2021年5月29日

第1001回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 新たな抗SARS-CoV-2抗体がEUA 
  • Modernaも青少年試験が成功 
  • EMA、シクレソニドなどをCOVID-19に支持せず 
  • その他の領域: 
  • 価格破壊志向の抗PD-L1抗体を米国などで承認申請へ
  • 武田薬品、デング熱ワクチンの予防効果は3年だと62% 
  • ノボ、オゼンピックの高用量追加を再申請 
  • BCMA標的CAR-T療法の承認申請が受理 
  • 武田、CMV治療薬を承認申請 
  • FDA諮問委員会、一型糖尿病予防薬の評価が意外に分かれた 
  • CHMP、cALDの遺伝子療法などの承認を支持 
  • FDA、アムジェンのKRAS-G12C阻害剤をスピード承認 
  • FDA、FGFR2融合陽性胆管癌の薬を承認 
  • BMS、S1PR1/5調節剤が潰瘍性大腸炎に適応拡大 
  • 片頭痛治療薬が予防にも承認 
  • 子宮筋腫のアドバック療法用薬が承認 
  • JNJの二重特異性抗体が承認 
  • ベオビュは毎月投与を続けると眼内炎リスクが高まる 
  • Ocalivaは進行肝硬変が禁忌に 


【COVID-19関連】


新たな抗SARS-CoV-2抗体がEUA
(2021年5月26日発表)

FDAは、サンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)が創製しグラクソ・スミスクラインと共同開発している抗SARS-CoV-2抗体、VIR-7831/GSK4182136(sotrovimab)をEUA(非常時使用認可)した。12歳以上、体重40kg以上の軽中等COVID-19感染症で重症化リスク因子(65歳以上、ある種の持病など)を持つ患者に一回、点滴静注する。

元々はSARSの研究から生まれた、よく保存されているエピトープを標的とする抗体で、ラボ試験では英国型、南ア型、ブラジル型、カリフォルニア型、ニューヨーク型、インド型変異にも活性が認められた。583人を組入れた第1/2/3相試験で偽薬群は7%が入院または死亡したが、試験薬群は1%のみだった。

EUでも承認審査中。

FDAはこの薬に関してもCOVID-19感染症で入院中の患者には便益が見られず、ハイフロー酸素や人工呼吸器を必要とする患者は転帰がむしろ悪化する可能性があると警告している。抗SARS-CoV-2抗体共通のリスクと認識しているのだろう。そのうち試験が成功するのではないかと期待していたが、音沙汰無いので、そろそろ諦めた方が良いかもしれない。

抗SARS-CoV-2抗体はトランプ前大統領に使用され、注目を集めたが、需要は伸び悩んでいる。入院の必要がない患者を呼び出して点滴静注する不便さが敬遠の理由であるようだ。そもそも入院の必要のない患者を治療する余裕がないのかもしれない。米国政府はリジェネロンやイーライリリーの製品を一括購入し医療機関に無償提供しているが、報道によるとsotrovimabは対象外とのことで、普及のハードルが一段高くなっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース



Modernaも青少年試験が成功
(2021年5月25日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)はmRNA-1273(COVID-19ワクチン)の第2/3相青少年試験が成功したと発表した。6月初めに承認審査機関に対象年齢拡大申請を行う考え。当初の武漢株と異なり最近の変異株は青少年でも重症化リスクがあると言われており、また、日本の大学のように集合授業を見合わせている学校や国もあるので、重要だ。

この試験は12歳以上18歳未満の3732人をワクチン群と偽薬群に2対1割付して、免疫原性を大人のデータと比較した。用量用法は大人と同じ、100mcgを28日置いて2回、筋注した。結果は、大人と非劣性であることが確認された。

ワクチン群の症候性感染はゼロ、偽薬群は4人でワクチン効率は100%だった。但し、症例数が少ないため、良く分からない面もありそうだ。CDC(米国疾病管理予防センター)がワクチンの副次的な評価項目として推奨している、2回目ではなく初回接種の14日後から起算して、症状に関する感染判定基準を二項目以上ではなく一項目以上に緩和したデータでは、ベースライン時点で血清陰性(感染歴無し)の被験者におけるワクチン効率は93%だった。

リンク: 同社のプレスリリース



EMA、シクレソニドなどをCOVID-19に支持せず
(2021年5月27日発表)

EMAのCOVID-19タスクフォースは、budesonideやciclesonideのような吸入コルチコステロイドをCOVID-19の治療に用いる当否を検討し、便益に係る十分なエビデンスはないと結論した。危険に関する新たな知見はないものの、酸素水準が正常な患者には危害がある可能性が否定できない由。尚、全身性ステロイドであるdexamethasoneはある種のCOVID-19感染者に対する便益が確立されている。

シクレソニドは日本以外の開発販売権を持つCovis Pharmaが行った第3相外来治療試験で有意な症状改善効果を示さなかった。日本で行われた試験では、軽症患者の肺炎増悪リスクが高まる懸念が浮上した。

COVID-19との戦い方は今でも万全ではないが、1年前と比べたら、いろいろな知見を得ている。シクレソニドとか、ファビビラビルとか、無作為化割付対照試験のエビデンスを持たない薬をいつまでも使っていたら、患者は救われない。

リンク: EMAのプレスリリース


【新薬開発】


価格破壊志向の抗PD-L1抗体を米国などで承認申請へ
(2021年5月28日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジの新興新薬開発会社、EQRxと、ライセンス元である中国のCStone Pharmaceuticals(HKEX:2616、基石藥業)は、CS1001(sugemalimab)の二本目の第3相非小細胞性肺癌試験が成功したと発表した。一本目の成功を受けて中国では既に承認申請済みだが、今回の成功により米国などでも承認申請する考え。先輩類薬はバスケットやバレーのチームが作れるほどあるが、EQRxは新薬を低廉に提供することを使命とする会社なので、中国以外でも抗PD-1/PD-L1抗体の価格破壊が起きそうだ。

CS1001はLigand PharmaceuticalのOmniRatトランスジェニック・ラット技術を用いてCStoneが創製したIgG4型抗PD-L1完全ヒト化抗体。第3相無作為化割付二重盲検試験は二本とも中国の施設で実施され、一本目はステージIVの非小細胞性肺癌の一次治療として化学療法併用で3週毎点滴静注し、PFS(無進行生存期間、主評価項目は担当医評価)を化学療法・偽薬併用と比較した。結果はハザードレシオ0.50、メジアン期間は7.9ヶ月対4.9ヶ月となり、サブグループ分析ではPD-L1陽性・陰性やヒスとロジーを問わず、効果が見られた。盲検独立中央評価によるPFSも似たような成績だ。

今回の試験はステージIIIの非小細胞性肺癌で、化学放射線療法により癌の進行を抑制できた患者を組入れて、3週毎に最大24ヶ月間の地固め療法を行い、PFS(盲検独立中央評価ベース)を偽薬群と比較した。データは学会などで発表する予定。化学放射線療法は連続型でも併用型でも効果が見られたようだ。

CS1001は胃癌と食道癌でも第3欧試験が進行中。

EQRxは昨年10月にCS1001と抗PD-L1ヒト化抗体のCS1003の中国台湾以外での開発販売権を取得した。尚、CS1001の中国での販売権はファイザーが取得した。


リンク: EQRxのプレスリリース



武田薬品、デング熱ワクチンの予防効果は3年だと62%
(2021年5月24日発表)

武田薬品はデング熱の4価弱毒化生ワクチン、TAK-003(通称DENVax)を欧州などで承認申請し、米国でも申請予定だが、第3相試験の追跡データを学会とプレスリリースで発表した。15ヶ月追跡時点のワクチン効率は80%だったが、主評価項目である21ヶ月追跡時点では73%、今回の3年追跡時点では62%となった。3年目だけのデータはもっと低いと推測される。武田は臨床試験のプロトコルを変更してブースター・ショットの有効性を検討することにした。

このワクチンは、元々はタイのSutee Yoksan at Mahidol Universityの研究者が創製、米国のCDC(疾病管理予防センター)を経て、ライセンスを取得して開発したInviragenを13年に武田薬品が買収した。2型のデングウイルスに1型、3型、4型の構造蛋白などを導入したもの。デング熱の初めてのワクチンであるサノフィのDengvaxiaと異なり非構造蛋白も含有しているため細胞性免疫誘導能が優れる可能性がある。

Dengvaxiaは、自然感染歴のない人が接種後に感染すると重篤化しやすくなる抗体依存的増強リスクがフィリピンなどで大規模接種が始まった後に表面化し、大きな社会問題になった。TAK-003では特に問題になっていないので、一部で言われていた通り、効果の高いワクチンなら回避できるのかもしれない。

第3相TIDES試験は流行地域であるラテンアメリカやアジアの施設で4~16歳の約2万人を組入れて90日置いて2回皮注する群の症候性感染リスクを偽薬と比較した。36ヶ月追跡したデータはワクチン効率が62.0%(95%信頼区間56.6-66.7%)で、ベースライン時点で血清反応陽性(感染歴を持つと推測される)のサブグループでは65.0%、陰性では54.3%だった。デング熱による入院のリスクは83%低かった。

21ヶ月追跡時点では2型ウイルス感染に関するワクチン効率は95%ととても高いが1型は70%、3型は49%、4型は51%だった。今回もバックボーンである2型以外の効果が落ちたようだ。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認申請】


ノボ、オゼンピックの高用量追加を再申請
(2021年5月28日発表)

ノボ ノルディスクは二型糖尿病のGLP-1作動剤Ozempic(semaglutide、和名オゼンピック)の最大用量として現在の1mgの倍である2mgを追加すべく、1月に用量追加申請を行ったが、デンマークの新生産拠点に関する情報が不足とみなされ、受理されなかった。今回、再申請したことを明らかにした。イーライリリーが承認申請したGIP/GLP-1作用剤、tirzepatideは直接比較試験でHbA1c低下作用がsemaglutide 1mgを有意に上回った。2mgは迎え撃つために重要な公然の秘密兵器である。

リンク: 同社のプレスリリース



BCMA標的CAR-T療法の承認申請が受理
(2021年5月26日発表)

GenScript Biotech(HKEX:1548)の子会社であるLegend Biotech(Nasdaq:LEGN)は、開発販売提携先であるJanssen Biotechが米国でciltacabtagene autoleucel(通称cilta-cel)を承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月29日。

BCMA(B細胞成熟抗原)を標的とする単ドメイン抗体二種類と4-1BB共刺激ドメインを持つCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法で、再発/難治多発骨髄腫に用いる。三次以上の治療歴を持ち最終治療に反応しなかった患者を日米の施設で組入れた第1b/2相試験で、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が97人中95%、完全反応率(狭義基準)は67%と高い効果を示した。CAR-Tに付き物のサイトカイン放出症候群は95%で発生、G3は4人、G4は1人とそれほど多くはないがG5(致死)が一人いた。G3以上の神経学的イベントの発生率は10%。治療関連有害事象による死亡は全部で6人で、敗血症関連、神経毒性、呼吸不全などによる死亡者もいた。

bluebird bio社がブリストル マイヤーズ スクイブと共同開発し3月に米国で承認されたBCMA標的CAR-T、Abecma(idecabtagene vicleucel)と見比べると効果は高そうだ。Abecmaは同様な患者を組入れた臨床試験に基づき承認申請したが、4次以上の治療歴を持つ患者が多かったようで、3次治療歴の患者には承認されなかった。cilta-celがどうなるか、注目される。

リンク: Legend社のプレスリリース(pdf)



武田、CMV治療薬を承認申請
(2021年5月21日発表)

武田薬品はTAK-620(maribavir)を米国で承認申請し受理された。優先審査を受ける。審査期限は不明。

臓器移植や造血幹細胞移植は強力な免疫抑制剤を用いるためサイトメガロウイルス(CMV)のような本来はそれほど重篤化しない感染症が深刻な脅威になり得る。TAK-620は、グラクソ・スミスクラインのGW 1263を03年にライセンスしたViroPharmaを13年に買収したシャイアを19年に武田薬品が子会社化、という経緯。ViroPharmaが行った第3相はフェールしたが、用量を4倍に増やした再挑戦が奏功し、ウイルス消失奏効率が55.7%と対照薬(医師がganciclovirなど4剤から選択)の23.9%を有意に上回った。治療時発現有害事象による治験離脱率が13.2%対31.9%と、忍容性が比較的良好であったことも寄与したのだろう。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、一型糖尿病予防薬の評価が意外に分かれた
(2021年5月27日発表)

FDAは内分泌代謝薬諮問委員会を取集し、Provention Bio(Nasdaq:PRVB)が一型糖尿病の発症を遅らせる薬として承認申請したPRV-031(teplizumab)について、意見を求めた。FDAブリーフィング資料のトーンはポジティブだったが、諮問委員は承認賛成が10人、反対が7人と、意外にも票が割れた。審査期限は7月2日。諮問委員会の議題ではないが、FDAは臨床試験で用いられた薬剤と市販用の薬剤の等価性に関する追加資料を要求しており、薬効や安全性に問題がなくても承認が遅れるリスクが残っている。

抗CD3抗体のエプシロン鎖に結合するIgG1型抗体で、イフェクターT細胞を抑制し制御的T細胞の活性を強化すると考えられている。MacroGenics(Nasdaq:MGNX)から資産取得した。30分静注を14日間連続で施行する。薬効のエビデンスとなるのはNIH(米国立衛生研究所)が主導した第2相試験。8歳以上で、一型糖尿病の近親を持ち、二種類以上の一型糖尿病自己抗体を保有し、糖尿病ほどではないが耐糖能が低下している76人を組入れて発症リスクを比較したところ、ハザードレシオ0.41、p=0.006だった。発症までのメジアン期間は48ヶ月で偽薬群の24ヶ月より遅かった。

選りに選りすぐったような組入れ条件だが、おそらく、イーライリリーがライセンスして実施した第3相の早期一型糖尿病治療試験がフェールしたことを踏まえたのだろう。免疫抑制剤が効きそうな患者を厳選したことが2年という大きな治療効果を生んだ。

但し、如何せん小規模な試験なので、第三の因子が影を落とした可能性も否定できない。また、サイトカイン放出症候群(試験薬群0.6%、偽薬群0%)や感染症(各3.4%と1.6%)が増加した。



CHMP、cALDの遺伝子療法などの承認を支持
(2021年5月21日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、脳副腎白質ジストロフィー(cALD)の遺伝子療法などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

cALDはX染色体性遺伝子疾患で、ABCD1遺伝子の欠損によりALDPという蛋白が機能せず、極長鎖脂肪酸がペルオキシソームに移送されずに蓄積する。神経細胞や副腎機能などに障害が発生する。

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)のSkysona(elivaldogene autotemcel)は患者から採取したCD34陽性造血幹細胞にレンチウイルスベクターを用いてABCD1の遺伝子を導入、患者に戻す。臨床試験では30人中27人が24ヶ月経過時点でも運動機能やコミュニケーション能力を維持したまま生存した。有害事象は汎血球減少症など。

ABCD1遺伝子変異型でHLA適合兄弟姉妹ドナーがいない、18歳未満の早期cALDが適応になる予定。

同社のレンチウイルスベクターを用いた遺伝子療法で19年にEUで輸血依存ベータセラサミアに承認されたZyntegloは血液癌の懸念が表面化した。CHMPは、Skysonaの臨床試験では発生していないものの、血液癌の兆候をモニターすべきとした。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)のImcivree(setmelanotide)はMC4R(melanocortin-4 receptor)アゴニスト。POMC欠乏症(PCSK1欠乏症を含む)やLEPR欠乏症の成人と6歳以上の小児の体重管理に用いる。一日一回皮注。何れも超希少疾患だが、バルデー・ビードル症候群やアルストレム症候群の第3相も成功しており、一歩一歩患者層を拡大する考え。米国では昨年11月に承認。

リンク: Rhythm社のプレスリリース

Albireo Pharma(Nasdaq:ALBO)のByIvay(odevixibat)は局所作用性iBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤。進行性家族性肝内胆汁鬱滞(PFIC)の典型的な症状である掻痒の治療に経口投与する。患者数が少ないなどの理由で十分な規模・内容の臨床試験を行うのが困難である病気に適用される例外的環境下手続きに基づいて承認することが了承された。PFIC用薬が承認されれば初。米国でも優先審査中で期限は7月20日。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

