2020年7月4日

第953回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:RECOVERY試験がカレトラ群をドロップ 
  • COVID-19:FDAがワクチンの開発ガイダンスを公表 
  • COVID-19:ギリアドの治療薬の価格は5日コースが2340ドル 
  • ジェンマブ、抗組織因子ADCを子宮頸がんに承認申請へ 
  • 抗IL-1抗体の再発性心膜炎試験が成功 
  • アステラス子会社の遺伝子療法試験で2名死亡 
  • インターセプト、NASH治療薬承認第一号はならず 
  • アラガンら、VEGF-A拮抗薬で審査完了通知を受領 
  • CHMP、ベクルリーなどの承認に肯定的意見 
  • 鎮静剤アネレムが米国でも承認 
  • 長鎖脂肪酸酸化障害の脂肪酸補充療法が承認 
  • キイトルーダがMSI-H/dMMR大腸結腸癌の一次治療に光速承認 
  • FDA、ロシュのher2陽性乳癌用抗体合剤を承認 


【今週の話題】


COVID-19:RECOVERY試験がカレトラ群をドロップ
(2020年6月29日発表)

オックスフォード大学の主導で英国の医療施設で実施されている大規模なCOVID-19治療試験、RECOVERY試験は大きな成果を上げている。hydroxychloroquineにはCOVID-19感染症で入院した患者の28日死亡率を改善する効果がないことや、低量dexamethasoneが酸素投与や人工呼吸器/ECMO装着が必要な患者の死亡リスクを削減することに続いて、今度は、lopinavirとritonavirの合剤(HIV治療薬Kaletra、和名カレトラ)が無益であることも明らかにした。

KaletraはSARSが流行した頃から一部で用いられていたが、今回は中国のNational Health CommissionがCOVID-19肺炎の治療法として推奨した。武漢で行われた199人規模の無作為化割付対照試験はフェールしたが、点推定値は悪くなく検出力不足だった可能性もあるので決定的なエビデンスとは言い難い。

しかし、RECOVERY試験ではKaletra群(1,596人)の28日死亡率が22.1%と通常医療群(3,376人)の21.3%と大差なく、相対リスクは1.04、p=0.58だった。サブグループ分析も同様で、更に、悪化して人工呼吸器が必要になるリスクや入院期間を短縮する効果も見られなかった。

Kaletraは錠剤なので人工呼吸器/ECMO装着患者には適さない。このため、治験組入れ時点で人工呼吸器装着は4%に過ぎず、70%は酸素投与のみ、26%は呼吸介入が必要でなかった。症例数が少ないことから、RECOVERY試験の治験統括医(複数)は、人工呼吸器装着患者に対する効果は留保して、それ以外の入院患者には無効と結論した。Kaletra群の新規組入れは中止となった。

この試験では、上記三剤のほかに、azithromycin(マクロライド系抗生物質)やtocilizumab(中外/ロシュの抗IL-6受容体抗体)、回復期血漿もテストしている。

リンク: RECOVERY試験治験総括医の声明

COVID-19:FDAがワクチンの開発ガイダンスを公表
(2020年6月30日発表)

FDAはCOVID-19ワクチンの開発ガイダンスを公表するとともに、パブコメ受付を開始した。実用化後は短期間にたくさんの人が接種することになるだろうし、当初は医療従事者が優先される可能性が高いが深刻な副作用が多発したら医療崩壊に繋がりかねないので、当然のことながら、十分な規模の臨床試験を行い、主評価項目の解析が終わった後も被験者を長期的に追跡することを求めている。印象的なのは、ワクチンによる感染増強リスクに繰り返し言及していることだ。FDAは前臨床試験を最初のハードルに据えたが、既に臨床入りしたワクチンでも動物試験の詳細に関する公開情報は限られているので、部外者にとっては闇の中をスペースマウンテンで突っ走っているような不安を感じざるを得ない。

SARSやMERSに開発されたワクチンは、動物試験でワクチン関連ERD(強化呼吸器疾患)の懸念が浮上した。ワクチン接種後にウイルスに感染すると感染症が重くなるリスクだ。このため、FDAは、動物試験で中和抗体価やTh1型T細胞分極が総抗体反応やTh2型反応と比べて高水準ならばFIH(ヒトに対する初めての試験)と並行して、そうでなければFIHの前に、接種後にウイルスに暴露させる動物試験を行ってERDのリスクを検討するよう求めた。

