2019年8月4日

2019年8月4日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • イーライリリーのパイプライン・アップデート 
  • キイトルーダのTNBCネオアジュバント試験が成功 
  • テクフィダラの改良薬は胃腸副作用が少ない 
  • CDK4/6阻害剤で延命効果確認報告が続く 
  • ファイザー、静脈閉塞クリーゼの第三相がフェール 
  • ICAM-1アンチセンス薬の回腸嚢炎試験がフェール 
  • ノバルティス、NEP阻害剤の対象患者拡大試験がフェール 
  • 大日本住友、米国で過食性障害治療薬を承認申請 
  • ヴィーブとヤンセン、月一回注射用抗HIV薬をEUでも承認申請 
  • アステラス、イクスタンジの適応拡大を米国でも申請していた 
  • FDA、第一三共の腱滑膜巨細胞腫用薬を承認 
  • キイトルーダが食道癌に適応拡大 
  • バイエル/オライオンの前立腺癌用薬が承認 


【新薬開発】


イーライリリーのパイプライン・アップデート
(2019年7月30日発表)

イーライリリーは2019年第2四半期決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。印象的なのは、第一に、抗NGF抗体を日米欧で承認申請する意向を表明したこと。第二に、GLP-1作用剤の高量試験の成功が明らかにされたこと。

イーライリリーはファイザーのPF-4,383,119(tanezumab)を共同開発している。疼痛感受性を高める神経成長因子をブロックする抗NGF抗体医薬で、変形性関節炎に伴う疼痛を緩和するが、一部の患者で関節炎の急速な悪化(RPOA)が見られたため、2010年にFDAが各社のパイプラインを治験停止とした。その後、解除され数社が再開したものの、tanezumabの長期安全性試験でRPOA(2.5mg群は発生率3.2%、有意な治療効果が見られた5mg群は6.3%、対照群(非ステロイド消炎鎮痛薬を使用)は1.2%)や全関節置換(各群5.3%、8.0%、2.6%)の増加が見られ、懸念が現実に変わった。尚、死亡者数は試験薬が二群合計で9人、対照群は1人だった。

鎮痛剤は使ううちに体が反応しにくくなり用量をどんどん増やしてしまったり、モルヒネ依存になったり、色々なトラブルが見られるが、それだけ充足されないニーズが高いのだろう。抗NGF抗体は安全性に難があるが、既存薬で足りなくなった患者には必要かもしれない。イーライリリーは中重度の変形性関節炎の治療薬として2020年第1四半期に米国で、その後にEUや日本でも、承認申請する考え。慢性疼痛でも多くの第三相試験が実施されたが、承認申請は見送る意向。

Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)はGLP-1と抗体固定領域の融合蛋白。二型糖尿病の血糖治療薬として週一回皮注する。日本の承認用量は0.75mgのみだが、米国では0.75mgで開始後に1.5mgまで増量が認められている。インスリン大手の同社が長期作用性GLP-1作用剤に本格参入したため注目されたが、ライバルであるノボ ノルディスクの長期作用性GLP-1作用剤、Ozempic(semagutide)の直接比較試験でHbA1c改善効果に有意差が出てしまったため、巻き返しが求められる環境だった。

今回の試験は、3.0mgと4.5mgのHbA1c改善効果を既承認の1.5mgと比較したもの。36週時点の薬効優越性解析が成功した。52週間追跡して安全性を確認した上で19年末までに用量追加申請を行う予定。データは未発表だが、Ozempicの試験で付けられた差は0.3%程度なので、おそらく、高量なら肩を並べることができるのだろう。承認申請用第三相試験で3mg以上をテストしなかったのは忍容性を危惧したためではないだろうか。だとしたら、今回の試験も注目は悪心嘔吐などがどの程度増えるかだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

キイトルーダのTNBCネオアジュバント試験が成功
(2019年7月29日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)のKEYNOTE-522試験が成功したと発表した。エストロゲン受容体もプロゲスチン受容体もher2も過剰発現していない、トリプル・ネガティブ乳癌を対象に、摘出術前のネオアジュバント治療レジメンに追加する効果や、術後アジュバント療法として単剤投与する効果を検討したもので、成功したのはネオアジュバント部分の中間解析。治療効果はPD-L1発現と関連しなかった由。もう一つの主評価項目であるEFS(再発転移などのイベントが起きずに生存)を検討するため治験は続行する。

