【ニュース・ヘッドライン】
- アッヴィ、スキリージはコセンティクスより奏効率が高い
- アストラゼネカ、EPA/DHA製剤の混合異脂血症心血管アウトカム試験を中止
- BMS、オプジーボ・ヤーボイ併用療法を非小細胞性肺癌一次治療に承認申請
- リムパーザをアバスチン併用で卵巣癌維持療法に承認申請
- アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型のRNA介入薬の承認申請に着手
- ヴィーヴ、HIV/AIDSのアタッチメント阻害剤を欧州でも承認申請
- ネクター、PEG化オピオイドの承認申請撤回・開発中止
- オゼンピックの心血管疾患リスク削減効果が米国で承認
- FDA、エーザイの体重管理薬に癌の懸念が浮上
【新薬開発】
アッヴィ、スキリージはコセンティクスより奏効率が高い
(2020年1月14日発表)
アッヴィ(NYSE:ABBV)は、中重度プラク乾癬治療薬Skyrizi(risankizumab-rzaa、和名スキリージ)の奏効率をノバルティスのCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)と比較した第三相試験が成功したと発表した。主評価項目の一つである52週時点のPASI90奏効率は各87%と57%となり、Skyriziが有意に上回った。もう一つの16週時点のPASI90奏効率は各74%と66%で、非劣性という目標を達成した。深刻有害事象の発生率は各5.5%と3.7%、有害事象による治験離脱は1.2%と4.9%だった。
乾癬治療はIL-23そしてIL-17を阻害する新薬が続々と登場した。IL-23やIL-12のサブユニットであるp40を標的とするジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab、和名ステラーラ)、IL-23特有のp19サブユニットに結合するSkyrizi、IL-23の刺激によりTh17細胞などが分泌するIL-17を標的とするCosentyxである。今回の二剤は、夫々、直接比較試験で奏効率がStelaraより高かった。決勝戦の結果が出たので、シェア動向に変化が出そうだ。
この試験は、中重度プラク乾癬の患者320人余を無作為化割付したオープンレーベル、評価者盲検試験。Skyrizi群は75mg二回皮注を2回目は4週後、3回目以降は12週毎に施行した。Cosentyx群は150mg二回皮注を最初の5回は毎週、その後は4週毎に施行した。
利便性に差があるためCosentyxは有害事象以外の理由による治験離脱が多かったかもしれず、奏効率に差が出た一因になったかもしれないが、それだけでは長期効果の差の大きさは説明できないだろう。
一つ気になるのは、プレスリリースの後半のディスクレマーが専ら欧州の読者を意識したものであることだ。通常、私が読むプレスリリースは、明らかに米国外を対象としたもの以外は、FDAの広告規制に準拠して米国における承認状況や副作用情報が併記されていることが多いが、今回はEUで承認されている適応症(日米と異なり既存治療で効果不十分な患者に限定されていない)や安全性情報が記載されている。
今回の治験は欧米の医療施設で実施されたので、米国の医師や患者にとっても重要なエビデンスのはずだ。背景は明らかではないが、今回のデータをレーベルに記載することをFDAが認めるまで自粛する意図なのかもしれない。
実薬対照試験というと日本で行われたノバルティスのvarsartanの心血管アウトカム試験でデータ偽造の疑いが浮上し多数の関連論文が撤回されたことが記憶に新しい。海外でも、向精神薬の直接比較試験の結論を集約すると効果が高いのはA薬>B薬>C薬>A薬となる、という問題提起的レビュー論文が出ている。
それだけに、今回のデータが米国のレーベルに収載されるようなら、信憑性が大きく高まることになる。
リンク: アッヴィのプレスリリース
アストラゼネカ、EPA/DHA製剤の混合異脂血症心血管アウトカム試験を中止
(2020年1月13日発表)
アストラゼネカは、Epanova(omega-3 carboxylic acids)の第三相STRENGTH試験を中止すると発表した。混合異脂血症の心血管リスク削減を図ったが、中間解析で独立データ監視委員会が無益性を認定、続行しても偽薬比有意な治療効果を立証することは困難と結論した。
