【ニュース・ヘッドライン】
- 新型コロナウイルス感染症に立ち向かう ~欧米の動き~
- ロシュ、risdiplamのSMA幼児試験が成功
- ロシュ、テセントリクの筋層浸潤尿路上皮癌アジュバント試験がフェール
- ジャズ、ナトリウムの少ないナルコレプシー治療薬を承認申請
- リムパーザをある種の前立腺癌に適応拡大申請
- FDA、Epizymeの類上皮肉腫用薬を承認
- FDA、ホライゾン社の甲状腺眼症用薬を承認
【今週の話題】
新型コロナウイルス感染症に立ち向かう ~欧米の動き~
(2020年1月23日発表)
武漢から世界に広がり始めた新型コロナウイルス、2019-nCoVの治療やワクチン開発などに関する欧米の動きを幾つか取り上げたい。
まず、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)がワクチンの開発に向けて二社と一大学に助成を決めた。CEPIは17年のダボス会議で正式に発足した組織で、エボラウイルス疾患など既知あるいは新規の深刻な感染症のワクチンを迅速に開発、試験、備蓄すべく、各国政府や研究機関、企業の支援・調整を行っている。創設者はノルウェーやインドの政府、ビル&メリンダ ゲイツ財団、ウエルカム・トラスト、世界経済フォーラムで、日本やカナダ、オーストラリアなども資金を拠出している。
CEPIは今回と同じコロナウイルス科のMERSウイルスのワクチン開発を支援している。米国フィラデルフィアのInovio Pharmaceuticals(Nasdaq:INO)は助成金を得てMERSワクチンのINO-4700の第二相試験に着手すべく準備中。ラッサ熱ワクチンのINO-4500も助成金で臨床入りした。助成金の規模は二剤合計で最大5600万ドル。今回、2019-nCoVワクチンの開発でもパートナーシップを発表した。最大900万米ドルの助成金を得て、INO-4800を第一相試験まで持っていく。
Inovioは韓国のGeneOne Lifescience(KSE:011000)と提携して複数のDNAワクチンを開発している。近年話題になった感染症では、GeneOneからライセンスしたジカウイルス感染症のDNAワクチン、GLS-5700の第1相試験を実施、17年にNew England Journal of Medicine誌に論文発表した。現在、第1/2相試験中。
CEPIはクイーンズランド大学ともMERS-CoVワクチンの開発に続いて今回、2019-nCoVワクチンのパートナーシップを結んだ。Molecular Clampという技術を使って、ウイルスの表面抗原が宿主に侵入する時にリモデリングしてワクチン抗原から変わってしまう現象の克服を図る。
今回、新規助成先となったのが米国ケンブリッジのModerna(Nasdaq:MRNA)。mRNAを投与して抗体を誘導する技術に特化しており、CMVワクチンやMSDにライセンスしたRSVワクチンが第二相試験段階。2019-nCoVワクチンに関しては、CEPIの助成でNIH(米国立医療研究所)傘下の組織とmRNAワクチンを開発生産し、NIAID(NIHのアレルギー感染症組織)が治験許可申請に必要な試験と第一相を行う計画。
CEPIはウイルスのゲノム同定から16週間以内に臨床試験用ワクチンを開発することを目標としている。米国ではCDC(疾病管理予防センター)が米国で発見された2019-nCoV感染者のサンプルを基にシーケンシングを行っており、順調なら春から夏にはワクチン候補ができあがるのではないか。
次に、治療薬に関しては今のところ話があまり出ていないが、ロイター報道によると、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)がGS-5734(remdesivir)を試験する可能性についてNIHと協議している。ヌクレオチド類縁体のプロドラッグで、コンゴのエボラ臨床試験で28日死亡率が49%とリジェネロン(Nasdaq:REGN)のREGN-EB3を投与した群の33%、NIHなどが創製したmAb114の35%より悪く、ドロップアウトしてしまった。従来はフィロウイルス科をターゲットとしていたため、コロナウイルスに使うのは意外だったが、改めて調べると、過去3年間にSARSやMERSのin vitroそしてマウスモデルの実験論文が刊行されていた(Sheahanら、Sci Transl Med. 2017など) 。
コロナウイルス感染症は症状だけでは特定できないし、深刻とは限らないので危ない患者を識別する必要がある。当面は武漢訪問歴が手掛かりになるが、もし二次・三次感染例が増えれば、ウイルスを迅速に特定して隔離することが必要になる。米国ではCDCがリアルタイム逆転写PCR検査を開発、ウイルス検査を担っているが、FDAに緊急使用認可(EUA)を申請し、国内外の機関が使えるようにする計画だ。また、全ゲノムの同定が完了したらGenBankやGISAIDなどのデータベースにアップロードして公開する予定。
