2025年9月27日

第1226回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国、10月から輸入医薬品に100%関税 
  • FDAがアセトアミノフェンのレーベル変更へ 
  • 高リスク腎移植の減感作薬を米国でも承認申請へ 
  • ハンチントン病の遺伝子療法試験が成功 
  • BMS、新規抗癌剤が第3相でMRD陰性率を達成 
  • アレキサンダー病のピボタル試験が成功 
  • ロシュ、新規SERDの第3相が成功 
  • seltorexantの第3相は一勝二敗に 
  • Acadia社、プラダー・ウィリ症候群試験がフェール 
  • カンナビジオールの脆弱X症候群試験がフェール 
  • アッヴィ、新規パーキンソン病薬を承認申請 
  • エンハーツを乳癌一次治療に適応拡大 
  • スピンラザの高用量は承認されず 
  • Scholar Rockの脊髄筋萎縮症用薬は審査完了に 
  • レキサルティのPTSD適応は審査完了に 
  • 先端巨大の経口薬が承認 
  • リリーのエストロゲン受容体ブロッカーが承認 
  • カプレルサのREMSが終了 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


米国、10月から輸入医薬品に100%関税
(2025年月日発表)

米国連邦政府のトランプ大統領は、Truth Socialで、10月1日以降、ブランド薬あるいは特許性薬の輸入に100%の関税を課す発表した。但し、米国内で薬品製造工場を建設している企業は対象外。既に10社以上が建設計画を発表しているが、更に増えそうだ。"IS BUILDING"と記しているので、既に工場を稼働しているだけでは対象外にはならないのだろう。

日本や欧州は、貿易交渉を通じて先発薬の関税を15%とすることで合意している。このような国で製造された薬品も対象外になると思われるが、どうだろうか。

Truth Socialはトランプ大統領が2021年にTwitterやFacebookから出禁にされた時に立ち上げたSNSサイト。不振だったのか、今日では別組織が所有しているようだ。

リンク: トランプ大統領のTruth Socialにおける書き込み


FDAがアセトアミノフェンのレーベル変更へ
(2025年9月22日発表)

ホーダイは日常生活に定着し、筆者も気が付けば音楽や雑誌などをサブスクしている。米国でも流行しているようだが、第2次トランプ政権はやりたいホーダイだ。

FDAはacetaminophenのレーベルを変更し、妊婦の服用と生まれる子供の自閉症やADHDのリスクの関連について記載するプロセスを開始した。全米の医師に注意を促す通知を発出した。また、FDAの独自分析によりleucovorinをCFD(脳葉酸欠乏症)に適応拡大したことも明らかにした。26年前まで販売していたGSKに適応拡大申請と確認的試験の実施を要請する。

FDAのプレスリリースによると、Nurses' Health Study IIやBoston Birth Cohortなどの複数の大規模コフォート・スタデイで関連性が見られた。但し、因果関係は確立しておらず、関連が見られなかった研究もある。また、acetaminophenは妊娠中の発熱に用いることのできる唯一のOTC薬であり、アスピリンやイブプロフェンは胎児に悪影響を及ぼすことにも言及している。

どっちなんだい、と突っ込みたくなる歯切れの悪いリリースだが、ある意味では、お天気傘をさすべきか否か、というような命題と同じで人によって答えが違っても良いのではないだろうか---と私は思うが、米国では学会を含め異論が噴出している。

波紋は大西洋を渡り、EMA(欧州薬品庁)はEUのレーベルを変える必要はないとプレスリリースを発出した。2019年に体内で曝露した小児の神経発達に関わる各種研究を検討したことがあるが、つながりは確立していないと結論した。プレスリリースにはAhlqvistらがスウェーデンで実施した240万人規模の疫学研究が引用されている。自閉症やADHDなどのリスクは曝露していない小児の1.1倍前後だったが、兄弟の間の比較では1.0程度であり、第3の因子の影響と結論したものだ。

CFDは多くの患者でFOLR1遺伝子変異が見られ、葉酸の吸収不全が関連すると考えられている。葉酸の類縁体であるleucovorinを投与した40人超の症例のシステマティック・レビューで効果が見られたとのことだ。GSKは1983年にWellcovorin名で承認を取得したが、GE化したため1999年に販売中止を決め、FDAが承認を取消した。FDAは2017年に安全性や薬効を理由とする販売中止ではないとの評価を決定、今日でも多くのGE品が販売されている。各種報道によるとFDAは適応拡大申請する考えのようであり、手続きが終われば医療従事者はGE品をCFDに処方できるようになる。

各種報道によると、FDAは、自閉症スペクトラム障害に適応拡大することも考えている模様だ。

承認と申請が手順前後だが、そんなことを気にする政権ではないのだろう。40人程度の症例報告位のエビデンスで適応拡大ができるとは素晴らしい。超希少疾患用薬を開発している企業のCEOは、資金集めに苦労するくらいだったら、FDA長官になって自ら承認したら良い。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Makary委員長の医師向け通知
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Ahlqvistらの疫学論文(JAMA 2024年)
リンク: 自閉症適応拡大に関する連邦政府公告

【新薬開発】


高リスク腎移植の減感作薬を米国でも承認申請へ
(2025年9月24日発表)

スウェーデンのHansaBiopharma(OMX:HNSA)はIdefirix(imlifidase)が米国第3相試験の中間解析でeGFR(推算糸球体濾過量)を達成したと発表した。25年末までにFDAに加速承認申請する考え。

化膿連鎖球菌の免疫グロブリンG零落酵素を雛形とする開裂酵素。多くのドナーのリンパ球に対する抗体を持つ患者は移植に適したドナーを見つけるのが困難だが、IgGを抑制することで克服できる可能性がある。20年にEUで、高度感作またはクロスマッチ陽性の死体腎を移植する以外に手段のない腎不全患者の脱感作療法として、条件付き承認された。英国やスイス、オーストラリアでも承認された。

今回のConfIdeS試験は米国の施設で高度感作(cPRA≧99.9%、つまり、殆どの検査用リンパ球に対する抗体を保有)かつクロスマッチ陽性(移植腎のリンパ球に対する抗体を保有)の成人64人を試験薬群と対照群(待機、オフレーベル脱感作薬使用、あるいはもし適合臓器移植が見つかったら移植)に無作為化割付けしてオープン・レーベルで予後を比較した。中間解析の主評価項目である12月eGFRは51.5mL/分/1.73m2と対照群の19.3mL/分/1.73m2を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


ハンチントン病の遺伝子療法試験が成功
(2025年9月24日発表)

オランダのuniQure biopharma B.V.(Nasdaq:QURE)は、AMT-130の早期ハンチントン病試験の3年追跡結果を明らかにするとともに、26年第1四半期に承認申請する計画を発表した。

遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス5型をベクターとして変異ハンチントン遺伝子を沈黙させるマイクロRNAをin vivoで導入するもの。血液脳関門を回避するためにMRIモニタリング下の定位脳手術で線条体に持続陽圧投与する。

今回の解析は、米国の施設で16人を高用量群(6x10^13vg)、低用量群(6x10^13vg)、または偽手術群に割付けた第1/2相盲検試験と、英国とポーランドの施設で13人を高用量群または低用量群に組付けた後期第1/2相オープン・レーベル試験の統合分析。3年追跡データのある症例(高用量群は17人中12人、低量群は12人全員)におけるcUHDRS(composite Unified Huntington's Disease Rating Scale)のベースライン比変化を傾向加重外部対照群(高用量群は940人分の、低用量群は626人分の、自然歴データ)と比較した。

高用量群は平均で-0.38、対照群は-1.52となり、試験薬が悪化を75%遅らせた(p=0.003)。副次的評価項目のTFC(総合機能評価)や運動尺度、認知機能尺度なども有意、または好ましい傾向が見られた。脊髄液中NfL(ニューロフィラメント軽鎖)はベースライン比8%低下した。

昨年7月発表された探索的2年追跡結果と比べて群間差が若干低下しているものの、概ね似たような結果だ(解析対象が一致していないので比較できるかどうかは不確かだが)。

この試験は施術の前後に免疫抑制剤を投与するコフォートも進行中。どのような狙いなのか当方は知らないい。過去には高用量群の投与にブレーキがかかったこともあるが、今回のリリースを読む限りでは拒絶反応を抑制しなければならないほどリスクが高いようには感じられないが...

同社はアムステルダム大学アカデミック・メディカル・センターに拠点を持つ新興企業。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、新規抗癌剤が第3相でMRD陰性率を達成
(2025年9月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはiberdomideの第3相EXCALIBER-RRMMで共同主評価項目の一つを中間解析で達成したと発表した。当局と協議する考え。加速承認申請が認められる可能性があるのではないか。

経口CELMoD(cereblon E3 ligase modulator)。同社がセルジーンを買収して入手したthalidomideなどと同様に、細胞内タンパク質の選択的分解を担うE3ユビキチンリガーゼを構成する蛋白の一つであるセレブロンに結合し、免疫を調停する。日本も参加した今回の試験は、1~2次治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治/再発多発骨髄腫患者をIberDdレジメン(iberdomide、daratumumab、dexamethasoneを併用)とDVdレジメン(daratumumab、bortezomib、dexamethasoneを併用)に無作為化割付けして、MRD(微小残存病変)陰性率やPFS(無進行生存期間)を比較したもの。前者を達成し、PFSと副次的評価項目の全生存期間は継続追跡する。

多発骨髄腫はthalidomide以降、新薬が続々開発され、今日では4剤併用も可能になり、ORR(客観的反応率)などの指標が向上した。患者にとっては喜ばしいことだが、ORRが100%に近づくにつれて、それを凌駕する新レジメンを開発するのが見かけ上、困難になる。PFSは向上できるはずだが、追跡に時間がかかる。そこで、新たなサロゲート・マーカーとして注目されているのがMRDだ。次世代シーケンサーや次世代フロー・サイトメトリーを用いて10万個に1個の感度で癌細胞を検出するもので、PFSと相関する可能性がある。B細胞急性リンパ性白血病ではアムジェンのBlincyto(blinatumomab)が18年にMRDデータなどに基づき適応拡大している。24年4月のFDA腫瘍学諮問委員会では、投票権を持つ委員全員が多発骨髄腫の加速承認のエビデンスにすることに賛成した。

リンク: BMSのプレスリリース


アレキサンダー病のピボタル試験が成功
(2025年9月22日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、ION373(zilganersen)の第1-3相アレキサンダー病試験で主目的を達成したと発表した。26年第1四半期に承認申請すると共に、拡大アクセスプログラム(EAP)を検討する考え。

アレキサンダー病は100万~300万人に一人の超希少疾患。9割の患者で脳のアストロサイトを支えるGFAP(グリア線維性酸性蛋白質)の遺伝子に変異があり、痙攣や精神運動発達遅延などを示す。承認されている薬はない。ION373はGFAPの発現を抑制するアンチセンス薬。今回の試験では、日本を含む8ヶ国の13施設で1歳半から53歳の患者54人を試験薬群または対照群に2:1割付けして60週間治療したところ、試験薬群の第61週10メートル歩行テスト成績が対照群を33%上回った。但し、p=0.0412なのでそれほど高度な有意差ではない。

副次的評価項目の進行遅延作用なども好ましい傾向が見られた模様。忍容性も良好とのこと。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュ、新規SERDの第3相が成功
(2025年9月22日発表)

ロシュは経口SERD(選択的エストロゲン受容体零落剤)のRG6171/GDC-9545(giredestrant)が第3相evERA試験で主目的を達成したと発表した。新薬承認申請する考え。

日本も含むグローバルな施設で内分泌療法及びCDK阻害剤歴を持つエストロゲン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌患者をgiredestrant 30mgとeverolimus(mTOR阻害剤)の併用群と標準療法(tamoxifenなど)とeverolimusの併用群に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間、治験医評価)を比較した。共同主評価項目であるintent-to-treatベースの解析と、ESR1変異型だけの解析の両方が成功した。全生存期間は未成熟だが好ましい傾向が見られる由。

giredestrantは一次治療や術後アジュバントなどでも第3相試験中。

リンク: 同社のプレスリリース


seltorexantの第3相は一勝二敗に
(2025年9月22日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンはJNJ-7922(seltorexant)が第3相鬱病実薬対照試験で主目的を達成しなかったと発表した。数値上上回ったので悪くはないと受け止めるべきなのか、良く分からないが、これで鬱病における第3相試験成績は一勝二敗となってしまった。抗鬱剤は2勝1敗なら承認される可能性が十分あるので、次の注目は、26年末開票見込みのもう一本の成否だろう。

選択的オレキシン2受容体アンタゴニストで、不眠症を伴う、抗鬱剤で治療しても中重度症状の鬱病に追加投与する用途用法で第3相入りした。24年にMDD3001試験が成功、43日MADRS総スコアが偽薬比-2.6、p=0.007だった。一方、MDD3002試験は独立データ監視委員会が中間解析で中止を勧告した。同スコアが偽薬比-0.9に留まった模様だ。

今回のMDD3005試験の主評価項目は奏効率(26週MADRS総スコアが半減以上)で、試験薬群は57.4%とquetiapine XR群の53.4%を上回ったが有意ではなかった。MADRS総スコアは各群-23.0と-22.7だった。忍容性面では傾眠の発生率が6%対24%、体重増加が0.5kg対2.1kgと、小さかった。

オレキシン受容体アンタゴニストは不眠症治療薬として複数が承認されている。seltorexantが不眠を伴う鬱病に試験されているのも睡眠促進という付加価値に期待しているのではないかと思われ、実際、副次的評価項目として睡眠尺度も採用されているようだが、不眠症薬の評価尺度と異なるので、どの程度の意味があるのかわからない。

リンク: 同社のプレスリリース


Acadia社、プラダー・ウィリ症候群試験がフェール
(2025年9月24日発表)

Acadia Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はACP-101(carbetocin、点鼻スプレー)の第3相COMPASS PWS試験がフェールしたと発表した。開発中止する考え。

プラダー・ウィリ症候群(PWS)は16000出生に一人の希少神経発達障害。父由来のものしか発現しない遺伝子が機能せず、食欲を抑制できずに肥満になったり、軽中度の発達障害を発現したりする。

carbetocinは帝王切開時の出血予防などに用いられているオキシトシン類縁体。PWS(プラダー・ウィリ症候群)向けに開発販売する権利をFerring PharmaceuticalsからライセンスしたLevo Therapeuticsが第3相試験で第8週HQCT(臨床試験用過食質問票)を偽薬と比較したところ、9.6mg群はフェールしたが、副次的評価項目に設定された3.2mg群はp=0.016と有意差が見られた。承認申請を断行したが、一本の試験で承認できるほど便益が著しく大きくはないことなどから、諮問委員会では13人中12人が反対し、22年1月に審査完了通知を受領した。

AcadiaはLevo社を22年に買収し今回の試験を実施したが、実らなかった。

リンク: Acdia社のプレスリリース


カンナビジオールの脆弱X症候群試験がフェール
(2025年9月24日発表)

Harmony Biosciences(Nasdaq:HRMY)はZYN002(cannabidiol)の第3相脆弱X症候群試験がフェールしたと発表した。偽薬群の応答率が想定以上に高かった。詳細な検討を行う考え。

脆弱X症候群はシナプスの発達などに関わる蛋白のFMR1遺伝子にCGGリピート増幅変異があり、発達遅延や知的障害などの神経症状が現れる。7割程度の患者ではFMR1遺伝子が完全にメチル化されFMRPが生成されずエンドカンナビノイド系が制御できなくなるため重症化しやすい。推定有病率は男性は4000~7000人に一人、女性は8000~10000人に一人。

ZYN002はカンナビノイドの麻薬的成分であるTHCを含まない合成カンナビジオールの経皮投与用ジェル製剤。第3相RECONNECT試験で3~29歳の患者215人を組入れて18週間投与し、主評価項目としてFMR1遺伝子完全メチル化サブグループにおける社交回避尺度を偽薬と比較した。

Zynerba Pharmaceuticalsが実施した第2相はフェール、Harmonyが買収して第3相を断行したが、実らなかった。

リンク: Harmony社のプレスリリース

【承認申請】


アッヴィ、新規パーキンソン病薬を承認申請
(2025年9月26日発表)

アッヴィは選択的ドーパミンD1/D5部分作動剤tavapadonをパーキンソン病薬としてFDAに承認申請した。早期患者を組入れた第3相試験二本で運動症状(MDS-UPDRSパートIIとパートIII)が偽薬比有意に改善した。レボドーパだけでは十分管理できない患者を組入れて追加投与した試験では、ジスキネジアを伴わない管理良好時間(オンタイム)が偽薬追加群より1時間長かった。

他のドパミン・アゴニストと比べて鎮静や衝動制御障害が起きにくいとされる。幻覚リスクが見られ、早期患者試験のうち5mg群と15mg群が設定された試験では後者の6%で、5~15mgで滴定するフレックス・ドーズ試験では4%で、報告された。

