2019年5月26日

2019年5月26日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティスのトリプルセラピーも第二相でアドエアを上回る 
  • Array社、BRAF変異大腸癌の第三相が成功 
  • MSD、キイトルーダは乳癌試験がフェール 
  • FDA、SMAの遺伝子療法を承認 
  • FDA、ノバルティスのPI3K阻害剤を承認 
  • FDA、ジャカビをGvHDに適応拡大 


【新薬開発】


ノバルティスのトリプルセラピーも第二相でアドエアを上回る
(2019年3月22日発表)

ノバルティスはQVM149の第二相喘息維持療法試験の結果をATS(米国胸部学会)で発表した。

LABA(長時間作用性ベータ2作用剤)のindacaterolとLAMA(長時間作用性ムスカリン拮抗剤)のglycopyrronium bromide、そしてICS(吸入コルチコステロイド)のmometasone furoateの吸入用固定用量合剤であるQVM149のFEV1(一秒量)改善効果を、LABAのsalmeterolとICSのfluticasone propionateの併用(グラクソ・スミスクラインのAdvairの配合活性成分)を比較したところ、有意に上回った。

具体的には、高用量群(各150/50/160 mcg配合)はsalmeterol 50 mcgとfluticasone propionate(500mcg、高用量)より172 mL大きかった。低用量群(150/50/80 mcg)も159 mL上回った。尚、QVM149は一日一回吸入、対照薬は一日二回吸入する。

LAMAはCOPD維持療法薬として第一選択になり、喘息症でも管理不良患者に追加する薬として使われるようになってきた。LABAとICSを併用しても喘息発作を十分に防げない場合は、QVM149のようなトリプルセラピーにステップアップを検討することになるが、LAMAを追加しても効果が高まらないのでは意味がない。今回の第二相試験の成功は、5月5日号で取り上げたグラクソ・スミスクラインのTrelegyをBreoと比較した第三相試験と同様に、成功して当たり前、成功しなかったら衝撃が走る。

QVM149のLAMAはArakis社(05年8月に日本のそーせいが買収)がVectura社と共同開発した製剤を05年4月にライセンスしたもの。ICSは06年にシェリング・プラウと開始した喘息症用合剤開発プロジェクトの対象であったAsmanex(和名アズマネックス)の権利を09年に単独開発に切り替えたもの。

どちらも10年以上前の話で、ノバルティスの現在の経営陣は戦略的重点開発品とは考えていないように感じられる。例えば、上記LAMAだけを配合するSeebri(和名シーブリ)は米国販売権を大日本住友製薬の米国法人に譲渡してしまった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: 海外医薬ニュース2019年5月5日号(『GSKのテリルジー、レルベアより効果が些か高い』収載)

Array社、BRAF変異大腸癌の第三相が成功
(2019年5月21日発表)

Array BioPharma(Nasdaq:ARRY)は、第三相BEACON CRC試験の中間解析が成功したと発表した。BRAF-V600変異を持つ転移性結腸直腸癌の二次/三次治療における三剤併用レジメンの効果をcetuximab(抗EGFR抗体)とirinotecanを併用する標準療法と比較したもので、ORR(客観的反応率)も全生存期間も有意に上回った。

このレジメンは、BRAF-V600E変異を持つ切除不能/転移性黒色腫用薬として日米欧で承認されているBRAF阻害剤Braftovi(encorafenib)とMEK阻害剤Mektovi(binimetinib、和名メクトビ)をcetuximabと併用するもの。ORR(独立パネルが盲検で査読、最初の331人の患者が対象)は26.1%と、標準療法群の1.9%を上回った。メジアン生存期間(全665人が対象)は各9.0ヶ月と5.4ヶ月でハザードレシオは0.52だった。

二次的評価項目の一つである、Braftovi・cetuximab併用群と標準療法群の比較は、ORRが20.4%対1.9%、メジアン生存期間は8.4ヶ月対5.4ヶ月、ハザードレシオは0.60だった。公式の解析ではないが、トリプレットとダブレットの比較はORRも全生存期間もトレンドに留まった。このため、三剤併用がマストなのか、二剤で足りるのか、一抹の疑念が残る。

BRAF変異は悪性黒色腫の5割で見られるが、結腸直腸癌では10-15%に留まる模様。600番目のコドンがV(バリン)ではなくE(グルタミン酸)に置換されているV600E変異が最も多く、今回のデータを見てもわかるように、既存薬応答性やメジアン生存期間があまりよくない。

