2019年3月10日

2019年3月10日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AMAG、早産予防薬の市販後薬効確認試験がフェール 
  • Alnylam社、急性肝ポルフィリン症の第三相試験成功 
  • バーテックス、膿胞性線維症のトリプルセラピー試験が成功 
  • アラガン、会社期待の新薬の第三相がフェール 
  • デュピクセントを慢性副鼻腔炎に適応拡大申請 
  • ロシュ、bcl-2阻害剤と抗CD20抗体の併用を適応拡大申請 
  • ロシュ、ゾフルーザを高リスク患者に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、9-16歳限定でサノフィのデング熱ワクチンを支持 
  • テセントリクが欧米で適応拡大 
  • ケタミン系の抗鬱剤が承認 


【今週の話題】


AMAG、早産予防薬の市販後薬効確認試験がフェール
(2019年3月8日発表)

AMAGファーマシューティカルズ(Nasdaq:AMAG)は、早産予防薬Makena(hydroxyprogesterone caproate)の市販後薬効確認試験がフェールしたと発表した。加速承認時のフェーズIVコミットメントとして行われた試験なので、最悪、承認取消のリスクがある。

この活性成分は早産予防薬として半世紀以上の使用歴があるが、流産や死産の懸念が浮上したことからFDAが改めて承認申請するよう要請、2011年にKVファーマシューティカルズが加速承認を取得した。調剤薬局調合品(一回分10~20ドル)の販売は禁止される見込みだったが、KVが一回分1500ドルで発売したため政治問題化。690ドルに値下げしたものの医師がそっぽを向き、結局、KVは破産法の適用を申請する結末になり、後にAMAGに買収された。その後は徐々に浸透、米国の普及率は5割程度に上昇した模様だ。

今回の試験は、早産歴を持つ1710人の妊婦を組入れて予防効果を偽薬と比較したが、35週未満の早産率は約11%、新生児死亡・有病率は約5%で偽薬と大差なかった。承認前の試験では35週未満早産率は20%で偽薬群の30%より少なかった。

なぜ異なる結果が出たのか?今回の試験は被験者の3/4以上が米国外の施設で、米国だけだった前回と異なるので、標準療法や医療風土の違いが影響したのかもしれない。また、FDAが加速承認に留めたことを考えれば、承認前試験のデザインや執行が不適切でノイズを拾ってしまったのかもしれない。

リンク: AMAG社のプレスリリース

【新薬開発】


Alnylam社、急性肝ポルフィリン症の第三相試験成功
(2019年3月6日発表)

RNA介入薬のスペシャリスト、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-AS1(givosiran)の第三相急性肝ポルフィリン症(AHP)試験が成功したと発表した。治療効果は未公表、忍容性は良好とは言えなさそうなので、4月13日にEASL(欧州肝臓学会)でフルデータが発表されるのを待つ必要がありそうだ。

AHPはヘム合成回路に係る複数の酵素の一つに機能喪失・低下変異があり、ポルフィリンが蓄積して臓器や神経に障害を与える。患者数は米国で2万人以下の希少疾患。

ALN-AS1はALAS1(アミノレブリン酸合成酵素1)の発現を沈黙させるsiRNA薬で、ポルフィリンの前駆体でGABAと競合して神経毒性を招くALA(アミノレブリン酸)や、PBG(ポルホビリノゲン)の合成を抑制する。欧米で希少疾患用薬指定と画期的治療薬指定を受けている。

今回の試験はAHP94人(うち89人は遺伝学的に確認された急性間欠性ポルフィリン症)を偽薬群と2.5mg/kg群に無作為化割付して月一回皮注を半年間続けた。主評価項目はポルフィリン性アタック(AHPによる入院や緊急医療、既存の治療法であるヘミンの投与)の年率換算値。数値は公表されていないが、高度に有意な群間差があり、主評価項目の各構成要素を見ても、サブグループ分析でも、好ましい方向が示されている由。

副次的評価項目は、尿検査値などに基づく5項目が成功したが、疼痛や疲労、悪心など症状に係る4項目は統計学的にフェールしたとのこと。上位解析がフェールしたため下位解析が軒並みフェールになっただけかもしれないが、副作用の影響かもしれない。