Almirall(BME: ALM)がAthenex(Nasdaq:ATNX)からライセンスして承認申請したKlisyri(tirbanibulin mesylate)は微小管阻害剤の軟膏。角質増殖型でも肥大型でもない顔や頭皮の日光角化症の治療に用いる。一日一回、5日間塗布した第3相試験二本では、5割前後の患者が寛解し、対照群の1割を上回った。

リンク: EMAのプレスリリース

大日本住友製薬の子会社になったMyovant Sciences(NYSE:MYOV)が開発し欧州などではGedeon Richter販売することになるRyeqoは、武田薬品からライセンスした新開発のGnRH受容体拮抗剤、relugolixとestradiol及びnorethindroneを配合したアドバック療法用合剤。子宮筋腫による不正出血の治療に用いる。日本ではrelugolix単剤がレルミナとして子宮筋腫による諸症状の治療に承認されている。また、relugolixは日本や海外で前立腺癌にも開発されている。

リンク: EMAのプレスリリース

バイエルのVerquvo(vericiguat)は可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤。駆出率低下型慢性心不全の治療に経口投与する。臨床試験で心血管死や心不全による入院を有意に減らした。このところ、複数の作用機序の異なる様々な心不全治療薬が承認されているので、どの薬がもっともよいのか、併用で上乗せができるのか、など分からないことも増えている。同時期に承認申請された日本では、2月の第一部会が継続審議となった。報道の行間を読むと、第3相試験の日本の施設のデータがそれほど良くなかったのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)を駆出率低下型慢性心不全の治療に用いることが支持された。心血管アウトカム試験で心血管死/心不全入院のリスクを25%抑制した。日米でも審査中。SGLT2阻害剤は血糖治療薬だが心不全では二型糖尿病の有無は問わない。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

MSDのKeytruda(pembrolizumab)をPD-L1陽性(CPS≧10)の局所進行性切除不能または転移性の食道がんやher2陰性の胃食道接合部腺腫の成人の一次治療に用いることも支持された。cisplatin及びfluoropyrimidineと併用する。KEYNOTE-590試験に基づくもので、メジアン生存期間が13.5ヶ月と対照群の9.4ヶ月を上回った。治療時発現有害事象による死亡は9人で対照群の5人を上回った。米国では3月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

リジェネロン/サノフィのIgG4型抗PD-1抗体、Libtayo(cemiplimab)の適応拡大も指示された。一つはPD-L1高発現(50%以上)でEGFRやALK、ROS1変異を持たない、化学放射線療法不適な局所進行性、または転移性の、非小細胞性肺癌に単剤投与する。化学療法対照試験では全生存期間のハザードレシオが0.676と有意に1を下回った。もう一つはヘッジホッグ・パスウェイ阻害剤に不応不耐の局所進行性/転移性基底細胞腫。米国ではどちらも2月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはDNA修復欠損(dMMR)の結腸直腸癌に用いることも支持された。fluoropyrimidineベース治療歴を持つ患者が適応になる。CheckMate-142試験ではORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が33%だった(完全反応率8%)。56%の患者で反応が12ヶ月以上持続した。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


FDA、アムジェンのKRAS-G12C阻害剤をスピード承認
(2021年5月28日発表)

FDAはアムジェンのLumakras(sotorasib)をKRASにG12C変異を持つ局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の二次治療薬として加速承認した。優先審査だが審査期限より2ヶ月半、早く承認された。コンパニオン診断薬はGuardant HealthのリキッドバイオプシーCDxとQIAGENの組織検体PCR検査薬の二種類が承認されたが、前者で陰性の場合は後者で確認することが推奨された。

非小細胞性肺癌はEGFRやALK、ROS1など分子標的薬が多いが、今回のKRAS-G12C変異は非小細胞性肺癌の13%を占めるので、比較的多い。KRASは代表的な腫瘍関連遺伝子だが、薬を結合させるのが難しく、開発が難航した。Lumakrasは第一号で、臨床入りから3年足らずで承認された。

960mgを一日一回、経口投与した単群試験では、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が124人中36%、メジアン反応持続期間は10ヶ月だった。有害事象により投与を永続的に中止した症例は9%を占めた。肝毒性や間質性肺疾患が警告・事前注意されている。

市販後コミットメントとして、第3相docetaxel対照試験や、240mgと960mgの効果や毒性を比較する試験を行う。

欧州では昨年12月に、日本でも今年4月に、承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース



FDA、FGFR2融合陽性胆管癌の薬を承認
(2021年5月28日発表)

FDAは、BridgeBioPharma(Nasdaq:BBIO)の子会社であるQED Therapeuticsが承認申請したTruseltiq(infigratinib)を加速承認した。FGFR2(線維芽細胞増殖因子受容体 2)の遺伝子に融合などの再編成があり、治療歴を持つ、切除不能局所進行/転移性の胆管癌に、125mgを一日一回、21日間連続投与して7日間休むサイクルで、経口投与する。108人のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が23%、メジアン反応持続期間は5ヶ月だった。警告・事前注意は網膜色素上皮剥離、高リン血症や軟組織石灰化、胚胎毒性。

18年にノバルティスからライセンスしたFGFR阻害剤。骨異形成以外の適応領域の共同開発販売でHelsinn Groupと提携している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BridgeBioPharmaのプレスリリース



BMS、S1PR1/5調節剤が潰瘍性大腸炎に適応拡大
(2021年5月27日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Zeposia(ozanimod)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。欧州でも承認申請中。米国の方が後に申請したが、優先審査バウチャを使って優先審査を受けた。

19年に買収したセルジーンが15年に買収したReceptosのS1PR1/5調節剤で、20年に欧米で再発性多発硬化症用薬として承認された。類薬は数多いが、潰瘍性大腸炎で承認されたのは初。クローン病でも開発中。

第3相試験では、臨床的寛解導入フェーズの奏効率が18.4%と偽薬群の6.0%を上回り、寛解維持フェーズの奏効率も37.0%と偽薬群の18.5%を上回った。

過去6ヶ月間に心筋梗塞や卒中、非代償性心不全による入院、房室ブロックなどは禁忌となった。

リンク: 同社のプレスリリース



片頭痛治療薬が予防にも承認
(2021年5月27日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、Nurtec ODT錠を反復性片頭痛の予防に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。治療と予防の両方が承認された薬は初。但し、治療は反復性(発作を経験する日数が月15日未満)だけでなく慢性(毎月15日以上が続く)にも承認されている。予防用途は75mgを二日に一回、治療は一日一回、服用する。予防の場合、一ヶ月に15錠前後を服用することになるが、発作が起きて治療が必要な時は一ヶ月に18錠まで服用可。

臨床試験では月間発作日数が偽薬群より4.3日少なかった。有害事象は悪心や腹痛など。

16年にブリストル マイヤーズ スクイブからライセンスしたCGRP受容体アンタゴニスト。

リンク: 同社のプレスリリース



子宮筋腫のアドバック療法用薬が承認
(2021年5月26日発表)

大日本住友製薬の子会社でスイス籍のMyovant Sciences(NYSE:MYOV)は、FDAがMyfembreeを閉経前女性の子宮筋腫による過剰出血の治療薬として承認したと発表した。武田薬品からライセンスしたGnRH受容体拮抗剤のrelugolixと、estradiol、そしてnorethindroneの合剤。GnRH受容体拮抗剤の副作用を緩和するために反対の作用を持つ薬を併用する、アドバック療法用の合剤は初。最長24ヶ月間、服用できる。ファイザーと共同販売する。EUでもRyeqo名で5月にCHMPの肯定的意見を得た(上記)。

relugolixは単剤で進行前立腺癌用薬Orgovyxとして米国で昨年12月に承認された。日本では19年にレルミナ名で子宮筋腫治療薬として承認され(最長6ヶ月間服用可)、子宮内膜症に適応拡大申請中。

リンク: Myovantのプレスリリース



JNJの二重特異性抗体が承認
(2021年5月21日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルが申請したRybrevant(amivantamab-vmjw)をEGFRエクソン20挿入変異を持つ非小細胞性肺癌の治療薬として加速承認した。EGFRとMETの両方に結合する二重特異性抗体で、白金薬による治療歴を持つ81人に投与した臨床試験ではORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が40%だった(完全反応率4%)。メジアン反応持続期間は11ヶ月。G3以上の有害事象発現率は35%だった。EGFR阻害剤は多数承認されているが、エクソン20変異に有効な薬は初めて。欧州でも承認審査中。

標準用量は1050mg(体重80kg以上は1400mg)。第1週は第1日と2日に半量ずつ点滴静注し、第2~4週は週一回、その後は二週後に投与する。間質性肺疾患の兆候が見られたら投与を中断、確認されたら永続停止する。日光を避ける。目の炎症や視力障害などが起きることがある。胎毒性がある。

コンパニオン診断薬としてGuardant HealthのGuardant 360 CDxも承認された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ベオビュは毎月投与を続けると眼内炎リスクが高まる
(2021年5月28日発表)

ノバルティスは新生血管加齢性黄斑変性(nAMD)の治療薬であるBeovu(brolucizumab、和名ベオビュ)の用途・用法開発試験について、アップデートを行った。この抗VEGF-A抗体フラグメントは最初の3回は毎月だが、それ以降は8週から12週毎に硝子体内注射する。頻度が少ないのが長所だが、十分な効果が得られない患者もいるので、4週毎投与を続ける効果を類薬であるafliberceptと比較したところ、視力矯正効果は非劣性だったが、眼内炎症が多く発生したため、治験を打ち切った。網膜静脈閉塞の治療試験や、他の試験の4週毎投与継続群も中止した。ノバルティスは承認審査機関に報告する考え。

Beovuは市販後に網膜血管炎などの副作用が表面化した。今回のMERLIN試験では、眼内炎症の発生率が9.3%とaflibercept群の4.5%を上回り、うち網膜血管炎は0.8%対0.0%、網膜血管閉塞は2.0%対0.0%)だった。抗VEGF抗体は視力低下を遅らせるだけでなく改善することができるが、nAMDを組入れたMERLIN試験では、15字以上、視力喪失した患者の比率が4.8%対1.7%と、治療目的に相反するデータも出た。

リンク: ノバルティスのプレスリリース



Ocalivaは進行肝硬変が禁忌に
(2021年5月26日発表)

FDAはIntercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)の原発性胆汁性肝硬変(PBC)治療薬、Ocaliva(obeticholic acid)について、進行肝硬変を禁忌にした。非代償性肝障害(肝性脳症や凝固障害を伴う)や門脈圧亢進症(腹水、胃食道静脈瘤、持続性血小板減少症)を合併している、あるいはしたことがある患者が対象。16年に米国で加速承認されて以降、深刻な非代償性肝障害や肝不全が25例、FDAに報告されていてその多くは投与開始時点で進行肝硬変だったため。

OcalivaはPBCの第一選択薬であるウルソデオキシコール酸(UDCA)の類縁体でファルネソイドX受容体を作動する力価を大幅に向上した。以前から肝毒性が危惧されており、16年4月の胃腸薬諮問委員会でも肝硬変を禁忌とすべきか議論になった。17年にはヘルスケア・プロフェッショナル・レターも発出された。

リンク: FDAの安全性情報





今週は以上です。

2021年5月21日

第1000回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • anakinraの治験論文草稿が公開 
  • ACC:フォシーガのCOVID-19試験は惜しくもフェール 
  • FDAがCytodyn社の広報に異例の反論 
  • その他の領域: 
  • イーライリリー、GIP/GLP-1作動剤のMACE解析成功し承認申請へ 
  • ASCO:テセントリクの術後延長アジュバント試験のデータ 
  • ASCO:BMS、抗PD-1抗体と抗LAG-3抗体の併用データ 
  • ASCO:安価に発売されそうなEGFR阻害剤の第3相データ 
  • JAK阻害剤の第3相白斑試験が成功 
  • 百済神州、btk阻害剤をMZLに適応拡大申請 
  • オプジーボ、食道癌アジュバントに承認 


【COVID-19関連】


anakinraの治験論文草稿が公開
(2021年5月20日発表)

Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)とギリシャのHellenic Institute for the Study of Sepsisはanakinraの第三相中重度COVID-19肺炎試験の成功を5月3日に発表したが、治験論文の査読前草稿がmedRxivのウェブサイトで公開された。主評価項目の臨床症状改善だけでなく、治癒退院や重度呼吸不全/死亡のリスクも大きく改善した。

anakinraは天然のIL-1受容体アンタゴニストを遺伝子組換え法で医薬品化したもの。アムジェンが2001年に米国で中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬Kineretとして発売、今日では重症型クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)である新生児期発症多臓器系炎症性疾患(NOMID)やIL-1受容体アンタゴニスト欠乏症にも承認されている。SOBIは08年に事業を買収した。

今回の研究者主導試験、SAVE-MORE試験は、中重度COVID-19肺炎で血漿suPAR(可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ受容体)が6ng/ml以上と亢進している入院患者(プレスリリースによれば606人、治験論文草稿では594人)を、標準的医療に加えて偽薬またはanakinra(100mg)を一日一回、最大10日間に亘って皮注する群に無作為化割付して、28日間の転帰を二重盲検で比較した。転帰はWHOの臨床症状尺度(CPS:0<ウイルス検出されず感染していない>から10<死亡>まで11段階ある)を用いて評価した。

結果は、調整オッズ比0.36、p<0.001と成功した。治癒退院のオッズ比は0.36、p<0.0001、重度呼吸不全または死亡のオッズ比は0.46、p<0.01、28日死亡ハザード比は0.45、p=0.045となっており、分かりやすい評価項目でも大変良い結果が出ている。第14日当りから治療効果が明確になる由。入院期間も短縮した。深刻な治療時発現有害事象は偽薬群より少なく、深刻でないものは同程度だった。

適応拡大申請について承認審査機関と相談する考え。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Kyriazopoulouらの治験論文草稿(medRxiv)



ACC:フォシーガのCOVID-19試験は惜しくもフェール
(2021年5月16日発表)

アストラゼネカはBMSから取得したSGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の適応症を二型糖尿病、慢性心不全、慢性腎疾患と拡大することに成功したが、COVID-19治療試験は僅かにフェールした。データがACC(米国心臓学会)で発表されたが、数値上は悪くはない。有意差が出なかったのは標準療法が全般的に向上し偽薬群の主評価イベント発生率があまり高くなかったことも影響している模様だ。一方で、少なくともベースライン時点ではremdesivirの使用率が18%とそれほど高くなかったことも留意すべきだろう。

このDARE-19試験はCOVID-19感染(疑い例含む)により過去4日以内に入院した患者のうち深刻化リスク因子(高血圧症、二型糖尿病、アテローム硬化性心血管疾患、心不全、ステージ3以上の慢性腎疾患など)を持つ1250人を偽薬群とFarxiga群に無作為化割付して転帰を比較した。

米州や英国の施設が参加したが、ブラジルの施設が被験者の6割を組入れた。ベースライン時点の平均年齢は62歳、女性が43%、持病は高血圧症が84%、二型糖尿病が51%を占めた。

Farxigaは10mgを一日一回、経口投与した。投与期間は30日間で退院後も服用した。

結果は、主評価項目の一つである全死亡・臓器不全(呼吸器、心臓、腎臓:代理マーカーに基づく評価も含む)のハザードレシオが0.80と数値上は良かったがp値が0.17に留まりフェールした。上記イベントの発生率は偽薬群が13.8%、試験薬群は11.2%だった。

もう一つのWin ratio(入院期間などを比較)は1.09、p=0.14でフェールした。

副次的評価項目のうち全死亡はハザードレシオ0.77、p値は0.05を上回り、有意ではないのだが、各群の全死亡率である8.6%と6.6%を用いて敢えてnumber-needed-to-treatを計算すると、48人に1ヶ月投与すると一人の命を救うことになる。もしこれが真実だとしたら、本試験が逃した魚は極めて大きかったことになる。

さて、一部の学会はケトアシドーシスのリスクを懸念してCOVID-19感染者はSGLT2阻害剤の服用を止め他の薬にスイッチすることを推奨している。しかし、本試験では深刻有害事象や急性腎障害は偽薬群より少なく、糖尿病性ケトアシドーシスは各群ゼロ対2例と数値上増加したものの、発生率はそれほど高くなかった。本試験は1250人を1ヶ月と人年ベースではそれほど大きな試験ではなく、また、eGFRが25ml/分/1.73m2未満の腎機能低下患者や糖尿病性ケトアシドーシス歴が除外条件だったので決定的とは呼べないだろうが、取り敢えず一安心と言えるのではないだろうか。

