2021年5月29日

第1001回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 新たな抗SARS-CoV-2抗体がEUA 
  • Modernaも青少年試験が成功 
  • EMA、シクレソニドなどをCOVID-19に支持せず 
  • その他の領域: 
  • 価格破壊志向の抗PD-L1抗体を米国などで承認申請へ
  • 武田薬品、デング熱ワクチンの予防効果は3年だと62% 
  • ノボ、オゼンピックの高用量追加を再申請 
  • BCMA標的CAR-T療法の承認申請が受理 
  • 武田、CMV治療薬を承認申請 
  • FDA諮問委員会、一型糖尿病予防薬の評価が意外に分かれた 
  • CHMP、cALDの遺伝子療法などの承認を支持 
  • FDA、アムジェンのKRAS-G12C阻害剤をスピード承認 
  • FDA、FGFR2融合陽性胆管癌の薬を承認 
  • BMS、S1PR1/5調節剤が潰瘍性大腸炎に適応拡大 
  • 片頭痛治療薬が予防にも承認 
  • 子宮筋腫のアドバック療法用薬が承認 
  • JNJの二重特異性抗体が承認 
  • ベオビュは毎月投与を続けると眼内炎リスクが高まる 
  • Ocalivaは進行肝硬変が禁忌に 


【COVID-19関連】


新たな抗SARS-CoV-2抗体がEUA
(2021年5月26日発表)

FDAは、サンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)が創製しグラクソ・スミスクラインと共同開発している抗SARS-CoV-2抗体、VIR-7831/GSK4182136(sotrovimab)をEUA(非常時使用認可)した。12歳以上、体重40kg以上の軽中等COVID-19感染症で重症化リスク因子(65歳以上、ある種の持病など)を持つ患者に一回、点滴静注する。

元々はSARSの研究から生まれた、よく保存されているエピトープを標的とする抗体で、ラボ試験では英国型、南ア型、ブラジル型、カリフォルニア型、ニューヨーク型、インド型変異にも活性が認められた。583人を組入れた第1/2/3相試験で偽薬群は7%が入院または死亡したが、試験薬群は1%のみだった。

EUでも承認審査中。

FDAはこの薬に関してもCOVID-19感染症で入院中の患者には便益が見られず、ハイフロー酸素や人工呼吸器を必要とする患者は転帰がむしろ悪化する可能性があると警告している。抗SARS-CoV-2抗体共通のリスクと認識しているのだろう。そのうち試験が成功するのではないかと期待していたが、音沙汰無いので、そろそろ諦めた方が良いかもしれない。

抗SARS-CoV-2抗体はトランプ前大統領に使用され、注目を集めたが、需要は伸び悩んでいる。入院の必要がない患者を呼び出して点滴静注する不便さが敬遠の理由であるようだ。そもそも入院の必要のない患者を治療する余裕がないのかもしれない。米国政府はリジェネロンやイーライリリーの製品を一括購入し医療機関に無償提供しているが、報道によるとsotrovimabは対象外とのことで、普及のハードルが一段高くなっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース



Modernaも青少年試験が成功
(2021年5月25日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)はmRNA-1273(COVID-19ワクチン)の第2/3相青少年試験が成功したと発表した。6月初めに承認審査機関に対象年齢拡大申請を行う考え。当初の武漢株と異なり最近の変異株は青少年でも重症化リスクがあると言われており、また、日本の大学のように集合授業を見合わせている学校や国もあるので、重要だ。

この試験は12歳以上18歳未満の3732人をワクチン群と偽薬群に2対1割付して、免疫原性を大人のデータと比較した。用量用法は大人と同じ、100mcgを28日置いて2回、筋注した。結果は、大人と非劣性であることが確認された。

ワクチン群の症候性感染はゼロ、偽薬群は4人でワクチン効率は100%だった。但し、症例数が少ないため、良く分からない面もありそうだ。CDC(米国疾病管理予防センター)がワクチンの副次的な評価項目として推奨している、2回目ではなく初回接種の14日後から起算して、症状に関する感染判定基準を二項目以上ではなく一項目以上に緩和したデータでは、ベースライン時点で血清陰性(感染歴無し)の被験者におけるワクチン効率は93%だった。