Arrayは今年後半に適応拡大申請する考え。日本では小野薬品が開発し今年1月にBRAF-V600変異型切除不能悪性黒色腫用薬として承認された。今回の用途でも追加申請されるのではないか。

リンク: Array社のプレスリリース

MSD、キイトルーダは乳癌試験がフェール
(2019年5月20日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の第三相KEYNOTE-119試験のフェールを発表した。転移性トリプルネガティブ乳癌の二次/三次治療における効果を化学療法(capecitabine、eribulin、gemcitabine、vinorelbineから担当医が選択)と比較したが、延命効果が有意に上回らなかった。

転移性乳癌はエストロゲン受容体やプロゲスチン受容体、her2の発現状況に応じて治療薬を選択する。トリプルネガティブ乳癌は何れも陰性で薬の選択肢が少なく、予後も比較的よくない。抗PD-1/PD-L1抗体の適応拡大試験も進められているが、適応拡大に成功したのはロシュのTecentriq(atezolizumab)だけである。

今回の試験とTecentriqの適応拡大試験のデザインを比較すると、まずTecentriqは一次治療で、nab-paclitaxelと併用した。偽薬対照試験なのでハードルは低い。PFS(無進行生存期間)に基づく加速承認なので、将来、全生存の解析がフェールし承認取消の可能性も残っている。

MSDは一次治療三剤併用試験も行っているので、結果が注目される。

もう一つの違いは、PD-L1によるスクリーニングの有無。抗PD-1/PD-L1抗体はバイオマーカーによる応答性予測方法も探索されていて、幾つかの癌種ではPD-L1陽性だけが適応になるが、MSDの今回の試験では不問だった模様。

一方、Tecentriqが適応となるのは、腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現検査で陽性だった患者。これまでのPD-L1に基づくスクリーニング方法は、Opdivoは腫瘍における発現状況、Tecentriqは腫瘍と腫瘍浸潤免疫細胞の両方における発現状況、Keytrudaは適応に応じて区々となっており、腫瘍浸潤免疫細胞だけは初めてた。119試験でも発現データを集めているはずなので、サブグループ分析がどのような結果になるか、注目される。

119試験のバイオマーカー・サブグループ分析と、一次治療試験の成否、そしてTecentriqの全生存解析結果が出揃った段階で両剤の違いを改めて検討することになりそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


FDA、SMAの遺伝子療法を承認
(2019年5月24日発表)

FDAは、ノバルティスの子会社であるAveXis社のZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)を脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬として承認した。SMA1遺伝子の両アレル変異を持つ2歳未満の患者が適応になる。早期介入を可能にする意図か、症候性に限定しなかった。希少小児疾患用薬なので優先審査バウチャーが供与される。日欧でも承認申請中。

SMAは、脊髄神経細胞が必要とするSurvival Motor Neuron蛋白の遺伝子、SMN1の欠損が原因であることが多い。キャリアは50人に一人と多いが、発症するのは両親から欠損を引き継いだ両アレル変異のみ。

ZolgensmaはSMN1の遺伝子を遺伝子組換え型9型アデノ随伴ウイルス(AAV9)で導入する遺伝子療法。アデノ随伴ウイルスは抗体を持つ人が多いが、臨床試験に登録した5歳以下の患者でAAV9抗体を保有するため除外されたのは177人中9人、5%だけだった。

承認の根拠となった試験では乳児発症型(I型)に投与したところ、自然歴と比べて生存期間や運動機能が良好だった。急性で深刻な肝障害が枠付警告。事前に検査を行う必要がある。一部のワクチンは禁忌。

WAC(卸取得価格)は212万5000ドルと甚だ高価だが、バイオジェンのSMA用薬、Spinraza(nusinersen)と異なり反復投与ではないので、、Spinrazaの5年分の薬剤費と同程度である。最終的にどちらが割安かはZolgensmaの治療効果がどの程度持続するかに依存するので、不透明なところがある。

AveXisは、薬剤費を5年分割払いにして、効果が低下したり重い副作用が発生した場合は事後の支払いを減免するようなスキームを検討する考え。公的医療制度の様々な値引き規制に反しないよう配慮する必要がある。

高価といっても世界で数千人の希少疾患なので、総額は、例えば高血圧や糖尿病の治療薬よりはるかに小さい。類薬がGE化したのにブランド薬を使い続けるような反合理的な慣習を排するような工夫で吸収できる範囲だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: AveXisのプレスリリース

