2019年8月11日

2019年8月11日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ゾルゲンスマのデータ操作問題 
  • リムパーザ、前立腺癌試験がまた成功 
  • 遺伝性肥満症治療薬の第三相試験が成功 
  • テセントリクの膀胱癌一次治療試験が成功 
  • DBV、ピーナツ・アレルギーの経皮的減感作療法薬を承認申請 
  • アラガンら、黄斑変性治療薬の承認申請をEUが受理 
  • アマリン、EPA製剤の心血管リスク削減効果の承認が遅れる 
  • FDA諮問委員会、デシコビの適応拡大を概ね支持 
  • サチュロ、12-18歳にも承認 
  • デュピクセント、EUでアトピーの青少年に適応拡大 


【今週の話題】


ゾルゲンスマのデータ操作問題
(2019年8月6日発表)

FDAは、今年5月に脊髄性筋萎縮症I型(SMN1)治療薬として承認したZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)に関して、承認申請書類に記された一部前臨床データにデータ操作が発覚したことを明らかにした。承認されている製品の効果や安全性に影響するものではないと現時点では判断しているため承認取消・製品回収は行わないが、引き続き調査を進めるとともに、承認申請者が承認後まで不正を報告しなかった経緯について、検証する考え。民事・刑事罰に進展する可能性もあるようだ。

Zolgensmaは両アレル型SMN1患者が欠乏しているSMN1遺伝子をアデノ随伴ウイルスを使って導入する遺伝子療法。AveXis社がオハイオ州のNationwide Children's Hospitalから技術導入して開発、昨年10月に日米欧で承認申請し、今年5月24日にFDAの承認を得た。尚、AveXisは昨年5月にノバルティスが87億ドルで子会社化している。

データ操作があったのは、開発段階で行われたマウスベースのin vivo力価検査。商業用製品の評価は異なるアッセイを用いている。ノバルティスの経営側がデータ操作の報告を受けたのは今年3月で、当局の承認審査中であったが、調査・評価を進めて結果をFDAに報告したのは6月28日、承認の1ヶ月後だった。EMAに報告したのは7月1日、PDMAは7月2日だった。FDAは7月24日から8月2日にかけて立ち入り調査を行い、ノバルティスに問題点を通知するとともに、プレスリリースを出した。

FDAは、もし承認前にデータ操作を知ったとしても最終的には承認することになっただろうが、審査期限延期となり承認が遅れただろうと主張している。ノバルティスは、このような場合にキチンと調査して適切な評価、報告を行うのが一般的な方針と反論している。どちらも一理あるように感じられる。

日本で騒ぎになった事件と同じで、組織の中で誰かが嘘をついた場合、本人だけでなく、その嘘を真に受けて他のステークホルダーに伝達した者も責任を問われる。なぜ嘘を見抜けなかったのか、法令順守研修はちゃんとやっているのか、今度は本当なんだな、万一にも嘘がないことを徹底的に調べて裏を取ったのだろうな、もし新たな不祥事が出たらウチは致命的な打撃を受ける、分かっているんだよな、...

だから、ノバルティスが直ぐに報告しなかったのは理解できる。FDAだって公表したのはメーカーの報告の1ヶ月後だった。

但し、日本の事件と同じで、ノバルティスは3ヶ月後ではなくもっと早く当局に報告すべきだったのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: FDAがAveXisに送付した検査結果通知(pdfファイル)
リンク: ノバルティスのプレスリリース


【新薬開発】


リムパーザ、前立腺癌試験がまた成功
(2019年8月7日発表)

アストラゼネカとMSDは、両社で共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)のPROfound試験が成功したと発表した。PARP阻害剤は卵巣癌や乳癌の治療薬として複数の製品が承認されているが、今回の第三相試験は前立腺癌という男性の癌であることがユニーク。適応拡大申請に向かうのではないか。

PROfound試験は、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)でHRR(相同組換え修復)に変異を持ち、第二世代抗アンドロゲン(enzalutamideやabirateroneなど)による治療歴を持つ患者を組入れて、rPFS(放射線学的無進行生存期間、盲検独立中央評価)を対照群(enzalutamideまたはabirateroneを投与)と比較した。

主評価項目は、15種類のHRR関連遺伝子のうちBRCA1/2またはATM(BRCA1などをリン酸化する酵素の遺伝子)に変異を持つサブグループだけの解析。データは未発表。二次的評価項目の一つである全ユニバースの成否は未公表。

LynparzaはmCRPCでdocetaxelによる治療歴を持つ患者にabirateroneと併用した第二相試験で良績を上げ、注目された。今ではdocetaxelより先に第二世代抗アンドロゲンを使うケースが多いだろうから、第三相ではmCRPCの最初の選択肢としてabiraterone併用試験を行っている。MSDと提携しているので、Keytruda(pembrolizumab)併用試験の結果も要注目だろう。