Epanovaは魚油由来の医療用EPA/DHA製剤。米国で14年に重度高トリグリセライド血症(TG≧500mg/dL)の治療薬として承認された。重度患者と異なり、軽中度トリグリセライド血症におけるトリグリセリド値削減の便益は確立していないため、複数の医療用オメガ3脂肪酸製剤メーカーが心血管アウトカム試験を断行した。STRENGTHはその一つで、TG値が175~499mg/dLでHDL-C低値、且つ、LDL-Cはスタチンの最大耐容量を服用することで100mg/dL未満に管理できている、心血管疾患リスクが高い13086人を組入れて、心筋梗塞などの心血管疾患の転帰を対照群(コーン油)と比較した。
グラクソ・スミスクラインもEPA/DHA製剤のLovaza(omega-3-acid ethyl esters)を用いて様々な病気の患者の心血管アウトカム試験を行ったが、全滅だった。結局、オメガ3脂肪酸の心血管アウトカム試験が成功したのはEPA製剤だけである。エパデールの日本のJELIS試験は初発予防試験でNumber-needed-to-treatが比較的大きく、また、今日の尺度からするとLDL-C値の管理が至適ではないので、現在の医療における十分なエビデンスを持っているのはアマリンのVascepa(icosapent ethyl)だけと言えるだろう。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
【承認申請】
BMS、オプジーボ・ヤーボイ併用療法を非小細胞性肺癌一次治療に承認申請
(2020年1月15日発表)
BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用療法を転移・難治性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理された。EGFRやALKに異常のあるタイプは対象外。プレスリリースを読む限りでは、PD-L1陽性だけでなく陰性も対象のようだ。審査期限は5月15日。
根拠となる第三相CheckMate-227試験のパート1では、Opdivoは3mg/kgを2週毎、Yervoyは1mg/kgを6週毎に投与したところ、共同主評価項目の一つであるPD-L1発現≧1%のサブグループにおける全生存期間のハザードレシオが0.79(97.72%信頼区間0.65-0.96)と化学療法群を有意に上回った。PD-L1陰性サブグループの探索的解析でもハザードレシオ0.62(95%信頼区間0.48-0.78)と便益が示唆された。
尚、この試験のパート1のもう一つの主評価項目はTMB(腫瘍遺伝子変異量)がメガベース当り10変異以上のサブグループのPFS(無進行生存期間)。結果が早く出て欧米で承認申請されたが、全生存期間の解析では10変異未満のサブグループにも便益が示唆されたため撤回、今回の仕切り直しに至った。
昨年10月、この二剤に加えて化学療法も併用した第三相CheckMate-9LA試験の成功も発表されたので、用法追加申請されるだろう。データは未発表。
リンク: BMSのプレスリリース
リムパーザをアバスチン併用で卵巣癌維持療法に承認申請
(2020年1月13日発表)
アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)を進行卵巣癌の一次治療後維持療法としてAvastinと併用する用法追加申請をFDAに行ったと発表した。
Lynparzaは遺伝子変異・複製ミスの修復機構に係るPARP(ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ)を阻害する経口剤で、もう一つの修復機構に係るBRCAに変異を持つ癌に使うと、細胞分裂が活発で頻繁に遺伝子複製が行われ複製ミスも多発する癌細胞の増殖を抑制する。
これまでに、米国では、BRCA有害変異のある進行卵巣癌の四次医療、再発治療後の維持療法、一次治療後の維持療法、そして卵巣がん以外でもBRCA有害変異のある再発her2陰性乳癌や膵癌一次治療後維持療法に承認されている。