Keytrudaは様々な薬のネオアジュバント療法における可能性をスクリーニングしているI-SPY 2試験で良績を上げ、15年に卒業した。今回の試験成功で、少なくともKeytrudaに関しては、I-SPY 2試験のスクリーニング能力の高さが確認された。

リンク: MSDのプレスリリース

テクフィラダの改良薬は胃腸副作用が少ない
(2019年7月30日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、再発型多発硬化症治療薬Tecfidera(dimethyl fumarate、和名テクフィダラ)の改良薬、Vumerity(diroximel fumarate)を昨年12月に米国で承認申請した。偽薬対照試験では胃腸有害事象の発現率が31%、それによる治験中止率は0.7%と、Tecfideraのデータより良さそうな結果が出ている。

今回、もっと良いエビデンスである胃腸副作用直接比較試験の結果が発表された。再発寛解型多発硬化症患者506人を組入れて、Vumerity(462mgを一日二回、経口投与)群とTecfidera(同、240mg)群の症状評価スコアを5週間に亘って一日二回、調べたところ、有意に低かった。

VumerityはAlkermesが創製したプロドラッグで、体内で迅速にmonomethyl fumarateに変換される。Tecfideraの特許切れを控えるバイオジェンが世界の独占販売権を保有している。

リンク: 両社のプレスリリース

CDK4/6阻害剤で延命効果確認報告が続く
(2019年7月31日発表)

CDK4/6阻害剤はホルモン陽性転移性乳癌用薬として承認されているが、PFS(無進行生存期間)延長効果は確認されているものの延命効果は曖昧だった。転移性乳癌の臨床試験ではしばしば見られる現象なので拙速は避けるべきだが、ロシュのAvastin(bevacizumab)のようにFDAが承認を取り消した先例もあるので、楽観できない。幸い、二社が相次いで延命効果確認を発表した。

何れも主評価項目であるPFSの解析が既に成功している第三相試験の全生存(OS)解析に基づくもの。まず、ノバルティスのKisqali(ribociclib)。ホルモン受容体陽性、her2陰性局所進行・転移性乳癌の閉経後女性の一次/二次治療薬としてfulvestrantと併用する効果を検討したMONALEESA-3試験のOS解析が成功した。データは学会発表および承認審査機関に提出の予定。因みに、PFS解析はメジアン20.5ヶ月と偽薬・fulvestrant併用群の12.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、統計的に有意だった。

Kisqaliは同様な患者の一次治療薬としてletrozoleと併用したMONLEESA-2試験のPFSデータに基づき欧米で承認されたが、延命効果はデータが未成熟。一方、閉経前女性を組入れたMONALEESA-7試験はPFSだけでなくOSでも、CDK4/6阻害剤で初めて、有意差を出した(PFSはハザードレシオ0.55、OSは0.71)。

Kisqaliは日本では開発中止になったようである。

次に、イーライリリーのVerzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)。ホルモン受容体陽性her2陰性の閉経後乳癌で内分泌薬療法歴を持つ患者を組入れたfulvestrant併用試験、MONARCH 2試験のOS解析が成功した。データは学会発表および承認審査機関に提出の予定。因みにPFSはハザードレシオ0.553と、上記のKisqaliのデータと似ている。

さて、CDK4/6阻害剤の第一号であるIbrance(palbociclib、和名イブランス)はPALOMA-1試験もPALOMA-2試験もOS解析がフェールした。ハザードレシオ0.81なので本当は効果があるのかもしれないが、検出力不足もあり有意差が出なかった。他の二剤とは忍容性面で差がありそうに見えるのでこれがボトルネックになったのかもしれないが、真相は不明だ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース(7/30付)

ファイザー、静脈閉塞クリーゼの第三相がフェール
(2019年8月2日発表)