深刻な有害事象の発生率は20.8%(偽薬群は8.7%)。主なものは悪心、注射箇所反応、慢性腎疾患(10.4%、偽薬群はゼロ)、疲労など。肝機能検査値が正常値上限を3倍超上回る症例は14.6%(偽薬群は2.2%)、但し何れもHyの法則には該当しない由。

(Hyの法則は薬物誘導性肝毒性を推測評価する方法で、肝機能検査値が正常値上限を3倍超上回り、総ビリルビンの倍増を伴い、他の原因が見つからない症例は重度肝疾患のリスクありと見做す。FDAは、慢性疾患用薬についてはHyの法則発生頻度の95%上限が0.1%未満であることを求めている --- Guidance for Industry, Drug-Induced Liver Injury: Premarketing Clinical Evaluation、2009年)

増悪治療のリスクが減る一方で症状が悪化する現象をどう整理したらよいのか、患者にとってどちらがより重要なのか。学会発表やエキスパート・コメントが待望される。

リンク: Alnylam社のプレスリリース

バーテックス、膿胞性線維症のトリプルセラピー試験が成功
(2019年3月6日発表)

バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)は、VX-445と既承認二剤を併用した第三相膿胞性線維症試験が成功したと発表した。今回の解析は第4週時点だが、第24週時点のデータがまとまるのを待って、同時進行的に開発しているVX-659の第三相データと比較検討し、どちらかを今年第3四半期に米国で、第4四半期には欧州でも、承認申請する考え。

同社はキナーゼ標的薬の研究開発で名をはせた会社で、アベンティスやノバルティス、グラクソ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど多くのビッグファーマと創薬提携や導出契約を結んだ実績がある。嚢胞性線維症財団(CFF)との共同研究の成果が2012年に欧米で嚢胞性線維症治療薬Kalydeco(ivacaftor)で、機能喪失・低下変異したCFTRのチャネル開口時間を長期化するポテンシエイターとされる。

膿胞性線維症の原因とされる遺伝子変異は様々なタイプがあり、Kalydecoはその一部にしか有効でない。効果を増強したり他のタイプを治療するために開発されたのがivacaftorとtezacaftorで、CFTRが細胞表面に移行するのを助けるコレクターとされる。前者は15年にivacaftor配合剤のOrkambiとして、後者は18年にivacaftor配合剤Symdeko/Symkeviとして、欧米で承認された。

今回のVX-445とVX-659はコレクターとされる。どちらも第三相は、一本はivacaftorとtezacaftorを併用しているF508欠損ホモ接合型を組入れて、試験薬追加群と偽薬追加群を比較。もう一本は片方の遺伝子がF508欠損、もう一つは最小機能変異の患者を組入れて、三剤併用群と偽薬のみの群を比較した。正確を期すと、試験薬群は朝は三剤合剤、夕方は一日二回服用が必要なivacaftorだけを服用した。主評価項目は%1秒量(ppFEV1)の4週間の変化(絶対値の差分)。

結果は、ホモ接合型試験では10パーセンテージポイント、ヘテロ接合型試験では13.8パーセンテージポイント、対照群を上回った。忍容性は過去の試験と大差ない模様。

この治療効果はVX-659と大差なく、現時点ではどちらを選ぶか悩ましいところだろう。

VX-445/VX-659が承認されF508欠損・最小機能変異の全てをカバーできるようになれば、治療対象が現在の世界の嚢胞性線維症7万人余のうち50%から、90%に拡大する。Kalydecoが承認された頃は、対象患者はたったこれだけなのか、適応拡大もこんなに少しずつしか進まないのかと歯痒かったが、とうとうここまで来た。

リンク: バーテックスのプレスリリース

アラガン、会社期待の新薬の第三相がフェール
(2019年3月6日発表)