ファイザーが第2相で開発中止したPF-06649751をライセンスしたCerevel Therapeuticsを、24年に企業価値87億ドルで買収して入手したもの。

リンク: アッヴィのプレスリリース


エンハーツを乳癌一次治療に適応拡大
(2025年9月24日発表)

第一三共は、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を米国で成人のher2陽性(IHC3+またはISH+)切除不能/転移乳癌の一次治療に適応拡大申請し、受理されたと発表した。審査期限は、開発販売パートナーであるアストラゼネカのサイトに掲載されている両社の英文プレスリリースによると26年第1四半期、第一三共の日本語単独プレスリリースによると26年1月23日。

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)発表によると、第3相DESTINY-Breast09試験の中間解析で、ロシュの抗2C4抗体pertuzumabと併用した群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン40.7ヶ月と標準療法群(taxane系抗癌剤、trastuzumab、及びpertuzumabを併用)の26.9ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.56、統計的に有意だった。全生存期間は未成熟で有意水準には達していないがハザード・レシオ0.84と悪い方向には向いていない。間質性肺疾患/肺臓炎はG3/4はゼロだったがG5が0.5%で発生した(対照群は0%)。

この試験はEnhertuと偽薬を投じる群も設定されているが、まだデータが熟していない模様だ。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


スピンラザの高用量は承認されず
(2025年9月23日発表)

バイオジェンはIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスして開発販売している脊髄性筋萎縮症用薬Spinraza(nusinersen)の高用量を承認申請し、日本では今月、承認されたところだが、米国は審査完了通知を受領した。CMC(化学、製造、管理)に関する技術情報のアップデートを求められたとのこと。対処方法の選択肢も提示されているとのことなので、それほど大きな問題ではないのかもしれない。

Spinrazaの初承認時の用量と投与頻度は、12mgをインダクション期は第0日、14日、28日、58日に、維持期は4週毎に、髄腔内投与する。高用量はインダクションとして50mgを2週おいて2回、維持期は28mgを4週毎というもの。第2/3相EVOTE試験のパートBで未治療、症候性の乳児発生型患者75人を組入れて第6月のCHOP-INTEND(Children's Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders)を評価したところ、承認用量の第3相試験の偽薬群の適合症例群を有意に上回った。承認用量を投与した群と比べても上回る傾向が見られた。

リンク: バイオジェンのプレスリリース


Scholar Rockの脊髄筋萎縮症用薬は審査完了に
(2025年9月23日発表)

Scholar Rock(Nasdaq:SRRK)はSRK-015(apitegromab)を脊髄筋萎縮症(SMA)用薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。フィル・フィニッシュ委託先であるCatalent IndianaをFDAが査察した時に観察事項があったこと以外は言及されていない由。Catalent Indianaは8月にFDAに回答しており、同社は、問題解消後に修正申請する考え。

マイオスタチンの前駆体・不活性体を阻害する点滴静注用薬。第3相SAPPHIRE試験で既承認薬による治療を受けている歩行不能な2/3型SMAに追加投与する便益を検討したところ、52週HFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale Expanded)が偽薬比有意に改善した。上記の問題は8月の中間決算発表電話会議で言及された由だが、プレスリリースには記載されておらず、製造問題だけでなく公正開示問題も発生しているのではないかと思料される。

ノボ ノルディスクがCalatentの買収を発表した時は業界に戦慄が走ったのではないかと想像される。今回の問題は買収前からの不備と推測されるが、Scholar Rockは上記製造施設は現在はCatalentではなくノボ ノルディスクが所有運営していることを付記している。

リンク: 同社のプレスリリース


レキサルティのPTSD適応は審査完了に
(2025年9月20日発表)

大塚製薬と開発販売パートナーのルンドベックは、非定型的向精神薬Rexulti(brexpiprazole)の適応拡大申請に関してFDAから審査完了通知を受領したと発表した。PTSD(トラウマ後ストレス障害)にsertralineと併用する第2相と二本の第3相を実施したが、明らかに成功したと言えるのは第3相一本だけであり、その試験でも臨床的に意味のある効果は見られなかったため、7月に開催された諮問委員会でも11人中10人が承認を支持しなかった。

リンク: 両社のプレスリリース(大塚の和文リリースより少し詳しい)

【承認】


先端巨大の経口薬が承認
(2025年9月25日発表)

Crinetics PharmaceuticalsはFDAがPalsonify(paltusotine)を成人の切除に十分応答しない、または切除不適の先端巨大用薬として承認したと発表した。40mg一日一回経口投与で開始し、忍容性やIGF-1水準に応じて20~60mgの範囲で滴定する。EUでも承認申請中。日本は22年に三和化学がライセンスした。

ソマトスタチン受容体2型アゴニスト。承認されているソマトスタチン類縁体と異なり、経口投与できることが特徴。初めて治療を受ける患者や承認薬からスイッチする患者を組入れた試験で、奏効率(IGF-1水準が正常範囲で推移)が偽薬群を大きく上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


リリーのエストロゲン受容体ブロッカーが承認
(2025年9月25日発表)

FDAはイーライリリーの選択的エストロゲン受容体零落剤Inluriyo(imlunestrant)を成人の一次以上の内分泌療法歴のあるエストロゲン受容体陽性、her2陰性、ESR1変異陽性の進行/転移性乳癌用薬として承認した。400mgを一日一回、空腹時に服用する。ESR1のライガンド結合部位における変異を調べるctDNAコンパニオン診断薬としてGuardant360 CDxも承認した。

第3相EMBER-3試験で日本を含む世界の施設で874人を組入れてPFS(無進行生存期間、治験医評価)を標準的内分泌療法群(fulvestrantまたはexemestane)と比較したところ、ESR1変異サブグループ(256人)ではハザードレシオ0.62、メジアン値は5.5ヶ月対3.8ヶ月だった。共同主評価項目の一つである全被験者の解析はハザードレシオ0.87、5.6ヶ月対5.5ヶ月となりフェールした。全生存期間の解析は未成熟。

尚、この試験はimlunestrantと同社のCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)を併用する群も設定され、第3の主評価項目である全被験者におけるPFSはハザードレシオ0.57、9.4ヶ月対5.5ヶ月、p<0.001と良好だったが、データが十分に熟していない模様であり、未だ承認されていない。この群はG3以上の有害事象発生率が48%と単剤群の17%、標準療法群の20.7%より高かった点も気になるところだ。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


カプレルサのREMSが終了
(2025年9月25日発表)

FDAはサノフィの甲状腺髄様腫用薬Caprelsa(vandetanib)に関するREMS(リスク評価管理戦略)を撤廃した。市販後の14年間にTdP(トルサード・ド・ポアンツ)などの突然死が報告されていないことや、心拍モニタリングが励行されていることなどを踏まえて、医師の研修や認定、特別なモニタリングなどを強制する必要はないと判定した。心拍モニタリング不要と判定されたわけではない。

向精神薬clozapineも今年2月にREMSが解除された。何れも、深刻な副作用を早期発見するための検査が軽んじられないように導入されたものだが、導入から10年以上経ち、当初の目的は達成されたと判断した。医師のルーチンに組み込まれた後は、様々な記録や手続きの煩わしさだけが残ることになるからだ。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌にTecentriq併用)
25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)
25/11推JNJのTremfya(guselkumab皮下注、潰瘍性大腸炎)
25/11推Fondazione TelethonのTelethon 003(etuvetidigene autotemcel、Wiskott-Aldrich症候群)
25/11推ノバルティスのLOU-064(remibrutinib、慢性特発性蕁麻疹)
25/11推ノボ ノルディスクの経口semaglutide(肥満症、25mg追加)
25/11推ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、T2DのPAD治療)
25/11推Biohaven PharmaceuticalのBHV-4157(troriluzole、脊髄小脳失調症)
25/11推田辺三菱製薬のND0612(levodopa、carbidopa、パーキンソン病)
25/11推Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab、皮膚扁平上皮腫追加)
25/11推バイエルのBAY 2927088(sevabertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/11推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、胃・胃食道接合部腫瘍における周術期療法)
25/11/18Arrowhead PharmaceuticalsのARO-APOC3(plozasiran、家族性カイロミクロン血症)
25/11/28ビステラ(大塚製薬子会社)のsibeprenlimab(IgA腎症)
25/11/30Kura OncologyのKO-539(ziftomenib、急性骨髄性白血病)
25/11/30Ascendis PharmaのTransCon CNP(navepegritide、軟骨無形成症)
25/11/30ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-bysp、濾胞性リンパ腫2次治療を追加)





今週は以上です。

2025年9月21日

第1225回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • JAK1/TYK2阻害剤を皮膚筋炎に承認申請へ 
  • 進行性骨化性線維異形成症用薬を承認申請へ 
  • サフネロー自己皮下注用製品の第3相が成功 
  • プラミベキソール異性体の好酸球性喘息試験が成功 
  • ファセンラの第3相COPD試験、なぜか今回もフェール 
  • ニューロピリン2調節剤の肺サルコイドーシス試験がフェール 
  • CHMPがRSV感染予防薬などの承認を支持 
  • バース症候群薬が遂に承認 
  • 皮下注用キートルーダが承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


JAK1/TYK2阻害剤を皮膚筋炎に承認申請へ
(2025年9月17日発表)

Roivant(Nasdaq:ROIV)と同社がファイザーと設立した合弁であるPriovant Therapeuticsは、brepocitinibが第3相皮膚筋炎試験で主目的を達成したと発表した。この一本で26年上期に新薬承認申請する考え。

ファイザーからJAK1/TYK2阻害剤PF-06700841の世界開発権と米日商業化権をライセンスしたもの。第3相はステロイドとhydroxychloroquineなどによる治療中/治療歴のある成人患者241人を偽薬、15mg、または30mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして、52週TIS(全般的改善スコア)を比較した。至適用量と判定された30mg群は46.5と偽薬群の31.2を有意に上回った。15mg群の成績は不明。ステロイド治療を受けている患者は治験中に漸減するプロトコルが採用されており、30mg群は42%が使用を中止できた(偽薬群は23%)。腫瘍や心血管リスクは見られなかった。

皮膚筋炎は多臓器性炎症疾患でラッシュや脱力、間質性肺疾患、腫瘍、心不全などを合併するリスクがある。米国の推定患者数は5万人。

リンク: 両社のプレスリリース


進行性骨化性線維異形成症用薬を承認申請へ
(2025年9月17日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗Activin A抗体REGN2477(garetosmab)が第3相進行性骨化性線維異形成症(FOP)試験で主目的を達成したと発表した。25年末までに米国で、26年には他の国でも、承認申請する考え。

FOPは全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが徐々に硬くなって骨に変わり、手足の可動域が狭まったり背中が変形したりする。多くの患者で膜貫通型受容体ACVR1の変異が見られ、Activin Aにより活性化されることで異所性骨化が進行すると考えられている。推定患者数は世界で900人。

日本も参加した第3相OPTIMA試験で16歳以上のACVR1にFOPの原因になりうる変異を持つFOP患者63人を組入れて、偽薬、3mg/kg、または10mg/kgを4週毎静注したところ、56週新規異所性骨化病変数が各群19、1、2となり、2用量とも偽薬比有意な(p<0.03)抑制作用が示された。副次的評価項目である臨床的増悪回数は各群70回、53回、9回となり、89%抑制した高用量群のみが有意(p=0.0007)だった。

リンク: 同社のプレスリリース


サフネロー自己皮下注用製品の第3相が成功
(2025年9月17日発表)

アストラゼネカは、21~22年に米日欧で中重度全身性エリテマトーデス用薬として承認された点滴静注用抗インターフェロンIサブユニット1抗体、Saphnelo(anifrolumab-fnia)の自己皮下注用新製剤が、第3相TULIP-SC試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。データはACR(米国リウマチ学会)で発表する考え。

この試験は自己抗体陽性の中重度活性期全身性エリテマトーデスで標準療法を受けている患者を偽薬群と12mgを週一回皮下注する群に無作為化割付けして、52週BICLA奏効率を比較した。中間解析の症例数は220人。

リンク: 同社のプレスリリース


プラミベキソール異性体の好酸球性喘息試験が成功
(2025年9月16日発表)

米国ノース・キャロライナ州の医薬品開発合弁企業、Areteia Therapeuticsは、KNS-760704(dexpramipexole dihydrochloride)が第3相EXHALE-4試験で主目的等を達成したと発表した。好酸球性喘息症患者の一秒量(FEV1)を偽薬比有意に改善した。

試験薬はパーキンソン病治療薬として販売されているドーパミンD2受容体アゴニスト、pramipexoleのR異性体。Knopp Biosciencesがバイオジェンと提携して筋委縮性側索硬化症に150mgを一日二回経口投与する第3相試験を実施したが、ほとんど効果が見られなかった。同社は好酸球数減少作用が見られたことに注目、第2相中重度好酸球性喘息症試験を実施したところ、用量依存的に好酸球数が減少しFEV1も改善したことから、プライベート・エクイティのPopulation Health PartnersとともにAreteiaを設立した。

今回の試験は米州欧州台湾などの施設で12歳以上、AEC(好酸球数)が300セル/mcL以上、かつ管理不良の中重度好酸球性喘息症600人を組入れて、偽薬、75mg、または150mgを一日二回、経口投与した。主評価項目は気管支拡張剤吸入前のFEV1(第20週と24週の平均)。150mg群が偽薬を有意に上回った。副次的評価項目のAECは両用量とも偽薬を有意に下回った。忍容性は良好。データは学会などで発表する予定。

日本も参加している第3相EXHALE-2試験と-3試験は、米州欧州アジア・アフリカの施設で前者は1395人、後者は930人を組入れて、52週間の重度増悪リスクを偽薬と比較している。27年頃に成否判明する見込み。

リンク: Areteia社のプレスリリース


ファセンラの第3相COPD試験、なぜか今回もフェール
(2025年9月17日発表)

アストラゼネカはIL-5受容体アルファ・チェーンに結合するポテリジェント抗体、Fasenra(benralizumab)を管理不良喘息症や鼻茸を伴う管理不良慢性副鼻腔炎の治療薬として開発販売している。COPDは鬼門なのか、POC試験がフェール、第3相試験も二本ともフェール、患者を絞り込んで再挑戦したが、今回、フェールした。

最初の二本のうち、日本も参加したGALATHEA試験は100mg8週毎投与群のCOPD増悪が偽薬比0.83、95%上限1.00と、あと一歩だった。今回の日本も参加したRESOLUTE試験は好酸球数300個/mcL以上の好酸球増多型だけを組入れて、主評価対象を治療薬3剤併用しても年3回以上増悪した患者だけに絞り込んだが、駄目だった。

GSKの抗IL-5抗体、Nucala(mepolizumab)は好酸球性COPDにも承認されており、なぜFasenraはダメなのか、よくわからない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


ニューロピリン2調節剤の肺サルコイドーシス試験がフェール
(2025年9月15日発表)

米国カリフォルニア州の医薬品開発会社、aTyr Pharma(Nasdaq:ATYR)は、ATYR1923(efzofitimod)の第3相肺サルコイドーシス試験で主目的を達成できなかったと発表した。副次的評価項目などに注目し、FDAと今後を相談する考え。株価は大きく下落した。

同社はScripps Research InstituteにおけるtRNA合成酵素の研究に基づき設立された。ATYR1923はtRNAとヒスチジルを結合する酵素のスプライシング変異型のiMODドメインとIgGのFc領域を融合してneuropilin-2に結合・作動するように調整した融合蛋白。炎症や線維化を抑制する一方で免疫は低下させない可能性がある。日本市場はキョーリン製薬がライセンスしている。

第3相EFXO-FIT試験は米欧日ブラジルの施設で268人の患者を偽薬、3mg/kg、5mg/kgの3群に無作為化割付けして48週間に亘り4週毎反復投与し、標準治療薬である経口コルチコステロイドの服用量を抑制する便益を検討した。ステロイドは最初の12週間に漸減し、その後は必要に応じて増減した。結果は、一日当たり平均量がベースライン比で各群7.1mg、7.1mg、7.9mg減少し、両用量群ともフェールした。偽薬群の減少が前提より大きかったようだ。

ステロイド・フリー達成率は各群40.2%、51.8%、52.6%でフェール。KSQ(King's Sarcoidosis Questionnaire)-Lung scoreはベースライン比6.2点、7.3点、10.4点で高量群は偽薬比名目p=0.0479とボーダーライン近辺。FVC(%予測値)は2.1%減、2.7%減、1.8%減でフェールした。深刻有害事象の発生率は各群大差なく、抗薬物抗体発現率も大差なかったと記されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがRSV感染予防薬などの承認を支持
(2025年9月19日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのEnflonsia(clesrovimab)は抗RSV F抗体。6月に承認された米国と同様に、最初のRSVシーズンを迎える新生児・幼児がRSウイルス感染症に罹患し下部気道感染症を合併するリスクを抑制する目的で一回筋注することが支持された。結合部位がやや異なる既存薬と異なり、二回目のRSVシーズンは適応にならない。7月に日本でも承認申請された。

