【ニュース・ヘッドライン】
- アミロイド仮説の墓標がまた一つ
- GSK、抗PD-1抗体で腫瘍学に再参入へ
- FDA、ベネトクラクスの多発骨髄腫試験を部分停止
- ノボ、経口GLP-1作用剤を承認申請
- Aimmune、1か月遅れでFDAが承認申請を受理
- LexiconのSGLT阻害剤はFDAに承認されず
- Jazz、眠気治療薬が承認
- FDA、産後鬱治療薬を初めて承認
- テセントリクの小細胞性肺癌適応が承認
- プラルエントの心血管予防効果がEUで承認
【今週の話題】
アミロイド仮説の墓標がまた一つ
(2019年3月21日発表)
バイオジェンとエーザイは、抗アミロイドベータ抗体BIIB037(aducanumab)の第三相早期アルツハイマー病試験二本を打ち切ると発表した。独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定したため。
アミロイド仮説に基づく抗体やセクレターゼ阻害剤はこれまでに数多くが第三相に進み、軒並み討ち死にした。バイオジェンとエーザイはBACE阻害剤の第三相も実施中で、新たに、アミロイドベータの凝集過程における中間体を標的とする抗体の第三相も開始した。失敗から学ぶことの難しさを示している。
アルツハイマー病の新薬開発は他のメカニズムのものも含めて成功率が低く、効果に関するハードルを引き下げざるを得ない状態にある。FDAはかねてより、偽薬比で統計的に有意な差があれば効果の多寡は問わない方針を示している。過去の試験で効果が小さく有意差が出なかったコンパウンドでも、大規模な検出力の高い試験で再挑戦すれば、上手くいくかもしれないのだ。
現実的にはフェールしたコンパウンドの再試験は被験者組入れが進まない可能性があるので、別のちょっと異なるコンパウンドで挑戦することになる。検出力を高めても成功するとは限らないのでハイリスクだが、成功すればハイリターンなので、投資価値があるかもしれない。問題は第三相試験の資金や支援リソースの負担だ。ビッグファーマの競争力が最大限に生きることになる。
米国の新興バイオ企業は手元キャッシュが1年分しかないことが多く、経営破綻につながりかねないため開発失敗を認めたがらない傾向がある。アルツハイマー病に関しては、バイオジェンやエーザイのような大企業でも、冷静な経営判断のもとに『違う結果を期待して同じことを繰り返す愚行』を繰り返す可能性があるので、注意が必要だ。高収益会社が多少損するだけなら容喙すべきことではないが、フェールした開発品の研究開発費は成功した開発品の価格に上乗せされるのだから、国民医療費を抑制するためには製薬会社の無駄使いを監視する必要がある。
さて、今回の件は、投資家に対する情報開示の点でも問題含みだ。バイオジェンの2018年12月期決算発表テレカンファレンスで、複数のアナリストが中間解析の有無や時期について質問したが、会社側はノーコメントを貫いた。フェールしたら株価が暴落するのは十分に予見可能であり、リスク情報が十分に提供されなかった憾みがある。
リンク: 両社のプレスリリース(和文)
リンク: 同(BAN2401の第三相開始について、3月22日付和文)
【新薬開発】
GSK、抗PD-1抗体で腫瘍学に再参入へ
(2019年3月19日発表)
グラクソ・スミスクラインは、抗PD-1抗体dostarlimabの第1/2相子宮内膜種試験の結果をSGO(Society for Gynecologic Oncology)年次婦人科腫瘍総会で発表した。年末に承認申請する考え。
このGARNET試験は、再発性・進行性子宮内膜種で白金薬による治療歴を持つ患者を組入れて、免疫関連RECIST基準に基づくORR(客観的反応率)を検討した。抗PD-1抗体は結腸直腸癌ではMSI-H(マイクロサテライト不安定性が高い)タイプに良績を示した。子宮内膜種はMSI-Hが25%程度を占め、この試験でも3割強が該当した。結果は、MSI-H41例に対するORRが49%、MSS(マイクロサテライト安定)79例では20%、全ユニバースでは30%と、MSI-Hではない腫瘍にもある程度の効果が見られた。
同社はRECIST1.1に基づく解析を行って承認申請する予定。
dostarlimabは1月にTesaro社を負債込み51億ドルで買収して入手したコンパウンドの一つ。AnaptysBioとの共同研究の成果で、他にTIM-3やLAG-3など、抗PD-1抗体とシナジーが期待される抗体も開発している。GSKは2014年にノバルティスとアセット・スワップを行って腫瘍学領域から撤収したが、トップ交代を経て再参入した。
リンク: GSKのプレスリリース
FDA、ベネトクラクスの多発骨髄腫試験を部分停止
(2019年3月19日発表)
