2019年3月31日

2019年3月31日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ギリアド、JAK1阻害剤のリウマチ試験成功 
  • 抗Nectin-4抗体薬物複合体を承認申請へ 
  • アバニア、アルツハイマー性激高の治療試験成功 
  • セルジーン、多発性硬化症用薬を承認申請 
  • JNJ、ダラザレックスをASCT付随療法に適応拡大申請 
  • CHMPがベータサラセミアの遺伝子療法の承認などを支持 
  • メルクセローノの多発性硬化症薬、申請から10年を経て承認 
  • FDA、初めての非レントゲン性体軸性脊椎関節炎治療薬を承認 
  • 経口テストステロンが承認 
  • FDA、ノバルティスの二次進行型多発性硬化症用薬を承認 
  • フォシーガ、日本と前後してEUでも一型糖尿病に承認 


【新薬開発】


ギリアド、JAK1阻害剤のリウマチ試験成功
(2019年3月28日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、JAK1阻害剤filgotinibの第三相中重度関節リウマチ試験二本が成功したと発表した。100mgまたは200mgを一日一回投与する効果を検討したもので、一本はmethotrexate(MTX)に十分反応しなかった患者に追加投与したところ、ACR20が各69.8%と76.6%となり、偽薬追加群の49.9%を有意に上回った。HAQ-DIやmTSS(構造的損傷の指標)でも有意な差があった。

Humira(adalimumab)群のACR20は70.8%。filgotinibとHumiraの間の統計的検定はACR20ではなく疾患活動性低下(DAS26≦3.2)成功率で行われた様子で、200mg群は非劣性、100mgは非劣性ではなかった。

もう一本の試験は、MTX未経験患者にMTXと100mgまたは200mgを併用または200mgを単剤投与する効果をMTX・偽薬併用群と比較したところ、ACR20が各80.2%、81.0%、78.1%、71.4%となり、併用二群は偽薬併用を有意に上回った。モノセラピーは有意差がなかったが、ACR50など他の指標では有意差が出ているので、他の試験のデータなどと総合的に考える必要がありそうだ。

併用二群はHAQ-DIでも有意差があったが、mTSSはフェール。モノセラピーはHAQ-DIでも有意差がなかったがmTSSでは有意差ありと、こちらの試験のデータはあまり明確ではない。

二本の試験の安全性は概ね良好で、深刻な有害事象の発生率はHumira群も含めて各群同程度。腫瘍や静脈血栓イベントの症例数も同程度だが、絶対数が少ないため、全対照試験のプール分析のデータが公表されるまで何とも言えないだろう。

少なくともこれまでのところは、filgotinibの安全性は既存のJAK阻害剤と比べて同等以上に見える。但し、200mgは精巣毒性の懸念があり、これも、毒性試験や臨床試験のデータを総合的に俯瞰できるようになるまで何とも言えない。

filgotinibは15年12月にベルギーのGalapagos(Nasdaq:GLPG)から共同開発販売権を取得したもの。アッヴィがライセンスしていた時期もあったが、自社パイプラインの開発進展に伴い権利を返還した。

リンク: ギリアドのプレスリリース(MTX-IR試験成功)
リンク: ギリアドのプレスリリース(MTXナイーブ試験成功)

アステラス、抗Nectin-4抗体薬物複合体を承認申請へ
(2019年3月28日発表)

アステラス製薬は、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)と共同開発している抗体薬物複合体(ADC)、ASG-22ME(enfortumab vedotin)の第二相尿路上皮癌試験が良好な結果になったと発表した。今年後半に米国で承認申請する考え。

ASG-22MEは転移性尿路上皮種の9割で発現するNectin-4を標的とする抗体とMMAEというシアトル・ジェネティクス/武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin)にも採用されている細胞毒を結合したもの。アステラスが子会社化したAgensys社がシアトル・ジェネティクスと進めてきたADC共同研究開発プロジェクトの成果。

