【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:ケブザラは人工呼吸器装着患者にも効果が不十分?
- COVID-19:WHOも2剤の臨床試験を中止
- COVID-19:抗体カクテルの暴露後予防試験が開始
- COVID-19:Novavaxなどが米国政府とワクチン等の供給契約
- バイエル、ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤の糖尿病アウトカム試験が成功
- イドルシア、daridorexantの二本目の不眠症治療試験が成功
- キッセイのGnRHアンタゴニストの海外第三相試験が成功
- Immunomedics、Trodelvyの承認後薬効確認試験が成功
- バイオジェン/エーザイ、aducanumabをアルツハイマー病に承認申請
- レオ ファーマ、抗IL-13抗体をアトピーに承認申請
- 第一三共、エンハーツをEMAに承認申請
- キイトルーダとレンビマの併用、肝癌承認はお預け
- FDA、大塚製薬グループ会社の経口デシタビンを承認
【今週の話題】
COVID-19:ケブザラは人工呼吸器装着患者にも効果が不十分?
(2020年7月2日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗IL-6受容体アルファ・サブユニット抗体Kevzara(sarilumab)のCOVID-19肺炎試験のうち米国試験がフェールしたと発表した。第2/3相試験のフェーズIIポーションで重症(ベースライン時点で酸素投与)サブグループの成績が悪かったためフェーズIIIポーションでは400mg群の危機的(人工呼吸器装着、ハイフロー酸素投与、またはICU入室)患者196人の治療転帰を偽薬群と比較したが、統計的に有意な差がなくトレンドに留まった。一方、重症患者に関してはネガティブな結果だった。
データは未公表だが、深刻有害事象発現率は、多臓器不全症候群は6%(偽薬群は5%)、低血圧は4%(3%)、と若干ではあるが上回っている。前者は薬効評価項目の一部とオーバーラップするので、偽薬より数値上多いのは残念だ。
この試験は800mgを投与するコフォートも設定されていたが、どちらも、中止となった。
Kevzaraはサノフィが主導して日欧露でも第三相COVID-19肺炎試験が進行中。投与スケジュールなどが若干異なるらしく、両試験共通の独立データ監視委員会は治験続行を勧告した。7-9月期に結果が出る見込み。
抗IL-6受容体抗体は中国で行われたActemra(tocilizumab)の小規模な試験で良さそうな結果が出たことが報じられ、ActemraやKevzara、そしてインターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達に係るヤヌスキナーゼを阻害するJAK阻害剤などの臨床試験が活発化した。真っ先にスタートしたKevzaraの米国試験がフェールしたのは嫌な辻占いだ。
リンク: 両社のプレスリリース
COVID-19:WHOも2剤の臨床試験を中止
(2020年7月4日発表)
WHOはSolidarity試験のhydroxychloroquine(HCQ)群とritonavir-boosted lopinavir(製品名Kaletra)群を打ち切ることを発表した。運営委員会が中間解析結果を踏まえて中止勧告したもの。英国のRECOVERY試験の結果を追認した格好だ。
この試験は、COVID-19に感染し入院した患者5000人超をremdesivir群、HCQ群、Kaletra群、Kaletraとインターフェロン・ベータ1aの併用群、標準療法群に無作為化割付して転帰を比較したもの。HCQ群は疫学論文(後に撤回)で安全性懸念が示唆されたため新規組入れを中断していた。
アウトカム試験がフェールした場合に同じようなデザインのアウトカム試験を行っている研究者がどう対処すべきかは難しい問題だ。remdesivirはNIH(米国立衛生研究所)が主導した試験で効果が確認されたので、Solidarity試験など同時進行している試験でも、標準療法群の患者にremdesivirを標準療法として使えるようにすべきかもしれない。しかし、米国以外の国で再現されるとは限らないので、治療中の患者の同意を得た上で可能な限りそのまま続行してエビデンスを強固にすることも重要だ。
今回の打ち切りはどちらだろうか?プレスリリースを読む限りでは、他の臨床試験だけでなく、SOLIDARITY試験の中間解析でも、期待された効果は具現していないようだ。論文発表/原稿公開されれば明らかになるだろう。
リンク: WHOのプレスリリース
COVID-19:抗体カクテルの暴露後予防試験が開始