FDA、ノバルティスのPI3K阻害剤を承認
(2019年5月24日発表)

FDAは、ノバルティスのPiqray(alpelisib)を末期・転移乳癌用薬として承認した。ホルモン受容体陽性でher2は陰性、そしてPI3KCA変異があり、内分泌療法歴を持つ、閉経後女性または男性が適応になる。fulvestrantと併用する。

RTOR(リアル・タイム・オンコロジー・リビュー)プロジェクトの対象で、新薬の承認につながったのは初。PI3K(phosphatidylinositol-3-kinase)阻害剤の承認も初。QIAGEN(NYSE:QGEN)のPIK3CA PCRキットがコンパニオン診断薬として同時承認された。

PI3Kの活性化変異であるPIK3CA変異は、ホルモン受容体陽性末期乳癌の4割程度で見られ、悪性度が高い傾向がある。PiqrayはPI3Kアルファを特定的に阻害するのが特徴。

臨床試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が11ヶ月と偽薬群の5.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65だった。重要な有害事象は、過敏反応、皮膚毒性、高血圧、肺臓炎/間質性肺疾患、下痢、胚胎毒性など。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、ジャカビをGvHDに適応拡大
(2019年5月24日発表)

FDAは、インサイト(Nasdaq:INCY)のJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド難治性急性GvHD(移植片対宿主病)の治療に用いる適応拡大を承認した。臨床試験では、グレード2の患者に対する28日奏効率が100%、グレード3や4は40-50%だった。メジアン反応持続期間は、第28日から起算して16日間だった。

Jakafiは経口JAK1/2阻害剤。インサイトが開発、骨髄線維症などの治療に用いられている。米国外はノバルティスが開発販売。

リンク: FDAのプレスリリース


今週は以上です。

2019年5月19日

2019年5月19日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ファイザー、JAK1阻害剤のアトピー性皮膚炎試験が成功 
  • 武田のレルミナ、海外試験も成功 
  • アッヴィのADC、脳腫瘍試験が無益中止に 
  • FDA諮問委員会が第一三共の抗腫瘍薬二剤を検討 
  • ロシュ/アッヴィ、Venclextaが一次治療に適応拡大 
  • バベンチオが腎細胞腫に適応拡大 
  • イーライリリーのサイラムザ、肝臓癌に適応拡大 
  • アイリーアを早期段階の糖尿病網膜症に用いることが承認 
  • EMA、ゼルヤンツの高用量について警告強化 


【新薬開発】


ファイザー、JAK1阻害剤のアトピー性皮膚炎試験が成功
(2019年5月15日発表)

ファイザーは、PF-04965842(abrocitinib)の第三相中重度アトピー性皮膚炎治療試験が成功したと発表した。12歳以上の患者に100mgまたは200mgを12週間に亘って一日一回経口投与したところ、両用量とも、共同主評価項目であるIGA(担当医総合評価)ベースとEASIベースの奏効率が偽薬群を有意に上回った。有害事象による治験離脱率は両用量群とも5.8%、偽薬群は9.1%だった。

PF-04965842はJAK1阻害剤。インターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達を阻害することにより、IL-4、IL-13、IL-31、ガンマ・インターフェロンなどのアトピー性皮膚炎に係る様々な炎症性サイトカインを抑制する。

免疫抑制剤によるアトピー性皮膚炎の治療というと、tacrolimusやpimecrolimusを思い出す。また、同社のJAK1/3阻害剤で抗リウマチ薬として承認されているXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)は承認されている用量の倍を投与した試験で心血管疾患リスクが見られた(後記参照)。

ファイザーは今回のB7451012試験のほかにも複数の第三相を行っているので、稀だが深刻な副作用に関する分析も可能になるだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

武田のレルミナ、海外試験も成功
(2019年5月14日発表)

スイス籍の新薬開発ベンチャーであるMyovant Sciences(NYSE:MYOV)は、MVT-602(relugolix)の第三相子宮筋腫治療試験が成功したと発表した。estradiolとnorethindrone acetateをベースとするレジメンに偽薬またはrelugolixを24週間、追加投与したところ、奏効率が各群18.9%と73.4%となり、統計的に有意な差があった。QOLも改善した。有害事象やそれによる離脱の発生率、そしてBMD値の変化も、大きな群間差はなかったとのこと。