ファイザーはGMI-1070(rivipansel)の第三相試験がフェールしたと発表した。

2011年にGlycoMimetics社からライセンスした汎セレクチン阻害剤で、白血球が血管内皮細胞に結合するのを妨げる作用に着目して15年に鎌状赤血球症の急性静脈閉塞クリーゼを治療する第三相を開始したが、主評価項目も副次的評価項目も達成できなかった。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ICAM-1アンチセンス薬の回腸嚢炎試験がフェール
(2019年7月31日発表)

英国のAtlantic Healthcare社は、Camligo(alicaforsen)の第三相試験がフェールしたと発表した。一部の評価項目では良さそうな結果が出た模様であり、FDAと相談する意向だが、再試験なしで承認される可能性は低いのではないか。

alicaforsenはIONIS Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製したICAM-1を標的とするアンチセンス薬。Atlanticは浣腸用製剤をライセンスし、活性期炎症性腸疾患患者の回腸嚢炎の治療薬として第三相試験を開始するとともに、17年にFDAに非臨床データを提出してローリング承認申請を開始した。

18年に第三相の組入れを完了、結果発表は思ったより遅かったが、主評価項目である内視鏡的寛解や腸運動に係るメイヨー・スコアの解析がフェールした。サブグループ分析で効果の兆候が見られた模様で、FDAと今後を相談する考え。欧米の患者数20万人の希少疾患なのでデータが万全でなくても大目に見てもらえる可能性があるが、サブグループ分析は当てにならないことが多いので、楽観の根拠が開示されるまで静観したほうが良さそうだ。

リンク: Atlantic社のプレスリリース

ノバルティス、NEP阻害剤の対象患者拡大試験がフェール
(2019年7月29日発表)

ノバルティスは、EntrestoのPARAGON-HF試験が僅かにフェールしたことを明らかにした。2015年に欧米で駆出率低下慢性心不全の治療薬として承認された新種の合剤で、NEP阻害剤sacubitrilとアンジオテンシンII受容体valsartanが一つの分子になっており、体内で分離して夫々の作用を発揮する。今回の試験は駆出率を維持している慢性心不全の4822人を組入れて、心血管死・心不全入院(2回目以降もカウント)のリスクをvalsartanと比較した。データは9月のESC欧州心臓学会で発表の予定。

症状改善作用の兆候が見られたようで、ノバルティスは、承認審査機関と相談する考え。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


大日本住友、米国で過食性障害治療薬を承認申請
(2019年7月31日発表)

大日本住友製薬は、米国子会社であるサノビオン・ファーマシューティカルズがdasotralineを成人の中等症から重症の過食性障害治療薬として承認申請し、受理されたと発表した。審査期限は2020年5月14日。

dasotralineは、サノビオンの前身で異性体技術に基づき新薬創製していたセプラコーがSEP-225289として開発していたもので、選択的セロトニン再取込阻害剤Zoloft(sertraline)の活性代謝物の光学異性体。作用はsertralineとやや異なりドパミンとノルエピネフィリンの再取込を阻害する。鬱病の第二相試験はフェール、ADHDは一日4mgを投与した第三相小児試験が成功したが、もっと少量で足りるのではという疑問を私は感じた。サノビオンが17年にADHD治療薬として承認申請したが、翌年8月に審査完了通知を受領している。

過食性障害は一日4-8mgの滴定法を採用した第2/3試験と4mgと6mgをテストした固定用量第3相試験が成功、今回の承認申請につながった。過食日数が大きく減少する訳ではないが、精神疾患の薬なので、製薬会社は偽薬比有意な結果を出して承認を取れば使命が完了、後は、医師が実際に使ってみて採否を決めることになるのだろう。

リンク: 大日本住友のプレスリリース(和文、pdfファイル)

ヴィーブとヤンセン、月一回注射用抗HIV薬をEUでも承認申請
(2019年7月29日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアと、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、前者のインテグラーゼ阻害剤cabotegravirの経口剤と長期作用性注射用製剤と、後者の非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの長期作用性注射用製剤を、この二剤で完結する治療レジメンとしてEUに夫々が承認申請したことを発表した。米国では4月に申請済み。

HIV/AIDS、の成人で抗ウイルス療法によりウイルス量を抑制できている、どちらの活性成分にも抵抗性を持たない患者がスイッチする用途が想定されている。当初は経口剤を併用するが、その後は月一回、二剤を注射するだけで足りる。臨床試験では、通常の経口剤三剤併用レジメンと効果が非劣性だった。

