2019年3月3日

2019年3月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 甲状腺眼症用薬の第三相が成功 
  • リムパーザの第三相膵癌試験成功 
  • ブリリンタの二型糖尿病冠動脈疾患試験が成功 
  • アステラス、ゾスパタを欧州でも承認申請 
  • バイエル、前立腺癌用薬を承認申請 
  • selinexorの承認は第三相の結果が出てからか 
  • CHMPが高カイロミクロン血症治療薬などの承認を支持 
  • 皮注用ハーセプチンが米国でも承認 
  • ロンサーフ、米国でも胃癌に適応拡大 
  • AACR:心臓疾患を持つ患者にザイティガを使うリスク 


【新薬開発】


甲状腺眼症用薬の第三相が成功
(2019年2月28日発表)

希少疾患用薬と抗リウマチ薬に特化した新興医薬品開発企業のHorizon Pharma(Nasdaq:HZNP)は、HZN-001(teprotumumab)の第三相甲状腺眼症(TED)試験が成功したと発表した。本年央に米国で承認申請する考え。

TEDは甲状腺に関係する抗体が目の周辺の脂肪や目を動かす筋肉で炎症を起こす自己免疫疾患で、斜視や複視、眼球突出などを合併する。米国の推定患者数は年15000~20000人の希少疾患だ。teprotumumabは、TEDの活動期に軌道線維芽細胞で過剰発現するIGF-1R(インスリン様成長因子I受容体)を標的とする完全ヒト化抗体で、元々はロシュがジェンマブと共同創製したもの。

第三相では、中重度活動期TED83人を20mg/kg(初回は10mg/kg)を3週毎に点滴静注する群と偽薬群に無作為化割付して21週間治療し、眼球突出が2mm以上減少し、且つ、もう片方の目が悪化しなかった患者の比率を比較したところ、各82.9%と9.5%となり、有意な差があった(p<0.001)。ドロップアウト率は5%未満で群間の偏りはなかった由。主評価項目が若干異なるものの、全体的に後期第二相試験と同じような結果になっている。

抗IGF-1R抗体と言えば、ファイザーを中心に多くのビッグファーマが抗癌剤としてPOC試験や第三相試験を行ったが、上手くいかなかった。ロシュもR1507という開発コードでユーイング肉腫のPOC試験を行ったが09年に開発中止。アウトライセンス先をHorizonが買収したという経緯。十年を経て、思わぬ適応で蘇ったことになる。

リンク: Horizon社のプレスリリース

リムパーザの第三相膵癌試験成功
(2019年2月26日発表)

アストラゼネカと開発販売パートナーのMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)の第三相膵癌維持療法試験、POLOが成功したと発表した。生殖細胞系BRCA悪性変異を持つ転移性膵腺癌で白金薬レジメンによる一次治療に反応または安定化した患者154人を300mg錠または偽薬を一日一回服用する群に3:2割付してPFS(無進行生存期間)を比較したところ、統計的に有意で臨床的にも意味のある改善が見られた由。データは学会発表の予定。適応拡大申請に向けて諸国の承認審査機関と相談する考え。

Lynparzaは、DNAの修復に係る酵素であるPARPを阻害する。ある種の卵巣癌やBRCA悪性変異を持つher2陰性転移性乳癌に欧米で承認され、日本でも昨年、癌化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性・her2陰性の手術不能または再発乳癌に承認された。

他のPARP阻害剤よりも適応拡大試験が先行しており、今回の膵癌のほかに、転移性去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxel歴を持つ患者を組入れた第二相abiraterone・prednisone併用試験でabiraterone・prednisoneのみの群よりPFSが有意に伸びた。

尚、アストラゼネカとMSDは17年にLynparza及びselumetinib(MEK阻害剤)の共同開発販売で提携した。

リンク: 両社のプレスリリース

ブリリンタの二型糖尿病冠動脈疾患試験が成功
(2019年2月25日発表)

