2019年8月25日

2019年8月25日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • グラクソ、虎の子の抗体医薬を承認申請へ 
  • フォシーガの心不全アウトカム試験が成功 
  • イミフェンジの抗CTLA4抗体併用試験がまたまたフェール 
  • Retrophin、PKAN試験がフェール 
  • 中国のBeiGene、FDAがBtk阻害剤の承認申請を受理 
  • Vanda、Hetliozの適応拡大は承認されず 
  • サレプタ、エクソン53スキップ薬は承認されず 
  • FDAが新規作用機序の広域抗生剤を承認 
  • FDA、諮問委員会がモンテルカストの小児安全性を検討へ 


【新薬開発】


グラクソ、虎の子の抗体医薬を承認申請へ
(2019年8月23日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK2857916(belantamab mafodotin)の第二相多発骨髄腫試験でポジティブな結果が得られたと発表した。従来からの予定通り、今年末までに承認申請する予定。

この抗体薬物複合体は、協和発酵キリン・グループのバイオワの技術を用いて開発した抗BCMA(B細胞成熟抗原)抗体と、細胞毒のauristatin-Fを、シアトル・ジェネティクスからライセンスした切断不能リンカーで結合したもの。最初の臨床試験で難治再発多発骨髄腫のORR(総合反応率)が60%と良績を上げ、注目された。米国でブレークスルー・セラピー指定、EUでPRIME指定を受けている。

今回のDREAMM-2試験は免疫調停薬とプロテアソーム阻害剤に難治性を示し抗CD38抗体Darzalex(daratumumab)がフェールした患者196人を組入れて、二種類の用量のORRを検討した。データは学会で発表される予定。上記の試験では類似したサブグループにおけるORRは38%だった。

グラクソは伝統的に特定の領域で高いシェアと収益性を達成するこ戦略を取り、近年も、大手製薬会社の殆どが腫瘍学を重点研究開発領域に抜擢する中、14年に腫瘍学事業をノバルティスのワクチン事業とアセットスワップするなど、独自路線を歩んできた。個社にとって最適な戦略であったとしても、業界全体が一斉に同じ方向に進むなら、相対的な優位性は向上しないからだ。

しかし、ゲノム研究の進歩の恩恵が顕著な分野である腫瘍学、ウイルス学、遺伝子疾患の中で、最も市場規模が大きい腫瘍学をいつまでも軽視するわけにはいかず、重点分野に位置付けを変えた。

グラクソは腫瘍学の開発初期パイプラインについてはノバルティスに譲渡せず、優先交渉権の供与に留めていたため、GSK2857916が再始動のファンファーレになった、

リンク: GSKのプレスリリース

フォシーガの心不全アウトカム試験が成功
(2019年8月20日発表)

アストラゼネカは、二型糖尿病のSGLT2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ、欧州名Forxiga)の第三相DAPA-HF試験が成功したと発表した。NYHA分類でII度からIV度の慢性心不全で駆出率が40%以下に低下した、HFrEFの患者約4700人を組入れて転帰を偽薬群と比較した試験で、統計学的だけでなく臨床面でも有意な差があったとのこと。データは学会発表の予定。

SGLT2阻害剤は血液中のグルコースを尿とともに排出させる。利尿作用も見られ、そのせいか、二型糖尿病の心血管アウトカム試験で心不全による入院などを抑制する効果が見られた。FarxigaもDECLARE-TIMI 58試験で、二型糖尿病患者のMACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)は偽薬比非劣性に留まったが、心血管死と心不全入院の複合評価項目は後者中心に有意に抑制した(ハザードレシオ0.73)。

今回の試験で同程度の相対リスク削減が見られたのなら、エビデンスがより強固になる。尚、DAPA-HF試験は糖尿病ではない患者も組入れたが、患者構成比をみると二型糖尿病併発が45%、前糖尿病(HbA1cが5.7%以上、6.5%未満)が36%で、正常(5.7%未満)は18%なので、二型糖尿病ではない心不全患者にも便益があるのかどうかは、学会・論文でサブグループ分析が発表されるまで分からない。

Farxiga以外では、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)も同様なアウトカム試験が進行中。また、両剤とも、駆出力が維持されている心不全のアウトカム試験を進行中。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: DAPA-HF試験のデザインペーパー(McMurrayら、Eur J Heart Fail)
リンク: DAPA-HF試験の患者背景に関する論文(同)

