2020年2月15日

2020年2月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダのTNBC一次治療試験が成功 
  • 優先遺伝性アルツハイマー病試験がフェール 
  • Biohaven社、troriluzoleの全般性不安障害試験がフェール 
  • シアトル・ジェネティクス、her2阻害剤を承認申請 
  • ノバルティス、METエクソン14変異型非小細胞性肺癌用薬を承認申請 
  • JNJ、ダラザレックスの用法追加申請 
  • FDA、エーザイにBelviqの販売中止を要請 


【新薬開発】


キイトルーダのTNBC一次治療試験が成功
(2020年2月12日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)のKeyNote-355試験が成功したと発表した。今後、データを学会で発表すると共に承認審査機関と協議する予定。

この試験の対象は、局所再発切除不能または転移性のトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)で転移後の化学療法を初めて受ける患者。2部構成となっており、パート1で至適用量を決定、パート2で847人を化学療法(paclitaxel、nab-paclitaxel、gemcitabineとcarboplatinの併用のうちから医師が選んだ薬を)にKeytrudaを追加する群と偽薬を追加する群に無作為化割付して、仮説を検証した。

主評価項目は欲張りで、PFS(無進行生存期間)と全生存期間を、全ユニバース、CPS(Combined Positive Score)≧10のPD-L1高度陽性サブグループ、そしてCPS≧1のPD-L1陽性サブグループについて、解析した。今回、中間解析で、高度陽性サブグループのPFSの解析が成功認定された。統計学的に有意で臨床的にも意味のある効果が見られた由。全生存期間の解析は未だなので治験は続行される。

PD-L1陽性サブグループや全ユニバースの解析がどうだったのかは明らかではない。主評価項目がこれだけあると成否を分ける閾値はp=0.05より低く設定されているだろうし、中間解析となるとアルファの配分が更に小さいだろうから、単に未だデータが熟していないから言及しなかった可能性も十分あるだろう。

それはそれとして、転移性乳癌の薬効評価は難しいところがあり、PFSで良い結果が出たからと言って全生存の解析が成功するとは限らない。全てのデータが明らかになるまで、評価は保留するのが妥当だろう。

TNBCはエストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、her2の何れも陰性の乳癌で、有効な薬が少ない。乳癌の15~20%を占める。KeytrudaはI-SPY 2という、様々なタイプの薬を次々とテストして第三相試験の成功確率を予測する臨床試験のTNBCパートを15年に卒業した。二次治療、三次治療におけるモノセラピーの効果を化学療法と比較した119試験はフェールしたが、PD-L1陽性サブグループのハザードレシオは悪い数値ではなかった。早期TNBCの術前化学療法併用試験は成功し、CPSが1を上回るサブグループでも下回るサブグループでも効果が見られた。

抗PD-1/PD-L1抗体では、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)が19年に日米欧でTNBC一次治療に承認されている。腫瘍浸透免疫細胞におけるPD-L1の発現が1%以上の患者にnab-paclitaxelと併用する。MSDがしばしば使うCPSは腫瘍だけでなく免疫細胞のPD-L1発現も評価している。他の類薬の試験成績と見比べると、TNBCに関しては有効なスクリーニング手段であるように感じられるが、早期乳癌試験のような例外もあるので、判然としない。

リンク: MSDのプレスリリース

優先遺伝性アルツハイマー病試験がフェール
(2020年2月10日発表)

セントルイス・ワシントン大学メディカルスクールは、DIAD(優性遺伝アルツハイマー)ネットワーク試験ユニットが主導したDIAN TU試験がフェールしたと発表した。詳細は4月2日にウイーンの学会で発表する予定。

この試験は、アルツハイマー病の優先遺伝変異キャリア194人を組入れて、アミロイドベータを標的とする抗体二剤(ロシュの皮注用gantenerumabとイーライリリーの静注用solanezumab)の治療効果を夫々の偽薬と比較した。主評価項目はDIAN Multivariate Cognitive Endpointという4種類の評価スコアを複合したもの。オーストラリアや北米、欧州の施設が参加した。

アミロイド前駆細胞やPSEN1/2に優性遺伝変異を持つ人は、典型的には30代から50代にかけて、記憶消失や認知症を引き起こすリスクがある。アルツハイマー病は加齢性が殆どで優性遺伝変異による早発性は1%未満に過ぎない。しかし、アミロイド仮説の起源が早発性アルツハイマー病におけるこれらの遺伝子変異であることを考えれば、治験の意義は大きい。アミロイド前駆細胞からアミロイドベータが切り出される過程に係る遺伝子の変異が主導する病気に効かなかったら、加齢に伴う機能低下も係るより複雑なモデルである加齢性アルツハイマー病に効くと信じ続けるのは非合理的であろうからだ。