リンク: ACCのニュースリリース
リンク: プレゼンテーション・スライドのリンク・サイト



FDAがCytodyn社の広報に異例の反論
(2021年5月17日発表)

FDAは医薬品などの開発者に対して守秘義務を負っているので、未承認の開発品やその臨床成績等について言及することはできない。但し、例外もあり、かって、FDA長官が、株式公開企業が虚偽を発表した場合は投資家保護の観点から事実公表するよう指示したことがある。尤も、証券取引法違反摘発につながった事例は私の知る限りない。諮問委員会用ブリーフィング資料でそれらしき記述を見かけたことがあるだけだ。

今回、医薬品開発会社の広報に異論を唱えるような異例のリリースをFDAが出した。カナダのCytodyn(OTC.QB:CYDY)のleronlomabのCOVID-19試験二本について、何れも主評価項目と副次的評価項目がフェールしたこと、サブグループ分析では比較的良かったり悪かったりする結果が出ているが、このような分析は一般的に症例数が少なく、患者背景に偏りが生じやすいこと、などを指摘した。

leronlomabはProgenics Pharmaceuticals(現在はLantheus Holdings(Nasdaq:LNTH)と合併)が開発した抗CCR5ヒト化抗体で、Cytodynは12年にインライセンス、20年にHIV/AIDSのサルベージ療法薬として米国で承認申請したが受理されなかった(第955回参照)。

COVID-19では軽中等症86人を組入れて症状改善作用を偽薬と比較したがフェール。今年3月には、重症患者394人を組入れた第3相試験が成功したと発表したが、よく読むと主評価項目はフェールだ。65歳超の構成比に群間の偏りがあったため65歳超と以下に分けて分析したところ、65歳超では28日死亡率が40.9%と偽薬群の44.8%より低かった。人工呼吸器やECMO装着62人でも各27.9%と36.8%で大きな差があった。だが、全集団でも群間の不均衡があったのだからサブグループでもあった可能性があるのではないか。そもそも、COVID-19のように良く分からない病気では、野球ファンよりプロレスファンのほうがリスクが高いとか、ふたご座は重症化しやすいとか、第三の因子が存在するかもしれないので、症例数をできるだけ大きくして個々のノイズの影響を抑制すべきである(第990回参照)。

発表当時のプレスリリースではオープンレーベルで組入れを予定より拡大する考えを示していた。追加症例で仮説検証することは不可能ではないので好ましい方向に進んでいるように受け止めたが、FDAがわざわざリリースを出したということは、違うのだろうか?

株価はFDAのリリースがダメ押しとなって更に下落したが、最近のピークは2月で、成功発表プレスリリースが出た後も軟調に推移したので額面通りに受け止めた投資家は多くなかっただろう。3月末に反発しているので、おそらく、この頃に会社側が取った何らかのアクションが、株価だけでなくFDAも刺激したのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース


【新薬開発】


イーライリリー、GIP/GLP-1作動剤のMACE解析成功し承認申請へ
(2021年5月20日発表)

イーライリリーはGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)・GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体アゴニストLY3298176(tirzepatide)を二型糖尿病の血糖治療薬として開発しているが、5本目の承認申請用試験と心血管疾患転帰(CVO)に関するメタアナリシスが成功したことを発表した。年末までに承認申請に向かう予定。

FDAは糖尿病薬の承認に際して、長期大規模なCVO試験または複数の試験のCVOメタアナリシスを行って、心血管疾患リスクが顕著に増加しないことを確認するよう求めている。具体的には、対照群(偽薬または実薬)と比べてハザードレシオの信頼区間上限が1.3を下回ることが必要だ(メタアナリシスがそれほど悪い結果でなければ、市販後のCVO試験で確認することも可)。

tirzepatideの場合、MACE(ここでは全死亡、心筋梗塞、卒中、または心不全入院の何れか)のハザードレシオが0.81、97.85%信頼区間は0.52~1.26となった。心不全入院を除いた三点MACEではどうだったのか、あるいは、どのような経緯で95%でなく97.85%信頼区間を使ったのかは明らかではないが、取り敢えず、ハードルはクリアした。

尤も、ライバルであるノボ ノルディスクのGLP-1作用剤、Victoza(liraglutide)とOzempic(semaglutide)は大規模CVO試験で心血管リスク削減効果が確認され、米国のレーベルに記載することが認められた。ハザードレシオ(三点MACE)はtirzepatideとそれほど大きくは変わらないが、効能が確立しているのと未確立では大きな違いだ。

リンク: 同社のプレスリリース



ASCO:テセントリクの術後延長アジュバント試験のデータ
(2021年5月20日発表)

ASCO(米国臨床腫瘍学会)の抄録が一般公開され、一部Late-breakerについてはメディア向けブリーフィングも始まった。ロシュが3月に成功発表したTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower010試験のデータも明らかになった。

ステージIBからIIIAまでの切除可能早期非小細胞性肺癌で術後にcisplatinベースのアジュバント療法を受けた患者を組入れて、最良支持療法にTecentriq(1200mgを3週毎に16回点滴静注)を追加する効果を最良支持療法だけの群と比較したもので、二つの主評価項目(ステージII-IIIAの治験医評価無病生存期間と、このうちPD-L1陽性だけの解析)を達成した。データはPD-L1陽性の方が良く、ハザードレシオ0.66(95%信頼区間0.50~0.88)でメジアン値は未達対35.3ヶ月。陰性も含むデータは各0.79(0.64-0.96)、42.3ヶ月、35.3ヶ月となっている。陰性だけのデータはどうなのだろうか?

ステージIBも含むintent-to-treatの解析も予定されている。副次的に全生存の解析も行う予定。

忍容性は、G3/4有害事象の発生率は各21.8%と11.5%、Tecentriq群のG5(致死的)有害事象発生率は0.8%だった。

承認審査機関と適応拡大申請について相談することになりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Wakeleeらの抄録(ASCO 2021、抄録#9503)



ASCO:BMS、抗PD-1抗体と抗LAG-3抗体の併用データ
(2021年5月19日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、IgG1型抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とIgG4型抗LAG-3抗体BMS-986016(relatlimab)の併用効果を検討した第2/3相RELATIVITY-047試験の成功を3月に発表したが、ASCO抄録公開に合わせて、プレスリリースでトップラインを報じた。癌細胞が免疫攻撃を免れるために悪用する免疫チェックポイントを阻害する薬としては複数の抗PD-1/PD-L1抗体とIgG1型抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab(抗LAG-3抗体、和名ヤーボイ)が既に実用化されているが、次に続くのは、前評判通りに、抗LAG-3抗体になりそうだ。

本試験は切除不能/転移悪性黒色腫714人の一次治療無作為化割付二重盲検試験。Opdivo(480mg)とrelatlimab(160mg)の配合薬を4週毎に点滴静注する群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)をOpdivoだけの群と比較した。結果は、ハザードレシオ0.75、p=0.0055で、各群のメジアン値は10.1ヶ月と4.6ヶ月だった。G3/4の治療関連有害事象発現率が各18.9%と9.7%、G5は各3人と2人、治療関連有害事象による治験離脱は14.6%と6.7%だった。

先輩レジメンであるOpdivoとYervoyの併用は、CheckMate-067試験によると、Yervoy比PFSハザードレシオが0.42。Opdivo群との比較は探索的解析だがハザードレシオ0.74となっているので、効果の面ではどちらも遜色なさそうだ。G3/4治療時発現有害事象発現率は併用が58%、Yervoy群28%、Opdivo群21%だったので、忍容性は抗LAG-3抗体併用のほうが良さそうだ。

PD-L1高発現(≧5%)ならOpdivoとYervoyの併用ではなくOpdivoだけで十分のように感じられる。抄録によるとrelatlimab併用は事前に設定された主要なサブグループ分析全てについてOpdivoだけより好ましい数値が出た由なので、どの程度の上乗せなのか、学会発表が注目される。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Lipsonらの抄録(ASCO 2021、抄録#9503)



ASCO:安価に発売されそうなEGFR阻害剤の第3相データ
(2021年5月19日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジのEQRx社とライセンス元である中国のHansoh Pharma(翰森製薬集団、3692.HK)は、aumolertinibの第3相試験成功を2月に発表したが、ASCO抄録公開に合わせて概要をプレスリリースで公表した。

この薬は不可逆的EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤で、第2相単群試験のデータに基づき昨年3月に中国でEGFRにT790M変異を持つ非小細胞性肺癌の二次治療薬として承認された。

第3相はEGFR変異を持つステージIIIB/IVの非小細胞性肺癌429人を組入れた一次治療試験で、PFSを初期のEGFR-TK阻害剤であるgefitinibと比較した。結果は、ハザードレシオ0.46、メジアン値は19.3ヶ月対9.9ヶ月と大変良く、EGFR阻害剤共通の副作用であるラッシュや下痢は少なかった。

EQRxは革新的な医薬品を安価に提供することを目指す新興企業。昨年7月にHansohから中国以外での開発販売権をライセンスした。gefitinibを負かしたEGFR阻害剤は数多あり、上記のデータはライバルのものと大差ないが、多数の製品が競合するEGFR阻害剤市場でも抗PD-1/PD-L1抗体市場でも起きていない価格破壊が起きるなら、面白くなる。

リンク: 両社のプレスリリース



JAK阻害剤の第3相白斑試験が成功
(2021年5月17日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、ruxolitinibのクリーム製剤を用いた第3相白斑治療試験が二本とも成功したと発表した。下期に承認申請する計画。

ruxolitinibはJAK1/2阻害剤で、経口投与用製剤が骨髄線維症などの治療薬Jakafi(和名ジャカビ)として承認されている。米国外はノバルティスが販売。クリーム製剤はアトピー性皮膚炎の開発が成功、2月に米国で承認申請された。

今回の試験は、12歳以上の非分節型(発現部位が特定の神経の支配領域に限定されていない)で全身性の白斑患者を組入れて、F-VASI75(顔面白斑重症度指標が75%以上改善)達成率を偽薬と比較した。データは未公表。第2相では、第3相と同じ1.5%を一日二回、塗布した群の75%が達成した。

JAK阻害剤は血栓性疾患や感染症、癌などの懸念があり、日常生活に大きな影響を与える疾患で他に適切な治療法がないなら有用かもしれないが、深刻度が低い疾患になればなるほど、便益と危険のバランスを議論する余地が拡大する。FDAは特に警戒感を強めており、高用量が承認されなかったり、第3相が成功したのに米国で承認申請を断念する会社が出てきたりしている。局所投与ならリスクをある程度緩和できるのかもしれないが、私は薬物動態データを見たことが無いので良く分からない。経口剤の長期安全性試験が好ましくない結果になった以上、局所性製剤についても疑うのが妥当と思われ、無垢を証明するには長期安全性試験が必要なのではないか。

このようなことから、JAK阻害剤のアトピー性皮膚炎や円形脱毛症における承認審査結果には大いに注目している。他剤のように審査期限延期にならなければ、6月21日までに結果が出る予定のアトピー用ruxolitinibクリーム製剤が承認または審査完了通知の第一号になる。

リンク: インサイトのプレスリリース


【承認申請】


百済神州、btk阻害剤をMZLに適応拡大申請
(2021年5月19日発表)

2010年に北京(Beijing)で設立された新興企業、BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)は、btk阻害剤のBrukinsa(zanubrutinib)を再発難治辺縁帯リンパ腫(MZL)に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理された。優先審査を受け、審査期限は9月19日。第2相試験のORR(74%)に基づくもの。

BiGeneは新興企業。Brukinsaは19年に米国で治療歴を持つマントル細胞リンパ腫(MCL)に用いる薬として承認され、翌年には中国でも治療歴を持つMCLや慢性リンパ性白血病/小リンパ球性白血病(CLL/SLL)に承認された。

米国ではワルデンシュトレームマクログロブリン血症にも適応拡大申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


オプジーボ、食道癌アジュバントに承認
(2021年5月20日発表)

FDAはBMSのOpdivo(nivolumab)を食道・GEJ(胃食道接合部)癌の術後アジュバント療法に使うことを承認した。化学療法と放射線療法によるネオアジュバントでpCR(病理学的完全奏功)に到達しなかったが完全切除に成功した患者に、単剤投与を最大1年間、施行する。

CheckMate-577試験ではDFS(無病生存期間)のメジアン値が22.4ヶ月と偽薬群の11.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.0003だった。PD-L1発現状況や組織学的分類を問わず効果が見られた。G3/4治療関連有害事象の発現率は13%と偽薬群の6%を上回った。全生存の解析はまだ成熟していない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース




今週は以上です。

2021年5月15日

第999回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • BioNTech/ファイザ-のワクチンが12-15歳にもEUA 
  • その他の領域: 
  • キイトルーダのTNBCアジュバント試験がEFSも達成 
  • バイエル、finerenoneの二本目のアウトカム試験も成功 
  • X連鎖網膜色素変性症の遺伝子治療試験がフェール 
  • アムジェン/アストラゼネカ、抗TSLPを重度喘息症に承認申請 
  • C3補体阻害剤が夜間ヘモグロビン尿症に承認 


【COVID-19関連】


BioNTech/ファイザ-のワクチンが12-15歳にもEUA
(2021年5月10日発表)

FDAはBioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチンを12~15歳の青少年にもEUA(非常時使用認可)した。両社が共同開発したリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンは16~17歳が接種できる唯一のワクチンだったが、対象年齢が更に引き下がった。用量や接種間隔は16歳以上と同じ。

臨床試験では免疫原性が16歳以上の接種者と非劣性だった。偽薬群の978人は2ヶ月以上の追跡期間中に16人が感染したが、ワクチン群の1005人はゼロだった。副作用は16歳以上と同様で、二回目の接種後のほうが発現率が高いことも同様。

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン勧奨委員会)も接種を勧奨した。また、他のワクチンと合わせて接種することも容認した。COVID-19の流行が鎮静化するとインフルエンザが増えるかもしれないので、将来的には、高齢者がCOVID-19ブースター・ワクチンとインフルエンザ・ワクチンを一緒に接種することになる可能性もあるだろう。

米国では調剤薬局でワクチン接種を受けることも可能だが、青少年の接種が認められたことを受けて、大手チェーンが名乗りを上げ始めた。

リンク: FDAのプレスリリース


【新薬開発】


キイトルーダのTNBCアジュバント試験がEFSも達成
(2021年5月13日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKEYNOTE-522試験がもう一つの主目的も達成したと発表した。適応拡大申請が審査完了に終わったばかりだが、今度こそ承認されるだろう。

この試験はステージII/IIIの未治療TNBC(エストロゲン受容体もプロゲスチン受容体もher2も発現していない乳癌)の切除術付随療法における効用を検討した。術前のネオアジュバント療法として化学療法4剤のコースに加えて偽薬またはKeytrudaを3週毎に8回投与し、共同主評価項目の一つであるpCR(病理学的完全反応)を比較した。中間解析で成功、19年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると偽薬群は51.2%が達成したがKeytruda群は64.8%と有意に上回った。PD-L1陽性(CPS≧1)でも陰性でも上乗せがあった。尚、今年2月のFDA腫瘍学薬諮問委員会で明らかにされたアップデート値は群間差が7.5%に縮小した。

今回発表されたのは、切除術後に偽薬またはKeytrudaを3週毎に最大9回投与するアジュバント療法も行った上で、EFS(イベント・フリー生存)を比較した結果。数値は未公表。19年のESMOで発表された中間解析結果はハザードレシオ0.63、2月の諮問委員会公表データでも0.65、p=0.0025と好ましい方向を指し示していたが、多重性を回避するため成功認定の閾値が低く設定されている(後者の解析に割り当てられたアルファは0.0021)こともあり、有意ではなかった。

MSDはpCRデータに基づいて適応拡大を加速承認するよう求めたが、FDAは申請前からpCRだけに基づく承認に懐疑的、諮問委員会も10人全員が反対で、結局、今年3月に審査完了通知を受領した。

リンク: MSDのプレスリリース



バイエル、finerenoneの二本目のアウトカム試験も成功
(2021年5月10日発表)

