2019年8月17日

2019年8月18日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • DRC、エボラ治療を二剤に絞り込み 
  • リジェネロン、抗ANGPLT3抗体の第三相試験成功 
  • リムパーザの卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功 
  • KIT阻害剤抵抗性GISTの第三相試験が成功 
  • アッヴィ、JAK1阻害剤がリウマチ性関節炎に承認 
  • セルジーン、新規JAK2阻害剤が骨髄線維症に承認 
  • ロズリートレクが米国でも承認 
  • 新規作用機序のナルコレプシー治療薬が米国でも承認 
  • FDA、肺結核の新薬を承認 
  • FDA:entacaponeは前立腺癌のリスクを高めない 


【今週の話題】


DRC、エボラ治療を二剤に絞り込み
(2019年8月12日発表)

米国のNIH(国立医療研究所)は、コンゴ民主共和国(DRC)で行われているエボラ治療薬臨床試験で、独立データ安全性監視委員会が中間解析に基づき治験の繰上げ完了を勧告したことを明らかにした。今後、良績を上げた二剤だけをDRCの医療施設で使う予定。

このPamoja Tulinde Maisha試験は、DRCの国立医学研究所や米国の国立アレルギー・感染症研究所、WHO、国境なき医師団などが中心となって昨年11月に開始した。過去の臨床試験で死亡リスクを抑制したMapp BiopharmaceuticalのZMappを対照薬として、三剤をテストした。リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-EB3、米国マイアミの未上場企業であるRidgeback Biotherapeuticsが米国NIHからライセンスしたmAb114、そしてギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)である。

目標症例数は1050人、中間解析段階で499人が組入れられていた。報道によると、REGN-EB3は主評価項目である28日死亡率が29%となり、ZMappの49%を数値上、上回るだけでなく、中間解析における成功認定基準をクリアした。mAb114は34%、GS-5734は53%だった。組入れ時に低ウイルス量だった症例では、夫々6%、11%、24%、33%だった。詳細は論文などで発表される見込み。

今後はDRC全体でREGN-EB3またはmAb114をエボラ治療に用いる。この二剤は、ZMappと同様に、エボラ・ウイルスに感染しながらも死亡を免れた人から採取した抗体を元に開発したもの。ZMappは三種類の抗体のカクテルで4時間点滴静注を3日おきに3回施行するが、mAb114は一種類で30-60分の点滴静注を一回、REGN-EB3は三種類の完全ヒト化抗体で2時間点滴静注を一回と、投与スケジュールがZMappより簡便だ。

エボラはこれまで数年おきに流行してきたので、沈静化しても油断ができない。治療薬やワクチンを開発する上の障害は、臨床試験を早くやらないと流行が終わって目標症例数を達成できないリスクがあることで、今回、臨床試験を完遂したことは大きな意義がある。エボラにも複数の種があるようなので上記二剤が万能とは限らないが、政情が不安定で近代的な医療・科学を信じない住民も多いDRCでの経験は他の地域での新薬開発にも生きるだろう。

リンク: NIHのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: Ridgeback Biotherapeuticsのプレスリリース(PR Newswire)


【新薬開発】


リジェネロン、抗ANGPLT3抗体の第三相試験成功
(2019年8月14日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-1500(evinacumab)の第三相ホモ接合型家族性高コレステロール血症試験が成功したと発表した。トリグリセライドなどの分解に係るリパーゼのインヒビターであるangiopoietin-like 3(ANGPTL3)を標的とするIgG4型の抗体医薬で、65人の患者を組入れて4週間毎に投与したところ、24週間でLDL-Cが47%低下し、偽薬群の2%上昇と有意な差があった。

高脂血症の抗体医薬というと同社やアムジェンの抗PCSK9抗体を連想するが、この試験ではベースライン時点で被験者の98%がスタチンを、81%が抗PCSK9抗体を、使用しており、平均LDL-C値が255mg/dLとホモ接合型としてはまずまずな水準だった。治療効果は平均132mg/dLとなっており、ホモ接合型でも多剤併用すれば正常値を目指せる展望が開けた。

主な有害事象はインフルエンザ様疾患など。リジェネロンは2020年に米国で承認申請する計画。抗PCSK9抗体は価格や投与方法、発売当時は心血管アウトカム試験の裏付けがなかったことなどから売上が伸び悩んでいる。リジェネロンが価格戦略やライフ・サイクル・マネジメント戦略面で抗PCSK9抗体の経験をどう生かすか、注目される。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

