2021年4月17日

第995回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連:
  • イーライリリーの中和抗体単剤のEUA取消 
  • リジェネロンの中和抗体は感染者の同居者の予防にも有益 
  • BioNTech/ファイザーのワクチンのNNTは30 
  • ワクチン誘導性血小板減少性血栓症の世代別リスク 
  • EMA、アデノウイルス・ベクター・ワクチンの安全性シグナルの検討を開始 
  • JNJのワクチンの接種中断を勧告 
  • 抗寄生虫薬の第2相が成功? 
  • 抗GM-CSF受容体抗体が第2相で良績 
  • MSD、外来患者に抗ウイルス薬の第3相開始へ 
  • MSD、CD24Fcは開発断念 
  • シクレソニドの第3相がフェール 
  • フォシーガの第3相はフェール 
  • それ以外の疾患:
  • オプジーボが肺癌術前療法で良績 
  • バイエルのPI3K阻害剤、NHL二次治療試験が成功 
  • Amylyx、AMX0035をALSに承認申請へ 
  • 新規低用量ピルが米国で承認 
  • オプジーボ、胃癌や食道癌の一次治療に適応拡大 
  • ギリアドの抗EGP-1抗体が膀胱癌に適応拡大 


【COVID-19】


イーライリリーの中和抗体単剤のEUA取消
(2021年4月16日発表)

FDAは昨年11月にイーライリリーのLY-CoV555(bamlanivimab)を12歳以上、体重40kg以上の軽中等症COVID19感染症で入院の必要はないが重症化リスクを持つ患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)したが、取り消した。この抗SARS-CoV-2抗体に抵抗性を持つウイルスの感染例が増加したため。検出率が1月中旬の約5%から3月中旬には約20%に上昇した。同社のLY-CoV016(etesevimab)との併用レジメンや、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-COV(casirivimabとimdevimabの併用レジメン)は有効性を維持しているので、敢えて単剤投与に拘る必要はない。

既報のように、上記三製品のファクトシート(レーベル類似の文書)は3月に改訂され、様々な変異株に関するシュードウイルス試験のデータが掲載された。一番失望的だったのがbamlanivimab(モノセラピー)で、英国型変異(B.1.1.7系統)は感受するが、ニューヨーク型(B.1.525系統やB.1.526系統)のうちE484K変異のあるもの、カリフォルニア型(B.1.427系統やB.1.429系統)、南アフリカ型(B.1.351系統)、そしてブラジル型(B.1.1.248/P.1)は大きく低下するため有効性が期待できないと記されている。英国型以外のウイルスは自然感染やワクチン接種により獲得する抗体や中和抗体医薬品をエスケープする可能性のあるスパイク蛋白L452R変異またはE484K変異を持っている。

(ところで、カリフォルニア型やニューヨーク型はN501Y変異を持っていないようで、そのせいか、英国における英国型、南アフリカにおける南ア型、ブラジルにおけるブラジル型ほど圧倒的な感染シェアを獲得していないが、それでも、カリフォルニアとニューヨークでは高いシェアを占めている。報じられているように、日本の変異株監視体制が最初にN501Y変異を調べて該当するものだけを詳細分析する手順であるならば、この二種類の変異が見落とされている可能性が高いのではないか。)

イーライリリーの併用レジメンなら感受するが、南ア型やブラジル型には十分ではないようだ。中和抗体はワクチンなどと同様に連邦政府が一括購入して無償提供しているが、適応が軽中等症外来患者に限られていて、陽性判定の後に再び呼び出して点滴静注するロジスティクス面の不便さもあるため、あまり普及していない。あえて使うなら、トランプ前大統領と同様に、REGN-COVを選ぶのではないか。

bamlanivimabはカナダのAbCellera Biologicsが米国連邦政府のパンデミック予防プログラムを通じて開発したプラットフォームを使って、回復期血漿からスクリーニングしたもの。イーライリリーが様々な領域の創薬提携に向けて交渉していた時期に浮上、そのままインライセンスに進んだ。etesevimabは中国のJunshi Biosciencesが中国科学院微生物研究所とともに開発した中和抗体。