バイエルは、BAY 94-8862(finerenone)のFIGARO-DKD試験が主目的を達成したと発表した。二型糖尿病と慢性腎臓疾患を併発する患者7400人を組入れて心血管アウトカムを偽薬と比較した第3相試験で、データは未発表。

非ステロイド系のミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)で、10mgまたは20mgを一日一回、経口投与する。昨年、最初の第3相アウトカム試験であるFIDELIO-DKD試験が成功、二型糖尿病と慢性腎臓疾患を併発する患者の腎臓アウトカムを偽薬比改善した(腎不全、eGFR40%以上悪化、または腎臓疾患死のハザードレシオが0.82、p=0.0014)。副次的評価項目の心血管アウトカムも改善した(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全入院のハザードレシオ0.86、p=0.0339)。このデータに基づき欧米で承認審査中。

今回の試験はFIDELIO-DKD試験より組入れ条件が緩く、より早期あるいはより進行した患者も組入れて、心血管アウトカムを主評価項目とした。ハザードレシオが0.8を下回っていれば説得力が増すのだが、どうだろうか。

MRAはアルドステロンが受容体に結合して血中ナトリウムが上昇、カリウムが低下し、血圧上昇につながるのを妨げる。Aldactone(spironolactone)やInspra(eplerenone、和名セララ)が先輩だが、バイエルは高血圧症や心不全ではなく二型糖尿病の腎症を最初の適応症として狙っている。先輩二剤は高カリウム血症のリスクがあり、Inspraは血清カリウムが5.5 mEq/L以上の患者は禁忌となっている。finerenoneはリスクが小さいことが期待されたが、上記第3相二本では血清カリウムが4.8 mmol/L以下(つまり4.8 mEq/L以下)であることを組入れ条件にしており、それほど変わらないのではないかと思われる。FIDELIO-DKD試験では深刻な高カリウム血症の発現率が1.6%だった(偽薬群は0.4%)。

spironolactoneは心不全の治療に充てたRALES試験の結果がNew England Journal of Medicines誌に刊行され、米国で広くオフレーベル使用されるようになったが、高カリウム血症による入院が増加する意外な結果になった。研究者主導試験であったせいか、RALES試験の除外条件が周知徹底されず、高リスク患者にも使用されてしまったからだ。

第3相試験で除外条件であったとしても、薬物動態試験を別途実施して効果や安全性を確認し、例えば中程度腎機能低下も含めた形で承認を取得する場合もある。このため一概には言えないが、それでも、spironolactoneという失敗例があったのだから、finerenoneの試験の組入れ条件に付いて言及しておいた。

finerenoneは慢性心不全にも第3相アウトカム試験が進行中。

リンク: バイエルのプレスリリース



X連鎖網膜色素変性症の遺伝子治療試験がフェール
(2021年5月14日発表)

バイオジェンは、BIIB112(cotoretigene toliparvovec)の第2/3相XIRIUS試験が主目的を達成できなかったと発表した。副次的評価項目の幾つかでは好ましい傾向が見られた由で、詳細分析を検討してから今後の方針を決定する考え。

オックスフォード大学のスピンアウトであるNightstar Therapeuticsを19年に8億ドルで買収して入手したパイプラインで、アデノ随伴ウイルス8をベクターとして網膜下にRPGR(網膜色素変性症GTPase調節因子)遺伝子を導入する。X連鎖網膜色素変性症(XLRP)という希少遺伝子疾患のうち、RPGR遺伝子に変異があり光受容体の蛋白移送が活発に行われずに視力低下が進行していく患者の用いる。

この試験ではMacular Integrity Assessment(MAIA)微小視野計を用いて光感受性改善奏効率を治療しなかった反対側の眼と比較したが、フェールした。事前に設定された副次的評価項目のうち薄暗い場所での視力など幾つかでポジティブなトレンドが見られた由。

XLRPのアデノ随伴ウイルス療法はジョンソン・エンド・ジョンソンも19年にMeiraGTx(Nasdaq:MGTX)の開発品をライセンスした。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


アムジェン/アストラゼネカ、抗TSLP抗体を重度喘息症に承認申請
(2021年9月10日発表)

アムジェンとアストラゼネカは、AMG 157/MEDI9929(tezepelumab)を重度喘息症の維持療法薬としてFDAに承認申請した。TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子 )に結合する抗体で、中高用量の吸入コルチコステロイドを含む2剤以上を使っても増悪を十分に防げない管理不良患者を組入れたNAVIGATOR試験で、喘息増悪を偽薬比56%抑制した。

承認後のライバルになりうるリジェネロン/サノフィの抗IL-4受容体アルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)と比べた長所は、血中好酸球数が増多していない(300個/mcl未満)患者にも有効であること。上記試験のサブグループ分析(被験者の半分が該当)では増悪を41%抑制した。増多型サブグループでは70%でDupixentの試験の66-67%と大差ない。

両社は好酸球増多かつFeNO(呼吸器中一酸化窒素濃度)が25ppb以上の、プロトコルで事前に設定していたサブグループの探索的解析で、77%という高い抑制効果を示したことに言及している。承認後はこの患者層と好酸球増多していない患者に重点を置いたマーケティングを行う意図かもしれない。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【承認】


C3補体阻害剤が夜間ヘモグロビン尿症に承認
(2021年5月14日発表)

FDAはApellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)のEmpaveli(pegcetacoplan、通称APL-2)を成人のPNH(夜間ヘモグロビン尿症)の治療薬として承認した。

PNHは遺伝子変異の影響で欠陥のある赤血球が生成され、免疫により破壊されるため、貧血症を発症する。代表的な治療薬であるアレクシオン・ファーマシューティカルズ(アストラゼネカが買収で合意)の抗C5抗体Soliris(eculizumab、和名ソリリス)や長期作用性のUltomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)との違いは、第一に、補体カスケードの中でC5より上流で関与するC3やC3bに結合する合成環状ペプチドであること。第二に、点滴静注ではなく皮下に自己注できること。

第3相PEGASUS試験では、Solirisによる3ヶ月以上の治療歴を持ちヘモグロビン値が10.5 g/dL以下に留まっている(≒十分に治療効果が出ていない)患者を組入れて、ランインとしてEmpaveli(1080mg)を週二回、4週間に亘って追加投与した上で、Empaveliを止めるSoliris群とSolirisを止めるEmpaveli群に無作為化割付をして16週間治療し、ヘモグロビン値の変化を比較した。

結果は、Soliris群がベースライン値の8.7 g/dLから1.5 g/dL低下したのに対してEmpaveli群は2.4 g/dL上昇し、有意な差が生じた。副次的評価項目は非劣性解析だが輸血回避率は15%対85%と数値上は大きな差が出た。深刻有害事象発生率は各群15.4%対17.1%で若干増えた程度。

Empaveliは髄膜炎菌や莢膜多糖体を持つ肺炎球菌などによる深刻な感染症のリスクやワクチンに関する接種推奨を励行するよう枠付警告された。抗C5抗体と同じだ。REMS(リスク評価緩和戦略)に基づく処方販売制限が導入される。

欧州でも承認申請中。また、Solirisと同様に、補体系がかかわる様々な疾患にも適応拡大試験中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Apellis社のプレスリリース




今週は以上です。

2021年5月8日

第998回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • PRAC、COVID-19ワクチンの副作用シグナルについてアップデート 
  • IL-1受容体アンタゴニストの第3相が成功 
  • その他の領域: 
  • イミフィンジと抗CTLA4抗体および化学療法の併用試験が成功 
  • キイトルーダとレンビマの併用レジメンを承認申請 
  • オプジーボをMIUCに適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、アバコバンの評価が二分 
  • キイトルーダ、her2陽性胃癌の一次治療に加速承認 
  • SGLT2阻害剤が糖尿病以外の慢性腎疾患にも適応拡大


【COVID-19関連】


PRAC、COVID-19ワクチンの副作用シグナルについてアップデート
(2021年5月7日発表)

EMAのファーマコビジランス委員会であるPRACは、COVID-19ワクチンの幾つかの副作用や兆候を検討していることを明らかにした。4製品共に、便益が危険を上回るという評価に変わりはない。

BioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)は、美容用皮膚充填剤注入歴を持つ人における顔面腫脹を副作用に追加するよう勧告した。EUの副作用報告システムや文献で症例報告されている由。頻度は未公表。

同様な事象はModerna(Nasdaq:MRNA)のワクチンの第3相試験でも2例、報告されている(第984回参照)。頬をふっくらさせる施術を行う医師とは頻繁には話さないだろうし、かかりつけ医は施術歴を知らないだろうから、このリスクは医療従事者に伝達しても無意味だろう。メディアを通じて直接、伝えるべきであり、だから、私も第984回で書いた。

Comirnatyを接種後に心筋炎や心膜炎が報告されていることも公表した。因果関係は不明。EUでCOVID-19ワクチンの条件付き承認を得たものは月次で安全性報告書を提出する義務があるが、PRACは次回の報告で年齢別や性別の分析を行うよう要請した。ということは、結構な数の症例報告があるのだろう。報道によるとイスラエルや米軍施設で夫々10例程度、報告されているようだ。ComirnatyほどではないがModernaのワクチンでも報告されているようで、同社に対しても監視強化や症例分析を求めた。

尚、SARS-CoV-2は心臓にも感染すると報告されている。

アストラゼネカのVaxzevriaに関してギラン・バレー症候群の症例を分析していることも明らかにした。承認審査の過程で有害事象の可能性が浮上し、特定安全性監視項目としていたが、月次安全性報告書でも報告された。次回の月次報告で症例の詳細を報告するよう求めた。

Vaxzevriaだけでなくジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンのワクチンも血小板減少症候群を伴う血栓症が副作用として認められたが、それに関連して、接種後3週間以内に血小板減少症または血栓塞栓症を発症したら、血栓症または血小板減少症を併発している可能性を積極的に検討するよう医療従事者に勧告することも決定した。

尚、ComirnatyとModernaのワクチンも同様なリスクを引き続き監視しているが、これまでに報告されている症例数は極めて少なく、頻度はワクチン接種していない人より低いことも再確認した。

これらの副作用や懸念は何れ頻度が極めて低いが、深刻な疾患もあるため、適切に分析し大衆に情報提供する必要がある。真相不明で終わることも少なくないが、きちっと問題提起し状況を把握しておけば、10年後、50年後、100年後に因果関係や発症経路、リスク因子を特定し対策を取ることが可能になるかもしれない。某国のように、ワクチンで副作用懸念が表面化しても等閑な調査や検討で済ませて接種数が減少していくのを傍観していたら、自力で新しいワクチンを開発する能力も、手を挙げる会社や研究者も、出てこないだろう。それがどれほど重大な過ちであるか、今回、思い知ったはずだ。

私たちの生活を支えるインフラや道具、統治機構、人と人との関係性は、1年、2年で構築されたものではない。何千年もの間に先人や私たちが積み重ねたものだ。知識や技術を継承できることこそが人間が持つ最大の能力であり、だからこそ、知識だけでなく、分からないことも次代に伝えていく必要がある。

リンク: EMAのプレスリリース



IL-1受容体アンタゴニストの第3相が成功
(2021年5月3日発表)

Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)とギリシャのHellenic Institute for the Study of Sepsisはanakinraの第三相中重度COVID-19肺炎試験が成功したと発表した。治癒退院が偽薬群より多く、重度の呼吸不全や死亡は少なかった。EMA(欧州薬品庁)と相談する考え。まだトップライン・データしか公表されていないが、斬新なバイオマーカーを使って便益の大きそうな患者をスクリーニングしたことに注目したい。治験成績が区々な抗IL-6受容体抗体のスクリーニングにも有効なのだろうか?

Kineretは天然のIL-1受容体アンタゴニストを遺伝子組換え法で医薬品化したもの。アムジェンが2001年に米国で中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬Kineretとして発売、今日では重症型クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)である新生児期発症多臓器系炎症性疾患(NOMID)やIL-1受容体アンタゴニスト欠乏症にも承認されている。SOBIは08年に事業を買収した。

今回のSAVE-MORE試験は、中重度COVID-19肺炎で血漿suPAR(可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ受容体)が6ng/ml以上と増加している入院患者606人を、標準的医療に加えて偽薬またはanakinra(100mg)を一日一回、最大10日間に亘って皮注する群に無作為化割付して、28日間の転帰を二重盲検で比較した。転帰はWHOの臨床症状尺度(CPS。0:ウイルス検出されず感染していない、から10:死亡まで11段階ある)を用いて評価した。アテネ大学の研究者が主導してギリシャとイタリアの40施設で実施した。

結果は、オッズ比0.36、p<0.001と優れた治療効果を示した。序数評価法はもし治癒退院と死亡のどちらも増加した場合、良いのか悪いのか悩ましいが、今回はどちらも良好だったので、素直に評価したい。

似たような作用の薬であるノバルティスの抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab、和名イラリス)の第3相COVID-19肺炎性サイトカイン放出症候群治療試験はフェールしたが、29日人工呼吸器無装着生存率は88.8%対偽薬群85.7%、副次的評価項目のCOVID-19関連死亡率は4.9%対7.2%と、数値自体は悪くはなかった。Ilarisが足りなかったあと一歩を、もしかしたら、suPARによるスクリーニングが後押ししたのかもしれない。

もしIlarisや抗IL-6受容体抗体Actemra(tocilizumab)のCOVID-19試験で事前にsuPARを測定していたならば、サブグループ分析を行っても良いのではないか。

リンク: 両者のプレスリリース


【新薬開発】


イミフィンジと抗CTLA4抗体および化学療法の併用試験が成功
(2021年5月7日発表)

アストラゼネカは19年10月に第3相POSEIDON試験のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)解析が成功したと発表したが、今回、全生存期間の解析は区々だったことを明らかにした。競合薬が多いので効果の多寡が注目だがデータは未公表。

この試験はステージIVの非小細胞性肺癌の一次治療において化学療法に抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)を追加する効果を検討した。PD-L1発現や扁平上皮腫か否かは不問、分子標的薬が適応になるEGFRやALKの変異を持つ癌は対象外。化学療法は5種類のレジメンから医師が選択。化学療法だけの対照群は最大6サイクル施行したが、Imfinzi併用群(以下、便宜的にICTレジメンと呼ぶ)の化学療法は4サイクルに留めた。また、化学療法にImfinziと同社がファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体、tremelimumabを追加する群(同、ItCTレジメン)も設定された。

主評価項目はICTレジメンのPFSと全生存期間。前者は成功したが後者はフェールしたことが今回、発表された。副次的評価項目だがItCTレジメンはPFSも、今回の全生存期間の解析も、成功した。

副次的評価項目が成功しても主評価項目がフェールしたら成功とは言えなくなるのが通常だが、今回は、プロトコルでICTレジメンとItCTレジメンのPFSが何れも成功ならItCTレジメンの全生存期間の解析を行うことができると定めていた由。その分、他の解析の閾値を高めてあるのだろう。

統計学的だけでなく、臨床的にも意味のある上乗せ効果があった由。

抗PD-1/PD-L1抗体は各社が激しい開発競争を行っている。非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)が臨床試験で大変良い成績を上げ、承認された。BMSはOpdivo(nivolumab)だけを追加した試験はフェールしたが、Yervoy(ipilimumab)も併用した試験が成功、承認された。

KeytrudaのデータとOpdivo・Yervoy併用のデータは大差なく、高価なバイオ薬を二種類使うのは割が合わないような感じがする。Imfinziとtremelimabの併用はどうなのか、データ発表が待たれる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


キイトルーダとレンビマの併用レジメンを承認申請
(2021年5月6日発表)

MSDとエーザイは、Keytruda(pembrolizumab)とLenvima(lenvatinib)の併用療法を米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。

一つは、治癒を目的とする手術や放射線療法が適応にならず全身性治療歴を持つ進行性内膜腫。優先審査で、審査期限は9月3日。

KEYNOTE-775試験に基づくもので、メジアン生存期間が18.3ヶ月と化学療法群の11.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。この併用は高頻度マイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復機構欠損を持たないサブグループ限定で19年に加速承認されているが、今回の第3相ではこのサブグループにおける全生存期間もメジアン17.4ヶ月対12.0ヶ月、ハザードレシオ0.68と良好な結果が出ているので、限定解除で本承認になるのではないか。