今回の申請は、モノセラピーではないことと、BRCA変異の有無を問わないことが新しい。PAOLA-1試験では、PFS(無進行生存期間、担当医評価)がメジアン22.1ヶ月と偽薬・Avastin併用群の16.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、p値は0.0001を下回った。尚、BRCA変異を持つサブグループにおけるハザードレシオは0.31、それ以外では0.71となっており、また、BRCA変異でも相同組換え欠損(HRD)でもないサブグループでは0.92とのことなので、FDAが適応を限定する可能性もありそうだ。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型のRNA介入薬の承認申請に着手
(2020年1月10日発表)
アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、米国でALN-GO1(lumasiran)のローリング新薬承認申請に着手したことを発表した。今年の早い段階で完了する予定。
原発性高シュウ酸尿症I型はアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損により、シュウ酸の生産が過剰になり臓器に蓄積、障害を与えるとともに、腎臓結石も合併する。世界で5.8万人に一人の超希少疾患。ALN-GO1はグリコール酸酸化酵素の遺伝子に介入し、シュウ酸の生産を抑制する。欧米で希少疾患薬指定、米国でブレークスルー・セラピー指定、EUでPRIME指定を受けている。
6歳以上で軽中度の腎障害を持つ30人を組入れた第三相試験で、3mg/kgを最初の3回は月一回、その後は3ヶ月毎に皮注したところ、尿シュウ酸塩が有意に減少したとのこと。データは3月にアムステルダムで開催される学会で発表の予定。
リンク: アルナイラムのプレスリリース
ヴィーヴ、HIV/AIDSのアタッチメント阻害剤を欧州でも承認申請
(2020年1月10日発表)
グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS治療領域における合弁会社であるヴィーヴヘルスケアは、fostemsavirをHIV/AIDSのサルベージ治療薬としてEUに承認申請したと発表した。加速審査指定されている由。
ヴィーヴが15年にブリストル·マイヤーズ スクイブから取得した抗HIV薬パイプラインの一つで、体内で活性成分のtemsavirに変換され、HIVエンベロープのgp120に結合、gp120がCD4に結合してCD4陽性細胞に侵入するのを妨げる。
標準的な多剤併用レジメンに抵抗・不適・不耐な患者を組入れた第三相試験で、48週間の治療後のウイルス学的奏効率(40コピー/mL未満)が54%、CD4陽性T細胞増加数は139個/mm3だった。深刻有害事象発生率は35%、有害事象による治験離脱は7%だった。
米国では昨年12月に承認申請されている。
リンク: ヴィーヴのプレスリリース
【承認審査・委員会】
ネクター、PEG化オピオイドの承認申請撤回・開発中止
(2020年1月14日発表)
FDA諮問委員会で27人の委員が全員一致で承認に反対したことを受けて、ネクター・セラピューティクス(Nasdaq:NKTR)はNKTR-181(oxycodegol)の承認申請を撤回し、これ以上の開発を行わない旨、発表した。
oxycodegolはoxycodolをPEG化したもの。通常のオピオイドと比べて血液脳関門通過が遅く、高揚感などを直ぐに体験できない。米国ではオピオイドを乱用し副作用で死亡する若者が多く、社会問題化しているため、乱用防止型オピオイド製剤の開発が重要な課題になっている。だが、破砕して注射とか吸引とか、どの方法を使っても即効性が得られない製剤の開発は難しく、承認審査合格率が低位に留まっている。
ネクターの場合、第三相試験が治療離脱試験(事前投与で効果のあった患者を継続投与群と偽薬群に無作為化割付)一本だけで、適応も慢性腰痛だけだったことや、静注・吸引した場合の薬物依存性試験を行わなかったこと、そして、肝毒性が見られることから、全員反対という惨憺たる評価を受けた。
米国のオピオイド製剤市場はピークアウトした感がある。既存メーカーは損害賠償訴訟の標的になり経営破綻した会社もある。研究開発型製薬会社にとって魅力的な市場ではなくなってしまったのだから、追加投資が求められるなら止めた方がまし、という経営判断をしても不思議はないだろう。