リンク: FDAのプレスリリース



リジェネロンの中和抗体は感染者の同居者の予防にも有益
(2021年4月12日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)と共同で実施しているREGEN-COV(casirivimab、imdevimab)の家庭内感染予防試験(2069A試験)の成功を発表した。過去4日間に陽性判定されたCOVID-19感染者の家庭内同居人をスクリーニングして、ウイルス陽性ではなく、ウイルスに対する抗体を持たない人1505人を組入れて、偽薬または皮注用新製剤(各1200mg配合)を一回投与して、症候性感染を29日間追跡した第3相試験で、結果は、各群59人と11人が感染、相対リスク削減率81%、pは0.0001未満となった。

上記のうち第1週の感染者数は各32人と9人で相対リスク削減率72%、第2週から29週の発症は27人と2人で93%。発症者の平均症状継続期間は各群3.2週間と1.2週間。有害事象は各群大差なかった。

感染予防はワクチンが有効だが、効果が発揮されるまで1~2週掛かる。既に感染してしまったかもしれないので、治療効果も持つ中和抗体のほうが適していると考えられているが、本試験がエビデンスになりそうだ。

本試験のスクリーニングでウイルス陽性だが症状がなく、抗体も持たない患者を組入れた2069B試験のヘッドラインも公表された。偽薬群は104人中44人が症候性感染に進展、REGEN-COV群は100人中29人で相対リスク削減率31%、p=0.038、第4-29日の発症だけに限定すると22人対5人、76%だった。発症者の平均症状継続期間を計算すると、各3.8週間と3.1週間で、2割程度の減少。こちらの試験の成績は全体的にそれほどインプレッシブではないが、効果があることは確認された。現実の医療ではウイルス検査の結果を待たずに投与することもあるだろうから、有益な情報だ。

REGEN-COVは軽中等症感染で入院していない患者の治療に用いることがEUA(非常時使用認可)されている。同社は対象患者追加を申請する考え。本試験ではウイルスに対する抗体を持つ人を除外しているが、現実の医療では一々検査しないのではないかと想像される。リジェネロンは簡便なコンパニオン診断薬を米国外での販売パートナーであるロシュと共同開発しているはずなので、開発に成功したのか、治療と同様に抗体検査不要とするのか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース(暴露後予防試験)
リンク: 同(発症予防試験)



BioNTech/ファイザーのワクチンのNNTは30
(2021年4月1日発表)

COVID-19のワクチンは武漢での流行が顕在化してから1年足らずで接種が始まる快挙を達成した。一製品当り数万人の第2/3相試験の裏付けがあり、症例数の点ではスピードを優先して質(情報量)を犠牲にしたと言うことはできない。しかし、追跡期間の点では承認/EUA(非常時使用認可)時点では2ヶ月前後と短い。インフルエンザワクチンなら効果が半年保てば十分だが、COVID-19は通年流行するので、ブースター接種はせめて1年後、できれば2年に一回くらいで済んでほしいものだが、現時点でも半年分のデータしかない。開発段階では1年、2年と盲検を続ける期待もあったが、偽薬群の患者の接種を禁じるのは人道に反する可能性があり、結局、偽薬対照のままの追跡データは、せいぜい半年分しか取得できない可能性が高い。

ファイザーがドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)のライセンスで共同開発販売しているCOVID-19ワクチン、Comirnaty(tozinameran、和名コミナティ)の第3相試験の半年追跡データが発表された。46307人を二回目接種の6ヶ月後まで追跡して症候性感染リスクを比較したもので、偽薬群は850人が発症したが、試験ワクチン群は77人に留まり、ワクチン効率は91.3%(95%信頼区間89.0-93.2)となった。

承認/EUAの根拠となった中間解析は対象人数が34922人と異なるため、発症率に注目すると、偽薬群0.92%、試験ワクチン群は0.04%だった。今回は各3.67%と0.33%で、追跡期間が4倍くらい延びた分、両群とも上昇した。

