2020年1月11日

2020年1月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • リジェネロン、抗Activin A抗体をFOP治療薬として承認申請へ 
  • Apellis社、補体C3阻害剤の夜間ヘモグロビン尿症試験が成功 
  • バベンチオの膀胱癌一次治療後維持療法試験が成功 
  • キイトルーダの進展型小細胞性肺癌試験は半分成功 
  • インサイト、FGFR阻害剤をEUでも申請 
  • 高脂血症のRNA介入薬が承認申請 
  • フォシーガを心不全に適応拡大申請 
  • FDA、ブループリントのPDGFRアルファ阻害剤を承認 
  • FDA、キイトルーダを筋層非浸潤膀胱癌に適応拡大 



【新薬開発】


リジェネロン、抗Activin A抗体をFOP治療薬として承認申請へ
(2020年1月9日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN2477(garetosmab)の第二相FOP(進行性骨化性線維異形成症)の結果を発表した。承認申請に向けて当局と相談する考えだ。

FOPは全身の筋肉や腱、靭帯などが骨化し手足の可動域が狭まる超希少疾患。発熱や疼痛を伴うフレア・アップが起きることがある。患者の多くでACVR1(別名ALK2)受容体の遺伝子変異が見られ、Activin Aが結合した時に本来なら細胞内シグナル伝達がオフになるべきなのにオンになってしまう事が関与と推測されている。常染色体性優性遺伝よりも突然変異による症例のほうが多いようだ。患者数は世界で800人程度と推測されているが未診断/誤診断も多そうだ。

REGN2477はActivin Aに結合する抗体。第二相のLUMINA-1試験は、ACVR1変異を持つ18歳から60歳のFOP患者22人を組入れて28週間治療したところ、総病変活性が偽薬比25%低下した(p=0.07)。新規病変が9割近く少なかったことが寄与した。病変量は25%少なかった(p=0.37)。フレア・アップは50%少なかった(名目p=0.03)。有害事象として報告されたフレア・アップの発生率は10%で偽薬群の42%より低かった。主な治療時発現有害事象は鼻血、眉毛喪失、挫創など。入院して膿瘍のドレーンを行った患者が2名いた。

治療効果は統計的に有意ではないようだが、超希少疾患なので止むを得ないのだろう。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

Apellis社、補体C3阻害剤の夜間ヘモグロビン尿症試験が成功
(2020年1月7日発表)

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)は、APL-2(pegcetacoplan)の第三相夜間ヘモグロビン尿症(PNH)試験が成功したと発表した。本年上期中に承認審査機関と相談を行う予定。

Apellisは補体C3に係る疾患と医薬品の研究開発に特化した米国の新興医薬品開発会社。APL-2は補体C3とC3bに特異的に結合する合成環状ペプチドをPEG化した皮注用薬。PNHの標準治療薬であるアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のSoliris(eculizummab、和名ソリリス)は補体C5に結合する抗体医薬で、標的が異なる。C3は補体経路でC5の上流に位置し、肝臓や脾臓のマクロファージによる溶血にも関与している。

今回のPEGASUS試験は、Solirisによる3ヶ月以上の治療歴を持ちヘモグロビン(Hb)値が10.5g/dL未満のPNH患者80人を組入れ、標準療法に十分に反応しない患者の貧血治療を図った。

一風変わった試験で、まず4週間のランイン期間に80人全員に試験薬(1080mgを週二回皮注)を追加投与した。次に、試験薬だけの群とSolirisだけの群に無作為化割付して治療した。主評価項目はHb値の変化で、対照試験の16週時点の数値をランイン期間前のベースライン値と比較した。

結果は、調整後平均Hb値がベースラインの8.7g/dLから試験薬群は2.4g/dL増加した。Soliris群は1.5g/dL減少し、群間差は3.8g/dLで統計的に有意だった。

全体像を鳥瞰すると、ランイン期間中に平均で約3g/dL増加し、APL-2群はSolirisを止めた後もあまり減少しなかったが、Soliris群は元々の水準に戻ったことになる。

二次的評価項目はシーケンシャルに非劣性検定が行われた。まず輸血回避率は85%でSoliris群の15%を大きく上回り、非劣性達成。網赤血球絶対数も非劣性。LDH(乳酸脱水素酵素)値は非劣性ではなく、次のFACIT疲労スコアの検定は行われなかったが、数値上は良さそうなものだった。

