2021年4月30日

第997回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • RSV予防用抗体の第3相が成功 
  • 武田、EGFRエクソン20挿入変異阻害剤が優先審査に 
  • 大日本住友の子会社、先天性無胸腺症用薬を再承認申請 
  • バルドキソロンメチルの承認申請は標準審査に 
  • Axsome社、既存薬の配合剤を鬱病に承認申請 
  • 加速承認を巡る諮問委員会の結果 
  • アトピー治療用の抗IL-13抗体は審査完了 
  • Tysabriの皮注用新製剤は審査完了 
  • Protalix、FDAが工場査察できずに承認遅延 


【新薬開発】


RSV予防用抗体の第3相が成功
(2021年4月26日発表)

アストラゼネカと共同開発パートナーのサノフィは、MEDI8897(nirsevimab)の第3相RSウイルス感染予防試験が成功したと発表した。下期には早産児や慢性肺疾患・鬱血心臓疾患を持つ幼児の第3相の結果も出る予定。2022年に承認申請を行う考え。

RSウイルスは0~1歳の幼児の多くが感染し、多くは症状が軽微だが、早産児や慢性肺疾患・鬱血性心臓疾患を持つ幼児は重症化リスクがあるため、アストラゼネカの子会社であるメディミューンが開発したSynagis(palivizumab、和名シナジス)による予防が行われる。nirsevimabはRSVのF蛋白の、Synagisとは異なった部位に結合する抗体で、固定領域のアミノ酸3個を置換することによって半減期を長期化。Synagisは感染リスクのある冬の間、月一回筋注するが、nirsevimabは一回で足りる。

今回のMELODY試験は在胎35週以上の健康な1歳未満の幼児3000人を試験薬群(体重5kg未満は50mg、以上は100mg)と偽薬群に無作為化2対1割付して、RSV感染による下部気道感染症の治療を受けるリスクを150日間、観察した。当初は23年に開票する見込みだったが、COVID-19の余波でRSV感染症例が減少したため前倒して1500例の薬効解析を行ったところ、成功した。

安全性面では臨床的に重要な偽薬群との差異は見られなかった由。

Synagisの承認用途である在胎35週以下の早産児と慢性肺疾患・鬱血性心臓疾患を組入れて両剤の安全性を比較する第2/3相MEDLEY試験も今年後半に前倒し解析を行う予定。

順調に進めばnirsevimabはSynargisより多くの幼児が適応になる。0~1歳児すべてに使われるようにはならないだろうが、上記以外のリスク因子を持つ幼児に普及していくのではないか。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


武田、EGFRエクソン20挿入変異阻害剤が優先審査に
(2021年4月28日発表)

武田薬品はFDAがTAK-788(mobocertinib)を優先審査指定したと発表した。審査期限は10月26日。

TAK-788はEGFRやher2のエクソン20挿入変異を阻害する小分子薬。昨年4月に二次治療でブレークスルー・セラピー指定を受けている。転移性非小細胞性肺癌の1-2%を占める、EGFRエクソン20挿入変異型の成人に用いることが予定されている。第1/2相試験でORR(客観的反応率)が治験医評価では35%、独立データ評価委員会査読では28%だった。反応持続期間のメジアン値は17.5ヶ月だった。

EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌にはEGFR阻害剤が有効だが、エクソン20挿入変異型の治療オプションはTAK-788が初になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)



大日本住友の子会社、先天性無胸腺症用薬を再承認申請
(2021年4月27日発表)

大日本住友製薬が19年に子会社化した"VANT"5社の一つであるEnzyvant Therapeuticsは、RVT-802を小児先天性無胸腺症の治療薬としてFDAに再承認申請したと発表した。審査期限は10月8日。

この疾患は乳児30万人に一人の超希少疾患で、治療しないと2年以内に感染症で死亡する危険がある。RVT-802はデューク大学の研究者が心臓手術を受ける幼児の胸腺細胞をもとに培養した再生医療用製品で、臨床試験では2年生存率(カプラン・メイヤー推定、n=85)が75%だった。主な有害事象は血小板減少症や好中球減少症、発熱、蛋白尿など。