リンク: CEPIのプレスリリース
【新薬開発】
ロシュ、risdiplamのSMA幼児試験が成功
(2020年1月23日発表)
ロシュは、RG7916(risdiplam)の第2/3相FIREFISH試験が成功したと発表した。データは未発表。RG7916は先に臨床試験が成功したSMA(脊髄筋委縮症)II型やIII型だけでなくI型にも米国で承認申請されているが、今回の成功でI型におけるエビデンスが強化された。
SMAは一万人に一人の希少疾患で、多くの場合、サバイバル・モーター・ニューロン(SMN)の遺伝子であるSMN1の先天的欠損・不全を持っている。乳児期に発症するI型、月齢6ヶ月以降で発症することが多いII型、大きくなってから診断されるIII型の順にSMNが少ない。RG7916は、不完全なSMNをある程度作ることができるSMN2のスプライシングを修飾して全長mRNAの生成を促す。SMAではバイオジェンやノバルティスが画期的治療薬を相次いで発売したが、RG7916は経口投与可能であることが長所。
FIREFISH試験は月齢1~7ヶ月のI型患者を組入れて安全性や静坐達成率を検討した。パート1で21人を組入れて至適用量を検討、パート2で41人を組入れて仮説検証を行った。パート2で採用した用量を投与したパート1の17例では、41%が12ヶ月投与後に支え無しで5秒間静坐できた。
RG7916は、PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)とSMA財団の共同研究の成果で、ロシュは11年に前臨床段階のプログラムをライセンスした。19年11月に米国で承認申請受理、優先審査で審査期限は5月24日。
リンク: ロシュのプレスリリース
ロシュ、テセントリクの筋層浸潤尿路上皮癌アジュバント試験がフェール
(2020年1月24日発表)
ロシュはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMvigor010試験がフェールしたと発表した。MICU(筋層浸潤尿路上皮癌)の切除術を受けた高リスク患者809人を組入れて1200mgを3週毎に投与する群と観察群のDFS(無進行生存期間、担当医評価)を比較した試験で、PD-L1の発現状況は不問。データは未発表。
Tecentriqは転移性尿路上皮癌の再発治療や白金薬不適時の一次治療に承認されているが、一次治療は承認後の試験でPD-L1低発現患者における全生存期間が白金薬レジメン群より短かったことから、PD-L1発現が5%以上の癌に限定された。他のPD-L1/PD-1阻害剤も尿路上皮癌では区々な結果になっており、今回の試験も、詳細発表が待たれる。
リンク: ロシュのプレスリリース
【承認申請】
ジャズ、ナトリウムの少ないナルコレプシー治療薬を承認申請
(2020年1月22日発表)
ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、JZP-258をFDAに承認申請した。7歳以上のナルコレプシー患者の脱力発作や日中の過剰な眠気の治療に用いる。優先審査バウチャーを用いたので第3四半期ごろの承認が期待される。
JZP-258は米国で02年に承認された同社のXyrem(sodium oxybate)と同じoxybateベースの薬だが、カチオンの組成を変えナトリウム量を92%削減した。AHA(米国心臓協会)はナトリウムの摂取量を一日2.3g(食塩換算で5.8g)未満に、リスク因子を持つ人は1.5g(同3.8g)未満に、抑えることを推奨しているので、Xyremより良いことになる。Xyremは年商14億ドルの大型薬なので、Jazzの特許切れ対策にもなる。
リンク: Jazzのプレスリリース
リムパーザをある種の前立腺癌に適応拡大申請
(2020年1月20日発表)
アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)の適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年4-6月期。
対象となるのは、生殖細胞系または体細胞系の相同組換え修復(HRR)関連遺伝子悪性変異を持つまたは疑われる、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)で、新ホルモン療法薬による治療後に進行した患者。LynparzaはDNAの一重鎖損傷の修復に係る酵素、PARPを阻害する小分子薬。米国では二重連鎖損傷の修復に係るBRCAに機能低下・喪失変異を持つ卵巣癌や乳癌、膵癌に承認されている。HRR関連遺伝子は上位分類のようなもので、BRCA1/2に加えて、BRCA1などをリン酸化する酵素の遺伝子であるATM(Ataxia-Telangiectasia-Mutated)やCDK12、CDK11など15種類の遺伝子を含む。mCRPCの25-30%でHRR関連遺伝子悪性変異が見られる由。
