2021年4月24日

第996回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • JNJのワクチンにも血小板減少性血栓症の大変稀なリスクありと判定 
  • その他の領域: 
  • JAK阻害剤の第3相円形脱毛症試験が二本目も成功 
  • Jazz社、Xywavの特発性過眠症試験データを学会発表 
  • RNA介入薬を遺伝性ATTRアミロイドーシスに承認申請 
  • CHMP、NMOSD治療薬などに肯定的意見 
  • FDA、アルキル化薬のADCを承認 
  • FDA、GSKの抗PD-1抗体を内膜腫に承認 


【COVID-19関連】


JNJのワクチンにも血小板減少性血栓症の大変稀なリスクありと判定
(2021年4月23日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンを接種した人のうちごく一部で血小板減少を伴う血栓症が発現し致死例もある件について、EUと米国の諮問委員会は、夫々に、大変稀だが深刻な副作用としてレーベルに追加すべきと結論した。便益が危険を上回ることから接種中止までは求めなかった。結論が出たことからJNJはロールアウト再開を決めた。

同様なリスクはアストラゼネカのワクチンでも観察されているが、今のところ、報告頻度はJNJのワクチンのほうが少ない。EMAによると深刻例は約700万回接種して8例(うち1例は致死的)とのことだ。

米国のCDC(疾病管理予防センター)はTTS(血小板減少を伴う血栓症候群)という若干異なったカテゴリーで15例が報告されたことを明らかにした。全員が女性で18-49歳が13例と太宗を占めた。小分類では12例がCVST(脳静脈洞血栓症)。転帰は死亡3人、ICU入室中4人、その他入院3人、5人は退院した。

接種実績は800万回程度なので、頻度は100万回当たり2例弱。女性の年齢別頻度は18-29歳が同5.2例、30代11.8例、40代4.3例、50-64歳1.5例、65歳以上はゼロとなっている。イベント数が少ないせいか綺麗な逆相関にはなっていないが、アストラゼネカのCOVID-19ワクチンと同様に、50歳未満のリスクが高い。

接種後3週間以内に息切れや胸痛、下肢腫脹、持続的な腹痛、重度で持続的な頭痛や霞目のような神経学的症状、そして接種箇所以外での点状出血などの血栓症の症状が現れたら、医療従事者に速やかにコンタクトするよう勧奨した。COVID-19ワクチンはインフルエンザ・ワクチンなどより強力な分、頭痛などの発現率も高いが、接種後何日も経ってから激しい頭痛が生じた場合はTTSを疑ってもよいようだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース(4/20付)
リンク: 同(4/23付)


【新薬開発】


JAK阻害剤の第3相円形脱毛症試験が二本目も成功
(2021年4月20日発表)

イーライリリーは、JAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)の第3相重度円形脱毛症試験が二本目も成功したと発表した。今年下期に米国で、その後に他の地域でも、適応拡大申請する予定。

このBRAVE-AA1試験とBRAVE-AA2試験は、重症(現行の脱毛症状が6ヶ月以上8年以内の期間、継続し、50%以上の毛髪を喪失と定義)の円形脱毛症を米日などの施設で組入れて偽薬、2mg、または4mgを一日一回、36週間投与して、奏効率(脱毛領域の比率が20%以下に低下)を比較した。結果は、AA1試験が各群5%、22%、35%となり、両用量ともp≦0.001だった。AA2試験も3%、17%、33%でp≦0.001。

治療時発現有害事象は上部気道感染症、頭痛、挫創など。静脈血栓塞栓症例や死亡例はなかった。

Olumiantは中重度活性期リウマチ性関節炎や日欧では中重度アトピー性皮膚炎にも承認されている。免疫抑制剤なので深刻な感染症や腫瘍のリスクがあり、JAK阻害剤なので血栓症のリスクも米国では枠付警告されている。FDAはJAK阻害剤の用量依存的深刻副作用に強い警戒心を持っており、日欧と異なり、4mgを承認していない。

従って、今回の発表で一番の朗報は、2mgの効果が確認されたことだ。

尚、組入れを病歴8年以内に限定しているのは、JAK阻害剤の過去の円形脱毛症試験で年齢が若く抜け毛が始まってからの期間が短い患者のほうが効果が出やすかったからだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