FDAは、アッヴィのVenclexta(venetoclax、和名ベネトクラクス)の第三相多発骨髄腫試験について3月6日にパーシャル・クリニカル・ホールドを発したと発表した。再発難治性多発骨髄腫の2-4次治療としてVelcade(bortezomib)およびdexamethasoneと併用する効果を検討した試験で、中間解析で主評価項目のPFS(無進行生存期間)が成功した(メジアン22.4ヶ月、Velcade・dexamethasone・偽薬の群は11.5ヶ月、ハザードレシオは0.63、統計的に有意)。
しかし、シーケンシャルに行われたもう一つの主評価項目である全生存の解析は、ハザードレシオが2.0、95%信頼区間は1.04-3.94と有意に悪かった。メジアン17.9ヶ月の追跡で死亡率が21.1%対11.3%と大きく上回った。敗血症、肺炎、心停止による死亡が対照群より多かったようだ。
Venclextaはbcl-2阻害剤で慢性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病に承認されている。FDAが3月6日付で発したクリニカル・ホールドは上記試験の新規組入れ・投与を禁止するもので、良い効果が出ている既存の被験者や、承認用途は対象外。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース
【承認申請】
ノボ、経口GLP-1作用剤を承認申請
(2019年3月20日発表)
ノボ ノルディスクは、GLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)の経口剤をFDAに承認申請した。購入したバウチャーを使って優先審査を受ける。Ozempicの心血管アウトカム試験の成功を受けて、Ozempicと経口剤の心血管保護効能についても同時に追加申請したが、こちらは標準審査になる。欧州でも上期(1-6月)中に申請する考え。
GLP-1作用剤は胃腸ホルモンGLP-1と同じメカニズムで二型糖尿病の血糖値を抑制し、体重を減らす。競合品は多いが経口剤は初めてなので、肥満症治療用途も含めて、期待が大きい。
リンク: ノボのプレスリリース
Aimmune、1か月遅れでFDAが承認申請を受理
(2019年3月18日発表)
Aimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)は、FDAがAR101の承認申請を受理したと発表した。審査完了は来年1月後半ごろを見込んでいる。
AR101は4~17歳のピーナツアレルギーを対象とする減感作療法。偶発的暴露時に深刻なアナフィラキシーを起こすリスクを削減する。FDAからファースト・トラック指定とブレイクスルー・セラピー指定を受けている。
昨年12月21日に生物学的製剤許可申請を行ったが、同日に連邦政府が予算切れ・部分閉鎖になってしまった。アレルギー成分抽出物はユーザー課金制度の対象ではないため、正式受理前の予備審査が進まず、ほぼ1ヶ月遅れとなった。
リンク: Aimmuneのプレスリリース
【承認審査・委員会】
LexiconのSGLT阻害剤はFDAに承認されず
(2019年3月22日発表)
サノフィは、Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)から日本以外の地域での独占開発販売権を取得して米国で一型糖尿病の補助治療薬として承認申請したSGLT-1/2阻害剤、Zynquista(sotagliflozin)について、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。内容は不明。
一型糖尿病の治療はインスリンをベースに必要に応じて他の薬を追加するが、効果が高まりすぎると低血糖のリスクが生じインスリンを減らしすぎると糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高まるので匙加減が難しい。sotagliflozinの臨床試験ではアシドーシス関連の有害事象が偽薬比8倍に増加した。このため、1月に開催された諮問委員会では賛否が真っ二つに分かれた。
一方で、EUの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、肥満/オーバーウェートで高量のインスリンを用いている患者に限定して、肯定的意見を出した。当方が危惧していたより多くの支持を集めることができた印象だ
リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)
【承認】
Jazz、眠気治療薬が承認
(2019年3月20日発表)
Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、FDAがSunosi(solriamfetol)を承認したと発表した。ナルコレプシーや閉塞性睡眠障害(OSA)による成人の過度の眠気を改善する。閉塞性睡眠障害の臨床試験では37.5mg、75mg、150mgの三用量とも効果が見られたが、ナルコレプシーは150mgだけで、同疾患に37.5mgを使うことは承認されなかった。
Sunosiは選択的ドパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤。米国のAerial BioPharmaから、日韓などアジア12か国以外の開発生産販売権を取得した。麻薬取締局がスケジュール(規制カテゴリー分け)を決定した後で発売する予定。
リンク: Jazzのプレスリリース
FDA、産後鬱治療薬を初めて承認
(2019年3月19日発表)
FDAは、Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)のZulresso(brexanolone)を産後鬱の成人女性の初の治療薬として承認した。60時間連続点滴静注する。過剰鎮静や突発的な意識喪失のリスクが枠付き警告された。REMS(リスク評価緩和戦略)に則り、認証を受けた医療施設が連続酸素飽和度モニタリングなど患者の様子をよく監視しながら、治療する。乳児を抱きかかえている時に気を失う可能性もあるため、特に注意する必要がある。
麻薬取締局がスケジュールを決定した後で発売する予定。報道によると、WAC(卸取得価格)は患者一人当たり平均で34000ドル程度とのこと。
brexanoloneはプロゲステロンの代謝物であるallopregnanolone系の新薬で、GABA-A受容体の選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータとされる。60時間点滴、REMS、34000ドルとハードルが高いが、他の選択肢が十分ではないこと、作用のオンセットが24時間と早く治療後1か月経っても効果が残存することなどの長所があることから、中度重度の患者なら許容範囲だろう。
同社は経口剤のSAGE-217も産後鬱及び難治性鬱病の治療薬として開発していて、日本でも昨年、塩野義製薬が開発商業化権を取得した。Sageがbrexanoloneの諮問委員会に提出した資料によれば、鎮静失神は作用機序に伴う副作用とみなされているので、SAGE-217にも同様な懸念がありそうだ。
失神した時のリスクは病院のベッドの上より戸外のほうが大きく、深刻だ。brexanoloneが許容されてもSAGE-217を難治性鬱病に用いる時は許容されない可能性があり、普及の妨げになりそうだ。
もう一つ、今回、brexanoloneで驚かされたのは麻薬取締規制の対象になりそうなこと。SAGE-217も薬物依存性があるのかもしれない。スケジュール(規制分類)次第なので、麻薬取締役局がbrexanoloneについてどう判断するか、注目したい。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: SAGEのプレスリリース
テセントリクの小細胞性肺癌適応が承認
(2019年3月19日発表)
ロシュは、FDAが抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に用いることを承認したと発表した。抗PD-1/PD-L1抗体で初。carboplatin及びetoposideと併用する。
第三相試験ではメジアン生存期間が12.3ヶ月とcarboplatin・etoposide併用群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。
リンク: ロシュのプレスリリース
プラルエントの心血管予防効果がEUで承認
(2019年3月15日発表)
Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗PCSK9抗体Praluent(alirocumab、和名プラルエント)の適応拡大がEUで承認されたと発表した。確立したアテローム硬化性心血管疾患の成人のLDL-C水準を削減することにより心血管リスクを削減するというもの。
スタチンの最大耐容量を服用している患者に追加投与したODYSSEY OUTCOMES試験では、MACE(主要有害心血管イベント)が偽薬群より15%少なかった。
リンク: 両社のプレスリリース
今週は以上です。
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