リンク: EMAのプレスリリース

ジョンソン エンド ジョンソン・グループのJanssen-Cilag InternationalのImaavy(nipocalimab)は抗胎児性FcR抗体。4月に承認された米国と同様に、12歳以上のAChRまたはMuSKに対する自己抗体を持つ全身型重症筋無力症患者が適応になる見込み。日本でも8月に第1部会を通過した。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのKyinsu(insulin icodec、semaglutide)は同社の長期作用性インスリンとGLP-1作用剤の合剤。基礎インスリンまたはGLP-1受容体作動剤で治療しても管理不十分の二型糖尿病に、食事療法、運動療法、そして経口血糖治療薬と併用する。icodecは24年にEUと日本で一型、二型を問わず承認されたが、米国では製造問題や一型糖尿病における課題(低血糖リスクが高まる)などから同年7月に審査完了通知を受領しており、合剤は未だ申請されていないのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

バイエルのLynkuet(elinzanetant)は非ホルモン系選択的NK-1・NK-3受容体拮抗剤。中重度血管運動性症状(ホットフラッシュなど)の患者に120mgを一日一回経口投与する。アステラス製薬のNK-3受容体拮抗剤Veoza(米国名はVeozah)との違いは、閉経期だけでなく、乳癌の摘出術後内分泌療法の副作用として発症する血管運動性症状も適応になる見込みであること。

GSKからスピンアウトしたNeRRe Therapeuticsを20年に買収して入手した。

リンク: EMAのプレスリリース

Cassiopea S.p.A.が尋常性挫創治療薬として承認申請したアンドロゲン受容体拮抗剤Winlevi(clascoterone 1%クリーム)は、CHMPが未成年に対する悪影響を懸念し4月に否定的意見をまとめたが、今回、肯定的意見に転じた。変更の理由は不明だが、いずれにせよ、同社が皮膚学や内分泌学のエキスパートの支持を集めて再審請求したことが奏功した。

適応は12~17歳の顔面尋常性挫創と成人の尋常性挫創。一日二回、患部に塗布する。米国では20年に承認。Cassiopeaはアイルランド籍のCosmo Pharmaceuticals(SIX:COPN)の子会社。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も支持された。

  • アムジェンのUplizna(inebilizumab):成人の活性期IgG4関連疾患。米国では4月に承認。
  • サノフィのDupixent(dupilumab):12歳以上のH1抗ヒスタミンに応答不十分、かつ抗IgE抗体未経験の中重度慢性特発性蕁麻疹。日本では昨年2月に、米国ではライセンサーのRegeneron Pharmaceuticalsが今年4月に適応拡大。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab):成人のPD-L1陽性(CPS≧1)の切除可能局所進行頭頚部癌。摘出術の前と後に投与する。米国では6月に承認。
  • 同、Keytruda(pembrolizumab)皮下注用液:オリジナルの製剤は点滴静注用だが韓国のAlteogen(KOSDAQ:196170)が開発したヒアルロン酸分解酵素を事前に投与することで皮下注を可能にした。米国ではKeytruda Qlex(pembrolizumab and berahyaluronidase alfa-pmph)として今週、承認された(下記、なぜか欧米で表記が異なる)。
  • アストラゼネカのTezspire(tezepelumab):成人の重度鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(但し、全身性ステロイド且つ又手術で十分な疾病管理を果たせなかった場合)。
  • ロシュのLunsumio(mosunetuzumab):濾胞性リンパ腫の3次治療以降。米国は9月22日が審査期限。
  • アストラゼネカのKoselugo(selumetinib):小児に加えて、成人の神経線維腫症1型における叢状神経線維腫も適応に。日本では8月に承認済み。

  • 以下の承認申請撤回事案について、その時点における審査状況が公表された。

  • Iovance BiotherapeuticsのAmtagvi(lifileucel):自家TIL(腫瘍浸潤リンパ球)を切除不能/転移悪性黒色腫に承認申請したが、CHMPは応答率が低く命に係わる有害事象も発生したことや、用量検討やGMPデータが不十分であることから、否定的に考えていた。米国では昨年2月に承認、今年8月にはカナダでも承認された。
  • Rocket PharmaceuticalsのFanskya(mozafancogene autotemcel):ファンコニ貧血のex vivo遺伝子療法。レンチウイルスで幹細胞にFANCA遺伝子を導入するが、CHMPは何コピー導入できたか確認する手法が確立していないことや、対照試験が実施されていないこと、臨床的な便益が確認されていないことなどから、否定的に考えていた。
  • Regulatory Pharma Net S.r.l.のmidazolam点鼻スプレー製剤:癲癇発作治療薬Tuzodiと意識下鎮静用薬Omforroとして承認申請されたが、CHMPは用量や品質、ニトロソアミン試験、管理、バリデーションなどに関する検討やデータが不十分と判定していた。代行申請ではないかと思い調べたところ、TuzodiはAKROSWISS AGが商標登録している。

  • 【承認】


    バース症候群薬が遂に承認
    (2025年9月19日発表)

    FDAはStealth BioTherapeuticsのForzinity(elamipretide HCI)を体重30kg以上のバース症候群患者の筋力改善薬として承認し、希少小児疾患用薬優先審査バウチャを供与した。加速承認なので、改めて無作為化割付け偽薬対照試験を実施して膝伸筋力の改善が臨床的便益に繋がることを確認する必要がある。体重30kg未満の患者が適応外となったため、同社は、Expanded Access Programを続行すると共に、防腐剤不添加品の承認に向けてFDAと協議する考え。

    バース症候群はX染色体上のTAZ遺伝子の変異によりミトコンドリア機能が悪化し、心不全や不整脈、運動障害、白血球減少による感染症などを合併する。ほぼ全てが男性。推定患者数は米国で150人、世界で250人程度の超希少疾患。4歳前に死亡する症例もあり、幼小児適応は重要な課題。

    Forzinityはミトコンドリアのcardiolipinに結合し内側ミトコンドリア膜の構造を正常化すると考えられている。同社は21年に承認申請を断行したが、第2相試験はフェールしていたため受理されなかった。自然歴との比較試験を行い24年に再申請したが、諮問委員会で賛成10人、反対6人と票が分かれるほど評価が困難であるため、今年5月に審査完了通知を受領した。FDAが第2相の副次的評価項目である膝伸筋力のデータに基づく加速承認を示唆したため今年8月に修正申請したところ、審査期限の来年2月15日より大幅に早く、承認となった。

    リンク: FDAのプレスリリース


    皮下注用キートルーダが承認
    (2025年9月19日発表)

    FDAはMSDのKeytruda Qlex(pembrolizumab and berahyaluronidase alfa-pmph)を承認した。適応は12歳以上の、点滴静注用薬が承認されている固形癌。未治療転移非小細胞性肺癌の白金薬併用点滴静注用製剤対照試験で、薬物動態やORR(客観的反応率)が事前に設定された許容水準をクリアした。残された点滴静注用の適応である古典的ホジキン型リンパ腫や原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫は別途試験中。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
    25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
    25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
    25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
    25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌にTecentriq併用)
    25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
    25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
    25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
    25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
    25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)
    25/11推JNJのTremfya(guselkumab皮下注、潰瘍性大腸炎)
    25/11推Fondazione TelethonのTelethon 003(etuvetidigene autotemcel、Wiskott-Aldrich症候群)
    25/11推バイオジェンのSpinraza(nusinersen、脊髄性筋萎縮症用薬の高量追加)
    25/11推ノバルティスのLOU-064(remibrutinib、慢性特発性蕁麻疹)
    25/11推ノボ ノルディスクの経口semaglutide(肥満症、25mg追加)
    25/11推ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、T2DのPAD治療)
    25/11推Biohaven PharmaceuticalのBHV-4157(troriluzole、脊髄小脳失調症)
    25/11推田辺三菱製薬のND0612(levodopa、carbidopa、パーキンソン病)
    25/11推Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab、皮膚扁平上皮腫追加)
    25/11推バイエルのBAY 2927088(sevabertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/11推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、胃・胃食道接合部腫瘍における周術期療法)
    25/11/18Arrowhead PharmaceuticalsのARO-APOC3(plozasiran、家族性カイロミクロン血症)
    25/11/28ビステラ(大塚製薬子会社)のsibeprenlimab(IgA腎症)
    25/11/30Kura OncologyのKO-539(ziftomenib、急性骨髄性白血病)
    25/11/30Ascendis PharmaのTransCon CNP(navepegritide、軟骨無形成症)
    25/11/30ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-bysp、濾胞性リンパ腫2次治療を追加)




    今週は以上です。

    2025年9月13日

    第1224回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国でオベチコール酸が販売停止に 
  • キャップバックスの未成年試験が成功 
  • コミナティのLP.8.1株免疫原性試験が成功 
  • ジャイパーカのCLL試験がまた成功 
  • WCLC:Summit社、HARMONi試験の追加追跡データを発表 
  • WCLC:抗B7-H3抗体薬物複合体が進展型小細胞性肺癌に高い反応率 
  • 免疫刺激の小さい尿酸酸化酵素を承認申請 
  • ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症用薬は承認されず 
  • 膀胱内gemcitabineが承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    米国でオベチコール酸が販売停止に
    (2025年9月11日発表)

    イタリアのAlfasigmaの子会社であるIntercept Pharmaceuticalsは、米国市場で原発性胆汁性肝硬変用薬Ocaliva(obeticholic acid)を自主回収すると発表した。FDAが治験認可を停止したことも公表した。16年に加速承認されたが、市販後薬効確認試験で臨床的便益が確認されず、深刻な肝障害などのリスクが顕在化してしまった。

    これまでの経緯
    15年6月米国でALP正常化作用に基づきローリング承認申請完了
    16年4月FDA胃腸薬諮問委員会で17人の委員全員が薬効や安全性を支持
    16年5月米国で加速承認(ウルソデオキシコール酸による治療に応答不十分/不耐の原発性胆汁性胆管炎)
    16年12月EUで条件付き承認(適応は米国と同様)
    17年9月ドクター・レター発出、市販後に致死例を含む深刻肝障害が複数報告された
    21年5月米国で非代償性肝硬変合併などが禁忌に。対象患者数が半減
    23年11月イタリアのAlfasigmaの完全子会社に
    24年2月米国でCOBALT試験(薬効確認試験だがフェール)のデータの追加申請受理
    24年11月EUで加速承認取消(COBALT試験がフェールしたため)
    24年9月FDA胃腸薬諮問委員会で便益が危険を上回ると回答したのは14人中1人のみ
    24年11月米国でCOBALTデータに関する審査完了通知を受領
    24年12月市販後試験で肝移植/死亡リスクが偽薬群の4.77倍とFDAが発表
    25年9月米国で自発的に販売停止
    参考:NASH(MASH)に関わる動き
    19年2月ステージ2/3肝線維症を伴うNASHの第3相が中間で主目的達成
    19年9月米国で適応拡大申請
    19年12月EUで適応拡大申請
    20年6月米国で審査完了通知を受領(臨床的便益が未確立)
    21年12月EUで申請撤回(CHMPが否定的スタンス)
    22年9月代償性肝硬変を合併するNASHの第3相がフェール
    22年12月米国で再申請
    23年5月FDA胃腸薬諮問委員会で便益が棄権を上回ると判定したのは16人の委員中2人のみ
    23年6月FDAから審査完了通知を受領、開発中止

    出所:各種資料から作成

    リンク: 同社のプレスリリース

    【新薬開発】


    キャップバックスの未成年試験が成功
    (2025年9月11日発表)

    MSDは21価肺炎球菌結合型ワクチンCapvaxive(和名キャップバックス)の第3相Stride-13試験の結果を欧州の学会で発表した。未成年においても、PPSV23(同社の23価莢膜ポリサッカライド肺炎球菌ワクチン、Pneumovax)と比べて、共通する12血清型に関しては免疫原性が非劣性、独自9型では優越性が確認された。24~25年に米欧日で成人向けに承認されたところだが、未成年向けに適応拡大申請する考え。

    今回の試験は、糖尿病などの持病を持つ、7価、10価、または13価の肺炎球菌ワクチンによる当初接種を受けた2~17歳の882人を、Capvaxive群とPPSV23群に無作為化割付けして、接種30日後のOPA(オプソニン化貪食活性)試験におけるGMT(幾何平均抗体価)を比較した。主評価項目である血清型毎の抗体価が、共通12型に関しては非劣性、独自9型は優越性が確認された。非劣性判定の閾値はGMT比の95%下限が0.5超、優越性判定は2.0超で、成人向けの第3相試験と同じだ。

    副次的評価項目では21型夫々についてOPA GMTベースの免疫応答が確認された。有害事象発生率は両群同程度だったが、注射箇所反応は72.3%対58.2%で上回った。これも成人向け試験でも見られた現象だ。

    リンク: MSDのプレスリリース


    コミナティのLP.8.1株免疫原性試験が成功
    (2025年9月8日発表)

    ファイザーとBioNTechは25/26シーズン用Comirnatyの LP.8.1株に関する免疫原性試験が良好な結果になったと発表した。レーベル収載申請を行う考え。このLP.8.1ベース・ワクチンは7~8月に欧日米で承認された。米国のレーベルにLP.8.1株に関する臨床データが記載されていないため奇異に感じたが、その時点では無かった訳だ。

    今回の試験は65歳以上を50人組入れた試験と18-64歳のリスク因子を持つ50人を組入れた試験の二つ。何れも中和抗体力価が接種前と比べ平均で4倍以上に増加した。

    リンク: 両社のプレスリリース


    ジャイパーカのCLL試験がまた成功
    (2025年9月8日発表)

    イーライリリーは、非共有結合性btk阻害剤Jaypirca(pirtobrutinib)が第3相BRUIN CLL-313試験で主目的を達成したと発表した。BRUIN CLL-314試験も達成しており、年内にグローバル承認申請を開始する考え。今後の追跡で全生存期間の優越性が確認されるか、注目される。

    JaypircaはCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)に関してbtk阻害剤とbcl-2阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ患者を組入れた第2相単群試験で良好な成績を上げ、23年に米国で加速承認された。その後、第3相BRUIN CLL-321試験でbtk阻害剤歴のある患者のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)が医師が選んだ治療法(idelalisibまたはbendamustineをrituximabと併用)を有意に上回り、EUでは今年2月に承認、日本でも8月に第二部会で報告があったところだが、この適応はなぜか米国ではまだ承認されていない。この試験の全生存の解析でハザード・レシオが1.09と両群大差なかったことがボトルネックになったのかもしれない。対照群の被験者の5割弱が進行後にJaypircaを用いたため効果が希薄化しており、EMA(欧州薬品庁)は実薬比で悪化していないなら良しと判定したが、FDAは、btk阻害剤のPFS延長作用は延命効果に繋がるとは限らないのできちんと確認すべしという考え方を示したことがある。

    それだけに、今回のもっと早い段階の試験でどの程度の延命効果が見られるか、注目される。

    話を戻すと、313試験は治療歴のないCLL/SLL患者(17p欠損型は除外)282人を組入れて、200mgを一日一回経口投与する群と、 bendamustineとrituximabの併用群のPFSを比較した。統計的に有意且つ臨床的に有意な差があった由。データは未公表。全生存期間の解析は未成熟だが、強度に良好(strongly in favor)なトレンドが見られ、26年にメインの解析を行う予定。

    7月に成功発表された同314試験はbtk阻害剤未経験のCLL/SLLにおけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)を先輩btk阻害剤のImbruvica(ibrutinib)と比較した。主目的の非劣性解析が成功、優越性解析は名目pだが0.05を下回った。副次的評価項目のPFSは未成熟、全生存期間は悪化する懸念は見られないかったとのこと。プレスリリースの書きぶりを見ると、全生存期間は今回の313試験が最も見栄えがしたのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    WCLC:Summit社、HARMONi試験の追加追跡データを発表
    (2025年9月7日発表)

    米国フロリダ州の医薬品開発会社、Summit Therapeutics(Nasdaq:SMMT)は、ivonecimabの第3相EGFR変異型非小細胞性肺癌試験、HARMONiの延長追跡データをWCLC(World Conference on Lung Cancer、International Association for the Study of Lung Cancer主催)で発表した。共同主評価項目である全生存期間のハザード・レシオは正式解析と同程度、名目p値が0.0332と改善したのは良いが、欧米施設におけるハザードレシオは中国施設に見劣りし、名目有意水準には達していない。