Jazz社、Xywavの特発性過眠症試験データを学会発表
(2021年4月20日発表)

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、GABA作用剤Xywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)の第3相特発性過眠症試験が成功したと昨年10月に発表したが、データをAAN(米国神経学会議)で発表した。100人強を組入れてオープン・レーベル(OL)期に全員にXywavを投与した後に、継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して2週間後のEpworth Sleepiness Scale(EPS)を比較した離脱試験。

EPSはTV視聴など八つの環境下で居眠りする可能性を0から3の4段階評価して足し上げる。点数は高いほど可能性が高い。本試験では患者登録時点での平均値15.7(標準偏差3.77)がOL期終了時点では6.1(同3.99)に低下したが、無作為化試験期末には偽薬比平均6.51の差が生まれた(p<0.0001)。

副次的評価項目のIdiopathic Hypersomnia Severity Scale(症状の重さや生活影響に関する14項目について7項目は0-4、7項目は0-3で評価し足し上げる)も患者登録時の31.6(8.34)がOL期末には15.3(8.46)に改善、無作為化試験期末には偽薬比メジアン12.0の差が生じた(p<0.0001)。

Xywavは、ナルコレプシー患者の脱力発作や過度の眠気の治療薬、Xyrem(sodium oxybate)のナトリウム量を92%削減し、高血圧症や腎臓病、心不全などの患者の懸念を解消した製品。昨年、米国でXyremと同じ適応症・効能で承認された。特発性過眠症はXyremが承認されていない新用途。米国の顕在患者数は37000人とのこと。今年4月に適応拡大申請し、審査期限は8月12日。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


RNA介入薬を遺伝性ATTRアミロイドーシスに承認申請
(2021年4月19日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTRsc02(vutrisiran)を遺伝性ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン型家族性アミロイド症)のポリニューロパチー治療薬として米国で承認申請した。日本やブラジルでも申請する予定。EUは18ヶ月追跡データを取得後に申請する考え。

vutrisiranはトランスサイレチン(TTR)遺伝子を標的とするRNA介入薬。3ヶ月毎に25mgを皮注する。第3相試験では9ヶ月後のmNIS+7スコアが2.24ポイント低下(改善)した。対照群(同社の遺伝性ATTRアミロイドーシス治療薬Onpattro<patisiran>の第3相試験の偽薬群のデータを借用)の14.76ポイント上昇と比べて17.0ポイントの差があった(p<0.001)。Norforlk QoL-DNや10分歩行テストも有意な差があった。治療時発現有害事象は下痢、四肢痛、転倒、尿路感染症、注射箇所反応など。薬品関連深刻有害事象は異脂血症と尿路感染症が一例ずつあった(投与は122人)。二人が死亡したが薬物関連とは判定されなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、NMOSD治療薬などに肯定的意見
(2021年4月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ロシュが中外製薬からライセンスしたNMOSD治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Enspryng(satralizumab、和名エンスプリング)は抗IL-6受容体リサイクリング抗体。NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の患者の3分の2を占める、AQP4-IgG陽性型に用いる。投与方法は4週毎皮注で、自己注可能なNMOSD治療薬は初めて。日本では昨年6月、米国でも8月に承認されたが、CHMPは成人だけでなく12歳以上の青少年も適応に含めた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のEvkeeza(evinacumab)はホモ接合型高脂血症の治療薬。トリグリセリドやレムナントなどの代謝を阻害するアンギオポエチン様蛋白III型を標的とする抗体医薬で、スタチンなどによる治療を受けている患者に4週毎点滴静注するとLDL-C値が更に5割近く低下する。米国では今年2月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのLEO PharmaのAdtralza(tralokinumab)はケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジー(CAT)が創製した抗IL-13抗体。CATを買収したアストラゼネカから16年に皮膚学用途でライセンスした。全身性治療が適応になる成人の中重度アトピー性皮膚炎に用いる。米国でも審査中で5月頃に結果が出るのではないか。日本でも承認申請される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: LEO Pharmaのプレスリリース