リンク: 同社のプレスリリース



EMA、シクレソニドなどをCOVID-19に支持せず
(2021年5月27日発表)

EMAのCOVID-19タスクフォースは、budesonideやciclesonideのような吸入コルチコステロイドをCOVID-19の治療に用いる当否を検討し、便益に係る十分なエビデンスはないと結論した。危険に関する新たな知見はないものの、酸素水準が正常な患者には危害がある可能性が否定できない由。尚、全身性ステロイドであるdexamethasoneはある種のCOVID-19感染者に対する便益が確立されている。

シクレソニドは日本以外の開発販売権を持つCovis Pharmaが行った第3相外来治療試験で有意な症状改善効果を示さなかった。日本で行われた試験では、軽症患者の肺炎増悪リスクが高まる懸念が浮上した。

COVID-19との戦い方は今でも万全ではないが、1年前と比べたら、いろいろな知見を得ている。シクレソニドとか、ファビビラビルとか、無作為化割付対照試験のエビデンスを持たない薬をいつまでも使っていたら、患者は救われない。

リンク: EMAのプレスリリース


【新薬開発】


価格破壊志向の抗PD-L1抗体を米国などで承認申請へ
(2021年5月28日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジの新興新薬開発会社、EQRxと、ライセンス元である中国のCStone Pharmaceuticals(HKEX:2616、基石藥業)は、CS1001(sugemalimab)の二本目の第3相非小細胞性肺癌試験が成功したと発表した。一本目の成功を受けて中国では既に承認申請済みだが、今回の成功により米国などでも承認申請する考え。先輩類薬はバスケットやバレーのチームが作れるほどあるが、EQRxは新薬を低廉に提供することを使命とする会社なので、中国以外でも抗PD-1/PD-L1抗体の価格破壊が起きそうだ。

CS1001はLigand PharmaceuticalのOmniRatトランスジェニック・ラット技術を用いてCStoneが創製したIgG4型抗PD-L1完全ヒト化抗体。第3相無作為化割付二重盲検試験は二本とも中国の施設で実施され、一本目はステージIVの非小細胞性肺癌の一次治療として化学療法併用で3週毎点滴静注し、PFS(無進行生存期間、主評価項目は担当医評価)を化学療法・偽薬併用と比較した。結果はハザードレシオ0.50、メジアン期間は7.9ヶ月対4.9ヶ月となり、サブグループ分析ではPD-L1陽性・陰性やヒスとロジーを問わず、効果が見られた。盲検独立中央評価によるPFSも似たような成績だ。

今回の試験はステージIIIの非小細胞性肺癌で、化学放射線療法により癌の進行を抑制できた患者を組入れて、3週毎に最大24ヶ月間の地固め療法を行い、PFS(盲検独立中央評価ベース)を偽薬群と比較した。データは学会などで発表する予定。化学放射線療法は連続型でも併用型でも効果が見られたようだ。

CS1001は胃癌と食道癌でも第3欧試験が進行中。

EQRxは昨年10月にCS1001と抗PD-L1ヒト化抗体のCS1003の中国台湾以外での開発販売権を取得した。尚、CS1001の中国での販売権はファイザーが取得した。


リンク: EQRxのプレスリリース



武田薬品、デング熱ワクチンの予防効果は3年だと62%
(2021年5月24日発表)

武田薬品はデング熱の4価弱毒化生ワクチン、TAK-003(通称DENVax)を欧州などで承認申請し、米国でも申請予定だが、第3相試験の追跡データを学会とプレスリリースで発表した。15ヶ月追跡時点のワクチン効率は80%だったが、主評価項目である21ヶ月追跡時点では73%、今回の3年追跡時点では62%となった。3年目だけのデータはもっと低いと推測される。武田は臨床試験のプロトコルを変更してブースター・ショットの有効性を検討することにした。

