2019年7月15日

2019年7月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ヴィーブ、HIV/AIDS二剤合剤のスイッチ試験が成功 
  • lumateperoneの双極障害鬱治療試験は一勝一敗 
  • ノバルティスら、BACE1阻害剤のAD予防試験を中止 
  • 汎用インフルエンザ・ワクチンの第三相試験、今年の組入れを開始 
  • COMT阻害剤が米国でも承認申請 
  • Horizon社、甲状腺眼症治療薬を承認申請 
  • サノフィ、抗CD38抗体を米国でも承認申請 
  • JNJはダルザレックス皮注用を承認申請 
  • MSD、キイトルーダの6週毎投与を追加申請 


【新薬開発】


ヴィーブ、HIV/AIDS二剤合剤のスイッチ試験が成功
(2019年7月10日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーブヘルスケアは、Dovatoの第三相TANGO試験が成功したと発表した。ギリアドのVemlidy(tenofovir alafenamide fumarate、和名ベムリディ)を含む三剤併用レジメンでウイルス抑制に成功している患者がスイッチしても再燃したり抵抗性ウイルスが出現したりするリスクは小さいことを明らかにした。データは今月のIAS学会で発表される予定。

Dovatoは塩野義が創製したインテグラーゼ阻害剤dolutegravirと代表的な非核酸系逆転写阻害剤(NNRTI)であるlamivudineの固定用量合剤。初めて抗ウイルス治療を受けるHIV患者に使う薬として19年に欧米で承認された。今回の試験成功により、対象患者拡大申請の道が開けた。

HIV/AIDS治療薬は三種類以上のを併用するのが定番だが、Dovatoはこの一錠を一日一回服用するだけで足りるのが画期的。尤も、選ばられた医療施設の選ばれた医師が、選りすぐられた患者を密接に治療する臨床試験の成績はベストケースシナリオで、現実の医療では効果が低下し副作用は増加すると覚悟しなければならない。例えば、アドヒアランスの悪い患者でも効果が非劣性なのか、知りたいものだ。

リンク: ヴィーブのプレスリリース

lumateperoneの双極障害鬱治療試験は一勝一敗
(2019年7月8日発表)

Intra-Cellular Therapies (Nasdaq:ITCI)は、ITI-007(lumateperone tosylate)の第三相双極障害鬱症状治療試験が一勝一敗となったことを明らかにした。42mgを一日一回経口投与した試験はMADRS総合スコアが16.7ポイント改善し、偽薬群(12.1ポイント)と4.6ポイントの有意な差があった。一方、偽薬、28mg、42mgの三群を設定した試験では、各19.7、18.9、20.7ポイント改善し、どちらの用量も偽薬と有意差がなかった。

第三相はもう一本、リチウムやvalproateを用いている患者に追加する試験が進行中で2020年に開票の予定。精神疾患の薬は偽薬効果が大きく出がちであるため、第三相は3本以上実施して2本以上の成功を目指すのが一般的。lumateperoneは統合失調症治療薬として米国で承認審査中で、今月末に諮問委員会、9月27日が審査期限となっているが、この用途でも第三相は一勝一敗だった。敗因も今回と同じで、偽薬群の成績がもう一本と比べて大変良かった。

リンク: Intra-Cellularのプレスリリース

ノバルティスら、BACE1阻害剤のAD予防試験を中止
(2019年7月11日発表)

ノバルティス、アムジェン、そしてBanner Alzheimer's Instituteは、CNP520(umibecestat)の第2/3相アルツハイマー病予防試験を中止すると発表した。加齢性アルツハイマー病のリスク因子であるApoE4遺伝子を持つ、認知機能は正常な患者を組入れて15年に一本、17年にもう一本、開始したが、中間解析で幾つかの指標で認知機能の悪化が示されたため、中止を決定した。

BACE阻害剤などアミロイド・ベータを標的とする薬の第三相アルツハイマー病治療試験は壊滅状態だ。製薬会社や研究者は、うちのコンパウンドは選択性が高い、脳血管関門を通過する、アミロイドベータが大きく減った、だから大丈夫だとばかりに臨床開発を続け、完敗した後は、発症した後では遅い、発症前に介入すべきと主張、多くの予防試験を立ち上げた。

BACE阻害剤の治療試験では認知機能の悪化がしばしば見られたが、今回、予防試験でも同じ轍に嵌る懸念が浮上した。暗闇の中で行進する時は、前を行く人が落とし穴に落ちたのに気付かずに続々転落するリスクがある。製薬会社は治療試験の経験から学ばず予防試験でも同じ失敗を繰り返すのだろうか?

フェールしたプロジェクトの研究開発費は、上市に漕ぎ着けた新薬の価格に上乗せされるのだから、一般人にも、熟考を促す権利があるはずだ。

リンク: 三者のプレスリリース

汎用インフルエンザ・ワクチンの第三相試験、今年の組入れを開始
(2019年7月8日発表)

イスラエルのBiondVax Pharmaceuticals(Nasdaq:BVXV)はM-001の第三相インフルエンザ予防試験を行っている。東欧の施設で50歳以上の患者12000人を組入れてインフルエンザ予防効果を偽ワクチンと比較するもので、第一コホートとして昨年8-10月に4000人余を組入れた。発症状況を2年間追跡する。今年は7月開始なので更に早く組入れを開始、1年間追跡する。20年後半に結果が判明する予定。

M-001はイスラエルのワイツマン科学研究所の技術を用いて、インフルエンザのユニバーサルワクチンとして創製された。ウイルス蛋白のM1、NP、HAのよく保存されているエピトープ九つを一つに融合した蛋白を大腸菌培養する。液性免疫と細胞性免疫を誘導する由。

