2020年2月22日

2020年2月22日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 中国でアビガンなどがCOVID-19の治療に成果 
  • COVID-19感染予防にマスクは不要? 
  • インサイト、ルキソリチニブのアトピー試験成功 
  • テバ、トゥレット症候群試験がフェール 
  • バイオマリン、FDAがA型血友病の遺伝子療法の承認申請を受理 
  • ロシュ、FDAがテセントリクの適応拡大申請を受理 
  • エスペリオン、新作用機序のコレステロール治療薬が承認 
  • ルンドベック、点滴用片頭痛予防薬が承認 
  • イーライリリー、トルリシティで心血管疾患抑制の効能追加 


【今週の話題】


中国でアビガンなどがCOVID-19の治療に成果
(2020年2月16日発表)

チャイナネット(中国の政府系ニュースサイト)やエンドポインツ・ニューズ(カンザス大学系のバイオニュース報道機関)によると、中国ではCOVID-19治療薬として富士フィルム富山化学のアビガン(ファビピラビル/JAN、favipiravir/INN)やクロロキン、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)などが浮上してきたとのこと。

これまで最も有望と考えられていたのはアッヴィのKaletra(プロテアーゼ阻害剤lopinavirと3A4阻害剤ritonavirの合剤)で、SARSが流行した時も、今回も、一部の患者に探索的に投与された。

但し、無作為化割付対照試験ではないので自然軽快だった可能性もあり、エビデンスは強固ではない。非常事態にキチンとした偽薬対照試験を行うのは容易ではないので、現実的な解は、多くの患者が発生した地域で新薬のKaletra対照試験を試験を行い、Kaletraが効こうが効くまいが新薬のほうが良いという結果を出すことだ。

この点で注目されるのがfavipiravirだ。深セン市第三人民医院が主導した80人規模の治験で抗ウイルス活性や有害事象がKaletraより優れていた由。コンパッショネイト・ユースを可能にするためにインフルエンザ治療薬として承認されたと報じられている。薬剤はアビガンのAPI生産を担うZhejiang Hisun Pharmaceutical(浙江海正薬業)が供給する模様だ。

favipiravirは14年に日本でインフルエンザ治療薬として承認された。催奇性を持つためパンデミック用備蓄薬に留まっているが、エボラウイルス疾患の臨床試験も含めて、ある程度の安全性データを持つことが長所。

マラリア治療薬クロロキン二りん酸塩は北京や広東省の10以上の病院で100人以上の患者を組み入れて臨床試験が行われている。治療ガイドライン作成時に採用されるべき、との評価もあるようだ。日本で副作用禍が発生したことがあるが、市販歴は長い。入手可能性の点でも他の薬より良好だろう。

既報のように、remdesivirは中日友好医院などで二本の二重盲検試験が開始されたが、残念なことに、組入れは想定より遅れているようだ。エボラの臨床試験実績があるとは言え、他剤と比べて症例数が限定的であることや、この非常事態に厳格な二重盲検試験を行うのは、残念なことだが、やはり困難なのだろう。

SARSやMERSのワクチンや治療薬の開発が進まなかったのは、流行が長続きしないからである。COVID-19治療薬の開発に成功しても、その頃には不要になっているかもしれないし、臨床試験の最中に沈静化して続行できなくなってしまうかもしれない。しかし、最近痛感するのは、開発に賭けた努力や資金は無駄にはならないということだ。エボラは14~16年の大流行時に実施された臨床試験が沈静化で中断したが、今回のコンゴ民主共和国での流行で開発再開され、複数のワクチンや治療薬が実用化された。KaletraやクロロキンはSARSやMERSに対する使用経験が今回も生かされている。COVID-19が1~2年で終息したとしても、その経験はSARS-CoV-3が登場した時に生かされるだろう。

リンク: チャイナネット(中国政府系ニュースサイト)の記事(2/17付)
リンク: Endpoints Newsの記事(2/18付)

COVID-19感染予防にマスクは不要?
(2020年2月22日)