このワクチンは、元々はタイのSutee Yoksan at Mahidol Universityの研究者が創製、米国のCDC(疾病管理予防センター)を経て、ライセンスを取得して開発したInviragenを13年に武田薬品が買収した。2型のデングウイルスに1型、3型、4型の構造蛋白などを導入したもの。デング熱の初めてのワクチンであるサノフィのDengvaxiaと異なり非構造蛋白も含有しているため細胞性免疫誘導能が優れる可能性がある。

Dengvaxiaは、自然感染歴のない人が接種後に感染すると重篤化しやすくなる抗体依存的増強リスクがフィリピンなどで大規模接種が始まった後に表面化し、大きな社会問題になった。TAK-003では特に問題になっていないので、一部で言われていた通り、効果の高いワクチンなら回避できるのかもしれない。

第3相TIDES試験は流行地域であるラテンアメリカやアジアの施設で4~16歳の約2万人を組入れて90日置いて2回皮注する群の症候性感染リスクを偽薬と比較した。36ヶ月追跡したデータはワクチン効率が62.0%(95%信頼区間56.6-66.7%)で、ベースライン時点で血清反応陽性(感染歴を持つと推測される)のサブグループでは65.0%、陰性では54.3%だった。デング熱による入院のリスクは83%低かった。

21ヶ月追跡時点では2型ウイルス感染に関するワクチン効率は95%ととても高いが1型は70%、3型は49%、4型は51%だった。今回もバックボーンである2型以外の効果が落ちたようだ。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認申請】


ノボ、オゼンピックの高用量追加を再申請
(2021年5月28日発表)

ノボ ノルディスクは二型糖尿病のGLP-1作動剤Ozempic(semaglutide、和名オゼンピック)の最大用量として現在の1mgの倍である2mgを追加すべく、1月に用量追加申請を行ったが、デンマークの新生産拠点に関する情報が不足とみなされ、受理されなかった。今回、再申請したことを明らかにした。イーライリリーが承認申請したGIP/GLP-1作用剤、tirzepatideは直接比較試験でHbA1c低下作用がsemaglutide 1mgを有意に上回った。2mgは迎え撃つために重要な公然の秘密兵器である。

リンク: 同社のプレスリリース



BCMA標的CAR-T療法の承認申請が受理
(2021年5月26日発表)

GenScript Biotech(HKEX:1548)の子会社であるLegend Biotech(Nasdaq:LEGN)は、開発販売提携先であるJanssen Biotechが米国でciltacabtagene autoleucel(通称cilta-cel)を承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月29日。

BCMA(B細胞成熟抗原)を標的とする単ドメイン抗体二種類と4-1BB共刺激ドメインを持つCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法で、再発/難治多発骨髄腫に用いる。三次以上の治療歴を持ち最終治療に反応しなかった患者を日米の施設で組入れた第1b/2相試験で、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が97人中95%、完全反応率(狭義基準)は67%と高い効果を示した。CAR-Tに付き物のサイトカイン放出症候群は95%で発生、G3は4人、G4は1人とそれほど多くはないがG5(致死)が一人いた。G3以上の神経学的イベントの発生率は10%。治療関連有害事象による死亡は全部で6人で、敗血症関連、神経毒性、呼吸不全などによる死亡者もいた。

bluebird bio社がブリストル マイヤーズ スクイブと共同開発し3月に米国で承認されたBCMA標的CAR-T、Abecma(idecabtagene vicleucel)と見比べると効果は高そうだ。Abecmaは同様な患者を組入れた臨床試験に基づき承認申請したが、4次以上の治療歴を持つ患者が多かったようで、3次治療歴の患者には承認されなかった。cilta-celがどうなるか、注目される。

リンク: Legend社のプレスリリース(pdf)



武田、CMV治療薬を承認申請
(2021年5月21日発表)