ERDリスクに配慮して、臨床初期段階では感染時の重症化リスクが高い人や、可能ならば、医療従事者のようなウイルスに暴露するリスクが高い人たちも除外するよう推奨した。私は真っ先に参加するのは医療従事者と想像していたので、大変意外だった。数百人規模の試験に進む前にヒトでも中和抗体と総抗体反応、Th1とTh2のバランスを確かめる。中期、後期試験や市販後薬物監視でもERDリスクを引き続き検証する。後期試験は中間解析で無益性のほかにERDリスクも監視する。

薬効確認試験の主評価項目は、抗体価ではなく感染者数を偽薬群と比較するよう求めた。現時点では、どの程度の抗体があれば感染予防できるか、持続性はどの程度か、など不明な点が多いからだ。COVID-19は無症候感染者が多いため『感染』の定義が難しいが、FDAは無症候感染もカウントすることを求めた。但し、臨床試験によって定義が区々だと分かりにくくなるため、発熱など11の症状のうち一つ以上且つRT-PCR陽性を主評価項目とするよう推奨した。

ワクチンは軽症より重症の感染症を予防する効果の方が高い可能性があるため、重症例だけで有意差を検出できるよう組入れ数などを設定するよう推奨している。重症の定義としては、SpO2が室内気で93%以下、PaO2/FiO2が300 mm Hg未満などを列挙した。

本人が気づかないまま感染し抗体を獲得した人を多く組入れるとワクチン効率が希薄され検出力不足でフェールするリスクが生じる。しかし、FDAは、事前に抗体検査を行って陽性例を除外することには反対した(急性期である場合は除外する)。実用段階では事前検査などしない可能性が高いからだ。理由に挙げてはいないが、自然感染による免疫が長続きしない可能性(抗体陽性でもワクチンで更に増やすことが有益である可能性)にも配慮しているのだろう。

米国はマンハッタンでも通りが一本違うと人気がなく怖くて入れないし、ブラジルは車を降りて丘の上からスラム街の写真を撮ったら案内してくれた地元の人に危ないから早く戻れと注意された。これらの国で感染者や死亡者が多い一因はスラム街の存在だろう。FDAは少数民族など罹患者の多い人口を臨床試験に組入れるよう強く推奨した。また、妊婦やその可能性のある人、小児を対象とすることも検討するよう求めた

ワクチン効率のハードルは、点推定値で50%以上(感染率が偽薬群の50%以下)、アルファ調整後の信頼区間が30%超であることを推奨した。この点推定値は近年の季節性インフルエンザワクチンの実績と同じような水準だ。100%が望ましいが、危機管理ではリスクを30%削減することが最初の目標になる。

安全性データベースは、承認申請される用量用法の投与実績が典型的には3000人以上とした。実際には感染率の予想が組入れ数の決定要因になるだろう。開発で先行するアストラゼネカやModernaはP2/3試験に1万人以上を組入れる考えだ。

米国にはEUA(非常時使用認可)という制度があり、十分なエビデンスがなくても未承認の薬や医療機器の使用を認めることができる。ギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)はEUAなので、同社が米国で発出するプレスリリースには、米国では承認されていないことが明記されている。COVID-19ワクチンに関しては、生産関連の情報が十分で臨床試験で薬効や安全性が確認されたならば承認申請前あるいは審査完了前にEUAを出すのは妥当と記しており、第二相で大きなワクチン効率が示されない限り、第三相の結果が出るまで難しそうだ。

リンク: FDAのCOVID-19開発ガイダンス

COVID-19:ギリアドの治療薬の価格は5日コースが2340ドル
(2020年6月29日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のDaniel O'Day会長兼CEOは、ホームページ上の公開書簡で、Veklury(remdesivir、レムデシビル/JAN)の販売価格を明らかにした。先進国政府向けは全て、100mgバイアルを390ドルに設定。Vekluryは初日は200mg、その後は100mgを一日一回、点滴静注する。5日投与して改善が不十分だったり、人工呼吸器/ECMO装着患者の場合は、10日間まで投与できる。ギリアドによれば大半は5日コースの模様なので、一人当たり2340ドルとなる。尚、米国の医療保険向けは$520/バイアルと割高になるが、値引きが常なので、正味価格は政府向けと大差ないだろう。