今回のEV-201試験は局所進行性/転移性の尿路上皮癌に対する効果を検討するピボタル(承認申請に用いる)試験だ。白金薬とチェックポイント阻害剤による治療歴を持つ患者128人を組入れた第一コフォートの解析で、第三者査読によるORR(客観的反応率)が44%となった。第一相試験における同様なユニバースのORRは40%だったので再現性があったことになる。第三相試験も進行中。

尿路上皮癌の最近の新薬であるチェックポイント阻害剤の効果は、例えロシュのTecentriq(atezolizumab)はPD-L1陽性に対するORRが26%。ASG-22MEは三次治療薬ではなくチェックポイント阻害剤に代わる二次治療薬としても有望なのではないか。

この試験の詳細データは学会などでの発表が見込まれる。第一相試験でのG3以上の有害事象は貧血症、低ナトリウム血症、尿路感染症、高血糖など。4%弱が治療関連有害事象により死亡した(呼吸不全、尿路閉塞、糖尿病性ケトアシドーシス、及び多臓器不全)。

リンク: アステラスのプレスリリース(和文)

アバニア、アルツハイマー性行動障害治療試験成功
(2019年3月25日発表)

大塚製薬の米国子会社、アバニアは、AVP-786の第三相試験が成功したと発表した。中重度アルツハイマー型認知症の行動障害(アジテーション)を治療する12週間の試験で、二用量のうち一つでCMAI症状評価スコアが偽薬比有意に改善、もう一つはトレンドに留まった。主な有害事象は転倒、尿路感染、頭痛、下痢など。

同社はNuedexta(dextromethorphanとquinidine sulfateの合剤)をALS(筋萎縮性側索硬化症)や多発性硬化症などに伴う情動調節障害の治療薬として販売している。AVP-786は同じ成分を配合しているが、Concert PharmaceuticalsのIPをライセンスしてdextromethorphanの水素分子を重水素に置換することによって2D6による代謝を抑制し、薬物動態を改善した。このため、2D6阻害剤として配合されているquinidineの用量を減らすことができた。

説明が長くなったが、要するに、AVP-786はNuedextaの特許切れ対策ともいうべき薬である。Nuedextaは2010年の米国承認後、養老施設でアルツハイマー病の易怒性・攻撃性を抑える目的でも用いられていた。15年にレーベルが変更され『アルツハイマー病などでの薬効や安全性は示されていない』という記述が削除されたためオフレーベルではなくなったが、アバニアは今年2月、司法省とオフレーベル販促に関する司法和解を受け入れた。

AVP-786もアルツハイマー病が主用途と想像されるので、今回、最初の第三相が成功したことは朗報だ。Nuedextaのこの用途における第三相試験データは見たことがないので、優劣を比較されることもないだろう。アバニアは賢く立ち回っている。

今回の試験は偽薬群のうち最初の6週間である程度以上改善した患者は解析から除外した。精神症状治療試験でしばしば攪乱要因となる偽薬効果を排除することが目的で、一理あるが、何れにせよ、通常の試験より治験成功のハードルが低いことになる。残りの二本は通常の解析を行うようなので、成功するかどうか注目される。

リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文)

【承認申請】


セルジーン、多発性硬化症用薬を承認申請
(2019年3月25日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、ozanimodを欧米で承認申請したと発表した。米国の予定適応症は再発型多発性硬化症、欧州は再発寛解型多発性硬化症と多少異なっている。

後述のノバルティスのMayzent(siponimod)と同様なS1P受容体1/5調節剤。15年に72億ドルで完全子会社化したReceptos社の開発品で、17年12月に米国で承認申請したが、活性代謝物の評価が不十分だった模様で、受理されなかった。

セルジーンはReceptosから移籍したチームに開発を委ねていた模様だが、セルジーンなら申請しなかったとの発言があったと報じられている。買収企業のグリップが不十分だったことになる。セルジーンは他にも様々なセットバックが起きて経営陣に対する信頼が悪化、今年に入り、BMSに買収されることで合意した。