ワクチンでNumber-needed-to-treatが議論されることは少ないが、インフルエンザやCOVID-19のように多くの人が感染するリスクのある病気では、危険と便益を評価する上で重要だ。試算すると、中間解析時点の113から30に向上した。30人に投与すると1人を感染から救うことができ、残りの29人は接種しても感染するか、しなくても感染しないことになる(尚、この事例では接種して感染するのは0.1人のみ)。1年追跡すればもっと小さくなるかもしれないが、データがないので、何とも言えない。返す返すも残念なことだ。

リンク: 両社のプレスリリース



ワクチン誘導性血小板減少性血栓症の世代別リスク
(2021年4月7日発表)

既報のように、オックスフォード大学/アストラゼネカのCOVID-19ワクチンでごく稀に血小板減少を伴う血栓症が報告されていることを受けて、英国は、可能なら20-29歳には異なったワクチンを提供する方針を打ち出した。感染して重篤な状態になる確率は世代とともに高まる一方で、血小板減少を伴う血栓症の報告頻度は世代が若いほど高いからだ。後者は初耳だったためデータを探したところ、ケンブリッジ大学のWinton Centre for Risk and Evidence Communicationという機関のニュースページにそれらしき記述を見つけた。便益と危険を釣り合わせるために、10万人当たりのNumber-needed-to-treatはICU入室を減らす便益で、Number-needed-to-harmは血小板減少を伴う血栓症の危険で、世代別に定量評価したものだ。便益は流行の激しさ次第で変動するため、人口1万人当たり一日当たり感染者数が2人、6人、20人の三つのシナリオが用意されている。便益は観測期間とも相関するが、ここでは16週間の便益に限定している。理由は不明だが、英国でワクチンの接種が始まってから4ヶ月足らずであることや、ワクチンの効果の持続性が不透明であることを反映したのかもしれない。

血小板減少性血栓症の10万人当たり頻度を見ると、20代は1.1例、30代は0.8例、40代は0.5例、50代は0.4例、60代は0.2例となっており、統計的な有意性は不明だが、数値上はきれいに逆相関だ。この副作用がワクチンによる免疫刺激に誘導されたものだとすれば、一般に若いほどワクチン反応が強いので、高齢者より若者のほうがリスクが高くても不思議はない。

便益は1万人当たり2人/日感染するシナリオAに注目すると、20代で便益を受けるのは接種者10万人当たり0.8人となっており、確かに、危険が便益を上回っている。一方、他の世代では便益が危険を上回っており、特に、60代以上では便益が危険の70倍と大きな差が出ている。

日本の流行度合いに置き直すと、東京の感染者が一日700人とすると1万人当たり0.76人、大阪が1200人なら1万人当たり1.35人となるので、英国より便益が全体的に小さくなる。血小板減少を伴う血栓症のリスクは、日本人は血栓症のリスクが欧米より低いと言われているので英国ほどではないかもしれないが、もしデータがあるならば、類似疾患であるヘパリン起因性血小板減少症の頻度で比較したいところだ。

世代別の便益とリスク(10万人当たり)

便益危険
【シナリオA】
20-29歳0.81.1
30-39歳2.70.8
40-49歳5.70.5
50-59歳10.50.4
60-69歳14.10.2
【シナリオB】
20-29歳2.21.1
30-39歳8.00.8
40-49歳16.70.5
50-59歳31.00.4
60-69歳41.30.2
【シナリオC】
20-29歳6.91.1
30-39歳24.90.8
40-49歳51.50.5
50-59歳95.60.4
60-69歳127.70.2
注:シナリオは人口1万人・1日当りの感染者数がA(英国でいえば3月の水準)は2人、B(2月の水準)は6人、C(第2波のピーク水準)は20人と想定。
出所:Winton Centre for Risk and Evidence Communication

リンク: Winton Centre for Risk and Evidence Communicationのニュースリリース



EMA、アデノウイルス・ベクター・ワクチンの安全性シグナルの検討を開始
(2021年4月9日発表)

EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス・リスク評価委員会(PRCA)は、オックスフォード大学/アストラゼネカとジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンについて、安全性シグナルが見られるため検討を開始したと発表した。現時点ではワクチンとの因果関係は明らかではない。