イミフェンジの抗CTLA4抗体併用試験がまたまたフェール
(2019年8月21日発表)

アストラゼネカは、転移性非小細胞性肺癌の一次治療における抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフェンジ)と抗CTLA4抗体tremelimumabの併用療法の効果を化学療法と比較したNEPTUME試験がフェールしたと発表した。主評価項目である腫瘍変異負荷(TMB)が20 mut/Mb以上のサブグループにおける全生存期間が対照群を有意に上回らなかった。データは今後、発表の予定。

この併用法は、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用法と似ているが、なぜか、これまでの臨床成績は失敗続きだ。今回と同じ非小細胞性肺癌一次治療のMYSTIC試験がフェール、三次治療試験もフェール、難治性転移頭頚部扁平上皮腫試験もフェールした。

tremelimumabはファイザーが第三相悪性黒色腫試験を実施したがフェール、11年にアストラゼネカにライセンスアウトした経緯がある。Yervoyに似ているといっても、固定領域がG1型ではなくG2型であることや、CTLA4の多型に対する親和性に違いがあるともいわれる。Yervoyと併用すればうまく行くのか、興味があるが、答えは永遠に得られないだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Retrophin、PKAN試験がフェール
(2019年8月22日発表)

Retrophin(Nasdaq:RTRX)は、RE-024(fosmetpantotenate)の第三相FORT試験がフェールしたと発表した。PKAN(パントテン酸キナーゼ関連神経変性症)の日常生活機能を改善する効果を検討したが、主評価項目のPKAN-ADLスケールも、副次的項目のUPDRSパートIIIも、偽薬を有意に上回らなかった。

PKANはPANK2遺伝子の常染色体性劣性遺伝による進行性神経変性疾患で、パントテン酸がリン酸化されず、コエンザイムAが欠乏し、ジストニアなどの運動障害や知的機能低下をもたらす。患者数は世界で5000人と推測されている。RE-024はリン酸化されたパントテン酸の補充療法。

Retrophinはヘッジファンド運用者だったMartin Shkreliが2011年に設立した新興製薬会社。安価だが供給源が限られる医薬品の事業権を買収し、価格を数十倍に値上げする手法で荒稼ぎしたため、「アメリカで最も憎まれている男」と呼ばれた。証券詐欺疑惑で逮捕され、14年9月にRetrophinなど数社のCEOを退任した。

リンク: Retrophinのプレスリリース


【承認申請】


中国のBeiGene、FDAがBtk阻害剤の承認申請を受理
(2019年8月21日発表)

2010年に北京(Beijing)で設立された新興製薬会社、BeiGene(Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)は、米国でBGB-3111(zanubrutinib)を承認申請し受理されたと発表した。アッヴィがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売しているImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)と同じBtk阻害剤で、再発難治性マントル細胞腫に用いる。ブレークスルー・セラピー指定されており、優先審査を受け、審査期限は来年2月27日となっている。

BeiGeneが米国で承認申請したのは今回が初めて。エビデンスは中国で行われた第二相試験とグローバルの第1/2試験で、第三相は一次治療や、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症や慢性リンパ性白血病・小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)などのImbruvica対照試験がなどが進行中。類薬が多いため競争は激しい。

リンク: BeiGeneのプレスリリース


【承認審査・委員会】


Vanda、Hetliozの適応拡大は承認されず
(2019年8月19日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)はHetlioz(tasimelteon)をジェット・ラグ障害(時差ボケによる睡眠障害)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請していたが、審査完了通知を受領した。取り急ぎFDAとミーティングを持つ考え。

このMT1/2受容体作動剤はブリストル・マイヤーズ・スクイブのBMS-214778をライセンスして開発し、非24時間障害(全盲患者の多くが患う睡眠サイクル障害)の治療薬として14年に米国で、15年にEUでも、承認を取得した。

ジェット・ラグ障害に関しては、大西洋を横断した旅行者のその後3夜の睡眠時間を調べたクロスオーバー試験で、Hetliozを使わなかった時と比べて3時間近く長期化した。しかし、FDAは、このような試験の臨床的な意義は不明と断じた。