19年に承認申請し優先審査を受けたが、同年12月に審査完了通知を受領した。細胞療法に関して最近、しばしば聞く、生産プロセスや工場査察時の所見などがボトルネックになったようだ。

再申請まで1年以上かかったが、FDAに指摘された事項を解消するために設備新設など時間をかけて対応した結果であるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)



バルドキソロンメチルの承認申請は標準審査に
(2021年4月26日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)は、RTA 402(bardoxolone methyl)をAlport症候群による慢性腎疾患の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年2月25日。Alport症候群の初めての治療薬だが標準審査になった。FDAは諮問委員会招集も考えている由。

RTA 402はNF-kappaBやSTATの分泌を抑制する作用がある。Alport症候群における効能はeGFRの改善だが、この指標は当初は改善しても次第に疲弊して腎機能低下を加速してしまう可能性も考えられる。日本ではライセンシーの協和発酵キリンが二型糖尿病の慢性腎疾患治療薬として第3相試験を行っているが、主評価項目(eGFRの3割以上の低下または末期腎臓疾患発症)の追跡期間は2~3年が想定されている。

FDAが優先審査指定せず、諮問委員会建議を想定しているのは、おそらく、eGFR改善の持続性懸念が理由だろう。

リンク: Reataのプレスリリース



Axsome社、既存薬の配合剤を鬱病に承認申請
(2021年4月26日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、AXS-05を大鬱病の治療薬として承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月22日。

鎮咳去痰薬として用いられているNMDA受容体アンタゴニストのdextromethorphanを45mg、鬱病や薬物依存の治療に用いられているノルエピネフィリン/ドパミン再取込阻害剤のbupropionを150mg配合した調整供給錠で、後者は2D6を阻害して前者の生物学的利用率を向上する作用も持っている。

米国で327人を組入れて6週間治療した第3相試験では、MADRS(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)がベースラインの33余から16.6低下、偽薬群は11.9の低下に留まり、統計的に有意な差があった。寛解率も39.5%で偽薬群の17.3%を上回った。有害事象による治験離脱率は6.2%(偽薬群0.6%)。

気になるのは、第3相難治性鬱病試験がフェールし、bupropion比有意な治療効果が見られなかったこと。鬱病の治療は第1選択薬を試し、結果が思わしくなければ第2選択、それでもパッとしなかったら第3選択と進むので、新薬の出番はよほど効果が高くない限り難治性患者が中心になる。鬱病の試験は承認されている薬でもしばしばフェールするので後期第2相を含めて2勝1敗なら立派な方だが、成功するなら難治患者試験が成功してほしかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


加速承認を巡る諮問委員会の結果
(2021年月日発表)

FDAは4月27日から29日にかけて腫瘍学諮問委員会を開催し、加速承認後の薬効確認試験がフェールした3剤の4適応症について、承認を取消すべきか、別の試験の結果が出るまで維持すべきか、意見を聞いた。

加速承認制度は、深刻で適切な治療法がない疾患に用いる薬を反応率などのサロゲートマーカーに基づいて承認するもの。別途、第3相対照試験を行って延命効果またはそれに準ずる効果を確認する必要がある。今回俎上に挙がったのは全て抗PD-1/PD-L1抗体だが、加速承認151件のうち35件が抗PD-1/PD-L1抗体なので、矢が的を外す数が多くても不思議はない。競争の激しさの現れなのだろうが、抗PD-1/PD-L1抗体の承認の半分は加速承認とのことだ。

4月27日には、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を検討した。19年にPD-L1陽性(IC≧1%)の切除不能局所進行性/転移性トリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)にnab-paclitaxelと併用することが加速承認された。第3相のIMpassion130試験でPFSのnab-paclitaxl比ハザードレシオが0.60と良好だったことが根拠だが、メジアン値は7.4ヶ月対4.8ヶ月でFDAは差が十分に大きいとは認識していなかった。加速承認後に全生存期間の結果が判明したが、プロトコルに則りPD-L1陽性ではない患者も解析対象としていたせいか、ハザードレシオ0.87でフェールした。尤も、統計学的には正しくない検定ではあるが、IC≧1%の患者だけのサブグループ分析はハザードレシオ0.67、メジアン値は25.4ヶ月対17.9ヶ月で7ヶ月の差、と悪くはなかった。

