【ニュース・ヘッドライン】
- 新規抗生薬の承認から一年足らずで破産法申請
- SMA遺伝子療法の第三相中間データ
- SCIDの遺伝子療法が成功
- 抗NGF抗体は諸刃の剣
- ノバルティス、小さな抗VEGF-A抗体をwAMDに承認申請
- リムパーザ、欧州でも乳癌に適応拡大
【今週の話題】
新規抗生薬の承認から一年足らずで破産法申請
(2019年4月15日発表)
Achaogen(Nasdaq:AKAO)は米連邦破産法第11章の適用を連邦デラウェア地域倒産裁判所に申請した。アミノグリコシド系抗生薬Zemdri(plazomicin)の開発に成功し昨年6月に薬物耐性複雑性尿路感染症治療薬としてFDAに承認されたばかり。一部の主評価項目でmeropenemを有意に上回るなど効果は良好だが、このクラスの抗生剤につきものの腎毒性や難聴リスクが既存薬ほどではないにしてもゼロではないことなどから、18年7-12月の売上高は80万ドルに留まっていた。
同社の株価は、急展開を予見するかのように、承認前日の12ドルから低下を始め、直近では0.1ドル台に暴落していた。
抗生剤の開発と耐性菌の出現はエンドレスなので弛まぬ研究開発が必要だが、せっかく新薬を開発しても、稀だが深刻な副作用が付き物であることや包括医療費支払制度の下では高価な新薬を使いにくいことなどから、取って置きの薬として使われないまま取って置かれてしまいがちで、売上高が伸び悩むケースが散見される。
米国は優先審査バウチャー制度が導入されたため、その新薬に関する研究開発投資は回収できるだろうが、売れなかったら販売固定費を回収できない。また、製薬会社は開発失敗したプロジェクトの損失を成功した薬の収益で回収しなければ事業が回らない。欧米や日本では医療施設に毎年一定額を課金する定額課金制度の導入も検討されているようだが、ワークするものかどうか。
Zemdriがもっと良い薬だったら違う結果になったかもしれないが、Achaogenの破産はこの問題の深刻さを示している。
リンク: Achaogenのプレスリリース
【新薬開発】
SMA遺伝子療法の第三相中間データ
(2019年4月16日発表)
ノバルティスが昨年5月に87億ドルで買収したAveXisは、10月にZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)をI型脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬として日米欧で承認申請した。米国は5月、日本も6月までに承認される可能性がある。第一相試験に基づき各地で先駆け指定を受けて承認申請に至ったものだが、今回、MDA(筋ジストロフィー協会)臨床・科学会議で第三相試験の中間解析結果が発表された。
ZolgensmaはSMN2遺伝子の相補的DNAと連続的プロモータを遺伝子組換え型アデノ随伴ウイルス9型をベクターとして導入するもの。機能しないSMN1遺伝子に替えてSMN2に欠乏するSMN蛋白を産生させる。オハイオ州のNationwide Children's Hospitalからライセンスした。RegenxBio社の技術を用いて血液脳関門通過性を持たせている由。
今回のSTR1VE試験は、月齢6ヶ月未満で発症するI型のSMA患者二十数名を組入れて一回投与し、イベントフリー・サバイバル(EFS:永続的人工呼吸なしで生存)や座位維持能力などを評価する。18年9月27日時点の中間解析で、評価対象22人(メジアン月齢は9.5ヶ月)のうち21人がEFS。10.5ヶ月に到達した患者7人中では6人となり、自然歴(50%程度)より良い結果となった。CHOP-INTEND臨床評価スコアも改善した。
死去は一人。薬物との関連性は否定された。剖検の結果、中枢神経でもSMN発現が認められた。尚、同時進行している欧州試験でも一人が呼吸器感染症と神経学的合併症により死亡し、医師が薬物関連の可能性を指摘したとのことで、今後、剖検を行う予定。
SMA治療薬といえばバイオジェンがIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスし開発したアンチセンス薬、Spinraza(nusinersen)が16年から17年にかけて日米欧で承認された。Zolgensmaは遺伝子療法なので投与頻度が少なくて済む可能性があるが、どちらもまだ症例数が少ないので、効果や安全性、価格、効果の長期的な持続性などを総合的に検討する必要がありそうだ。