アラガン(NYSE:AGN)は、GLYX-13(rapastinel)の第三相鬱病試験がフェールしたと発表した。抗鬱剤に部分的にしか反応しなかった患者に月一回静注を追加した急性期治療試験は、三本とも、主評価項目も副次的評価項目も偽薬群と大差なかった。忍容性は良好で精神異常副作用の兆候はなかった由。再発予防試験は中間解析で無益認定された。

このほかに第三相モノセラピー試験や自殺リスクの高い患者のPOC試験も進行中だが、今回の結果を受けて再検討し、年内に今後の方針を決定する考え。

rapastinelは中程度選択的ポジティブNMDA受容体調節剤。NMDA受容体が標的である点では下記のketamineと同じだが作用の仕方は異なるようだ。15年にNaurex社を5.6億ドルで買収して入手した。

アイルランドなど税負担の軽い国に税法上の本籍を置く会社は、一時期、節税を狙う米国企業の買収ターゲットとなったが、当時の政権が対抗措置を仄めかしたため鎮静化。シャイアーは結局、節税狙いではない日本の武田薬品が買収したが、アラガンは未だ誰も買収していない。今回のセットバックを機に、経営陣が身売りに動くのではないかという観測が米国では出ている模様だ。

リンク: アラガンのプレスリリース

【承認申請】


デュピクセントを慢性副鼻腔炎に適応拡大申請
(2019年3月8日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。鼻ポリープを伴う管理不良重度慢性副鼻腔炎の維持療法として追加投与するもの。第三相試験では、mometasone furoate点鼻スプレーを用いている患者に300mgを二週毎に投与したところ、鼻詰まりなどが改善した。

DupixentはIL-4受容体のアルファ・サブユニットに結合する抗体で、中重度のアトピー性皮膚炎や喘息症に承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース


ロシュ、bcl-2阻害剤と抗CD20抗体の併用を適応拡大申請
(2019年3月7日発表)

ロシュは、米国でVenclexta(venetoclax)の適応拡大申請した。CLL(慢性リンパ性白血病)でほかの病気も罹患している患者の初度治療として同じくロシュの抗CD20抗体、Gazyva(obinutuzumab)と併用するもの。データは今後の学会で発表される予定。リアルタイム・オンコロジー・リビューの対象である由なので、短期間で承認される可能性がありそうだ。

Venclextaは、CLLで過剰発現しているアポトーシス抵抗性に係る蛋白、bcl-2を阻害する小分子薬。米国子会社のジェネンテックが07年にアッビイ(当時はアボット)と結んだ複数のコンパウンドの共同開発提携の成果で、米国市場では両社が共同開発販売、海外市場と生産はアッヴィが単独で行う。16年に再発難治CLL用薬として欧米で承認、日本でも昨年11月に承認申請された。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、ゾフルーザを高リスク患者に適応拡大申請
(2019年3月6日発表)

ロシュは、塩野義製薬からライセンスしたインフルエンザ治療薬、Xofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)を合併症高リスクのインフルエンザ患者に用いる適応拡大をFDAに申請した。具体的には、65歳以上の高齢者や、喘息症や慢性肺疾患、病的肥満、心臓疾患罹患者が対象となる。

インフルエンザ治療薬に対する考え方は国により異なり、日仏は比較的前向きだが英国などは後ろ向きだ。治療しなくても5日程度で自然治癒することが多いので、普段健康な人に投薬するのは医療費予算や耐性ウイルスリスクの面で適切とは言えない、という考え方による。2000年代に新型インフルエンザの流行に備えたキャンペーンが行われたため諸国は前向きな方向にシフトしたが、抵抗勢力は依然健在だ。

FDAも高リスク患者と一般患者を別扱いしており、昨年10月の承認時の適応は、12歳以上で他に病気のないインフルエンザ感染症だった。今回申請された適応のほうが治療するニーズが高いので、重要だ。

ゾフルーザといえば、小児試験で耐性ウイルス発生率が成人試験より高かった。市販後のサンプル調査でも、タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤より耐性ウイルス検出率が高く、他の薬を使っている患者や未治療者からも耐性ウイルスが見つかった模様だ。