もう一件は進行腎細胞腫の一次治療。優先審査で、審査期限はLenvimaが8月25日、Keytrudaは8月26日と分かれたが、特に問題がなければ一緒に承認されるのではないか。

KEYNOTE-581試験に基づくもので、ファイザーのSutent(sunitinib)と比べた全生存期間ハザードレシオが0.66と有意な延命効果を示した。

尚、この二件は日本でも4月に一部変更申請が行われている(内膜腫は上位分類である子宮体癌に申請)。

リンク: 両社のプレスリリース



オプジーボをMIUCに適応拡大申請
(2021年4月30日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)をMIUC(筋層浸潤尿路上皮癌)の切除術後補助療法として米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。再発リスクの高い患者に用いることを想定している。優先審査で、審査期限は9月3日。

中間解析で成功認定されたCheckMate-274試験に基づくもので、DFS(無病生存期間)は21.0ヶ月と偽薬群の10.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70(98.31%信頼期間0.54-0.89)、p値は0.001を下回った。共同主評価項目であるPD-L1陽性サブグループではハザードレシオ0.53、p<0.0001。

この試験は全生存期間の解析に向けて続行中。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、アバコバンの評価が二分
(2021年5月6日発表)

FDAは関節炎諮問委員会を招集し、ChemoCentryx(Nasdaq:CCXI)がANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎治療薬として承認申請した選択的補体C5a受容体阻害剤、avacopanについて、薬効や安全性の確認が十分かどうか、意見を求めた。結果は、18人の委員のうち10人が承認を支持、8人が反対と、評価が二分した(賛成10人のうち一人は勘違いしていて本当は反対だったとも一部で報じられている)。薬効に関しては9人対9人で真っ二つに分かれ、安全性は10人支持、8人反対だった。

第3相試験では、rituximabまたはcyclophosphamideによる治療にavacopanを追加する効果をprednisone追加群(用量は漸減していく)と比較し、非劣性検定を行ったが、FDAは治験開始前に非劣性解析では不十分と指摘していた。rituximabまたはcyclophosphamideにprednisoneを追加する効能が確立していないため、非劣性検定が成功してもどちらも効果がない可能性を棄却できないからだ。奏効評価に用いられたBirmingham Vasculitis Activity Scoreの有効性や非劣性マージンの妥当性にも疑問を呈した。安全性に関しては肝毒性などに懸念を示した。

それでも承認を支持する委員が意外に多かったのは、治療が難しく様々なオプションが必要で、ステロイドの代替品も欲しいというニーズの表れだ。但し、患者が欲しているのは新薬ではなく、自分に効いて副作用はそこそこ我慢できる薬だ。効くか効かないかハッキリしないなら、ハッキリさせるのが製薬会社や研究者の患者に対する誠意だろう。

同社の株価はFDAが諮問委員会用ブリーフィング資料の一般公開を受けて前日の48ドル強から26ドル余に急落したが、諮問委員会の翌日には更に下落して11ドルを割れた。

審査期限は7月7日。欧州では昨年7月に、日本(キッセイ薬品がインライセンス)でも今年3月に、承認申請された。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


キイトルーダ、her2陽性胃癌の一次治療に加速承認
(2021年5月6日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)をher2陽性切除不能局所進行性/転移性の胃/胃食道接合部腺腫の一次治療に用いることを加速承認した。抗her2抗体trastuzumab、fluoropyrimidine系抗癌剤、そして白金薬と併用する。KEYNOTE-811試験の中間解析(n=264)に基づくもので、ORR(客観的反応率、盲検独立評価委員会方式)は74%と偽薬群の52%を有意に上回り、メジアン反応持続期間は10.6ヶ月対9.5ヶ月だった。

同様なセッティングでは4月にBMSのOpdivoが本承認を受けているが、エビデンスとなるCheckMate-649試験はher2陽性癌を除外していたので、オーバーラップしていない。併用薬もmFOLFOX6またはCapeOXで若干異なっている。

今回の承認は二つの点でサプライズだった。第一に、承認申請していたのは初耳だった。第二に、FDAが様々な適応症における加速承認の取消の当否を検討する中、一次治療をORRに基づいて加速承認したこと。抗PD-1/PD-L1抗体は開発販売競争が激しいせいかステルス申請が横行している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース



SGLT2阻害剤が糖尿病以外の慢性腎疾患にも適応拡大
(2021年4月30日発表)

FDAは、アストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)を成人の進行リスクのある慢性腎疾患に用いる適応拡大を承認した。eGFR半減や腎不全、心血管疾患による死亡、心不全による入院のリスクを抑制する。日本でも昨年12月に一変申請された。

ステージ2~4の慢性腎疾患で尿アルブミン排出が増加している患者を組入れたDAPA-CKD試験で、eGFR半減/末期腎障害/心血管疾患死/腎臓疾患死が偽薬比39%少なかった。絶対リスク削減率もメジアン2.4年間で5.3%と良好。死亡リスクだけでもハザードレシオ0.69、絶対リスク削減率2.1%と好ましい結果になった。

尚、常染色体優性遺伝あるいは劣性遺伝による多嚢胞性腎臓疾患や、腎臓疾患の治療として免疫抑制療法施行歴を持つ患者は上記試験から除外されており、効果が期待されないため投与は推奨されない。

Farxigaはブリストル マイヤーズ スクイブが開発したSGLT2阻害剤。二型糖尿病や、糖尿病の有無を問わず左室駆出率低下を伴う心不全の治療に承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース






今週は以上です。

2021年4月30日

第997回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • RSV予防用抗体の第3相が成功 
  • 武田、EGFRエクソン20挿入変異阻害剤が優先審査に 
  • 大日本住友の子会社、先天性無胸腺症用薬を再承認申請 
  • バルドキソロンメチルの承認申請は標準審査に 
  • Axsome社、既存薬の配合剤を鬱病に承認申請 
  • 加速承認を巡る諮問委員会の結果 
  • アトピー治療用の抗IL-13抗体は審査完了 
  • Tysabriの皮注用新製剤は審査完了 
  • Protalix、FDAが工場査察できずに承認遅延 


【新薬開発】


RSV予防用抗体の第3相が成功
(2021年4月26日発表)

アストラゼネカと共同開発パートナーのサノフィは、MEDI8897(nirsevimab)の第3相RSウイルス感染予防試験が成功したと発表した。下期には早産児や慢性肺疾患・鬱血心臓疾患を持つ幼児の第3相の結果も出る予定。2022年に承認申請を行う考え。

RSウイルスは0~1歳の幼児の多くが感染し、多くは症状が軽微だが、早産児や慢性肺疾患・鬱血性心臓疾患を持つ幼児は重症化リスクがあるため、アストラゼネカの子会社であるメディミューンが開発したSynagis(palivizumab、和名シナジス)による予防が行われる。nirsevimabはRSVのF蛋白の、Synagisとは異なった部位に結合する抗体で、固定領域のアミノ酸3個を置換することによって半減期を長期化。Synagisは感染リスクのある冬の間、月一回筋注するが、nirsevimabは一回で足りる。

今回のMELODY試験は在胎35週以上の健康な1歳未満の幼児3000人を試験薬群(体重5kg未満は50mg、以上は100mg)と偽薬群に無作為化2対1割付して、RSV感染による下部気道感染症の治療を受けるリスクを150日間、観察した。当初は23年に開票する見込みだったが、COVID-19の余波でRSV感染症例が減少したため前倒して1500例の薬効解析を行ったところ、成功した。

安全性面では臨床的に重要な偽薬群との差異は見られなかった由。

Synagisの承認用途である在胎35週以下の早産児と慢性肺疾患・鬱血性心臓疾患を組入れて両剤の安全性を比較する第2/3相MEDLEY試験も今年後半に前倒し解析を行う予定。

順調に進めばnirsevimabはSynargisより多くの幼児が適応になる。0~1歳児すべてに使われるようにはならないだろうが、上記以外のリスク因子を持つ幼児に普及していくのではないか。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


武田、EGFRエクソン20挿入変異阻害剤が優先審査に
(2021年4月28日発表)

武田薬品はFDAがTAK-788(mobocertinib)を優先審査指定したと発表した。審査期限は10月26日。

TAK-788はEGFRやher2のエクソン20挿入変異を阻害する小分子薬。昨年4月に二次治療でブレークスルー・セラピー指定を受けている。転移性非小細胞性肺癌の1-2%を占める、EGFRエクソン20挿入変異型の成人に用いることが予定されている。第1/2相試験でORR(客観的反応率)が治験医評価では35%、独立データ評価委員会査読では28%だった。反応持続期間のメジアン値は17.5ヶ月だった。

EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌にはEGFR阻害剤が有効だが、エクソン20挿入変異型の治療オプションはTAK-788が初になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)



大日本住友の子会社、先天性無胸腺症用薬を再承認申請
(2021年4月27日発表)

大日本住友製薬が19年に子会社化した"VANT"5社の一つであるEnzyvant Therapeuticsは、RVT-802を小児先天性無胸腺症の治療薬としてFDAに再承認申請したと発表した。審査期限は10月8日。

この疾患は乳児30万人に一人の超希少疾患で、治療しないと2年以内に感染症で死亡する危険がある。RVT-802はデューク大学の研究者が心臓手術を受ける幼児の胸腺細胞をもとに培養した再生医療用製品で、臨床試験では2年生存率(カプラン・メイヤー推定、n=85)が75%だった。主な有害事象は血小板減少症や好中球減少症、発熱、蛋白尿など。

19年に承認申請し優先審査を受けたが、同年12月に審査完了通知を受領した。細胞療法に関して最近、しばしば聞く、生産プロセスや工場査察時の所見などがボトルネックになったようだ。

再申請まで1年以上かかったが、FDAに指摘された事項を解消するために設備新設など時間をかけて対応した結果であるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)



バルドキソロンメチルの承認申請は標準審査に
(2021年4月26日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)は、RTA 402(bardoxolone methyl)をAlport症候群による慢性腎疾患の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年2月25日。Alport症候群の初めての治療薬だが標準審査になった。FDAは諮問委員会招集も考えている由。

RTA 402はNF-kappaBやSTATの分泌を抑制する作用がある。Alport症候群における効能はeGFRの改善だが、この指標は当初は改善しても次第に疲弊して腎機能低下を加速してしまう可能性も考えられる。日本ではライセンシーの協和発酵キリンが二型糖尿病の慢性腎疾患治療薬として第3相試験を行っているが、主評価項目(eGFRの3割以上の低下または末期腎臓疾患発症)の追跡期間は2~3年が想定されている。

FDAが優先審査指定せず、諮問委員会建議を想定しているのは、おそらく、eGFR改善の持続性懸念が理由だろう。

リンク: Reataのプレスリリース



Axsome社、既存薬の配合剤を鬱病に承認申請
(2021年4月26日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、AXS-05を大鬱病の治療薬として承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月22日。

鎮咳去痰薬として用いられているNMDA受容体アンタゴニストのdextromethorphanを45mg、鬱病や薬物依存の治療に用いられているノルエピネフィリン/ドパミン再取込阻害剤のbupropionを150mg配合した調整供給錠で、後者は2D6を阻害して前者の生物学的利用率を向上する作用も持っている。

米国で327人を組入れて6週間治療した第3相試験では、MADRS(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)がベースラインの33余から16.6低下、偽薬群は11.9の低下に留まり、統計的に有意な差があった。寛解率も39.5%で偽薬群の17.3%を上回った。有害事象による治験離脱率は6.2%(偽薬群0.6%)。

気になるのは、第3相難治性鬱病試験がフェールし、bupropion比有意な治療効果が見られなかったこと。鬱病の治療は第1選択薬を試し、結果が思わしくなければ第2選択、それでもパッとしなかったら第3選択と進むので、新薬の出番はよほど効果が高くない限り難治性患者が中心になる。鬱病の試験は承認されている薬でもしばしばフェールするので後期第2相を含めて2勝1敗なら立派な方だが、成功するなら難治患者試験が成功してほしかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


加速承認を巡る諮問委員会の結果
(2021年月日発表)

FDAは4月27日から29日にかけて腫瘍学諮問委員会を開催し、加速承認後の薬効確認試験がフェールした3剤の4適応症について、承認を取消すべきか、別の試験の結果が出るまで維持すべきか、意見を聞いた。

加速承認制度は、深刻で適切な治療法がない疾患に用いる薬を反応率などのサロゲートマーカーに基づいて承認するもの。別途、第3相対照試験を行って延命効果またはそれに準ずる効果を確認する必要がある。今回俎上に挙がったのは全て抗PD-1/PD-L1抗体だが、加速承認151件のうち35件が抗PD-1/PD-L1抗体なので、矢が的を外す数が多くても不思議はない。競争の激しさの現れなのだろうが、抗PD-1/PD-L1抗体の承認の半分は加速承認とのことだ。

4月27日には、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を検討した。19年にPD-L1陽性(IC≧1%)の切除不能局所進行性/転移性トリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)にnab-paclitaxelと併用することが加速承認された。第3相のIMpassion130試験でPFSのnab-paclitaxl比ハザードレシオが0.60と良好だったことが根拠だが、メジアン値は7.4ヶ月対4.8ヶ月でFDAは差が十分に大きいとは認識していなかった。加速承認後に全生存期間の結果が判明したが、プロトコルに則りPD-L1陽性ではない患者も解析対象としていたせいか、ハザードレシオ0.87でフェールした。尤も、統計学的には正しくない検定ではあるが、IC≧1%の患者だけのサブグループ分析はハザードレシオ0.67、メジアン値は25.4ヶ月対17.9ヶ月で7ヶ月の差、と悪くはなかった。

フェーズIVコミットメント試験であるIMpassion131(paclitaxelアドオン)試験の結果が待望されたが、Tecentriq併用群のメジアンPFSは5.95ヶ月と非併用群の5.72ヶ月と大差なかった。全生存期間の解析は検出力不足で信頼性が高くないが、メジアン22.1ヶ月対28.3ヶ月、ハザードレシオ1.11と、寿命を縮める可能性が示唆された。

諮問委員会は9人中7人が別の試験の結果が出るまで承認を維持(言い方を変えると結論を先送り)すべきと判定した。候補となるのはIMpassion131試験で、早期TNBCの治療後1年未満で再発した切除不能局所進行性/転移性癌を組入れてcarboplatinベース2剤併用レジメンに偽薬またはTecentriqを追加して全生存期間を比較する試験で、23年1月頃に開票の見込みだ。

FDAは諮問委員会資料の中で、市販後薬効確認試験の代替的な候補として131試験は許容可能と述べている。諮問委員会の過半の支持を得られたので、おそらく、この試験の結果が出るまで加速承認を維持するのではないか。

尚、PD-L1陽性TNBCは欧州や日本でも19年に承認されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

4月28日は、MSDのKeytruda(pembrolizumab、キイトルーダ)とTecentriqの尿路上皮腫一次治療に関して検討した。一番良く分からないテーマで、欧米で承認後に薬効確認試験で寿命が化学療法より短いことが判明したため、白金薬全てに不適な患者、またはcisplatin不適でPD-L1陽性の患者だけに適応縮小された。だが、このサブポピュレーションに関するエビデンスの質は高くなく、また、他の試験で2~3年内に代替的なエビデンスを取得できそうなものはない。

今回のアジェンダは一次治療だが、二次治療は上記二剤の明暗が分かれており、Keytrudaは本承認されているが、Tecentriqは市販後薬効確認試験がフェールし、ロシュは今年3月、FDAに背中を押されて自主的に承認を撤回した。似たような薬なのになぜ結果が違うのか、これまた良く分からない。

諮問委員会の意見が注目されたが、結局、二剤とも結論先送りが多数意見だった。

Keytrudaは7人中5人が加速承認の維持に賛成。進行中の第3相で薬効確認試験になりうるものは二本あるが、結果が出るのは25年と27年なので、それまでは患者は本当に効くのか自信を持てないまま治療を受けることになる。

以下は私見だが、市販後薬効確認試験であるKeyNote-361試験は一次治療化学療法併用試験で、共同主評価項目の全生存期間もPFSもフェールしたが、敗因は、中間解析も含めて多くの解析を行う見返りに個々の解析の成功認定の閾値が低く設定されたことではないだろうか。最終解析に割り当てられたp値のアルファは全生存期間が片側0.0019、PFSは同0.0142だった。