武田薬品はTAK-620(maribavir)を米国で承認申請し受理された。優先審査を受ける。審査期限は不明。

臓器移植や造血幹細胞移植は強力な免疫抑制剤を用いるためサイトメガロウイルス(CMV)のような本来はそれほど重篤化しない感染症が深刻な脅威になり得る。TAK-620は、グラクソ・スミスクラインのGW 1263を03年にライセンスしたViroPharmaを13年に買収したシャイアを19年に武田薬品が子会社化、という経緯。ViroPharmaが行った第3相はフェールしたが、用量を4倍に増やした再挑戦が奏功し、ウイルス消失奏効率が55.7%と対照薬(医師がganciclovirなど4剤から選択)の23.9%を有意に上回った。治療時発現有害事象による治験離脱率が13.2%対31.9%と、忍容性が比較的良好であったことも寄与したのだろう。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、一型糖尿病予防薬の評価が意外に分かれた
(2021年5月27日発表)

FDAは内分泌代謝薬諮問委員会を取集し、Provention Bio(Nasdaq:PRVB)が一型糖尿病の発症を遅らせる薬として承認申請したPRV-031(teplizumab)について、意見を求めた。FDAブリーフィング資料のトーンはポジティブだったが、諮問委員は承認賛成が10人、反対が7人と、意外にも票が割れた。審査期限は7月2日。諮問委員会の議題ではないが、FDAは臨床試験で用いられた薬剤と市販用の薬剤の等価性に関する追加資料を要求しており、薬効や安全性に問題がなくても承認が遅れるリスクが残っている。

抗CD3抗体のエプシロン鎖に結合するIgG1型抗体で、イフェクターT細胞を抑制し制御的T細胞の活性を強化すると考えられている。MacroGenics(Nasdaq:MGNX)から資産取得した。30分静注を14日間連続で施行する。薬効のエビデンスとなるのはNIH(米国立衛生研究所)が主導した第2相試験。8歳以上で、一型糖尿病の近親を持ち、二種類以上の一型糖尿病自己抗体を保有し、糖尿病ほどではないが耐糖能が低下している76人を組入れて発症リスクを比較したところ、ハザードレシオ0.41、p=0.006だった。発症までのメジアン期間は48ヶ月で偽薬群の24ヶ月より遅かった。

選りに選りすぐったような組入れ条件だが、おそらく、イーライリリーがライセンスして実施した第3相の早期一型糖尿病治療試験がフェールしたことを踏まえたのだろう。免疫抑制剤が効きそうな患者を厳選したことが2年という大きな治療効果を生んだ。

但し、如何せん小規模な試験なので、第三の因子が影を落とした可能性も否定できない。また、サイトカイン放出症候群(試験薬群0.6%、偽薬群0%)や感染症(各3.4%と1.6%)が増加した。



CHMP、cALDの遺伝子療法などの承認を支持
(2021年5月21日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、脳副腎白質ジストロフィー(cALD)の遺伝子療法などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

cALDはX染色体性遺伝子疾患で、ABCD1遺伝子の欠損によりALDPという蛋白が機能せず、極長鎖脂肪酸がペルオキシソームに移送されずに蓄積する。神経細胞や副腎機能などに障害が発生する。

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)のSkysona(elivaldogene autotemcel)は患者から採取したCD34陽性造血幹細胞にレンチウイルスベクターを用いてABCD1の遺伝子を導入、患者に戻す。臨床試験では30人中27人が24ヶ月経過時点でも運動機能やコミュニケーション能力を維持したまま生存した。有害事象は汎血球減少症など。

ABCD1遺伝子変異型でHLA適合兄弟姉妹ドナーがいない、18歳未満の早期cALDが適応になる予定。

同社のレンチウイルスベクターを用いた遺伝子療法で19年にEUで輸血依存ベータセラサミアに承認されたZyntegloは血液癌の懸念が表面化した。CHMPは、Skysonaの臨床試験では発生していないものの、血液癌の兆候をモニターすべきとした。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)のImcivree(setmelanotide)はMC4R(melanocortin-4 receptor)アゴニスト。POMC欠乏症(PCSK1欠乏症を含む)やLEPR欠乏症の成人と6歳以上の小児の体重管理に用いる。一日一回皮注。何れも超希少疾患だが、バルデー・ビードル症候群やアルストレム症候群の第3相も成功しており、一歩一歩患者層を拡大する考え。米国では昨年11月に承認。