命に係わる難病に有望と考えられる薬を開発した会社は、正式な承認前に、当局の許可を得て、人道的措置として提供することができる。Compassionate Use Programと呼ばれている。Vekluryも日本を含む多くの国で無償提供されたが、使い終わった段階で、有償購入に切り替わる。通常は政府や医療保険組織が薬価交渉を経て決定するので、今回のように製薬会社が世界統一価格を設定するのは異例だ。スピード優先ということだろう。

Vekluryの臨床試験ではメジアン入院期間が偽薬比4日間短かった。ギリアドによると、米国では4日間早く退院すれば医療費が12000ドル軽減されるとのことで、費用対効果が高いことになる。尤も、この数値がCOVID-19に関するものなのが、全入院例平均なのかは、明記されていないのでわからない。また、COVID-19でも人工呼吸器/ECMO装着の有無などにより費用が変わるだろう。dexamethasoneが正式に承認されれば、各剤のコストパフォーマンスも検討項目になるだろう。

尚、途上国向けはインドなどのジェネリック薬メーカーがロイヤルティフリーでライセンス生産し先進国より安価に販売する予定。報道によると、インドでCipla等が発売した価格は5日コースが350米ドル程度とのことなので、米国の1/7程度だ。

リンク: O'Day会長兼CEOの公開書簡(6月29日付)


【新薬開発】


ジェンマブ、抗組織因子ADCを子宮頸がんに承認申請へ
(2020年6月29日発表)

デンマークの抗体医薬開発会社、ジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Humax-TF-ADC(tisotumab vedotin)の第二相再発転移子宮頸がん試験の結果を明らかにした。転移後に二次以上の治療を受けた患者101人を組入れて全員に投与したところ、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価、RECIST 1.1ベース)が24%(95%信頼区間15.9-33.3%)、メジアン反応持続期間8.3ヶ月となり、他の薬の文献データと見比べて良好な成績だった。承認申請に向けて当局と相談する考え。

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の抗体薬物複合体(ADC)技術をライセンスして創製した、組織因子(TF)を標的とした抗体とMMSE抗癌剤のADC。TFは卵巣癌や前立腺癌、膀胱癌、食道癌、肺癌などでも高発現する一方で正常細胞では少ない由なので、適応拡大の余地もありそうだ。

同社はトランスジェニック・マウス技術を元に抗CD20抗体Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)や抗CD38抗体Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)を創製し大手を通じて実用化した実績を持つ。tisotumab vedotinはシアトル・ジェネティクスと共同開発しており、費用と収益は折半、米加墨以外はジェンマブが商業化する予定なので新薬開発会社から医薬品販売会社にステージアップする転機になり得るだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

抗IL-1抗体の再発性心膜炎試験が成功
(2020年6月29日発表)

Kiniksa Pharmaceuticals(Nasdaq:KNSA)は、rilonaceptの第三相再発性心膜炎試験が成功したと発表した。年内に米国で適応拡大申請する予定。

rilonaceptはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)が創製した抗IL-1抗体で、IL-1受容体のアルファ・ユニットとベータ・ユニットをIgG固定領域と融合することで阻害力を強化したもの。08年にCAPS(CIAS1変異関連自己炎症定期的症候群)治療薬Arcalystとして米国で、09年にはEUでも、承認された。Kiniksaは17年にrilonaceptをIL-1アルファやベータが調停する疾患の治療薬として開発する権利を取得。米国で適応拡大が承認されたら日米市場でもCAPS用途も含めた開発販売権を取得することができる。契約一次金500万ドル、承認達成報奨金は最大2750万ドル、適応拡大承認後の売上高や利益は両社で折半する。

リジェネロンにとっては初めての承認取得となった記念碑的な製品だが、一時は共同開発していたこともあるノバルティスが抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab)を投入したことや、リジェネロンの大型新薬が次々承認されたことから、戦略的な重要性は低下したと推測される。