尤も、PD-L1陽性(CPS≧10)のサブポピュレーションにおける全生存期間の解析は、上位解析がフェールしたため探索的解析という位置付けになってしまったが、偽薬比ハザードレシオ1.01、メジアン生存期間の差は1ヶ月未満と、効果に自信が持てる内容ではなかった。

Tecentriqは上記の二次治療試験のほかに筋層非浸潤膀胱癌の試験もKeytrudaは成功、Tecentriqはフェールと対照的な結果になっており、心許ない状況だったが、11人の委員のうち10人が加速承認維持に賛成した。

IMvigor130試験(一次治療化学療法併用試験)の全生存期間の最終解析結果が出るのを待つことになる。この試験は共同主評価項目の一つであるPFSが成功したが偽薬比ハザードレシオは0.82、メジアン値の差は2ヶ月足らずと、それほど良くはなかった。全生存期間の中間解析のハザードレシオも0.83、メジアン値は16.0ヶ月と化学療法・偽薬併用群の13.4ヶ月を上回り、方向性は良好だが治療効果が十分かどうかは議論の余地があるだろう。もし最終解析がフェールしたら改めて加速承認取消を検討せざるを得なくなるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

4月29日は二剤の三適応症について検討した。まず、KeytrudaのPD-L1陽性(CPS≧1)、難治局所進行性/転移性の胃・胃食道接合部腺腫の三次治療。17年に第2相試験のORRデータに基づいて加速承認されたが、市販後薬効確認を兼ねた二次治療試験で全生存期間がpaclitaxelを有意に上回らなかった(ハザードレシオ0.82、メジアン9.1ヶ月対8.3ヶ月)。効果が同程度と受け止めたとしても、対照薬は今日ならpaclitaxelとCyramza(ramucirumab)の併用のほうが好ましいので、物足りない。

Keytrudaは一次治療試験でモノセラピーの全生存期間が5-FUとcisplatinを併用した対照群比で非劣性だったが、FDAは、MSDが設定した非劣性マージンが甘い点や、解析手法の前提であるハザード定常性が見られなかったことから、エビデンスが十分ではないと論じた。

Opdivoが一次治療化学療法併用に本承認されたことも影を落としているようだ。抗PD-1抗体が一次治療に使われるようになれば、二次治療、三次治療に別の抗PD-1抗体を使う効果が低減する可能性があるが、現時点では懸念を否定できるエビデンスがない。

結局、8人の諮問委員のうち6人が加速承認を維持すべきではないと判定した。一次治療、二次治療には無益であっても、確立した治療法がない三次治療なら、エビデンスが不十分でも許容できるのではないかと思われるが、予想外に厳しかった。

尚、KeytrudaはMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)腫瘍に加速承認されていて、このタイプの胃癌は今回の適応再検討の対象外である。

次に、KeytrudaとOpdivoの、sorafenib歴を持つ肝細胞腫。ORRに基づき加速承認されたが、Keytrudaは偽薬対照二次治療試験がフェール、Opdivoは一次治療sorafenib併用試験がフェールした。前者のフェールのほうが決定的であるように感じられるが、諮問委員会の判定は逆で、Keytrudaは8人全員が加速承認維持を支持、Opdivoは5人対4人で反対のほうが一人だけ多かった。

keytrudaは加速承認と同じ患者層を組入れたアジア試験の結果が6~7月にも判明する見込みなので、それまで待つ趣旨と推測される。Opdivoは、昨年加速承認されたYervoy併用のほうがORRが高いことなどが響いたようだ。

これらの検討結果を総括するのは難しい。セーフとアウトの境界線、判定基準がテーマ毎に区々であるように感じられるからだ。FDAの審査担当者側は取消に傾いているようなので、諮問委員会が加速承認維持に疑問を呈した二件については取消のリスクが比較的高いと推測されるが、維持が支持された医薬品・用途も取消のリスクゼロとは言えないだろう。

リンク: BMSのプレスリリース



アトピー治療用の抗IL-13抗体は審査完了
(2021年4月29日発表)

デンマークのLEO Pharmaは、Adtralza(tralokinumab)を中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として欧米で承認申請し、EUでは先週、CHMPの肯定的意見を得たが、米国は審査完了通知を受領した。ディバイスに関する追加データが必要のようだ。

抗IL-13抗体で2週毎または4週毎に皮注する。日本でも承認申請される見込み。

リンク: 同社のプレスリリース



Tysabriの皮注用新製剤は審査完了
(2021年4月28日発表)

バイオジェンはTysabri(natalizumab)の皮注用新製剤を欧米で承認申請し、EUでは今月、承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。理由は不明。

Tysabriはアルファ4インテグリンに結合する抗体医薬。点滴用が04年に米国で再発型多発硬化症の維持療法薬として承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



Protalix、FDAが工場査察できずに承認遅延
(2021年4月28日発表)

Protalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX、TASE:PLX)はPRX-102(pegunigalsidase alfa)を成人のファブリー病治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは新薬承認前に生産体制の査察を行うが、出張規制によりイスラエル工場の査察やその後のフォローアップができないでいることが主因のようだ。代替策を検討することになる。

スポーツ選手や政治家は世界を駆け巡っているのに、一般人は『来ないでください、行かないでください』と言われてしまうのは不条理だ。

PRX-102はファブリー病で欠如している酵素の補充療法で、植物細胞で培養する点が特徴。Protalixが生産し、開発販売はChiesiが担当する。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 同社の続報





今週は以上です。

2021年4月24日

第996回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • JNJのワクチンにも血小板減少性血栓症の大変稀なリスクありと判定 
  • その他の領域: 
  • JAK阻害剤の第3相円形脱毛症試験が二本目も成功 
  • Jazz社、Xywavの特発性過眠症試験データを学会発表 
  • RNA介入薬を遺伝性ATTRアミロイドーシスに承認申請 
  • CHMP、NMOSD治療薬などに肯定的意見 
  • FDA、アルキル化薬のADCを承認 
  • FDA、GSKの抗PD-1抗体を内膜腫に承認 


【COVID-19関連】


JNJのワクチンにも血小板減少性血栓症の大変稀なリスクありと判定
(2021年4月23日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンを接種した人のうちごく一部で血小板減少を伴う血栓症が発現し致死例もある件について、EUと米国の諮問委員会は、夫々に、大変稀だが深刻な副作用としてレーベルに追加すべきと結論した。便益が危険を上回ることから接種中止までは求めなかった。結論が出たことからJNJはロールアウト再開を決めた。

同様なリスクはアストラゼネカのワクチンでも観察されているが、今のところ、報告頻度はJNJのワクチンのほうが少ない。EMAによると深刻例は約700万回接種して8例(うち1例は致死的)とのことだ。

米国のCDC(疾病管理予防センター)はTTS(血小板減少を伴う血栓症候群)という若干異なったカテゴリーで15例が報告されたことを明らかにした。全員が女性で18-49歳が13例と太宗を占めた。小分類では12例がCVST(脳静脈洞血栓症)。転帰は死亡3人、ICU入室中4人、その他入院3人、5人は退院した。

接種実績は800万回程度なので、頻度は100万回当たり2例弱。女性の年齢別頻度は18-29歳が同5.2例、30代11.8例、40代4.3例、50-64歳1.5例、65歳以上はゼロとなっている。イベント数が少ないせいか綺麗な逆相関にはなっていないが、アストラゼネカのCOVID-19ワクチンと同様に、50歳未満のリスクが高い。

接種後3週間以内に息切れや胸痛、下肢腫脹、持続的な腹痛、重度で持続的な頭痛や霞目のような神経学的症状、そして接種箇所以外での点状出血などの血栓症の症状が現れたら、医療従事者に速やかにコンタクトするよう勧奨した。COVID-19ワクチンはインフルエンザ・ワクチンなどより強力な分、頭痛などの発現率も高いが、接種後何日も経ってから激しい頭痛が生じた場合はTTSを疑ってもよいようだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース(4/20付)
リンク: 同(4/23付)


【新薬開発】


JAK阻害剤の第3相円形脱毛症試験が二本目も成功
(2021年4月20日発表)

イーライリリーは、JAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)の第3相重度円形脱毛症試験が二本目も成功したと発表した。今年下期に米国で、その後に他の地域でも、適応拡大申請する予定。

このBRAVE-AA1試験とBRAVE-AA2試験は、重症(現行の脱毛症状が6ヶ月以上8年以内の期間、継続し、50%以上の毛髪を喪失と定義)の円形脱毛症を米日などの施設で組入れて偽薬、2mg、または4mgを一日一回、36週間投与して、奏効率(脱毛領域の比率が20%以下に低下)を比較した。結果は、AA1試験が各群5%、22%、35%となり、両用量ともp≦0.001だった。AA2試験も3%、17%、33%でp≦0.001。

治療時発現有害事象は上部気道感染症、頭痛、挫創など。静脈血栓塞栓症例や死亡例はなかった。

Olumiantは中重度活性期リウマチ性関節炎や日欧では中重度アトピー性皮膚炎にも承認されている。免疫抑制剤なので深刻な感染症や腫瘍のリスクがあり、JAK阻害剤なので血栓症のリスクも米国では枠付警告されている。FDAはJAK阻害剤の用量依存的深刻副作用に強い警戒心を持っており、日欧と異なり、4mgを承認していない。

従って、今回の発表で一番の朗報は、2mgの効果が確認されたことだ。

尚、組入れを病歴8年以内に限定しているのは、JAK阻害剤の過去の円形脱毛症試験で年齢が若く抜け毛が始まってからの期間が短い患者のほうが効果が出やすかったからだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



Jazz社、Xywavの特発性過眠症試験データを学会発表
(2021年4月20日発表)

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、GABA作用剤Xywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)の第3相特発性過眠症試験が成功したと昨年10月に発表したが、データをAAN(米国神経学会議)で発表した。100人強を組入れてオープン・レーベル(OL)期に全員にXywavを投与した後に、継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して2週間後のEpworth Sleepiness Scale(EPS)を比較した離脱試験。

EPSはTV視聴など八つの環境下で居眠りする可能性を0から3の4段階評価して足し上げる。点数は高いほど可能性が高い。本試験では患者登録時点での平均値15.7(標準偏差3.77)がOL期終了時点では6.1(同3.99)に低下したが、無作為化試験期末には偽薬比平均6.51の差が生まれた(p<0.0001)。

副次的評価項目のIdiopathic Hypersomnia Severity Scale(症状の重さや生活影響に関する14項目について7項目は0-4、7項目は0-3で評価し足し上げる)も患者登録時の31.6(8.34)がOL期末には15.3(8.46)に改善、無作為化試験期末には偽薬比メジアン12.0の差が生じた(p<0.0001)。

Xywavは、ナルコレプシー患者の脱力発作や過度の眠気の治療薬、Xyrem(sodium oxybate)のナトリウム量を92%削減し、高血圧症や腎臓病、心不全などの患者の懸念を解消した製品。昨年、米国でXyremと同じ適応症・効能で承認された。特発性過眠症はXyremが承認されていない新用途。米国の顕在患者数は37000人とのこと。今年4月に適応拡大申請し、審査期限は8月12日。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


RNA介入薬を遺伝性ATTRアミロイドーシスに承認申請
(2021年4月19日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTRsc02(vutrisiran)を遺伝性ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン型家族性アミロイド症)のポリニューロパチー治療薬として米国で承認申請した。日本やブラジルでも申請する予定。EUは18ヶ月追跡データを取得後に申請する考え。

vutrisiranはトランスサイレチン(TTR)遺伝子を標的とするRNA介入薬。3ヶ月毎に25mgを皮注する。第3相試験では9ヶ月後のmNIS+7スコアが2.24ポイント低下(改善)した。対照群(同社の遺伝性ATTRアミロイドーシス治療薬Onpattro<patisiran>の第3相試験の偽薬群のデータを借用)の14.76ポイント上昇と比べて17.0ポイントの差があった(p<0.001)。Norforlk QoL-DNや10分歩行テストも有意な差があった。治療時発現有害事象は下痢、四肢痛、転倒、尿路感染症、注射箇所反応など。薬品関連深刻有害事象は異脂血症と尿路感染症が一例ずつあった(投与は122人)。二人が死亡したが薬物関連とは判定されなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、NMOSD治療薬などに肯定的意見
(2021年4月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ロシュが中外製薬からライセンスしたNMOSD治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Enspryng(satralizumab、和名エンスプリング)は抗IL-6受容体リサイクリング抗体。NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の患者の3分の2を占める、AQP4-IgG陽性型に用いる。投与方法は4週毎皮注で、自己注可能なNMOSD治療薬は初めて。日本では昨年6月、米国でも8月に承認されたが、CHMPは成人だけでなく12歳以上の青少年も適応に含めた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のEvkeeza(evinacumab)はホモ接合型高脂血症の治療薬。トリグリセリドやレムナントなどの代謝を阻害するアンギオポエチン様蛋白III型を標的とする抗体医薬で、スタチンなどによる治療を受けている患者に4週毎点滴静注するとLDL-C値が更に5割近く低下する。米国では今年2月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのLEO PharmaのAdtralza(tralokinumab)はケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジー(CAT)が創製した抗IL-13抗体。CATを買収したアストラゼネカから16年に皮膚学用途でライセンスした。全身性治療が適応になる成人の中重度アトピー性皮膚炎に用いる。米国でも審査中で5月頃に結果が出るのではないか。日本でも承認申請される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: LEO Pharmaのプレスリリース

アストラゼネカのKoselugo(selumetinib)は経口MEK1/2阻害剤。小児叢状神経線維腫病(PN)の2歳以上の小児患者における症候性、切除不能な神経線維腫1型(NF1)の治療に用いる。NCI(米国立がん研究所)が主導した第2相試験で50人中33人の腫瘍が20%以上縮小した。独立中央評価ベースのORR(客観的反応率)は44%だった。

03年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)からライセンス、MSDと共同開発している。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSの子会社となったセルジーンのOnureg(azacitidine)は、点滴静注用薬Vidaza(和名ビダーザ)の活性成分を経口投与できるようにしたフィルム・コート錠。急性骨髄性白血病で寛解導入療法に完全反応(CRiも可)し、HSCT(造血幹細胞移植)に不適/不希望の成人に維持療法として投与する。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を切除不能悪性胸膜中皮腫の成人の一次治療として併用することが支持された。臨床試験でメジアン生存期間が18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74だった。米国では昨年10月に承認、日本では先日、第2部会報告が行われた。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)を切除後アジュバントに用いることも支持された。EGFRにエクソン19の欠損やエクソン21のL858R置換を持つステージIBからIIIAの非小細胞性肺癌を完全切除した後に用いる。臨床試験では2年無病生存率が89%と偽薬群の53%を大きく上回った。米国では昨年12月に適応拡大。

リンク: EMAのプレスリリース

アッヴィがジェネンテックと共同開発し米国外では単独販売しているbcl-2阻害剤、Venclyxto(venetoclax、米国名Venclexta)を強力化学療法不適な新患急性骨髄性白血病の成人に低メチル化剤と併用する適応拡大も指示された。併用薬毎に複数の試験が行われ、結果は区々だったが、併用薬はazacitidineに限定されなかった。米国では昨年10月に加速承認から本承認に切り替えられた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認】


FDA、アルキル化薬のADCを承認
(2021年4月23日発表)

FDAは、ADC Therapeutics(NYSE:ADCT)のZynlonta(loncastuximab tesirine-lpyl)を再発難治性巨細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬用薬として加速承認した。抗CD19抗体とアルキル化剤を結合したADC(抗体薬物複合体)で、最初の二回は150mcg/kg、その後は75mcg/kgを3週毎に30分点滴静注する。145人を組入れた第2相試験でORRが48%、完全反応率は24%だった。浮腫・滲出や骨髄抑制、感染症、皮膚反応などが警告注意となっている。投与の前日から3日間、dexamethasoneを一日二回投与してプリメディケートする。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ADC Therapeuticsのプレスリリース

FDA、GSKの抗PD-1抗体を内膜腫に承認
(2021年4月22日発表)

FDAは、グラクソ・スミスクラインのJemperli(dostarlimab-gxly)を難治/進行内膜腫用薬として加速承認した。白金薬レジメンによる治療歴を持ちdMMR(ミスマッチ修復不全)陽性の癌が適応になる。