HIV/AIDSの治療が成功し積極的に活動できる状態の患者は、例えば海外旅行時に税関でHIV/AIDS薬の説明をしたりするのが煩わしい。月一回投与なら薬を持ち運ばなくて済むケースが多いだろうから、このような人たちに歓迎されそうだ。また、感染予防試験が良好な結果になるならば、経口剤より利便性が高そうだ。但し、筋注なので痛いのではないか。

リンク: ヴィーブのプレスリリース
リンク: ヤンセンのプレスリリース(pdfファイル)

アステラス、イクスタンジの適応拡大を米国でも申請していた
(2019年7月30日発表)

アステラス製薬は、経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を転移性ホルモン感受性前立腺癌に用いる適応追加を日本で承認申請したと発表した。EUで申請し受理されたことは7月24日に発表済みだが、米国でも6月に承認申請していたことが今回、明らかにされた。

アンドロゲン除去療法(ADT)と併用する。ARCHES試験では偽薬・ADT併用群と比べてPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオが0.39、p<0.0001だった。全生存の解析は未成熟。G3/4有害事象の発生率は両群大差なかった。

リンク: アステラス製薬のプレスリリース(和文)


【承認】


FDA、第一三共の腱滑膜巨細胞腫用薬を承認
(2019年8月2日発表)

FDAは第一三共のTuralio(pexidartinib)を腱滑膜巨細胞腫(TGCT)用薬として承認した。重体または機能低下を伴う症候性で、切除不応不適な成人に用いる。適応になるのは米国で数千人と推測される。

11年に買収したPlexxikon社の開発品で、CSF-1RやKIT、FLT3などを阻害する経口剤。第三相試験ではORR(客観的反応率)が38%、うち完全反応は15%だった。偽薬群のORRはゼロ。

この試験は深刻な肝毒性が表面化しデータ監視委員会が組入れ中止を勧告したが、その時点では目標126例中121例を組入れ済みだったため、主目的を達成することができた。FDAは致死的な肝毒性を枠付警告とし、REMS(リスク評価管理戦略)を導入した。胎毒性があり妊娠可能年齢の女性が用いる時は避妊する。精液に入るので男性も注意。母乳に入るため乳児の発達に影響するリスクもある。

リンク: FDAのプレスリリース

キイトルーダが食道癌に適応拡大
(2019年7月31日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab)を難治局所進行性転移性の食道癌に単剤投与することを承認した。扁平上皮の腫瘍でPD-L1検査のCPS値が10以上の患者が適応になる。628人を組入れたKEYNOTE-181試験のサブグループ分析に基づくもので、メジアン生存期間が10.3ヶ月と化学療法群の6.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.64(95%信頼区間は0.46-0.90)だった。

この試験の主評価項目は全生存期間で解析対象はCPSが10以上のサブグループ、扁平上皮種サブグループ、全割付患者の三種類が設定された。CPS≧10サブグループでは有意差があったが、残りの二つはトレンドに留まった模様。FDAは、CPS≧10且つ扁平上皮腫というもっと狭い適応で承認したことになる。

同試験におけるG3-5治療関連有害事象の発生率は18.2%と化学療法群の40.9%より低かった。治療関連死は各群5例だった。

Keytrudaは第三相食道癌一次治療化学療法併用試験も進行中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

バイエル/オライオンの前立腺癌用薬が承認
(2019年7月31日発表)

FDAは、オライオンがバイエルと共同開発した非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニスト、Nubeqa(darolutamide)を、非転移性去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認した。アンドロゲン枯渇療法に追加して600mgを一日二回、経口投与した第三相試験では、主評価項目のMFS(無転移生存期間、盲検独立中央査読)がメジアン40.4ヶ月と偽薬を追加した群の18.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.41、p<0.001だった。

米国でローリング承認申請が完了したのは今年2月なのでスピード承認。日本やEUでも3月に承認申請されている。承認後はアステラス製薬のXtandi(enzalutamide)など類似の作用メカニズムを持つ先行品と競合することになる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: バイエルのプレスリリース




今週は以上です。

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