リムパーザの卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功
(2019年8月14日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)のPAOLA-1試験が成功したと発表した。進行卵巣癌で白金薬ベースの化学療法薬とAvastin(bevacizumab)による一次治療に部分反応以上だった患者を組入れて、Avastinによる維持療法に追加する効果を検討した第三相試験で、データは学会などで発表する予定。LynparzaはPARP阻害剤で卵巣癌ではBRCA変異型患者の一次治療後維持療法に単剤投与することが米国で承認されている。Avastin併用も用法追加申請されることになろう。尚、今回の解析はintent-to-treatベースで、BRCA変異を持たない患者も対象になっている由だが、陰性患者にも効果があったかどうかは明らかではない。

PARP阻害剤ではグラクソ・スミスクラインが子会社化したTesaroのZejula(niraparib)も第三相卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功、適応拡大申請される見込み。この試験もBRCA変異陽性に限定していない。

リンク: 両社のプレスリリース

KIT阻害剤抵抗性GISTの第三相試験が成功
(2019年8月13日発表)

米国マサチューセッツ州の新興新薬開発会社、Deciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)は、DCC-2618(ripretinib)の第三相INVICTUS試験が成功したと発表した。進行GIST(消化管間質腫瘍)でimatinib、sunitinib、regorafenibの三剤による治療歴を持つ129人を組入れて150mgを一日一回、経口投与したところ、PFS(無進行生存期間、独立中央放射線学的評価委員会が盲検判定)がメジアン27.6週間と偽薬群の4.1週間を大きく上回り、ハザードレシオは0.15、p値は0.0001を下回った。

二次的評価項目のORR(客観的反応率)は9.4%対0%で、p=0.0504となりフェールした。全生存期間はメジアン15.1ヶ月対6.6ヶ月と、偽薬群の患者はPFS認定後に試験薬にクロスオーバーすることが可能であった割には大きな差が出た。ハザードレシオは0.36、p=0.0004と数値上は良かったが、上位評価項目であるORRがフェールしたため、統計学的に有意とはいえない。

DCC-2618は広域KIT/PDGFRアルファ阻害剤で、既存のKIT/PDGFアルファ阻害剤に抵抗性を持つ癌を標的としている。類似したアイディアではBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)もBLU-285(avapritinib)を今年6-7月に欧米で承認申請しており、Decipheraも急ぐ必要がありそうだ。

リンク: Deciphera社のプレスリリース


【承認】


アッヴィJAK1阻害剤がリウマチ性関節炎に承認
(2019年8月16日発表)

アッヴイは、FDAがRinvoq ER錠(upadacitinib)を抗リウマチ薬として承認したと発表した。一日一回経口投与のJAK1阻害剤で、中重度活性期リウマチ性関節炎でmethotrexate(MTX)に十分に反応しない、あるいは耐容しない患者に用いる。JAK阻害剤は深刻な副作用リスクを持っており、Rinvoqも深刻な感染症やリンパ腫などの腫瘍、動脈静脈血栓症のリスクが枠付警告されている。また、MTX未経験の患者を組入れた第三相試験ではACR奏効率がMTX群を大きく上回ったが、このような患者に用いることは承認されなかった。

報道によると、卸取得価格は類薬であるファイザーのXeljanz(tofacitinib)と同社のベストセラー抗TNFアルファ抗体Humira(adalimumab)の中間である年59000ドルに設定される模様。

RinvoqはEUでは昨年12月に、日本でも今年2月に承認申請されている。

リンク: アッヴィのプレスリリース

セルジーン、新規JAK2阻害剤が骨髄線維症に承認
(2019年8月16日発表)

FDAは、セルジーン(Nasdaq:CELG)のInrebic(fedratinib)を骨髄線維症用薬として承認した。リスク評価が中程度2または高度の一次性及び二次性の骨髄線維症が適応になる。一日一回経口投与。

fedratinibはサノフィが企業買収を通じて入手し第三相試験を成功させたが、ウェルニッケ脳症という深刻な有害事象が発生、13年11月にFDAが治験停止を命じた。共同発明者の一人が新会社を設立して権利を取得、発生頻度や対処法の検討を進め、17年8月に治験停止解除を勝ち取った。セルジーンはその会社を当初金11億ドルと開発目標達成報奨金最大12.5億ドル、そして販売目標達成報奨金45億ドルという条件で昨年、買収したという経緯。尚、セルジーンは新薬導入や企業買収の成果があまり上がらず、BMSに買収されることに今年1月、同意した。

