【ニュース・ヘッドライン】
- MSD、キイトルーダの胃癌一次試験は最悪の結果を回避
- イーライリリー、トルツのnr-axSpA試験成功
- JNJのSGLT2阻害剤が糖尿病性腎症の悪化を抑制
- ギリアド、ASK1阻害剤の二本目の第三相NASH試験もフェール
- テバの抗CGRP抗体は群発頭痛試験がフェール
- Alder、点滴静注用抗CGRP抗体のBLAが受理
- CHMP、血液凝固障害用薬などの承認に肯定的意見
- アッヴィのスキリージが米国でも承認
- Portola、Xa阻害剤の解毒剤がEUでも承認
【新薬開発】
MSD、キイトルーダの胃癌一次試験は最悪の結果を回避
(2019年4月25日発表)
MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の胃癌一次治療における延命効果を標準療法と比較した第三相試験、KEYNOTE-062試験の結果を発表した。モノセラピーは非劣性検定成功、標準療法併用は標準療法と有意差なしという、諸手を挙げて喜ぶことはできない内容だった。過去の試験も成否は区々で、この癌の難しさが窺われる。
Keytrudaは米国ではPD-L1陽性胃がんの三次治療に承認されているが、第二相試験の反応率データに基づく加速承認なので、市販後薬効確認試験がフェールしたら承認取消の可能性がある。二次治療試験は一勝一敗だったが、今回の一次治療試験成功で、最悪の事態を免れる可能性が出てきたのではないか。
この試験は、PD-L1陽性(CPSが1以上)の進行胃・胃食道接合部腺腫で一次治療を受ける患者をモノセラピー群、標準療法(5-FUまたはcapecitabineをcisplatinと併用)併用群、標準療法群に無作為化割付して全生存期間を比較したもの。標準療法併用はCPSが10以上のサブグループの全生存期間や、全ユニバースのPFS(無進行生存期間)も検討した。データは6月のASCO米国臨床腫瘍学会で発表される見込み。
『海外医薬ニュース』は海外の話なのでデータを日本人に外挿できるかどうかは無視している。しかし、胃癌は日韓と欧米で予後が大きく異なることがままあるので一言付け加えておくべきだろう。Keytrudaも日本の試験、あるいはグローバル試験の日本人サブグループの成績を見てみたいものだ。
リンク: MSDのプレスリリース
イーライリリー、トルツのnr-axSpA試験成功
(2019年4月22日発表)
イーライリリーは、抗IL-17Aヒト化抗体Taltz(ixekizumab、和名トルツ)の第三相X線陰性体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)試験が成功したと発表した。米国で適応拡大申請する考え。順調に承認されれば、先に発売されたノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)にこの用途では先んじることができる。
axSpAは仙骨関節炎などを伴う疾患で、世界で450万人が罹患と推測されている。X線陽性のr-axSpAは従来は強直性脊椎炎(AS)と呼ばれていたが、症状が類似しているのにX線画像に異常が見つからない疾患もあるため、両者合わせてaxSpAとして扱うことになった。
今年3月にUCBのCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)が米国で初めて、nr-axSpAの適応を取得した。今後、AS治療薬として承認されている他の新薬も適応拡大が進むだろう。
今回の第三相はnr-axSpAでバイオ薬未経験の患者を組入れて16週時点と52週時点のASAS40奏効率を偽薬と比較したところ、どちらも有意に改善した。ASDASなどの副次的評価項目もすべて成功した。数値は未公表。
リンク: イーライリリーのプレスリリース
JNJのSGLT2阻害剤が糖尿病性腎症の悪化を抑制
(2019年4月22日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、SGLT2阻害剤Invokana(canagliflozin、日本はオリジンの田辺三菱製薬がカナグル名で販売)の糖尿病性腎症アウトカム試験の結果を世界腎臓学会議(ISN 2019 WCN)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。中間解析で主目的を達成したことは昨年7月に発表済みで、今年3月に米国で効能追加申請済みい。