PARP阻害剤は適切な癌種や遺伝子スクリーニング方法の特定に手間取り、実用化が数年遅れたが、当初のターゲットであった乳癌や卵巣癌から、思わぬ方向に展開しようとしている。次世代シーケンサーなど診断技術の向上・低廉化の恩恵を受けて、適応を原発部位で分類するのではなく遺伝子署名で判定する、組織に捉われない薬が増えていくだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

遺伝性肥満症治療薬の第三相試験が成功
(2019年8月7日発表)

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)は、RM-493(setmelanotide)の第三相遺伝性肥満症治療試験二本の成功を発表した。POMC(pro-opiomelanocortin)欠乏性肥満症10人を組入れた試験では、10%以上の減量に8人が成功。LEPR(leptin receptor)欠乏性肥満症11人の試験では5人が成功した。同社は今年第4四半期乃至は来年第1四半期に米国のローリング承認申請を完了する予定。欧州でも申請予定。

どちらも希少疾患で、治療対象になり得る米国の患者数はPOMC欠乏性が100-500人、LEPR欠乏性は500-2000人と推測されている。米国でブレークスルー・セラピー指定、EUでPRIME指定を受けている。

この試験は6歳以上の患者を組入れた単群試験で、一日一回皮注を12週間続けた後、離脱期として偽薬を8週間投与し、その後32週間試験薬を投与した。対照群は自然歴で、治療しないと10%減量成功率は0%と推測されるため、保守的に5%と前提してp値を算出した(POMC試験は<0.0001、LEPR試験は0.0001)。ちゃんとした対照試験ではないので本当に薬の効果なのか疑問を感じるが、離脱期には体重が5kg程度リバウンドしたとのことなので、ある程度の証左になるだろう。

setmelanotideは2010年にフランスのイプセンからライセンスしたMC4R(melanocortin-4受容体)アゴニスト。過去に開発された小分子薬は効果が限定的で血圧上昇リスクがあったが、setmelanotideはアミノ酸8個のペプチド薬で、今回の試験でも血圧影響はなかった模様。主な治療関連有害事象は注射箇所反応、悪心嘔吐、色素沈着異常など。LEPR試験で1名が軽度の好酸球増加症で治験を離脱した。

リンク: Rhythm社のプレスリリース

テセントリクの膀胱癌一次治療試験が成功
(2019年8月5日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相膀胱癌一次治療試験、IMvigor130試験の主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、担当医評価)解析が成功したと発表した。データは学会発表予定。もう一つの全生存解析はデータが成熟していないためトレンドに留まっている由。適応拡大申請に向かうことになろう。

この試験は局所進行性/転移性尿路上皮癌で未だ転移後の全身治療を受けていない患者1213人を、gemcitabineと白金薬(cisplatinまたはcarbopltin)を併用する群、更にTecentriqを追加する群、そしてTecentriqだけを投与する参考群に割り付けたもの。PD-L1発現は不問。日本の施設も参加しているようだ。

尿路上皮癌は抗PD-L1/PD-1抗体の代表的な用途の一つで、米国ではTecentriq、Keytruda(pembrolizumab)、Opdivo(nivolumab)、Imfinzi(durvalumab)、Bavencio(avelumab)の5剤が一次または二次治療にモノセラピーを施行することが承認されている。但し、PD-L1低発現・陰性癌の一次治療に用いる便益については不透明感があり、今回の試験のTecentriq単剤群や、Keytrudaの単剤投与試験では、全生存期間が化学療法群より見劣りしたため、FDAもEMAも承認内容を一部縮小した。

このような背景があるため、IMvigor130試験の意義は、化学療法併用ならPFSを向上できることを明確にしたことだ。学会発表の注目点は、PD-L1低発現・陰性にも便益があるのか、中高発現癌だけなのか、中高発現癌における便益はモノセラピーと見比べて十分に高いのか、など。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


DBV、ピーナツ・アレルギーの経皮的減感作療法薬を承認申請
(2019年8月7日発表)

フランスのDBV Technologies(Euronext:DBV)は、Viaskin PeanutをFDAに承認申請した。4~11歳のピーナツ・アレルギー患者の減感作療法で、最近多い錠剤ではなく、一日一回の貼付薬。12ヶ月治療した第三相試験では、奏効率が35.3%と偽薬群の13.6%を上回った。但し、群間差の95%下限は12.4%と閾値の15%を超過しなかった。

昨年10月に承認申請したが、生産プロセスや品質管理に関する瑕疵があった模様で二ヶ月後に撤回、今回、改めて申請したもの。

リンク: DBV社のプレスリリース(pdfファイル)

アラガンら、黄斑変性治療薬の承認申請をEUが受理
(2019年8月6日発表)