(2020年4月7日追記:本項執筆後、CDCが一般人に対して布製顔カバー(マスクなど)の着用を推奨する方向転換を行いました。 背景は、感染者の増加と不顕感染者でも他人に感染させる可能性があること。本人が自覚なく感染している可能性を踏まえ、他人にうつさないよう配慮するわけです。医療従事者用のマスクは使うなと言っています。品不足だからでしょう。布製マスクは感染防止力の点では劣るので、一番重要jな『他人と距離を取る』ことの代わりにはならないとしています。)

リンク: CDCの感染予防アドバイス(2020年4月7日アクセス)

インフルエンザ予防にマスクは不要、というCDC(米国疾病管理予防センター)の推奨をMedicine-Blogで紹介してから10年余、再び新型ウイルスが流行し、再びレイメディアがマスクの効果を喧伝し、薬局でもコンビニでも100円ショップでも入手困難になった。私は以前から風邪気味で花粉も飛び始めたので買いたかったが、一箱確保するのがやっと。ネットではトンデモない値段で売られているようだ。

2009年カリフォルニア型A(H1N1)インフルエンザウイルスと比べると今回のSARS-CoV-2は、よくわからないが感染力は弱そう、国内の感染者数も少なそう、しかし死亡率は高そうなので、予防する意義は同じくらいありそう。一方、コロナウイルスはインフルエンザウイルスより小さいとのことなので、マスクの空気穴や端の隙間から出入りする可能性はインフルエンザウイルスと比べても高そうな気がする。

もう一度、CDCの見解を調べたところ、やはり、感染していない人には、人混みを除いて、常用を推奨していない。呼吸器ウイルスは濃厚接触(6フィート<1.8メートル>)下で感染することが多いので、日常的な感染予防手段、つまり、感染者を避け、目や鼻を触らないよう注意して、咳やくしゃみをする時はティッシューでカバーすることを推奨している。

一方、2019-nCoV感染が確認・疑われる人は、病院や家庭で隔離されるまでマスクをするよう推奨している。完全でなくても、リスク管理の第一歩は3割減れば良しとするのが常だからだろう。

心配なのは、世間に広がるマスク神話だ。無意識のうちに指で口を触ってしまうリスクを防げることは長所だが、問題は、マスクをしている時は、遠慮せずに思い切り、口を手で覆いもせず、下を向きもせずに咳をしてしまうことだ。感染してしまった人や濃厚接触せざるを得ない人はマスクが完全ではないことを十分に心得るべきだろう。

N95マスクはインフルエンザウイルスもコロナウイルスも殆ど通過しないが、長時間装着していると水蒸気が空気穴を塞ぎ息苦しくなるので、感染症の治療に当たる医療従事者は数時間おきに交換するらしい。値段が高いので、一日に何度も取り替えるのは財布が痛む。きちっと装着することが重要だが難しく、米国では、N95マスクを必要とする医療従事者は年1回、装着テストを受ける法定義務がある。感染者・濃厚接触者以外には現実的な選択ではなさそうだ。

さて、ダイヤモンド・プリンセス号は中国以外で一番多くの患者を抱える存在になったが、その割には、乗客に対する啓蒙が十分でなかったように感じられる。TV中継や船内のビデオを見ると、一部客室の乗客がデッキに出ることが認められた後、狭い廊下ですれ違ったり、デッキで1メートルも離れていないような椅子に並んで座っていたり、他の部屋の乗客に近づかないようにという指示が徹底されていないように感じられる。ウイルス検査が陰性で症状もない人は下船したが、階段を降りる時に踊り場の手すりを素手で触っている人がいた。

開放を喜ぶ気持ちはよく分かり隔離されていた人たちを責めるつもりはない。キチンと指示したのか、徹底したのかが問題だろう。「清潔」、「不潔」という掲示が法令通達で定められた正式な表記なのかもしれないが、例の写真を見て、昔、朝日新聞の記者が沖縄の珊瑚を自ら傷つけて環境破壊を訴えたヤラセ写真を連想した。

リンク: CDCのFAQ(2020年2月22日アクセス)
リンク: マスクはインフルエンザに効くのか、効かないのか(Medicine-Blog Archive、2009年5月29日付)


