2019年10月27日

2019年10月27日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • バイオジェン/エーザイ、一転してaducanumabを承認申請へ 
  • 降圧剤の服用は就寝前のほうが良い 
  • SGEN社、her2阻害剤を承認申請へ 
  • テセントリクの肝癌試験が成功 
  • オプジーボとヤーボイの肺癌化学療法併用試験が成功 
  • Spectrum、顆粒球コロニー刺激因子を承認申請 
  • TesaroのPARP阻害剤がHRD陽性卵巣癌のサルベージに適応拡大 
  • バーテックス、第4の嚢胞性線維症治療薬がスピード承認 
  • ステラーラが潰瘍性大腸炎に適応拡大 


【今週の話題】


バイオジェン/エーザイ、一転してaducanumabを承認申請へ
(2019年10月22日発表)

認知症領域で複数のパイプラインを共同開発しているバイオジェンとエーザイは、BIIB037(aducanumab)を20年初めに米国で承認申請する計画を発表した。今年3月に第三相試験二本が無益認定され両社の株価が暴落したが、症例数や追跡期間が増えたその後の解析で、高用量群の成績が一本では偽薬比有意、もう一本も高用量を10回以上投与したサブグループなどで支持的なデータが得られた。前日のFDAとの相談を踏まえて、米国申請を決定した。欧州などでも相談を本格化する考え。

無益性解析は、無駄な投与を続けて被験者を長期間拘束・苦しめるのを防ぐための手続きで、中間解析で治験成功の可能性を検討し、一定水準以下だったらデータ監視委員会が打ち切りを勧告する。最終解析で結論が覆ることは稀。

ここ3年のFDAは、少なくとも深刻な希少疾患に関しては承認のハードルが明らかに下がっている。アルツハイマー病の新薬は開発成績が極めて悪く、FDAは以前から、治療効果の多寡は問わず偽薬比統計的に有意なら承認を考慮する考えを示している。これらのことから、今回のデータで承認される可能性はゼロではないだろう。

新薬が成功するためにはFDA承認は必要条件に過ぎず、保険機関や医師、患者、介護者に効果が認められる必要がある。偽薬比有意と言っても悪化が止まるわけではなく、何もしなければ1年で到達する水準に1.5年かかる程度の話である。コストも重要な要素だ。薬の価格は患者に提供する便益に基づいて決定されるべきであり、製薬業界が過去に失った研究開発費用に基づくべきではない。

以下、バイオジェンが四半期決算発表会で行った説明に即して詳述する。両社は、アルツハイマー性軽度認知障害または軽度アルツハイマー病の患者1600人余を組入れた第三相試験を二本、実施した。低用量(ApoE4陽性は3mg/kg、陰性は6mg/kg)と高用量(同6mg/kg、10mg/kg)を月一回静注する効果を偽薬と比べるもので、主評価項目は78週後のCDR-SBの変化。

無益認定されたのは、昨年12月26日時点で78週を完了していた二本合計1748人の解析で事前に設定された条件(最終解析で統計的に有意な結果が出る条件付き検出力がどちらの試験のどちらの用量群も20%未満)が充足されたため。二本のうちEMERGE試験ではトレンドが見られたがENGAGE試験は見られなかった。

今回は、intent-to-treat(ITT)の二本合計3285人と完了者(OTC:opportunity-to-complete)2066人が対象。EMERGE試験の高量両群は、CDR-SBの悪化が偽薬より小さく(治療効果はITT解析で23%、p=0.01、OTCでも23%だが症例数が6掛けであるためp=0.031とやや大きい)、二次的評価項目のADAS-Cog13やADCS-ADL-MCIもp値がITTで0.01以下、OTCでも0.038以下となっている。

但し、ENGAGE試験における高用量の治療効果はCDR-SBがITTでマイナス2%、OTCはマイナス6%で数値上は悪く、ADAS-Cog13やADCS-ADL-MCIも偽薬群並みだった。

FDAが原則として薬効確認試験を二本実施することを求めているのは、一般的な有意性判定基準であるp=0.05では不十分と考えているからだ。偶然に0.05を下回る確率は5%、つまり20回に一回だが、二本の独立した試験の両方で5%を下回る確率は0.25%、400回に一回だ。裏返すと、成功した試験が一本でもp値が0.0025未満なら承認される可能性がある。

今回は二つの用量を同時にテストしたのだから閾値は0.05ではなく0.025だった可能性もあり、EMERGE試験のp=0.01は十分に低いとは言えない。ENGAGE試験がフェールしたのだから再現性がなく、母集団、即ち現実の医療でEMERGE試験と同じ結果が出るとは信じがたい。