CDC(米国疾病予防管理センター)によると季節性インフルエンザ・ワクチンのワクチン効率は平均40%で、流行型の予測がうまくいかなかった04/05年、05/06年、14/15年シーズンは10~21%だった。感染・発症が1割しか減らなかったというのは、もしこれが第三相試験の成績だったとすれば販売承認を取れないかもしれないほど、低い。M-001がもし万能でなかったとしても、平均値やレンジ下限を上げることができるならば、意義がある。

また、通常のワクチンと異なり21日置いて二回筋注する必要があるが、第三相のデザインを見てもわかるように、会社側は効果が通常より長く持続し、もしかしたら、2年間持続するかもしれないと期待している。実現すれば、生産、流通、接種における一時集中を緩和することができる点でもメリットがありそうだ。

ユニバーサル・ワクチンは他にも開発プロジェクトが進行しており、2020年代には実用化されるかもしれない。しかし、既存のワクチンは価格競争力が著しく高いため、新製品が普及するのはハードルが高そうだ。

リンク: BiondVaxのプレスリリース


【承認申請】


COMT阻害剤が米国でも承認申請
(2019年7月10日発表)

Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)は、opicaponeをパーキンソン病治療薬として米国で承認申請し、受理された。審査期限は来年4月26日。レボドパ系の薬だけでは十分に管理できずウェアリング・オフ(薬の効果が切れる)が生じている患者に、一日一回、経口で、追加投与する。

NeurocrineはポルトガルのBial-Portela社から北米の開発販売権を取得した末梢選択的可逆的COMT阻害剤。レボドパの副代謝経路に介入し、生物学的利用率を向上する。欧州では16年に承認。日本は小野薬品がライセンスして今年2月に承認申請した。

第三相試験ではウェアリング・オフ・タイム削減効果が既存のCOMT阻害剤であるentacaponeと非劣性だった。GE化した薬と同じではパッとしない。一日一回で済む点がどれだけアピールするかが鍵だろう。

リンク: NBIXのプレスリリース

Horizon社、甲状腺眼症治療薬を承認申請
(2019年7月10日発表)

ダブリン籍の新興製薬会社、Horizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)は、HZN-001(teprotumumab)を活動期甲状腺眼症治療薬として米国で承認申請した。甲状腺眼症は自己免疫疾患で眼球の膨張・突出や斜視、複視を伴う。米国で年15,000-20,000人が罹患。活動期の軌道線維芽細胞ではインスリン様成長因子I受容体(IGF-1R)の過剰発現が見られる。

teprotumumabはロシュからライセンスした抗IGF-1R完全ヒト化抗体。この用途でブレークスルー・セラピー指定、希少疾患用薬指定、ファースト・トラック指定を受けている。三週毎点滴静注した第三相試験では、奏効率(眼球突出が2mm以上減少)が83%と偽薬群の10%を有意に上回った。有害事象は筋痙攣や脱毛症など。治療関連有害事象は糖尿病患者における高血糖。過去に実施された抗IGF-1R抗体の癌治療試験と同じだ。ドロップアウト率は5%未満で群間の偏りはなかった由。

リンク: Horizon社のプレスリリース

サノフィ、抗CD38抗体を米国でも承認申請
(2019年7月10日発表)

サノフィは、SAR650984(isatuximab)を再発難治多発骨髄腫の三次治療薬として米国で承認申請し受理された。審査期限は来年4月30日。欧州では第2四半期(4-6月)に承認申請が受理された由。

ジョンソン・エンド・ジョンソンがジェンマブからライセンスして15年に米国で、16年に欧州で、17年には日本でも販売承認を取得したDarzalex(daratumumab、和名ダルザレックス)と同様にCD38を標的とするが、完全ヒト化ではなくヒト化技術による抗体。Immunogen(Nasdaq:IMGN)との広範な共同開発プロジェクトを経てライセンスしたもの。

第三相試験では、pomalidomideとdexamethasoneを併用する標準的療法に追加したところ、PFS(無進行生存期間、中央評価委員会が判定)がメジアン11.5ヶ月と標準的療法群の6.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.60、p=0.001だった。有害事象による治験離脱や死亡の発生率は標準的療法群より小さかった。点滴反応の発生率はDarzalexより低そうで、そのせいか、点滴時間も短くなっている。

リンク: サノフィのプレスリリース(GlobeNewswire)

JNJはダルザレックス皮注用を承認申請 
(2019年7月12日発表)

そのジョンソン・エンド・ジョンソンは、(daratumumab、和名ダルザレックス)の皮注用製剤をFDAに承認申請した。ハロザイム・セラピューティクス(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼを一緒に投与して吸収を高めるもので、再発難治多発骨髄腫試験でORR(総合反応率)や血中濃度が既存の点滴静注用製剤と非劣性だった。

既存製剤は3~7時間かけて点滴するが、皮注用は3~5分で足りる。過敏反応リスクがあるので患者が直ぐに帰れるわけではないだろうし、当初は在宅自己注はできないかもしれないが、医療施設の患者滞留時間を短縮できるだろう。

リンク: JNJのプレスリリース

MSD、キイトルーダの6週毎投与を追加申請
(2019年7月9日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の用法追加申請をFDAに行い受理された。審査期限は来年2月18日。200mgを3週毎に30分点滴静注という現在の投与スケジュールに加えて、400mgを6週毎に30分点滴静注する用法を追加するもの。Keytrudaは多くの腫瘍に承認されているが、新用法の対象は悪性黒色腫、古典的ホジキンリンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、胃癌、肝細胞腫、メルケル細胞腫だけ。肺癌や頭頚部癌、尿路上皮癌、子宮頸癌、腎細胞腫、高頻度マイクロサテライト不安定性固形癌は含まれていない。

リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

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