19年に買収したTesaro社がAnaptysBio社からライセンスして開発した抗PD-1抗体(IgG4型)。500mgを30分以上かけて3週毎に4回、点滴静注し、その後は1000mgを6週毎点滴静注する。臨床試験ではcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価、n=71)が42%で、完全反応率は13%。反応者の93%は6ヶ月以上持続した。深刻有害事象は敗血症、急性腎障害、尿路感染症、腹痛、発熱など。有害事象により被験者の5%が投与中止した。

抗PD-1抗体のトップブランドであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)もdMMR/MSI-Hの難治癌に承認されている。内膜腫の症例数は少ないがORRは36%だったので、優劣を論じるほどではなさそうだ。尚、難治/進行内膜腫ではKeytrudaとエーザイのLenvima(lenvatinib)の併用も承認されているが、dMMR/MSI-H陽性は適応外となっている。

内膜腫は多くの場合、早期発見・切除で治癒できる。dMMR陽性は細胞分裂時に起きがちな遺伝子複製ミスを修復するメカニズムが上手く機能せず、異常な蛋白ができやすいため、免疫療法に反応しやすい可能性がある。難治・進行内膜腫の25%がdMMRとされる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース





今週は以上です。

2021年4月17日

第995回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連:
  • イーライリリーの中和抗体単剤のEUA取消 
  • リジェネロンの中和抗体は感染者の同居者の予防にも有益 
  • BioNTech/ファイザーのワクチンのNNTは30 
  • ワクチン誘導性血小板減少性血栓症の世代別リスク 
  • EMA、アデノウイルス・ベクター・ワクチンの安全性シグナルの検討を開始 
  • JNJのワクチンの接種中断を勧告 
  • 抗寄生虫薬の第2相が成功? 
  • 抗GM-CSF受容体抗体が第2相で良績 
  • MSD、外来患者に抗ウイルス薬の第3相開始へ 
  • MSD、CD24Fcは開発断念 
  • シクレソニドの第3相がフェール 
  • フォシーガの第3相はフェール 
  • それ以外の疾患:
  • オプジーボが肺癌術前療法で良績 
  • バイエルのPI3K阻害剤、NHL二次治療試験が成功 
  • Amylyx、AMX0035をALSに承認申請へ 
  • 新規低用量ピルが米国で承認 
  • オプジーボ、胃癌や食道癌の一次治療に適応拡大 
  • ギリアドの抗EGP-1抗体が膀胱癌に適応拡大 


【COVID-19】


イーライリリーの中和抗体単剤のEUA取消
(2021年4月16日発表)

FDAは昨年11月にイーライリリーのLY-CoV555(bamlanivimab)を12歳以上、体重40kg以上の軽中等症COVID19感染症で入院の必要はないが重症化リスクを持つ患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)したが、取り消した。この抗SARS-CoV-2抗体に抵抗性を持つウイルスの感染例が増加したため。検出率が1月中旬の約5%から3月中旬には約20%に上昇した。同社のLY-CoV016(etesevimab)との併用レジメンや、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-COV(casirivimabとimdevimabの併用レジメン)は有効性を維持しているので、敢えて単剤投与に拘る必要はない。

既報のように、上記三製品のファクトシート(レーベル類似の文書)は3月に改訂され、様々な変異株に関するシュードウイルス試験のデータが掲載された。一番失望的だったのがbamlanivimab(モノセラピー)で、英国型変異(B.1.1.7系統)は感受するが、ニューヨーク型(B.1.525系統やB.1.526系統)のうちE484K変異のあるもの、カリフォルニア型(B.1.427系統やB.1.429系統)、南アフリカ型(B.1.351系統)、そしてブラジル型(B.1.1.248/P.1)は大きく低下するため有効性が期待できないと記されている。英国型以外のウイルスは自然感染やワクチン接種により獲得する抗体や中和抗体医薬品をエスケープする可能性のあるスパイク蛋白L452R変異またはE484K変異を持っている。

(ところで、カリフォルニア型やニューヨーク型はN501Y変異を持っていないようで、そのせいか、英国における英国型、南アフリカにおける南ア型、ブラジルにおけるブラジル型ほど圧倒的な感染シェアを獲得していないが、それでも、カリフォルニアとニューヨークでは高いシェアを占めている。報じられているように、日本の変異株監視体制が最初にN501Y変異を調べて該当するものだけを詳細分析する手順であるならば、この二種類の変異が見落とされている可能性が高いのではないか。)

イーライリリーの併用レジメンなら感受するが、南ア型やブラジル型には十分ではないようだ。中和抗体はワクチンなどと同様に連邦政府が一括購入して無償提供しているが、適応が軽中等症外来患者に限られていて、陽性判定の後に再び呼び出して点滴静注するロジスティクス面の不便さもあるため、あまり普及していない。あえて使うなら、トランプ前大統領と同様に、REGN-COVを選ぶのではないか。

bamlanivimabはカナダのAbCellera Biologicsが米国連邦政府のパンデミック予防プログラムを通じて開発したプラットフォームを使って、回復期血漿からスクリーニングしたもの。イーライリリーが様々な領域の創薬提携に向けて交渉していた時期に浮上、そのままインライセンスに進んだ。etesevimabは中国のJunshi Biosciencesが中国科学院微生物研究所とともに開発した中和抗体。

リンク: FDAのプレスリリース



リジェネロンの中和抗体は感染者の同居者の予防にも有益
(2021年4月12日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)と共同で実施しているREGEN-COV(casirivimab、imdevimab)の家庭内感染予防試験(2069A試験)の成功を発表した。過去4日間に陽性判定されたCOVID-19感染者の家庭内同居人をスクリーニングして、ウイルス陽性ではなく、ウイルスに対する抗体を持たない人1505人を組入れて、偽薬または皮注用新製剤(各1200mg配合)を一回投与して、症候性感染を29日間追跡した第3相試験で、結果は、各群59人と11人が感染、相対リスク削減率81%、pは0.0001未満となった。

上記のうち第1週の感染者数は各32人と9人で相対リスク削減率72%、第2週から29週の発症は27人と2人で93%。発症者の平均症状継続期間は各群3.2週間と1.2週間。有害事象は各群大差なかった。

感染予防はワクチンが有効だが、効果が発揮されるまで1~2週掛かる。既に感染してしまったかもしれないので、治療効果も持つ中和抗体のほうが適していると考えられているが、本試験がエビデンスになりそうだ。

本試験のスクリーニングでウイルス陽性だが症状がなく、抗体も持たない患者を組入れた2069B試験のヘッドラインも公表された。偽薬群は104人中44人が症候性感染に進展、REGEN-COV群は100人中29人で相対リスク削減率31%、p=0.038、第4-29日の発症だけに限定すると22人対5人、76%だった。発症者の平均症状継続期間を計算すると、各3.8週間と3.1週間で、2割程度の減少。こちらの試験の成績は全体的にそれほどインプレッシブではないが、効果があることは確認された。現実の医療ではウイルス検査の結果を待たずに投与することもあるだろうから、有益な情報だ。

REGEN-COVは軽中等症感染で入院していない患者の治療に用いることがEUA(非常時使用認可)されている。同社は対象患者追加を申請する考え。本試験ではウイルスに対する抗体を持つ人を除外しているが、現実の医療では一々検査しないのではないかと想像される。リジェネロンは簡便なコンパニオン診断薬を米国外での販売パートナーであるロシュと共同開発しているはずなので、開発に成功したのか、治療と同様に抗体検査不要とするのか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース(暴露後予防試験)
リンク: 同(発症予防試験)



BioNTech/ファイザーのワクチンのNNTは30
(2021年4月1日発表)

COVID-19のワクチンは武漢での流行が顕在化してから1年足らずで接種が始まる快挙を達成した。一製品当り数万人の第2/3相試験の裏付けがあり、症例数の点ではスピードを優先して質(情報量)を犠牲にしたと言うことはできない。しかし、追跡期間の点では承認/EUA(非常時使用認可)時点では2ヶ月前後と短い。インフルエンザワクチンなら効果が半年保てば十分だが、COVID-19は通年流行するので、ブースター接種はせめて1年後、できれば2年に一回くらいで済んでほしいものだが、現時点でも半年分のデータしかない。開発段階では1年、2年と盲検を続ける期待もあったが、偽薬群の患者の接種を禁じるのは人道に反する可能性があり、結局、偽薬対照のままの追跡データは、せいぜい半年分しか取得できない可能性が高い。

ファイザーがドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)のライセンスで共同開発販売しているCOVID-19ワクチン、Comirnaty(tozinameran、和名コミナティ)の第3相試験の半年追跡データが発表された。46307人を二回目接種の6ヶ月後まで追跡して症候性感染リスクを比較したもので、偽薬群は850人が発症したが、試験ワクチン群は77人に留まり、ワクチン効率は91.3%(95%信頼区間89.0-93.2)となった。

承認/EUAの根拠となった中間解析は対象人数が34922人と異なるため、発症率に注目すると、偽薬群0.92%、試験ワクチン群は0.04%だった。今回は各3.67%と0.33%で、追跡期間が4倍くらい延びた分、両群とも上昇した。

ワクチンでNumber-needed-to-treatが議論されることは少ないが、インフルエンザやCOVID-19のように多くの人が感染するリスクのある病気では、危険と便益を評価する上で重要だ。試算すると、中間解析時点の113から30に向上した。30人に投与すると1人を感染から救うことができ、残りの29人は接種しても感染するか、しなくても感染しないことになる(尚、この事例では接種して感染するのは0.1人のみ)。1年追跡すればもっと小さくなるかもしれないが、データがないので、何とも言えない。返す返すも残念なことだ。

リンク: 両社のプレスリリース



ワクチン誘導性血小板減少性血栓症の世代別リスク
(2021年4月7日発表)

既報のように、オックスフォード大学/アストラゼネカのCOVID-19ワクチンでごく稀に血小板減少を伴う血栓症が報告されていることを受けて、英国は、可能なら20-29歳には異なったワクチンを提供する方針を打ち出した。感染して重篤な状態になる確率は世代とともに高まる一方で、血小板減少を伴う血栓症の報告頻度は世代が若いほど高いからだ。後者は初耳だったためデータを探したところ、ケンブリッジ大学のWinton Centre for Risk and Evidence Communicationという機関のニュースページにそれらしき記述を見つけた。便益と危険を釣り合わせるために、10万人当たりのNumber-needed-to-treatはICU入室を減らす便益で、Number-needed-to-harmは血小板減少を伴う血栓症の危険で、世代別に定量評価したものだ。便益は流行の激しさ次第で変動するため、人口1万人当たり一日当たり感染者数が2人、6人、20人の三つのシナリオが用意されている。便益は観測期間とも相関するが、ここでは16週間の便益に限定している。理由は不明だが、英国でワクチンの接種が始まってから4ヶ月足らずであることや、ワクチンの効果の持続性が不透明であることを反映したのかもしれない。

血小板減少性血栓症の10万人当たり頻度を見ると、20代は1.1例、30代は0.8例、40代は0.5例、50代は0.4例、60代は0.2例となっており、統計的な有意性は不明だが、数値上はきれいに逆相関だ。この副作用がワクチンによる免疫刺激に誘導されたものだとすれば、一般に若いほどワクチン反応が強いので、高齢者より若者のほうがリスクが高くても不思議はない。

便益は1万人当たり2人/日感染するシナリオAに注目すると、20代で便益を受けるのは接種者10万人当たり0.8人となっており、確かに、危険が便益を上回っている。一方、他の世代では便益が危険を上回っており、特に、60代以上では便益が危険の70倍と大きな差が出ている。

日本の流行度合いに置き直すと、東京の感染者が一日700人とすると1万人当たり0.76人、大阪が1200人なら1万人当たり1.35人となるので、英国より便益が全体的に小さくなる。血小板減少を伴う血栓症のリスクは、日本人は血栓症のリスクが欧米より低いと言われているので英国ほどではないかもしれないが、もしデータがあるならば、類似疾患であるヘパリン起因性血小板減少症の頻度で比較したいところだ。

世代別の便益とリスク(10万人当たり)

便益危険
【シナリオA】
20-29歳0.81.1
30-39歳2.70.8
40-49歳5.70.5
50-59歳10.50.4
60-69歳14.10.2
【シナリオB】
20-29歳2.21.1
30-39歳8.00.8
40-49歳16.70.5
50-59歳31.00.4
60-69歳41.30.2
【シナリオC】
20-29歳6.91.1
30-39歳24.90.8
40-49歳51.50.5
50-59歳95.60.4
60-69歳127.70.2
注:シナリオは人口1万人・1日当りの感染者数がA(英国でいえば3月の水準)は2人、B(2月の水準)は6人、C(第2波のピーク水準)は20人と想定。
出所:Winton Centre for Risk and Evidence Communication

リンク: Winton Centre for Risk and Evidence Communicationのニュースリリース



EMA、アデノウイルス・ベクター・ワクチンの安全性シグナルの検討を開始
(2021年4月9日発表)

EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス・リスク評価委員会(PRCA)は、オックスフォード大学/アストラゼネカとジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンについて、安全性シグナルが見られるため検討を開始したと発表した。現時点ではワクチンとの因果関係は明らかではない。

前者のチンパンジー・アデノウイルス・ベクターを用いたワクチンでは、極めて稀に、血小板減少を伴う血栓症が発生することが発見されているが、今回は、毛細血管漏出症候群が5例、報告されたことが明らかになった。副作用報告は氷山の一角に過ぎないが、もっと多かったとしても、これまでの接種実績は数千万回なので、極めて稀であることに変わりはない。

後者のアデノウイルス26型をベクターとするワクチンは、血小板減少を伴う深刻血栓症が4例、報告されていることが明らかにされた。全部米国で、1例は臨床試験、3例は市販後。致死例は1例だった。EUでも承認されたが未だ接種開始されていない。米国の接種実績は約500万回なので、こちらも極めて稀だ。アストラゼネカのワクチンでは頻度がもっと高いので、検証するのは比較のためにも重要だろう。尚、米国でも接種中断勧告が発せられた(次項)。症例数や接種回数は次項のほうがアップデートされている。

リンク: EMAのプレスリリース



JNJのワクチンの接種中断を勧告
(2021年4月13日発表)

CDC(疾病管理予防センター)とFDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンの接種を中断するよう勧告した。米国で6例のCVST(脳静脈洞血栓症)が報告されたため、念には念を入れて、分析が進むまで見送るよう求めた。ジョンソン・エンド・ジョンソンもワクチンのロールアウトや臨床試験での接種を中断することを決めた。接種を受けた人には、3週間以内に重度頭痛、腹痛、足痛、息切れなどの症状が出たら医療従事者にコンタクトするよう推奨した。

米国の接種実績は680万回とのことなので、発生頻度は100万回当り一回程度であり、アストラゼネカのワクチンの100万人当たり5回より小さい。但し、JNJのワクチンの市販後データは米国、アストラゼネカのワクチンのそれは英国中心に欧州と地域が異なるので、人種構成や医療風土、副作用報告のカバー率などの違いが影響していないとは限らない。

上記6例の特徴は、全員が18~48歳の女性で接種の6~13日後に発症。転帰は一人が死亡、一人は危機的状態。

治療は4例でヘパリンが使用されたが、少なくとも数例は、ELISAで抗PF4抗体陽性が確認された後にアルガトロバンや免疫グロブリン静注に切り替えた。血栓症の治療薬はヘパリンが一般的だが、ワクチン接種者で起きる血小板減少性血栓症はヘパリン起因性血栓症と似ており、ヘパリンを投与すると病状が悪化する可能性があるからだ。CDC/FDAもヘパリンを使わないよう注意を促した。

New England Journal of Medicine誌にアストラゼネカのワクチンを接種した後に血栓症や血小板減少症を発症した症例報告二本が掲載されている。全員が、ヘパリン起因性血栓症と同様に、platelet factor 4(PF4)陽性だった。英国のMHRAによると、D-ダイマーが静脈血栓塞栓で見られる水準よりも大きく増加し、フィブリノーゲンが異常に減少する傾向もある由。可能ならヘパリン投与前にアストラゼネカやJNJのワクチンを接種しなかったか確認するとともに、これらの検査をしたほうが良さそうだ。

