ECOG-ACRIN腫瘍研究グループが主導した70歳以下の患者を対象とするE1912試験の中間解析で、FCRレジメン(fludarabine、cyclophosphamide、rituximab)比ハザードレシオがPFS(無進行生存期間)は0.35、全生存期間は0.17と 大変良い成績を上げた。

ImbrucaはB細胞の生存に係るbtkを阻害する小分子薬。慢性リンパ性白血病用途では再発・難治にモノセラピーやbendamustine及びrituximabと三剤併用、初度治療はモノセラピーやGazyva(obinutuzumab)併用が承認されている。また、非ホジキンリンパ腫の一種であるワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症やマントル細胞腫にも承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

JNJ、エボラ・ワクチンをEUに承認申請
(2019年11月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、エボラ・ウイルス病ワクチンをEUに承認申請した。米国でもアニマル・ルールに基づく承認申請に向けてFDAと相談中。

エボラ・ウイルス病は1976年にザイール(現在のコンゴ民主共和国<DRC>)とスーダンで発生して以来、数年おきにアフリカの様々な地域で流行している。18年に始まった今回の流行では、DRC中心に3286人が罹患、2190人が死亡した(WHO:19年11月7日時点)。14-16年のギニア、シエラレオネ、リベリアを中心とする大流行に次ぐ被害だ。

前回の流行時には治療薬や予防ワクチンの臨床試験も開始された。流行が収まり被験者が集まらず打ち切りになってしまったが、今回、その成果が出てきた。治療薬では、米国マイアミの未上場企業であるRidgeback Biotherapeuticsが米国NIHからライセンスしたmAb114と、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-EB3が開発品同士の直接比較試験で勝ち抜き、DRCは、今後、この二剤だけを用いることを決めた。

ワクチンでは、カナダの公衆衛生庁が創製しNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)社を通じてMSDにライセンスしたErveboの承認申請が今年3月にEUで、9月には米国でも、受理された。水疱性口内炎ウイルスの遺伝子の一部をザイール種エボラ・ウイルスのものと置換し、弱毒化した生ワクチンだ。一回筋注する。

JNJのワクチンはプライムとブーストからなるレジメン。プライムは26型アデノウィルスにザイール種エボラウイルスの糖タンパクの遺伝子を導入したAd26.ZEBOV。ブースターは、デンマークのBavarian Nordicが開発した、改変ワクシニア・アンカラにエボラなどのウイルス核蛋白を導入したMVA-BN-Filoで、8週後に接種する。

どちらもDRCで試験的に用いられているが、JNJは今年10月になってDRCなどに対して最大50万回分を寄付すると発表しており、採用が広がっているように見える。

尚、主としてアフリカで使うワクチンを欧米で承認申請するのは、医療従事者やジャーナリストなどが渡航前に接種する需要に応えるため、というよりは、自力で承認審査する体制のない国のためにお墨付きを得る趣旨と思われる。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


ベータサラセミア治療薬が米国で初めて承認
(2019年11月8日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)とAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、Reblozyl(luspatercept-aamt)がFDAに承認されたと発表した。ベータサラセミアによる赤血球輸血依存性貧血の治療に用いる。

ベータサラセミアはグロビン遺伝子の塩基欠失などにより発症する遺伝子疾患で、ホモ接合型は恒常的に輸血が必要になる。Reblozylはactivin receptor type IIBの細胞外領域と免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合したもので、赤血球の成熟を促す。Acceleronがセルジーンと共同開発している。臨床試験では、1mg/kgを開始用量として滴定しながら3週毎に皮注したところ、輸血33%削減成功率が21.4%と偽薬群の4.5%を有意に上回った。深刻な有害事象の発現率は15.2%だった(偽薬群は5.5%)。G3以上の血栓性イベントの発現率は0.9%だった(0.1%)。

報道によると、25mgバイアルのWAC(卸取得価格)は3441ドルとのこと。体重75kgの患者が1mg/kgを使ったとすると、年間では6万ドル弱の計算になる。

Reblozylはもう一つ、骨髄異形成症候群による貧血症の治療にも承認申請されたが、こちらは優先審査指定されず、審査期限は来年4月4日となっている。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

サノフィ、高齢者用4価インフルエンザワクチンが米国で承認
(2019年11月4日発表)

サノフィは、4価Fluzone高用量版がFDAに承認されたと発表した。65歳以上のインフルエンザ予防に用いる。13年に承認された4価Fluzoneは4種類のウイルス抗原を15mcgずつ含有しているが、高用量版は4倍の60mcgとなっており、免疫力が低下した高齢者に適している。

今回の承認は抗原性試験に基づくものだが、3価インフルエンザワクチンで高用量と通常用量の高齢者におけるワクチン効率を比較した試験では、高用量群のインフルエンザ感染が24%少なかった。ワクチンが効くと予想されるタイプのウイルスによる感染だけを比較すると、51%少なかった。一方、当然のことながら、いわゆる副反応も増加した。

米国では18/19年シーズンに3価Fluzoneの高用量版を1.1億本出荷し、65歳以上の接種者の2/3が用いたとのこと。

翻って、日本は13歳以上は15mcg版相当を1-2回接種となっており、神奈川県のサイトによると一般的には65歳以上は年1回で効果とのことなので、高用量は普及していない。国により考え方が異なる模様で、3価の高用量版が承認されているのは英国、カナダ、オーストラリア、ブラジルなど一部に留まるようだ。

リンク: サノフィのプレスリリース




今週は以上です。

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