但し、今回のフェールは薬ではなく治験のフェールである可能性も濃厚だ。第一にサイズ。製薬会社が主導する加齢性アルツハイマー病の第三相は数千人を1年半程度追跡という規模であるのに対して、DIAN TUは一群250人年程度で、病状の悪化が著しく早くない限り、治療効果を検出するには難しいのではないかと思われる。また、この試験は未発症だけでなく軽度アルツハイマー病と診断された患者も組入れており、症状の進行や治療効果が疾病ステージによって異なるとしたら、複雑すぎて真実を把握できなくなるリスクがある。

また、本試験の用量漸増プロトコルの詳は公表されていないが、緩徐すぎたとコメントする研究者もいるようだ。

ロシュとイーライリリーは、対象が異なることなどから、今回のフェールは両剤の進行中の第三相試験には影響しないと述べている。

gantenerumabは前駆/軽度アルツハイマー病の第三相が二本進行中で、22年頃に結果が判明する見込み。

solanezumabは軽中度アルツハイマー病の第三相試験が全てフェールしたが、アミロイドベータ蓄積が見られるがアルツハイマー病とは診断されていない人1150人を組入れて発症予防効果を検討する第三相A4試験が進行中で、22年頃に結果が判明する見込み。

リンク: セントルイス・ワシントン大学のプレスリリース

Biohaven社、troriluzoleの全般性不安障害試験がフェール
(2020年2月10日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)の第三相全般性不安障害試験がフェールしたと発表した。主評価項目のHAM-D総合スコアの低下が9.28ポイントと、偽薬群の9.35ポイントと大差なかった。

troriluzoleはサノフィのALS治療薬、Rilutek(riluzole)のプロドラッグで、アミノペプチダーゼによりriluzoleに変換される。一日二回服用のRilutekと異なり一日一回で足り、食物影響が小さい。Biohavenはエール大学のライセンスでグルタミン酸による興奮性刺激が関与する4疾患に第三相試験を展開してきた。他の三本は第三相強迫性障害試験が今年第2四半期に、第2/3相軽中度アルツハイマー病試験が第4四半期に、第2/3相脊髄小脳失調症試験が2021年に開票する見込み。

リンク: Biohavenのプレスリリース


【承認申請】


シアトル・ジェネティクス、her2阻害剤を承認申請
(2020年2月13日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)はtucatinibを承認申請していたが、昨年12月のEUに続いて、米国でも、受理された。優先審査で審査期限は8月20日だが、リアル・タイム オンコロジー・リビューの対象に選ばれたので、もっと早く承認される可能性がある。また、Project Orbisの対象でもあるため、並行審査に加わる他の国(前例ではオーストラリアやカナダ)で同時承認される可能性がある。

tucatinibは18年に約6億ドルで買収したCascadian Therapeuticsの開発品で高度選択的her2チロシンキナーゼ阻害剤。三剤以上のher2標的薬(trastuzumab、pertuzumab、ado-trastuzumab emtansineなど)歴を持つher2陽性局所進行性/転移性乳癌に、trastuzumab及びcapecitabineと併用する。乳癌は早期発見し外科的治療を行うことが多いが、術前術後でher2標的薬を使った症例も対象。脳転移の有無は問わない。

trastuzumab及びcapecitabineに追加する三剤併用法を偽薬を追加する二剤併用群と比較したHER2CLIMB試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.54、p<0.00001、全生存期間のハザードレシオが0.66、p=0.0048と良好な成績だった。有害事象による治験離脱率は5.7%(偽薬群は3.0%)。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース


ノバルティス、METエクソン14変異型非小細胞性肺癌用薬を承認申請
(2020年2月11日発表)

ノバルティスは、INC280(capmatinib)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は、いつものように、公表されていない。

capmatinibは09年にインサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスした選択的MET阻害剤。承認申請の根拠となった第2相局所進行/転移非小細胞性肺癌試験では、MET遺伝子にエクソン14スキップ変異(METex14m)を持つコフォートで、ORR(客観的反応率、盲検独立評価委員会ベース)が初めて治療を受ける28人では68%でメジアン反応持続期間11.1ヶ月、治療歴を持つ69人では各41%と9.7ヶ月だった。有害事象は末梢浮腫(42%)や胃腸性有害事象、クレアチニン値上昇などが多かった。グレード3/4の有害事象の発現率は36%。

METex14mは進行非小細胞性肺癌の新患の3-4%を占める。ロシュ・グループのFoundation Medicineがコンパニオン診断薬を開発しており、組織標本だけでなく、Foundation MedicineがFDAに承認申請したリキッド・バイオプシー・プラットフォームにも含まれているとのこと。

類薬ではメルクのテプミトコ(テポチニブ塩酸塩水和物)が日本で承認申請され、2月26日の第二部会に上程される予定。欧米の申請状況は不明。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

JNJ、ダラザレックスの用法追加申請
(2020年2月10日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、米国でDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の用法追加を申請した。再発/難治多発骨髄腫にアムジェンのプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)及びdexamethasoneと併用するDKdレジメンで、一次から三次までの治療歴を持つ患者を組入れた第三相のオープンレーベル試験(CANDOR試験)では、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が未達でKyprolisとdexamethasoneだけの群の15.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63、p=0.0014だった。

