2020年7月24日

第956回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ファビピラビルのインドでの治験結果 
  • COVID-19:ワクチンの第二相データが続々と発表 
  • ジャカビの第三相慢性移植片宿主病試験が成功 
  • カルシニューリン阻害剤がループス腎炎に承認申請 
  • ACADIA、Nuplazidを認知症精神症状治療薬として適応拡大申請 
  • BMS、CAR-Tを欧州でも承認申請 
  • アストラゼネカ、ビレーズトリが米国でも承認 
  • ジャズ、ナルコレプシー用薬のミネラルバランス改良製剤が承認 


【今週の話題】


COVID-19:ファビピラビルのインドでの治験結果
(2020年7月22日発表)

インドのグレンマーク・ファーマシューティカルズは、インドで実施しているFabiFlu(favipiravir)の第三相軽中等症COVID-19試験の結果を発表した。主評価項目のウイルス口内放出期間はフェールしたが、主要副次的評価項目である罹病期間は悪くない結果になった。6月にインドで承認されたばかりなので、裏切る結果にならなかったのは取り敢えず一安心だろう。同社は中等症患者を対象にumifenovir併用の第三相試験も実施中。

favipiravirはRNAポリメラーゼ阻害剤。新型インフルエンザが流行した時の治療薬として日本で14年に承認された。COVID-19治療効果は中国やロシアの小規模な試験や日本の観察的試験で良好な数字が出ているが、対照試験は藤田医科大学などで行われた無症候性・軽症患者の第二相がフェール、今回も主評価項目はフェールと、判然としない結果になっている。

今回の試験は、RT-PCR検査で陽性判定されてから48時間以内の入院患者150人(軽症90人、中等症60人)を7臨床施設で組入れて、800mg(初日は1600mg)を一日2回、最長14日間経口投与する群と対照群に無作為化割付して、転帰をオープンレーベルで比較したもの。結果は、ウイルス口内放出期間のハザードレシオが1.36(95%信頼区間0.944、1.979)、p=0.129となり、フェールした。一方、罹病期間のほうはメジアン3日対5日、ハザードレシオ1.749(95%信頼区間1.096、2.792)、p=0.029となった。深刻有害事象はゼロ、対照群は一人で発現した。

主評価項目がフェールしたので副次的評価項目でいくら良い数値が出ても統計的に有意とは言えず、また、罹病期間は熱など様々な項目の複合評価なので、p値がそれほど低くないことや、オープンレーベル試験であることを考えると、割り引いて考える必要があるだろう。効果を立証することができず、かと言って、全くないと切り捨てるほどではない、『ざんねんなりんしょうしけん事典』の収載候補として推薦したい。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)

COVID-19:ワクチンの第二相データが続々と発表
(2020年7月20日発表)

三種類のCOVID-19ワクチンの第二相試験論文が医学誌や論文原稿サーバーに刊行・収載された。この段階としては良好な内容だが、実用化の成否を占ったり、三品のデータを比べたりするのは時期尚早だろう。

安全性については深刻な有害事象は発生しなかったとのことなので、最低限のハードルはクリアしたことになるが、多くても1000人程度のデータなので、稀だが深刻な有害事象を検出することはできない。日本で年数千万人が接種するインフルエンザワクチンよりも広く用いられる可能性が高いことを考えると、数万人規模の第三相データが必要だ。

ワクチンの稀だが深刻な有害事象が普及のボトルネックになった最近の事例では、子宮頸癌ワクチンがある。有効で有益なワクチンが登場すると、命に係わる病気の犠牲者を減らすべく、医師もメディアも公衆衛生学者もこぞって普及を後押しするが、便益ばかり喧伝して人々が不安になるようなことをオミットすると、裏目に出た時にあのような結果になる。日本より先に発売された米国でも英国でも失神など奇妙な現象が騒ぎになったのだから、日本で発現しないと考えるのは楽観的過ぎる。今日ではワクチンの副作用/副反応とは断定できないと考えられているが、当時は未解決だったのだから、見なかったふりをすべきではなかった。

我が国の専門用語である『多様な症状』を第三相をよく調べて、市販後も継続的に情報収集する必要があるだろう。

COVID-19ワクチン固有の要観察事項としては、ワクチン接種者が感染時に却って重体化してしまう可能性をFDAは気にしているようだ。最近ではデング熱ワクチンで表面化して騒ぎになったことがあるが、発現頻度は決して高くないので数万人規模の試験を行わないと発見できないし、多くの人が感染するまで何ヶ月も追跡しなければならない。従って、答えが出るのはまだ先だ。

有効性については、第二相で中和抗体やT細胞性免疫を誘導できることが確認できた。回復期血漿の抗体水準と比較したデータを見ると、オックスフォード大学/アストラゼネカの開発品が若干見劣りするが、回復期血漿に含まれる抗体量は個人差が大きく、また、回復から日数が経つにつれて低下するので、他のワクチンのデータと比較するのは適切ではないかもしれない。また、感染から回復し抗体を持っている人が再び感染しないという保証はない。

結局、感染や重症化を防ぐのに必要な水準が分からないのだから、抗体価などの水準が多少低くても問題ないかもしれないし、逆に、三品とも免疫原性が足りないかもしれない。

そもそも、COVID-19ワクチンに関しては、効果がどの程度持続するか分からない。インフルエンザのように季節性があるなら半年持てば年一回接種で足りるが、夏でも流行が衰えていないことを考えると、半年しか持たなかったら半年毎に接種しなければならないかもしれない。臨床入りしてからまだ半年も経っていないので、答えが出るのはまだこれからだ。

