2019年6月9日

2019年6月9日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカのBTK阻害剤、CLL一次治療試験も成功 
  • ASCO:SGEN/アステラスのADC、膀胱癌に良績 
  • ASCO:INCY/ノバルティスのc-MET阻害剤、ある種の肺癌に良績 
  • ASCO:リムパーザの膵癌試験、PFSは延びたが寿命は延びず 
  • ASCO:リムパーザのフェーズIVコミットメント試験成功 
  • Acceleron、赤血球成熟剤の承認申請が受理 
  • イーライリリーの抗CGRP抗体が反復性群発頭痛に適応拡大 
  • FDA、MSDのザバクサを院内感染肺炎に適応拡大 
  • ブルーバード・バイオの遺伝子療法がEUで承認 


【新薬開発】


アストラゼネカのBTK阻害剤、CLL一次治療試験も成功
(2019年6月6日発表)

アストラゼネカはCalquence(acalabrutinib)の未治療CLL(慢性リンパ性白血病)試験が中間解析で成功したと発表した。詳細は学会で発表する考え。

Bセルの生存メカニズムに係るBruton's tyrosine kinase(BTK)を阻害する経口剤で、4年先輩にあたるジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib)より忍容性が高い可能性がある。15年にAcerta Pharmaを子会社化して入手、第二相再発性マントル細胞リンパ腫試験の反応率データに基づき17年に米国で加速承認された。

今回のELEVATE-TN第三相試験は535人を組入れて、主評価項目はロシュのGazyva(obinutuzumab)と併用する群のPFS(無進行生存期間)を標準療法群(Gazyvaとchlorambucilを併用)と比較した。結果は、統計的にも臨床的にも有意に上回った。二次的評価項目の、Calquenceモノセラピーと標準療法の比較も成功した由。

Imbruvicaも同様な併用試験で大変良い成績を上げて今年1月に米国で効能追加が認められており、Calquenceのデータが発表されたら見比べることができるだろう。モノセラピーがどの程度上回ったのかも注目だ。

Calquenceは5月に第三相再発性CLL試験の成功も発表されている。データは6月16日にEHA(欧州血液学会)で発表される予定。抄録によると、PFS(独立委員会評価)のハザードレシオは0.31と大変良い結果だった(対照群はidelalisibまたはbendamustineをrituximabと併用)。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ASCO:SGEN/アステラスのADC、膀胱癌に良績
(2019年6月3日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)とアステラス製薬が共同開発している抗体薬物複合体(ADC)、ASG-22ME(enfortumab vedotin)の第二相膀胱癌試験の結果がASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表された。ヘッドラインは3月のプレスリリースで公表済みだが、今回、完全反応例が結構あったことが明らかになった。この試験の対象である白金薬及び抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ患者だけでなく、もっと早い段階でも有望なのではないか。両社は年内に米国で承認申請する考え。

ASG-22MEは、膀胱癌の9割以上で過剰発現するNectin-4に結合して内部化し、細胞毒であるMMAEを放出する。アステラスが07年に買収したAgensys社がシアトル・ジェネティクスに共同開発商業化権を供与した。

今回発表されたのは、局所進行性/転移性の尿路上皮腫を組入れたEV-201試験の第一コフォートのORR(反応率、第三者査読)。125人のうち15人が完全反応、40人が部分反応でORR(客観的反応率)は44%だった。抗PD-1/PD-L1抗体無効例や肝転移例でも4割前後あった。メジアン反応持続期間は7.6ヶ月。

G3以上の有害事象は好中球減少症、貧血、疲労、発疹、高血糖など。間質性肺疾患により一人が死亡した。後期第一相試験では約110人に投与して4人が治療関連有害事象により死亡。内容は呼吸不全、尿路閉塞、糖尿病性ケトアシドーシス、多臓器不全となっている。

リンク: 両社のプレスリリース(和文、6/4付)

ASCO:INCY/ノバルティスのc-MET阻害剤、ある種の肺癌に良績
(2019年6月3日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)がノバルティスと共同開発しているc-MET受容体チロシンキナーゼ阻害剤、INC280(capmatinib)の第二相試験のアップデートもASCOで発表された。承認申請されるのではないか。