リンク: セルジーンのプレスリリース

JNJ、ダラザレックスをASCT付随療法に適応拡大申請
(2019年3月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の適応拡大をFDAに承認申請した。ジェンマブ社からライセンスして多発骨髄腫薬として販売している抗CD38完全ヒト化抗体で、一次治療ではASCT(自家造血幹細胞移植)に不適な患者向けに承認されているが、今回、ASCTを受ける患者にも適応を広げる。Velcade(bortezomib)やthalidomide、dexamethasoneと4剤併用でASCT前とその後の地固め療法を行う。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがベータサラセミアの遺伝子療法の承認などを支持
(2019年3月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、3月の会合で、Zyntegloの承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)のZyntegloは、ex vivoの遺伝子療法。12歳以上の輸血依存ベータサラセミア(TDT)でマッチするドナーがいないため幹細胞移植ができない患者に条件付き承認するよう勧告した。患者から採取したCD34陽性細胞にレンチウイルスベクターを用いて装飾ベータ・グロブリン遺伝子を導入、患者に戻す。臨床試験では過半が輸血不要になった。但し、遺伝子型がベータ0のホモ接合でヘモグロビンを殆ど作れない患者は効果が低下するため、CHMPは適応外とした。

ベータサラセミアはヘモグロビンのベータ鎖の遺伝子に変異があり、重い場合は定期的な輸血が必要になる。幹細胞移植が根治療法。

先進医療はCHMPだけでは十分な評価ができず、専門家委員会の活用などにより審査期間が長期化しがちだが、ZyntegloはPRIME指定制度の対象となり開発段階から密接なコミュニケーションを取ったため、審査期間150日と過去のATMP(先進治療用医療製品)の中で最も早く審査結果がまとまったとのこと。

遺伝子治療のようなテイラーメイド医薬品は著しく効果になりがち。Zyntegloは年一回投与する想定の模様であり、米国より価格に辛い欧州でどのような価格が設定され、どの低度普及するか、注目される。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: bluebird bioのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を受けた主なものは、セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)とImnovid(pomalidomide、米名Pomalyst、和名ポマリスト)。前者は、初めて治療を受ける幹細胞移植に適さない多発骨髄腫に、dexamethasone、bortezomib及びdexamethasone、あるいはmelphalan及びprednisoneのいずれかのレジメンと併用することが支持された。

後者は多発骨髄腫でRevlimid歴を持つ患者の二次治療としてbortezomib及びdexamethasoneと併用することが支持された。

再審関連では、CHMPは昨年12月にオメガ3脂肪酸を心筋梗塞の再発予防に用いるのは無効と判定したが、今回、確認した。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


メルクセローノの多発性硬化症薬、申請から10年を経て承認
(2019年3月29日発表)

FDAは、メルクセローノのMavenclad(cladribine)を再発型多発性硬化症の治療薬として承認した。同社が欧米で承認申請したのは09年。欧州では承認取得に8年、米国では10年かかった。再発寛解型と、二次進行型に進展した当初の数年間に見られる再発型(活性期)の患者が適応になる。原則として他剤不応不適に用いることを推奨。後述のノバルティスのMayzentとは異なり、CIS(Clinically isolated syndrome)に用いることは推奨されていない。

枠付警告は腫瘍と胎毒性。有害事象は骨髄抑制など。

活性成分のcladribineはプリン類縁体で米国で93年に有毛細胞性白血病治療薬として承認された。医師主導試験で多発性硬化症に効果が見られ、Ivax社(のちにテバが買収)が経口剤を開発、セラーノが世界開発販売権を取得した。4-5日間連続服用するサイクルを年に2-4サイクル施行する。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、初めての非レントゲン性体軸性脊椎関節炎治療薬を承認
(2019年3月28日発表)

FDAは、UCBのCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)を非レントゲン性体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)の治療に用いる適応拡大を承認した。nr-axSpAはレントゲン画像に異常が見られない脊椎関節炎で、強直性脊椎炎の定義の再評価に伴い、体軸性脊椎関節炎の前兆とも考えられる病状として提唱された病名。概念が新しいこともあり、治療薬として承認されたのはCimziaが初。

CimziaはUCBが2004年に15億ポンドで買収した英国のセルテックが創製したTNFアルファを標的とするPEG化抗体フラグメント。08年にクローン病治療薬として米国で初承認、その後、適応を関節リウマチや活性期強直性脊椎炎、プラク乾癬に広げてきた。