今回の第三相は、活性期症候性再発心膜炎の患者86人をランインに組入れ、試験薬(初回は320mg、2回目以降は160mgを週一回、皮注)を投与する一方でそれまで服用していた薬(NSAIDsなど)はフェードアウトした。応答した61人を継続投与群と偽薬スイッチ群に1:1無作為化割付して、再発リスク(疼痛のNRSとCRP値などに基づいて判定)を比較したところ、ハザードレシオ0.04、p<0.0001と大変良い結果が出た。副次的評価項目の反応持続率や症状改善奏効率も有意な差があった。

再発性心膜炎は自己免疫疾患で、米国の推定患者数は最大40000人、再発性でrilonaceptの適応になりそうなのは最大14000人と推定されている。rilonaceptはFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: Kiniksaのプレスリリース

アステラス子会社の遺伝子療法試験で2名死亡
(2020年6月23日発表)

今年1月にアステラス製薬が30億ドルで完全子会社化した米国の遺伝子療法開発会社、Audentes Therapeuticsは、X染色体連鎖性ミオチュブラー・ミオパチー(XLMTM)の患者コミュニティに向けた声明の中で、AT132の第1/2相試験で高用量を投与した3人の患者から二人目の死亡者が発生したことを報告した。もう一人も深刻有害事象が発現したことが先に公表されている。20年央に米国で承認申請する目標だったが、この試験は既にクリニカルホールドとなっており、少なくとも開発遅延、場合によっては打ち切りの可能性もあるのではないか。

XLMTMはMTM1遺伝子の変異によりmyotubularinが欠損・極度欠乏していて、極度の筋力低下、呼吸不全、早期死亡などを被る、希少だが重篤な疾患。AT132は、ヒトMTM1遺伝子をアデノ随伴ウイルス血清型8型で導入する。FDAがRMAT(再生医療先進療法)指定している。17年に第1/2相ASPIRO試験を開始、19年に高用量の3x10^14vg/kgを至適用量と判定し追加組入れを決定したが、今年5月に、この用量を投与した3人が深刻有害事象を発現し一人は敗血症で死亡したことが公表された。今回、もう一人が投与4-6週後に進行性肝不全を発症し、敗血症で死亡したことが明らかにされた。

3名の共通点は年齢(5歳以下を組入れ)が比較的上で、高体重、肝胆疾患の既往があること。尚、低用量(1x10^14 vg/kg)では肝胆疾患既往患者を含め深刻有害事象は発現していない由。

深刻な疾患なので低用量で大きな問題がなければクリニカルホールドが解除される可能性もあるだろう。AT132の動物試験はどうだったのだろうか?Solid Biosciences(Nasdaq:SLDB)のSGT-001のように霊長類試験や子豚の試験で用量依存的な懸念が生じていなかったのだろうか?

リンク: Audentes社の声明(Joshua Frase財団のウェブサイト)


【承認審査・委員会】


インターセプト、NASH治療薬承認第一号はならず
(2020年6月29日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)はobeticholic acidをNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)による肝線維症の治療薬として適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。プレスリリースを読むと会社側はかなり不満であるようなので、異議申立て手続きに進む可能性もあるのではないか。NASHは開発中後期パイプラインが多いので、FDAが過去のアドバイスを覆したのか、注目している会社は多いだろう。

obeticholic acidはウルソデオキシコール酸と同様な胆汁酸誘導体でファルネソイドX受容体を作動する力価が高い。16年に原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocalivaとして5mgまたは10mgを一日一回投与することが欧米で承認された。

NASHは二種類の用量の第三相で高用量の25mg一日一回投与群が中間解析で二つの主評価項目のうち一つで成功。肝線維症奏効率(1ステージ以上改善しNASHが悪化しなかった患者の比率)が23.1%と偽薬群の11.9%を有意に上回った。もう一つのNASH奏効率(解消し肝線維症は悪化しなかった患者の比率)は11.7%と偽薬群の8%を数値上上回ったがp=0.12で有意ではなかった。副作用面は、原発性胆汁性肝硬変でも見られる掻痒が更に増加し、重度掻痒発現率は5%に達した。

19年9月の承認申請後の足取りは平板ではなく、優先審査指定で審査期限が今年3月26日に設定されたが、諮問委員会のスケジュール調整ができず4月開催となったため6月26日に延期され、その諮問委員会はCOVID-19流行による規制で6月に延期、会社側が追加データを提出したため再延期となり、結局、日程が決まらないまま審査完了となってしまった。

