2021年5月15日

第999回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • BioNTech/ファイザ-のワクチンが12-15歳にもEUA 
  • その他の領域: 
  • キイトルーダのTNBCアジュバント試験がEFSも達成 
  • バイエル、finerenoneの二本目のアウトカム試験も成功 
  • X連鎖網膜色素変性症の遺伝子治療試験がフェール 
  • アムジェン/アストラゼネカ、抗TSLPを重度喘息症に承認申請 
  • C3補体阻害剤が夜間ヘモグロビン尿症に承認 


【COVID-19関連】


BioNTech/ファイザ-のワクチンが12-15歳にもEUA
(2021年5月10日発表)

FDAはBioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチンを12~15歳の青少年にもEUA(非常時使用認可)した。両社が共同開発したリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンは16~17歳が接種できる唯一のワクチンだったが、対象年齢が更に引き下がった。用量や接種間隔は16歳以上と同じ。

臨床試験では免疫原性が16歳以上の接種者と非劣性だった。偽薬群の978人は2ヶ月以上の追跡期間中に16人が感染したが、ワクチン群の1005人はゼロだった。副作用は16歳以上と同様で、二回目の接種後のほうが発現率が高いことも同様。

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン勧奨委員会)も接種を勧奨した。また、他のワクチンと合わせて接種することも容認した。COVID-19の流行が鎮静化するとインフルエンザが増えるかもしれないので、将来的には、高齢者がCOVID-19ブースター・ワクチンとインフルエンザ・ワクチンを一緒に接種することになる可能性もあるだろう。

米国では調剤薬局でワクチン接種を受けることも可能だが、青少年の接種が認められたことを受けて、大手チェーンが名乗りを上げ始めた。

リンク: FDAのプレスリリース


【新薬開発】


キイトルーダのTNBCアジュバント試験がEFSも達成
(2021年5月13日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKEYNOTE-522試験がもう一つの主目的も達成したと発表した。適応拡大申請が審査完了に終わったばかりだが、今度こそ承認されるだろう。

この試験はステージII/IIIの未治療TNBC(エストロゲン受容体もプロゲスチン受容体もher2も発現していない乳癌)の切除術付随療法における効用を検討した。術前のネオアジュバント療法として化学療法4剤のコースに加えて偽薬またはKeytrudaを3週毎に8回投与し、共同主評価項目の一つであるpCR(病理学的完全反応)を比較した。中間解析で成功、19年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると偽薬群は51.2%が達成したがKeytruda群は64.8%と有意に上回った。PD-L1陽性(CPS≧1)でも陰性でも上乗せがあった。尚、今年2月のFDA腫瘍学薬諮問委員会で明らかにされたアップデート値は群間差が7.5%に縮小した。

今回発表されたのは、切除術後に偽薬またはKeytrudaを3週毎に最大9回投与するアジュバント療法も行った上で、EFS(イベント・フリー生存)を比較した結果。数値は未公表。19年のESMOで発表された中間解析結果はハザードレシオ0.63、2月の諮問委員会公表データでも0.65、p=0.0025と好ましい方向を指し示していたが、多重性を回避するため成功認定の閾値が低く設定されている(後者の解析に割り当てられたアルファは0.0021)こともあり、有意ではなかった。

MSDはpCRデータに基づいて適応拡大を加速承認するよう求めたが、FDAは申請前からpCRだけに基づく承認に懐疑的、諮問委員会も10人全員が反対で、結局、今年3月に審査完了通知を受領した。

リンク: MSDのプレスリリース



バイエル、finerenoneの二本目のアウトカム試験も成功
(2021年5月10日発表)

バイエルは、BAY 94-8862(finerenone)のFIGARO-DKD試験が主目的を達成したと発表した。二型糖尿病と慢性腎臓疾患を併発する患者7400人を組入れて心血管アウトカムを偽薬と比較した第3相試験で、データは未発表。

非ステロイド系のミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)で、10mgまたは20mgを一日一回、経口投与する。昨年、最初の第3相アウトカム試験であるFIDELIO-DKD試験が成功、二型糖尿病と慢性腎臓疾患を併発する患者の腎臓アウトカムを偽薬比改善した(腎不全、eGFR40%以上悪化、または腎臓疾患死のハザードレシオが0.82、p=0.0014)。副次的評価項目の心血管アウトカムも改善した(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全入院のハザードレシオ0.86、p=0.0339)。このデータに基づき欧米で承認審査中。

今回の試験はFIDELIO-DKD試験より組入れ条件が緩く、より早期あるいはより進行した患者も組入れて、心血管アウトカムを主評価項目とした。ハザードレシオが0.8を下回っていれば説得力が増すのだが、どうだろうか。

MRAはアルドステロンが受容体に結合して血中ナトリウムが上昇、カリウムが低下し、血圧上昇につながるのを妨げる。Aldactone(spironolactone)やInspra(eplerenone、和名セララ)が先輩だが、バイエルは高血圧症や心不全ではなく二型糖尿病の腎症を最初の適応症として狙っている。先輩二剤は高カリウム血症のリスクがあり、Inspraは血清カリウムが5.5 mEq/L以上の患者は禁忌となっている。finerenoneはリスクが小さいことが期待されたが、上記第3相二本では血清カリウムが4.8 mmol/L以下(つまり4.8 mEq/L以下)であることを組入れ条件にしており、それほど変わらないのではないかと思われる。FIDELIO-DKD試験では深刻な高カリウム血症の発現率が1.6%だった(偽薬群は0.4%)。

spironolactoneは心不全の治療に充てたRALES試験の結果がNew England Journal of Medicines誌に刊行され、米国で広くオフレーベル使用されるようになったが、高カリウム血症による入院が増加する意外な結果になった。研究者主導試験であったせいか、RALES試験の除外条件が周知徹底されず、高リスク患者にも使用されてしまったからだ。