前者のチンパンジー・アデノウイルス・ベクターを用いたワクチンでは、極めて稀に、血小板減少を伴う血栓症が発生することが発見されているが、今回は、毛細血管漏出症候群が5例、報告されたことが明らかになった。副作用報告は氷山の一角に過ぎないが、もっと多かったとしても、これまでの接種実績は数千万回なので、極めて稀であることに変わりはない。

後者のアデノウイルス26型をベクターとするワクチンは、血小板減少を伴う深刻血栓症が4例、報告されていることが明らかにされた。全部米国で、1例は臨床試験、3例は市販後。致死例は1例だった。EUでも承認されたが未だ接種開始されていない。米国の接種実績は約500万回なので、こちらも極めて稀だ。アストラゼネカのワクチンでは頻度がもっと高いので、検証するのは比較のためにも重要だろう。尚、米国でも接種中断勧告が発せられた(次項)。症例数や接種回数は次項のほうがアップデートされている。

リンク: EMAのプレスリリース



JNJのワクチンの接種中断を勧告
(2021年4月13日発表)

CDC(疾病管理予防センター)とFDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンの接種を中断するよう勧告した。米国で6例のCVST(脳静脈洞血栓症)が報告されたため、念には念を入れて、分析が進むまで見送るよう求めた。ジョンソン・エンド・ジョンソンもワクチンのロールアウトや臨床試験での接種を中断することを決めた。接種を受けた人には、3週間以内に重度頭痛、腹痛、足痛、息切れなどの症状が出たら医療従事者にコンタクトするよう推奨した。

米国の接種実績は680万回とのことなので、発生頻度は100万回当り一回程度であり、アストラゼネカのワクチンの100万人当たり5回より小さい。但し、JNJのワクチンの市販後データは米国、アストラゼネカのワクチンのそれは英国中心に欧州と地域が異なるので、人種構成や医療風土、副作用報告のカバー率などの違いが影響していないとは限らない。

上記6例の特徴は、全員が18~48歳の女性で接種の6~13日後に発症。転帰は一人が死亡、一人は危機的状態。

治療は4例でヘパリンが使用されたが、少なくとも数例は、ELISAで抗PF4抗体陽性が確認された後にアルガトロバンや免疫グロブリン静注に切り替えた。血栓症の治療薬はヘパリンが一般的だが、ワクチン接種者で起きる血小板減少性血栓症はヘパリン起因性血栓症と似ており、ヘパリンを投与すると病状が悪化する可能性があるからだ。CDC/FDAもヘパリンを使わないよう注意を促した。

New England Journal of Medicine誌にアストラゼネカのワクチンを接種した後に血栓症や血小板減少症を発症した症例報告二本が掲載されている。全員が、ヘパリン起因性血栓症と同様に、platelet factor 4(PF4)陽性だった。英国のMHRAによると、D-ダイマーが静脈血栓塞栓で見られる水準よりも大きく増加し、フィブリノーゲンが異常に減少する傾向もある由。可能ならヘパリン投与前にアストラゼネカやJNJのワクチンを接種しなかったか確認するとともに、これらの検査をしたほうが良さそうだ。

4月14日に開催されたACIP(ワクチン接種諮問委員会)のプレゼンテーション・スライドによると、人口全体のCVST罹患率は100万人年当たり5~20例と推定されており、メジアン年齢は37歳、65歳超は全体の8%で、高齢者は比較的少ない。女性が男性の3倍多い。リスク要因としては血栓形成促進的状態、経口避妊薬、妊娠・出産直後、腫瘍、感染症、腰椎穿刺など。JNJのワクチンでは接種後1ヶ月足らずで発症しているので年率修正すると、罹患率は上記通常値の4~15倍と推測される由。

尚、ACIPは情報不足でJNJのワクチン接種を止めるべきかどうか判断できないと結論した。次回のACIPで継続検討する予定。

リンク: CDC/FDAの共同声明(4/13付)
リンク: JNJの声明(4/13付))
リンク: 同(4/14付))