アストラゼネカは、P2Y12阻害剤Brilinta(ticagrelor、和名ブリリンタ)のTHEMIS試験成功を発表した。二型糖尿病で冠動脈疾患を持ち心筋梗塞や脳卒中歴はまだない患者19000人超を日米欧の医療施設で組入れて、アスピリンをベースにBrilintaを併用する初発予防効果を偽薬併用と比較したもの。用量は当初は90mg(一日二回)だったが、PEGASUS試験で再発予防効果が60mg(同)と大差なく忍容性は見劣りしたことを受けて、途中で60mg(同)に変更された。

二型糖尿病における有用性を確認した点で意義があるが、臨床的な意義は良く分からない。この試験の冠動脈疾患の定義は、PCI、CABG、または50%以上の冠動脈狭窄となっているが、PCIを受けた患者にP2Y12阻害剤を用いるのはごく一般的であり、効果があって当然のように思われるからだ。偽薬ではなくPlavix(clopidogrel)のような他のP2Y12阻害剤と比較しても良かったのではないか。また、デザインペーパーにも明記されていないが、投与期間は1年とか2年とか上限が設定されていたのだろうか?

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


アステラス、ゾスパタを欧州でも承認申請
(2019年2月28日発表)

アステラス製薬は、Xospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)をEUに難治性FLT3遺伝子変異陽性AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認申請し受理されたと発表した。迅速審査指定されている。

18年に日米で承認されたFLT3/AXL阻害剤で、第三相AMIRAL試験の中間解析では、完全寛解率(血液学的回復が部分的なCRhも含む)が21%、メジアン持続期間は4.6ヶ月だった。AMLのうちFLT3遺伝子の遺伝子内縦列重複変異やチロシンキナーゼドメイン変異を持つのは25~30%とされる。

リンク: アステラスのプレスリリース(和文)

バイエル、前立腺癌用薬を承認申請
(2019年2月27日発表)

バイエルは、BAY-1841788(darolutamide)の米国ローリング承認申請を完了した旨、発表した。オライオン社からライセンスした非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニストで、第三相試験では、非転移性去勢抵抗性前立腺癌でアンドロゲン枯渇療法に反応しているが高リスクの患者を組入れて600mgを一日二回追加投与する群を偽薬追加群と比較したところ、無転移生存期間のメジアン値が40.4ヶ月対18.4ヶ月、ハザードレシオは0.41と有意な差があった。

転移ホルモン感受性前立腺癌の第三相も進行中。先行競合薬が多いので、適応拡大をスピードアップする必要があるだろう。

リンク: バイエルのプレスリリース


【承認審査・委員会】


selinexorの承認は第三相の結果が出てからか
(2019年2月26日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)が多発骨髄腫のサルベージセラピーとして承認申請したKPT-330(selinexor)に関して、諮問委員会を招集。後期第二相単群試験のデータに基づいて加速承認すべきか、第三相試験の結果が出るまで待つべきか諮問したところ、8人対5人と多数の諮問委員が第三相を待つべきと回答した。順当な結果だろう。

selinexorは核外輸送蛋白であるXPO1に結合・阻害して腫瘍抑制蛋白が細胞核に蓄積するよう仕向ける。後期第二相試験では5次までの治療歴を持ち主要三剤(プロテアソーム阻害剤、免疫調停剤、抗CD38抗体)の全てに反応しなかった、ペンタ難治性多発骨髄腫122人を組入れて、低量dexamethasoneと併用したところ、ORR(客観的反応率)が25.4%、メジアン反応持続期間は4.4ヶ月だった。

問題は、文献データによると高量dexamethasoneのORRも同程度であること。忍容性面でも、治療関連深刻有害事象の発生率が60%、致死的治療関連有害事象が8%、有害事象治験離脱が28%と良好ではなく、薬が何もないよりはマシとも言い難い。

第三相では多発骨髄腫の二次治療として、Velcade(bortezomib)及び低量dexamethasoneにselinexorを追加する効果を比較している。selinexor併用群はVelcadeの投与頻度が最初から週一回と承認用法より少ないことが特徴。本年末から来年にかけて結果が出る見込み。

