2019年2月10日

2019年2月10日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Fc最適化抗her2抗体の乳癌三次治療試験成功 
  • サノフィの抗CD38抗体も多発骨髄腫三次治療試験が成功 
  • ロシュ、カドサイラを早期乳癌アジュバントに承認申請 
  • インサイト、Jakafiの適応拡大申請は審査期間延長に 
  • FDAも後天性血栓性血小板減少性紫斑症治療薬を承認 


【新薬開発】


Fc最適化抗her2抗体の乳癌三次治療試験成功
(2019年2月6日発表)

MacroGenics(Nasdaq:MGNX)は、MGAH22(margetuximab)の第三相SOPHIA試験が成功したと発表した。her2陽性転移性乳癌でHerceptin(trastuzumab)とPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持つ536人の患者を組入れて、化学療法にMGAH22を追加するレジメンとHerceptin追加レジメンを比較したところ、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、第三者査読)のハザードレシオが0.76、p=0.033だった。

有意と言ってもボーダーライン上だが、事前に設定されたサブポピュレーション分析であるFcガンマRIIIaに158Fアレルを持つ患者では、ハザードレシオ0.68、p=0.005と高度に有意な差が出た。

主評価項目の解析が成功したため、シーケンシャルな主評価項目である全生存の解析を行う予定。2020年頃になるのではないか。MacroGenicsはPFSデータで2019年後半に承認申請する予定。

margetuximabは抗her2抗体の固定領域(Fc)を最適化して、活性化的Fcガンマ受容体に対する親和性を高め抑制的Fcガンマ受容体親和性を弱めた。FcガンマRIIIaは158Vアレルを持つ人がホモ、ヘテロあわせて85%と大勢を占めるが、158FアレルはFc親和性が低いため、ADCC(抗体依存性細胞傷害)活性が特に低くなり、Herceptinなど従来の抗体医薬に対する応答性が低いと言われる。

尤も、今回の第三相がHerceptinに対する優越性を示したと結論するのは早計だ。患者背景が特殊だからだ。被験者は前治療でHerceptinを用いている。化学療法併用で再発した患者にもう一度Herceptinを使うのは有効な治療方法だが、被験者の90%はKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)歴も持っていたので、Herceptin抵抗性が相応にありそうだ。また、報道によると、被験者の8割が158Fアレルを持っていた。Herceptinが効かなそうな患者を厳選した試験と言える。

従って、今回の試験の組入れ条件・除外条件に該当する患者には有効だが、her2陽性乳癌全体や、乳癌用薬の主用途である切除術アジュバント療法でHerceptinを上回るかどうかは、今後の適応拡大試験の結果を見ないと何とも言えないだろう。

潜在的な競合は、第一三共がDS-8201a(trastuzumab deruxtecan)の第三相試験を複数、実施中。SOPHIA試験よりも前の段階の患者を組入れており、また、her2低発現でHerceptinなどが適応にならない患者の試験も行っているので、承認申請はmargetuximabより遅くなりそうだが、現時点での将来性は上回っていそうだ。

リンク: MacroGenicsのプレスリリース

サノフィの抗CD38抗体も多発骨髄腫三次治療試験が成功
(2019年2月5日発表)

サノフィは、SAR650984(isatuximab)の第三相多発骨髄腫三次治療試験が成功したと発表した。Pomalyst(pomalidomide)と低量dexamethasoneを併用するレジメンとSAR650984も含めて三剤併用するレジメンのPFS(無進行生存期間)を比較したところ、有意に上回った。具体的なデータは学会発表の予定。サノフィは19年上期中に欧米で承認申請する計画。

Immunogen(Nasdaq:IMGN)との共同研究に基づきライセンスした抗CD38抗体。同じく抗CD38抗体のDarzalex(daratumumab、和名ダルザレックス)は同じ用途で15年に米国されRevlimid(lenalidomide)またはVelcade(bortezomib)とdexamethasoneを併用する二次治療でも承認されており、当面はキャッチアップが課題になる。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


ロシュ、カドサイラを早期乳癌アジュバントに承認申請
(2019年2月5日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine)を早期her2陽性乳癌の切除後アジュバント療法に適応拡大申請した。術前のネオアジュバント療法でpCR(病理学的完全反応)とならず残存疾患の患者が適応になる。

KATHERINE試験では、Kadcyla単剤投与群の3年無浸潤性乳癌生存率が88.3%とHerceptin(trastuzumab)単剤投与群の77.0%を上回り、ハザードレシオ0.50、高度に有意だった。全生存の解析は未成熟で有意差は出ていないが、ハザードレシオ0.70と正しい方向を向いている。深刻有害事象の発生率は12.7%対8.1%で上回った。

KadcylaはHerceptinの抗her2抗体に微小管重合阻害剤を結合した抗体薬物複合体。13年に米国で転移性her2陽性乳癌の二次治療薬としてHerceptinの2倍強の価格で発売された。一次治療試験も実施されたがHerceptinとtaxaneを併用した対照群を上回ることができなかった。

FDAは今回の適応拡大申請をReal-Time Oncology Review(RTOR)パイロット・プログラムの対象に指定した。シアトル・ジェネティクスのAdcetris(brentuximab vedotin)は申請書類提出完了の11日後に承認された。Kadcylaも早期承認が見込めそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


インサイト、Jakafiの適応拡大申請は審査期間延長に
(2019年2月7日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)はJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド不応急性移植片宿主病の治療薬としてFDAに承認申請し、審査期限は2月24日の予定だったが、3ヶ月延期された。FDAの要請に応じて提出した情報が申請内容の主要な変更とみなされたため。

JakafiはJAK1/2阻害剤。日米欧で突発性(PMF)、真性赤血球増多症性(PPV-MF)、及び本態性血小板血症性(PET-MF)の骨髄線維症と、難治性真性赤血球増加症(多血症)に承認されている。

JAKはインターロイキン受容体などの細胞内シグナル伝達に係る酵素。JAK阻害剤は上記の適応に加えてリウマチ性関節炎やアトピー性皮膚炎、脱毛症など多くの自己免疫疾患・血球関連疾患に承認・開発されており、経口投与可能なこともあって、多くのパイプラインが存在する。過去には一部の開発品でビタミンB1関連有害事象や心血管毒性の懸念が浮上し、FDAがクラス全体のクリニカル・ホールドを命じたこともあるが、生き残ったものの一つがJakafiだ。

リンク: インサイトのプレスリリース


【承認】


FDAも後天性血栓性血小板減少性紫斑症治療薬を承認
(2019年2月6日発表)

サノフィが昨年、ノボ ノルディスクを退けて39億ドルで完全子会社化したAblynx社の開発品であるCablivi(caplacizumab)が、昨年9月の欧州に続いて米国でも、aTTP(後天性血栓性血小板減少性紫斑症)の治療薬として承認された。von Willebrand因子に結合する、可変領域に軽鎖を持たないナノバディと呼ばれる抗体医薬で、aTTP治療薬もナノバディも承米国承認第一号。薬剤費は典型的な事例で27万ドル/人。

aTTPの急性期は深刻で、血漿交換と免疫抑制剤による標準療法が開発され死亡率が大きく低下したがそれでも2割近いと言われる。Cabliviの臨床試験では、標準療法に追加したところ、血小板数が偽薬群より有意に早く回復し、TTP関連の死亡、再発、主要血栓塞栓イベントの発生率が13%対38%と67%少なかった。専ら寄与したのは再発が少なかったこと。一方、やむをえないことだが出血性有害事象の発生率は66%対49%と上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)






今週は以上です。

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