【新薬開発】


インサイト、ルキソリチニブのアトピー試験成功
(2020年2月19日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、ruxolitinibのクリーム製剤を軽中度アトピー性皮膚炎の治療に当てた第三相試験が二本とも成功したと発表した。延長試験で忍容性を検討した上で承認申請することになろう。

ruxolitinibはJAK1/2阻害剤で、経口剤がJakafi(和名ジャカビ)として骨髄線維症や真性赤血球増加症、急性移植片宿主病の治療に承認されている。今回のアトピー性皮膚炎試験は、年齢12歳以上、病歴2年以上で局所療法の候補になる、IGAスコアが2から3で病変が頭皮以外の体表面積の3-20%の患者を組み入れて、偽薬、0.75%、または1.5%を一日2回、8週間投与し、IGA奏効率(IGAスコアが0または1になりベースライン比で2ポイント以上改善)を比較した。

結果は、AD1試験では各群15.1%、50.0%、53.8%、AD2試験では7.6%、39.0%、51.3%となった。二次的評価項目のEASI奏効率(EASIスコアが75%以上改善)はAD1が24.6%、56.0%、62.1%、AD2は14.4%、51.5%、61.8%となった。何れも偽薬群比統計的に有意。

治療時有害事象発現率は二本合計で各群33.6%、29.4%、26.3%、深刻有害事象発現率は0.8%、0.8%、0.6%だった。

リンク: インサイトのプレスリリース

テバ、トゥレット症候群試験がフェール
(2020年2月19日発表)

テバファーマスーティカル・インダストリーズ(NYSE:TEVA)は、deutetrabenazineの中重度小児トゥレット症候群適応拡大試験がフェールしたと発表した。12週間の第2/3相試験も、二用量をテストした8週間の第3相も主評価項目(YGTSS-TTSチック症状スコアの改善)を達成できなかった。

deutetrabenazineはルンドベックのVMAT-2(vesicular monoamine transporter Type 2)阻害剤、Xenazine(tetrabenazine)の一部の水素基を重水素で置換することによって作用を長期化するとともに忍容性や薬物動態の個人差、薬物相互作用を改善したもの。Xenazineから9年遅れて17年4月に米国でハンチントン舞踏病治療薬Austedoとして承認され、同年8月にはXenazineのオフレーベル用途である遅発性ジスキネジアに適応拡大した。

しかし、もう一つのオフレーベル用途であるトゥレット症候群は、ニューロクラインバイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)のVMAT-2阻害剤で17年に遅発性ジスキネジア治療薬として承認されたIngrezza(valbenazine)の第二相試験二本もフェールしており、なかなか結果が出ない。

Austedoは15年に35億ドルで買収したAuspex Pharmaceuticalsの開発品。

リンク: テバのプレスリリース


【承認申請】


バイオマリン、FDAがA型血友病の遺伝子療法の承認申請を受理
(2020年2月21日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は昨年12月に欧米でBMN 270(valoctocogene roxaparvovec)を重度A型血友病の成人の治療薬として承認申請していたが、EMAに続いてFDAも正式に受理したことが公表された。優先審査で審査期限は8月21日。現時点では諮問委員会上程は予定されていない由。

血液凝固第8因子の遺伝子を5型アデノ随伴ウイルス(AAV5)で導入する遺伝子療法。第3相試験の中間解析で16人中8人が目標(23~26週後に第8因子水準が40IU/dL以上に増加)を達成した。出血頻度や第8因子投与は9割前後減少した。有害事象は肝臓酵素上昇や悪心、頭痛、疲労、関節炎など。深刻有害事象発現率は13%。インヒビターは検出されなかった。

バイオマリンによると、A型血友病の8割はAAV5に対する免疫を持たずBMN 270の治療対象になる由。確認するためのコンパニオン診断薬、AAV5 total antibody assayもPMA(医療機器承認申請)された。ユタ大学系のARUP Laboratoriesが生産する。

A型血友病の遺伝子治療はサンガモ・セラピューティクスがAAV6をベクターとするSB-525をファイザーと共同開発中。昨年12月にロシュの子会社になったSpark TherapeuticsもSPK-8011が第三相段階。重度血友病は高価な遺伝子組換え型血液凝固因子をルーチン投与して出血事故を予防する。遺伝子療法は更に高価だが、経済的価値を検討するためには半年の試験では足りず、効果が何年続くのか、追跡調査すべきだろう。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

