2020年2月9日

2020年2月9日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 中国でremdesivirの新型コロナウイルス疾患の第三相試験開始 
  • ロシュ、risdiplamの二型、三型脊髄筋委縮症試験が成功 
  • HIVワクチンの第三相がまた中止に 
  • MSD、Recarbrioを院内感染肺炎に適応拡大申請 
  • 細胞培養型プリパンデミック・インフルエンザワクチンが米国で承認 
  • MSD、ベルソムラの米国のレーベルにアルツハイマー病患者試験のデータを掲載 


【今週の話題】


中国でremdesivirの新型コロナウイルス疾患の第三相試験開始
(2020年2月5日発表)

中国でギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)を2019-nCoV(新型コロナウイルス)疾患の治療に充てる第三相偽薬対照無作為化割付二重盲検試験が二本、開始された。治験登録によると、どちらも推定主要完了日は4月中なので、5~6月には結果が判明するのではないか。remdesivirは前臨床でSARS-CoVやMERS-CoVに活性を示しており、2019-nCoV感染患者に投与したところ軽快した旨の症例報告が、中国と米国で各一例、出ている。しかし、自然治癒した可能性もあるので、よくデザインされた対照試験で検証することが求められていた。

一本は軽中度患者308人を、もう一本は重度患者452人を組入れる。試験薬は負荷用量200mg、維持用量は100mgを一日一回、9日間、静注する。主評価項目は罹患期間(time to clinical recovery)。副次的に全死亡リスクも分析するが、検出力が不十分なのではないか。

スポンサーは首都医科大学。中日友好医院のBin Cao教授が主研究者であるようだ。

今回は中国の対応が早いような印象があり、武漢市の閉鎖など共産主義国ならではの強硬手段も取っている。流行病の臨床試験は着手が遅いと流行が終わってしまうので、今回のように素早く開始するのが望ましい。

ところで、治験登録にギリアドの名前は記されていない。中国の研究者がremdesivirを2019-nCoVの治療に充てる用法特許を申請したがギリアドは静観の構え、という報道もあり、今のところ、同社がどの程度関与しているのか明らかではない。

リンク: 軽中度患者試験の治験登録(ClinicalTrials.gov)
リンク: 重度患者試験の治験登録(同)


【新薬開発】


ロシュ、risdiplamの二型、三型脊髄筋委縮症試験が成功
(2020年2月6日発表)

ロシュは、risdiplamのSUNFISH試験の結果を学会発表するとともに、概要をプレスリリースで明らかにした。2型と3型の脊髄性筋萎縮症(SMA)を組入れた試験で、試験薬群の運動機能スケールや上肢能力が偽薬群比有意に上回った。risdiplamは1型、2型、3型SMA用薬として米国で承認審査中で、審査期限は5月24日。欧州でも今年後半に承認申請される見込み。

risdiplamはPTCセラピュティクス(Nasdaq:PTCT)がSMA財団と提携して開発したSMN2スプライシング修飾薬をロシュがライセンスしたもの。SMAの多くで見られるSMN1遺伝子の欠損・不全を補うために、不完全なSMN蛋白をある程度発現することのできるSMN2遺伝子のスプライシングに介入して、全長mRNAがより多く生成されるようにする。

SMA治療薬は16年にSpinraza(バイオジェンがIonis/Akcea TherapeuticsからライセンスしたSMN2のアンチセンスオリゴヌクレオチド)、19年にZolgensma(ノバルティスが買収したAveXis社のSMN1遺伝子療法)と新薬が相次いで登場した。risdiplamの優劣は未だ判然としないが、脊髄内投与ではなく経口剤であることや、Zolgensmaは供給不足気味であることやFDAが髄腔内投与による2型SMN試験の部分停止を命じたことなどを考えると、少なくとも代替的な選択肢として重要と言えるだろう。

承認申請用試験は1型試験と2歳から25歳の2型、3型患者を組入れたSUNFISH試験が実施され、前者は昨年、成功発表された。SUNFISH試験もパート1(用量決定)の結果は公表済みで、今回、180人を1年フォローしたパート2の結果が発表された。

主評価項目のMFM-32運動機能スケールは偽薬群を1.59ポイント上回った(p=0.0156)。予想された通り、2~5歳のサブグループの応答が特に良く、3ポイント以上改善した患者の比率が78%と偽薬群の53%を上回った。18~25歳でも安定化率(スケールが悪化しなかった患者の比率)が57%対38%で上回った。

副次的評価項目のRULM(上肢で錘などを持ち上げる能力を評価)でも群間差が1.59ポイントあった(p=0.0028)。

深刻有害事象は下部気道感染症の発現率が10%と偽薬群の2%を上回ったが、治験医は治療関連とは見なさず、投与を継続しながら軽快した。

データ発表後、PTCのNasdaq市場での株価は1割以上下落して始まったが直ぐに戻り、結局、前日比1.555ドル高の54.94ドルで引けた。高値圏にあることを考えると、株式市場は今回の発表を順調な経過と受け止めているのだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

