【ニュース・ヘッドライン】
- EASL:急性肝性ポルフィリン症治療薬の第三相データ発表
- Zogenix、ドラベ症候群治療薬の承認申請は受理されず
- FDA、FGFR阻害剤を膀胱癌用薬として承認
- イベニティが米国でも承認
- FDA、HIV/AIDSの二剤併用療法薬を承認
- FDA、Addyiのレーベル変更を製薬会社に命令
【新薬開発】
EASL:急性肝性ポルフィリン症治療薬の第三相データ発表
(2019年4月12日発表)
RNA介入薬のスペシャリスト、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、3月にALN-AS1(givosiran)の第三相急性肝ポルフィリン症(AHP)試験の成功を公表したが、治療効果など詳細がEASL(欧州肝臓学会)で発表された。
AHPはヘム合成回路に係る複数の酵素の一つに機能喪失・低下変異があり、ポルフィリンが蓄積して臓器や神経に障害を与える。患者数は米国で2万人以下の希少疾患。急性間欠性ポルフィリン症と呼ばれるサブタイプが最も多い。
ALN-AS1はALAS1(アミノレブリン酸合成酵素1)の発現を沈黙させるsiRNA薬で、ポルフィリンの前駆体でGABAと競合して神経毒性を招くALA(アミノレブリン酸)や、PBG(ポルホビリノゲン)の合成を抑制する。欧米で希少疾患用薬指定と画期的治療薬指定を受けている。
第三相試験は日本を含む18ヶ国の医療施設で94人の患者を偽薬群と2.5mg/kg群に無作為化割付して月一回皮注による治療効果を半年間観察した。主評価項目はAIPサブグループ89例におけるポルフィリン性アタック(AHPによる入院や緊急医療、既存の治療法であるヘミンの投与)の年率発生頻度。試験薬群は平均3.2と偽薬群の12.5より74%少なく、統計的に高度に有意だった。中央値で比較すると1.0対10.7で90%少なかった。
シーケンシャルに実施された二次的評価項目の解析も、9項目中5項目が成功。その一つであるAHP全体の解析も平均で73%少なかった。一方、疼痛、疲労、悪心など症状関連指標はフェールした。
3月に公表されたように、深刻有害事象の発生率は20.8%と偽薬群の8.7%を上回った。主なものは悪心、注射箇所反応、慢性腎疾患(10.4%、偽薬群はゼロ)、疲労など。肝機能検査値が正常値上限を3倍超上回る症例は14.6%(偽薬群は2.2%)、但し何れもHyの法則には該当しない由。被験者は一人を除いてオープンレーベル延長試験に参加したとのことなので、副作用は忍容できる範囲なのだろう。
Alnylamは年央までに米国のローリング承認申請を完了するとともに欧州で承認申請する考え。
リンク: EASLでの発表要旨とプレゼンテーション・スライドのリンク
【承認審査・委員会】
Zogenix、ドラベ症候群治療薬の承認申請は受理されず
(2019年4月8日発表)
Zogenix(Nasdaq:ZGNX)はFintepla(fenfluramine hydrochloride)をドラベ症候群治療薬として開発、2月にFDAに承認申請したが、受理されなかったと発表したした。慢性投与に関する前臨床試験の不足や、臨床データセットが誤ったバージョンのものであったことが原因のようで、臨床的な効用や安全性に係る追加試験は求められていないとのこと。
ドラベ症候群は乳幼児期に全身/半身けいれん発作を発症する。8割の患者はSCN1A(ナトリウムチャネル遺伝子)の機能低下変異を持つ。fenfluramineはセロトニンなどの神経伝達物質を増強する作用を持っており、20世紀後半に食欲抑制剤として用いられたが、肺高血圧症や心臓弁膜症のリスクが表面化、米国では97年に自主回収となった。Pondimin(fenfluramine)やRedux(dexfenfluramine)を販売していたワイスはPL訴訟和解金として200億ドルを超える拠出を余儀なくされた。