このCREDENCE試験は二型糖尿病で慢性腎疾患(ステージ2または3)とマクロアルブミン尿を合併する4401人を偽薬群とInvokana群に無作為化割付して転帰を観察した。全員がACE阻害剤あるいはARBによる標準療法を受けた。
主評価項目の腎合併症(末期腎不全、血清クレアチニン倍化、または腎・心疾患による死亡)リスクは偽薬比30%小さかった。副次的評価項目では心血管疾患死・心不全入院が偽薬比31%、MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)が20%、小さかった。
Invokanaは心血管アウトカム試験CANVASで下肢切断や骨損壊が有意に増加したことが懸念材料だ。他のSGLT2阻害剤では下肢切断の増加は見られないので、効能が同じなら他のSGLT2阻害剤のほうが安心ということになる。
興味深いのは、今回の試験では下肢切断も骨損壊も群間の偏りはなかった由。組入れも追跡期間もCANVASの半分程度なので検出力が十分でなかったのか、それとも、CANVASがノイズの影響を受けたのか。長期試験が複数実施されたのでメタアナリシスを実施・公表してほしいものだ。
リンク: JNJのプレスリリース
リンク: Perkovicらの治験論文抄録(NEJM)
ギリアド、ASK1阻害剤の二本目の第三相NASH試験もフェール
(2019年4月25日発表)
ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-4997(selonsertib)の第三相非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)治療試験がフェールしたと発表した。偽薬、6mg、または18mgを一日一回、48週間に亘り経口投与して、架橋性線維化が改善しNASHは悪化しなかった患者の比率を比較したところ、各群13.2%、12.1%、9.3%となり、数値上はむしろ有害だった。
GS-4997は酸化ストレス下で肝臓の炎症、線維化、アポトーシスを促進するASK-1(アポトーシス・シグナル制御キナーゼ1)の阻害薬。2月には代償性肝硬変を合併したNASHを組入れた第三相のフェールが発表されている。
ギリアドはHIV/AIDSやC型肝炎の新薬が大ヒットしたが、成功が大きければ大きいほどパテントクリフが深刻になるのが新薬開発会社の宿命で、2000年代にファイザーのCEOとして多くの大型企業買収を行ったHenry McKinnellは、LipitorのGE化リスクをVictim of Past Successと呼んでいた。
ギリアドは近年はNASHやCAR-Tなど抗腫瘍薬の開発・導入・企業買収を活発化しており、NASH領域ではGS-4997を含む複数のメカニズムの異なる薬の併用法も検討している。先般は、ノボ ノルディスクの経口GLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)と三剤併用POC試験を行う提携を結んだ。単剤で上手く行かないなら併用を考えるのは自然の成り行きで、NASHでも単剤では足りないと考えるのが主流になりつつあるようだ。今回のフェールは失望的だが、試行錯誤は続くだろう。
リンク: ギリアドのプレスリリース
テバの抗CGRP抗体は群発頭痛試験がフェール
(2019年月日発表)
テバ・ファーマシューティカル(NYSE/TASE:TEVA)は、Ajovy(fremanezumab-vfrm)の第三相反復性群発頭痛試験を打ち切ると発表した。中間解析で無益性認定されたため。昨年6月には慢性群発頭痛も無益中止になった。
Ajovyは、ジェネンテックからスピンアウトした中枢神経系領域部門、Rinat NeuroscienceがRN-307として開発していた抗CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)抗体。Rinatを買収したファイザーが導出、その先の会社を14年にテバが2億ドル及び後発債務6.25億ドルで買収、18年9月に米国で片頭痛予防薬として承認取得、という経緯を持つ。日本は大塚製薬が導入。
抗CGRP抗体は開発競争が激しく、イーライリリーのEmgality(galcanezumab-gnlm)も18年9月に米国承認。Alder BioPharmaceuticals(Nasdaq:ALDR)が2月にALD403をBLA(後述)。抗CGRP受容体抗体もアムジェン/ノバルティスのAimovig(erenumab-aooe)が昨年5月に米国承認、7月にはEUでも承認。