有害事象は、注射箇所反応(各群36%と2%)や下痢(22%と0%)が上回り、頭痛(7%と20%)や疲労(4%と15%)が下回った。溶血は9.8%(4人)と23.1%でだいぶ少なかったが、有害事象による治験離脱(各群3人と0人)は全て溶血によるもの。深刻有害事象の発生率は各17%と15%だった。

本試験のデザインに関して、FDAは、輸血依存の改善を伴うHb安定化は臨床的便益とみなされるが、この試験のようにHb値がそれほど低くない患者も組入れている場合は挙証十分とは言えない可能性もあるとコメントしている由。患者背景が開示されておらずランイン期間前の輸血依存度がどの程度であったか分からないので、この点がリスク要因になり得る。それでも、全患者の輸血回避率の群間差が大きいことを考えれば、少なくとも輸血依存の患者における便益は大きそうだ。

今回は二次治療用途だが、将来、一次治療に拡大する上でのAPL-2の弱点は投与頻度。抗C5抗体の維持用量期の投与頻度はSolirisは2週毎、アレクシオンの長期作用性抗C5抗体新薬であるUltomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)は8週毎だ。

リンク: Apellis社のプレスリリース

バベンチオの膀胱癌一次治療後維持療法試験が成功
(2020年1月6日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、両社で共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相局所進行性/転移性尿路上皮腫瘍一次治療後維持療法試験が中間解析で成功したと発表した。共同主評価項目である全集団及びPD-L1陽性サブグループの全生存期間が、Bavencioを投与しない対照群を有意に上回った。

Bavencioはメルケル細胞腫や腎細胞腫などに承認されている。尿路上皮腫瘍では17年に米国で二次治療に加速承認された。今回の試験はフェーズIVコミットメントでもあるため、適応拡大とともに加速承認を本承認に切り替える申請も行うことになろう。米国外でも一次治療後維持療法で適応拡大申請されることになろう。

リンク: 両社のプレスリリース

キイトルーダの進展型小細胞性肺癌試験は半分成功
(2020年1月6日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-604試験の結果を発表した。進展型小細胞性肺癌の一次治療としてcisplatinまたはcarboplatinとetoposideを併用するレジメンに更に偽薬またはKeytrudaを追加したところ、共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)は中間解析でハザードレシオが0.75、95%信頼区間は0.61-0.91となり成功したが、もう一つの全生存期間は最終解析でハザードレシオ0.80、95%信頼区間0.64-0.98となり、フェールと認定された。成功認定の閾値は不明。

上記の尿路上皮腫瘍一次治療試験と同様に、進展型小細胞性肺癌一次治療第三相試験も抗PD-1/PD-L1抗体によって結果が区々だ。アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)はCASPIAN試験で全生存期間のハザードレシオが0.73、p=0.0047となり、米国で適応拡大承認申請された。ロシュのTecentriq(atezolizumab)は一足先にIMpower133試験が成功、ハザードレシオはPFSが0.77で今回と類似、全生存期間は0.70だった。この試験ではcisplatinは採用されずcarboplatinだけだったが、インプリケーションは不明。昨年、日米欧で適応拡大が承認された。BMSのOpdivo(nivolumab)はCheckMate-331試験で白金薬ベースの一次治療で疾病安定化以上の成果が上がった患者の維持療法としてYervoy(ipilimumab)と併用したが、フェールした。

MSDがKeytrudaの延命効果を確認できなかったのは多重性を補正するためにハードルを高く設定したことが敗因と推測されるが、他剤の成績と見比べると、点推定値自体も若干見劣りする。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


インサイト、FGFR阻害剤をEUでも申請
(2020年1月7日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、INCB54828(pemigatinib)をEUで承認申請し受理されたと発表した。選択的FGFR(線維芽細胞成長因子受容体)阻害剤で、FGFR2融合/再編成陽性の局所進行性/転移性胆管癌の二次治療に用いる。米国では昨年11月に承認申請が受理された。

第二相試験で13.5mgを一日一回、14日オン、7日オフのサイクルで投与したところ、客観的反応率(独立中央放射線学的評価)が36%、メジアン反応持続期間は7.5ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は低リン血症(12%で発生)や漿液性網膜剥離(1%)で、臨床的な転帰はそれほど悪くなかった由。

FGFR2融合/再編成は管内胆管癌の10-16%で見られ、推定患者数は日米欧で2000-3000人とのこと。

リンク: インサイトのプレスリリース

高脂血症のRNA介入薬が承認申請
(2020年1月6日発表)