もう一本の第三相の結果は今年第3四半期(7-9月)に判明する見込み。成功なら第4四半期に承認申請する考え。

MVT-602は経口ゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗剤。日本の第三相が一足先に成功、今年1月にレルミナ錠として承認された。婦人科用途での販売はあすか製薬が行う。Myovantはソフトバンクのベンチャーキャピタルなどが出資するRoivant社のグループ会社で、アジアの一部地域以外での権利を持っている。

リンク: Myovantのプレスリリース

アッヴィのADC、脳腫瘍試験が無益中止に
(2019年5月17日発表)

アッヴィは、ABT-414(depatuxizumab mafodotin、通称Depatux-M)の第三相GBM(多形性膠芽腫)一次治療試験を打ち切ると発表した。EGFR増殖型の患者を組入れて放射線療法とtemozolomideの標準的療法に追加する効果を偽薬と比較したが、中間解析で独立データ監視委員会が無益認定した。安全性面で新たな懸念が浮上した訳ではなさそうだが、他の試験の患者組入れも中断する由。

Depatux-Mは抗EGFR抗体とmonomethylauristatin Fを結合したADC。第二相再発治療試験でtemozolomide併用群の全生存期間がtemozolomide/lomustineモノセラピー群を上回るトレンドを示し、追跡調査ではハザードレシオが0.68(95%CI0.48-0.95)と良好な成績を示したため注目されていた。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が第一三共の抗腫瘍薬二剤を検討
(2019年5月15日発表)

FDAは5月14日に腫瘍学諮問委員会を招集し、第一三共の二剤について意見を求めた。TGCT(腱滑膜巨細胞腫)用薬として承認申請されたCSF-1R阻害剤、pexidartinibは12人の委員が便益が危険を上回る(承認に値する)と評価、反対は3人に留まった。一方、FLT3遺伝子のITD変異を持つ再発難治性AML(急性骨髄性白血病)用薬として申請されたFLT3阻害剤、quizartinibについては、賛成3人、反対8人と反対が上回った。

FDAの諮問委員会はFDAが提示する特定の問題について検討するものであり、また、諮問委員会の後も対応策に関する製薬会社との協議は続くので、評決と審査結果が一致するとは限らない。しかし、今回のようにFDA審査官の見解を多くの委員が支持した場合は、食い違うことは少ない。

ひとつ気がかりなのは、quizartinibの臨床試験について、インプリメンテーション面の懸念が指摘されていることだ。同社の開発後期パイプラインの花形は今回のニッチ薬二剤ではなく、抗体薬物複合体のDS-8201(trastuzumab deruxtecan)だが、こちらの承認申請用試験はキチンと行われているのだろうか?

TGCTは関節の炎症等を伴う良性腫瘍。米国の新患は年16000人程度の希少疾患。殆どは切除可能で、不適な患者がpexidartinibの対象になる。移植や死亡につながり得る肝毒性が見られ、第三相試験の途中でデータ監視委員会が組入れ中止を勧告したが、目標126人に対して121人を組入れ済みだったため、解析には大きな影響がなかった。審査期限は8月3日。

quizartinibの審査期限は8月25日。日本や欧州でも承認審査中。FDAや諮問委員会が承認に慎重なのは、第三相試験のメジアン生存期間が6.2ヶ月と実薬対照群の4.7ヶ月を1ヶ月強しか上回らなかったため。ハザードレシオは0.76と悪くなく、実薬対照試験なので私は治療効果が小さいとは考えていなかったが、対照群の2割が一度も投与を受けず離脱していたとのことであり、愕然とした。試験薬群は2%のみであり、盲検にしなかった判断ミスが大きな失敗をもたらした。

リンク: 第一三共のプレスリリース(ペキシダルチニブについて、和文)
リンク: 同(キザルチニブについて、和文)


【承認】


ロシュ/アッヴィ、Venclextaが一次治療に適応拡大
(2019年5月16日発表)

ロシュとアッヴィは、夫々に、Venclexta(venetoclax)をCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。持病を持ち強化療法に適さない患者が対象で、ロシュのGazyva(Obinutuzumab、和名ガザイバ)と併用する。

Gazyvaの6ヶ月コースにVenclextaまたはchlorambucilの1年コースを併用した第三相試験では、PFS(無進行生存期間、独立評価委員会査読)のハザードレシオが0.33と、統計的に有意な差があった。詳細は6月のASCO米国臨床腫瘍学会で発表される。