(2020年7月6日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、REGN-COV2の第三相COVID-19予防試験に着手したと発表した。感染者の同居人など、SARS-CoV-2に暴露した可能性のある2000人を米国の医療施設で組入れて、実際は予防というよりは早期介入の効果を検討する。米国立衛生研究所傘下の米国立アレルギー・感染症研究所と共同で執行する。
本命用途である治療試験は、第1/2/3相試験のフェーズIポーションが終了、フェーズII/IIIポーションに入った。米国とブラジルなどの施設で入院患者1850人と非入院患者1050人を組入れる予定だが、アダプティブ・デザインなので今後、変更される可能性がある。
REGN-COV2は回復期患者やライブラリーから同定した中和抗体二種類のカクテル。スパイク蛋白の異なった受容体結合ドメインに結合し、ウイルスが細胞に侵入するのを妨げる。エボラウイルス疾患の臨床試験では、後にCOVID-19治療薬として承認されることになるremdesivirよりもリジェネロンなど数社の抗体カクテルのほうが救命効果が高かった。COVID-19でも期待が大きい。
欧米の流行では中国などではあまり見られなかったD614G置換を持つウイルスが多く、いわゆるファクターXの候補の一つになっているが、REGN-COV2はこの変異型にも有効性を示したとのこと。これが原因で欧米では又はアジアでは効かない、という心配はなさそうだ。
リンク: 両社のプレスリリース
COVID-19:Novavaxなどが米国政府とワクチン等の供給契約
(2020年7月7日発表)
トランプ政権は、スタートレックのエンタープライズ号や宇宙戦艦ヤマトのように超光速のスピードでCOVID-19ワクチンや治療薬を開発する『ワープ・スピード作戦』を推進している。通常なら数年かかる新薬開発を1年足らずに短縮するため、臨床試験や量産方法確立、サプライチェーンや生産に係る莫大な先行投資の一部を助成することで資金調達や失敗した時のリスクを分担し、成功したら、所定の数量を取得する。来年1月までに3億回分のワクチンを確保することを狙っている。保険福祉省と国防省の長官が主導する。
具体的な助成先については観測記事しか出ていなかったが、米国のワクチン開発ベンチャー、Novavax(Nasdaq:NVAX)とリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)が開発生産供給契約を決めた旨、発表した。
Novavaxの開発品はNVX-CoV2373。バキュロウイルス・ベクターで抗原遺伝子を昆虫細胞に導入して製造するワクチンで、Matrix-Mアジュバントを混合して免疫原性を高めている。第1/2相試験中で、フェーズIポーションの結果は今月中にも明らかになる見込み。順調なら20年秋から3万人規模の第三相を行う考えで、中国企業やアストラゼネカ、Moderna(Nasdaq:MRNA)を追いかけている。6月に国防相と6000万ドル相当の契約を結び、開発生産成功時に1000万回分を供給することを決めたが、今回、ワープ・スピード作戦の一環として16億ドル相当という大きな契約を決めた。後期臨床開発や量産方法の確立に充てるとともに、FDAの承認/非常時使用認可を前提に、20年末から1億回分を供給する。
リンク: Novavaxのプレスリリース
リジェネロンの開発品はREGN-COV2。ウイルスが細胞に侵入する時に使うスパイク蛋白に結合する二種類の中和抗体のカクテルで、第2/3相治療試験と第3相暴露後予防試験が始まったところ。同社も以前から保健福祉省とパートナーシップを結んで様々な病原体に対する抗体医薬の研究開発を行っているが、今回、ワープ・スピード作戦として4.5億ドル相当の契約を決めた。一回分の用量が決まっていないので流動的だが、治療用途で7~30万回分、予防用途なら42~130万回分を供給することになる。
リンク: リジェネロンのプレスリリース
前回も書いたようにワクチンの開発は心配な点も多く、Novavaxのようなベンチャー系の企業の場合、フェールしたら経営が破綻しかねないので、政府助成によるリスクシェアリングは必須だ。国民の税金を使う以上、開発が成功したら便益をフルに享受できるような仕組みにしなければならない。トランプ大統領が、国内需要が充足されるまで米国製ワクチンの輸出を認めないと言っているのはこれが背景の一つだろう。
つまり、ほかの国は、様子見を決め込んで勝ち組が決まったら便乗する戦術ではワークせず、自分もリスクを取って(資金を出して)青田買いに踏み切るべきである。種を蒔かざる者、食うべからず。
【新薬開発】
バイエル、ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤の糖尿病アウトカム試験が成功