    Akeso(康方生物、HKEX:9926.HK)が24年に中国で販売承認を取得した、PD-1とVEGFに結合する二重特異性抗体。Summitは22年に北米、南米、欧州、中東、アフリカ、日本の権利をライセンスした。HARMONi試験は第3世代EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療後に進行したEGFR変異陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌を対象に、pembrolizumabとcarboplatinの併用レジメンに追加する便益を検討した。中国のデータは、Akesoが中国だけで実施し中国承認のエビデンスとなったHARMON-A試験のものを借用した模様だ。

    5月の学会発表によると、主評価項目のうちPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザード・レシオ0.52、p<0.00001。全生存期間は0.79、p=0.057(成功認定の閾値は0.0448)でメジアン生存期間は16.8ヶ月と偽薬追加群の14.0ヶ月を数値上は上回った。SummitによるとFDAは全生存期間の有意な延長を承認の要件と考えているようなので、あまりうれしくない成績だった。

    中国症例と比べて欧米症例は追跡期間が短かったため、今回、後者だけ更に追加して解析を行ったところ、全生存期間のハザード・レシオは0.78とそれほど変わらずメジアン生存期間は前回と同じだったが、p値(名目値)が0.0332と改善した。欧米だけのハザード・レシオは0.84で名目的有意水準ではなく、メジアン値は17.0ヶ月と14.0ヶ月と全体の数値と同様だった。

    FDAは中国だけで実施された臨床試験の成績に懐疑心を持っている。今回の試験は被験者の38%をアジア外で組入れているが、別々に実施された試験のプール分析に近い内容なので、懐疑心をどの程度和らげることができるか、頼りない所がある。データ自体も主評価項目がフェールした後の解析なので信憑性が高くなく、0.03は一本の試験だけで承認を取得する上では十分低いとは言えない。FDAが中国以外のデータだけを評価対象とするような事態も考えられないことではないだろう。

    Summitは他の第3相試験も実施しているのでその結果待ちになりそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    WCLC:抗B7-H3抗体薬物複合体が進展型小細胞性肺癌に高い反応率
    (2025年9月7日発表)

    MSDはWCLCでifinatamab deruxtecanを進展型小細胞性肺癌(ES-SCLC)に投与した第2相試験成績を発表した。当局と相談中とのことなので、加速承認申請を視野に入れているのだろう。

    第一三共から共同開発販売権を取得したるB7-H3に結合する抗体とトポイソメラーゼ阻害剤の複合体(第一三共の開発コードはDS-7300)。第2相IDeate-Lung01試験で治療歴のあるES-SCLCにおける便益を検討したところ、至適用量と判定された12mg/kgを投与した137人のcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が48.2%(95%下限39.6%)、メジアン反応持続期間は5.3ヶ月だった。後者はもう少し欲しい所だが、メジアン生存期間が10.3ヶ月と深刻な状態なので贅沢は言えないのだろう。被験者の太宗を占めた3次治療患者105人ではcORRが45.7%、メジアン反応持続期間は4.3ヶ月、メジアン生存期間は記されていない。

    脳転移のある65人では頭蓋内ORRが46.2%だった。G3以上の治療関連有害事象発生率は36.5%で主に骨髄抑制。初期の試験で16.0mg/kgを投与した卵巣癌患者で致死的な治療関連間質性肺疾患が発生したことがあるが、今回の試験でも致死的治療関連間質性肺疾患/肺臓炎が2人(1.5%)で発生、G3も4人(2.9%)いた。

    リンク: MSDのプレスリリース

    【承認申請】


    免疫刺激の小さい尿酸酸化酵素を承認申請
    (2025年9月10日発表)

    Sobi(STO:SOBI)はSEL-212、別名NASP(Nanoecapsulated Sirolimus plus Pegadricase)を米国で管理不良痛風用薬として承認申請し受理されと発表した。審査期限は26年6月27日。霊長類が遠い昔に産生しなくなった尿酸酸化酵素、ウリカーゼの補充療法は、既にrasburicaseが腫瘍崩壊症候群に伴う急性高尿酸血症薬として、アムジェンのKrystexxa(pegloticase)が管理不良痛風用薬として、実用化されているが、アナフィラキシーなどのリスクを伴う。NASPはPEG化ウリカーゼの前に同梱されている免疫抑制剤sirolimusを点滴静注することでリスクを緩和する。第3相試験2本でキサンチン酸化酵素阻害剤に応答不十分または不耐の慢性痛風患者を偽薬、0.1mg/kg、または0.15mg/kgを4週毎点滴静注する群に無作為化割付けして第6月の血清尿酸値正常化奏効率を比較したところ、一本では各群4%、48%、56%、もう一本では12%、41%、47%だった。

    米国マサチューセッツ州のSelecta Biosciences(Nasdaq:SELB)から中国以外での製造開発商業化権をライセンスしたもの。

    リンク: Sobiのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症用薬は承認されず
    (2025年9月8日発表)

    タックス・ヘブンとして知られるダブリンやバミューダで事業を行う未上場企業、Saol Therapeuticsは、SL1009(sodium dichloroacetate)をPDCD(ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)用薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加試験の実施を求められた様子だが、資金繰り制約や、命に係わる疾患の患者が何年も待たなくてはならなくなることから、FDAと協議する考え。

    PDCDは炭水化物の酸化障害により乳酸アシドーシスが起こりやすく、神経系や筋骨格系疾患を合併するリスクがある。米国では数百人が治療を受けている。SL1009は残存するピルビン酸脱水素酵素複合体の活性を刺激し、ミトコンドリアにおけるATP生成を増強するとされる。6ヶ月~17歳の米国患者34人を組入れた第3相クロスオーバー試験で全般症状改善作用を評価したがフェールした。しかし、延長試験で運動機能に便益が見られたことや、データを自然歴と比較した分析に基づき、承認申請を断行した。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    膀胱内gemcitabineが承認
    (2025年9月9日発表)

    FDAはJanssen Biotech(ジョンソン エンド ジョンソン・グループ)のInlexzo(gemcitabine)を承認したと発表した。gemcitabineを持続放出するプレッツェル型ディバイスをカテーテルで膀胱内に留置するシステムで、麻酔不要、入院不要。BCG膀胱内注入に応答しない、上皮内癌を伴う筋層非浸潤膀胱癌(乳頭腫瘍の有無は問わない)に用いる。225mgディバイスを最初の8回は3週毎、その後の6回は12週毎に交換する。SunRIS2-1試験のコフォート2(モノセラピー)で完全奏効率が82.4%、うち51%は12ヶ月以上持続した。活性成分の先発薬Gemzarは膀胱癌には承認されていないが、奏効率が高いためか、加速承認ではなく本承認だった。

    19年にTARIS Biomedicalを買収して入手したもの。日本でも今月、承認申請された。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
    25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
    25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
    25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
    25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌にTecentriq併用)
    25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
    25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
    25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
    25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
    25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)
    25/11推JNJのTremfya(guselkumab皮下注、潰瘍性大腸炎)
    25/11推Fondazione TelethonのTelethon 003(etuvetidigene autotemcel、Wiskott-Aldrich症候群)
    25/11推バイオジェンのSpinraza(nusinersen、脊髄性筋萎縮症用薬の高量追加)
    25/11推ノバルティスのLOU-064(remibrutinib、慢性特発性蕁麻疹)
    25/11推ノボ ノルディスクの経口semaglutide(肥満症、25mg追加)
    25/11推ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、T2DのPAD治療)
    25/11推Biohaven PharmaceuticalのBHV-4157(troriluzole、脊髄小脳失調症)
    25/11推田辺三菱製薬のND0612(levodopa、carbidopa、パーキンソン病)
    25/11推Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab、皮膚扁平上皮腫追加)
    25/11推バイエルのBAY 2927088(sevabertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/11推アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、胃・胃食道接合部腫瘍における周術期療法)
    25/11/18Arrowhead PharmaceuticalsのARO-APOC3(plozasiran、家族性カイロミクロン血症)
    25/11/28ビステラ(大塚製薬子会社)のsibeprenlimab(IgA腎症)
    25/11/30Kura OncologyのKO-539(ziftomenib、急性骨髄性白血病)
    25/11/30Ascendis PharmaのTransCon CNP(navepegritide、軟骨無形成症)
    25/11/30ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-bysp、濾胞性リンパ腫2次治療を追加)


    今週は以上です。

    2025年9月6日

    第1223回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • FDA、審査完了通知の公開を開始 
    • ウゴービはゼップバウンドよりMACE予防効果が高い 
    • ファイザー、米国でビンダケルの販売を中止へ 
    • BioNTechが中華ADCを年内に米国で承認申請するらしい 
    • サノフィ、抗OX40L抗体のアトピー試験が成功 
    • ESC:ApoC-IIIアンチセンス薬を承認申請へ 
    • MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相がまた成功 
    • ネブライザ用トレプロスチニルのIPF試験成功 
    • ESC:アストラゼネカのアルドステロン合成酵素阻害剤が血圧を大きく低下 
    • ESC:心ミオシン阻害剤のデータを公表 
    • ビーワン・メディシンズ、MCL用薬を承認申請へ 
    • Zydus、PPARアルファ/ガンマ・アゴニストの胆汁性胆管炎試験が成功 
    • アムジェンの抗FGFR2b抗体、最終解析で便益縮小 
    • MSD、ベリキューボの症状安定的な患者に対する試験はフェール 
    • テリックスのccRCC造影剤は審査完了 
    • レケンビの皮下注用製品が承認 
    • サノフィ、ITP用BTK阻害剤が承認 
    • PRACがレバミゾールなどの安全性を検討 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    FDA、審査完了通知の公開を開始
    (2025年9月4日発表)

    FDAは、radical transparency(ステークホルダーの信頼を獲得するために通常は秘匿するような情報を公開する)を企図して、審査完了通知(Complete Response Letter)の公開を始めている。今回は新たに89件を公開した。以前から公開されている承認通知と同様に守秘義務を負う事項は黒塗りされているが、PTCセラピューティクスのvatiquinone(フリードライヒ運動失調症)やCapricor Therapeutics(Nasdaq:CAPR)のderamiocel(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)などについては臨床試験データの不十分な点について黒塗り無しで公開している。

    これまでは企業の発表を鵜呑みにせざるを得なかったが、誤魔化せなくなったため、ディスクロージャーの質の向上が期待できる。類似品を開発している企業にとっても、より信用できる他社情報が得られることになる。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: Complete Response Lettersサイト(中段に検索ページのリンクあり)


    ウゴービはゼップバウンドよりMACE予防効果が高い
    (2025年8月31日発表)

    ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Wegovy(semaglutide)の心血管疾患抑制効果がGIP/GLP-1作用剤tirzepatide(イーライリリーのZepboundの活性成分)より高いというSTEER試験の成果をESC(欧州心臓学会)で発表した。大変重要な発見だが、後顧的観察的試験であることや、短期間に大きな差が出ていることなどを考えると、治験論文などで詳細を開示する必要があるだろう。また、この種の研究は複数の独立した試験で確認する必要がある。

    この試験は、Komodo Healthが構築した米国の医療記録データベースを元に、45歳以上で22年5月以降にWegovyまたはtirzepatideによる治療を開始した、肥満症またはオーバーウェイトで心血管疾患歴を持つ2万人超のMACE(主要有害心血管イベント)発生状況を傾向スコア・マッチング手法で比較したもの。

    Wegovyは2.5mg。tirzepatideの用量は下記プレスリリースには記されていない。また、この時期は両薬とも供給不足で調合薬局品が代用使用されるケースもあったため、tirzepatideが全てZepboundであるかどうかも記されていない。

    共同主評価項目の一つである改訂版3点MACE(心筋梗塞、卒中、全死亡)はWegovy群が56イベント(発生率0.5%)、対照群は83イベント(同0.8%)で、リスクが29%小さかった。平均追跡期間は各群8.3ヶ月と8.6ヶ月。

    期中に30日以上、投与を休止した患者を除外した感受性分析では、15イベント(0.1%)対39イベント(0.4%)で57%小さかった。こちらの平均追跡期間は各3.8ヶ月と4.3ヶ月。下記プレスリリースではこちらのデータが真っ先に記載されていて、感受性分析であることは後半まで分からない。

    共同主評価項目である、心不全入院や冠介入術を含む改訂版5点MACEの解析結果は記されていない。

    イーライリリー側はどう反論するだろうか?

    リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース


    ファイザー、米国でビンダケルの販売を中止へ
    (2025年8月29日発表)

    ファイザーは米国でATTR-CMトランスサイレチン調停性アミロイドーシスによる心筋症の治療薬であるVyndaqel(tafamidis meglumine)の販売を年内で終了するようだ。Amyloidosis AwarenessというアカウントがFacebookで伝達したとFiercePharmaが報じた。Vyndamax(tafamidis)の販売は続けるようだ。

    両剤は早く承認されたEUでは前者の20mgカプセルがATTR神経症向け、9年後に同じブランド名で承認された61mgカプセルがATTR心アミロイドーシスと適応が異なるが、米国では同じで、20mgカプセルを使う場合は一日4カプセルを服用する。大きさがどれくらい違うか知らないが、それほどの差でないのならVyndaqelがなくなっても大きな問題はないのだろう。

    リンク: FiercePharmaの報道

    【新薬開発】


    BioNTechが中華ADCを年内に米国で承認申請するらしい
    (2025年9月5日発表)

    中国のDualityBio (Suzhou)とドイツのBioNTechは、DB-1303/BNT323の第3相試験が成功したと発表した。前者が中国で承認申請する考え。BioNTechのホームページに掲示されているプレスリリースには記されていないが、DualityBio (Suzhou)の親会社であるDuality Biotherapeutics(映恩生物製薬、9606.HK)によると、中国外の権利をライセンスしたBioNTechは年内に米国で別の適応症で承認申請する考えとのこと。

    抗her2抗体とtrastuzumabを新開発のトポイソメラーゼ阻害剤pamirtecanと結合した抗体薬物複合体(ADC)。乳癌の第3相試験が中国で一本、欧米中韓などで一本、そして内膜腫の第3相が豪中台湾で進行中で、今回、Dynasty-Breast01試験が中間解析で主目的を達成した。中国の施設で、taxane系抗がん剤とtrastuzumabによる治療歴を持つher2陽性の切除不能/転移性乳癌患者228人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)をtrastuzumab emtansine(ロシュのKadcyla)と比較したもの。数値は未公表。

    FDAは、少なくとも昨年までは、中国だけで実施された抗癌剤の臨床試験データについて懐疑的なスタンスだったため、本稿では敢えて取り上げないスタンスを取っている。もう一本、ホルモン受容体陽性、her2低発現の転移乳癌を組入れた化学療法対照試験、Dynasty-Breast02の結果が26年頃に公表されるまで静観するつもりだったが、Duality Biotherapeuticsが香港証券取引所に登録した適時開示文書や4月に届け出たグローバル・オファリングのプロスペクタスによると、BioNTechはher2陽性進行内膜腫の二次治療薬として米国で年内に加速承認を申請する考え。治験登録されている、米中豪で進行中の第1/2相固形癌試験のデータを用いるのではないか。

    類薬は第一三共/アステラス製薬のEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)が上記乳癌試験二本と類似した試験に基づき、米欧日で承認されている。her2陽性固形癌のサルベージ・セラピーとしても承認されていて、her2発現がIHC法で3プラスの内膜腫におけるORRは84.6%だった。

    リンク: BioNTechサイトにおける両社のプレスリリース
    リンク: Duality Biotherapeuticsが香港証券取引所に届け出た開示文書


    サノフィ、抗OX40L抗体のアトピー試験が成功
    (2025年9月4日発表)

    サノフィは、SAR445229(amlitelimab)の第3相COAST 1試験で主目的と副次的評価項目を達成したと発表した。効果はアナリストの期待を下回ったようだ。他にも複数の第3相が進行中。

    OX40レガンドに結合する完全ヒト化抗体。この試験は12歳以上の局所性製剤に不十分応答/不適な中重度アトピー性皮膚炎を組入れて、負荷用量500mg(体重40kg未満は半量)、維持用量250mg(同)を12週毎、または4週毎に皮下注する便益を偽薬と比較した。主評価項目は24週のvIGA-AD奏効率(0または1に改善かつベースライン比2ポイント以上低下)。ノン・レスポンダー・インピュテーション法による解析では各群22.5%、21.1%、9.2%、トリートメント・ポリシー法では29.1%、26.5%、10.5%だった。欧州や日本向けの共同主評価項目であるEASI-75達成率は、夫々、39.1%、35.9%、19.1%と50.3%、46.0%、27.6%。どの分析でも二用量ともp値が0.01を下回った。

    治療時発現有害事象や深刻有害事象、治療時発現有害事象による投与中止は偽薬群と大きな偏りはなかった。

    上記二解析方法について、プレスリリースは以下のように注記している。

    Non-responder imputation: includes patients with rescue/prohibited medication use prior to Week 24 and missing data.

    Treatment policy: includes data for patients with rescue medication use prior to Week 24. Note: In both analyses non-responder imputation for patients with prohibited medication use and missing data.