FDAのリアル・タイム・オンコロジー・リビュー・プログラムの対象で、適応拡大申請が受理されてから2ヶ月のスピード承認となった。

Venclextaは、リンパ球などのアポトーシス抵抗性に係るbcl-2を阻害する経口剤。アッヴィとジェネンテックのbcl-2阻害剤やVEGFR阻害剤における共同開発プロジェクトの成果で、二次治療などに承認されている。日本でも再発難治CLLに承認審査中。

リンク: ロシュのプレスリリース

バベンチオが腎細胞腫に適応拡大
(2019年5月14日発表)

FDAは、ドイツのメルクがファイザーと共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)を末期腎細胞腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。既承認のファイザーのVEGFR阻害剤、Inlyta(axitinib)と併用する。第三相試験では、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が13.8ヶ月と、対照薬であるファイザーのVEGFR阻害剤、Sutent(sunitinib)の8.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.0002だった。

この試験の主評価項目であるPD-L1発現(1%以上)サブグループのPFSは各群13.8ヶ月と7.2ヶ月で、ハザードレシオ0.61、統計的に有意だった。

G3/4の肝毒性が9%の患者で発生し、7%の患者がどちらかの薬を打ち切った。主要有害心血管イベントが7%の患者で発生した。

抗PD-1/PD-L1抗体分野のライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)も4月にInlyta併用で同じ用途にFDAから承認された。Keytrudaは他の抗PD-1/PD-L1抗体と異なり三週間に一回の投与であることが特徴で、Bevancioの二週毎より簡便だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

イーライリリーのサイラムザ、肝臓癌に適応拡大
(2019年5月13日発表)

イーライリリーは、Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)を肝細胞腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。アルファ・フェトプロテイン(AFP)値が400 ng/mL以上(肝細胞腫の約5割が該当)で、Nexavar(sorafenib)歴を持つ患者が適応になる。臨床試験ではメジアン生存期間が8.5ヶ月と偽薬群の7.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.71、p=0.019だった。日本や欧州でも適応拡大申請中。

Cyramzaはイムクローン・システムズ社を買収して入手した抗VEGFR-2抗体。胃癌の二次三次治療に承認されている。致死的な出血が枠付警告されていたが、今回、通常の警告に緩和された。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

アイリーアを早期段階の糖尿病網膜症に用いることが承認
(2019年5月13日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)のEylea(aflibercept、和名アイリーア)を非増殖性糖尿病性網膜症の治療に用いる適応拡大がFDAに承認された。既承認の網膜浮腫を伴う糖尿病性網膜症だけでなく、浮腫のない早期段階で介入することが可能になる。第三相PANORAMA試験では、奏効率(DRSSスコアが2ステップ以上改善)が8週毎投与群が65%、4週毎群が80%となり、シャム群(硝子体注射の振りだけ)の15%を有意に上回った。増殖糖尿病網膜症の発症率は各群2%、ゼロ、12%と予防効果も見られた。

リンク: リジェネロンのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、ゼルヤンツの高用量について警告強化
(2019年5月17日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、ファイザーのXeljanz(tofacitinib citrate、和名ゼルヤンツ)に関して、血栓リスクの高い患者に10mg一日二回投与を行わないよう求める暫定的勧告を行った。既報のように、リウマチ性関節炎の高量投与試験で肺塞栓や死亡リスクが見られたため。

リウマチや乾癬の治療では5mg一日二回しか承認されていないが、既存治療不応不耐の潰瘍性結腸炎の寛解導入療法に用いる場合は10mg一日二回が標準用量で、維持療法も米国では標準用量、日欧では5mg一日二回が標準だが必要に応じて10mg一日二回も可となっている。

問題の試験はリウマチ性関節炎で承認された時のフェーズIVコミットメントとして実施されたA3921133試験。10mg一日二回投与の心血管疾患リスクや腫瘍リスクをTNF阻害剤(HumiraやEnbrel)と比較したところ、肺塞栓が3883人年の暴露で18例発生と、TNF阻害剤の3982人年で3例を大きく上回った。全死亡も3897人年で45例と、TNF阻害剤群の3982人年で25例を上回った。1000人に1年間投与すると5人多く死亡する計算になる。