何れも適応は片頭痛予防で、群発頭痛はEmgalityが反復性群発頭痛試験は成功したものの、慢性群発頭痛試験はフェール。販売承認を得る上では一つでも成功すれば大きな違いであり、慢性患者は群発頭痛の1-2割なのでフェールしても傷は浅いが、Ajovyの結果と合わせて考えると、抗CGRP抗体は効くのか、効かないのか、判然としない。両剤の臨床試験のデザインや患者背景、治療効果の多寡などを比較検討してもらいたいものだ。
リンク: テバのプレスリリース
【承認申請】
Alder、点滴静注用抗CGRP抗体のBLAが受理
(2019年4月22日発表)
Alder BioPharmaceuticals(Nasdaq:ALDR)は、ALD403(eptinezumab)の生物学的製剤販売許可申請(BLA)がFDAに受理されたと発表した。抗CGRPヒト化抗体で、反復性や慢性の片頭痛の片頭痛発作予防に用いる。イーライリリーやアムジェンの抗CGRP/CGRP受容体抗体が皮注用であるのに対して点滴静注であることが特徴。12週に一回投与する。テバに特許侵害で提訴されたが、昨年、和解してIP実施権を取得した。
リンク: Alderのプレスリリース
【承認審査・委員会】
CHMP、血液凝固障害用薬などの承認に肯定的意見
(2019年4月26日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、4月の会合で、血液凝固障害の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
新薬では、まず、Doptelet(avatrombopag)はC-Mpl(スロンボポイエチン受容体)アゴニスト。観血的手術を受ける重度血小板減少症の患者に経口投与して、術前・術後の血小板輸血を減らす。米国では昨年5月に承認された。
類薬が多いせいか、開発主体は変遷した。2005年に山之内製薬が藤沢薬品と合併した時に山之内アメリカからスピンアウトしたAkaRxが権利を承継して開発。AkaRxは2010年にMGIの子会社となり、その後、MGIを買収したエーザイが16年3月にAkaRxをPBMキャピタルグループに売却、Dova Pharmaceuticals(Nasdaq:DOVA)の子会社となった。
リンク: EMAのプレスリリース
ノボ ノルディスクのEsperoct(turoctocog alfa pegol)はPEG化遺伝子組換え型第VIII因子。A型血友病の出血予防・治療に用いる。NovoEightをPEG化して、頻繁に出血する患者がルーチン予防目的で使う時の投与頻度を若干減らした。米国では2月に承認されたが、関連IPを持つ第三者との合意に基づき、2020年まで発売を見送っている。
リンク: EMAのプレスリリース
アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のUltomiris(ravulizumab)は長期作用性C5補体阻害剤。 PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の治療に用いる。同社のヒット製品であるSoliris(eculizumab)と比べて半減期が長く、同じ点滴静注用薬だが三回目からは8週毎とSoliris(2週毎)より低頻度で済む。米国では昨年12月に承認。
リンク: EMAのプレスリリース
ヴィーヴヘルスケア(GSK、塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS合弁)のDovatoは、インテグラーゼ阻害剤dolutegravirと核酸系逆転写阻害剤lamivudineの固定用量合剤。どちらの活性成分にも抵抗性を持たないHIV/AIDS患者の初度治療に用いる。二種類の活性成分だけで完結するレジメンは初。米国でも4月に承認された。
リンク: ヴィーヴのプレスリリース
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のLibtayo(cemiplimab)は抗PD-1抗体。局所進行性・転移性の皮膚扁平上皮癌で根治的な手術や放射線療法の候補にならない患者向けに条件付き承認することが支持された。米国では昨年9月に承認。サノフィとの開発販売提携の対象品目。
リンク: EMAのプレスリリース
ファイザーのTalzenna(talazoparib)はPARP阻害剤。BRCA1/2の遺伝子に生殖細胞系変異を持つher2陰性の転移性/局所進行性乳癌で、アンスラサイクリンやタクサン、内分泌療法の治療歴を持つあるいは不適である患者が適応になる。
