2019年10月6日

2019年10月6日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティス、コセンティクスをnr-axSpAに適応拡大申請へ 
  • オフェブはSSc-ILD以外の間質性肺疾患にも有効 
  • Agios社、IDH1変異胆管癌の第三相試験が成功 
  • MSD、三剤合剤抗生剤の適応拡大試験が成功 
  • ESMO:リムパーザはHRR変異前立腺癌に有効 
  • ESMO:テセントリクの尿路上皮癌一次治療試験が成功 
  • ESMO:キイトルーダの早期乳癌切除術付随試験が成功 
  • アストラゼネカ、FDAがCOPD用三剤合剤を承認せず 
  • ギリアドの抗HIV薬、予防にも承認 
  • FDAがカナグリフロジンの腎合併症予防効果を承認 


【新薬開発】


ノバルティス、コセンティクスをnr-axSpAに適応拡大申請へ
(2019年10月2日発表)

ノバルティスは、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)の非X線的体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)治療効果を検討した第三相PREVENT試験が成功したと発表した。52週後のASAS40スコアが偽薬比有意に改善した。ノバルティスは適応拡大申請する考え。

Cosentyxは14年12月に日本で、15年1月には欧米でも、プラク乾癬治療薬として承認された抗IL-17A抗体。nr-axSpaは仙腸関節のX線画像で確認できるX線的体軸性脊椎関節炎(従来、強直性脊椎炎と呼ばれていた)と対立的な概念だが類似した疾患とみなされており同じような治療を行う。今回のような適応拡大試験も活発に行われるようになった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

オフェブはSSc-ILD以外の間質性肺疾患にも有効
(2019年9月30日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、VEGFR阻害剤Ofev(nintedanib、和名オフェブ)のINBUILD試験の結果を学会・論文発表した。Ofevは肺線維腫やSSc-ILD(全身性強皮症に伴う間質性肺疾患)に承認されているが、今回の試験は全身性強皮症以外の線維化進行性間質性肺疾患の663人を15ヶ国の153施設で組入れて52週間の治療効果を検討したもの。結果は、150mgを一日二回経口投与した群のFVC低下が17.8 mL/年と、偽薬群の80.8 mL/年より有意に小さかった。効能追加申請に向かう予定。

リンク: Flahertyらの治験論文抄録(New England Journal of Medicine誌)
リンク: ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

Agios社、IDH1変異胆管癌の第三相試験が成功
(2019年9月30日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、Tibsovo(ivosidenib)をIDH1変異胆管癌の二次三次治療に用いた第三相試験が成功したと発表した。難治性腫瘍であるせいか、治療効果が高いような感じは受けない。

500mgを一日一回、経口投与した群はPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)がメジアン2.7ヶ月と偽薬群の1.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.37、p<0.001だった。6ヶ月PFS率は32%と偽薬群のゼロを上回った。部分反応率は2%(偽薬群は0%)と低いが疾病安定化率が51%(同28%)と高かった。

全生存期間はメジアン10.8ヶ月で偽薬群の9.7ヶ月を少し上回っただけだがハザードレシオは0.69と悪くない。本試験は偽薬群の患者が進行認定された後にTibsovoにクロスオーバーすることが認められていたので、偽薬群の数値が実力以上である可能性がある。

治療時発現有害事象は悪心、下痢、疲労など。G3以上は腹水など。

TibsovoはIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤。18年7月に米国で再発難治IDH1変異型急性骨髄性白血病に用いることが承認された。胆管癌試験の成功を受けて適応拡大申請する計画。

同社は17年8月にIDH2阻害剤Idhifa(enasidenib)が再発難治IDH2変異型急性骨髄性白血病に米国承認されている(BMSが買収予定のセルジーンと開発販売提携)。

リンク: Agiosのプレスリリース

MSD、三剤合剤抗生剤の適応拡大試験が成功
(2019年9月30日発表)