EMAは、血栓リスクが高い患者の例として、心不全、先天的血栓疾患、静脈血栓、ホルモン補充療法や避妊薬、癌、大出術を上げている。また、この試験では、年齢や肥満、喫煙が肺塞栓のリスク因子だった。

リンク: EMAのプレスリリース


今週は以上です。

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2019年5月12日

2019年5月12日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、経口SMA用薬試験の至適用量群のデータを発表 
  • アストラゼネカのBTK阻害剤、再発難治CLL試験が成功 
  • 第一三共のADC、加速承認用試験が成功 
  • MSD、ベルソムラのアルツハイマー病患者不眠症治療試験が成功 
  • BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール 
  • FDA諮問委員会、嚢胞性線維症治療用マンニトールを過半の委員が支持 
  • ファイザーのビンダケル、米国でも承認 
  • FDA、もう一つのamifampridineを承認 
  • ロシュのカドサイラ、早期乳癌の術後アジュバントに承認 
  • 家族性カイロミクロン血症候群治療薬がEUで承認 


【新薬開発】


ロシュ、経口SMA用薬試験の至適用量群のデータを発表
(2019年5月6日発表)

ロシュは、SMA(脊髄筋萎縮症)治療薬として開発しているRG7916/RO7034067(risdiplam)のP2/3試験の用量決定パートのデータをAAN米国神経学会で発表した。乳児期に発症する重篤なタイプであるSMAI型を組入れた試験で、仮説検証パートで用いる用量を投与した患者17人のうち7人(41%)が支え無しで5秒間静坐することができた。運動機能を評価するCHOP-INTENDトータルスコアは1年でメジアン17.5ポイント改善し、17人中10人が40ポイント以上だった。

主な有害事象は発熱、上部気道感染症、下痢、嘔吐、咳、肺炎、便秘など。

仮説検証パートは既にかなり進行しており、今年第4四半期(10-12月)にトップラインが判明する見込み。

SMAのII型とIII型を組入れたSUNFISH試験の用量決定パートの探索的薬効解析結果(n=43)も発表された。58%の患者でMFM32スケールが3ポイント以上改善した。2歳から25歳まで参加したが、11歳までのサブグループでは71%で3ポイント以上改善した。仮説検証パートは2020年第1四半期に開票の見込み。

SMAはSMN1遺伝子の先天的変異・欠損により筋力が低下する、一万人に一人の希少疾患。risdiplamはPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)とSMA財団の共同研究の成果で、ロシュは2011年にライセンスした。SMN蛋白を作ることができるがSMN1ほど量産できないSMN2遺伝子のスプライシングに介入して、SMNの全長mRNAを通常より多く生成できるようにする作用機序だ。

バイオジェンがIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスして開発したSpinraza(nusinersen)と異なり経口投与できる。これまでのデータを見る限りでは、効果が上回る可能性もありそうだ。

ロシュと米国子会社のジェネンテックは、今年下半期中に欧米で承認申請する計画。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

アストラゼネカのBTK阻害剤、再発難治CLL試験が成功
(2019年5月7日発表)

アストラゼネカは、Calquence(acalabrutinib)の第三相再発難治慢性リンパ性白血病(CLL)試験が中間解析で成功し、繰上げ終了する予定であることを発表した。データは学会発表の予定。

16年に子会社化したAcerta PharmaのBTK(Bruton tyrosine kinase)阻害剤で、17年に米国で再発性マントル細胞リンパ腫に承認された。今回のASCEND試験は100mgを一日二回、経口投与する群のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会が査読)を、rituxanとbendamustineまたはZydelig(idelalisib)を併用するレジメンと比較した。

BTK阻害剤はアッヴィ/JNJのImbruvica(ibrutinib)が先陣を切っており、CLLでは併用による再発治療が承認されている。一次治療も高齢者のモノセラピー試験でPFSがrituximab・bendamustine併用群を有意に上回った。

Calquenceは忍容性の点で評価が高い模様であり、今回のモノセラピーだけでなく様々なレジメンで開発が進めば、ベストインクラスとしての評価を確立できるかもしれない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

第一三共のADC、加速承認用試験が成功
(2019年5月8日発表)

第一三共と共同開発販売パートナーのアストラゼネカは、DS-8201(trastuzumab deruxtecan)の第二相her2陽性転移性乳癌試験が良好な結果になったことを明らかにした。具体的な数値は不明だが、過去の同様な試験と大差ないようだ。予定通り、日米欧で承認申請に向かう予定。アストラゼネカにプレスリリースによると、米国では19年内に申請を開始する予定。