抗寄生虫薬の第2相が成功?
(2021年4月14日発表)

米国のRomark社はNT-300(nitazoxanide ER錠)の第2相軽中等症COVID-19試験が良好な結果になったと発表した。EUA(非常時使用認可)を申請する予定。

米国で寄生虫による下痢の治療薬Aliniaとして販売されている広域抗ウイルス剤の徐放製剤で、SARS-CoV-2のスパイク蛋白の成熟を阻害する作用に着目、今回の試験に進んだ。米国の12歳以上で呼吸器症状発症後72時間以内のCOVID-19疑い例を組入れて偽薬またはNT-300を一日二回、5日間経口投与した外来治療試験で、組入れは1092人だが、薬効解析はウイルス検査で確認された379人が対象。

主評価項目のメジアン罹患期間は両群とも13日だったが、軽症患者では偽薬群(129人)が13.4日であったのに対して試験薬群(116人)は10.3日だった。また、副次的評価項目である重症化率(息切れ症状及びSpO2などに基づいて判定)は偽薬群3.6%、試験薬群は0.5%だった。有害事象は下痢が若干増えた程度。

EUAは正式な承認ではなく、過去にはEUA後に臨床試験がフェールして撤回された事例もあるので、この程度のエビデンスでも認められる可能性がありそうだが、有意性も含めてデータの全容が未公表なので、今後を予想するのは困難だ。

リンク: 同社のプレスリリース



抗GM-CSF受容体抗体が第2相で良績
(2021年4月12日発表)

バミューダ籍の新興医薬品開発会社、Kiniksa Pharmaceuticals(Nasdaq:KNSA)は、KPL-301(mavrilimumab)の第2/3相COVID-19肺炎試験のうち第2相部分のコフォート1の解析が良好な結果になったと発表した。FDAなどと相談し、EUA(非常時使用認可)申請の可能性を探る考え。

KPL-301は、20年前にケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジー(CAT)社がAMRAD社と共同開発を開始した、GM-CSFの受容体に結合するファージ・ディスプレイ型ヒト化抗体。CATを買収したMedimmuneがリウマチ性関節炎などの治療薬として開発を継続したが、霊長類の毒性試験で肺胞蛋白症の懸念が見られたためFDAが米国治験を許可しなかったことなどから中止した。17年にKiniksaがライセンス、巨細胞性動脈炎の第2相試験が成功したが、COVID-19の試験も開始した。昨年12月に研究者主導試験で病状悪化や死亡のリスクを軽減する傾向が見られたことが公表されている。

今回のコフォート1は、重症肺炎を合併し酸素投与が必要だが人工呼吸器等は不要な、炎症の亢進も見られる患者116人を偽薬、6mg/kg、または10mg/kgを一回点滴する群に無作為化割付して、人工呼吸器装着・死亡リスクを29日間観察した。2用量群合計の人工呼吸器非装着生存率は86.7%と偽薬群の74.4%を上回り、p値は0.1224で閾値の0.2をクリアした(小規模な第2相の薬効解析では閾値を甘く設定することが少なくない)。ハザードレシオは0.35、p=0.0175。また、29日死亡率は8.0%と偽薬群の20.5%を大きく下回った。ハザードレシオは0.39、p=0.0726。

コフォート2は人工呼吸器装着後48時間以内の患者を無作為化割付して転帰を比較している。また、第3相ポーションの組入れも逐次開始している。

小規模な第2相の成績なので第3相で再現されるとは限らないが、数値自体は良好なので、どのような結果になるか楽しみだ。

リンク: 同社のプレスリリース



MSD、外来患者に抗ウイルス薬の第3相開始へ
(2021年4月15日発表)

MSDは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)の第2/3相COVID-19試験の第2相部分の結果概要と、第3相部分は発症後5日以内の外来患者に限定して来月までに開始する計画であることを発表した。

molnupiravirはエモリー大学のDrug Innovations at Emoryという非営利組織が開発、20年3月にRidgeback Biotherapeuticsがライセンス、5月にはMSDが世界開発商業化権を取得した。RNAポリメラーゼを阻害するリボヌクレオシド類縁体で経口カプセルなので、ギリアドが外来治療向けの開発を断念したremdesivirのような点滴静注薬よりも外来治療に向いている。