審査完了通知には、代理マーカーが穏やかに改善するだけでは臨床的便益が副作用リスクを上回ると合理的に推定することができず、加速承認できないと記されている模様。第三相試験の最終解析結果の報告や、延長試験の継続を推奨した由。

インターセプトはFDAと会合を持って今後の対応を決定する考え。

尚、インターセプトはEUでも昨年12月に適応拡大申請した。

リンク: 同社のプレスリリース

アラガンら、VEGF-A拮抗薬で審査完了通知を受領
(2020年6月26日発表)

アラガンとスイスのMolecular Partners (SIX: MOLN)は、AGN-150998(abicipar pegol)を新生血管加齢性黄斑変性治療薬として欧米で承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。二本の臨床試験で視力悪化を抑制する効果がジェネンテック/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)と非劣性だったが、眼内炎症の発生率が約15%とLucentis群の0-1%を大きく上回った。生産工程を見直し大腸菌を減らすことで9%程度に改善したが、FDAは、便益が上回るとは言えないと反対した。

チューリッヒ大学発のベンチャーであるMolecular Partnersは、天然のankyrinの繰り返し配列を使って標的に拮抗する物質を作るDARPin技術を持っている。アラガンとの広範な創薬提携から生まれたのがAGN-150998で、PEG化しても34KDaと分子量が小さく高力価、高安定性であることが特徴。プルーフ・オブ・テクノロジーになるはずが、品質面の問題点が表面化してしまったのは残念。

リンク: 両社とアッヴィの共同プレスリリース

CHMP、ベクルリーなどの承認に肯定的意見
(2020年6月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、6月の会合で、ギリアド・サイエンシズのVeklury (remdesivir、和名ベクルリー)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

VekluryはCOVID-19治療薬。SARS-CoV-2のポリメラーゼを阻害し、増殖を妨げる。CHMPは条件付き承認を推奨した。日本は第三相試験の結果が十分に把握できていない状況で特例承認したと推測され、米国は非常時使用承認なので正式な承認ではなく、正式な承認審査も受けていないと推測される。CHMPの審査は遅かったが、その分、ある程度キチンと評価検討したはずなので、承認内容が注目されたが、12歳以上且つ体重40kg以上で酸素補給や呼吸補助を必要とする肺炎を合併した患者に、最低4日間、最大10日間投与することを勧告した。人工呼吸器やECMOが導入されている患者は除外しなかったが、このような患者に対する効果は確立していない旨、プレスリリースに明記した。

CHMPの勧告を受けて、EMAは条件付き承認を行った。当初の有効期間は1年のみだが、今年8月までにACTT-1試験の全死亡に関する最終解析結果を報告し、年末までに全体の最終報告を行えば、正式承認に切り替わるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース(6/25付)
リンク: ギリアドのEU承認に関するプレスリリース(7/4付)

話をCHMPに戻すと、スエーデンのHansa Biopharma社のIdefirix(imlifidase)も条件付き承認が支持された。高度感作腎移植またはクロスマッチ陽性死体腎移植を受ける成人の脱感作療法。IgG免疫が強く適合する臓器がなかなか見つからない患者はウェイティングリストに乗っても後回しにされてしまいがちだ。現行の脱感作療法は日数がかかるため間に合わないリスクがある。Idefirixは化膿レンサ菌のIgG切断酵素由来のシステイン蛋白分解酵素で、クロスマッチ陽性でも24時間で陰転するのが長所。

第二相試験に基づく申請で、米国は第三相試験を行ってから23年ごろに承認申請する予定。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: HansaBiopharmaのプレスリリース

付記すると、Hansaは、imlifidaseを遺伝子療法の前処理用途で独占開発販売する権利をサレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)にライセンスした。サレプタが開発している74型のアデノ随伴ウイルス療法は、天然のウイルスに感染し中和抗体を持つ人が他の型と比べて比較的少ないが、もし持っていた場合、事前にimlifidaseでプリトリートすれば枯渇させることができるかもしれない。他のウイルスキャリアにも有効かもしれないので注目される。

リンク: Hansa Biopharmaのプレスリリース(7/2付)