    リンク: 同社のプレスリリース


    ESC:ApoC-IIIアンチセンス薬を承認申請へ
    (2025年9月2日発表)

    Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、olezarsenの第3相重度高トリグリセライド血症(sHTG)試験二本で主目的などを達成したと発表した。適応拡大申請する考え。このApoC-IIIの発現をアンチセンスする薬は24年12月に米国で家族性カイロミクロン血症候群(FCS)治療薬Tryngolzaとして承認されEUでもまもなく承認される見込みだが、FCSの推定患者数が米国で3000人程度に留まるのに対して、sHTGは300万人と1000倍多い。

    今回のCORE試験とCORE2試験は欧米アジアなどの施設で脂質低下薬による治療を受けても空腹時トリグリセライド(TG)値が500mg/dL以上の患者を組入れて、偽薬、50mg、または80mgを4週毎皮下注し、6ヶ月後の空腹時TG値をベースライン値と比較した。CORE試験では低下率が各群0.5%、63%、73%、CORE2試験では14%、63%、68%となり、両試験とも両用量群とも偽薬比有意だった。

    興味を引くのは、偽薬群のTG低下がCORE2試験のほうが大きいこと。ClinicalTrials.govの記述を比較しても組み入れ条件に大きな違いがあるようには見えないが、CORE2試験ではダイエットや生活習慣改善を行うべしと記されているので、CORE試験では要求されなかったのかもしれない。実施地域も欧米は類似しているがCOREは豪州南アが含まれCORE2はインドも参加している。グローバル試験は所得水準の低い国の組入れが多くなる傾向があるので、ほんの1~2国の違いが結果の大きな違いにつながることがある。

    尚、TIMIスタディ・グループ(米国の心血管学研究者共同治験グループ)が主導した第3相のBridge-TIMI 73a試験や中・高度TG血症のEssence TIMI 73b試験でも偽薬調整後50-60%の抑制効果が確認されている。同社は後者を承認申請における支持的証跡として位置付ける考えだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相がまた成功
    (2025年9月2日発表)

    MSDはMK-0616(enlicitide decanoate)の第3相CORALreef Lipids試験で主目的を達成したと発表した。アテローム硬化性心血管疾患(ASCVD)歴または高リスクの高脂血症でスタチンによる治療中または不耐の患者を組入れて24週間治療し、LDL-C低下作用を偽薬と比較したところ、統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。副次的評価項目もすべて達成した。有害事象や深刻有害事象に臨床的に意味のある群間差は見られず、有害事象治験離脱率は両群同程度だった。

    MK-0616は、LDL-C受容体に結合して零落・分解させる酵素、PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)を阻害する大環状ペプチドで、一日一回経口投与する点でアムジェンなどの抗PCSK9抗体と異なる。6月にはASCVD歴/高リスクを持つ、ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症を組入れた試験と高脂血症を組入れた試験の二本のスタチン・アドオン試験が成功した。

    日本も参加する第3相心血管アウトカム試験、CORALreef Outcomesも進行中。

    MSDはいつ承認申請するのだろうか?IRA(インフレ抑制法、売上上位薬の強制値引きも盛り込まれている)の影響次第では2029年頃にアウトカム試験の結果が出るまで発売しないオプションも検討する、と報じられたことがあるが、現在はどう考えているのだろう?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ネブライザ用トレプロスチニルのIPF試験成功
    (2025年9月2日発表)

    United Therapeutics(Nasdaq:UTHR)はTyvaso(treprostinil)の第3相IPF(特発性肺線維症)試験で主目的を達成したと発表した。もう一本が成功するのを待って26年上期にも適応拡大申請する考え。

    ネブライザ吸入用のプロスタグランジンI2製剤で現在は肺動脈高血圧症などに承認されている。今回のTETON-2試験は597人の患者を組入れて、一日4回吸入する効果を偽薬と比較したところ、第52週FVC(努力肺活量)が偽薬調整後で95.6mL改善した。同時使用薬(nintedanibまたは pirfenidone)や喫煙、酸素療法の有無を問わず便益が見られた。忍容性は過去の試験と同様だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ESC:アストラゼネカのアルドステロン合成酵素阻害剤が血圧を大きく低下
    (2025年8月30日発表)

    アストラゼネカはESCでbaxdrostatの第3相BaxHTN試験の成績を発表した。管理不良または抵抗性の高血圧患者において大きな血圧低下作用を示した。他にも多くの第3相が進行中。

    ロシュのRO6836191をライセンスしたCinCor Pharmaを23年に買収して入手した、アルドステロン合成酵素阻害剤。Mineralys Therapeuticsが第3相を成功させた田辺三菱製薬由来のlorundrostatと同様に、CYP11B2遺伝子がコードするアルドステロン合成酵素を選択的に阻害し、CYP11B1がコードする、コルチゾールの合成に関わる11ベータ水酸化酵素には低親和性であることが特徴。

    この試験は、日本も含むグローバルな施設で2剤併用しても血圧管理が不十分な管理不良高血圧症、または、3剤以上併用しても不十分な治療抵抗性の高血圧症の成人約800人を組入れて、偽薬、1mg、または2mgを一日一回経口で追加投与し、第12週着座最大血圧の変化を比較した。結果は各群5.8mmHg、14.5mmHg、15.7mmHg低下し、両用量とも偽薬を有意に凌いだ。有害事象はカリウム上昇、ナトリウム低下など。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ESC:心ミオシン阻害剤のデータを公表
    (2025年8月30日発表)

    Cytokinetics(Nasdaq:CYTK)はCK-3773274(aficamten)を欧米で左心室流出閉塞を伴う症候性肥大型心筋症の治療薬として承認申請中だが、5月に成功発表した、症状がもう少し軽い患者を組入れた第3相MAPLE-HCM試験のデータをESCとNew England Journal of Medicine誌で発表した。主評価項目の最高酸素摂取量(pVO2、大文字小文字を間違えないよう気を遣う) や副次的評価項目のNYHAクラス改善奏効率などがmetoprolol群を有意に上回った。

    この試験は症候性閉塞性肥大型心筋症でLVEF(駆出率)60%以上、NYHAクラスIIまたはIIIの患者175人を組入れて、24週間治療後のpVO2をエビデンスは確立していないが広く用いられているmetoprololの群と盲検下で比較した。結果は1.1mL/kg/分対-1.2mL/kg/分で有意な差があった。被験者の3割を占めた初めて治療を受ける患者においても凌駕し、第一選択薬としての資質を示した。

    心ミオシン剤はLVEF低下リスクを伴い、本試験でも平均7.2ポイント低下したが、50%未満まで低下したのは被験者の1%に留まった。この試験でも、承認申請のエビデンスであるSEQUOIA-HCM試験と同様に、LVEFが一定以上低下したら減量するプロトコルが採用されていたと推測される。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: NEJM論文抄録


    ビーワン・メディシンズ、MCL用薬を承認申請へ
    (2025年8月29日発表)

    ビーワン・メディシンズ(Nasdaq:ONC)はBGB-11417(sonrotoclax)が第1/2相難治/再発マントル細胞腫(MCL)試験で好成績を挙げたため米国などで承認申請すると発表した。

    アッヴィのVenclexta(venetoclax)と同様なBH3類縁体で、リンパ球などのアポトーシス抵抗性に関わる蛋白、bcl-2阻害する。今回の201試験は米州欧中の施設で抗CD20抗体とBTK阻害剤歴を持つ成人患者125人を組入れて、第1相パートで至適用量を決定し、第2相パートで103人に320mgを経口投与したところ、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)がハードルをクリアした。完全反応率やメジアン反応持続期間も良好だった。数値は未公表。

    米州欧中豪日などの施設で第3相CELESTIAL-RR MCL試験が進行中。抗CD20抗体を含む1~5治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治/再発MCL300人を組入れて、同社のBTK阻害剤Brukinsa(zanubrutinib)に追加投与する便益を検討するもので、成否判明は29年の見込み。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Zydus、PPARアルファ/ガンマ・アゴニストの胆汁性胆管炎試験が成功
    (2025年8月29日発表)

    Zydus Lifesciencesの完全子会社である米国ニュージャージー州のZydus Therapeuticsは、saroglitazarが後期第2相/第3相原発性胆汁性胆管炎(PBC)試験、EPICS-IIIの第3相パートで主目的を達成したと発表した。FDAと相談の上、26年第1四半期に承認申請する考え。

    活性成分は2013年にインドで糖尿病患者の異脂血症や高トリグリセライド血症用の治療薬Lipaglynとして承認された、PPARアルファ/ガンマ作動剤。今回は米国など4ヶ国の施設で成人のウルソデオキシコール酸不応不耐患者を組入れて、偽薬または1mgを一日一回投与し、第52週の生化学的複合応答率(ALP正常化、または、ALP低下かつ総ビリルビン正常化)を比較した。試験薬群は48.5%となり偽薬群を有意に上回った。有害事象発生率は両群大差なかったようだ。

    リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


    アムジェンの抗FGFR2b抗体、最終解析で便益縮小
    (2025年9月3日発表)

    中国のZai Lab(Nasdaq:ZLAB)は、同社が中国などの権利を持つ抗FGF受容体2b抗体bemarituzumabの第3相試験が案外な結果になったと発表した。ライセンサーであるアムジェンがWells Fargo Healthcare Conferenceで公表したとのこと。もう一本の第3相試験の結果を待つ考え。

    アムジェンが21年に買収したFive Prime Therapeuticsの開発品。日本も参加したFORTITUDE-101試験で、FGFR2b過剰発現、her2陰性の胃・胃食道接合部癌の一次治療を受ける患者500人超を組入れて、mFOLFOX6レジメン(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatinの併用法)に追加する便益を検討したところ、主目的の全生存期間を中間解析で達成した。統計的に有意、かつ臨床的に意味のある成績とのことだったが、最終解析では治療効果が弱まってしまった。

    もう一本のFORTITUDE-102試験は、101試験と同様な患者を組入れて、mFOLFOX6レジメンまたはCAPOXレジメン(capecitabineとoxaliplatinを併用)を抗PD-1抗体nivolumabと併用するレジメンに更に追加する便益を検討している。こちらも日本の施設も参加、主評価項目は全生存期間。

    リンク: Zai Labのプレスリリース


    MSD、ベリキューボの症状安定的な患者に対する試験はフェール
    (2025年8月30日発表)

    MSDは、21年に米日欧である種の慢性心不全の治療薬として承認された可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、Verquvo(vericiguat)が、適応となる患者より安定的な患者を組入れた第3相VICTOR試験で主目的を達成しなかったと発表した。偽薬比ハザードレシオの点推定値は承認のエビデンスとなった第3相VICTORIA試験とそれほど変わらないが、イベント発生率が低いことなどから、有意水準に達しなかった。

    今回の試験はガイドラインに即した治療を受けている成人のHFrEF(駆出低下心不全)6105人を組入れて、10mg一日一回を目標に滴定する群と偽薬群に無作為化割付けして、転帰を偽薬群と比較した。承認のエビデンスである第3相VICTORIA試験との大きな違いは、過去9ヶ月間に心不全入院などを経験した比較的高リスクの患者層ではなく、過去6ヶ月間心不全入院無し、かつ、過去3ヶ月間利尿剤静注による外来治療なしという比較的安定した状態の患者層を対象としている点。主評価項目はどちらも心血管死または心不全入院が発生するまでの期間。下表のように、二本の試験のハザード比はそれほどは違わず、信頼区間はかなり重なっている。time to event試験の検出力はイベント発生数に左右されるという一例だ。

    図表:VICTOR試験とVICTORIA試験の比較

    VICTOR試験VICTORIA試験
    被験者6105人5050人
    イベント発生率:偽薬群19.1%(584/3052人)38.5%(972/2524人)
    同:試験薬群18.0%(549/3053人)35.5%(897/2526人)
    ハザード比(95%信頼区間)0.93(0.83-1.04)0.90(0.82-0.98)
    出所:下記プレスリリースやレーベルから作成

    VICTORIA試験ではイベント発生数の2割以上が心血管死なので、ハザード比が0.9程度でも軽視できないが、心血管アウトカム試験でしばしば見られる0.8前後より大きいということは、振り子がノイズで少しでも触れたら1に近づいてしまうリスクがあるということでもある。VICTORIA試験に参加した日本人98人のサブグループ分析ではハザード比が0.93とやや見劣りし、心血管死だけのハザードレシオは2.01(95%信頼区間0.98~4.12)だった。検出力が著しく低いとはいえ、心許ない。

    リンク: MSDのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    テリックスのccRCC造影剤は審査完了
    (2025年8月28日発表)

    オーストラリアのTelix(ASX:TLX) はZircaix(89Zr- girentuximab)を淡明細胞腎細胞腫のPET造影剤として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。化学・製造・管理に関わる問題と、第3相試験で用いられたバッチと量産用バッチの互換性、そして、第3者の製造設備における指摘事項などが理由とのこと。

    FDAは審査完了通知のデータ・ベースを公開したが、9月6日現在、本件は収載されていない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    ボンベンティの適応が拡大
    (2025年9月5日発表)

    FDAは武田薬品のVonvendi(遺伝子組換え型フォン・ヴィレブランド因子)の適応拡大を承認したと発表した。15年の初承認以降、フォン・ヴィレブランド病の成人の出血治療と管理、同じく手術関連出血予防、そして最も重い3型フォン・ヴィレブランド病の成人限定でルーチン予防と適応範囲を拡大してきたが、今回、成人におけるすべての型のフォン・ヴィレブランド病と、小児患者における出血治療・管理および手術関連出血予防に用いることを承認した。

    遺伝子組換え型vWF製剤は本剤だけ。

    リンク: FDAのプレスリリース


    レケンビの皮下注用製品が承認
    (2025年8月30日発表)

    エーザイとバイオジェンは、FDAが早期アルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab-irmb)の皮下注用製剤を承認したと発表した。静注点滴用製剤による治療を18ヶ月以上続けた後にスイッチできる。オートインジェクターで360mg/1.8mLを平均15秒かけて週一回投与する。患者自身が打つ場合は 腹部や太ももに注射する。Leqembiは2週毎静注点滴を18ヶ月間続けた後に4週毎投与に移行することも可能で、二つの選択肢ができた。

    リンク: 両社のプレスリリース(和文)


    サノフィ、ITP用BTK阻害剤が承認
    (2025年8月29日発表)

    サノフィは、FDAがWayrilz(rilzabrutinib)を前治療に不十分応答の成人の持続性/慢性免疫性血小板減少症(ITP)用薬として承認したと発表した。BTK阻害剤がITP向けに承認されたのは初めて。欧州や中国でも承認申請中。

    第3相LUNA3試験で持続的血小板応答率(血小板数が持続的に5万個/マイクロリットル以上)が23%と、偽薬群の0%を有意に上回り、レスキュー治療や出血イベントも減少した。警告注意事項は深刻感染症、肝毒性、胚胎毒性。CYP3A阻害剤/誘導剤や胃酸抑制剤の併用は禁忌/注意。

    20年にPrincipia Biopharmaを約37億ドルで買収して入手したもの。

    リンク: サノフィのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    PRACがレバミゾールなどの安全性を検討
    (2025年9月5日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のPharmacovigilance Risk Assessment Committee は、9月の会議で、levamisole配合品の安全性などについて検討した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    levamisoleは日本など多くの国では動物薬としてしか承認されていないが、欧州では4ヶ国で寄生虫薬として承認されている。脳症のリスクが知られているが、死亡を含む重篤な白質脳症例が見られるようになったため、ルーマニアが評価を要請したもの。類似した表現型である脱髄症例も含めて検討する。

    リンク: EMAのプレスリリース

    このほかに以下も発表された。

  • 抗真菌薬caspofunginは、急性腎不全/体液過剰を生じポリアクリロニトリル・ベースの膜を使ってCRRT(持続的腎代替療法)を施行すると薬剤が膜に吸着して効果が低減するという警告を添付文書に追加する考え。他の膜か、他の抗菌薬を用いる。

  • Ultragenyx(Nasdaq:RARE)のX染色体遺伝性低リン血症治療薬、Crysvita(burosumab)は重度高カルシウム血症のリスクが見られるため定期的に血中のカルシウムや甲状腺ホルモンを検査するよう添付文書を改訂する。中程度以上の高カルシウム血症には投与しない。

  • セルトリオンの抗TNFアルファ抗体バイオシミラー、Remsima(infliximab)は、新製剤が承認審査中だが、sorbitolを含有するため遺伝性フルクトース不耐は禁忌とする。

  • ノバルティスのTegretol(carbamazepine)の100mg/5mL経口懸濁液は、1mL当り25mgのpropylene glycolを含有しているため、4週未満の新生児などには投与しない(1mg/kg/日という推奨摂取限度を超過)。carbamazepineはpropylene glycolを含まない製剤もある。