第2/3相は18歳以上の軽中等症患者が対象で、外来試験は発症7日以内の患者を組入れて入院・死亡リスクを、入院患者試験は発症10日以内の患者を組入れて治癒を偽薬と比較した。第2相部分は用量決定試験で、200mg、400mg、800mgを一日二回、5日間投与した。

両試験ともウイルス量が偽薬より減少し、800mgの効果は二低用量より高かった。発症5日以内の患者では特に治療効果が大きかった。ところが、主評価項目は明暗が分かれ、外来試験は3用量群の入院・死亡率が偽薬群より低い傾向が見られた(イベント数が少ないため統計検定は無意味)。一方、入院試験は効果が見られず、無益認定された。

薬物関連有害事象の発生率は外来試験が偽薬6.8%、3用量群合計は6.2%、入院試験は各21.3%対11.0%。薬物関連有害事象による治験離脱や死亡は発生しなかった。

これらを踏まえて、第3相部分は発症5日以内で一つ以上の重症化リスク因子を持つ軽中等症外来患者に限定して、偽薬または800mgを一日二回、5日間投与する予定。

リンク: MSDのプレスリリース



MSD、CD24Fcは開発断念
(2021年4月15日発表)

MSDは昨年12月にOncoImmune社を4.25億ドルで買収して遺伝子組換えCD24・免疫グロブリン固定領域融合蛋白(CD24Fc)を入手、重症COVID-19治療薬として承認申請を狙っていたが、開発断念した。270人を組入れた第3相試験の中間解析が成功したが、FDAやEMAが承認に前向きでなかったため。

CD24Fcは先天性免疫のチェックポイントとされるCD24と競合して標的と結合、NFカッパBの活性やIL-6などの分泌を抑制する。他家造血幹細胞移植後の移植片宿主病予防薬として第3相試験が進行していたが、COVID-19に感染して酸素投与や換気補助が必要な患者270人に偽薬または480mgを一回、点滴静注した第3相試験が中間解析で成功、一躍有名になった。罹患期間はメジアン6日間と偽薬群の10日間より短く、回復ハザードレシオが1.6、p=0.005だった。呼吸不全・死亡も半減した。remdesivir併用例やステロイド併用例では差がもっと開いた。

このデータを見た現FDA長官代行のJanet Woodcock氏が大手製薬会社との提携を促したという噂があり、周到な臨床開発を行うことで知られるMSDがライセンスした、お墨付きみたいな薬だっただけに、今年2月に刊行されたアニュアル・リポートでFDAのフィードバックがネガティブだったことが明らかにされた時の驚きは大きかったが、今回、臨床試験をもう一本実施するよう求められただけでなく、量産方法の開発も必要であることが明らかにされた。2022年上期中のEUA(非常時使用認可)が難しくなったことから、他のプロジェクトを優先することを決定した。

リンク: MSDのプレスリリース



シクレソニドの第3相がフェール
(2021年4月15日発表)

スイスのCovis Pharma社は、ciclesonide吸入の第3相COVID-19外来治療試験がフェールしたと発表した。12歳以上の症候性感染者約400人を組入れて、160mcgをpMDIで二回ずつ、一日二回、30日間に亘って吸入する効果を偽薬と比較したが、症状解消成功率が70.6%と偽薬の63.5%をそれほど上回らず、p=0.5502という残念な結果になった。

一部のサブグループや一部の副次的評価項目では良さそうな数値も出たようだが、説明が曖昧で良く分からない。

このコルチコステロイドはドイツの化学会社であるアルタナが開発、喘息症維持療法薬Alvescoとして欧米で発売したが化学品事業スピンアウトの方針を突如覆し、薬品部門をNycomedに売却した。その後、Sepracorや大日本住友製薬などを経てCovis Pharmaが事業を取得した。日本では帝人がオルベスコ名で販売している。