米国の費用対効果評価機関であるICERは、Zolgensmaの価格が年150万ドル以下なら費用対効果が良好と判定した。Spinrazaに関しては初年度75万ドル、2年目以降は年37.5万ドルという価格は費用対効果がないと評価した。
リンク: Avexisのプレスリリース
SCIDの遺伝子療法が成功
(2019年4月17日発表)
St. Jude Children's Research Hospitalが開発したX-SCID(X連鎖重症複合免疫不全症)遺伝子療法の第1/2相試験の治験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。X-SCIDは遺伝子療法の典型的な研究対象で、20年前にフランスで治療が成功し注目されたが、白血病のリスクが浮上し急ブレーキがかかった。今度こそ良い報告が続くことを期待したい。
X-SCIDはIL-2受容体ガンマの遺伝子変異によりIL-4など様々なIL受容体のシグナル伝達が上手く行われず、T細胞やNK細胞が欠損・著減。免疫力が著しく弱いため無菌環境で生活する必要がある。SCIDの5割程度を占め、有病率は20万人に一人とされる。この遺伝子療法(MB-107)はex vivoでIL-2受容体ガンマの相補的DNAをレンチウイルスベクターを用いて導入するもの。
今回の試験は2歳以上のX-SCID患者8人を組入れて、低量busulfanでプリトリートした上で遺伝子導入細胞を投与し、メジアン16.4ヶ月追跡した。7人でT細胞とNK細胞の数が正常化、残りの一人は2回目を施行した。7人でIgM水準が正常化、うち4人は免疫グロブリン点滴を止めることができ、そのうち3人は標準的なワクチンに応答した。病院側のプレスリリースによると、X-SCIDを治癒したと呼んでも良い成果とのこと。白血病は発生していない。
この病院は、アメリカの人気コメディアンがブレイク前の神との約束を守って1961年に設立、小児難病の研究に特化している。MB-107の研究を主導した研究者は、NEJM論文の原稿を投稿した後に亡くなったとのことで、さぞ無念だったろう。
Fortress Biotech(Nasdaq:FBIO)の子会社のMustang Bio(Nasdaq:MBIO)が18年に世界独占開発商業化権を取得しMB-107として開発中。大手製薬会社は遺伝子療法など斬新な分野に積極的に参入しており、Mustangも開発が順調に進めば買収ターゲットになるのではないか。
リンク: Mamcarzらの治験論文抄録(NEJM)
抗NGF抗体は諸刃の剣
(2019年4月18日発表)
ファイザーとイーライリリーは、中重度変形性関節炎治療薬として共同開発中の抗NGFヒト化抗体、PF04383119(tanezumab)の長期安全性試験の結果を発表した。今回も一部の患者で有害関節イベントが見られ、多くはそれほど深刻ではないが、何年も使い続けたらどうなるのか不安だ。また、全関節置換や死亡が増加しているのも気持ち悪い。高用量群は効果が非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)より高そうだが、裏目に出た時のペナルティを正当化できるのだろうか。
骨粗鬆症治療薬でも一部の患者で骨壊死が発生したり、何年も連続使用することができない薬が承認されたり、骨は難しい。
NGFはジェネンテックが同定し、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの治療を探索したが成功しなかった。痛みや温度の感受性が高まるという症例報告があったため、今度は抗NGF抗体を疼痛治療薬として開発することになった。その後、ジェネンテックは中枢神経系部門をスピンアウト、ファイザーが買収、という経緯だ。
第三相まで進めたところで、2010年に、変形性関節炎の急速な進行(RPOA)や無腐性骨壊死、関節置換術施行のリスクが顕在化、FDAは数社が開発していた抗NGF抗体の治験停止を命じた。12年7月の諮問委員会は全員一致で開発続行を勧告したが、某社の毒性試験で末梢神経系有害事象の懸念が浮上し臨床症例もあったため再び部分的治験停止となった。ファイザーは交感神経系毒性試験を行う一方でイーライリリーとリスクシェアリング契約を結び、15年に治験停止が解除されるや、第三相を再開した。