  • 【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)・・・結果不明
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)・・・審査期間延長で12/7に
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
    25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
    25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
    25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
    25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌にTecentriq併用)
    25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
    25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
    25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
    25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
    25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)



    今週は以上です。

    2025年8月29日

    第1222回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • CDCの複数の高官がCOVID-19ワクチン政策を巡り免職/辞任 
    • FDA、一転してチクングニア熱生ワクチンの承認を停止 
    • FDA、有害事象報告件数を日次発表 
    • リリー、ベージニオの術後投与試験で延命効果も確認 
    • C5生成阻害剤の第3相筋無力症試験が成功 
    • イーライリリー、経口GLP-1アゴニストのT2D肥満試験が成功し承認申請へ 
    • ウィフガートの抗AChR抗体を持たない筋無力症試験が成功 
    • 25/26シーズンのCOVID-19ワクチンが承認 
    • レパーサが初発予防に承認 
    • レケンビのMRI検査は早めに始めるべし 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    CDCの複数の高官がCOVID-19ワクチン政策を巡り免職/辞任
    (2025年8月27日発表)

    第2次トランプ政権下の医療政策は大きく変貌しており高官人事の面でも波乱万丈だ。今回は、FDAがCOVID-19ワクチンの適応範囲を狭めたこと(後記)などに反発した、HHS(アメリカ合衆国保健福祉省)傘下で感染症対策などを担うCDC(疾病管理予防センター)のヘッドが更迭され、抗議のため主要部門のヘッドなど3人が辞任した。

    ワクチンの承認はFDAの権限なのでCDCのディレクターが反対するのは奇異だが、おそらく、背景には、HHSのロバート・F・ケネディ長官がCDCの役割を縮小しようとしている(と報じられている)ことがあるのだろう。今回、COVID-19ワクチンの適応範囲を狭めたことは、大流行期が終わったことを考えれば自然な成り行きと思っていたが、CDCの役割を一部取り込んだという側面もあるのだろう。HHS長官はワクチン全般に対して慎重あるいは懐疑的なスタンスのようなので、それに対する反発もあったのではないか。

    CDCディレクターのSusan Monarez博士は1ヶ月前に議会で承認されたばかり。HHSはXで退任と発表したが、博士の弁護士はメディアに退任も免職もないと回答、その後、免職が正式発表された。CDCの主要部門であるNational Center on Immunization and Respiratory DiseasesとNational Center for Emerging and Zoonotic Infectious Diseasesのヘッド、及び、Deputy Director and Chief Medical Officerを担っていた3名が抗議の意を示して辞任、MedPageTodayがその書簡を掲載した。

    CDCでは6月にACIP(ワクチン接種諮問委員会)の全委員が解任され、ワクチンに否定的ともいわれる委員などが任命された。CDCのCOVID-19ワクチンに関するワークグループはRetsef Levi博士がチェアに選任されたが、博士は2年前にXでCOVID-19のmRNAワクチンの接種を止めるよう呼びかけたことがある。

    FDAでもSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー遺伝子療法、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の販売を安全性を理由に中止するよう要請した直後に生物学的製剤担当部署であるCBERのヘッドが退任し、FDAが販売再開を認めた後に再任されるという、三日天下ならぬ十日不在事件があった。米国の公衆衛生政策はどうなってしまうのだろうか。

    リンク: ワシントン・ポストの関連記事(8/28付)
    リンク: MedPageTodayの関連記事(同日に辞任した3名の書簡を掲載)
    リンク: 同(Levi博士に関する記事、8/28付)


    FDA、一転してチクングニア熱生ワクチンの承認を停止
    (2025年8月25日発表)

    FDAは、フランスのValneva SE(Euronext Paris:VLA)が販売しているチクングニア熱弱毒化生ワクチン、Ixchiqの承認を停止したと発表した。ついこの間、60歳以上の接種停止を解除したばかりなのに、FDAの右往左往は未だ続いている。

    Ixchiqは米国では23年11月に、EUでも24年6月に、チクングニア・ウイルスに曝露するリスクのある成人向けに承認された。24年の会社売上高は0.94億ユーロ。薬効のエビデンスは免疫原性試験でチクングニア熱予防効果が確立していないため、FDAは加速承認に留めた。接種者の1%以上で重度チクングニア様有害事象が見られため、市販後試験で安全性を確認するよう求めた。

    その後、チクングニア熱が流行し接種キャンペーンが開始された国や地域で深刻有害事象が観察されたことから、25年5月にFDAが60歳以上の接種停止勧告を、EMA(欧州薬品庁)は65歳以上の接種禁止を暫定的に決定したが、EMAは7月に、FDAは8月6日付で、解除した。投与実績と比べれた発生頻度が1万人当り6人程度とそれほど高くないため、便益が上回ると判断したのだろう。

    FDAがなぜ12日後に見解を変えたのか、理由は必ずしも明確ではない。Valneva宛て承認停止通知は、VAERS(FDAのワクチン有害事象報告システム)に届け出られた深刻有害事象件数が制限解除時点の32件から4件増加し、うち1件は55歳男性であることを理由にしているが、たった1割増えただけだ。

    メーカー宛て通知の名義人であるCBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッドであるVinayak Prasadディレクターは、安全性懸念が浮上したSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)を7月に自主的販売停止に追い込んだのと前後して不透明な理由で退任したが、8月に再任された。複数の報道によると、復帰は8月9日付、つまり、FDAがElevidysの再発売を容認したりValnevaの制限を解除したりした後である。おそらく、この二件とも、B.C./A.C.ならぬBefore PrasadがAfter Prasadに遷移したことに伴うゴタゴタなのだろう。

    リンク: FDAのプレスリリース


    FDA、有害事象報告件数を日次発表
    (2025年8月22日発表)

    FDAはFAERS(FDA有害事象報告システム)の受入れ件数をこれまでの四半期ごとではなく日次で公表し始めた。下記の二番目のサイトにリンクが置かれている。内容を見ると件数だけで、薬剤毎の内訳などは分からない。薬の副作用リスクをもっと重視する意気込みだけ示した、というところだろうか。

    FDAの有害事象報告は様々な理由で必ずしも実態を表さない。04年にMSDがCOX-2阻害剤Vioxx(rofecoxib)の自主回収を発表した時は、同薬に関する有害事象報告数が一ヶ月で二桁増加した。リスクが表面化したことに加えて、集団訴訟参加者の募集を開始した法律事務所がFAERSに届け出たり、医師と服用者などが夫々に届け出たりしたことが牽引したと言われている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: FDA Adverse Event Reporting System (FAERS) Public Dashboard


    【新薬開発】


    リリー、ベージニオの術後投与試験で延命効果も確認
    (2025年8月27日発表)

    イーライリリーはVerzenio(abemaciclib)がmonarchE試験で副次的評価項目の全生存期間を達成したと発表した。統計的に有意かつ臨床的に意味のある延長を見た。全集団の解析なのか、米国の適応範囲で日本の添付文書にも掲載されているコフォート1だけの解析なのか、そして、コフォート2はどうなったのか、プレスリリースには記されていない。

    この試験は、ホルモン受容体陽性her2陰性のリンパ節転移乳癌で摘出術を受けたが再発高リスクの男女を組入れて、tamoxifenやアロマターゼ阻害剤による内分泌療法(最長10年)にVerzenioの2年コースを追加する便益を偽薬追加と比較したもの。中間解析で主評価項目のiDFS(無浸潤疾患生存)を達成した。21~22年に米日欧で適応拡大が承認されたが、FDAは被験者5600人余のうち、特に高リスクな患者を組入れたコフォート1の症例(5100人余)の中の、IHC検査でKi-67スコアが20%以上の患者(2000人余)に適応を限定した。2年後にKi-67基準は撤回されたが、その時点ではまだ、全生存期間の解析は熟していなかった。

    上記のコフォート1は、病理検査で同側腋窩リンパ節の4個以上で転移陽性、または、1~3個陽性で、原発腫瘍径5cm以上(術前薬物療法前の画像検査も可)又はModified Bloom-Richardson grading systemによる組織学的分類がグレード3の患者を組入れた。異なった基準で高リスク患者をスクリーニングしたコフォート2も設定されていて、腋窩リンパ節の1~3個で転移陽性かつKi-67が20%以上の患者500人余を組入れていた。早期乳癌術後アジュバント試験の組入れ数としては少なく、検出力が乏しいのではないかと想像されるが、気になるのは、適応拡大承認時のレーベルに、コフォート2における全死亡が偽薬追加群の2倍(253人中10人対264人中5人)だった事実が記されていることだ。

    コフォート2は適応外と考えられるので目を瞑ることも許されるだろうが、検出力が不足であるにしても前回よりは高まったであろう今回の解析でどんな数字になったのか、気になるところだ。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース


    C5生成阻害剤の第3相筋無力症試験が成功
    (2025年8月26日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はcemdisiranの第3相全身性重症筋無力症(gMG)試験で主目的を達成したと発表した。FDAと相談した上で26年第1四半期に承認申請する考え。

    RNA介入薬のスペシャリスト、Alnylam PHarmaceuticals(Nasdaq:ALNY)からライセンスした短鎖RNA介入薬で、補体C5の発現を妨げる。今回のNIMBLE試験は成人の抗AChR抗体を持つgMG患者を組入れて、600mg12週毎皮下注群、抗C5抗体pozelimabと200mgずつ4週毎皮下注群、偽薬4週毎皮下注群に無作為化割付けして投与し、24週MG-ADL総スコア(日常生活機能を患者自身が評価する)の変化を比較した。各群4.52点、3.96点、2.22点低下し、2試験薬群ともに偽薬比有意な差があった。深刻な治療時発現有害事象の発生率は各群3%、9%、14%だった。gMG悪化によるものが各群1%、5%、17%なので薬効の裏返しみたいなものだ。

    承認されているC5阻害剤の治験成績は偽薬修正後で2点前後なので、遜色ない数値だ。

    尚、この試験は免疫抑制剤の同時使用が認められていた。上記数値は使用量の調整後だが、どう影響したかは明らかではない。

    pozelimabはgMGでは出番がなさそうだが、23年にCHAMPLE症候群の治療薬Veopozとして米国で承認され、様々な適応拡大試験が進行中。

    リンク: 同社のプレスリリース


    イーライリリー、経口GLP-1アゴニストのT2D肥満試験が成功し承認申請へ
    (2025年8月26日発表)

    イーライリリーは二型糖尿病(T2D)と肥満症/オーバーウェイト(ow)を合併する患者を組入れたLY3502970(orforglipron)の第3相ATTAIN-2試験で主目的などを達成したと発表した。糖尿病ではない肥満症やowを組入れたATTAIN-1試験なども成功しており、グローバルな承認申請を開始する考え。

    中外製薬からライセンスしたGLP-1受容体作動剤。一日一回、経口投与する。今回の試験は、1600人超の患者を偽薬、6mg、12mg、36mg群に無作為化割付けして72週後の体重低下率を比較した。各群2.5%、5.1%、7.0%、9.6%となり、多重性調整後で3目標用量群とも偽薬比有意な差があった(治療を途中で止めた患者も継続追跡するtreatment-regimen estimandベース)。

    副次的評価項目のHbA1c低下は各群0.5%、1.2%、1.5%、1.7%。有害事象による治験離脱率は各群4.6%、6.1%、10.6%、10.6%だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ウィフガートの抗AChR抗体を持たない筋無力症試験が成功
    (2025年8月25日発表)

    オランダのアルジェニクスは、Vyvgart(efgartigimod alfa-fcab)のADAPT SERON試験で主目的を達成したと発表した。全身性重症筋無力症(gMG)の患者の8~9割はアセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体を持っていて、同薬は22年に米日欧で抗AChR抗体陽性患者向けに承認されている。今回の試験は陰性患者を4週間治療し、MG-ADL(Myasthenia Gravis Activities of Daily Living)総スコアの変化を偽薬と比較したところ、統計的に有意かつ臨床的に有意な差があった。25年内に抗MuSK抗体を持つ患者、抗LRP4抗体を持つ患者、そして何れも持たないトリプル・ネガティブの患者向けに適応拡大申請する予定。

    Vyvgartは抗FcRn(胎児性Fc受容体)抗体フラグメント。類薬であるUCBのRystiggo(rozanolixizumab-noli)が23年に米国で抗AChR抗体陽性や抗MuSK抗体陽性の成人患者に、25年にはジョンソン エンド ジョンソンのImaavy(nipocalimab-aahu)が抗AChR抗体陽性と抗MuSK抗体陽性の成人と12歳以上の小児に、承認されており、競争が激化している。また、アストラゼネカの抗C5抗体Ultomiris(ravulizumab-cwvz)やUCBのC5インヒビターZilbrysq(zilucoplan)も抗AChR抗体陽性gMGに承認されている。

    リンク: アルジェニクスのプレスリリース

    【承認】


    25/26シーズンのCOVID-19ワクチンが承認
    (2025年8月27日発表)

    ファイザー/BioNTech、モデルナ、そしてNovavaxは、夫々、FDAが25/26シーズン用のCOVID-19ワクチンを承認したと発表した。第2次トランプ政権下になって、適応範囲が狭められた。

    ファイザー/BioNTechのComirnatyはLP.8.1株のRNAを採用。先に承認されたEUや日本では生後6ヶ月以上が適応だが、FDAは、EUA(非常時使用認可)されていた6ヶ月~4歳の適応を剥奪し、高リスク持病を持つ人5~64歳または65歳以上とした。モデルナもLP.8.1株対応で、対象年齢下限はSpikevaxが6ヶ月、常温保存可能なmNEXSPIKEは12歳である点がComirnatyと異なる。

    Novavaxの抗体ワクチンNuvaxovidは、ライセンシーの武田薬品が日本で一変申請したLP.8.1対応品が承認されたところだが、米国では24/25年フォーミュラと同じJN.1対応品が承認された。

    3品とも、レーベルにはLP.8.1に対する有効性を示すエビデンスが記されていない。いちいち書かない考えなのかもしれないが、FDAが偽薬対照重症化予防試験の実施を求める可能性が取り沙汰される中、免疫原性試験のデータすら記載されていないのは、含意があるのかもしれない。まあ、レーベルに記載されていない事実を宣伝すると即、違法になった時代はすでに終わり、各社のプレスリリースにはNB.1.8.1株("Nimbus")にも免疫原性試験で有効とか、JN.1対応ワクチンより高力価とか、記されているので、レーベルの文言にこだわる必要はないのだが。

    リンク: ファイザーとBioNTechのプレスリリース
    リンク: モデルナのプレスリリース
    リンク: Novavaxのプレスリリース


    レパーサが初発予防に承認
    (2025年8月25日発表)

    アムジェンは抗PCSK9抗体Repatha(evolocumab)の適応拡大・用法追加がFDAに承認されたと発表した。家族性高脂血症の場合は、他のコレステロール治療薬に追加だけでなくモノセラピーも可能になった(成人の高脂血症は以前からモノセラピー可能)。更に、心血管疾患リスクのある患者はLDL-C値不問で適応になるが、既発患者限定が解除され初発予防にも使えるようになった。但し、根拠となるような臨床試験のデータは記載されていないので、FDA側の考え方の変化によるものなのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】




    レケンビのMRI検査は早めに始めるべし
    (2025年8月28日発表)

    FDAは、エーザイ/バイオジェンの早期アルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab)の副作用を早期発見するために実施するMRI検査を、従来より早く行うよう推奨した。安全性情報の発出は8月28日付だが、レーベル変更は21日付で承認されており、米国のウェブサイトには改訂後のレーベルが掲載されている。

    ARIA-E(アミロイド関連造影異常-浮腫)という必ずしも症候性ではないが重度の転帰を招く可能性もある副作用を早期に発見するために、初回投与前と第5回、7回、そして14回目の前にMRI検査を実施する必要があるが、新たに、3回目の前の検査も導入された。FDAが深刻なARIA-Eが生じた101例の発生時期を分析したところ、2回目と3回目の間に2例、3回目と4回目の間に22例、4回目と5回目の間に41例、5回目以降は36例と、早い段階の発生が多かった。4回目より前の24例は何れも症候性で予定外のMRIにより診断が確定したもの。致死例6人のうち、一人は5回目投与前の検査で診断されその時点では症状はなかったが、残り5人は投与の0~8日後に症状が現れてからMRIが実施されたもので、このうち4人は3回目投与の後だった。

    これら症例の多くは3回目投与の前に検査していれば重症化を免れたかもしれない。3回目以降に発症した患者ももっと早く発見して深刻化を防げたかもしれない。

    レーベルにはもう一つ、実務的に重要な変更がある。これらの検査を投与の約1週間前に実施して結果を投与前に確認することを原則とするよう明記しているのだ。これまでも実践されていただろうが、MRIがあるような大規模な病院に何度も通える患者ばかりではないだろうから、治療の制約になる場合もあるだろう。