ウェルニッケ脳症は他のJAK阻害剤にもインプリケーションがあるため、FDAがリスクをどう評価するか注目されたが、結局、淡々と開示すれば十分と判定したようだ。臨床試験でウェルニッケ脳症などの深刻で致死的な脳症の発現率が1.3%(608人中8人)と偽薬群の0.16%を大きく上回り、一名は死亡したことが枠付警告された。ウェルニッケ脳症はチアミン(ビタミンB1)の欠乏が原因と考えられるので、治療開始前と治療中定期的にチアミン検査を行う。

深刻有害事象の発生率は21%で、内容は心不全や貧血症など様々。致死的な心原性有害事象が1%の患者で発生した。

報道によると、卸取得価格は30日分が21000ドルに設定される模様。

JAK阻害剤はリウマチまたは骨髄線維症の治療薬として複数のコンパウンドが承認・開発されており、競争激化していきそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: セルジーンのプレスリリース

ロズリートレクが米国でも承認
(2019年8月15日発表)

FDAは、ロシュのRozlytrek(entrectinib、和名ロズリートレク)を加速承認した。適応は、NTRK融合陽性の局所進行性/転移性固形癌のサルベージ療法と、ROS1陽性転移性非小細胞性肺癌。第一相試験と第二相試験の統合解析に基づくORR(客観的反応率)は夫々57%と77%だった。前者は12歳以上の青少年に用いることも、成人の薬効データに基づき、承認された。深刻な有害事象は心不全、認知機能低下やうつ病などの中枢神経系障害など。

18年にIgnytaを17億ドルで子会社化して入手したTRK/ROS1阻害剤。日本では中外製薬が承認申請、今年6月に先駆け承認されている。

類薬ではバイエルのVitrakvi(larotrectinib)が米国で昨年11月にNTRK融合陽性固定癌用薬として承認されている。報道によると、ロシュはRozlytrekのWAC(卸取得価格)をVitrakviのほぼ半値に当たる$17050/月に設定する考え。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

新規作用機序のナルコレプシー治療薬が米国でも承認
(2019年8月15日発表)

Harmony Biosciencesは、FDAがWakix(pitolisant)をナルコレプシーの成人の日中の過剰眠気の治療薬として承認したと発表した。選択的H3受容体アンタゴニスト/インバース・アゴニストで、
覚醒に係るヒスタミン・ニューロンの活性を増強する。一日一回、起床時に経口投与する。麻薬指定されていないナルコレプシー治療薬は米国初。主な有害事象は不眠、悪心、不安症、QT延長など。重度肝疾患は禁忌。

Bioprojet Societe Civile de Rechercheが設計開発、EUで2016年3月に承認された。Harmony社は17年に設立された新興企業で、前後してWakixの米国における開発販売権を取得した。

リンク: Harmony社のプレスリリース

FDA、肺結核の新薬を承認
(2019年8月14日発表)

FDAは、Global Alliance for TB Drug Developmentのpretomanidを肺結核治療薬として承認した。多剤耐性菌など、高度に治療抵抗性の肺結核の成人に、JNJのSirturo(bedaquiline)及びlinezolidと併用する。107人を組入れた臨床試験で治療完了6ヶ月後時点の成功率が89%だった。承認に伴い、開発インセンティブである熱帯病優先審査バウチャーが交付される。

米国で肺結核治療薬が承認されたのは過去40年以上の期間で三剤目。また、 Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugsという超希少感染症の開発を促すための新制度に基づく承認の第二号。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: TB Allianceのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA:entacaponeは前立腺癌のリスクを高めない
(2019年8月13日発表)

FDAはentacapone(ノバルティスのパーキンソン病薬Comtanの活性成分)の前立腺癌リスクを検討していたが、高まらないと結論した。

entacaponeはドパミンに反応しにくくなった患者に追加投与するCOMT阻害剤。最初から併用する効果を検討したSTRIDE-PD試験で心血管疾患や前立腺癌がcarbidopa/levodopa群だけを投与した群より増加したため、FDAが2010年にリスク評価を開始した。心血管リスクについては追加試験の結果に基づき15年に無垢判定。今回、前立腺癌についても無垢判定となった。FDAの要請でノバルティスがフィンランドで行った疫学試験ではハザードレシオ1.05で大差なかった。米国の退役軍人会データベースに基づく疫学試験でも調整ハザードレシオが1.08となった。

10年近く前の話題なので今更リスクなしと言われてもピンと来ないが、だからこそ、キチンと取り上げるべきと思う。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

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