フェーズIVコミットメント試験であるIMpassion131(paclitaxelアドオン)試験の結果が待望されたが、Tecentriq併用群のメジアンPFSは5.95ヶ月と非併用群の5.72ヶ月と大差なかった。全生存期間の解析は検出力不足で信頼性が高くないが、メジアン22.1ヶ月対28.3ヶ月、ハザードレシオ1.11と、寿命を縮める可能性が示唆された。

諮問委員会は9人中7人が別の試験の結果が出るまで承認を維持(言い方を変えると結論を先送り)すべきと判定した。候補となるのはIMpassion131試験で、早期TNBCの治療後1年未満で再発した切除不能局所進行性/転移性癌を組入れてcarboplatinベース2剤併用レジメンに偽薬またはTecentriqを追加して全生存期間を比較する試験で、23年1月頃に開票の見込みだ。

FDAは諮問委員会資料の中で、市販後薬効確認試験の代替的な候補として131試験は許容可能と述べている。諮問委員会の過半の支持を得られたので、おそらく、この試験の結果が出るまで加速承認を維持するのではないか。

尚、PD-L1陽性TNBCは欧州や日本でも19年に承認されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

4月28日は、MSDのKeytruda(pembrolizumab、キイトルーダ)とTecentriqの尿路上皮腫一次治療に関して検討した。一番良く分からないテーマで、欧米で承認後に薬効確認試験で寿命が化学療法より短いことが判明したため、白金薬全てに不適な患者、またはcisplatin不適でPD-L1陽性の患者だけに適応縮小された。だが、このサブポピュレーションに関するエビデンスの質は高くなく、また、他の試験で2~3年内に代替的なエビデンスを取得できそうなものはない。

今回のアジェンダは一次治療だが、二次治療は上記二剤の明暗が分かれており、Keytrudaは本承認されているが、Tecentriqは市販後薬効確認試験がフェールし、ロシュは今年3月、FDAに背中を押されて自主的に承認を撤回した。似たような薬なのになぜ結果が違うのか、これまた良く分からない。

諮問委員会の意見が注目されたが、結局、二剤とも結論先送りが多数意見だった。

Keytrudaは7人中5人が加速承認の維持に賛成。進行中の第3相で薬効確認試験になりうるものは二本あるが、結果が出るのは25年と27年なので、それまでは患者は本当に効くのか自信を持てないまま治療を受けることになる。

以下は私見だが、市販後薬効確認試験であるKeyNote-361試験は一次治療化学療法併用試験で、共同主評価項目の全生存期間もPFSもフェールしたが、敗因は、中間解析も含めて多くの解析を行う見返りに個々の解析の成功認定の閾値が低く設定されたことではないだろうか。最終解析に割り当てられたp値のアルファは全生存期間が片側0.0019、PFSは同0.0142だった。

尤も、PD-L1陽性(CPS≧10)のサブポピュレーションにおける全生存期間の解析は、上位解析がフェールしたため探索的解析という位置付けになってしまったが、偽薬比ハザードレシオ1.01、メジアン生存期間の差は1ヶ月未満と、効果に自信が持てる内容ではなかった。

Tecentriqは上記の二次治療試験のほかに筋層非浸潤膀胱癌の試験もKeytrudaは成功、Tecentriqはフェールと対照的な結果になっており、心許ない状況だったが、11人の委員のうち10人が加速承認維持に賛成した。

IMvigor130試験(一次治療化学療法併用試験)の全生存期間の最終解析結果が出るのを待つことになる。この試験は共同主評価項目の一つであるPFSが成功したが偽薬比ハザードレシオは0.82、メジアン値の差は2ヶ月足らずと、それほど良くはなかった。全生存期間の中間解析のハザードレシオも0.83、メジアン値は16.0ヶ月と化学療法・偽薬併用群の13.4ヶ月を上回り、方向性は良好だが治療効果が十分かどうかは議論の余地があるだろう。もし最終解析がフェールしたら改めて加速承認取消を検討せざるを得なくなるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