今回の承認は、高CRP値や仙腸骨炎のような客観的な炎症兆候を持つnr-axSpaの成人317名を組入れた第三相試験の成績に基づくもの。Cimzia群は47%が52週時点でASDAS(強直性脊椎炎疾病活動性スコア)の大きな改善を達成し、偽薬群の7%を大きく上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: UCBのプレスリリース

経口テストステロンが承認
(2019年3月27日発表)

Clarus Therapeutics(未上場)は、Jatenzo(testosterone undecanoate)ソフトゲルカプセルがFDAに承認されたと発表した。先天的または後天的な、原発性または低ゴナドトロピン性の性腺機能低下症の成人男性に用いる。経口テストステロン補充療法は初。

2014年に承認申請されたが諮問委員会もFDAも便益がリスクを上回るとは見なさなかった。開始用量を減らすなどして17年に再承認申請したが、昨年1月の諮問委員会では引き続きオフレーベル使用(若返り感を得るため)の懸念や心血管リスク、過剰投与リスクなどから、10対9で反対する委員が上回った。尤も、14年の諮問委員会の17対4で圧倒的多数が反対よりはよかった。

リンク: Clarusのプレスリリース

FDA、ノバルティスの二次進行型多発性硬化症用薬を承認
(2019年3月26日発表)

FDAはノバルティスのS1P1/5(スフィンゴシン1燐酸受容体1/5)調節剤、Mayzent(siponimod)を再発型多発性硬化症用薬として承認した。再発寛解型と活性期二次進行型の多発性硬化症、そしてCIS(Clinically isolated syndrome)という多発性硬化症に進展する可能性の高い疾患に用いることができる。

第三相試験で二次進行型の患者の再発リスクや疾病進行リスクを削減することに成功しており、同社のGilenya(fingolimod)を含む既存のS1P調節剤との差別化点になる。但し、二次進行型の初期に見られる再発を伴う時期(活性期)の患者以外は、臨床試験で治療効果が確認されなかったため、適応外。

報道によると、WAC(卸取得価格)は年88000ドルで、Gilenyaの95500ドルよりは低いが、米国の費用対効果評価機関であるICERが算定した月680-1000ドルのレンジからは大きく逸脱している。

Gilenyaの米国の特許は2027年まで有効だが特許挑戦を受けており2021年頃にGE薬が発売されるリスクが残っている。ノバルティスは、Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)がムコ多糖症VII型治療薬の承認時に取得した優先審査バウチャーを1.3億ドルで購入し、Mayzentが優先審査を受けられるようにした。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース(3/27付)

フォシーガ、日本と前後してEUでも一型糖尿病に承認
(2019年3月25日発表)

アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Forxiga(dapagliflozin、米名Farxiga、和名フォシーガ)を一型糖尿病の治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。直後に日本でも承認されている。米国でも審査中だが、先例からすると承認されない可能性もありそうだ。

SGLT2阻害剤は、腎臓で尿に移行したグルコースを血中に戻す輸送体を阻害して、血糖値を引き下げる。作用機序的には既承認の二型糖尿病だけでなく一型にも効きそうで、実際、Forxigaを創製開発したブリストル・マイヤーズ・スクイブは、一型の開発も進めていた。それがEUの場合で承認が二型から7年も遅れたのは、糖尿病性ケトアシドーシスの懸念が原因と推測される。

EUは、適応をBMIが27kg/m2以上の患者に限定し、インスリンが低量で足りる患者には推奨せず、治療開始時だけでなくその後もインスリンの用量至適化に留意することを求めた。

Lexicon社がサノフィと共同開発しているSGLT1/2阻害剤、Zynquista(sotagliflozin)は、Forxiga同様にCHMPの肯定的評価を獲得したが、米国は審査完了通知を受領した。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを重視するか、一型糖尿病はインスリン以外の治療の選択肢が少ないことを重視すべきか、判断が難しいことを示唆している。Farxigaも米国は審査完了通知に留まる可能性がありそうだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース







今週は以上です。

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