リンク: Rhythm社のプレスリリース

Albireo Pharma(Nasdaq:ALBO)のByIvay(odevixibat)は局所作用性iBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤。進行性家族性肝内胆汁鬱滞(PFIC)の典型的な症状である掻痒の治療に経口投与する。患者数が少ないなどの理由で十分な規模・内容の臨床試験を行うのが困難である病気に適用される例外的環境下手続きに基づいて承認することが了承された。PFIC用薬が承認されれば初。米国でも優先審査中で期限は7月20日。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

Almirall(BME: ALM)がAthenex(Nasdaq:ATNX)からライセンスして承認申請したKlisyri(tirbanibulin mesylate)は微小管阻害剤の軟膏。角質増殖型でも肥大型でもない顔や頭皮の日光角化症の治療に用いる。一日一回、5日間塗布した第3相試験二本では、5割前後の患者が寛解し、対照群の1割を上回った。

リンク: EMAのプレスリリース

大日本住友製薬の子会社になったMyovant Sciences(NYSE:MYOV)が開発し欧州などではGedeon Richter販売することになるRyeqoは、武田薬品からライセンスした新開発のGnRH受容体拮抗剤、relugolixとestradiol及びnorethindroneを配合したアドバック療法用合剤。子宮筋腫による不正出血の治療に用いる。日本ではrelugolix単剤がレルミナとして子宮筋腫による諸症状の治療に承認されている。また、relugolixは日本や海外で前立腺癌にも開発されている。

リンク: EMAのプレスリリース

バイエルのVerquvo(vericiguat)は可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤。駆出率低下型慢性心不全の治療に経口投与する。臨床試験で心血管死や心不全による入院を有意に減らした。このところ、複数の作用機序の異なる様々な心不全治療薬が承認されているので、どの薬がもっともよいのか、併用で上乗せができるのか、など分からないことも増えている。同時期に承認申請された日本では、2月の第一部会が継続審議となった。報道の行間を読むと、第3相試験の日本の施設のデータがそれほど良くなかったのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)を駆出率低下型慢性心不全の治療に用いることが支持された。心血管アウトカム試験で心血管死/心不全入院のリスクを25%抑制した。日米でも審査中。SGLT2阻害剤は血糖治療薬だが心不全では二型糖尿病の有無は問わない。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

MSDのKeytruda(pembrolizumab)をPD-L1陽性(CPS≧10)の局所進行性切除不能または転移性の食道がんやher2陰性の胃食道接合部腺腫の成人の一次治療に用いることも支持された。cisplatin及びfluoropyrimidineと併用する。KEYNOTE-590試験に基づくもので、メジアン生存期間が13.5ヶ月と対照群の9.4ヶ月を上回った。治療時発現有害事象による死亡は9人で対照群の5人を上回った。米国では3月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

リジェネロン/サノフィのIgG4型抗PD-1抗体、Libtayo(cemiplimab)の適応拡大も指示された。一つはPD-L1高発現(50%以上)でEGFRやALK、ROS1変異を持たない、化学放射線療法不適な局所進行性、または転移性の、非小細胞性肺癌に単剤投与する。化学療法対照試験では全生存期間のハザードレシオが0.676と有意に1を下回った。もう一つはヘッジホッグ・パスウェイ阻害剤に不応不耐の局所進行性/転移性基底細胞腫。米国ではどちらも2月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはDNA修復欠損(dMMR)の結腸直腸癌に用いることも支持された。fluoropyrimidineベース治療歴を持つ患者が適応になる。CheckMate-142試験ではORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が33%だった(完全反応率8%)。56%の患者で反応が12ヶ月以上持続した。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


FDA、アムジェンのKRAS-G12C阻害剤をスピード承認
(2021年5月28日発表)