発表されたのは、MET変異/増幅がありEGFR活性化変異やALK再編成はない局所進行性/転移性非小細胞性肺癌を組入れたGEOMETRY mono-1試験のうち、進行非小細胞性肺癌の3-4%で見られるエクソン14スキップ変異を持つ患者を組入れたコフォートのORR(第三者査読)。昨年10月にESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表されたデータより症例数が数人増えている。

初めて治療を受ける患者28人のORRは68%、メジアン反応持続期間11.1ヶ月。治療歴を持つ69人ではORR41%、メジアン反応持続期間は9.7ヶ月。概ね、ESMOから変わっていない(初治療は72%、再発治療は41%)。

G3/4の有害事象の発生率は36%(G4は5%)だった。

INC280はMETエクソン14スキップ変異局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の二次治療でFDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。同用途で日米で希少疾患指定。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ASCO:リムパーザの膵癌試験、PFSは延びたが寿命は延びず
(2019年6月3日発表)

アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)は、本命用途であるBRCA1/2変異型の卵巣癌や乳癌以外にも様々な癌で開発されている。昨年のASCOでは転移性ホルモン抵抗性前立腺癌で化学療法歴を持つ患者を組入れてabiraterone及びprednisoneと併用した第二相試験の成功が発表された。今年は、2月に成功発表された第三相BRCA変異膵癌維持療法試験(POLO試験)の具体的なデータが発表された。治験論文もNew England Journal of Medicine誌に電子刊行された。

生殖細胞系BRCA変異を持つ転移性膵癌で、白金薬レジメン(FOLFIRINOXが多かった)の一次治療に反応または疾病安定化した154人を対象に偽薬または300mg錠を一日二回、経口投与した試験で、主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は、各メジアン3.8ヶ月と7.4ヶ月、ハザードレシオは0.53、p=0.004だった。

深刻有害事象の発生率は各15%と24%、有害事象による治験離脱は各2%と6%だった。

全生存期間の中間解析(46%到達時点)は各メジアン18.1ヶ月と18.8ヶ月で有意差がなかった。69%到達時点で行われる最終解析でも有意差は期待できないのではないか。偽薬群でPARP阻害剤にクロスオーバーしたのは15%程度とのことなので、二次治療の影響とも考えにくい。膵癌は発見された時には既に進行/転移していることが多く、新薬に対する期待は大きいが、もし延命効果がないのならば、使い方を再吟味すべきかもしれない。

リンク: 治験論文抄録(NEJM誌)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ASCO:リムパーザのフェーズIVコミットメント試験成功
(2019年6月3日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparzaの市販後薬効確認試験(SOLO-3試験)の成功も発表した。Lynparzaは白金薬による二次治療に反応した生殖細胞系BRCA1/2変異卵巣癌の維持療法として最初に承認申請され、EUでは承認されたが、米国は諮問委員会で多数の反対を受け、生殖細胞性BRCA1/2変異卵巣癌の四次治療薬として初承認された。第二相試験に基づく加速承認であるため、フェーズIVコミットメントとして市販後薬効確認試験の実施が求められていた。

SOLO-3試験は、生殖細胞系BRCA1/2変異白金薬感受卵巣癌の三次治療を受ける約220人をLynparza群(300mg錠を一日二回服用)と化学療法群に無作為化割付して、ORR(盲検独立中央評価)を比較したもの。化学療法はpaclitaxel、topotecan、pegylated liposomal doxorubicin、gemcitabineの中から医師が選択した。

結果は、72.2%対51.4%、p=0.002と有意且つ大きく上回った。二次的評価項目のPFSもメジアン13.4ヶ月対9.2ヶ月、ハザードレシオ0.62、p=0.013だった。有害事象による治験離脱は7%対20%と少なかった。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


Acceleron、赤血球成熟剤の承認申請が受理
(2019年6月4日発表)

Acceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、セルジーンと共同開発しているACE-536(luspatercept)を4月に欧米で承認申請していたが、受理されたと発表した。用途はベータサラセミアまたは骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血症の治療。米国では前者は優先審査を受け、審査期限は12月4日、後者は標準審査で来年4月4日となった。