日本は小野薬品がライセンス、フェーズI段階。

リンク: Karyopharmのプレスリリース

CHMPが高カイロミクロン血症治療薬などの承認を支持
(2019年3月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、2月の会合で、FCS(家族性カイロミクロン血症候群)治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

尚、英国のEU離脱に伴いEMAがロンドンから移転するため、次回のCHMPは新拠点で開催される。

リンク: EMAのプレスリリース

このFCS治療薬は、Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製し子会社のAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)にライセンスしたWaylivra(volanesorsen)。ApoC-IIIの遺伝子をアンチセンスして、血清トリグリセライド値の上昇とそれに伴う腹痛や膵炎、肝脾腫大などを抑制する。臨床試験ではトリグリセライド値がベースラインの2209mg/dLから77%低下し、偽薬群の18%増と有意な差があった。主な有害事象は血小板減少症と注射箇所反応。

Akceaは米国でも申請したが、血小板減少症と深刻な出血リスクが原因で審査完了通知を受領した。

リンク: EMAのプレスリリース

このほかに肯定的意見を得たものは、まず、Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)のOndexxya(andexanet alfa、米国名AndexXa)。遺伝子組換え型ヒトXa因子で、Xa阻害剤のXarelto(rivaroxaban)やEliquis(apixaban)を服用している患者が緊急手術を受ける場合などの中和剤として用いる。

臨床試験で臨床的効用が検討されていないことなどからCHMPは条件付き承認を推奨し、上記以外のXa阻害剤の中和に用いることは認めなかった。米国では昨年5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)のPalynziq(pegvaliase)。PEG化遺伝子組換え型フェニルアラニン・アンモニア・リアーゼで、フェニルケトン尿症の治療に用いる。同社のKuvan(sapropterin dihydrochloride)に十分に反応しない患者などに用いられることになろう。効く患者と効かない患者がいることや、アナフィラキシーのリスクが留意点。米国では昨年5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

サノフィがLexicon(Nasdaq:LXRX)から日本以外の独占開発販売権を得て欧州で承認申請したZynquista(sotagliflozin)はSGLT-1/2阻害剤。既存のSGLT-2阻害剤と異なり、一型糖尿病に用いる。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを伴うため、適応はBMIが27kg/m2超の患者に限定され、インスリンが低量で足りる患者には推奨されない。米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのLorviqua(lorlatinib、米国名Lorbrena、和名ローブレナ)はALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤。ALK陽性非小細胞性肺癌で、他のALK阻害剤による治療歴を持つ患者に用いる。昨年9月に日本で初承認、米国でも11月に承認された。

アッヴィのSkyrizi(risankizumab、和名スキリージ)は抗IL-23p19ヒト化モノクローナル抗体。中重度乾癬に用いる。臨床試験ではHumira(adalimumab)と比べても奏効率が有意に高かった。日米でも承認審査中で日本は2月に第二部会を通過した。

適応拡大で肯定的意見を得た主なものは、まず、リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィが共同開発販売している抗IL-4受容体アルファ抗体、Dupixent(dupilumab)。中重度アトピー性皮膚炎に承認されているが、新たに12歳以上の重度喘息で二剤併用しても発作を十分に管理できない患者に追加投与することが支持された。

アストラゼネカのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)を生殖細胞性BRCA変異陽性、her2陰性の局所進行性・転移性乳癌に単剤投与することも支持された。現在は生殖細胞性BRCA陽性卵巣癌の維持療法などに承認されている。

CTI BioPharma(Nasdaq:CTIC)はEpjevy(pacritinib)の承認申請を撤回する予定であることを2月に発表したが、EMA側からも、撤回通知を受領した旨の発表があった。中高度骨髄線維症でインサイト社のJakafi(ruxolitinib)が適応にならない血小板減少症を伴う患者を予定適応としていたが、臨床試験で脾臓量は有意に減少したものの、症状改善効果は確立していない。CHMPによると至適用量の検討も不十分。