DS-8201はHerceptinの抗her2抗体、trastuzumabとirinotecan誘導体をリンカーで結合した、抗体薬物複合体(ADC)。日本の製薬会社は抗癌剤の開発で後手を踏んでいたが、エーザイがVEGFR阻害剤でMSDと手を組んだのに続いて、第一三共もアストラゼネカと大型共同開発販売契約を結ぶなど、存在感を強めている。

今回のDESTINY-Brease01試験はHerceptinやKadcyla(trastuzumab emtansine)による前治療歴を持つ転移性乳癌患者253人を日米欧の施設で組入れてORR(客観的反応率、第三者評価委員会査読)を調べたもの。DS-8201の潜在能力の点では序の口とも呼ぶべき用途だ。

DS-8201はtrastuzumabがher2に結合して癌細胞の中に入り、deruxtecanが分離して細胞を中から攻撃するトロイの木馬型医薬だが、癌細胞から外に出て近隣の癌細胞を攻撃する能力も高いようだ。似たようなADCであるKadcylaより効果が高い可能性があり、第三相では直接比較している。更に、Herceptin/Kadcylaが適応にならないher2低発現乳癌や、her2陽性非小細胞性肺癌などにも開発されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

MSD、ベルソムラのアルツハイマー病患者不眠症治療試験が成功
(2019年5月7日発表)

MSDは、不眠症治療薬として日米で承認されているオレキシン受容体アンタゴニスト、Belsomra(suvorexant、和名ベルソムラ)を軽中度アルツハイマー病患者の不眠症の治療に用いる第三相試験が成功したとAAN米国神経学会で発表した。米国でこの試験のデータをレーベルに収載すべく承認申請する予定。

用量は米国における承認内容と同じで、10mgで開始、効果が不十分なら20mgに増量可。7割超が増量した由だ。主評価項目の総睡眠時間(ポリソムノグラフィーで計測)はベースライン時点の平均4時間半から73分増加、偽薬群は45分だったため、治療効果は28分となり、統計的に有意だった。二次的評価項目のWASO(睡眠後の覚醒時間)も偽薬比15分改善。有害事象発生率は22%対16%で若干上昇した。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール
(2019年5月9日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckmate498試験がフェールしたと発表した。Opdivoは様々な腫瘍に用途を広げているが、多形性膠芽腫の第三相試験は17年に二次治療試験がフェール、今回はMGMT遺伝子がメチル化されていない患者の一次治療試験がフェールと、なかなか結果が出ない。もう一本、MGMTメチル化型を組入れた548試験が進行中だが、結果判明は21年の見込み。

MGMTは、temozolomideのようなアルキル化薬によるDNA損傷を修復する酵素だが、遺伝子のプロモーター部分がメチル化していると発現が抑制されるため、多形性膠芽腫の予後やアルキル化薬応答性を予測するのに使われている。

548試験はメチル化型が対象であるため標準療法であるtemozolomideと併用しているが、今回の試験は、手術後の放射線療法とともにOpdivoを投与して、術後放射線療法とtemozolomideを併用する群と全生存期間を比較した。形の上では実薬対照試験だが、temozolomideは非メチル化には効果は期待できないと考えるならば、実質的には偽薬対照試験のようなものだ。

Nature Medicineに最近掲載された治験論文によれば、Opdivoと同じ抗PD-1抗体であるKeytruda(pembrolizumab)を切除可能多形性膠芽腫に用いる時は術後ではなく術前のほうが良い。小規模な試験なので確立した用法とは言えないが、Opdivoについてもまだ工夫の余地はありそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、嚢胞性線維症治療用マンニトールを過半の委員が支持
(2019年5月9日発表)

オーストラリアのPharmaxis(ASX:PXS)は、FDAの肺・アレルギー薬諮問委員会が嚢胞性線維症治療薬Bronchitol(mannitol)を検討し、16人の委員のうち9人が承認を支持したと発表した。反対も多かったことになるが、6年前の委員会では14人全員が反対だったので前進した。

Bronchitolは糖アルコールであるマンニトールのドライパウダー・インヘイラー用新製剤。欧州では12年に承認された。米国承認が遅れたのは、第一に、二本の第三相試験が一勝一敗で、偽薬比有意な差がみられた試験でも治療効果は小さかったため。第二は喀血のような重大な有害事象が特に小児で見られたため。

