2019年7月7日

2019年7月7日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、欧米の小児インフルエンザ試験で主目的達成 
  • プーマ、Nerlynxの適応拡大を申請 
  • アルナイラム、急性肝性ポルフィリン症用薬を欧州でも承認申請 
  • 多発骨髄腫のサルベージ療法薬が承認 


【新薬開発】


ロシュ、欧米の小児インフルエンザ試験で主目的達成
(2019年7月3日発表)

ロシュはインフルエンザ治療薬Xofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)の幼小児における安全性などを検討した第三相MINISTONE-2試験で主目的を達成したと発表した。忍容性は20年の使用歴を持つTamiflu(oseltamivir)と同程度、罹病期間も同程度であった由。具体的なデータは今後、学会発表の予定。

Xofluzaは塩野義製薬が創製したCap依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤。インフルエンザウイルスが宿主細胞で自分のmRNAを合成するのを妨げる画期的な作用機序を持っており、18年に日米で承認された。日本は対象年齢を限定しておらず、12歳未満で体重が10kg以上の患者の用量が添付文書に明記されているが、米国は持病のない12歳以上の患者に限定した。持病の有無で区別するのはFDAの従来からのスタンスだ。喘息症や糖尿病、心不全などを患う患者は高リスクなので、罹病期間が短縮する効能だけでは足りず、合併症リスクが低下することを臨床試験で確認すべきという考えなのだろう。

12歳未満を適応外としたのは、日本で行われた12歳未満を対象とした第三相試験で77人中18人に耐性ウイルスが認められたことがネックになったのではないか。12歳以上の第三相では370人中36人となっており、検出率がかなり異なっている。用量決定フォーミュラ(体重に応じて3段階)が不適切なのか、小児は薬物動態の個人差が大きいのか、あるいは、症例数が少なすぎて真の値から大きく乖離してしまったのか?

日本では市販後にも耐性ウイルスの検出が報告されている。サンプル数が少ないことを考慮しても、Xofluzaは検出率が高いように感じられる。

尤も、耐性ウイルス問題は簡単に結論を出すことはできない。インフルエンザは治療しなくても治る可能性が高いので、高リスク患者でなければ、効きが多少低くても何日かしたら軽快する。また、変異ウイルスは増殖・感染能力が低いこともしばしばある。答えが必要なのは、耐性ウイルス感染者とそれ以外で罹病期間がどの程度異なるのか、感染力はどの程度か、耐性ウイルスが年々増えていってamantadineのように効かないウイルスばかりになる可能性があるかどうか、だ。

ロシュの第三相も180人程度の規模なので答えは出ないだろう。取り敢えず、耐性ウイルス検出率が日本試験と同様に高いかどうかが注目される。罹病期間がTamiflu群と同程度だったことは取り敢えずポジティブだが、信頼区間などのデータも見たい。この試験は1歳から組入れた。錠剤・顆粒ではなく新開発の経口懸濁液を用いた模様。用量決定方式や薬物動態が同じなのかどうかも要注目だ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


プーマ、Nerlynxの適応拡大を申請
(2019年7月1日発表)

Puma Biotechnology(Nasdaq:PBYI)は、米国でNerlynx(neratinib)の適応拡大申請を行った。17~18年に欧米でher2陽性早期乳癌の術後アジュバント療法を終えた後に更に1年間投与する用法で承認された汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤で、ワイス買収を通じて入手したファイザーが開発を断念してライセンスアウトしたもの。今回の適応拡大は、her2陽性転移性乳癌の三次治療としてcapecitabineと併用するもの。

第三相のNALA試験では、capecitabineとTykerbを併用する既承認レジメンとPFS(無進行生存期間、中央査読)を比較したところ、ハザードレシオは0.76、p=0.0059だった。但し、比例ハザードモデルの前提が満たされなかったため、事前に計画されていた代替的解析手法を採用したとのことだ。もう一つの主評価項目である全生存期間はハザードレシオが0.88、p=0.21とフェールした。

なぜ前提が満たされなかったのか不明だが、よくあるのは、当初期間は試験薬群のほうが悪いがその後逆転するパターンだ。もしこのパターンだった場合は、深刻な副作用が原因でないかどうか、吟味する必要があるだろう。NerlynxとTykerbは作用機序も副作用プロファイルも似ているので考えにくいが...

リンク: プーマのプレスリリース

アルナイラム、急性肝性ポルフィリン症用薬を承認申請
(2019年7月1日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、EUにALN-AS1(givosiran)を急性肝性ポルフィリン症(AHP)用薬として承認申請した。加速審査を受ける。米国でも6月にローリング承認申請を完了した。米国でブレイクスルー・セラピー指定、EUでもPRIME指定を受けている。

ポルフィリン症はヘム合成回路の酵素に機能喪失・低下変異があり、ポルフェリンが代謝されずに蓄積、臓器や神経に障害を与える。米国の患者数は2万人以下で、AHPが最も多い。ヘミンやグルコースの注射で治療し発作を予防する。

givosiranはポルフェリンの前駆体であるアミノレブリン酸を合成する酵素(ALAS1)の遺伝子を沈黙させるsiRNA薬。94人を組入れた臨床試験で、ポルフィリン発作(入院、緊急医療受診、またはヘミン投与)が偽薬比有意に小さかった。但し、疼痛や疲労、悪心などの症状を改善する効果は見られず、また、20%の患者で深刻有害事象が発生した(偽薬群は9%)。

リンク: アルナイラムのプレスリリース


【承認】


多発骨髄腫のサルベージ療法薬が承認
(2019年7月3日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)を難治多発骨髄腫の5次治療薬として加速承認した。二種類以上のプロテアソーム阻害剤と二種類以上の免疫調停剤(thalidomideのような薬)そして抗CD38抗体(daratumumab)の全てに抵抗性を持つ患者にdexamethasoneと併用する。週二回経口投与。後期第二相試験では総合反応率が25.3%、反応持続期間の中央値は3.8ヶ月だった。有害事象は骨髄抑制など。

この試験の難点は、対照群が設定されていないため本当にselinexorが必要なのか明確でないこと。忍容性面では治療時発現深刻有害事象の発生率が60%、治療時発現致死的有害事象発生率も8%と、良好とは言い難いこともあり、今年2月の腫瘍学薬諮問委員会では、進行中の第三相二次治療試験の結果が出るまで承認を待つべきとする委員が8人対5人で上回った。それだけに、すんなり承認されたのは意外。Karyopharmが追加データを提出して審査期間が延長された経緯があるので、これが影響したのかもしれない。

selinexorは核外輸送蛋白XPO1(exportin 1)に結合して、腫瘍抑制蛋白が細胞核から排出されるのを妨げる。17年に小野薬品が日本や一部アジアでの腫瘍学における権利を取得した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Karyopharmのプレスリリース





今週は以上です。

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