BioMarinから有形無形固定資産を買収したメディベーションをファイザーが買収して入手したもの。
リンク: EMAのプレスリリース
適応拡大では、これもPARP阻害剤であるアストラゼネカのLynparza(olaparib)を、卵巣癌の一次治療維持療法に用いることが支持された。生殖細胞系/体細胞系のBRCA1/2変異を持つ進行性卵巣癌で プラチナ薬ベースの一次治療に完全反応または部分反応した患者の地固め療法に用いる。LynparzaはMSDとの共同開発販売提携の対象。Avastin併用試験中。
リンク: EMAのプレスリリース
最後に、CHMPはイーライリリーの Lartruvo(olaratumab)の条件付き承認を取り消すよう勧告した。抗PDGFRアルファ完全ヒト化抗体で、第二相試験のデータに基づき、根治的手術や放射線療法に適さない進行軟組織肉腫にdoxorubicinと併用することが16年に欧米で条件付き承認/加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールした。
具体的には、メジアン生存期間が20.4ヶ月とdoxorubicinと偽薬の群の19.8ヶ月と大差なく、ハザードレシオは1.05と数値上は若干悪かった。PFS(無進行生存期間)の解析も、平滑筋肉腫だけの全生存期間解析も、フェールした。
条件付き承認も加速承認も、薬効や安全性が十分に確立するのを待たずに前倒し承認する制度だ。人類の英知は限られているので効くはずが効かなかった例は枚挙に暇がなく、自分の判断や直感は過たないと思っているのは傲慢で未熟な人だけである。大事なのは間違いを間違いと認めて正すこと、そして、そのための道筋をあらかじめ用意しておくことだ。患者が欲しているの新しい薬ではなく、自分に有効で副作用がそこそこな薬なのだから、迅速承認や再生医療等製品制度を作るだけでは足りず、爾後にきちんと検証して患者の信頼に応えなければならない。
リンク: EMAのプレスリリース
【承認】
アッヴィのスキリージが米国でも承認
(2019年4月23日発表)
アッヴィは、FDAがSkyrizi(risankizumab-rzaa、和名スキリージ)を中重度乾癬の治療薬として承認したと発表した。全身性治療または光線療法の候補となる成人に皮注する。二回目は4週後だがその後は12週毎と投与頻度がJNJの抗IL-23p19抗体Tremfya(guselkumab)の8週毎より頻度が低い。臨床試験では16週時点(3回目の投与の前)のPASI90奏効率が75%、応答者の88%は1年後も効果を維持していた。
抗IL-23p19ヒト化抗体で、抗原提示細胞が発現するサイトカインに結合してT細胞がTh17細胞に分化するのを抑制する。16年にベーリンガー・インゲルハイム(BI)から共同開発商業化権を取得したもので、アッヴィが販売する。抗TNFアルファ抗体、Humira(adalimumab)の乾癬治療における存在感を活用する狙いだろう。喘息症用途ではBIがコプロモーションの計画。
アッヴィの過去のプレスリリースによると、PASI90がHumiraやJNJの抗IL-12/23p40抗体Stelara(ustekinumab)より有意に大きかったはずだが、レーベルには記載されていない。強力な販促材料になりうるデータだけに、やや失望的。
リンク: アッヴィのプレスリリース
Portola、Xa阻害剤の解毒剤がEUでも承認
(2019年4月26日発表)
Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、Ondexxya(andexanet alfa、米名AndexXa)がEUで条件付き承認されたと発表した。Xa阻害剤のEliquis(apixaban)またはXarelto(rivaroxaban)を服用している患者が大出血したり緊急手術を受ける時に、抗血栓作用を解毒するために点滴静注する。
米国では昨年5月に承認。欧米共に承認まで2年以上かかったのは、Portolaが健常人の凝固検査値の変化を薬効評価方法としたため。Xa阻害剤服用中に出血した患者を組入れた試験のデータを追加提出するまで承認されなかった。
米国と同様に市販後薬効確認試験の実施が義務付けられた。Xa阻害剤服用中に頭蓋内出血を発症した患者を組入れて、治療12時間後の臨床的評価とCT/MRI造影評価を偽薬群と比較する。
リンク: Portolaのプレスリリース
今週は以上です。
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