日本で行われた臨床試験も無作為化割付がうまくいかなかったのか軽症患者は肺炎増悪リスクが高まる懸念が生じるなど、パッとしない結果になっている。

リンク: 同社のプレスリリース



フォシーガの第3相はフェール
(2021年4月12日発表)

アストラゼネカは二型糖尿病などの治療に用いられるSGLT2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の第3相COVID-19治療試験を行ったが、フェールしたと発表した。データは5月のACC(米国心臓学会)で発表する計画。

高血圧症や二型糖尿病、アテローム硬化性心血管疾患、心不全、ステージ3以上の慢性腎臓疾患の患者はCOVID-19に感染すると重症化しやすいことが指摘されている。今回のDARE-19試験はこれらのリスク因子を持つCOVID-19入院患者1250人を組入れて、臓器不全・死亡のリスクと、病状改善リスクを偽薬と比較した。

一年前にロンチした段階では、COVID-19感染症のストレス下ではケトアシドーシスが起きるリスクがあるのでSGLT2阻害剤ではなく他の血糖治療薬にスイッチすべき、というエキスパート・オピニオンもあった。実際に、SGLT2阻害剤服用者が感染して正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(eDKA)を発症した、という症例報告も論文発表されている。

DARE-19試験でもeDKAが見られたか、学会発表が注目される

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: SGLT2阻害剤誘導性eDKAに関するVitaleらの症例報告論文(AACE Clin Case Rep, 2021)


【新薬開発】


オプジーボが肺癌術前療法で良績
(2021年4月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、昨年10月に、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-816試験のpCR(病理学的完全反応率)解析が成功したと発表したが、今回、AACR(米国癌研究会)でデータを発表した。ステージIbからIIIaの切除可能な非小細胞性肺癌の術前化学療法にOpdivoを追加する効果を調べたところ、24%の患者で癌が消滅していた。偽薬追加群は2.2%に留まり、オッズ比は13.94、p値は0.0001を下回った。PD-L1発現度合や細胞の種類、ステージに関わりなく効果があった。グレード3/4治療時発現有害事象の発現率は両群大差なかった。もう一つの主評価項目のEFS(再発などがないまま生存)に向けて治験を継続する。

pCRは早期乳癌では重要な薬効評価手法だが非小細胞性肺癌ではあまり聞かない。BMSが適応拡大申請するかどうか、FDAがサロゲートマーカーとして認めるかどうか、注目したい。

リンク: BMSのプレスリリース



バイエルのPI3K阻害剤、NHL二次治療試験が成功
(2021年4月10日発表)

バイエルは、Aliqopa(copanlisib)の第3相Chronos-3試験の結果をAACRとLancet Oncologyで発表した。一次治療歴を持つ緩徐進行性非ホジキンリンパ腫(NHL)にrituximabと併用する効果を検討した二重盲検試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン21.3ヶ月と偽薬・rituximab併用群の13.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.52、p値は0.0001を下回った。FDAは緩徐進行性NHLを更に細分化して適応を決める傾向があるが、本試験では、濾胞性リンパ腫のハザードレシオが0.58、辺縁帯リンパ腫では0.475でどちらも統計的に有意だった。小リンパ球性リンパ腫(ハザードレシオ0.243)やワルデンシュトレームマクログロブリン血症(0.443)でも良好な数値が出たが検出力不足で有意ではなかった。

治療時発現有害事象による離脱率は32%と対照群の8%よりかなり高かった。Aliqopaは血糖値や血圧が上昇する服用がある。類薬の同様な試験で死亡例が増加し打ち切りになったことがあったので、影を落としたかもしれない。それでもこれだけの好成績が出たのは評価されそうだ。

AliqopaはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤。17年に米国で濾胞性リンパ腫の三次治療薬として加速承認された。

リンク: バイエルのプレスリリース



Amylyx、AMX0035をALSに承認申請へ
(2021年4月14日発表)