4月14日に開催されたACIP(ワクチン接種諮問委員会)のプレゼンテーション・スライドによると、人口全体のCVST罹患率は100万人年当たり5~20例と推定されており、メジアン年齢は37歳、65歳超は全体の8%で、高齢者は比較的少ない。女性が男性の3倍多い。リスク要因としては血栓形成促進的状態、経口避妊薬、妊娠・出産直後、腫瘍、感染症、腰椎穿刺など。JNJのワクチンでは接種後1ヶ月足らずで発症しているので年率修正すると、罹患率は上記通常値の4~15倍と推測される由。

尚、ACIPは情報不足でJNJのワクチン接種を止めるべきかどうか判断できないと結論した。次回のACIPで継続検討する予定。

リンク: CDC/FDAの共同声明(4/13付)
リンク: JNJの声明(4/13付))
リンク: 同(4/14付))



抗寄生虫薬の第2相が成功?
(2021年4月14日発表)

米国のRomark社はNT-300(nitazoxanide ER錠)の第2相軽中等症COVID-19試験が良好な結果になったと発表した。EUA(非常時使用認可)を申請する予定。

米国で寄生虫による下痢の治療薬Aliniaとして販売されている広域抗ウイルス剤の徐放製剤で、SARS-CoV-2のスパイク蛋白の成熟を阻害する作用に着目、今回の試験に進んだ。米国の12歳以上で呼吸器症状発症後72時間以内のCOVID-19疑い例を組入れて偽薬またはNT-300を一日二回、5日間経口投与した外来治療試験で、組入れは1092人だが、薬効解析はウイルス検査で確認された379人が対象。

主評価項目のメジアン罹患期間は両群とも13日だったが、軽症患者では偽薬群(129人)が13.4日であったのに対して試験薬群(116人)は10.3日だった。また、副次的評価項目である重症化率(息切れ症状及びSpO2などに基づいて判定)は偽薬群3.6%、試験薬群は0.5%だった。有害事象は下痢が若干増えた程度。

EUAは正式な承認ではなく、過去にはEUA後に臨床試験がフェールして撤回された事例もあるので、この程度のエビデンスでも認められる可能性がありそうだが、有意性も含めてデータの全容が未公表なので、今後を予想するのは困難だ。

リンク: 同社のプレスリリース



抗GM-CSF受容体抗体が第2相で良績
(2021年4月12日発表)

バミューダ籍の新興医薬品開発会社、Kiniksa Pharmaceuticals(Nasdaq:KNSA)は、KPL-301(mavrilimumab)の第2/3相COVID-19肺炎試験のうち第2相部分のコフォート1の解析が良好な結果になったと発表した。FDAなどと相談し、EUA(非常時使用認可)申請の可能性を探る考え。

KPL-301は、20年前にケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジー(CAT)社がAMRAD社と共同開発を開始した、GM-CSFの受容体に結合するファージ・ディスプレイ型ヒト化抗体。CATを買収したMedimmuneがリウマチ性関節炎などの治療薬として開発を継続したが、霊長類の毒性試験で肺胞蛋白症の懸念が見られたためFDAが米国治験を許可しなかったことなどから中止した。17年にKiniksaがライセンス、巨細胞性動脈炎の第2相試験が成功したが、COVID-19の試験も開始した。昨年12月に研究者主導試験で病状悪化や死亡のリスクを軽減する傾向が見られたことが公表されている。

今回のコフォート1は、重症肺炎を合併し酸素投与が必要だが人工呼吸器等は不要な、炎症の亢進も見られる患者116人を偽薬、6mg/kg、または10mg/kgを一回点滴する群に無作為化割付して、人工呼吸器装着・死亡リスクを29日間観察した。2用量群合計の人工呼吸器非装着生存率は86.7%と偽薬群の74.4%を上回り、p値は0.1224で閾値の0.2をクリアした(小規模な第2相の薬効解析では閾値を甘く設定することが少なくない)。ハザードレシオは0.35、p=0.0175。また、29日死亡率は8.0%と偽薬群の20.5%を大きく下回った。ハザードレシオは0.39、p=0.0726。

コフォート2は人工呼吸器装着後48時間以内の患者を無作為化割付して転帰を比較している。また、第3相ポーションの組入れも逐次開始している。

小規模な第2相の成績なので第3相で再現されるとは限らないが、数値自体は良好なので、どのような結果になるか楽しみだ。

リンク: 同社のプレスリリース



MSD、外来患者に抗ウイルス薬の第3相開始へ
(2021年4月15日発表)

MSDは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)の第2/3相COVID-19試験の第2相部分の結果概要と、第3相部分は発症後5日以内の外来患者に限定して来月までに開始する計画であることを発表した。

molnupiravirはエモリー大学のDrug Innovations at Emoryという非営利組織が開発、20年3月にRidgeback Biotherapeuticsがライセンス、5月にはMSDが世界開発商業化権を取得した。RNAポリメラーゼを阻害するリボヌクレオシド類縁体で経口カプセルなので、ギリアドが外来治療向けの開発を断念したremdesivirのような点滴静注薬よりも外来治療に向いている。

第2/3相は18歳以上の軽中等症患者が対象で、外来試験は発症7日以内の患者を組入れて入院・死亡リスクを、入院患者試験は発症10日以内の患者を組入れて治癒を偽薬と比較した。第2相部分は用量決定試験で、200mg、400mg、800mgを一日二回、5日間投与した。

両試験ともウイルス量が偽薬より減少し、800mgの効果は二低用量より高かった。発症5日以内の患者では特に治療効果が大きかった。ところが、主評価項目は明暗が分かれ、外来試験は3用量群の入院・死亡率が偽薬群より低い傾向が見られた(イベント数が少ないため統計検定は無意味)。一方、入院試験は効果が見られず、無益認定された。

薬物関連有害事象の発生率は外来試験が偽薬6.8%、3用量群合計は6.2%、入院試験は各21.3%対11.0%。薬物関連有害事象による治験離脱や死亡は発生しなかった。

これらを踏まえて、第3相部分は発症5日以内で一つ以上の重症化リスク因子を持つ軽中等症外来患者に限定して、偽薬または800mgを一日二回、5日間投与する予定。

リンク: MSDのプレスリリース



MSD、CD24Fcは開発断念
(2021年4月15日発表)

MSDは昨年12月にOncoImmune社を4.25億ドルで買収して遺伝子組換えCD24・免疫グロブリン固定領域融合蛋白(CD24Fc)を入手、重症COVID-19治療薬として承認申請を狙っていたが、開発断念した。270人を組入れた第3相試験の中間解析が成功したが、FDAやEMAが承認に前向きでなかったため。

CD24Fcは先天性免疫のチェックポイントとされるCD24と競合して標的と結合、NFカッパBの活性やIL-6などの分泌を抑制する。他家造血幹細胞移植後の移植片宿主病予防薬として第3相試験が進行していたが、COVID-19に感染して酸素投与や換気補助が必要な患者270人に偽薬または480mgを一回、点滴静注した第3相試験が中間解析で成功、一躍有名になった。罹患期間はメジアン6日間と偽薬群の10日間より短く、回復ハザードレシオが1.6、p=0.005だった。呼吸不全・死亡も半減した。remdesivir併用例やステロイド併用例では差がもっと開いた。

このデータを見た現FDA長官代行のJanet Woodcock氏が大手製薬会社との提携を促したという噂があり、周到な臨床開発を行うことで知られるMSDがライセンスした、お墨付きみたいな薬だっただけに、今年2月に刊行されたアニュアル・リポートでFDAのフィードバックがネガティブだったことが明らかにされた時の驚きは大きかったが、今回、臨床試験をもう一本実施するよう求められただけでなく、量産方法の開発も必要であることが明らかにされた。2022年上期中のEUA(非常時使用認可)が難しくなったことから、他のプロジェクトを優先することを決定した。

リンク: MSDのプレスリリース



シクレソニドの第3相がフェール
(2021年4月15日発表)

スイスのCovis Pharma社は、ciclesonide吸入の第3相COVID-19外来治療試験がフェールしたと発表した。12歳以上の症候性感染者約400人を組入れて、160mcgをpMDIで二回ずつ、一日二回、30日間に亘って吸入する効果を偽薬と比較したが、症状解消成功率が70.6%と偽薬の63.5%をそれほど上回らず、p=0.5502という残念な結果になった。

一部のサブグループや一部の副次的評価項目では良さそうな数値も出たようだが、説明が曖昧で良く分からない。

このコルチコステロイドはドイツの化学会社であるアルタナが開発、喘息症維持療法薬Alvescoとして欧米で発売したが化学品事業スピンアウトの方針を突如覆し、薬品部門をNycomedに売却した。その後、Sepracorや大日本住友製薬などを経てCovis Pharmaが事業を取得した。日本では帝人がオルベスコ名で販売している。

日本で行われた臨床試験も無作為化割付がうまくいかなかったのか軽症患者は肺炎増悪リスクが高まる懸念が生じるなど、パッとしない結果になっている。

リンク: 同社のプレスリリース



フォシーガの第3相はフェール
(2021年4月12日発表)

アストラゼネカは二型糖尿病などの治療に用いられるSGLT2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の第3相COVID-19治療試験を行ったが、フェールしたと発表した。データは5月のACC(米国心臓学会)で発表する計画。

高血圧症や二型糖尿病、アテローム硬化性心血管疾患、心不全、ステージ3以上の慢性腎臓疾患の患者はCOVID-19に感染すると重症化しやすいことが指摘されている。今回のDARE-19試験はこれらのリスク因子を持つCOVID-19入院患者1250人を組入れて、臓器不全・死亡のリスクと、病状改善リスクを偽薬と比較した。

一年前にロンチした段階では、COVID-19感染症のストレス下ではケトアシドーシスが起きるリスクがあるのでSGLT2阻害剤ではなく他の血糖治療薬にスイッチすべき、というエキスパート・オピニオンもあった。実際に、SGLT2阻害剤服用者が感染して正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(eDKA)を発症した、という症例報告も論文発表されている。

DARE-19試験でもeDKAが見られたか、学会発表が注目される

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: SGLT2阻害剤誘導性eDKAに関するVitaleらの症例報告論文(AACE Clin Case Rep, 2021)


【新薬開発】


オプジーボが肺癌術前療法で良績
(2021年4月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、昨年10月に、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-816試験のpCR(病理学的完全反応率)解析が成功したと発表したが、今回、AACR(米国癌研究会)でデータを発表した。ステージIbからIIIaの切除可能な非小細胞性肺癌の術前化学療法にOpdivoを追加する効果を調べたところ、24%の患者で癌が消滅していた。偽薬追加群は2.2%に留まり、オッズ比は13.94、p値は0.0001を下回った。PD-L1発現度合や細胞の種類、ステージに関わりなく効果があった。グレード3/4治療時発現有害事象の発現率は両群大差なかった。もう一つの主評価項目のEFS(再発などがないまま生存)に向けて治験を継続する。

pCRは早期乳癌では重要な薬効評価手法だが非小細胞性肺癌ではあまり聞かない。BMSが適応拡大申請するかどうか、FDAがサロゲートマーカーとして認めるかどうか、注目したい。

リンク: BMSのプレスリリース



バイエルのPI3K阻害剤、NHL二次治療試験が成功
(2021年4月10日発表)

バイエルは、Aliqopa(copanlisib)の第3相Chronos-3試験の結果をAACRとLancet Oncologyで発表した。一次治療歴を持つ緩徐進行性非ホジキンリンパ腫(NHL)にrituximabと併用する効果を検討した二重盲検試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン21.3ヶ月と偽薬・rituximab併用群の13.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.52、p値は0.0001を下回った。FDAは緩徐進行性NHLを更に細分化して適応を決める傾向があるが、本試験では、濾胞性リンパ腫のハザードレシオが0.58、辺縁帯リンパ腫では0.475でどちらも統計的に有意だった。小リンパ球性リンパ腫(ハザードレシオ0.243)やワルデンシュトレームマクログロブリン血症(0.443)でも良好な数値が出たが検出力不足で有意ではなかった。

治療時発現有害事象による離脱率は32%と対照群の8%よりかなり高かった。Aliqopaは血糖値や血圧が上昇する服用がある。類薬の同様な試験で死亡例が増加し打ち切りになったことがあったので、影を落としたかもしれない。それでもこれだけの好成績が出たのは評価されそうだ。

AliqopaはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤。17年に米国で濾胞性リンパ腫の三次治療薬として加速承認された。

リンク: バイエルのプレスリリース



Amylyx、AMX0035をALSに承認申請へ
(2021年4月14日発表)

米国のAmylyx社は、AMX0035(sodium phenylbutyrateとtauroursodeoxycholic acidの合剤)をALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬として第3四半期にカナダで承認申請する計画だが、EUでも年内に申請する考えであることを明らかにした。尚、米国は見送り、第3四半期に欧米で第3相試験を開始する予定。

AMX0035はフェニル酪酸ナトリウム3gとタウロオルソデオキコール酸1gを経口投与する。前者は小胞体、後者はミトコンドリアから始まる神経変性回路を阻害し、神経細胞死を抑制することが期待される。

承認申請の根拠となる第2相試験は19年12月に成功したことが発表され、昨年夏にNew England Journal of Medicine誌に論文掲載された。発症後18ヶ月以内の患者135人を偽薬またはAMX0035に無作為化割付して一日二回(最初の3週間は一回)経口投与し、24週後のALSFRS-Rスコアを比較したところ、偽薬群は月平均1.66ポイント低下したが試験薬群は1.24ポイント低下に留まり、24週間で2.32ポイントの差があった(p=0.03)。有害事象による治験離脱は各群8%と19%だった。

この試験は承認薬であるRadicava(edaravone)やriluzoleの使用が容認されていて、被験者の77%がどちらかを、28%が両方を、用いていた。edaravoneの承認の根拠となった日本の第3相試験では、ALSFRS-Rのベースライン平均値が41.9と今回の試験の36より大きかった(病状が軽かった)が、治療効果は2.49で今回の2.32と同程度であった。従って、今回の試験が実力通りならば、承認される可能性もあるだろう。

しかし、米国申請が先送りされたことを考えると、データが頑強とは言えないのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


新規低用量ピルが米国で承認
(2021年4月15日発表)

オーストラリアのMayne Pharma(ASX:MYX)とベルギーのMithra Pharmaceuticals(Euronext Brussels:MITRA)は、FDAがNextstellis(estetrol、drospirenone)を承認したと発表した。胎児の肝臓が生産するのと同じ低力価エストロゲンとバイエルが開発してYasminなどに配合したプロゲスチンの合剤で、避妊に用いる。Mithraが15年にActavisから導入して開発、3月にカナダで初承認され、EUでCHMPの肯定的意見を得た。

米国はMayneが販売、EUはハンガリーのGedeon RichterがDrovelis名で販売する。尚、日本は富士製薬が16年に権利を取得、FSN-013として開発中。

リンク: 両社のプレスリリース(pdfファイル)



オプジーボ、胃癌や食道癌の一次治療に適応拡大
(2021年4月16日発表)

FDAは、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を進行/転移胃癌や胃食道接合部癌、そして腺腫食道癌の一次治療に化学療法と併用することを承認した。免疫療法が胃癌の一次治療薬として承認されたのは米国では初。

エビデンスとなるCheckMate-649試験では、 mFOLFOX6レジメン(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin)またはCapeOXレジメン(capecitabine、oxaliplatin)にOpdivoを追加した群のメジアン全生存期間が13.8ヶ月と追加しなかった群の11.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.80、p=0.0002だった。CPS≧5のPD-L1陽性例ではメジアン14.4ヶ月対11.1ヶ月、ハザードレシオ0.71と若干上回る治療効果を示した。有害事象による治験離脱は36%で対照群の24%を上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース



ギリアドの抗EGP-1抗体が膀胱癌に適応拡大
(2021年4月13日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズが昨年、210億ドルで買収したImmunomedicsの抗EGP-1抗体、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)を局所進行性/転移性の尿路上皮腫の3次治療薬として加速承認した。白金薬ベースの化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ患者が適応になる。エビデンスは第2相試験の112人のデータで、確認ORR(客観的反応率)が27.7%、うち完全反応5.4%、部分反応22.3%、メジアン反応持続期間は7.2ヶ月だった。

2年前に同様な癌に加速承認されたアステラス/Seagen(Nasdaq:SGEN)の抗Nectin-4抗体薬物複合体、Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)のORRは40%なのでTrodelvyが特に聞くということではなさそうだ。また、Trodelvyは命に係わることもある好中球減少症や下痢が枠付警告された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース





今週は以上です。