FDAはアムジェンのLumakras(sotorasib)をKRASにG12C変異を持つ局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の二次治療薬として加速承認した。優先審査だが審査期限より2ヶ月半、早く承認された。コンパニオン診断薬はGuardant HealthのリキッドバイオプシーCDxとQIAGENの組織検体PCR検査薬の二種類が承認されたが、前者で陰性の場合は後者で確認することが推奨された。

非小細胞性肺癌はEGFRやALK、ROS1など分子標的薬が多いが、今回のKRAS-G12C変異は非小細胞性肺癌の13%を占めるので、比較的多い。KRASは代表的な腫瘍関連遺伝子だが、薬を結合させるのが難しく、開発が難航した。Lumakrasは第一号で、臨床入りから3年足らずで承認された。

960mgを一日一回、経口投与した単群試験では、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が124人中36%、メジアン反応持続期間は10ヶ月だった。有害事象により投与を永続的に中止した症例は9%を占めた。肝毒性や間質性肺疾患が警告・事前注意されている。

市販後コミットメントとして、第3相docetaxel対照試験や、240mgと960mgの効果や毒性を比較する試験を行う。

欧州では昨年12月に、日本でも今年4月に、承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース



FDA、FGFR2融合陽性胆管癌の薬を承認
(2021年5月28日発表)

FDAは、BridgeBioPharma(Nasdaq:BBIO)の子会社であるQED Therapeuticsが承認申請したTruseltiq(infigratinib)を加速承認した。FGFR2(線維芽細胞増殖因子受容体 2)の遺伝子に融合などの再編成があり、治療歴を持つ、切除不能局所進行/転移性の胆管癌に、125mgを一日一回、21日間連続投与して7日間休むサイクルで、経口投与する。108人のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が23%、メジアン反応持続期間は5ヶ月だった。警告・事前注意は網膜色素上皮剥離、高リン血症や軟組織石灰化、胚胎毒性。

18年にノバルティスからライセンスしたFGFR阻害剤。骨異形成以外の適応領域の共同開発販売でHelsinn Groupと提携している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BridgeBioPharmaのプレスリリース



BMS、S1PR1/5調節剤が潰瘍性大腸炎に適応拡大
(2021年5月27日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Zeposia(ozanimod)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。欧州でも承認申請中。米国の方が後に申請したが、優先審査バウチャを使って優先審査を受けた。

19年に買収したセルジーンが15年に買収したReceptosのS1PR1/5調節剤で、20年に欧米で再発性多発硬化症用薬として承認された。類薬は数多いが、潰瘍性大腸炎で承認されたのは初。クローン病でも開発中。

第3相試験では、臨床的寛解導入フェーズの奏効率が18.4%と偽薬群の6.0%を上回り、寛解維持フェーズの奏効率も37.0%と偽薬群の18.5%を上回った。

過去6ヶ月間に心筋梗塞や卒中、非代償性心不全による入院、房室ブロックなどは禁忌となった。

リンク: 同社のプレスリリース



片頭痛治療薬が予防にも承認
(2021年5月27日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、Nurtec ODT錠を反復性片頭痛の予防に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。治療と予防の両方が承認された薬は初。但し、治療は反復性(発作を経験する日数が月15日未満)だけでなく慢性(毎月15日以上が続く)にも承認されている。予防用途は75mgを二日に一回、治療は一日一回、服用する。予防の場合、一ヶ月に15錠前後を服用することになるが、発作が起きて治療が必要な時は一ヶ月に18錠まで服用可。

臨床試験では月間発作日数が偽薬群より4.3日少なかった。有害事象は悪心や腹痛など。

16年にブリストル マイヤーズ スクイブからライセンスしたCGRP受容体アンタゴニスト。

リンク: 同社のプレスリリース



子宮筋腫のアドバック療法用薬が承認
(2021年5月26日発表)