ノバルティスは、Medicines Company(Nasdaq:MDCO)の買収が完了したことと、MDCOが期待のパイプラインであるinclisiranを昨年12月に米国で承認申請したことを公表した。

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)からライセンスしたRNA介入薬で、PCSK9のmRNAを切断する。アテローム性心血管疾患の再発予防と、家族性高脂血症の治療薬として申請された。心血管アウトカム試験も進行中。

LDL-C治療効果は抗PCSK9抗体であるアムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)やリジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)と大差ない。心血管メタアナリシスにおけるハザードレシオも良好な内容。皮注用薬であることも同じ。違いは投与頻度で、二回目は3ヶ月後、三回目以降は6ヶ月置きと少なくて済む。

抗PCSK9抗体は強気な価格設定が裏目に出て米国では値下げせざるをえなくなった。MDCOは少なくともノバルティスの子会社になる前は、反面教師とする考えを示していたので、競争的な価格設定になっても不思議ではない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

フォシーガを心不全に適応拡大申請
(2020年1月6日発表)

アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を駆出率低下を伴う心不全の治療に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受け、今年4-6月期に結果が出る見込み。二型糖尿病薬として承認されている薬だが、今回はそれ以外の患者も対象になることが斬新だ。

この申請はNYHA分類がIIからIVで左室駆出率が40%以下の心不全患者約4700人を組入れたDAPA-HF試験に基づくもの。Farxiga 10mgを一日一回経口投与した群は、複合評価項目(心血管死、心不全による入院または緊急受診)のハザードレシオが0.74だった。被験者の45%を占めたニ型糖尿病合併例でも、残りのHbA1cが6.5%未満のサブグループでも、ハザードレシオは大差なかった。Number-needed-to-treatは21と効率も高かった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認】


FDA、ブループリントのPDGFRアルファ阻害剤を承認
(2020年1月9日発表)

FDAは、ブループリント・メディスンズ(Nasdaq:BPMC)のAyvakit(avapritinib)をPDGFRアルファのエクソン18変異を持つ切除不能/転移GIST(消化管間質腫瘍)の治療薬として承認した。米国の対象患者数は年300人程度と推測されている。報道によると、WAC(卸取得価格)は30日分が32000ドルに設定される予定。

エクソン18変異はGISTの新患の6%程度で見られ、最も多いD842V変異は既存のチロシンキナーゼ阻害剤に反応しにくい。Ayvakitはこの変異にも強いPDGFRアルファ/KIT阻害剤。承認の根拠となった第一相試験では、客観的反応率が84%、完全反応率は7%だった。43人中38人を占めたD842V変異型では各89%と8%だった。反応持続期間はメジアン未達。

有害事象で特徴的なのは頭蓋内出血(軽度のものも含めると発現率3%)や中枢神経毒性(58%)で、減量/投与中断が必要。胎児や新生児毒性があり、男のパートナーも避妊が必要。

ブループリントは4次治療(変異の有無は不問)でも承認申請したが、FDAは別の承認申請として審査している。ブループリントによると、3次/4次治療における効能をバイエルのStivarga(regorafenib)と比較する第三相VOYAGER試験の組入れが予想以上のペースで進み、結果が20年第2四半期に判明する見込みであることから、データを追加提出する予定であり、審査期間延長の公算があるとのこと。

ブループリントは米国マサチューセッツ州ケンブリッジの新興医薬品開発会社で、Ayvakitのようなプレシジョン・メディシンに重点を置いている。1月にはRET阻害剤BLU-667(pralsetinib)をRET融合非小細胞性肺癌にプレシジョン・メディシンのローリング承認申請に着手した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ブループリントのプレスリリース

FDA、キイトルーダを筋層非浸潤膀胱癌に適応拡大
(2020年1月8日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)をNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)に用いる適応拡大を承認した。高リスクの上皮内腫瘍でBCGに反応せず、膀胱全摘術に不適または患者が望まない場合に適応になる。乳頭腫瘍の有無は問わない。

200mgを3週毎に投与した第二相試験で、3ヶ月完全反応率(中央評価)が41%、メジアン反応持続期間は16.2ヶ月だった。G3/4の治療時発現有害事象が13%の患者で発生した。

NMIBCは米国の膀胱癌新患の75%を占める。BCG不応の第一選択は全摘だが、QOL面から拒否する患者が少なくないようだ。画期的な抗癌剤として知名度が高い抗PD-1/PD-L1抗体が承認されると拒否例が更に増加する懸念があるが、FDA諮問委員会は13人の委員のうち9人が承認を支持した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

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