米国のAmylyx社は、AMX0035(sodium phenylbutyrateとtauroursodeoxycholic acidの合剤)をALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬として第3四半期にカナダで承認申請する計画だが、EUでも年内に申請する考えであることを明らかにした。尚、米国は見送り、第3四半期に欧米で第3相試験を開始する予定。

AMX0035はフェニル酪酸ナトリウム3gとタウロオルソデオキコール酸1gを経口投与する。前者は小胞体、後者はミトコンドリアから始まる神経変性回路を阻害し、神経細胞死を抑制することが期待される。

承認申請の根拠となる第2相試験は19年12月に成功したことが発表され、昨年夏にNew England Journal of Medicine誌に論文掲載された。発症後18ヶ月以内の患者135人を偽薬またはAMX0035に無作為化割付して一日二回(最初の3週間は一回)経口投与し、24週後のALSFRS-Rスコアを比較したところ、偽薬群は月平均1.66ポイント低下したが試験薬群は1.24ポイント低下に留まり、24週間で2.32ポイントの差があった(p=0.03)。有害事象による治験離脱は各群8%と19%だった。

この試験は承認薬であるRadicava(edaravone)やriluzoleの使用が容認されていて、被験者の77%がどちらかを、28%が両方を、用いていた。edaravoneの承認の根拠となった日本の第3相試験では、ALSFRS-Rのベースライン平均値が41.9と今回の試験の36より大きかった(病状が軽かった)が、治療効果は2.49で今回の2.32と同程度であった。従って、今回の試験が実力通りならば、承認される可能性もあるだろう。

しかし、米国申請が先送りされたことを考えると、データが頑強とは言えないのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


新規低用量ピルが米国で承認
(2021年4月15日発表)

オーストラリアのMayne Pharma(ASX:MYX)とベルギーのMithra Pharmaceuticals(Euronext Brussels:MITRA)は、FDAがNextstellis(estetrol、drospirenone)を承認したと発表した。胎児の肝臓が生産するのと同じ低力価エストロゲンとバイエルが開発してYasminなどに配合したプロゲスチンの合剤で、避妊に用いる。Mithraが15年にActavisから導入して開発、3月にカナダで初承認され、EUでCHMPの肯定的意見を得た。

米国はMayneが販売、EUはハンガリーのGedeon RichterがDrovelis名で販売する。尚、日本は富士製薬が16年に権利を取得、FSN-013として開発中。

リンク: 両社のプレスリリース(pdfファイル)



オプジーボ、胃癌や食道癌の一次治療に適応拡大
(2021年4月16日発表)

FDAは、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を進行/転移胃癌や胃食道接合部癌、そして腺腫食道癌の一次治療に化学療法と併用することを承認した。免疫療法が胃癌の一次治療薬として承認されたのは米国では初。

エビデンスとなるCheckMate-649試験では、 mFOLFOX6レジメン(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin)またはCapeOXレジメン(capecitabine、oxaliplatin)にOpdivoを追加した群のメジアン全生存期間が13.8ヶ月と追加しなかった群の11.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.80、p=0.0002だった。CPS≧5のPD-L1陽性例ではメジアン14.4ヶ月対11.1ヶ月、ハザードレシオ0.71と若干上回る治療効果を示した。有害事象による治験離脱は36%で対照群の24%を上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース



ギリアドの抗EGP-1抗体が膀胱癌に適応拡大
(2021年4月13日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズが昨年、210億ドルで買収したImmunomedicsの抗EGP-1抗体、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)を局所進行性/転移性の尿路上皮腫の3次治療薬として加速承認した。白金薬ベースの化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ患者が適応になる。エビデンスは第2相試験の112人のデータで、確認ORR(客観的反応率)が27.7%、うち完全反応5.4%、部分反応22.3%、メジアン反応持続期間は7.2ヶ月だった。

2年前に同様な癌に加速承認されたアステラス/Seagen(Nasdaq:SGEN)の抗Nectin-4抗体薬物複合体、Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)のORRは40%なのでTrodelvyが特に聞くということではなさそうだ。また、Trodelvyは命に係わることもある好中球減少症や下痢が枠付警告された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース





今週は以上です。

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