承認申請のエビデンスとなるPROfound試験では、HRR関連遺伝子悪性変異を持つmCRPCでabiraterone(JNJのZytiga)且つ又enzalutamide(アステラス/ファイザーのXtandi)による治療後に進行した患者に投与したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)がメジアン5.8ヶ月と対照群(abirateroneまたはenzalutamideを投与)の3.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.49、p<0.0001だった。
尚、この試験の主評価項目はBRCA1/2またはATMだけに悪性変異を持つサブグループのPFSで、ハザードレシオ0.34、p<0.0001と成功したことから、シーケンシャルな主要二次的評価項目とされた上記の解析に進んだ。全生存期間の中間解析は数値は大変良好だがアルファの配分が小さい関係で未だ成功認定されていない。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認】
FDA、Epizymeの類上皮肉腫用薬を承認
(2020年1月23日発表)
FDAは、Epizyme(Nasdaq:EPZM)のTazverik(tazemetostat)を16歳以上の転移性/局所進行性類上皮肉腫用薬として加速承認した。第一選択である根治手術の対象にならない患者に用いる。Epizymeは治療対象は300人程度と推定している。報道によると、価格は月15,500ドルとなる予定。300人全員が使っても月商450万ドル程度にしかならないが、後述の適応拡大を視野に入れているのだろう。
類上皮肉腫では、遺伝子発現に係るヒストンメチル基転換酵素、EZH2(enhancer of zeste homolog 2)の活性を抑制するINI1(integrase interactor 1)蛋白の喪失が多くの患者で見られる。TazverikはEZH2阻害薬。62人に800mgを一日二回経口投与した第二相試験でORR(客観的反応率)が13%だった。完全反応率は1.6%と小さい。反応者の67%は6ヶ月以上持続した。深刻有害事象の発生率は37%で出血や胸水、皮膚感染など。二次性腫瘍や胚胎毒性も警告されている。
昨年12月に再発難治濾胞性リンパ腫の三次治療にも承認申請された。第二相試験では、EZH2活性化変異を持つ45人におけるORR(独立評価委員会によるもの)が69%、野生型54人では35%だった。
日本ではエーザイがライセンスしてE7438としてB細胞型非ホジキンリンパ腫に開発している。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Epizymeのプレスリリース
FDA、ホライゾン社の甲状腺眼症用薬を承認
(2020年1月21日発表)
FDAは、ホライゾン・セラピューティクス(Nasdaq:HZNP)のTepezza(teprotumumab-trbw)を中重度活動期甲状腺眼症用薬として承認した。この自己免疫疾患の治療薬は初めて。3週間に一回、点滴静注した臨床試験では眼球突出が2mm以上低下した患者の比率が一本では71%、もう一本では83%と偽薬群(各20%と10%)を有意に上回った。主な有害事象は筋痙攣、悪心、脱毛、下痢、疲労、高血糖など。催奇性がある。
teprotumumabは活動期の軌道線維芽細胞で過剰発現しているインスリン様成長因子I受容体に対する抗体。元々はロシュがデンマークのジェンマブ社と共同で肉腫などに開発したが09年に中止、12年にインライセンスしたRiver Vision Developmentを17年にホライゾンが買収した。ホライゾンはRiver Visionの旧株主に米国承認目標達成報奨金として1億500万ドルを支払う。
ホライゾンは長い市販歴を持つが競合の少ない医薬品の権利を取得して値上げで稼ぐビジネスモデルからニッチ志向モデルに業態を転換しつつあるが、やはり、気になるのは価格。報道によると500mgバイアルのWAC(卸取得価格)は14900ドルとのことなので、体重70kgの患者が半年治療する場合は総額が30万ドルを越える計算になる。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ホライゾンのプレスリリース
今週は以上です。
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