(2020年7月9日発表)
バイエルは、BAY 94-8862(finerenone)のFIDELIO-DKD試験が成功したと発表した。慢性腎疾患を合併する二型糖尿病患者約5700人を組入れて、10mg錠または20mg錠を一日一回経口投与する群と偽薬群の腎臓アウトカムを比較した試験で、主評価項目(腎不全、eGFRが持続的に40%以上低下、または腎疾患死の複合評価項目)と、主要副次的評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または心不全入院の複合評価項目)が共に成功した。
データは学会で発表する考え。承認申請に向けて当局と相談する予定。
BAY 94-8862は非ステロイド系のミネラルコルチコイド受容体拮抗剤。アルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に結合して血圧の上昇や心臓のリモデリングを誘導するのを妨げる。ステロイド系の薬が心不全などの治療薬として承認されているが、腎機能低下をもたらすリスクがある。
非ステロイド系は腎毒性が小さく、日本で昨年承認された第一三共の降圧剤、ミネブロ(エサキセレノン)も、糖尿病性腎症試験の成功が発表された。主評価項目は尿中アルブミン/クレアチニン比なので迫力が劣るが、BAY 94-8862の主評価項目も、常識的に考えれば、eGFRという代理マーカーが悪化してヒットした症例が多いだろうから、実質的には大差ないかもしれない。但し、心血管アウトカムは、日本はともかく欧米では、重要だ。
現時点では両剤の効果や忍容性を比較するのに必要な情報が足りない。分かりやすい違いは、ミネブロは半減期が4時間と短いため、一日二回服用する。バイエルのもう一本の第三相試験の対象である心不全では一日二回が珍しくないが、高血圧症や糖尿病性腎症には一回のほうがコンプライアンスが良いのではないか。
リンク: バイエルのプレスリリース
イドルシア、daridorexantの二本目の不眠症治療試験が成功
(2020年7月6日発表)
イドルシア(SIX:IDIA)は、daridorexantの二本目の第三相不眠症治療試験が成功したと発表した。年末頃に米国で承認申請する計画。
イドルシアはアクテリオンがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にパイプラインを持ってスピンアウトした会社。daridorexantはアクテリオンがACT-541468と呼んでいたデュアル・オレキシン受容体アンタゴニスト。4月に成功発表された最初の第三相では、25mgと50mgの両方で客観的入眠潜時(PSG-LPS)と中途覚醒時間(WASO)、主観的総睡眠時間(sTST)が偽薬比有意に改善し、50mgでは日中機能でも有意差があった。今回の試験は925人(うち39%は65歳以上)の慢性不眠症患者を組入れて10mgと25mgをテストしたところ、25mg群のPSG-WASOとsTSTが偽薬比有意に改善した。PSG-LPSや日中機能はトレンドに留まった。また、10mgはこれらの指標全てでトレンドに留まった。
これらの試験の主評価項目は二種類の用量の第1月と第3月のPSG-LPSとWASOで、一本の試験で8回、検定を行うので、個々の解析のp値の閾値は0.05より遥かに小さくなる。プレスリリースでは16件の検定と記しているので副次的評価項目のsTSTや日中機能の解析にもアルファを配分しているのかもしれない。
それだけに、有意差がないイコール効果がないとは言えないが、何れにせよ、一般に不眠症治療薬の効果は大きくないので、どんなフェールでもフェールはフェールと考えた方が良いかもしれない。
尚、日本ではイドルシア ファーマシューティカルズ ジャパンが持田製薬と共同開発している。
リンク: イドルシアのプレスリリース
キッセイのGnRHアンタゴニストの海外第三相試験が成功
(2020年7月6日発表)
スイスのオブシーバ(Nasdaq:OBSV、SIX:OBSN)は、linzagolixの二本目の第三相子宮筋腫試験が成功したと発表した。24週時点の月経過多治療奏効率が100mg群は56.4%、200mg群(estradiol及びnorethindrone acetateを併用)は75.5%と偽薬比有意に上回った。尚、一本目の試験では各56.7%と93.9%で偽薬群は29.4%だった。
欧州で今年第4四半期に、米国では来年上期に承認申請する計画。
linzagolixはキッセイ薬品のKLH-2109の日本などアジアの一部以外での権利をライセンスしたもの。アッヴィが Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)からライセンスして商業化したOriahnn(elagolix)やMyovant Sciencesが武田薬品からライセンスし開発したMVT-602(relugolix)と同様なGnRHアンタゴニストで、何れも経口投与できることが特徴。三剤の間では、処方期間制限(長期服用時の安全性)で差別化できるかどうかが注目点になろう。