但し、ENGAGE試験がフェールした理由を合理的に説明することができるようなら、そして一部の患者のデータを用いた感受性分析がEMERGE試験を裏付けるようなら、好意的に解釈する余地が生じる。バイオジェンはこれに期待している模様だ。

具体的には、この抗アミロイドベータ(3-6)抗体が効果を発揮するには一定期間以上に亘り毎月10mg/kgを投与する必要がある、という仮説だ。ENGAGE試験がフェールしたのは該当例が比較的少なかったことが原因とバイオジェンは判断している。

違いが生じた背景の説明は複雑で長い。発端は、高用量群に割付けられたApoE4陽性患者に関して二回の治療プロトコル変更が行われたこと。アルツハイマー病患者はApoE4陽性が少なくなく、本試験では全症例の3分の2まで組入れることが認められていた。当該患者に抗アミロイドベータ抗体を投与するとARIAと呼ばれる画像診断上の副作用(浮腫など)が発生しやすいため、上記のように用量を減らすプロトコルだったが、並行して進められたP1b試験でARIAが必ずしも症状を伴わないことや、滴定で減らせることが判明。治験開始の翌年に、ARIAで投与中断した患者でも再開できるようにプロトコルを変更し、その翌年の17年には、高用量群は6mg/kgではなく滴定で段階的に10mg/kgまで持っていくよう変更した。

奇妙なことに、ENGAGE試験の高用量群は10mg/kgの暴露がEMERGE試験より小さかった。治験開始は15年8月でEMERGEより一ヶ月早いだけ、実施施設も、どちらも米国、フランス、ドイツ、日本などとなっており、大きな違いがあるようには感じられないのだが、なぜか、差が生じた。

10mg/kgを10回以上投与した症例を対象とした感受性分析では、EMERGE試験(127例、ITTは547人)も、ENGAGE試験(97例、ITTは555人)もCDR-SBの推移を示すグラフが似たような格好になっている。尤も、78週時点での偽薬群との差を読み取るとEMERGEが1ポイント程度だがENGAGEは0.5ポイント程度と、やはり、ENGAGEのデータのほうが見劣りする(サンプル数が小さくどっちにせよデータの信頼性は低いのだろうが)。

また、二本の試験合わせて高用量群に約1100人を割付けておきながら、ちゃんとした治療ができたのは約220人、2割のみというのは、上記の事情があるとはいえ、エビデンスとして物足りない。検出力が不十分な試験でまあまあなp値が出たとしても信頼性は高くない。

BIIB037はスイスのNeurimmune社が認知機能正常な高齢健常者の検体から逆翻訳技術でスクリーニングした、凝集したアミロイドベータに選択的に結合する抗体。バイオジェンが07年に世界開発商業化権を取得、エーザイと共同開発している。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: バイオジェンのプレゼンテーション・スライド

降圧剤の服用は就寝前のほうが良い
(2019年10月22日発表)

降圧剤は高血圧症の心血管疾患リスクを削減することができるが、朝、起床後に服用するよりは就寝前のほうが効果が高いという前向き試験、Hygia Chronotherapy Trialの結果がEuropean Heart Journal誌に刊行された。スペイン北部のプライマリーケア施設40ヶ所で19,084人を組入れて、降圧剤(複数可)を就寝時に服用する群と起床時服用群に割付けてメジアン6.3年間追跡したものだが、差が大きいことに驚かされる。

主評価項目(心血管死、心筋梗塞、冠血行再建術、心不全、脳卒中の何れかの発生リスク)の修正ハザードレシオは0.55(95%信頼区間0.50-0.61)。個別では心血管死のハザードレシオが0.44、心筋梗塞0.66、冠血行再建術0.60、心不全0.58、脳卒中0.51で何れも95%上限が1を大きく下回っている。性別、年齢、心血管疾患歴などに基づくサブグループ分析でも大きな偏りはなさそうだ。文句の付けようがない。

降圧剤やコレステロール治療薬を一剤追加する効果が20-30%であることを考えれば、45%削減というのは凄い。泥酔時に服用を失念する可能性を除けば費用や行動制約は小さいので、もし真実なら就寝時服用を実践すべきである。他の地域でも同じなのか、臨床試験の実施が望まれる。

リンク: Hermidaらの治験論文(European Heart Journal、オープン・アクセス)