今回の安全性試験は中重度膝股関節変形性関節炎でアセトアミノフェンに不十分反応/不耐の3021人を2.5mg群、5mg群(何れも8週毎皮注)、NSAIDs群に無作為化割付して、薬効や長期関節安全性を検討したもの。5mg群は疼痛緩和や身体機能でNSAIDs群を有意に上回ったが、もう一つの主評価項目である患者自身の総合的評価は有意差がなかった。2.5mg群は三指標とも有意差なし。何れにせよ、現実の医療ではNSAIDsでまあまあ足りる患者に抗NGF抗体を使うことはないだろうから、薬効を比較してもあまり意味がない。
80週間の関節イベント発生率はNSAIDs、2.5mg、5mgの各群が1.5%、3.8%、7.1%と有意に増加した。RPOAが1.2%、3.2%、6.3%と太宗を占め、その81%はI型(関節空間狭窄など)でII型(関節損傷・劣化)は少なかったので、酷く深刻ではないと考えることもできるだろう。とことが、全関節置換は2.6%、5.3%、8.0%と今回も増加した。死亡は偽薬群1名、試験薬二群合計が9名と、ノイズと一蹴するには大きな偏りが出ている。
関節イベントが増加するのは痛みが軽快し活動性が活発化するから、という話を聞いたことがあるが、これだけ大きな問題になったのだから、近年の臨床試験では口を酸っぱくして患者に自制を促しただろう。それでも結果が大差ないとしたら、骨粗鬆症治療薬と同様に、骨には私たちの知らないことがたくさんあると考えざるを得ない。
ファイザーは他の試験のデータと包括的に検討を進める考え。承認申請するかどうか明らかではない。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認申請】
ノバルティス、小さな抗VEGF-A抗体をwAMDに承認申請
(2019年4月15日発表)
ノバルティスは、RTH258(brolucizumab)を滲出型加齢性黄斑変性症の治療薬として承認申請した。ジェネンテックからライセンスして販売しているLucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)と同様にVEGF-Aに結合するが、抗体の一部だけの短鎖フラグメントなので分子量が26キロダルトンと小さく、Lucentisの48キロダルトン、Eylea(aflibercept)の115キロダルトンと比べても小さい。
視力改善効果はEyleaと同程度。投与頻度は当初3ヶ月の後は12週間に一回とインターバルが長い。尤も、定期的に網膜検査を行って必要なら投与する治療方針の医師にとっては、それほど大きなメリットではないだろう。
リンク: ノバルティスのプレスリリース
【承認】
リムパーザ、欧州でも乳癌に適応拡大
(2019年4月10日発表)
アストラゼネカは、PARP阻害剤Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)を転移性乳癌の二次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。BRCA遺伝子に有害変異を持つ、her2陰性の、化学療法歴を持つ患者が適応になる。
切除付随治療または転移性乳癌治療でアントラサイクリンとタクサンによる治療歴を持つ患者を組入れた第三相試験では、独立放射線学的委員会が盲検査読したPFS(無進行生存期間)がメジアン7.0ヶ月と、実薬対照群(capecitabine、vinorelbine、eribulinの中から選択)の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58、統計的に有意だった。
この適応拡大は米国では昨年1月、日本も昨年6月に承認された。欧州申請は昨年4月なので、EUの審査が遅かったわけではない。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
今週は以上です。
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