リンク: 同社のプレスリリース
Immunomedics、Trodelvyの承認後薬効確認試験が成功
(2020年7月6日発表)
Immunomedics(Nasdaq:IMMU)は、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第三相ASCENT試験のデータを公表した。今年4月にFDAに加速承認された抗EGP-1抗体とirinotecan活性代謝物のADC(抗体薬物複合体)のフェーズIVコミットメントとして行われた試験で、承認内容とほぼ同じ、転移後に二次以上の治療歴を持つトリプル・ネガティブ乳癌に10mg/kgを投与する効果を医師が選んだ薬(選択肢はeribulin、capecitabine、gemcitabine、vinorelbine)と比較した。4月に独立データ安全性間委員会が『ルーチン評価に基づき圧倒的な効果による中止勧告』を行った旨、発表済み。
主評価項目のPFS(無進行生存期間)はメジアン5.6ヶ月と実薬対照群の1.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.41(95%信頼区間0.32-0.52)だった。副次的評価項目である全生存期間の解析も成功したとのこと。
Immunomedicsは加速承認を本承認に切り替えるよう申請する考え。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
バイオジェン/エーザイ、aducanumabをアルツハイマー病に承認申請
(2020年7月8日発表)
バイオジェンとエーザイは、スイスのNeurimmune社からライセンスして両社で共同開発しているBIIB037(aducanumab)をアルツハイマー病治療薬としてFDAに承認申請した。他の地域では現在も当局と相談中。
この抗アミロイド・ベータ抗体は、アルツハイマー性軽度認知障害(MCI)または軽度アルツハイマー病の患者を偽薬、低用量、または高用量に無作為化割付して78週間の病状悪化を比較する第三相試験が二本、実施されたが、昨年3月にデータ監視委員会が無益認定した。しかし、その後の追跡データの盲検分析で、途中で改定されたプロトコル通りにApoE4陽性患者にも10mg/kgを月一回静注すれば症状の悪化をある程度抑制できる可能性が浮上した。
背景と経緯を復習すると、aducanumabのような抗アミロイド抗体を投与するとARIA-E(アミロイド関連画像異常を伴う浮腫)が発現することがあり、加齢性アルツハイマー病のリスク遺伝子であるApoE4陽性を持つ患者は特に発現率が高い。このため、当初のプロトコルでは、被験者の6~7割を占めたApoE4陽性患者の用量を抑えていた。具体的には、高用量群は10mg/kgに代えて6mg/kg、低用量群も6mg/kgに代えて3mg/kgを、月一回静注した。また、ARIAが発現したら投与を中断しなければならなかった。
その後、他社の抗アミロイド・ベータ抗体の症例も含めてARIAの転帰がそれほど悪くないことや、用量漸増でリスクを減らせることが判明したため、治験開始の翌年になって、プロトコルを変更してApoE発現後の投与継続を可とした。更にその翌年、高用量群のApoE4陽性患者も10mg/kgを目標に滴定することになった。しかし、その時点では組入れがかなり進行していたため、組入れ時期やARIA発現時期によって累積投与量が変わってしまう事態になった。
一番影響を受けたのが中間無益性解析だ。比較的早く治療を開始した患者が多いからだ。二本合計で1748例を分析したが、ENGAGE試験は無益認定、EMERGE試験もポジティブなトレンドに留まったため、データ監視委員会が二本とも成功する確率は低いと判定、中止勧告した。
その後の最終解析では、ENGAGE試験はフェールしたものの、EMERGE試験は高用量群が偽薬群と有意な差があった。
二本の明暗が分かれた理由として浮上したのが10mg/kgの暴露の違いだ。ENGAGE試験のほうが1ヶ月先に始まり組入れも早かったため、高用量群の78週間の累積投与量はEMERGE試験が平均140mg/kgであったのに対して、ENGAGE試験は126mg/kgに留まった。10mg/kgを10回以上投与した患者だけのデータは、両試験とも、良さそうな数値だった。EMERGE試験もプロトコル変更の影響を受けたわけだから、最初から10mg/kgを目指して滴定していたらもっと良い結果が出た可能性もある。
さて、FDAはaducanumabを承認するだろうか?