Finteplaの第三相試験二本では肺高血圧症や心臓弁膜症の兆候は見られなかったようだ。Pondiminは20mg(40mgまで漸増可)を毎食前服用なので60-120mg/日となるが、Finteplaは体重1kg当り0.8mg、但し上限30mg、を一日二回に分けて服用なので、Pondiminの半分以下に抑えている。尤も、典型的な患者の体重は大きく異なるだろうからkg当り投与量はそれほど変わらないかもしれない。尚、他のドラベ症候群治療薬と併用する時は薬物相互採用を考慮して0.5mg/kgに減量する。
Pondiminや米国で人気を集めたフェンフェン療法の併用薬であるphentermineは、少なくとも米国では数週間の短期コースしか承認されていなかった。また、販売承認取得に必要な試験の種類や期間も昔と今では変わっている。今回、FDAが慢性投与に係る前臨床試験を求めたのは、これらの事情が関係しているのではないか。
具体的な内容は不明だが、もし1年以上の毒性試験を求められたのだとすると、再承認申請が相応に遅れることになる。
Finteplaは欧州でも承認申請中。日本は第三相段階の模様で、今年3月に日本新薬が独占販売権を取得した。
リンク: Zogenixのプレスリリース
【承認】
FDA、FGFR阻害剤を膀胱癌用薬として承認
(2019年4月12日発表)
FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのBalversa(erdafitinib)を局所進行性/転移性尿路上皮癌用薬として加速承認した。白金薬による治療歴を持ち、同時に承認されたQIAGEN社のコンパニオン診断キットを用いた検査でFGFR3またはFGFR2の遺伝子に特定の変異/融合が検出された場合、適応になる。該当するのは転移性尿路上皮癌の2割程度、米国で年3000人程度と推定されている。
第三相実薬対照試験は昨年始まったばかり。加速承認の根拠となった87例の第二相試験では、BIRC(盲検独立評価委員会)がORR(客観的反応率)を32.2%と判定した。完全反応率は2.3%のみ、反応持続期間のメジアン値は5.4ヶ月で、やや物足りない。
尿路上皮癌は膀胱癌のうち最も多いタイプ。腫瘍学領域を席巻している抗PD-1/PD-L1抗体も承認されているが、上記第二相では抗PD-1/PD-L1不応でもBalversaに応答した癌があった由。一方、FGFR変異のうちFGFR2融合6例ではORRがなく、有効性は判然としない。
G3以上の有害反応は口内炎や爪の様々な異常、手掌-足底発赤知覚不全症候群など。FDAは、目の検査やリンの血液検査を推奨した。前者は中心性漿液性網膜症や網膜色素上皮剥離を早期に発見するためだが、後者は薬効の指標とする狙いもあり、治療開始2~3週後になっても数値が低い場合はBalversaを増量する。
Balversaは汎FGFR阻害剤。一日一回8mg(リン値が低い場合は9mg)を経口投与する。08年にAstex Therapeutics(13年に大塚製薬が買収)から世界開発販売権を取得したもの。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース
イベニティが米国でも承認
(2019年4月9日発表)
FDAは、アムジェンがUCBと共同開発したEvenity(romosozumab-aqqg、和名イベニティ)を閉経後骨粗鬆症治療薬として承認した。骨粗鬆症性骨折歴や、複数の骨折リスク因子保有、他の骨粗鬆症治療薬に不応不耐など、骨折リスクの高い患者が適応になる。月一回、医療従事者が皮注する。効果が減衰するため最大でも12回の投与で終える。
臨床試験では、1年間の椎骨新規損壊リスクが偽薬比73%小さかった。1年目はEvenity、2年目はalendronateを投与した試験では、2年間alendronateを投与した群より50%小さかった。
心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクが枠付警告された。1年以内に発症歴を持つ患者には投与しない。アムジェンは市販後監視を行う予定。
UCBが買収した英国のバイオベンチャー、セルテックがアムジェンと共同開発した抗体医薬で、造骨細胞を抑制するスクレロスチンに結合・ブロックする。骨形成を促進し、骨吸収を抑制する。日本では今年1月に承認、2月に一日薬価1625円で薬価収載された。