4月29日は二剤の三適応症について検討した。まず、KeytrudaのPD-L1陽性(CPS≧1)、難治局所進行性/転移性の胃・胃食道接合部腺腫の三次治療。17年に第2相試験のORRデータに基づいて加速承認されたが、市販後薬効確認を兼ねた二次治療試験で全生存期間がpaclitaxelを有意に上回らなかった(ハザードレシオ0.82、メジアン9.1ヶ月対8.3ヶ月)。効果が同程度と受け止めたとしても、対照薬は今日ならpaclitaxelとCyramza(ramucirumab)の併用のほうが好ましいので、物足りない。

Keytrudaは一次治療試験でモノセラピーの全生存期間が5-FUとcisplatinを併用した対照群比で非劣性だったが、FDAは、MSDが設定した非劣性マージンが甘い点や、解析手法の前提であるハザード定常性が見られなかったことから、エビデンスが十分ではないと論じた。

Opdivoが一次治療化学療法併用に本承認されたことも影を落としているようだ。抗PD-1抗体が一次治療に使われるようになれば、二次治療、三次治療に別の抗PD-1抗体を使う効果が低減する可能性があるが、現時点では懸念を否定できるエビデンスがない。

結局、8人の諮問委員のうち6人が加速承認を維持すべきではないと判定した。一次治療、二次治療には無益であっても、確立した治療法がない三次治療なら、エビデンスが不十分でも許容できるのではないかと思われるが、予想外に厳しかった。

尚、KeytrudaはMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)腫瘍に加速承認されていて、このタイプの胃癌は今回の適応再検討の対象外である。

次に、KeytrudaとOpdivoの、sorafenib歴を持つ肝細胞腫。ORRに基づき加速承認されたが、Keytrudaは偽薬対照二次治療試験がフェール、Opdivoは一次治療sorafenib併用試験がフェールした。前者のフェールのほうが決定的であるように感じられるが、諮問委員会の判定は逆で、Keytrudaは8人全員が加速承認維持を支持、Opdivoは5人対4人で反対のほうが一人だけ多かった。

keytrudaは加速承認と同じ患者層を組入れたアジア試験の結果が6~7月にも判明する見込みなので、それまで待つ趣旨と推測される。Opdivoは、昨年加速承認されたYervoy併用のほうがORRが高いことなどが響いたようだ。

これらの検討結果を総括するのは難しい。セーフとアウトの境界線、判定基準がテーマ毎に区々であるように感じられるからだ。FDAの審査担当者側は取消に傾いているようなので、諮問委員会が加速承認維持に疑問を呈した二件については取消のリスクが比較的高いと推測されるが、維持が支持された医薬品・用途も取消のリスクゼロとは言えないだろう。

リンク: BMSのプレスリリース



アトピー治療用の抗IL-13抗体は審査完了
(2021年4月29日発表)

デンマークのLEO Pharmaは、Adtralza(tralokinumab)を中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として欧米で承認申請し、EUでは先週、CHMPの肯定的意見を得たが、米国は審査完了通知を受領した。ディバイスに関する追加データが必要のようだ。

抗IL-13抗体で2週毎または4週毎に皮注する。日本でも承認申請される見込み。

リンク: 同社のプレスリリース



Tysabriの皮注用新製剤は審査完了
(2021年4月28日発表)

バイオジェンはTysabri(natalizumab)の皮注用新製剤を欧米で承認申請し、EUでは今月、承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。理由は不明。

Tysabriはアルファ4インテグリンに結合する抗体医薬。点滴用が04年に米国で再発型多発硬化症の維持療法薬として承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



Protalix、FDAが工場査察できずに承認遅延
(2021年4月28日発表)

Protalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX、TASE:PLX)はPRX-102(pegunigalsidase alfa)を成人のファブリー病治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは新薬承認前に生産体制の査察を行うが、出張規制によりイスラエル工場の査察やその後のフォローアップができないでいることが主因のようだ。代替策を検討することになる。

スポーツ選手や政治家は世界を駆け巡っているのに、一般人は『来ないでください、行かないでください』と言われてしまうのは不条理だ。

PRX-102はファブリー病で欠如している酵素の補充療法で、植物細胞で培養する点が特徴。Protalixが生産し、開発販売はChiesiが担当する。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 同社の続報





今週は以上です。

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