ネガティブ材料は二点ある。第一は治療効果の小ささ。アルツハイマー病の代表的な治療薬であるアセチルコリン還元酵素阻害剤の効果は、イメージ的には、症状が半年前の状態に戻るが、そこからまた悪化しはじめる。aducanumabの効果は、症状の悪化は続くが偽薬より小さい。
昨年のCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表されたデータによれば、EMERGE試験では高用量群のCDR-SBスコアの78週間の悪化が偽薬比22%小さかった。ベースライン時点の平均値は各群2.5前後で、偽薬群は1.74低下(悪化)したが、高用量群はそれより0.39小さかった(逆算すると、1.3程度悪化した)。
CDRは軽度認知障害やアルツハイマー病の代表的な症状・兆候6項目の夫々について0から3までの点数で評価する。今回の試験のように早期の患者の場合は0.5前後の項目が多いだろうから、治療効果が0.4というのは、一つの項目が一段階進むか進まないか程度の差に過ぎないのではないか(CDR-SBは単純合算ではないので推測に過ぎないのだが)。何れにせよ、被験者の8割がMCIで元々の症状が軽いのだから治療効果が小さいのは当たり前と言えば当たり前なのだが。
第二はエビデンスの頑強さ。FDAが原則として薬効確認試験を二本実施することを求めているのは、一般的な有意性判定基準であるp=0.05では不十分と考えているからだ。偶然に0.05を下回る確率は5%、つまり20回に一回だが、二本の独立した試験の両方で5%を下回る確率は0.25%、400回に一回だ。裏返すと、成功した試験が一本でもp値が0.0025未満なら承認される可能性がある。逆に、成功が一本だけでp値が0.01とか0.03では、偶々成功した可能性を否定できない。
上記のように、一部の患者だけの解析やその妥当性を検証する感受性分析では良好な数値が出ているが、このような事後的サブグループ分析で浮上した仮説を確認する前向き試験がフェールした事例は枚挙に暇がない。
更に、今回のような長期間の試験は途中で離脱した患者のデータの取り扱いが難問だ。EMERGE試験のCDR-SBの推移を示すグラフを見ると、50週時点では偽薬群と標準偏差レンジが重なっているが、50週と78週のデータをつなぐラインの傾きが急に穏やかになり、78週時点ではレンジが分離した。しかし、グラフの右側に行けば行くほど解析対象が減りサバイバル・バイアスのリスクも高まるので、統計学的な信憑性は低下していく。
FDAは、アルツハイマー病薬に関しては、どの程度の治療効果が必要なのか分からないので統計的に有意な差があれば効果の多寡は問わないという姿勢を従来から示している。しかし、エビデンスの頑強性が弱いとなると、効果の多寡を考えざるを得ないだろう。
Unmet Medical Needであることは確かなので、薬効やエビデンスが不確かでも承認される可能性はあるだろう。価格は高く設定されるだろうし、長期投与される可能性もあるので、医療保険にとっては重荷になる。私見では薬が高いのは正しい用途、用法に関する情報に価値がある。しかし、私には理解できない新薬が増えている。
リンク: バイオジェンのプレスリリース
レオ ファーマ、抗IL-13抗体をアトピーに承認申請
(2020年7月9日発表)
デンマークの皮膚病治療薬会社、レオ ファーマは、tralokinumabを欧米で承認申請し受理されたことを明らかにした。成人の中重度アトピー性皮膚炎にモノセラピー又は局所ステロイドに追加で使う。米国の審査期限は来年第2四半期とのこと。日本でも承認申請予定。
アストラゼネカが06年に完全子会社化した、ファージ・ディスプレイというノーベル賞技術を持つケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジーがCAT-354として創製した抗IL-13完全ヒト化IgG4型抗体で、アストラゼネカは喘息用薬としての開発を断念したが、16年に皮膚学領域での権利を取得したレオが300mg(初回は600mg)を二週毎に皮注する用法で第三相を三本実施。何れも16週時点のIGA0/1達成率やEASI-75奏効率が偽薬群を10~20ポイント上回った。奏効者を対象とする維持試験も成功し、奏効維持率が劣るものの四週毎皮注で足りる患者も多いことが判明した。
アトピー用の抗IL-13抗体としては、ジェネンテックが創製し喘息用薬として開発したが十分な効果が見られず17年にカリフォルニア州の皮膚病薬会社Dermiraに導出した、MILR1444A(lebrikizumab、ジェネンテックの開発コードはPRO301444、親会社のロシュではRG3637)が第三相試験中。尚、Dermiraは今年1月、イーライリリーによる買収に合意した。