第3相試験で除外条件であったとしても、薬物動態試験を別途実施して効果や安全性を確認し、例えば中程度腎機能低下も含めた形で承認を取得する場合もある。このため一概には言えないが、それでも、spironolactoneという失敗例があったのだから、finerenoneの試験の組入れ条件に付いて言及しておいた。

finerenoneは慢性心不全にも第3相アウトカム試験が進行中。

リンク: バイエルのプレスリリース



X連鎖網膜色素変性症の遺伝子治療試験がフェール
(2021年5月14日発表)

バイオジェンは、BIIB112(cotoretigene toliparvovec)の第2/3相XIRIUS試験が主目的を達成できなかったと発表した。副次的評価項目の幾つかでは好ましい傾向が見られた由で、詳細分析を検討してから今後の方針を決定する考え。

オックスフォード大学のスピンアウトであるNightstar Therapeuticsを19年に8億ドルで買収して入手したパイプラインで、アデノ随伴ウイルス8をベクターとして網膜下にRPGR(網膜色素変性症GTPase調節因子)遺伝子を導入する。X連鎖網膜色素変性症(XLRP)という希少遺伝子疾患のうち、RPGR遺伝子に変異があり光受容体の蛋白移送が活発に行われずに視力低下が進行していく患者の用いる。

この試験ではMacular Integrity Assessment(MAIA)微小視野計を用いて光感受性改善奏効率を治療しなかった反対側の眼と比較したが、フェールした。事前に設定された副次的評価項目のうち薄暗い場所での視力など幾つかでポジティブなトレンドが見られた由。

XLRPのアデノ随伴ウイルス療法はジョンソン・エンド・ジョンソンも19年にMeiraGTx(Nasdaq:MGTX)の開発品をライセンスした。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


アムジェン/アストラゼネカ、抗TSLP抗体を重度喘息症に承認申請
(2021年9月10日発表)

アムジェンとアストラゼネカは、AMG 157/MEDI9929(tezepelumab)を重度喘息症の維持療法薬としてFDAに承認申請した。TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子 )に結合する抗体で、中高用量の吸入コルチコステロイドを含む2剤以上を使っても増悪を十分に防げない管理不良患者を組入れたNAVIGATOR試験で、喘息増悪を偽薬比56%抑制した。

承認後のライバルになりうるリジェネロン/サノフィの抗IL-4受容体アルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)と比べた長所は、血中好酸球数が増多していない(300個/mcl未満)患者にも有効であること。上記試験のサブグループ分析(被験者の半分が該当)では増悪を41%抑制した。増多型サブグループでは70%でDupixentの試験の66-67%と大差ない。

両社は好酸球増多かつFeNO(呼吸器中一酸化窒素濃度)が25ppb以上の、プロトコルで事前に設定していたサブグループの探索的解析で、77%という高い抑制効果を示したことに言及している。承認後はこの患者層と好酸球増多していない患者に重点を置いたマーケティングを行う意図かもしれない。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【承認】


C3補体阻害剤が夜間ヘモグロビン尿症に承認
(2021年5月14日発表)

FDAはApellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)のEmpaveli(pegcetacoplan、通称APL-2)を成人のPNH(夜間ヘモグロビン尿症)の治療薬として承認した。

PNHは遺伝子変異の影響で欠陥のある赤血球が生成され、免疫により破壊されるため、貧血症を発症する。代表的な治療薬であるアレクシオン・ファーマシューティカルズ(アストラゼネカが買収で合意)の抗C5抗体Soliris(eculizumab、和名ソリリス)や長期作用性のUltomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)との違いは、第一に、補体カスケードの中でC5より上流で関与するC3やC3bに結合する合成環状ペプチドであること。第二に、点滴静注ではなく皮下に自己注できること。

第3相PEGASUS試験では、Solirisによる3ヶ月以上の治療歴を持ちヘモグロビン値が10.5 g/dL以下に留まっている(≒十分に治療効果が出ていない)患者を組入れて、ランインとしてEmpaveli(1080mg)を週二回、4週間に亘って追加投与した上で、Empaveliを止めるSoliris群とSolirisを止めるEmpaveli群に無作為化割付をして16週間治療し、ヘモグロビン値の変化を比較した。

結果は、Soliris群がベースライン値の8.7 g/dLから1.5 g/dL低下したのに対してEmpaveli群は2.4 g/dL上昇し、有意な差が生じた。副次的評価項目は非劣性解析だが輸血回避率は15%対85%と数値上は大きな差が出た。深刻有害事象発生率は各群15.4%対17.1%で若干増えた程度。

Empaveliは髄膜炎菌や莢膜多糖体を持つ肺炎球菌などによる深刻な感染症のリスクやワクチンに関する接種推奨を励行するよう枠付警告された。抗C5抗体と同じだ。REMS(リスク評価緩和戦略)に基づく処方販売制限が導入される。

欧州でも承認申請中。また、Solirisと同様に、補体系がかかわる様々な疾患にも適応拡大試験中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Apellis社のプレスリリース




今週は以上です。

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