またまたCHMPに戻ると、バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)のKaftrioはelexacaftor、tezacaftor、ivacaftorのトリプル・コンビ薬で、12歳以上の嚢胞性線維症でCFTR遺伝子のF508欠損がホモまたはヘテロでもう片方に最小機能変異を持つ患者に用いる。臨床試験では%予測FEV1がホモ接合型では偽薬比10%改善、ヘテロでは同14%改善し、汗中クロライドは各45 mmol/Lと41 mmol/L低下した。尚、ivacaftorは半減期が短いためKaftrioは朝服用し、夕方にivacaftor(Kalydeco名で12年に欧米承認)を服用する。

米国では昨年10月にTrikafta名で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのXolair(omalizumab、和名ゾレア)を点鼻ステロイドに十分反応しない鼻ポリープを伴う重度慢性副鼻腔炎の成人(18歳以上)に用いることが支持された。臨床試験ではポリープが縮小し鼻詰まりが緩和した。米国でも承認審査中。

XolairはTanox社からライセンスした抗IgE抗体で、アレルギーの原因となるマスト細胞との結合を妨げる。03年に米国で、05年にEUで、17年に日本でも、難治性喘息症用薬として承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

今回は承認申請撤回も多かった。まず、ノバルティスのXiidra(lifitegrast)。人口涙液に十分に反応しないドライアイの点眼薬として承認申請したが、CHMPは否定的だった。臨床試験で示された症状改善効果が網羅的ではなく、効果があっても臨床的に重要な違いではなく、長期投与実績がなく、『人口涙液不十分』診断する定義が曖昧であり臨床試験の対照群は人口涙液を使っていないためスイッチする効果が分からないことなどが理由。尚、米国では16年に承認された。

Xiidraはシャイアが開発していた小分子LFA-1阻害剤で、武田薬品との合併に際して、事業と関連社員400人をノバルティスが承継したもの。契約一時金34億ドル、目標達成報奨金は最大19億ドルとかなり大きなディールだったので、武田薬品にとっても残念なニュースだっただろう。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、第一三共のTuralio(pexidartinib)。腱滑膜巨細胞腫治療薬として承認申請されたが、症状改善効果が小さいことや肝毒性から、CHMPは否定的に考えていた。11年に買収したPlexxikonの開発品でCSF-1Rを阻害する。臨床試験ではORR(客観的反応率)が38%、偽薬群はゼロだった。この試験は深刻肝毒性が2例、発生しデータ監視委員会が新規組入れ中止勧告を行ったが、126人の目標に対して121人を組入れ済みだったため、主目的を達成することができた経緯がある。

米国では昨年8月に重体または機能低下を伴う症候性で切除不能な患者に限定して承認された。良性腫瘍なので腫瘍が縮小することの臨床的意義は必ずしも明確ではなく、欧米で評価が分かれても意外感は小さい。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認】


鎮静剤アネレムが米国でも承認
(2020年7月2日発表)

Cosmo Pharmaceuticals(SIX:COPN)は、Byfavo(remimazolam)がFDAに承認されたと発表した。結膜鏡や気管支鏡による検査など30分以内の処置を受ける成人の鎮静導入・維持に用いる。米国ではAcacia Pharma(Euronext:ACPH)が販売する。

ベンゾジアゼピン系の麻酔薬で、オンセットやオフセットが早く、体内のエステラーゼで不活化されるのでP450相互作用リスクがない。

ドイツのPaionが08年にCeNeS Pharmaceuticalsを子会社化して入手、昨年11月にEUでも承認申請した。日本は07年に小野薬品がCeNeSからインライセンスしたが14年に戦略上の理由で返還、17年にムンディファーマが導入し、今年1月に全身麻酔薬アネレムとして製造販売承認を得た。

リンク: Cosmo社のプレスリリース


FDA、HIV/AIDSのアタッチメント阻害剤を承認
(2020年7月2日発表)

FDAは、ヴィーヴ・ヘルスケアのRukobia(fostemsavir)をHIV/AIDSのサルベージ療法として承認した。様々な薬の治療経験を持ち抵抗性や副作用が原因で他の薬で十分な効果が上がらない患者に用いる。

ヴィーヴはグラクソ・スミスクライン、塩野義製薬そしてファイザーのHIV合弁。Rukobiaは15年にBMSから買収したHIVパイプラインの一つで、活性代謝物のtemsavirがHIVウイルスが細胞に侵入する時に用いるgp120に結合・ブロックする、懐かしい作用機序を持っている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース

長鎖脂肪酸酸化障害の脂肪酸補充療法が承認
(2020年6月30日発表)

カリフォルニア州の希少疾患用薬開発販売会社であるUltragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、FDAがDojolvi(triheptanoin)経口液を承認したと発表した。LC-FAOD(長鎖脂肪酸酸化障害)の成人小児にカロリーや脂肪酸を供給する。

LC-FAODは常染色体劣性遺伝疾患で、長鎖脂肪酸を代謝できず、もう一つのエネルギー源である糖が欠乏する。米国の患者数は2000-3500人と推定されている。Dojolviは高純度、医薬品品質の奇数炭素中鎖トリグリセライドで、2013年にBaylor Research Instituteから技術導入したもの。

リンク: 同社のプレスリリース

バベンチオが尿路上皮癌の一次治療後維持療法として承認
(2020年6月30日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)が局所進行性/転移性尿路上皮癌の一次治療後維持療法としてFDAに承認されたと発表した。白金薬ベースの化学療法で進行しなくなった患者に、800mgを二週毎に60分点滴静注する。日欧でも適応拡大申請中。

エビデンスとなるJAVELIN Bladder 100試験では、cisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用する一次治療に反応または疾病安定化した約700人を組入れて、10mg/kgを二週毎に点滴静注する群としない群の全生存期間を比較したところ、ハザードレシオ0.69、p=0.001となり、メジアン生存期間は21.4ヶ月と対照群の14.3ヶ月を上回った。もう一つの主評価項目である被験者の51%を占めるPD-L1陽性サブグループの解析も、各0.56、0.0003、未達、17.1ヶ月と成功した。尚、PD-L1陰性(被験者の39%)サブグループの探索的解析ではハザードレシオ0.85、95%信頼区間0.62-1.18)となっているが、FDAは適応をPD-L1陽性に限定しなかった。

Bavencioは17年に二次治療薬として加速承認されたが、フェーズIVコミットメントでもある上記試験で延命効果が確認されたため、今回、本承認に切り替わった。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(7/1付)

キイトルーダがMSI-H/dMMR大腸結腸癌の一次治療に光速承認
(2020年6月29日発表)

MSDは抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)を持つ切除不能/転移直腸結腸癌の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。Real-Time Oncology-Reviewプロジェクトの対象で、承認申請から1ヶ月足らずで承認された。 

KeytrudaはMSI-H/dMMRの切除不能/転移固形癌の再発治療に用いることが17年に米国で承認された。今回の承認の根拠となったKeyNote-177試験では、代表的な一次治療レジメンであるmFOLFOX6またはFOLFIRI(bevacizumabまたはcetuximabを併用可)とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価、RECIST 1.1を一部調整)を比較したところ、中間解析でハザードレシオ0.60、p=0.0004、メジアン値は各16.5ヶ月と8.2ヶ月となり、成功認定された。もう一つの主評価項目である全生存期間はデータがまだ熟していない。

マイクロサテライトは塩基配列が何度も繰り返されている箇所を指す。変異が起きやすいので、腫瘍とそれ以外の細胞を比較することで、遺伝子修復が機能しているかどうか判定することができる。dMMRも類似した概念。結腸直腸癌では5-20%が該当するとされる。

リンク: 同社のプレスリリース

FDA、ロシュのher2陽性乳癌用抗体合剤を承認
(2020年6月29日発表)

FDAはロシュのPhesgoをher2陽性乳癌のネオアジュバント療法やアジュバント療法用薬として承認した。同用途で併用することが承認されている抗her2抗体tratuzumabと抗2C4抗体pertuzumab、そして点滴静注ではなく皮注を可能にするためのヒアルロン酸分解酵素hyaluronidase-zzxfの合剤で、投与に必要な時間が負荷用量は150分から8分に、維持用量も60-150分から5分に、短縮できる。自己注も可能なので、医療施設や患者の時間的負担が軽減できる。

hyaluronidaseを使って皮膚組織を弱体化し抗体医薬の吸収を促進する技術はHalozyme Therapeuticsからライセンスしたもの。tratuzumabも同じ技術を用いた皮注用製剤がHerceptin Hylecta(trastuzumab、hyaluronidase-oysk)として欧米で承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース






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