    尚、レケンビは日本でも5回目、7回目、14回目の投与前にMRI検査を受けるプロトコルになっている。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
    25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
    25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
    25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
    25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌にTecentriq併用)
    25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
    25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
    25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
    25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
    25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)



    今週は以上です。

    2025年8月23日

    第1221回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • アストラゼネカ、フルミストを自己噴霧用にロンチ 
    • CSL、ワクチン事業をスピンアウトへ 
    • NO-ビマトプロストの二本目の第3相が成功 
    • リンヴォックの二本目の脱毛症試験も成功 
    • ctDNA検査でスクリーニングしたMIBCの術後テセントリク試験が成功 
    • ステルス、バース症候群用薬を再承認申請 
    • 脊髄小脳失調症用薬の諮問委員会は開催せず 
    • PTCのフリードライヒ運動失調症薬は承認されず 
    • Hunter症候群用薬の審査期間が延長 
    • ファンコニ貧血用薬の欧州における承認申請を撤回 
    • 遺伝性血管浮腫のアンチセンス薬が承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    アストラゼネカ、フルミストを自己噴霧用にロンチ
    (2025年8月15日発表)

    アストラゼネカは点鼻噴霧用季節性インフルエンザ・ワクチンFluMistを米国の消費者に直接販売する、FluMist Homeをロンチした。成人は自分自身で、2~17歳の小児は親や介護者が、接種する。米国はインフルエンザ・ワクチンなどを薬局で接種することが可能だが、アクセシビリティがさらに一歩前進する。

    購入希望者がオンラインで質問票に回答した上で発注すると、オンライン・ファーマシーのASPN Pharmaciesの有資格医療従事者が内容を確認し処方、Polaris Pharmacy Servicesが指定された日に冷蔵宅配する。カリフォルニアやイリノイ、テキサス、フロリダなど34州で実施する予定で、ニュー・ヨークやイリノイ、テキサスなどは規制があるため25/26年シーズンは見送る。

    FluMistは07年に米国で、11年にEUで、23年には日本でも承認された弱毒化生ワクチン。米国では2歳以上に承認されている。自己点鼻はユーザビリティ試験(指示通りに接種できるか確認する)に基づき24年9月に承認された。注射を回避できるメリットと、喘鳴歴等やアスピリン同時使用に関わる注意事項や注射用より高価というデメリットがある。

    リンク: 同社の米国法人のプレスリリース


    CSL、ワクチン事業をスピンアウトへ
    (2025年8月19日発表)

    オーストラリアのCSL(ASX:CSL)は、25年6月期決算発表に合わせて、人員削減や研究開発拠点整理などのリストラ策や、ワクチン事業を担うCSL Seqirusをデマージ(英国言語圏におけるスピンアウトの同義語)する計画を明らかにした。CSL同様にオーストラリア証券取引所に上場する考え。

    Seqirusは14年にノバルティスから買収したインフルエンザ・ワクチン事業が母体。犬腎細胞培養技術に基づき、季節性インフルエンザ・ワクチンや鳥インフルエンザの流行に備えるパンデミック/プリパンデミック・ワクチンなどを開発・販売している。25年6月期の売上高は約19億米ドル、営業利益は約10億米ドル。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【新薬開発】


    NO-ビマトプロストの二本目の第3相が成功
    (2025年8月21日発表)

    フランスのNicOx S.A.は、NCX 470(一酸化窒素供与性bimatoprost)の第3相緑内障治療試験、Denaliで主目的を達成したと発表した。3年前にMont Blanc試験も成功しており、26年上期に米国で承認申請する考え。興和が欧米日本などのライセンスを持っている。

    NCX 470はNicOxが保有する一酸化窒素供与体結合技術を用いて、bimatoprostだけでなく一酸化窒素によっても房水流出を促すように仕向けたもの。第3相はNicOxと中国などの権利を持つOcumension Therapeuticsが共同で資金負担・実施した。米国と中国の解放隅角緑内障/高眼圧症の患者を各試験約700人ずつ組入れて、0.1%点眼液を一日一回投与する便益を標準療法であるlatanoprost 0.005%と比較したところ、主評価項目である眼圧低下作用(24週間に3回、朝夕二回ずつ計測)が7.9~10.0mmHg対7.1~9.8mmHgとなり非劣性が確認された。前回のMont Blancでは各群8.0~9.4mmHg対7.1~9.4mmHgで非劣性だった。副次的評価項目の優越性解析はどちらもフェールした。有害事象は結膜充血(発生率22%対9%)など。

    中国でもOcumensionが申請するものと推測される。日本は第3相試験が始まったところ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リンヴォックの二本目の脱毛症試験も成功
    (2025年8月21日発表)

    アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)の第3相重度円形脱毛症試験、UP-AAにおいて、7月に成功発表したスタディ2に続き、スタディ1も主目的を達成したと発表した。適応拡大申請に向かう予定。

    UP-AA試験は欧米日本などの施設で12~64歳の重度円形脱毛症患者を二本合計で1399人組み入れて、偽薬、15mg、または30mgを一日一回経口投与する便益を検討した。主評価項目は24週のSALT≦20達成率(頭皮の約8割以上で毛が生えている)。各群3.4%、45.2%、55.0%となり、両用量とも偽薬を有意に上回った。尚、スタディ2では各群3.4%、44.6%、54.3%で両用量とも偽薬比有意だった。治療時発現深刻有害事象発生率は各群0.7%、1.9%、1.8%。スタディ2では0%、1.4%、2.8%だった。

    JAK1阻害剤の中では良さそうな成績だ。円形脱毛症用途では塗り薬も承認されているが、忍容性は優劣あるのだろうか?他の種類の薬も含めて、65歳以上が対象外なのは、効果が望み難いのか、それとも安全性が不安なのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ctDNA検査でスクリーニングするテセントリクの第3相が成功
    (2025年8月18日発表)

    米国テキサス州の遺伝子検査機器会社、Natera(Nasdaq:NTRA)は、Signatera ctDNAテストによるスクリーニングの有効性などを検討した第3相IMvigor011試験で主目的を達成したと発表した。FDAにPMA(販売前承認)を申請する考え。

    このロシュが主導した試験は、MIBC(筋層浸潤膀胱癌)の摘出術を受けた患者760人を1年間定期的に検査して、MRD(微小残存病変)陽性だが造影検査で再発していないと評価された患者を偽薬群とロシュのTecentriq(atezolizumab)群に無作為化割付けし、DFS(再発、転移、あるいは死亡無く生存する期間)を比較した。副次的評価項目である全生存期間も含めて、統計的に有意且つ臨床的に意味のある群間差が見られた。

    ロシュはプレスリリースを出していないが、メディアの問い合わせに対して、適応拡大の申請を計画していると回答した由。Tecentriqは術後筋層浸潤尿路上皮癌をMRD不問で組入れたIMvigor010試験がフェールしたが、ctDNA陽性サブグループでは良さそうな数値が出たため、今回の試験に進んだ経緯がある。

    悩ましいのは、MIBC付随療法はアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を術前、術後に用いたNIAGARA試験が成功し、今年3月に米国で、7月にはEUでも、適応拡大が承認され、日本でも申請中だ。術前にImfinziを使ったら術後にctDNA検査もTecentriqも使わないので、出番が限られてしまう。一方で、ctDNAテストがTecentriqに有効ならImfinziにも有効なのではないか、Imfinziも術前に検査してスクリーニングできるのか?、そもそも術前投与は必要なのか、等など、二本の試験の成績を整合的に理解する上で必要な情報が数多残る。

    リンク: Natera社のプレスリリース

    【承認申請】


    ステルス、バース症候群用薬を再承認申請
    (2025年8月21日発表)

    Stealth BioTherapeutics(22年にNasdaq上場廃止)はMTP-131(elamipretide)を再承認申請した。FDAは3日後に受理、PDUFA(処方薬ユーザー・フィー法)は26年2月15日だが、FDAから今年9月26日にゴールする計画である旨の連絡があった由。本案件は異例に異例を重ねている。

    対象疾患であるバース(Barth)症候群は米国で百数十人、世界で二百数十人が罹患と推定される超希少ミトコンドリア疾患。ほぼ全てが男性。TAZ遺伝子の変異により、心不全や不整脈、白血球減少症や敗血症、運動障害などを合併するリスクがある。同社はミトコンドリア標的ペプチド(MTP・・・Mitsubishi Tanabe Pharmaの略ではない)を開発しており、MTP-131はバース症候群で欠乏するcardiolipinに結合してミトコンドリア膜の構造を正常化すると考えられている。40歳以上生存することは少なく、死亡率は最初の4年間が最も高いとされる。

    第2/3相TAZPOWER試験に12歳以上の患者12人を組入れて、40mg一日一回皮下注による6分歩行テスト改善作用を偽薬と比較したが、フェールした。Stealthは21年に承認申請を断行したが受理されず、追加試験の実施を求められた。しかし、患者数が少なく臨床試験が困難であることから、代替案として傾向スコア・マッチングによる自然歴対照試験を実施したところ、6分歩行テスト成績の改善が80メートル対1メートル、p=0.0005となったため、24年1月に改めて承認申請した。優先審査指定されなかったため見直しを要請し、認められたが、審査期限は25年1月29日のままだった。心臓腎臓薬諮問委員会で16人中10人が薬効を支持したため承認が期待されたが、審査期限が4/29に延期され、更に1ヶ月遅れで審査完了通知を受領した。

    理由は必ずしも明らかではないが、会社側発表を読む限りでは、会社側が通常承認に代えて膝伸筋力の改善作用に基づく加速承認を打診し、FDA側も前向きな姿勢を示したものの、精査が必要と考えているようだ。だからこそ、会社側がクラス1審査(申請の2ヶ月後に回答)を望んだのに対して、FDA側はクラス2(6ヶ月後に回答)を示唆したのだろう。先行きが慮られたが、FDAが1ヶ月余で審査を終えるつもりなら、残されたチェックポイントは少ない/軽度なのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: 同(8/18付)

    【承認審査・委員会】


    脊髄小脳失調症用薬の諮問委員会は開催せず
    (2025年8月21日発表)

    Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は米国でBHV-4157(troriluzole)を脊髄小脳失調症用薬として承認申請している。FDAは、審査期限を3ヶ月延期した時に、諮問委員会招集の意向を示したが、招集しないことで決まった。同社がプレスリリースではなくSEC(証券取引委員会)にフォーム8-Kを提出する形で公表したもの。従来通り、第4四半期に審査結果が通知されることを期待している。

    審査期限延期は同社が追加データを提出したことに伴うものだったので、内容は明かされなかったので、諮問委員会上程を検討するほど難しい問題が発生したかと危惧された。招集を断念したということは、同社が説得力のある情報を提供し諮問の必要性が薄れたとも、諮問するまでもなく承認見送りに向け舵を切ったとも、解釈できるが、第2次トランプ政権下のFDAは前例が当てはまらず、推測が難しい。ここ数ヶ月、新薬承認に関わる諮問委員会が開催・決定されていないことを考えると、コンセンサスとは必ずしも合致しない考えを持つFDAや上部組織であるHHS(保健福祉省)の上層部が、諮問委員会招集自体に反対しているのではないかと疑われる。この場合、承認の可能性を占う材料にはなりえないことになる。

    BHV-4157は側索硬化性筋萎縮症用薬riluzoleのプロドラッグで血液中のアミノペプチダーゼによりriluzoleに変換される。経口投与頻度が一日二回から一回に減り、食物影響を受けない。EUにも承認申請したが、偽薬対照試験がフェールしたことや、EMAは薬効や安全性がriluzoleと異なることが確立していないとして新規活性成分と認めなかったことなどから、撤回した。

    リンク: 同社のForm 8-K(8/21付)


    PTCのフリードライヒ運動失調症薬は承認されず
    (2025年8月19日発表)

    ニュー・ジャージー州のPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は米国でPTC-743(vatiquinone)を成人・小児のフリードライヒ運動失調症(FA)薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効の挙証が不十分で、追加試験が必要と指摘された。

    FAはミトコンドリアにおけるエネルギーの制御に関わるfrataxinの機能不全を伴う遺伝子疾患。PTC-743は15-リポキシゲナーゼ(15LO)を阻害して機能不全の影響を緩和することが期待された。しかし、成人・小児146人を組入れた第3相MOVE-FA試験は、主評価項目である7~21歳の患者123人におけるmFARS(modified Friedreich Ataxia Rating Scale)の72週間の悪化が偽薬群と大差なかった。

    同社は、直立安定性サブスケールの名目p値が0.021であったことや、長期延長試験で144週のmFARS悪化が自然歴より小さかったことなどをエビデンスとして承認申請を断行したが、認められなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Hunter症候群用薬の審査期間が延長
    (2025年8月18日発表)

    米国メリーランド州のRegenxbio(Nasdaq:RGNX)は3月にRGX-121(clemidsogene lanparvovec)をHunter症候群用薬としてFDAに加速承認を求め、優先審査指定を受けたが、審査期限が11月9日から26年2月8日に延期されたと発表した。

    ハンター症候群の治療は患者で欠乏するiduronate-2-sulfataseの補充療法が実用化されているが、RGX-121はその遺伝子をAAV9ベクターを用いて脳脊髄投与するもの。臨床試験で脳脊髄液中のヘパラン硫酸D2S6量(疾病活動性のバイオマーカー)が16週後に86%低下した。審査期間延長は、この試験の12ヶ月データを追加提出したことに伴うもの。承認前査察は問題なく終了し、安全性に関する懸念も指摘されていない由。

    今回も、審査期限ぎりぎりではなく3ヶ月も早く通知が来た。FDA新体制の方針変更なのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ファンコニ貧血用薬の欧州における承認申請を撤回
    (2025年8月22日発表)

    米国ニュー・ジャージー州のRocket Pharmaceuticals(Nasdaq:RCKT)はEUでRP-L102(mozafancogene autotemcel)をファンコニ貧血症の遺伝子療法として承認申請していたが、8月11日付で撤回した。EMA(欧州薬品庁)が公表したもの。EMAは、エビデンスが1~7歳の患者を合わせて14人を組入れた3本の単群試験だけであることや、将来の骨髄不全リスクを抑制できるか明らかではないこと、そして、幹細胞にFANCA遺伝子が何コピー組入れられたか投与前に確認する手法が確立していないことなどから、承認しない方向で考えていた由。

    ファンコニ貧血の6~7割を占めるA型ではDNA損傷修復に関わるFANCA遺伝子が十分に機能せず、貧血症などを示し、白血病や心腎疾患を合併するリスクもある。劣性遺伝疾患で有病率は100万人当り5人程度。治療は同種幹細胞移植など。RP-L102は患者から採取した造血幹細胞にレンチウイルスベクターを用いて正常なFANC遺伝子を挿入し、培養した上で患者に戻す。

    同社は米国でもローリング承認申請を着手したが、8月7日の第2四半期決算発表時に優先順位の観点からRP-L102に対する追加投資は行わない旨、公表しているので、既に撤回したかもしれない。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【承認】


    遺伝性血管浮腫のアンチセンス薬が承認
    (2025年8月21日発表)

    アンチセンス薬のスペシャリストであるIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、FDAがDawnzera(donidalorsen)を遺伝性血管浮腫(HAE)薬として承認したと発表した。12歳以上の患者が80mgを4週毎に自分で皮下注する。8週毎も可。第3相OASIS-HAE試験で半年間の発作発生頻度が4週毎投与群は偽薬比81%、8週毎群は55%、低かった。警告注意事項は過敏反応。

    HAEは米国患者数が7000人程度と希少疾患だが、発作予防薬が続々と発売されている。Dawnzeraは、治療が順調なら8週毎投与にシフトして投与頻度や薬剤費を抑制できることが長所。EUではライセンシーの大塚製薬が承認申請中。

    リンク: Ionisのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEylea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)→25Q4に延期
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)
    25Q4ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1015550(nerandomilast、特発性肺線維症)
    25/10ロシュのGazyva(obinutuzumab、ループス腎炎)
    25/10Regeneron PharmaceuticalsのLibtayo(cemiplimab-rwlc、皮膚扁平腫瘍術後療法))
    25/10推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/10/7Jazz PharmaceuticalsのZepzelca(lurbinectedin、進展期小細胞性肺癌Tecentriq併用)
    25/10/13Arcutis BiotherapeuticsのZoryveクリーム(アトピー性皮膚炎の適応を2-5歳に拡大)
    25/10/19アストラゼネカ/アムジェンのTezspire(tezepelumab-ekko、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を追加)
    25/10/20GlaukosのEpioxa(円錐角膜のUV治療補助薬)
    25/10/23SydnexisのRyjunea(atropine sulfate 0.1mg/mL)
    25/10/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/10/25MSDのWinrevair(sotatercept-csrk、アウトカム試験データ)