先月、Vandaは、FDAから、適応拡大申請に欠陥があるためレーベルや市販後コミットメントに関する協議(通常は承認審査の最終段階で行われる)は行わない旨の通知を受けたと発表している。このため、承認されなかったことはサプライズではない。

リンク: Vandaのプレスリリース

サレプタ、エクソン53スキップ薬は承認されず
(2019年8月19日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)はSRP-4053(golodirsen)をエクソン53スキップ薬に応答するデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。これまでの協議と異なり、点滴関連感染症のリスクや腎毒性懸念を指摘された由。サレプタは粘ってExondys 51(eteplirsen)のFDA承認を取得したトラック・レコードがあるので、今回も科学ではなくネゴで承認獲得を目指すのではないか。

腎毒性懸念は、臨床用量の10倍以上を投与した毒性試験や別のアンチセンス・オリゴヌクレオチドの臨床試験で発生したが、承認申請の根拠となったP1/2試験では見られなかった由。別のアンチセンス・オリゴヌクレオチドとは、おそらく、エクソン45スキップ薬SRP-4045(casimersen)のことだろう。この二剤は第三相ESSENCE試験の別のコフォートでテストされているが、昨年2月、この試験でエクソン45スキップ薬を投与され横紋筋融解症を発症した被験者の保護者がFacebookに書き込んだことがきっかけで、英国で治験一時停止になったことが表面化した。独立データ監視委員会が試験続行を勧告した模様だが、深刻度や転機どころか、サレプタは事実関係すら一般には公表していない。

サレプタはSRP-4045を今年年央に承認申請する予定だったが、こちらも遅れる可能性がありそうだ。

リンク: サレプタのプレスリリース


【承認】


FDAが新規作用機序の広域抗生剤を承認
(2019年8月19日発表)

FDAは、アイルランドのNabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)のXenleta(lefamulin)を成人の地域感染細菌性肺炎(CABP)の治療薬として承認した。ほぼ20年ぶりの新規作用機序を持つ、半合成プロイロムチリン系抗生物質で、既存薬とは異なった箇所に結合し蛋白合成を阻害する。臨床試験ではmoxofloxacinベースの治療と奏効率が非劣性だった。

Nabrivaによると、CABPの原因として最も一般的な、グラム陽性菌や陰性菌、そして非定型的病原体にin vitroで活性を示した。ベータラクタムやフルオロキノロン、グリコペプチド、マクロライド、テトラサイクリンと交叉耐性がないとのこと。また、経口錠と点滴静注用が用意されていて、患者の状態や退院スケジュールに合わせて使い分けることができる。一日二回、5-7日間投与する。

主な有害事象は、下痢、悪心嘔吐、注射箇所反応、肝酵素上昇など。QT延長や胎毒性がある。WAC(卸取得価格)は錠剤が$275/日、点滴用が$205/日。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Nabrivaのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、諮問委員会がモンテルカストの小児安全性を検討へ
(2019年8月20日発表)

FDAは、9月26日と27日に小児諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会の共同会議を開催すると発表した。初日はOxyContin(oxycodone hydrochloride)持続放出錠などの安全性評価を議論する。二日目は、montelukastやzafirlukastなどのロイコトリエン受容体拮抗剤の神経精神性副作用に関してFDAが行った医療処方データベース分析の結果について議論する。

ロイコトリエン受容体受容体拮抗剤は喘息症やアレルギー性鼻炎の治療に用いられている。FDAは09年に激高、不安、鬱、睡眠異常、自殺思慮・実行などの神経精神イベントに関する警告をレーベルに記載するよう製薬会社に要求した。一昨年、小児におけるmontelukastに付随する有害事象、特に深刻な鬱病や自傷、自殺に関して、Sentinel研究(医療管理組織などの患者データベースを疫学的に分析)を開始した。

どの程度深刻な内容なのかは不明。小児用薬の安全性評価はFDAの重要な政策課題の一つなので、諮問委員会の場を通じて活動成果をアピールすることが主目的かもしれない。もし深刻なものなら諮問委員会を招集するまでもなく警告追加されていただろう。一方で、懸念が具体化したり想定以上だったりする可能性も否定しきれず、注目される。

リンク: FDAのプレスリリース








今週は以上です。

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