2019年10月20日

2019年10月20日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ジャカビの第三相aGvHD試験が成功 
  • イーライリリー、IL-10の膵癌試験がフェール 
  • 第一三共、FDAがADCの承認申請を受理 
  • FDA諮問委員会、塩野義の新規抗生剤の承認を支持 
  • CHMPがエボラワクチンなどの承認を支持 
  • ユルトミリスがaHUSに適応拡大 
  • ゾフルーザを高リスクインフル患者に用いることも承認 
  • イグザレルトが急性疾患入院患者のVTE予防に適応拡大 


【新薬開発】


ジャカビの第三相aGvHD試験が成功
(2019年10月16日発表)

ノバルティスはJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ、欧州名Jakavi)の第三相急性移植片対宿主病(aGvHD)試験が成功したと発表した。GvHDは血液癌の治療のために他家骨髄移植を受けた患者に起きがちな、他家由来免疫細胞が患者の組織を攻撃してしまう疾患。ステロイド治療が奏功しなかった患者を組入れて第28日時点のORR(客観的反応率)を評価したところ、BAT(施行可能な中で最善の治療)群より優れていた。

具体的なデータは学会発表の予定。第二相単群試験では重症度がグレード2の患者ではORRが100%、3または4の患者では40%強だった。

Jakafiはインサイト(Nasdaq:INCY)が開発したJAK1/2阻害剤で、ノバルティスは米国外での開発販売権を保有している。11年の米国を皮切りに、欧州や日本などで骨髄線維症や難治性真性多血症の治療薬として承認された。ステロイド不応aGvHDに関しては上記第二相試験のデータに基づき今年5月に12歳以上の患者を対象に米国で承認された。第三相の成功を受けて、ノバルティスは各国の承認審査機関と適応拡大申請を相談する考えだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

イーライリリー、IL-10の膵癌試験がフェール
(2019年10月16日発表)

イーライリリーは、LY3500518(pegilodecakin)の第三相転移性膵癌二次治療試験の結果を公表した。gemcitabineを含む一次治療レジメンに不応・再発の患者567人をFOLFOXレジメン(5-fluorouracil、folinic acid、oxaliplatinの三剤併用)群とFOLFOX・pegilodecakin併用群に割り付けて全生存期間を比較したがフェールした。データは学会発表の予定。

IL-10をPEG化した遺伝子組換え薬で、CD8陽性T細胞の増殖や細胞毒性強化を誘導するとされる。昨年、Armo BioSciences社を16億ドルで買収して入手した。最初の第三相のフェールは痛いが、諦めてはいないだろう。

免疫強化療法はIL-2やインターフェロンが期待されたが、一部の患者には長期にわたり便益をもたらすものの反応率が低く、今日では専ら、他に適切な選択肢がない病気にしか使われなくなった。ワクチン療法の開発も概して失望的だ。重大な例外が抗PD-1/PD-L1抗体で、IL-2やインターフェロンに反応する黒色腫や腎臓癌や、結核予防ワクチンBCGがアジュバント治療などに用いられる膀胱癌だけでなく、肺癌など多くの癌で高い奏効率と反応持続期間を示している。

この結果、免疫強化療法を抗PD-1/PD-L1と併用する研究開発が活発化。pegilodecakinも転移性非小細胞性肺癌の後期第二相としてKeytruda(pembrolizumab)併用一次治療試験(PD-L1強度高発現が対象)やOpdivo(nivolumab)併用二次治療試験が進行中。2020年内にに結果が出る見込みなので、楽しみが残っている。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認申請】


第一三共、FDAがADCの承認申請を受理
(2019年10月17日発表)

第一三共と開発販売提携先のアストラゼネカは、DS-8201(fam-trastuzumab deruxtecan)をKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)による治療歴を持つher2陽性転移性乳癌用薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は2020年4-6月期。日本でも先月、承認申請済み。

DS-8201はHerceptin(trastuzumab)の抗her2抗体とトポイソメラーゼI阻害剤irinotecanの誘導体をリンカーで結合した抗体薬物複合体(ADC)。trastuzumabと微小管重合阻害剤maytansineをリンカーで結合したKadcylaと似ているが、抗体に対する薬剤の比率がKadcylaの2倍と高く、制癌作用が高い可能性がある。

Herceptinは乳癌細胞を検査してher2が過剰発現なら適応になる。発売当初はIHC法で2+または3+なら適応になったが、FISH法の臨床研究が進み、2+でもFISH法で陰性の場合は反応率が低いことが判明。IHC法で2+の場合はFISH法で陽性であることを確かめて用いるようになった。

DS-8201の今回の申請はHerceptinやKadcylaの後に使うサルベージ用途だが、将来はIHC2+でFISH陰性などに適応を広げて抗her2療法の対象人口を拡大することが期待される。

尚、Kadcylaの一般名の冒頭のado-は、Herceptinとの取り違え事故を防ぐためFDAが付与したもので、USANやINNはtrastuzumab emtansineとなっている。DS-8201のfam-も同趣旨だろう。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、塩野義の新規抗生剤の承認を支持
(2019年10月17日発表)