MSDは、Recarbrioの院内感染細菌性肺炎/ベンチレータ関連細菌性肺炎適応拡大試験が成功したと発表した。28日死亡率や早期臨床的反応率がpiperacillin・tazobactam併用群と非劣性だった。データは2020年に学会発表の予定。適応拡大申請することになりそうだ。

Recarbrioはカルバペネム系抗生物質のimipenemとデヒドロペプチダーゼ分解酵素阻害剤cilastatin(不活性代謝物による腎障害リスクを緩和するために配合)、そして新開発のクラスA/Cベータラクタマーゼ阻害剤relebactamの固定用量合剤。今年7月にRecrbrioに感受するグラム陰性菌による複雑尿路感染症と複雑腹腔内感染症のサルベージ療法として米国で承認された。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:リムパーザはHRR変異前立腺癌に有効
(2019年9月30日発表)

アストラゼネカはPARP阻害剤Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)をBRCA1/2遺伝子変異を持つ卵巣癌や乳癌向けに販売しているが、新たに、前立腺癌の一部にも有効であることが第三相試験で確認された。試験成功自体は8月に公表済みだが、データなどの詳細がESMO欧州臨床腫瘍学会で発表された。

このPROfound試験は、相同組換え修復(HRR)に係る遺伝子変異のある転移性去勢抵抗性前立腺癌で新ホルモン薬(abirateroneまたはenzalutamide)による治療に進行した387人をLynparza群(300mgを一日二回経口投与)または対照群(abiraterone且つprednisoneあるいはenzalutamide)に2対1割付し、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央査読による放射線学的評価)を比較したオープンレーベル試験だ。

主評価項目の、BRCA1/2またはATM(ataxia-telangiectasia-mutated)に変異を持つ245人のPFSは、メジアンが各7.4ヶ月と3.6ヶ月でハザードレシオ0.34となり有意な差があった。シーケンシャルに実施された主要副次的評価項目である全患者のPFSは各5.8ヶ月、3.5ヶ月、0.49でこれも有意だった。

もう一つの主要副次的評価項目である全生存期間の中間解析は、BRCA1/2またはATM変異サブグループが18.5ヶ月、15.1ヶ月、0.64となり、p=0.0173だが中間解析に配布されたアルファは0.01なのでまだトレンドに留まっている。全ユニバースの解析は各17.5ヶ月、14.3ヶ月、0.67で、名目p=0.0063となっている。

BRCA1/2またはATM以外のHRR関連遺伝子に変異を持つ患者の数値が明らかではないためはっきりしたことは分からないが、これらの数値を見る限りでは、HRR関連遺伝子変異を持つ患者(転移性去勢抵抗性前立腺癌の25-30%)全体に有効なのだろう。

PARP阻害剤は遺伝子の複製ミスを修復するメカニズムのうち、DNA一本鎖切断の修復に係るポリADP-リボースポリメラーゼを阻害する。BRCA1/2などの遺伝子に変異があるとDNA二本鎖切断の修復が困難になり、そのような患者にPARP阻害剤を投与すると遺伝子修復が著しく困難になるため、遺伝子複製・細胞分裂が活発で複製ミスが起きやすい腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ESMO:テセントリクの尿路上皮癌一次治療試験が成功
(2019年9月30日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMvigor130試験の結果をESMOで発表した。局所進行性/転移性尿路上皮癌の1213人をcispatinまたはcarboplatinとgemcitabineを併用する対照群と更にTecentriqを併用する群、そしてオープンレーベルでTecentriqモノセラピーを施行する群に割り付けて、Tecentriq併用のPFS(無進行生存期間、担当医評価)・全生存期間延長効果を検討した。

結果は、メジアンPFSが8.2ヶ月と対照群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.82、p=0.007と有意に延びた。全生存期間はデータがまだ成熟していないが、メジアン値は各16.0ヶ月と13.4ヶ月、ハザードレシオは0.83だった。

モノセラピー群のメジアン生存期間は15.7ヶ月だったが、対照群に対するハザードレシオは1.02で有意差はなかった。PD-L1高発現には良好であった模様だが統計学的に厳格な解析ではないので何とも言えない。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:キイトルーダの早期乳癌切除術付随試験が成功
(2019年9月29日発表)

MSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を早期トリプル・ネガティブ乳癌摘出術の前後に用いる第三相偽薬対照試験、KEYNOTE-522の結果がESMOで発表された。術前のネオアジュバント療法として化学療法に併用したところ、pCR(病理学的完全奏効率)が偽薬併用群より向上した。摘出術後もアジュバント療法としてKeytrudaまたは偽薬を単剤投与したところ、通算のEFS(無再発生存率)が向上した。

乳癌は早期発見が進み、摘出術と必要に応じて術前・術後薬物療法を行うことで高い生存率を達成できるようになった。エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体を高発現するタイプにはホルモン療法、her2陽性にはher2標的薬が有効だ。しかし、この何れも高発現していない、乳癌の15-20%を占める患者には有効なレジメンが限られている。

KEYNOTE-522試験はこのトリプル・ネガティブ早期乳癌1170人余をKeytruda群と偽薬群に2:1割付して、ネオアジュバント化学療法に追加する便益と、アジュバント療法に用いる延命効果を共同主評価項目として検討した。前者のpCR解析は602例の中間解析で64.8%と偽薬群の51.2%を有意に上回り、成功認定された。

PD-L1陽性(CPS≧1)のサブグループでも、陰性でも、pCRが改善した。面白いことに、偽薬群も試験薬群も、陰性のほうが陽性よりpCRが20ポイント以上低くなっている。

EFSはハザードレシオ0.63で、95%信頼区間は0.43-0.93となっているが、統計的に有意かどうかは明らかではない。

G3-5の治療時有害事象発現率は試験薬群76.8%、偽薬群72.2%、治療時発現有害事象による死亡は各群2人と1人だった(2対1割付なので発現率は大差ないはず)。

EFSのデータがどの程度成熟しているか不明だが、承認申請に向かうのではないか。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、FDAがCOPD用三剤合剤を承認せず
(2019年10月1日発表)

アストラゼネカは、Breztri(budesonide、glycopyrronium、formoterol fumarateの三剤合剤)を欧米で中重度COPD治療薬として承認申請しているが、米国は審査完了通知を受領した。理由は不明だが、8月に成功発表したETHOS増悪予防試験のデータを追加提出する計画なので、承認申請時点では二剤より増悪抑制効果が高いことが明確になっていなかったことがボトルネックだったのだろう。

日本では今年6月にビレーズトリという商品名で承認されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認】


ギリアドの抗HIV薬、予防にも承認
(2019年10月3日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Descovy(emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarateの合剤、和名デシコビ)をHIV感染症の予防に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。HIV陰性で性的感染のリスクがある、35kg以上の成人と青少年が適応になる。膣受容性交に伴う感染リスクを持つ個人は対象外。

類薬のTruvada(emtricitabineとtenofovir disoproxil fumarateの合剤、和名ツルバダ)も同用途で承認されているが、GE化が始まったため、骨密度低下リスクがTruvadaより小さいことを梃子に需要をDescovyに誘導する考え。

リンク: ギリアドのプレスリリース

FDAがカナグリフロジンの腎合併症予防効果を承認
(2019年9月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、二型糖尿病薬Invokana(canagliflozin、JAN:カナグリフロジン)の腎合併症予防効果をレーベルに記載することがFDAに承認されたと発表した。欧州でもライセンシーのムンディファーマが承認申請中。

糖尿病成人症患者を組入れた腎アウトカム試験で、末期腎不全、血清クレアチンに倍加、腎・心血管疾患死のリスクを30%削減した。

Invokanaは近年、心不全治療効果が注目されるようになったSGLT2阻害剤の一つだは、心血管アウトカム試験でなぜか足切断リスクが高まる懸念が浮上、販売が苦戦している。今回の効能追加はポジティブだが、競合薬もやがてキャッチアップするだろうから、伸び悩みが解消する可能性は低そうだ。

リンク: JNJのプレスリリース





今週は以上です。

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