Darzalexは多発骨髄腫の表面分子、CD38を標的とする完全ヒト化抗体。12年にジェンマブから世界独占開発販売権を取得、15年に米国で四次治療薬として初承認され、その後、様々な併用レジメンで一次治療、再発治療に開発が進められてきた。点滴静注用だがHalozyme社(Nasdaq:HALO)の技術で開発した皮注用製剤も欧米で承認審査中。

リンク: JNJのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、エーザイにBelviqの販売中止を要請
(2020年2月13日発表)

FDAは、体重管理薬Belviq(lorcaserin)とBelviq XRについて自発的に販売中止(market withdrawal)するようエーザイに要請し、エーザイが販売中止申請を提出したと発表した。8年前に承認した時のフェーズIVコミットメントである長期大規模試験で癌の増加が見られたため。私見ではリスクは小さくノイズである可能性も十分に考えられるが、FDAは、薬効が元々穏やかなのでリスクテイクに値しないと判断したのだろう。エーザイのBelviqの売上高は57億円、うち米国は39億円と、小さい(19/3期実績)。

Belviqは元々はアリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARNA)が開発した選択的5-HT2cアゴニスト。体重管理薬と言えば、90年代に米国でfenfluramineとphentermineの併用法が未承認のままフェンフェン名でブーム化したが、肺高血圧症や心臓弁膜障害のリスクが表面化し、fenfluramineやdex異性体を販売していたアメリカン・ホーム・プロダクツ(当時)が販売を中止したことがある。PL訴訟の和解金引当額は211億ドルに達し、MSDのVioxx(rofecoxib)に抜かれるまで、空前絶後と考えられていた。

心臓弁膜副作用はfenfluramineの代謝物が5-HT2bを作動することが原因と考えられている。アリーナは5-HT2c選択的なコンパウンドなら回避できると想定、FDAとの相談を踏まえて臨床試験で心エコー検査などを行い安全性を確認した上で09年に承認申請した。懸念が完全には払しょくされなかったことや、ラットに臨床用量相当量を投与した癌原性試験で乳腺線維腺腫の増加が見られたため一巡目は審査完了通知を受領するに留まったが、12年に、市販後に心血管アウトカム試験を実施して安全性を確認することを条件に承認された。18年にこのCAMELLIA-TIMI 61試験の結果が論文発表された時点では、体重や二型糖尿病発症リスクは期待通りに低下し、心血管イベントや癌は増えないという、可も不可もない結果と受け止められたが、驚くべきことに、今年1月になって、癌が増加したため精査を開始したとFDAが発表した。

治験論文によると、癌の発症は試験薬群が215人(3.59%)、偽薬群が210人(3.50%)で有意差はなかった。ところが、今回の発表によると、試験薬群は462人(7.7%)で520の原発癌が見つかり、偽薬群は423人(7.1%)で470原発癌だった。数値上上回ったと記されているので統計的に有意ではないのだろう(試しに簡易法で計算したところp値は0.1を上回った)。治験論文のメジアン追跡期間は3年3ヶ月だが、癌のリスクは長期間追跡しないと判明しないので、その後も追跡して初めて、リスクの兆候が現れたのだろう。

尤も、本当に癌原性があるのかどうかは曖昧だ。第一に、リスクは点推定値だけ見てもそれほど大きくない。第二に、FDAのリリースによると増加したのは膵癌、結腸直腸癌、肺癌などで、ラット試験における所見とやや異なっている。第三に、そもそも、体重管理薬は途中で止めてしまう人が多く、本試験でも薬効解析時点で服用を続けていたのは6割程度だった。服用しない期間が長かったためノイズを拾いやすかった可能性もあるのではないか(暴露が限定的だったからリスクがあまり高まらなかったのかもしれないが)。

FDAはBelviqを服用している患者は中止するよう勧告したが、公衆向けに推奨されているもの以外の特別な癌検査を行うことまでは勧告していない。リスクが特に大きくはなく、スクリーニング検査には偽陽性などのリスクもあることに配慮したのだろう。

エーザイは体重管理薬の験が悪い。アボット(当時)からライセンスしたsibutramineを07年に日本で承認申請し、第一部会を通過したが、FDAの要請で実施された市販後安全性試験で心血管疾患が小幅だが有意に増加したことが判明。FDAは警告強化に留めたがアボットが自主的に販売中止、日本でも申請撤回となった。このSCOUT試験の結果が出ることは前から分かっていたことなので、なぜ部会をすんなり通過したのか理解できず、公表後に議事録を読んだが伏字ばかりで若わない。抗議の意を込めて、当時出していたブログに全部転載したことを思い出す。

リンク: FDAの安全性通達
リンク: CAMELLIA-TIMI 61治験論文(New England Journal of Medicine、オープンアクセス)
リンク: シブトラミンの心血管安全性問題に関するブログコメント(MEDICINE-BLOG ARCHIVE)






今週は以上です。

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