塩野義製薬はS-649266(cefiderocol)を複雑性尿路感染症(腎盂炎を含む)治療薬として欧米で承認申請している。FDAの抗微生物薬諮問委員会が開催され、賛成14人、反対2人と圧倒的多数が、治療の選択肢が他にない乃至は限定的な患者に用いることを支持した。審査期限は11月14日。商標はFetrojaとなる模様。

cefiderocolは注射用シデロフォアセファロスポリン。WHOが17年に公表した世界的に大きな問題になっている12種類の病原菌のうち、カルバペネム耐性を示す三種類のグラム陰性菌(緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、腸内細菌化細菌)の全てにin vitroで強い抗菌活性を示した。

第三相試験では2000mgを8時間毎に7-14日に亘って静注したところ、投与終了の7日後における臨床的・細菌学的複合有効率が72.6%となり、 imipenem/cilastatin群の54.6%と比べて非劣性だった。優越性解析も成功したが、実際に上回ったのは細菌学的評価項目が中心だった。深刻有害事象の発現率は4.7%対8.1%で小さかった。

議論になったのが、カルバペネム耐性菌(CRE)感染者を組入れた第三相実薬対照試験で感染症による死亡率が高かったこと。14日死亡率が18.8%と、BAT群(施行可能な最善治療、主としてcolistinが用いられた)の12.2%を大きく上回った。死因は感染症によるものが多く、治療効果が十分ではない可能性が示唆された。

尤も、院内感染肺炎の第三相実薬対照試験では生存率が非劣性だったので、真偽は不明。この二本の試験の更なる解析が望まれる。

リンク: 塩野義製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

CHMPがエボラワクチンなどの承認を支持
(2019年10月18日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、10月の会合で、エボラウイルスワクチンなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのErveboは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの遺伝子の一部と置換した弱毒化生ワクチン。元々はカナダの公衆衛生庁が開発、米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)に商業分野での権利をライセンスしたもので、MSDは14年に世界独占開発生産販売権を取得した。

14-16年の流行時にリベリアなどで臨床試験が行われ、高い予防効果が示唆された。今回のコンゴ民主共和国でも実地研究が行われ、予備的分析だが良好な結果が出ている模様だ。

接種対象は18歳以上で感染リスクの高い人(感染者の同居人や医療従事者など)。一回、筋注する。生産プロセスに関する情報の一部が未提出であるため、CHMPは条件付き承認に肯定的意見をまとめた。

このエボラワクチンは米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

このほかに肯定的意見を得た新薬は、まず、アムジェンとUCBが共同開発したEvenity(romosozumab、和名イベニティ)。骨形成を抑制し骨吸収に寄与するスクレロスチンを標的とする抗体医薬。スクレロスチンは大動脈血管平滑筋などでも発現しているため心血管安全性が注目されるところ、臨床試験で心筋梗塞や脳卒中が増加したり、75歳以上の被験者で死亡リスクが高まる可能性が浮上した。このため、CHMPは6月に一旦、否定的意見を出した。

今回、肯定的意見に転じた理由は必ずしも明確ではないが、適応が、重度閉経後骨粗鬆症で骨折のリスクが高く、心筋梗塞や脳卒中歴のない患者と多少限定的になっている。実質的に、今年4月に承認された米国と同様と思われる。日本では今年1月に承認されたが、9月に同様な趣旨の添付文書変更が行われた。

リンク: EMAのプレスリリース(pdfファイル)
リンク: アムジェンのプレスリリース(10/17付)

米国のMelinta Therapeutics(Nasdaq:MLNT)のQuofenix(delafloxacin)は第三世代キノロンとされる。06年に湧永製薬からライセンス、欧州は共同開発先のメラリーニ社が急性細菌性皮膚皮膚構造感染症治療薬として承認申請した。静注用と経口剤があり、第三相試験では効果がvancomycinとatreonamのレジメンに非劣性だった。他剤不適な患者に用いる。米国では17年にBaxdelaという商標名で承認されている。

アッヴィのJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib)は様々な自己免疫疾患に開発されているが、まず中重度リウマチ性関節炎治療薬としてCHMPの支持を得た。米国では今年8月に承認されたが他のJAK1阻害剤と同様に、深刻な感染症やリンパ腫などの腫瘍、動脈静脈血栓症のリスクが枠付警告された。日本でも承認審査中。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)は難治性鬱病の治療薬としてオフレーベル使用されているketamineのS異性体。治療開始当初は週二回、5週目からは1-2週に一回、点鼻投与する。米国では今年3月に承認され、麻薬取締局のスケジュールIII指定を経て発売された。

イーライリリーのBaqsimi(glucagon)は4歳以上の糖尿病患者が重度低血糖症を発症した時の治療薬。使い捨てディバイスでグルカゴン粉末をそのまま経鼻投与できるので、注射用薬を調整する手間が省ける。失神時でも使える。注射用グルカゴンと異なる特有の有害事象としては、鼻詰まりや涙目、充血が見られる。カナダのLocemia Solutionsから世界権を取得したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