    今週は以上です。

    2025年8月16日

    第1220回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • イーライリリー、英国でチルゼパチドを値上げへ 
    • 膀胱癌周術期にキイトルーダ・パドセブ併用が有効 
    • ノバルティス、シェーグレン症候群とITPの第3相が成功 
    • IO Biotech、癌ワクチンの第3相がフェールもサブグループ・データに期待 
    • ファイザー、抗P-セレクチン抗体の第3相がフェール 
    • Biohaven社、リルゾール類薬の強迫性障害用途は開発中止 
    • GSK、淋病治療薬を承認申請 
    • Arvinas、SERDを承認申請 
    • 線維筋痛症薬が15年ぶりに承認 
    • 初の呼吸器乳頭腫症用薬が承認 
    • ウゴービがMASHに適応拡大 
    • インスメッド、非嚢胞性線維症気管支拡張症の新薬が承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    イーライリリー、英国でチルゼパチドを値上げへ
    (2025年8月14日発表)

    CNBCなど複数の報道によると、イーライリリーは体重管理薬tirzepatideの英国におけるリスト・プライスを値上げすることでNHS(英国政府の公的医療制度)と合意した。トランプ米国大統領が医薬品の内外価格差の是正を呼びかけたことが引き金、という見方が多い。

    GIP/GLP-1受容体アゴニストで肥満症用途では23年11月に英米で、翌月にはEUで、その1年後には日本でも、承認された。米国や日本では二型糖尿病向けの製品名はMounjaro、肥満症向けはZepboundと別名販売されているが、欧州ではMounjaroに統一されている。英国では当初、1ヶ月分のリスト・プライスが用量により92~122ポンドだったが、9月1日付で133~330ポンドに1.4~2.7倍に値上げする。英国は薬価抑制に熱心でイーライリリーも薬価収載前に値引きを迫られたのかもしれないが、価格改定により欧州他地域水準に近づける考え。

    それでも米国と比べれば半値水準なので、米国を最恵国待遇するには届かないが、できることからやっていくということなのかもしれない。

    リンク: CNBCの報道

    【新薬開発】


    膀胱癌周術期にキイトルーダ・パドセブ併用が有効
    (2025年8月12日発表)

    ファイザー及びアステラス製薬と、MSDは、夫々、第3相EV-303/KeyNote-905試験で主目的を達成したと発表した。ファイザー/アステラス側は適応拡大に向けて当局と相談する考え。

    この日本も参加したグローバル試験は、MIBC(筋層浸潤膀胱癌)の摘出術を受ける、白金薬術前療法に不適または拒否の患者595人を、MSDのKeytruda(pembrolizumab)術前(3サイクル)術後(14サイクル)療法群、摘出術のみの群、Keytruda術前術後療法に加えてファイザー/アステラスのPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)も術前(3サイクル)術後(6サイクル)に投与する併用群に無作為化割付けして、EFS(無イベント生存期間:複合評価項目で、術前療法に対する応答が不十分なだけでもヒットと判定されるようだ)をオープン・レーベルで比較した。

    主評価項目は併用群と手術だけの群の比較。最初の中間解析で達成した。副次的評価項目の一つである全生存期間も達成した。データは未発表。

    Keytruda単剤投与群も設定されているということは、併用がマストなのか、単剤だけで十分ではないのかという疑問には未だ答えが出ていないのだろう。そのせいか、MSD側は適応拡大申請に言及していない。

    この二剤併用は白金薬が適応になるMIBCにおける治癒的膀胱全摘・骨盤リンパ節郭清付随療法試験、第3相EV-304/Keynote-B15試験も進行中。

    Padcevは2011年にSeattle GeneticsがAgensysからライセンスしたが、同年、アステラスがAgensysを買収し、23年にはファイザーがSeagen(Seattle Geneticsから社名変更)を買収したため、両社が呉越同舟することになった。ファイザーが共同開発販売しているメルクの抗PD-L1抗体Bavencio(avelumab)ではなくライバルの製品と併用しているが、この試験が始まったのは19年で買収前だった。

    リンク: MSD側のプレスリリース


    ノバルティス、シェーグレン症候群とITPの第3相が成功
    (2025年8月11日、12日発表)

    ノバルティスはVAY736(ianalumab)の第3相シェーグレン症候群試験二本で主目的を達成したと発表した。データは未発表。学会でデータを発表するとともに、グローバルに承認申請する予定。

    BAFF-Rを標的とする抗体医薬で、抗体依存性細胞毒性によりB細胞を枯渇するとともに、BAFF-Rが調停するB細胞の機能や生存に介入する。様々な自己免疫疾患に試験されている。

    今回の第3相は成人の活性期患者を対象に、一本は300mgを月一回皮下注群、もう一本は月一回群と3ヶ月に一回群の、52週後の症状を偽薬群と比較した。主評価項目はESSDAI(EULAR Sjögren’s syndrome disease activity index)。第2相試験では300mg月一回投与群のESSDAIが24週で1.92点低下した。

    翌日、今度は第3相免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)試験で主目的を達成したことも発表した。ステロイド治療でも血小板数が十分に回復しない患者を組入れて、経口トロンボポエチン受容体作動剤Promacta(eltrombopag、和名レボレード)に追加する便益を検討したもので、主評価項目である治療フェールまでの期間や、副次的評価項目である血小板数持続的改善達成率などが偽薬追加群を上回った。治験登録によると二種類の用量が設定されているようだが、両方達成したのかは不明。この疾患では一次治療ステロイド併用試験、VAYHIT1試験も進行中で、両方の結果が揃う27年に承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース(シェーグレン症候群、8/11付)
    リンク: 同(免疫性血小板減少性紫斑症、8/12付)


    IO Biotech、癌ワクチンの第3相がフェールもサブグループ・データに期待
    (2025年8月11日発表)

    米国ニューヨーク州のIO Biotech(Nasdaq:IOBT)は、Cylembio(imsapepimut、etimupepimut)の第3相IOB-013/KN-D18試験がフェールしたが好成績を示したサブグループがあるためFDAと今後を相談すると発表した。あわよくば承認申請する考えのようだ。

    同社は腫瘍細胞だけでなく免疫抑制作用を持つ細胞も標的とするT-Winプラットフォーム技術に基づき癌治療用ワクチンを開発している。Cylembioは免疫逃避に関与するIDO1(indoleamine 2,3-dioxygenase 1)のペプチド抗原とPD-L1のペプチド抗原を組み合わせたものでアジュバントが添加されている。今回の試験は切除不能/転移黒色腫で一次治療を受ける407人を組入れて、MSDのKeytruda(pembrolizumab)に追加する便益を検討した。試験薬は85mcgを3週毎(但し最初の2サイクルは第8日も)に皮下注し、両剤とも最大2年間投与した。

    主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はメジアン値は19.4ヶ月とKeytrudaだけの群の11.0ヶ月を上回ったが、ハザード・レシオは0.77(95%信頼区間0.58-1.00)、p=0.056(閾値は0.045)となり、有意差が出なかった。サブグループ分析でPD-L1陰性130人は16.6ヶ月対3.0ヶ月、ハザード・レシオ0.54(同0.35-0.85)だった。ポストホックだが抗PD-1抗体による術前術後療法歴を持たない371人でもメジアン24.8ヶ月対11.0ヶ月、ハザード・レシオ0.74(同0.56-0.98)、名目p=0.006と良さそうな数字が出ている。

    全生存期間は未成熟だがハザード・レシオ0.79(同0.57-1.10)と好ましい方向を向いている。あと6~9ヶ月で成熟する見込みだ。

    薬効確認試験一本で承認を取ろうと思ったらp値が0.05 x 0.05で0.0025未満であることが望まれる。ワクチンなので評価項目はPFSより全生存期間のほうが良さそうに思われるので、6~9ヶ月待ったほうが良いのではないか(手持ち資金が足りるならば)。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ファイザー、抗P-セレクチン抗体の第3相がフェール
    (2025年8月15日発表)

    ファイザーはPF-07940370(inclacumab)の第3相鎌状赤血球症試験で主目的を達成できなかったことを公表した。静脈閉塞性クリーゼ(VOC)歴を持つ患者241人を組入れて30mg/kgを12週毎に点滴静注する便益を検討したが、VOC再発を抑制することができなかった。本試験は当初は23年に開票する見込みだったが遅延した。もう一本は組入れが遅く、昨年3月に中止となっている。

    ロシュの抗P-セレクチン抗体をライセンスしたもので、ファイザーは22年にGlobal Blood Therapeuticsを企業価値ベース54億ドルで買収して入手した。その時点で既に米欧で鎌状赤血球症薬として承認されていた鎌状ヘモグロビン重合阻害剤、Oxbryta(voxelotor)も市販後薬効確認試験で死亡の不均衡が観察され、24年9月に製品回収・臨床試験中止の暫定的措置が取られた。

    リンク: ファイザーのプレスリリース


    Biohaven社、リルゾール類薬の強迫性障害用途は開発中止
    (2025年8月11日発表)

    Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)の第3相強迫性障害試験がフェールしたと発表した。薬効の兆しが見られず、この用途の開発中止する。

    活性成分はALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として米欧日で承認されているベンゾチアゾル系グルタミン酸塩放出阻害剤、riluzoleのプロドラッグ。血液中のアミノペプチダーゼによりriluzoleに変換される。同社はアルツハイマー病や全般不安障害などで第3相試験を実施したが思わしい結果は出なかった。強迫性障害も第2/3相試験がフェール、用量を増やして再挑戦したもの。

    米国で脊髄小脳失調症用薬として承認申請し、優先審査を受けたが、審査期間延長で結果が出るのは今年第4四半期の見込み。この用途も第3相がフェールしたため最初の申請は受理されなかったが、偽薬群の成績が予想以上だったため自然歴対照分析を行った上で改めて申請した経緯がある。今のFDAは前例が当て嵌まるのか当て嵌まらないのか、反応が読みづらいこともあり、承認されるかどうか不透明感がある。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    GSK、淋病治療薬を承認申請
    (2025年8月11日発表)

    GSKはGSK2140944(gepotidacin)を米国で12歳以上の非複雑性淋菌感染症治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年12月11日。

    25年に米国で非複雑性尿路感染症治療薬Blujepaとして承認されたトポイソメラーゼ阻害剤。米国連邦政府のBARDA(生物医学先端研究開発機構)などと共同開発した。淋病におけるエビデンスであるEAGLE-1試験は、約600人を組入れて3000mg(750mg錠4個)を10~12時間おいて2回、経口投与する効果をceftriaxone(500mg筋注)とazithromycin(1g経口)のレジメンと比較した。主評価項目である3~7日後のテスト・オブ・キュア評価における微生物学的奏効率は各群92.6%と91.2%、調整後の群間差は-0.1%、95%信頼区間下限は-5.6%となり、非劣性判定閾値の-10%をクリアした。

    必ずしも大きな市場ではないので、ブロックバスターを期待するというよりは、抗生物質耐性菌が蔓延する事態に備える意味合いのほうが大きいようだ。

    リンク: GSKのプレスリリース


    Arvinas、SERDを承認申請
    (2025年8月8日発表)

    Arvinas(Nasdaq:ARVN)と共同開発パートナーのファイザーは、ARV-471/PF-07850327(vepdegestrant)を米国で承認申請し受理されたと発表した。選択的エストロゲン受容体零落剤(SERD)で、エストロゲン受容体1(ER1)に変異がありエストロゲン受容体(ER)陽性、her2陰性の進行/転移乳癌の成人に、内分泌療法の次の手段として用いることを予定している。審査期限は26年6月5日。

    日本も参加した第3相VERITAC-2試験に、内分泌療法薬とCDK4/6阻害剤による1~2次治療歴を持つER陽性her2陰性進行/転移乳癌624人を組入れて、200mgを一日一回経口投与する便益をfulvestrant4週毎(但し2回目は2週後)筋注群と比較したところ、intent-to-treatベースのPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザード・レシオが0.83、p=0.07とフェールしたものの、アロマターゼ阻害剤抵抗性を示すER1変異のあるサブグループ(被験者の4割強)では同0.58、p<0.001、メジアン値は5.0ヶ月対2.1ヶ月となり、ハザード・レシオが目標の0.6を下回った。

    全生存期間の解析は未成熟。G3以上の有害事象発生率は各群23.4%と17.6%、有害事象治験離脱率は2.9%と0.7%だった。疲労や悪心、肝臓酵素上昇などが見られた。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【承認】


    線維筋痛症薬が15年ぶりに承認
    (2025年8月15日発表)

    米国ニュー・ジャージー州の温故知新型中枢神経系用薬開発会社、Tonix Pharmaceuticals(Nasdaq:TNXP) は、FDAがTonmya(cyclobenzaprine HCl)を成人の線維筋痛症薬として承認したと発表した。就寝前に2.8mg舌下錠を最初の14日間は1錠、その後は2錠、服用する。第3相試験3本のうち2本で、第14週の疼痛が偽薬比有意に改善した。睡眠なども改善した。警告・事前注意事項は胚胎毒性、セレトニン症候群、三環系抗鬱剤やアトロピンでしばしば見られる心血管系や中枢神経系の有害事象、自動車/機械運転時の中枢神経抑制、口腔内粘膜有害事象。

    活性成分は1977年にヤンセンが米国で鎮痙薬Flexerilとして承認取得したが既にGE化した。同社は舌下錠とすることで生物学的利用率などを向上した。線維筋痛症薬は07~09年に米国で3剤が相次いで承認されたが、その後は新薬が途絶えていた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    初の呼吸器乳頭腫症用薬が承認
    (2025年8月14日発表)

    FDAは、米国メリーランド州の医薬品開発会社、Precigen(Nasdaq:PGEN)のPapzimeos(zopapogene imadenovec-drba)を成人のRRP(再発性呼吸器乳頭腫症)用薬として承認した。ヒト・パピローマ・ウイルスが惹起する疾患なので、増殖能が除去されたゴリラ・アデノウイルスを用いてHPV-6/11抗原を作る遺伝子を導入し、T細胞免疫を誘導する。5x10^11パーティクル・ユニットを12週間内に4回、皮下注する。ファースト・イン・ヒューマン単群試験で過去1年間に3回以上の切除術を受けた35人中18人、51%が、1年以上、切除術を受けずに済んだ。警告・事前注意事項は注射箇所反応と血栓性イベント。

    同社は加速承認を申請したが本承認された。CBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッドに復帰したVinay Prasad氏は、無作為化割付試験が常に必要なわけではないと下記のプレスリリースでコメントしている。

    同社によると、米国の成人患者数は推定27000人。RRPは1~4歳で診断されることが多く、多くは良性だが症状緩和のため一生で数百回のレーザー焼灼/摘出術を受ける患者も多いようだ。幼小児向けも開発されるのだろうか?

    リンク: FDAのプレスリリース


    ウゴービがMASHに適応拡大
    (2025年8月15日発表)

    ノボ ノルディスクは、GLP-1受容体アゴニストWegovy(semaglutide)が米国で成人のMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)に適応拡大したと発表した。ステージ2または3(肝線維症が中程度から進行段階)の患者が適応となり、肝硬変合併は適応外。低カロリー食事療法と運動療法を併用する。GLP-1作用剤のMASH承認は初。

    第3相ESSENCE試験で最初の主評価項目である肝線維症が悪化せずに脂肪肝炎が解消した患者の比率が63%と偽薬群の34%を有意に上回り、シーケンシャルな主評価項目である脂肪肝炎が悪化せずに肝線維症改善した患者の比率も37%対22%で有意差があった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    インスメッド、非嚢胞性線維症気管支拡張症の新薬が承認
    (2025年8月12日発表)

    インスメッド(Nasdaq:INSM)はFDAがBrinsupri(brensocatib)を12歳以上のNCGBE(非嚢胞性線維症気管支拡張症)用薬として承認したと発表した。この疾患で承認を取得した薬は初。

    アストラゼネカからライセンスして開発したファースト・イン・クラスのDPP1阻害剤。NCGBEで増加し増悪時にはさらに増加する好中球エラスターゼなどをDPP1が活性化するのを妨げる。日本も参加した第3相グローバル試験、ASPENで、10mgと25mgの両群(どちらも一日一回投与)とも、肺増悪イベントが偽薬群より2割前後少なかった。警告・事前注意事項はラッシュなどの皮膚有害事象、歯肉歯周有害事象。弱毒化生ワクチンの使用は避ける。

    10mgと25mgは薬効面でも安全性面でも大きくは変わらない。10mg群は副次的評価項目である気管支拡張剤投与後のFEV1(一秒量)の52週間の低下が偽薬群と大差なかったが、承認されたのだから、決定的な弱点ではないのだろう。となると、10mgと25mg、どちらを選んだらよいか、レーベルを読んでもよく分からない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)→承認
    25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)→承認
    25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
    25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
    25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)→承認
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda皮下注(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)→12/26に延期
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)



    今週は以上です。