ACE-536はACTR(アクチビン受容体)IIBの細胞外領域と免疫グロブリンG1の固定領域を結合した融合蛋白で、レガンドがActivin受容体ⅡB型に結合しないようブロックすることにより、赤血球の成熟を促す。三週毎皮注。ベータサラセミアの試験では奏効率(輸血が33%以上減少)が21.4%と偽薬群の4.5%を有意に上回った。深刻有害事象が15.2%の患者で発生した(偽薬群は5.5%)。

環状鉄芽球陽性の低・中程度リスクMDSで赤血球生成刺激剤に不応不適不耐の貧血患者を組入れた試験では、奏効率(8週間以上に亘り赤血球輸血なし)が37.9%と偽薬群の13.2%を有意に上回った。

セルジーンは08年にAcceleronと類薬の共同開発販売権を取得、11年にACE-536の権利も取得した。セルジーンはBMSが740億ドルで買収する予定。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


イーライリリーの抗CGRP抗体が反復性群発頭痛に適応拡大
(2019年6月4日発表)

FDAは、イーライリリーのEmgality(galcanezumab-gnlm)を反復性群発頭痛の治療に用いる適応拡大を承認した。昨年、片頭痛発作予防薬として承認された抗CGRP(calcitonin gene-related peptide)抗体で、複数の類薬が相次いで承認されたが、群発頭痛の適応を取ったのは、他の種類の薬も含めて、米国初。

群発頭痛は激しい頭痛が頻発する。反復性は、2週間から2ヶ月程度症状持続・その後1ヶ月程度休止、を繰り返す。臨床試験では、週当たり発作回数(ベースライン値は17回)が8.7回減少し、偽薬群の5.2回減少を上回った(p=0.036)。尚、休止期のない慢性群発頭痛を治療した試験はフェールした。他社の抗CGRP抗体の中にはどちらもフェールした製品もあり、全体的に、抗CGRP抗体の治療効果はボーダーライン上という印象である。

用法は、片頭痛予防は初回240mg、その後は120mgを月一回皮注する。反復性群発頭痛は頭痛が始まってから収まるまでの間、300mg(100mgを3回連続)を月一回皮注する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA、MSDのザバクサを院内感染肺炎に適応拡大
(2019年6月3日発表)

FDAは、MSDのZerbaxa(和名ザバクサ)をHABP(院内感染細菌性肺炎)/VABP(人工呼吸器関連細菌性肺炎)の治療に用いることを承認した。藤沢薬品(現アステラス製薬)と湧永製薬が創製したセフェム系抗生剤、ceftolozaneと、大鵬薬品が開発したベータラクタマーゼ阻害剤、tazobactamを配合した静注用薬で、感受グラム陰性菌によるものであることが確認または強く疑われる患者に用いる。既存の適応である複雑性尿道感染症の用量の倍を用いた適応拡大試験では、奏効率や死亡率がmeropenem群と非劣性だった。

QIDP指定を受けているので優先審査バウチャーを取得することになろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

ブルーバード・バイオの遺伝子療法がEUで承認
(2019年6月3日発表)

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)は、ZyntegloがEUで輸血依存ベータサラサミア(TDT)の治療薬として承認されたと発表した。条件付き承認なので市販後に薬効確認が必要。注目される価格に関しては、他の遺伝子治療薬と同じような成功報酬制を盛り込んだスキームを考えている模様。国ごとに行われる薬価交渉の帰結が注目される。

Zyntegloは、患者のCD34陽性細胞を採取してベータグロブリンの遺伝子をレンチウイルス・ベクターで導入するもの。12歳以上のTDTで、造血幹細胞移植が望ましいがマッチするドナーがいない患者に用いる。ヘモグロビンを殆ど作れないベータ0/ベータ0型は効果が小さいため適応外。

第1/2相試験など三本合計で19人中15人が輸血不要になった。深刻有害事象は薬物関連の可能性を否定できない血小板減少症など。

米国は第三相試験の結果を待って年内に承認申請の予定。

リンク: bluebird bioのプレスリリース







今週は以上です。

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