アストラゼネカのKoselugo(selumetinib)は経口MEK1/2阻害剤。小児叢状神経線維腫病(PN)の2歳以上の小児患者における症候性、切除不能な神経線維腫1型(NF1)の治療に用いる。NCI(米国立がん研究所)が主導した第2相試験で50人中33人の腫瘍が20%以上縮小した。独立中央評価ベースのORR(客観的反応率)は44%だった。

03年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)からライセンス、MSDと共同開発している。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSの子会社となったセルジーンのOnureg(azacitidine)は、点滴静注用薬Vidaza(和名ビダーザ)の活性成分を経口投与できるようにしたフィルム・コート錠。急性骨髄性白血病で寛解導入療法に完全反応(CRiも可)し、HSCT(造血幹細胞移植)に不適/不希望の成人に維持療法として投与する。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を切除不能悪性胸膜中皮腫の成人の一次治療として併用することが支持された。臨床試験でメジアン生存期間が18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74だった。米国では昨年10月に承認、日本では先日、第2部会報告が行われた。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)を切除後アジュバントに用いることも支持された。EGFRにエクソン19の欠損やエクソン21のL858R置換を持つステージIBからIIIAの非小細胞性肺癌を完全切除した後に用いる。臨床試験では2年無病生存率が89%と偽薬群の53%を大きく上回った。米国では昨年12月に適応拡大。

リンク: EMAのプレスリリース

アッヴィがジェネンテックと共同開発し米国外では単独販売しているbcl-2阻害剤、Venclyxto(venetoclax、米国名Venclexta)を強力化学療法不適な新患急性骨髄性白血病の成人に低メチル化剤と併用する適応拡大も指示された。併用薬毎に複数の試験が行われ、結果は区々だったが、併用薬はazacitidineに限定されなかった。米国では昨年10月に加速承認から本承認に切り替えられた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認】


FDA、アルキル化薬のADCを承認
(2021年4月23日発表)

FDAは、ADC Therapeutics(NYSE:ADCT)のZynlonta(loncastuximab tesirine-lpyl)を再発難治性巨細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬用薬として加速承認した。抗CD19抗体とアルキル化剤を結合したADC(抗体薬物複合体)で、最初の二回は150mcg/kg、その後は75mcg/kgを3週毎に30分点滴静注する。145人を組入れた第2相試験でORRが48%、完全反応率は24%だった。浮腫・滲出や骨髄抑制、感染症、皮膚反応などが警告注意となっている。投与の前日から3日間、dexamethasoneを一日二回投与してプリメディケートする。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ADC Therapeuticsのプレスリリース

FDA、GSKの抗PD-1抗体を内膜腫に承認
(2021年4月22日発表)

FDAは、グラクソ・スミスクラインのJemperli(dostarlimab-gxly)を難治/進行内膜腫用薬として加速承認した。白金薬レジメンによる治療歴を持ちdMMR(ミスマッチ修復不全)陽性の癌が適応になる。

19年に買収したTesaro社がAnaptysBio社からライセンスして開発した抗PD-1抗体(IgG4型)。500mgを30分以上かけて3週毎に4回、点滴静注し、その後は1000mgを6週毎点滴静注する。臨床試験ではcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価、n=71)が42%で、完全反応率は13%。反応者の93%は6ヶ月以上持続した。深刻有害事象は敗血症、急性腎障害、尿路感染症、腹痛、発熱など。有害事象により被験者の5%が投与中止した。

抗PD-1抗体のトップブランドであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)もdMMR/MSI-Hの難治癌に承認されている。内膜腫の症例数は少ないがORRは36%だったので、優劣を論じるほどではなさそうだ。尚、難治/進行内膜腫ではKeytrudaとエーザイのLenvima(lenvatinib)の併用も承認されているが、dMMR/MSI-H陽性は適応外となっている。

内膜腫は多くの場合、早期発見・切除で治癒できる。dMMR陽性は細胞分裂時に起きがちな遺伝子複製ミスを修復するメカニズムが上手く機能せず、異常な蛋白ができやすいため、免疫療法に反応しやすい可能性がある。難治・進行内膜腫の25%がdMMRとされる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース





今週は以上です。

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