タミフルも発売の数年後から耐性ウイルス発生率が年々上昇していったが、2009年の新型インフルエンザ流行を機に沈静化した。ゾフルーザの発生率は成人試験やタミフルの発売当初と比べても高く、今後を注視すべきだ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、9-16歳限定でサノフィのデング熱ワクチンを支持
(2019年3月7日発表)

FDAのワクチン及び生物学的製品諮問委員会はデング熱の風土病地域に住む9-45歳の感染経験者向けにサノフィが承認申請したデング熱ワクチン、Dengvaxiaを検討、効果の立証が十分と判定した委員は6人、不十分7人、棄権が1人で、安全性の立証は7対7の同数で、どちらも判定が分かれた。一方、9-16歳に限定すれば効果は13対1で支持、安全性も10対4で支持が上回った。審査期限は5月1日。

Dengvaxiaはフィリピンやメキシコで承認されフィリピンが大々的な接種キャンペーンを行った後で、感染未経験者が接種するといざ感染した時に重篤化するリスクがあることが判明。10名が死亡したとも報じられ、フィリピンでは大きな政治問題になった。ワクチンでなくても、一回目の感染で強力に感作され二回目が重篤になる、キプロスの蜂現象がデングでも見られる模様だ。このため、サノフィやWHOは接種対象をラボ検査で感染歴が確認された患者に限定した。

サノフィは当初、風土病地域での承認取得・普及を優先する方針だったが、進捗が遅かったため方針転換し、EUや米国で承認を取って風土病地域で『お墨付き』として使うことにした。EUでは昨年12月に9-45歳向けに承認された。それだけに、FDA諮問委員会が16歳以下に限定したのは意外だった。

デング熱ワクチンは武田薬品も第三相試験を実施中。事前検査で感染歴が確認された人だけを対象としており、Dengvaxiaと同じだ。ワクチン効果が著しく上回らない限り、Dengvaxiaと同じ扱いを受けるのではないか。

【承認】


テセントリクが欧米で適応拡大
(2019年3月8日発表)

ロシュと米国子会社のジェネンテックは、夫々、EUとFDAが抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)の適応拡大を承認したと発表した。

EUで承認されたのは、非扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療としてcarboplatin、paclitaxel、bevacizumabと四剤併用する用法。EGFR阻害剤やALK阻害剤などが適応になる患者はこれらによる治療が優先。日本と米国では昨年12月に承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース

米国は、切除不能局所進行性・転移性で、her-やエストロゲン受容体、プロゲスチン受容体は陰性だがPD-L1は陽性の乳癌の一次治療にnab-paclitaxelと併用することが加速承認された。抗PD-1/PD-L1抗体が乳癌に承認されたのは初。

第三相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とnab-paclitaxelだけの群の4.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60だった。トリプル・ネガティブ乳癌は予後が比較的悪く治療の選択肢も限られるので重要なツールになりうる。加速審査に留まったのは、全生存期間の解析が未成熟で有意差が出ていないためだろう。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

ケタミン系の抗鬱剤が承認
(2019年3月5日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)を難治性鬱病の治療薬として承認した。半世紀前に麻酔薬として承認されたNMDA受容体拮抗剤、ketamineのS異性体で、2種類の抗鬱剤の何れにも反応しなかった患者に、3番目の抗鬱剤による治療をスタートするとともに、Spravatoをインダクション期(4週間)は週二回、その後のメンテナンス期は毎週または二週毎に、点鼻投与する。第三相試験は急性期治療試験三本のうち一本が成功。応答した患者を対象とする離脱試験は低用量群が成功した。

ketamineは麻薬取締法の対象でクラスIII指定されており、Spravatoも処方流通制限が導入される。肝毒性が見られないものの解離感覚や血圧上昇、めまい、鎮静などを伴うため、在宅投与はダメ、医療施設で投与し2時間に亘り副作用を監視する。催奇性があり、授乳も不可。

点鼻ディバイスは28mgを含有、治療開始時は一度に2本使い、必要なら4本(84mg)に増量可。WAC(卸売り会社取得価格)は一本295ドルとのことなので、インダクション・フェーズは4週間で合計2360~8850ドルとなる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース







今週は以上です。

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