大日本住友製薬の子会社でスイス籍のMyovant Sciences(NYSE:MYOV)は、FDAがMyfembreeを閉経前女性の子宮筋腫による過剰出血の治療薬として承認したと発表した。武田薬品からライセンスしたGnRH受容体拮抗剤のrelugolixと、estradiol、そしてnorethindroneの合剤。GnRH受容体拮抗剤の副作用を緩和するために反対の作用を持つ薬を併用する、アドバック療法用の合剤は初。最長24ヶ月間、服用できる。ファイザーと共同販売する。EUでもRyeqo名で5月にCHMPの肯定的意見を得た(上記)。

relugolixは単剤で進行前立腺癌用薬Orgovyxとして米国で昨年12月に承認された。日本では19年にレルミナ名で子宮筋腫治療薬として承認され(最長6ヶ月間服用可)、子宮内膜症に適応拡大申請中。

リンク: Myovantのプレスリリース



JNJの二重特異性抗体が承認
(2021年5月21日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルが申請したRybrevant(amivantamab-vmjw)をEGFRエクソン20挿入変異を持つ非小細胞性肺癌の治療薬として加速承認した。EGFRとMETの両方に結合する二重特異性抗体で、白金薬による治療歴を持つ81人に投与した臨床試験ではORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が40%だった(完全反応率4%)。メジアン反応持続期間は11ヶ月。G3以上の有害事象発現率は35%だった。EGFR阻害剤は多数承認されているが、エクソン20変異に有効な薬は初めて。欧州でも承認審査中。

標準用量は1050mg(体重80kg以上は1400mg)。第1週は第1日と2日に半量ずつ点滴静注し、第2~4週は週一回、その後は二週後に投与する。間質性肺疾患の兆候が見られたら投与を中断、確認されたら永続停止する。日光を避ける。目の炎症や視力障害などが起きることがある。胎毒性がある。

コンパニオン診断薬としてGuardant HealthのGuardant 360 CDxも承認された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ベオビュは毎月投与を続けると眼内炎リスクが高まる
(2021年5月28日発表)

ノバルティスは新生血管加齢性黄斑変性(nAMD)の治療薬であるBeovu(brolucizumab、和名ベオビュ)の用途・用法開発試験について、アップデートを行った。この抗VEGF-A抗体フラグメントは最初の3回は毎月だが、それ以降は8週から12週毎に硝子体内注射する。頻度が少ないのが長所だが、十分な効果が得られない患者もいるので、4週毎投与を続ける効果を類薬であるafliberceptと比較したところ、視力矯正効果は非劣性だったが、眼内炎症が多く発生したため、治験を打ち切った。網膜静脈閉塞の治療試験や、他の試験の4週毎投与継続群も中止した。ノバルティスは承認審査機関に報告する考え。

Beovuは市販後に網膜血管炎などの副作用が表面化した。今回のMERLIN試験では、眼内炎症の発生率が9.3%とaflibercept群の4.5%を上回り、うち網膜血管炎は0.8%対0.0%、網膜血管閉塞は2.0%対0.0%)だった。抗VEGF抗体は視力低下を遅らせるだけでなく改善することができるが、nAMDを組入れたMERLIN試験では、15字以上、視力喪失した患者の比率が4.8%対1.7%と、治療目的に相反するデータも出た。

リンク: ノバルティスのプレスリリース



Ocalivaは進行肝硬変が禁忌に
(2021年5月26日発表)

FDAはIntercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)の原発性胆汁性肝硬変(PBC)治療薬、Ocaliva(obeticholic acid)について、進行肝硬変を禁忌にした。非代償性肝障害(肝性脳症や凝固障害を伴う)や門脈圧亢進症(腹水、胃食道静脈瘤、持続性血小板減少症)を合併している、あるいはしたことがある患者が対象。16年に米国で加速承認されて以降、深刻な非代償性肝障害や肝不全が25例、FDAに報告されていてその多くは投与開始時点で進行肝硬変だったため。

OcalivaはPBCの第一選択薬であるウルソデオキシコール酸(UDCA)の類縁体でファルネソイドX受容体を作動する力価を大幅に向上した。以前から肝毒性が危惧されており、16年4月の胃腸薬諮問委員会でも肝硬変を禁忌とすべきか議論になった。17年にはヘルスケア・プロフェッショナル・レターも発出された。

リンク: FDAの安全性情報





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