【新薬開発】


SGEN社、her2阻害剤を承認申請へ
(2019年10月21日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq;SGEN)は、選択的her2阻害剤tucatinibの承認申請用乳癌試験が成功したと発表した。20年第1四半期に米国で承認申請する予定。適応は、今月、承認申請が受理された第一三共/アストラゼネカのDS-8201(trastuzumab deruxtecan)とバッティングする。DS-8201の試験成績が判明した段階で改めて競争力を検討することになる。

このHER2CLIMB試験は、ロシュの三種類の抗her2抗体(trastuzumab、pertuzumab、ado-trastuzumab emtansine)による治療歴を持つ患者約480人を組入れて、capecitabineとtrastuzumabを併用する典型的なレジメンをベースに、tucatinibを追加する便益を偽薬追加群と比較した。

結果は、主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価に基づく)のハザードレシオが0.54、p<0.00001となり成功した。二次的評価項目の全生存期間のハザードレシオも0.66、p=0.0048。G3以上の有害事象は下痢や肝機能検査値異常が対照群より多かったが、ビリルビン上昇発現率は逆に低かった。有害事象による治験離脱は5.7%で偽薬群の3.0%より高かった。

昨年、Cascadian Therapeuticsを6.1億ドルで買収して入手したパイプライン。ado-trastuzumab emtansine併用の第三相試験も進行中。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

テセントリクの肝癌試験が成功
(2019年10月21日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相肝細胞腫Avastin併用試験が成功したと発表した。データは学会で発表する計画。欧米や中国(患者が多い)で適応拡大申請する予定。

このIMbrave150試験は、切除不能肝細胞腫で全身治療歴を持たない患者501人を組入れて、Tecentriq(1200mg)とAvastin(15/mg/kg)を三週毎に投与する群と標準療法(sorafenib)群の全生存期間やPFS(無進行生存期間、独立評価)を比較した。

肝細胞腫は抗PD-1/PD-L1抗体が比較的苦労している分野で、Opdivo(nivolumab)は米国で二次治療に承認されたがEUは申請撤回になり、一次治療の第三相はフェールした。Keytruda(pembrolizumab)も米国で二次治療に承認されたが薬効確認試験がフェールした。

モノセラピーの効果が十分には確立していないだけに、今回のような、抗VEGF抗体あるいはVEGF受容体阻害剤との併用が注目されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

オプジーボとヤーボイの肺癌化学療法併用試験が成功
(2019年10月22日発表)

ブリストル・マイヤーズ・スクイブは、非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を化学療法と併用した第三相試験が中間解析で成功したと発表した。全生存期間が化学療法だけの群を有意に上回った。データは学会発表するとともに、適応拡大申請する考え。

このCheckMate-9LA試験は、Opdivo(360mgを3週毎)とYervoy(1mg/kgを6週毎)を化学療法(最大2サイクル)と併用する効果を化学療法(最大4サイクル、適応になるなら維持療法可)と比較したもの。PD-L1発現は不問、扁平上皮腫もそれ以外も組入れた。

Opdivoは非小細胞性肺癌の一次治療試験が成功せず、抗PD-1抗体のベストセラーの地位をMSDのKeytruda(pembrolizumab)に奪われてしまった。Keytrudaは化学療法と三剤併用が承認されているが、Opdivoは四剤併用なので、メジアン生存期間が更に延びても不思議はない。逆転ホームランになるか、データ発表が注目される。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


Spectrum、顆粒球コロニー刺激因子を承認申請
(2019年10月24日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(NasdaqGS:SPPI)は、米国でRolontis(eflapegrastim)を承認申請した。2012年に韓国のHenmi PharmaceuticalからライセンスしたG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)で、PEGリンカーで免疫グロブリンG4の固定領域と結合することにより作用を長期化、通常のGCSFより少量で足りるようにした。

早期乳癌の化学療法に伴う好中球減少症を治療した第三相試験二本で、罹患期間がpegfilgrastim(Neulasta)と非劣性だった。

Neulastaはシミラーが登場し始めているので、Rolontisは価格を抑える必要がありそうだ。

リンク: Spectrum社のプレスリリース


【承認】


TesaroのPARP阻害剤がHRD陽性卵巣癌のサルベージに適応拡大
(2019年10月24日発表)

グラクソ・スミスクラインが今年初めに子会社化したTesaro社のPARP阻害剤、Zejula(niraparib)の適応拡大がFDAに承認された。17年に難治性白金感受性卵巣癌の白金レジメン奏功後維持療法として初承認されたが、今回、第二相のQUADRA単群試験に基づいて、HRD(相同組換え不全)卵巣癌の4次治療に用いることが承認された。