リンク: オックスフォード大学/アストラゼネカのChAdOx1 nCoV-19に関する治験論文(Folegattiら、Lancet、オープンアクセス、pdfファイル)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: CanSino BiologicsのAd5-nCoVに関する治験論文(Zhuら、Lancet、pdfファイル)
リンク: BioNTech/ファイザーのBNT162b1に関する治験論文原稿(Sahinら、medRxiv)


【新薬開発】


ジャカビの第三相慢性移植片宿主病試験が成功
(2020年7月23日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)とノバルティスは、Jakafi(ruxolitinib、欧州名Jakavi、和名ジャカビ)の第三相ステロイド不応/依存慢性GvHD(移植片宿主病)試験が成功したと発表した。第24週のORR(客観的反応率)をBAT(最良医療)群と比較したオープンレーベル試験で、データは今後発表される予定。

Jakafiはインサイトがノバルティスと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤で、骨髄線維症や真性多血症などに日米欧で承認されている。米国では昨年、第二相単群試験のデータに基づいてステロイド不応急性移植片宿主病の治療に承認された。今回の慢性期試験と、昨年10月に成功発表された第三相急性期試験はノバルティス中心に実施したもので、米国外も含めて適応拡大申請に向かうだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


カルシニューリン阻害剤がループス腎炎に承認申請
(2020年7月21日発表)

カナダのAurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP、Nasdaq:AUPH)はvoclosporinをループス腎炎治療薬として米国で承認申請していたが、受理され、優先審査指定されたと発表した。審査期限は21年1月22日。

臓器移植後拒絶反応防止薬として承認されているcyclosporinなどと同じカルシニューリン阻害剤。ロシュがIsotechnikaからライセンスして移植用途で開発したが権利を返還。その後、Isotechnikaは13年にAuriniaと合併、単独でループス腎炎などの開発を進めた。

点眼用製剤もドライアイ症候群で第三相試験中。第二相では一日二回投与でアラガンのRestasis(cyclosporin点眼液)より効果が高かった。

リンク: 同社のプレスリリース

ACADIA、Nuplazidを認知症精神症状治療薬として適応拡大申請
(2020年7月20日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は、Nuplazid(pimavanserin tartrate)を認知症の精神症状(幻覚妄想)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請していたが、受理され審査期限は来年4月3日になったことを発表した。5-HT2Aインバース・アゴニストで16年に米国でパーキンソン病の精神症状治療薬として承認されている。

この種の薬を認知症患者に用いると死亡リスクを高める可能性があり、Nuplazidのレーベルでも警告されている。今回の適応拡大申請は、懸念を払しょくすることはできないだろうが、便益を明確にすることによって、死亡リスクがあると分かっていてもオフレーベル使用を止めることができないでいる医療従事者にとって朗報になり得るだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、CAR-Tを欧州でも承認申請
(2020年7月17日発表)

BMSは、lisocabtagene maraleucelをEMAに承認申請し受理されたと発表した。日米でも承認審査中だが、EUは目標適応症が多く、難治再発性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、原発性縦隔B細胞リンパ腫、または濾胞性リンパ腫(グレード3B)の三次治療となっている。

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)からライセンスしたCD19を標的とするキメラ抗原受容体-T細胞で、共刺激ドメインは4-1BB、ベクターはレンチウイルスを使っている。セルジーンを買収して入手したパイプライン。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


アストラゼネカ、ビレーズトリが米国でも承認
(2020年7月24日発表)

アストラゼネカはCOPD維持療法薬Breztri Aerosphere(和名ビレーズトリエアロスフィア)がFDAに承認されたと発表した。吸入コルチコイドのbudesonide、長期作用性ムスカリン拮抗剤のglycopyrrolate(USAN;INN/JANはglycopyrronium)、長期作用性ベータ2作用剤のformoterol fumarateを配合したpMDI(加圧噴霧式定量吸入器)製品。

日本では昨年承認されたが、米国は第三相試験でFEV1改善効果が二剤併用製品を有意に上回らなかったことなどから、日本承認の4ヶ月後に審査完了通知を受領した。前後して開票したETHOS試験で増悪が二剤合剤より有意に少なかったため、アストラゼネカはデータを追加提出、今回の承認につながった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ジャズ、ナルコレプシー用薬のミネラルバランス改良製剤が承認
(2020年7月22日発表)

ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、Xywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)がFDAに承認されたと発表した。7歳以上のナルコレプシー患者の日中の傾眠や脱力発作を抑制する。

同社のブロックバスター医薬品であるXyrem(sodium oxybate)はナトリウムが多く、心不全や高血圧、腎障害の患者が使う場合は注意するよう警告されている。Xywavは陽イオンの組成を変えることでナトリウム量を一日当り1~1.5g減らし、カルシウムやマグネシウム、カリウムを添加したもの。Xyremと同様な経口液で、就寝前に2.5~4時間空けて二回服用する。4.5g/日で開始、推奨用量である6~9gに向けて滴定する。

sodium oxybatesは麻薬指定されている(スケジュールIII)。中枢神経抑制や乱用誤用リスクが枠付警告されている。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

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