アナボリック作用を持つ高価な皮注用薬で治療期間が限定されているという点で、イーライリリーのForteo(teriparatide、和名フォルテオ)と共通している。米国で02年に承認、癌原性懸念などから将来性に疑問が持たれたが、18年の全世界売上高は17億ドルと相応に成功した。長期的な治療が必要な疾患における1年しか使えない薬の位置付けは微妙だが、オルターナティブ系骨粗鬆症治療薬は選択肢が限られるので、Evenityも重宝されるのだろう。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース
FDA、HIV/AIDSの二剤併用療法薬を承認
(2019年4月8日発表)
FDAは、ヴィーヴ・ヘルスケアのDovatoをHIV/AIDSで初めて抗ウイルス治療を受ける患者の治療薬として承認した。塩野義製薬が創製したインテグラーゼ阻害剤、dolutegravirとグラクソ・スミスクラインの核酸系逆転写阻害剤、lamivudineのFTC(固定用量合剤)で、この二活性成分だけで完結する(米国初)。勿論、どちらかの成分に抵抗性を持つ患者は対象外。
HIV/AIDSの治療は核酸系逆転写阻害剤を二種類とそれ以外を一種類以上併用する、高度アグレッシブ抗レトロウイルス療法が一般的。ピルバーデンを緩和するために2-4種類の活性成分を配合したFTCが複数、販売されているが、厄介なのは、核酸系逆転写阻害剤のGE化が進んできたこと。FTCではなくGE薬と別々に購入した方が安上りかもしれない。FTCのGE薬も登場し始めた。
対策としては、FTCの値下げで対応することや、新しい組み合わせのFTCを投入することなどが考えられる。GSKと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーヴも、製品開発を加速している。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース
【医薬品の安全性】
FDA、Addyiのレーベル変更を製薬会社に命令
(2019年4月11日発表)
欧米で医薬品のリコールが行われる場合、殆どが製薬会社による自主的な判断である。承認審査機関の圧力があろうがなかろうが、関係ない。米国は民間企業が監督官庁の行政行為に不満を持ち訴訟を起こすことが珍しくないが、それでも、医薬品を自主回収したり添付文書の副作用警告の追加・強化はメーカーが自主的に行う。製薬会社は責任意識を持つ企業としてイメージアップを図り、当局は強制執行に付随する手間や時間を省くメリットがある。
今回、珍しいことをFDAが発表した。Sprout PharmaceuticalsにAddyi(flibanserin)の添付文書変更を命じたのだ。女性の後天性全般性HSDD(性的欲望低下障害)治療薬で、重度低血圧や失神のリスクが枠付警告されている。アルコール飲料と同時摂取するとリスクが高まる可能性があるため承認後に試験を行うようFDAが求めた。
結果、飲酒を終えてから2時間以上経ってから服用すればリスクが低下することが確認できたが、Sproutが要求したアルコール相互作用の警告解除に関しては、安全性確認試験は成功したものの、FDAはプロトコルが不適切で検出できなかった可能性があると判定、Sproutと意見が対立した。レーベルは製薬会社の著作物なのでFDAが書き換えることはできず、公式に権限を行使して変更を求めたもの。
flibanserinは5-HT1A作動/5-HT2A拮抗剤。元々はベーリンガー・インゲルハイムが承認申請したがFDAも諮問委員会も効果が穏やかで副作用リスクと釣り合わないと判定、2010年に開発中止を決めた。Sproutは11年に権利を取得、13年の再申請は駄目だったが15年に承認獲得した。飲酒の制約はマーケティング面で重要なので、安全性確認試験のプロトコルを事前にFDAとよく協議しておくべきだった。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
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