似たような薬で最も重要なのは、リジェネロン・ファーマシューティカルズがサノフィと共同開発販売しているDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)だ。IL-4受容体アルファに結合する抗体だが、このサブユニットはIL-13受容体の構成メンバーでもある。17年に欧米で中重度アトピー性皮膚炎治療薬として承認されて以来、好酸球性喘息症など様々な疾患に適応を広げている。
リンク: 同社のプレスリリース
第一三共、エンハーツをEMAに承認申請
(2020年7月7日発表)
第一三共はEnhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)をEMA(欧州医薬品庁)に手術不能/転移HER2陽性乳癌用薬として承認申請し受理されたと発表した。加速審査指定を受けている。
Herceptinの活性成分である抗her2抗体trastuzumabとirinotecan誘導体を結合したADC(抗体薬物複合体)。世界に先駆けて日本で19年9月に承認申請され、同年12月に米国で、翌年3月には日本でも、her2陽性手術不能/転移乳癌のサルベージ療法として承認された。欧州はなぜ遅れたのだろうか?
リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)
【承認審査・委員会】
キイトルーダとレンビマの併用、肝癌承認はお預け
(2020年7月8日発表)
抗VEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を共同開発販売しているエーザイとMSDは、Keytruda(pembrolizumab)と併用で切除不能/転移肝細胞腫の一次治療レジメンとしてFDAに適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。
難病における便益が既存薬の文献データを上回ったため加速承認を求めたが、審査期間中に直接比較試験で延命効果を示した他社のレジメンが本承認されたため、『既存薬』のハードルが上がってしまった。第三相試験の組入れが既に完了している由なので、結果を待って改めて承認申請することになるだろう。
承認申請の根拠となったKeyNote-524試験では、cORR(確認客観的反応率、RECIST 1.1に基づく独立画像評価)が36人中36%、メジアン反応持続期間は12.6ヶ月だった。色々あって煩わしいが、mRECISTベースのcORRは46人中46%、メジアン反応持続期間は8.6ヶ月だった。
G3、4、5の治療関連有害事象発現率は各63%、1%、3%で、死因は急性呼吸不全、急性呼吸逼迫症候群、間質性穿孔且つ肝機能異常が各1例あった。
上記の他社レジメンは、5月に承認されたロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)のことだろう。エーザイ/MSDの適応拡大申請は今年に入って行われた模様だが、ロシュも今年1月なので、僅差だった。
リンク: MSDのプレスリリース
【承認】
FDA、大塚製薬グループ会社の経口デシタビンを承認
(2020年7月7日発表)
FDAはAstex PharmaceuticalsのInqoviをMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄単球性白血病)に承認した。大鵬薬品の米国子会社が販売する予定。
静注用薬Dacogenの活性成分であるDNAメチル化阻害剤のdecitabineとdecitabineを分解するシチジンデアミナーゼを阻害するcedazuridineを配合して経口投与できるようにしたもの。生物学的同等性を確立した第三相試験では、経口剤はdecitabine 35mgとcedazuridine 100mgを、静注用はdecitabineを20mg/m2を、28日サイクルで第1日から5日まで一日一回投与した。経口剤なら在宅投与できるだろうから限られた日々を入通院に費やさなくても済むので幸便だ。
decitabineは99年にSupergenがPharmachemieから権利を取得し、04年にMGI Pharmaにアウトライセンス、06年に米国で承認された。既にGE化している。Supergenは11年にAstexと合併、Astexは13年に大塚製薬に買収された。一方、MGIは08年にエーザイが買収。大塚は、14年に、エーザイからDacogenとASTX727の開発販売権を取得しているが、このASTX727がInqoviで、cedazuridineのエーザイにおける開発コードはE7727となっている。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文、7/8付)
今週は以上です。
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