アラガン社は、2019年第2四半期決算発表リリースの中で、Molecular Partners(SIX:MOLN)からライセンスしたabiciparの承認申請をEUが受理したことを明らかにした。新生血管加齢性黄斑変性の治療に用いる。Molecular社のDARPin技術を用いて開発したVEGF-A結合蛋白で、分子量が小さく高力価・高安定性。8週毎と12週毎の二種類の投与スケジュールをテストした第三相試験では、効果がLucentis(ranibizumab)を4週毎に投与した群と非劣性だった。

硝子体注射薬なので目の副作用リスクは避けられないが、abiciparは眼内炎の発現率が15%程度とLucentis(1%未満)よりかなり高かった。生産工程の大腸菌を除去した後の製剤は9%程度に低下したが、依然としてLucentisより高いので、注意が必要だろう。

米国でも承認申請予定。

尚、アラガンはアッヴィに買収されることで合意した旨、6月に発表した。

リンク: アラガンの19年第2四半期決算発表リリース

【承認審査・委員会】


アマリン、EPA製剤の心血管リスク削減効果の承認が遅れる
(2019年8月8日発表)

Amarin(Nasdaq:AMRN)は、高純度EPA製剤Vascepa(icosapent ethyl)の適応拡大と心血管リスクを削減する効能を記載すべくFDAに追加承認申請を行っている。9月28日が審査期限だが、FDAから諮問委員会を招集する旨の連絡を受けた。暫定開催日は11月14日で、期限までに承認されないことがほぼ確実になった。

Vascepaは12年に米国で重度高トリグリセライド血症治療薬として承認された。その翌年、Amarinはトリグリセライド値が200-500mg/dLの中度患者に適応拡大申請したが、諮問委員会が、中度患者のトリグリセライド値を下げる臨床的な便益が確立していないとして反対。改めて心血管アウトカム試験(REDUCE-IT試験)を行うこととなった。

EPA・DHA製剤の心血管アウトカム試験はフェールが続いたため、REDUCE-IT試験も危ぶまれたが、意外にも、心血管イベントのリスクを偽薬比25%削減することに成功した。心房細動による入院や重度出血が増加したり、偽薬に鉱油が含まれていたせいか偽薬群はLDL-Cが上昇したり、難がない訳ではないが、結論を覆すような弱点はなさそうに見える。

FDAのガイドラインによれば、承認申請や追加申請を受理する時点で諮問委員会を招集する意向があるか、申請者に通知するのがgood practiceとされるが、今回はスタンスを明確にしていなかったようだ。何が問題なのか、想像がつかないだけに警戒せざるをえない。

リンク: アマリンのプレスリリース

FDA諮問委員会、デシコビの適応拡大を概ね支持
(2019年8月8日発表)

FDAの抗菌薬諮問委員会は、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のDescovy(emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarateの合剤、和名デシコビ)をHIV/AIDSの曝露前予防(PrEP)に用いる適応拡大申請を検討し、臨床試験の対象となったユニバースに関しては多数が承認を支持した。

Descovyは2020年9月末に米国でGE化が予想されるTruvada(和名ツルバダ)の後継薬で、tenofovir disoproxil fumarateをtenofovir alafenamide fumarateに置き換えることにより忍容性を改善したとされる。16年に米国でHIV/AIDS治療薬として承認された。

Truvadaは12年に米国で、16年にはEUでもPrEPに使うことが承認され、今日では主用途になっている。このため、Descovyの今回の適応拡大はギリアドにとって重要なテーマである。今年4月に、他社から購入した優先審査バウチャーを利用して、適応拡大申請した。

諮問委員会では、男とセックスする男性やトランスジェンダー女性(誕生時の判定は男性)に用いることを16対2の圧倒的多数で賛成した。一方、シスジェンダー(トランスジェンダーの対義語)女性に用いるのは賛成8、反対10と票が分かれた。PrEPの需要のうち後者は1割以下と少ないこともあり、第三相試験の対象外であったことがボトルネックのようだ。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


サチュロ、12-18歳にも承認
(2019年8月9日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、FDAがSirturo(bedaquiline、和名サチュロ)の適応年齢を拡大したと発表した。

多剤抵抗性結核菌にも活性を持つ肺結核治療薬として12年に米国で、14年にEUで、18年には日本でも承認された40年ぶりの新薬で、今回、12~18歳の患者に用いることが承認された。

体重30kg以上で、他に有効なレジメンがない場合に適応になる。15人を組入れた第二相試験における培養検査陰転成績に基づく加速承認。

リンク: JNJのプレスリリース

デュピクセント、EUでアトピーの青少年に適応拡大
(2019年8月6日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を12-17歳の中重度アトピー性皮膚炎の治療に用いる対象年齢拡大がEUに承認されたと発表した。米国でも3月に承認済み。

更に、6歳以上12歳未満の小児を組入れた試験が成功したことも発表された。今年第4四半期に適応拡大申請の予定。

Dupixentは抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体。米国では難治性の好酸球性喘息症や重度慢性副鼻腔炎を伴う鼻ポリープに用いることも承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース(EU承認)
リンク: 同(小児試験成功について)




今週は以上です。

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