リンク: ネクターのプレスリリース
【承認】
オゼンピックの心血管疾患リスク削減効果が米国で承認
(2020年1月16日発表)
ノボ ノルディスクは、Ozempic(semaglutide)の効能追加がFDAに承認されたと発表した。二型糖尿病で確立した心血管疾患を持つ患者の主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)リスクを削減するというもの。3000人以上の患者を2年間追跡したSUSTAIN 6試験に基づくもので、MACE発生率が6.6%と偽薬群の8.9%を下回り、ハザードレシオは0.74、主評価項目の非劣性検定だけでなくポストホックの優越性検定も成功した。
Ozempicは週一回皮注型GLP-1作用剤で、米国では17年に承認された。18年2月にEUでも承認されたがペン型ディバイスの申請・承認まで発売が見送られた。18年3月に日本でも承認されたが、規格が初年度投与日数規制に対応していないため、改めてペン型ディバイスを承認申請することになった。
ノボは、semaglutideの経口投与用製剤、RybelsusのMACEリスク削減に関するFDAの審査結果も明らかにした。3000人以上の患者を2年間追跡したPIONEER 6試験でMACEの発生率が3.8%と偽薬群の4.8%を数値上下回り、ハザードレシオは0.79で非劣性検定に成功したものの、優越性検定は届かなかった。SUSTAIN 6試験の結果との整合性をどう考えるか、難しいところだが、FDAはありのままに、PIONEER 6試験のデータをレーベルに収載することは承認したがリスク削減効能は認めなかった。
Rybelsusは昨年7月に日本でも承認申請された。
リンク: ノボのプレスリリース
【医薬品の安全性】
FDA、エーザイの体重管理薬に癌の懸念が浮上
(2020年1月14日発表)
FDAは、Arena Pharmaceuticalsが開発し現在はエーザイが米国で販売している体重管理薬、Belviq(lorcaserin)に関して、長期大規模安全性確認試験で癌の懸念が浮上したことを公表した。リスクが高まると断定した訳ではなく、現在も検討中。
Belviqは選択的5-HT2cアゴニスト。Arenaが09年に米国で承認申請したが、体重減少効果が穏やかであることやラットの癌原性試験、そして90年代末に類似した作用を持つ医薬品で大きな副作用禍が発生したことなどから、一旦は審査完了通知を受領。二巡目の審査を経て12年に承認された。同年、欧州でも承認申請されたがリスクの正当化を求められ、撤回した。売上が伸びず、Arenaは共同開発パートナーのエーザイに権利を譲渡した。
癌原性試験での懸念は、米国のレーベルによると、マウスやラットで腫瘍の増加が見られた。多くは臨床用量換算で著高量を投与した結果だが、メスのラットにおける乳腺線維腺腫の増加はセーフティマージン(無影響量と臨床用量の倍率・・・10倍以上が望ましいと言われている)が確保されていないようだ。
今回、FDAが言及した長期大規模安全性試験は、米国の血栓学共同治験グループであるTIMIなどが主導した、CAMELLIA-TIMI 61試験と推測される。14673人を組入れたもので、主評価項目である心血管疾患リスクは、メジアン3.3年間の追跡で、偽薬比非劣性だった。New England Journal of Medicine誌に掲載された主論文に加えて、Belviq群は腎障害の新発・進行が少なかったという論文や、糖尿病や微小血管性を合併する患者が少なかったという論文も刊行されている。
NEJM論文によれば、特別関心有害事象の発生率は低血糖を除いて概ね同程度であった。しかし、今回のFDA発表によれば、5年間追跡データで癌(特別関心有害事象の一つ)と診断された患者数がBelviq群で増加した。PPAR作動剤Actos(pioglitazone)もそうだったが、癌のリスクを評価するには5年、10年と長期間の追跡が必要なので、懸念が払拭されるまで時間がかかりそうだ。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CAMELLIA-TIMI試験の治験論文(NEJM誌)
今週は以上です。
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