米国では16年に承認申請したが臨床試験で死亡率に偏りが生じたためFDAが治験停止を命じ、申請撤回。FDAは再試験を求めている。

JAK2/FLT3阻害剤で、12年にS*BIO社から関連資産毎取得したもの。翌年にバクスターにアウトライセンスしたが、バクスターを買収したシャイア(今年、武田薬品が買収)が権利返還した。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


皮注用ハーセプチンが米国でも承認
(2019年2月28日発表)

ロシュは、Herceptin Hylecta(trastuzumab, hyaluronidase-oysk)がFDAに承認されたと発表した。her2陽性の高リスク早期乳癌の切除術補助療法と転移性乳癌の二次治療に用いる。Halozyme社のrHuPH20技術を用いて皮注投与を可能にしたもので、投与に必要な時間が点滴静注用製剤の30-90分から2-5分に短縮されている。EUでは13年に承認されたが、米国では遅れていた。

rHUPH20技術は遺伝子組換え型ヒアルロニダーゼを用いて皮下のヒアルロナンを一時的に分解し、高分子薬の吸収を向上するもの。ロシュのRituxan(rituximab)など複数の抗体医薬に応用・商品化されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロンサーフ、米国でも胃癌に適応拡大
(2019年2月26日発表)

大鵬薬品は、Lonsurf(trifluridineとtipiracilの合剤、和名ロンサーフ)が米国で胃癌に適応拡大したと発表した。転移性の胃と食道胃接合部の腺癌が適応になる。三次治療試験でメジアン生存期間が5.7ヶ月と偽薬群の3.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69だった。日本や欧州でも承認審査中。

リンク: 大鵬薬品のプレスリリース(和文)


【医薬品の安全性】


AACR:心臓疾患を持つ患者にザイティガを使うリスク
(2019年2月27日発表)

AACR(米国癌学会)は3月29日から4月3日にかけて開催するカンファレンスのメディア向けブリーフィングを行い、合わせて、概要をプレスリリースで公表した。その一つは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの前立腺癌用薬、Zytiga(abiraterone、和名ザイティガ)に関する疫学研究で、心臓疾患を持つ患者は死亡リスクが高い可能性を示唆した。

フィラデルフィアのトマス・ジェファーソン大学Sidney Kimmel Cancer CenterのLu-Yaoらが米国のSEER癌登録とメディケアの医療記録のデータベースを用いて、Zytigaが承認された2011年から2014年までに治療を受けた2845人の6ヶ月全死亡リスクを分析したもの。このうち1924人は心臓疾患を持っていた。

結果は、心臓疾患のない患者の6ヶ月死亡率が15.8%であったのに対して、虚血性心疾患や脳卒中、鬱血性心不全、心房細動、心筋梗塞歴は各21.4%、22.1%、23.4%、24.4%、25.6%だった。

治療を受ける前と後の入院リスクの比較でも、心臓疾患患者はインシデンス・レートレシオ(IRR)の倍率が1.5~1.9だった。

前立腺癌用薬は心毒性を持つものがあり、臨床試験で心臓疾患患者を除外することは珍しくない。しかし、承認後は広く使われる可能性があり、今回の調査でも7割近くが該当した。実験と実医療のギャップを埋める上で、重要な研究と言えるだろう。

ただ、良く分からない点もある。上記の死亡率は患者背景の違いを修正していない模様だが、心臓疾患を持っている患者は元々、死亡リスクが高いだろう。分析対象のメジアン年齢は75歳と高齢なので尚更だ。死亡率の差のうちどの程度が薬の影響なのか、判然としない。心臓疾患による死亡が増えたのかどうかも明らかではない。

入院リスクの分析も、治療開始前と後を比較するのは妥当なのか?心臓疾患のない患者でもIRR倍率が1.8と、有病者と同様な上昇を示している。学会や論文での発表に注目したい。

リンク: AACRのプレスリリース
リンク: Lu-Yaoらの抄録







今週は以上です。

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