ロシュ、FDAがテセントリクの適応拡大申請を受理
(2020年2月19日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を進行非小細胞製肺がんの一次治療として単剤投与する適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月19日。SP142アッセイでPD-L1高発現(TCが3またはICが3)と判定され、ALKとEGFRは野生型の癌が対象になる。

根拠となるIMpower110試験の中間解析では、Tecentriq群のメジアン生存期間が20.2ヶ月と化学療法群(扁平上皮腫はgemcitabine、それ以外はpemetrexedを、cisplatinまたはcarboplatinと併用、pemetrexedは維持療法も施行)は13.1ヶ月となり、ハザードレシオ0.595、p=0.0106だった。この試験ではPD-L1中高発現サブグループやPD-L1低中高発現サブグループの解析もシーケンシャルな主評価項目だったが、前者は点推定値は悪くなさそうだったがp値が割り当てられたアルファを下回り、探索的解析となった後者は有望には見えなかった。

G3/4の治療時有害事象発現率は12.9%で化学療法群の44.1%を下回った。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


エスペリオン、新作用機序のコレステロール治療薬が承認
(2020年2月21日発表)

エスペリオン・セラピューティクス(Nasdaq:ESPR)は、FDAがNexletol(bempedoic acid)を承認したと発表した。コレステロールの生合成に関わる酵素、ATPクエン酸リアーゼを阻害する経口剤で、ヘテロ接合性家族性高脂血症やアテローム硬化性心血管疾患で、最大耐容量のスタチンを服用してもLDL-Cを十分に下げることができない患者に用いる。臨床試験ではLDL-Cが偽薬比17~18%低下した。

LDL-C治療の目的は心血管疾患リスクの抑制だが、Nexletolは2022年頃まで心血管アウトカム試験の結果が出ない見込み。既存のオルターナティブ系高脂血症薬であるezetimibeはスタチン服用患者に追加投与する時のLDL-C治療効果が10%程度と小さく、心血管アウトカム試験は成功したが米国では効能追加が認められなかった。Nexletolはezetimibeよりは良い結果が出るのではないか。

エスペリオンはbempedoic acidとezetimibeの合剤も承認申請しており、今月内に承認される見込み。欧州では1月にCHMPの肯定的意見を得た。第一三共が単剤、合剤ともに販売する予定。

エスペリオンはLipitor(atorvastatin)の発見に貢献した研究者が設立した。ファルマシアを買収したファイザーが一時期、子会社化していたが、最大のパイプラインであったA-Iミラノの開発が難航、08年にスピンアウトされた。

リンク: エスペリオンのプレスリリース

ルンドベック、点滴用片頭痛予防薬が承認
(2020年2月21日発表)

ルンドベックは、FDAがVyepti(eptinezumab-jjmr)を片頭痛予防薬として承認したと発表した。抗CGRP(calcitonin gene-related peptide)抗体はアムジェンのAimovig(erenumab-aooe)が18年に承認されて以来、続々と承認されているが、Vyeptiは皮注ではなく点滴静注であることが特徴。投与頻度は3ヶ月毎で、テバの皮注用薬Ajovy(fremanezumab -vfrm)と同じ、他の抗CGRP抗体は毎月。

昨年10月にAlder BioPharmaceuticalsを約20億ドルで買収して入手したもの。欧州や日本、中国でも今年、承認申請の計画。

リンク: ルンドベックのプレスリリース

イーライリリー、トルリシティで心血管疾患抑制の効能追加
(2020年2月21日発表)

イーライリリーは、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の心血管疾患リスク削減効果がFDAに承認されたと発表した。2型糖尿病に用いるGLP-1作用剤で、心血管疾患を合併している、あるいは複数のリスク因子を持つ2型糖尿病を組み入れたREWIND試験で、心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的脳卒中のハザードレシオが0.88(95%信頼区間0.79-0.99)だった。尚、この試験の解析計画上の前提は0.82だった。

TrulicityはGLP-1作用剤のトップブランドだが、ノボ ノルディスクも心血管アウトカム試験が成功し、また、業界初の経口剤を投入したため、競争が激化しれいる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース




今週は以上です。

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