HIVワクチンの第三相がまた中止に
(2020年2月3日発表)

米国NIH(国立衛生研究所)傘下の国立アレルギー・感染症研究所は、南アフリカで実施していたHIVワクチンの第2b/3相試験を中止したと発表した。中間解析で独立監視委員会が無益性認定したため。感染者数はワクチン群が2694人中129人、偽薬群は2689人中123人で、何とも失望的な結果になった。

このHVTN 702試験は、サノフィが開発したALVAC-HIV(vCP2438)遺伝子ワクチンをプライムワクチン、グラクソ・スミスクラインが供給したMF59オイル・イン・ウオーター・エマルジョン添加ワクチンをブースターワクチンとして筋注する予防効果を検討した。

ALVAC-HIVワクチンは、タイで行われた第三相試験が09年にフェールしている。約1600人を組入れた試験で、感染者はワクチン群が51人、偽薬群は74人、ワクチン効率26%となり、まったく効果がなかった訳ではないが、有意水準には達しなかった。

今回のワクチンは、南アフリカに多いクレードC株の抗原を使ったことと、抗原がアルミではなくMF59であることが違い。ワクチン効率が高まれば良かったのだが、逆だった。

HIV感染予防は、ギリアド・サイエンシズのTruvada(tenofovir DFとemtricitabineの合剤、和名ツルバダ)が暴露前予防薬として多くの国で承認されていて、今回の試験でも、ローカルスタンダードで推奨している場合は使用が可能だったことが結果に影響したかもしれない。

リンク: 米国立アレルギー・感染症研究所のプレスリリース


【承認申請】


MSD、Recarbrioを院内感染肺炎に適応拡大申請
(2020年2月3日発表)

MSDは、Recarbrioを感受グラム陰性菌による院内感染細菌性肺炎(HABP)や人工呼吸器関連細菌性肺炎(VABP)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月4日。エビデンスとなる第三相試験の成績は、4月にパリで開催されるECCMID 2020で発表される予定。

Recarbrioはカルバペネム系抗生剤のimipenem、その代謝酵素を阻害しベータラクタマーゼ阻害作用も持つcilastatin、そして新開発のベータラクタマーゼ阻害剤、relebactamの三剤合剤。19年7月に米国で、感受グラム陰性菌による複雑性尿路感染症や複雑性腹腔内感染症で他に治療手段が無い/限定的である場合に使う薬として承認された。HABP/VABPの第三相では、28日死亡率や早期臨床的反応率がpiperacillinとtazobactamの合剤(Zosyn)と非劣性だった。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


細胞培養型プリパンデミック・インフルエンザワクチンが米国で承認
(2020年2月3日発表)

CSLグループのSeqirusは、FDAがAUDENZAを承認したと発表した。A(H5N1)型一価インフルエンザワクチンで、将来、新型トリ・インフルエンザなどが流行する事態に備える。特徴は、卵黄ではなく細胞培養すること。生産期間の短縮と、鳥におけるインフルエンザの流行で卵黄が品不足になるリスクのヘッジを見込む。MF59オイル・イン・ウオーター エマルジョンを添加することで必要な抗原量を減らしていることも生産期間短縮につながる。

Seqirusは14年にノバルティスがグラクソ・スミスクラインとアセット・スワップを行った時にインフルエンザワクチン事業を2.75億米ドルで買収したCSLが社名変更した。更に遡ると、ノバルティスが06年に完全子会社化したカイロン社のワクチン事業が起源だ。

Seqirusは季節性インフルエンザ用でも細胞培養型ワクチンのFlucelvax/Optafluを販売している。

リンク: Seqirusのプレスリリース(PR Newswire)

MSD、ベルソムラの米国のレーベルにアルツハイマー病患者試験のデータを掲載
(2020年2月3日発表)

MSDは、不眠症治療薬Belsomra(suvorexant、和名ベルソムラ)のレーベルにアルツハイマー病患者の不眠症を治療した臨床試験のデータを記載することがFDAに承認されたと発表した。4週間の臨床試験で、総睡眠時間(ポリグラフ検査)がベースライン時点の4時間半から73分、増加し、偽薬群の45分増加を有意に上回った。WASO(中途覚醒時間)の減少も41分対32分で有意な差があった。有害事象発現率は22%対16%で上回った。尤も、実際にレーベルに掲載された内容は簡素で薬効関連の数値は割愛されている。

Belsomraはオレキシン受容体アンタゴニストで、14年に日米で承認された。日本はMSDが申請した用量(高齢者は15mg、それ以外は20mg)を承認したが、FDAは、年齢を問わず10mgで開始して20mgまで増量可とした。今回の試験は50歳以上が対象だが高齢者が多かっただろう。被験者の77%が20mgに増量できたとのことなので、高齢者でも20mgの忍容性はそれほど悪くないことを示唆している。

リンク: MSDのプレスリリース





今週は以上です。

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