新薬で否定的意見となったのは、第一三共のVanflyta(quizartinib、ヴァンフリタ)。14年に子会社化したAmbit BiosciencesのFLT3チロシンキナーゼ阻害剤で、FLT3の遺伝子内縦列重複変異を持つ再発難治急性骨髄性白血病薬として日米欧で承認申請されたが、今のところ承認されたのは日本だけだ。

承認申請の根拠となる第三相試験では、メジアン生存期間が6.2ヶ月と実薬対照群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76で統計的に有意だった。しかし、FDAもCHMPも、治療効果が限定的なことや臨床試験の実施状況に難がありデータを過信できないことなどを理由に、承認に後ろ向きだった。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を得たのは、まず、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)。PD-L1陽性(CPSが1以上)で転移性または切除不能な難治性頭頚部扁平上皮種の一次治療に、単剤または白金薬及び5-FUと併用で投与することが支持された。

今年6月に承認された米国では、併用ならPD-L1陰性でも適応になったが、CHMPはオーソドックスにPD-L1陽性に限定した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンがジェンマブからライセンスして開発販売している抗CD38抗体、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)。 多発骨髄腫の様々な段階・レジメンに承認されているが、今回は、自家幹細胞移植不適な新患成人にRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと併用する用法が支持された。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、バーテックス(Nasdaq:VRTX)のKalydeco(ivacaftor)。様々なタイプのCFTR変異型嚢胞性線維症に承認されているが、適応年齢を従来の生後12か月以上から6ヶ月以上、体重は7kg以上から5kg以上に、引き下げることが支持された。2012年に欧米で承認された薬だが、対象人口拡大を一歩ずつ地道に進めていることに感嘆する。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ユルトミリスがaHUSに適応拡大
(2019年10月18日発表)

アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)をaHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)による補体調停性TMA(血栓性微小血管症)の治療に用いる効能追加がFDAに承認されたと発表した。日欧でも審査中。

Ultomirisは補体系のC5に結合・阻害する抗体医薬。同社のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)より長期間作用するため点滴静注頻度が少なくて済むことが特徴。18-19年に米日欧で発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として承認された。今回のaHUSはSolirisの最大用途なので、Solirisの需要を特許失効前にUltomirisに誘導する戦略の大きなマイルストーンとなる。

リンク: アレクシオン社のプレスリリース

ゾフルーザを高リスクインフル患者に用いることも承認
(2019年10月18日発表)

インフルエンザを治療する必要性に関する考え方は国によって異なり、日本はワクチンの問題などから治療薬に前向きに取り組んでいるが、高齢者などを除けば深刻な合併症のリスクが小さく大抵は放置しても自然に軽快するので原則的に治療の必要はないと考える国もある。

どちらかと言えば前向きだが合併症のリスクが高い患者に対する効果を明確にするのが好ましいと考えるのが米国で、ロシュが塩野義製薬からライセンスして海外で開発販売しているXofluza(baloxavir marboxil)の対象は、米国では、非複雑性インフルエンザに限定されていた。

今回、高リスク患者に用いることも承認された。根拠となる臨床試験では、CDC(疾病管理センター)の定義に即して喘息症や慢性肺疾患、糖尿病、心臓疾患、病的肥満の持病を持つ患者や、65歳以上の高齢者を組入れて症状が改善するまでの時間を計測したところ、メジアン73時間と偽薬群の102時間より有意に早かった。

この試験は12-17歳の患者も組入れたが、このサブグループにおけるメジアン改善時間は各188時間と191時間で大差なかった。但し、症例数が各13人と12人と極めて少ない(全体の解析は各群385人と385人)ので、本当に効果がないのかどうかは分からない。

尚、この試験ではTamiflu(oseltamivir)群も設定されたが、メジアン改善時間は81時間とXofluzaの73時間と大差なかった。

リンク: ロシュのプレスリリース

イグザレルトが急性疾患入院患者のVTE予防に適応拡大
(2019年10月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を急性疾患で入院し安静状態の患者のVTE(静脈血栓塞栓症)予防に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。退院後も含めて31-39日間、経口投与する。抗血栓薬は予防効果と出血リスクのバランスを取るのが難しく、Xareltoも例外ではない。FDAは出血リスクの小さい患者に限定した。

XareltoのようなXa阻害剤や低分子量ヘパリンは関節手術を受けた患者などのVTE予防に承認されているが、弾性ストッキングや電気刺激など他にも方法があるため、普及率は決して高くない。米国の治療ガイドラインは急性疾患安静入院患者のVTE予防に抗凝固薬を使うことを認めているが、退院後も続けることは推奨していない。結局、VTEリスクが著しく高く出血リスクは小さい患者に限定して、1ヶ月コースは更に限定的に、施行することになるのだろう。

Xareltoはバイエルが開発、ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国における開発販売権を保有している。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース





今週は以上です。

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