PARP阻害剤の適応は製品や適応によって微妙に異なり、BRCA変異でも生殖細胞系の変異と腫瘍細胞における変異があるように複雑だ。今回のミソはBRCA変異のある白金感受卵巣癌に限定されていないこと。具体的には、BRCA変異を持つ患者(白金薬感受/不応/抵抗は不問)に加えて、GIS(遺伝子不安定性スコア)が42以上で白金感受性の患者も適応になる。ORR(客観的反応率)はこれらの患者全体で24%、全て部分反応だった。メジアン反応持続期間は8.3ヶ月。腫瘍BRCA変異だけのORRは白金薬感受(18人)が39%、白金抵抗(16人)29%、白金難治(16人)は19%だった。

有害事象による減量・中断が73%の患者で発生した。骨髄抑制や胃腸系の副作用によるものが中心のようだ。

Zejulaは12年にMSDからライセンス。日本周辺の権利は武田薬品が17年に取得した。また、PARP阻害剤の新用途である前立腺癌に関する開発販売権はジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のヤンセン・バイオテックが16年に取得(日本は武田)、今月、FDAからBRCA1/2変異を持つ転移性去勢抵抗性前立腺癌で化学療法歴を持つ患者に関するブレークスルー・セラピー指定を受けた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSK米国法人のプレスリリース(10月23日付)

バーテックス、第4の嚢胞性線維症治療薬がスピード承認
(2019年10月21日発表)

バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)は、FDAがTrikaftaを嚢胞性線維症治療薬として承認したと発表した。審査期限は来年3月だったが申請後3ヶ月のスピード承認となった。欧州でも承認審査中。

CFTRのF508欠損がヘテロ接合型の患者を組入れた試験では平均ppFEV1が偽薬比13.8%改善した。ホモ接合型の試験では既存薬であるOrkambiと比べて10%改善した。肝機能検査値異常や3A4相互作用、白内障のリスクなどが警告されている。希少小児疾患用薬の開発に成功したためFDAから優先審査バウチャを取得した。

同社は1998年に嚢胞性線維症財団のCystic Fibrosis Foundation Therapeuticsと共同研究を開始。14年後の2012年に嚢胞性線維症の多くで見られるCFTR遺伝子変異を補うCFTRポテンシエイター、Kalydeco(ivacaftor)を発売した。この段階では適応になるのは片方又は両方の遺伝子にG551D変異を持つ米国で1200人程度に過ぎなかったが、その後も適応拡大や対象年齢引き下げを進めるとともに、15年にはivacaftorとCFTRコレクターのlumacaftorを組み合わせた合剤、Orkambiを発売、最も多いF5508欠損ホモ接合型も治療できるようになった。

更に、18年に新規CFTRコレクターであるtezacaftorとivacaftorを組み合わせたOrkambiを発売、F508欠損ヘテロ接合型の一部をカバーできるようになった。

第4弾のTrikaftaは、Orkambiの二剤に新開発のCFTRコレクターのelexacaftorを追加したもの。適応はCFTRのF508欠損のホモまたはヘテロ接合を持つ12歳以上の患者。FDAによると米国の嚢胞性線維症患者の90%に当たる27000人が対象になる。バーテックスは異なる数字を示しており、米国の対象患者数が上記三剤の12000人が18000人に増加する由。

各国で承認が進めば世界の対象患者数が44000人から68000人に増加する見込み。現段階では、残りの7000人は遺伝子編集のような異なったアプローチを探索していく考えだ。

報道によると、Trikaftaの卸取得価格は31.1万ドルと、Orkambiの27.2万ドル、Symdekoの29.2万ドルをやや上回る程度に設定される。F508欠損ホモ接合など適応が重なるため、患者が望めばTrikaftaにスイッチできるよう配慮したのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: バーテックスのプレスリリース

ステラーラが潰瘍性大腸炎に適応拡大
(2019年10月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Stelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。IL-12やIL-23のp40サブユニットに結合する完全ヒト化抗体で、09年に中重度慢性プラク乾癬治療薬として欧米で承認された。適応拡大は乾癬性関節炎に加えて中重度活性期クローン病に展開。日本でも17年にクローン病治療薬として新発売した。

潰瘍性大腸炎における治療効果は、6mg/kgを点滴静注による導入療法で8週後に寛解率が19%となり、90mgを8週毎に皮注する維持療法で45%が1年後も寛解を維持していた。

この用途は欧州では9月に承認、日本でも審査中。

リンク: JNJのプレスリリース





今週は以上です。

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