Pharmaxisは、13年に審査完了通知を受領した後、三本目の第三相を実施して成功させ、対象年齢を9歳以上ではなく18歳以上に限定して再承認申請、今回の首尾につながった。

但し、承認されるかどうかはまだ不透明。薬効のエビデンスは整ったが、FEV1の改善が偽薬比50-80mLと小さいことや、増悪を防ぐ効果は見られず数値上はむしろ増加したことなど、治療効果に不満が残る。

Bronchitolは欧州主要国ではイタリアのChiesiがディストリビューターで、米国はChiesiが開発販売権を保有している。

リンク: Pharmaxisのプレスリリース


【承認】


ファイザーのビンダケル、米国でも承認
(2019年5月6日発表)

FDAは、ファイザーのVyndaqel(tafamidis meglumine)とVyndamax(tafamidis)をトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)の成人の治療薬として承認した。日欧ではトランスサイレチン家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬として各2011年と2013年に承認されているが、FDAは臨床的便益の検討が不十分とみなし、心筋症試験が成功するまで承認を見送っていた。

トランスサイレチン・アミロイド型の心筋症や神経症は、トランスサイレチンを構成するテトラマーの安定性が損なわれて解離・アミロイド線維として蓄積する。tafamidisはトランスサイレチンに結合して解離を防ぐ。メグルミン塩は臨床試験で用いられた塩で、20mgカプセルを4個、一日一回服用する。遊離酸は61mgカプセルで、こちらなら1日1個で足りるが、発売は遅れるようだ。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、もう一つのamifampridineを承認
(2019年5月6日発表)

FDAは、Jacobus PharmaceuticalのRuzurgi(amifampridine)をランバート・イートン筋無力症症候群(LEMS)の小児(6歳から17歳未満)に用いることを承認した。成人患者向けは18年にCatalyst Pharmaceuticals(Nasdaq:CPRX)のFirdapse(amifampridine phosphate)が承認されたが、小児向けは初。

LEMSはシナプス前神経終末の電位依存性カルシウムチャネルに対する自己免疫疾患で、下肢の筋力低下や自律神経症状を伴う。小細胞性肺癌を伴うことがしばしばある。標準療法は血漿交換やステロイド。

amifampridineはカリウムチャネルブロッカーで、1990年代から人道的使用制度に基づきJacobusの製品がLEMS治療に用いられてきた。EUでは09年にFirdapseが公知データに基づき例外的環境承認され、バイオマリン社が発売したが、価格が従来品より高かったため批判を浴びた。Catalystが権利を取得して18年に発売した米国でも同じで、政治家が建値で年37.5万ドルという価格の値下げを要求した。

Jacobusが正式な承認を取得したのも、医師や患者の声に応えたものと推測される。Firdapseより安価に供給されるだろうから、Catalystには大きな打撃になるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース

ロシュのカドサイラ、早期乳癌の術後アジュバントに承認
(2019年5月3日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine)をher2陽性早期乳癌の切除術後アジュバント療法に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。術前のネオアジュバント療法でタクサン系抗がん剤とHerceptin(trastuzumab)を使い、病理学的完全寛解に至らなかった患者に用いる。KATHERINE試験で無病生存期間(第三者評価)がHerceptinを用いた群を有意に上回った(ハザードレシオ0.50)。

この承認はFDAのReal-Time Oncology ReviewプログラムとAssessment Aidプログラムの対象で、承認申請が完了してから12週間でスピード承認された。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

家族性カイロミクロン血症候群治療薬がEUで承認
(2019年5月7日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)と子会社のAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)は、Waylivra(volanesorsen)がEUで家族性カイロミクロン血症候群(FCS)治療薬として条件付き承認されたと発表した。遺伝子学的に確立したFCSで、食事療法やトリグリセライド低下治療に十分に反応せず、膵炎のリスクが高い患者が適応になる。

FCSはリポ蛋白リパーゼの欠乏によりカイロミクロンを代謝できずトリグリセライド(TG)値が上昇、膵炎のリスクが高まる。有病者は世界で数千人、うち欧州は1,000人程度と推測されている。WaylivraはTGの分解を妨げるApoC-IIIの遺伝子をアンチセンスし、TG値を引き下げる。米国でも承認申請されたが、血小板減少症や出血リスクが見られることやリスク回避策の検討が不十分であることから、審査完了となった。

リンク: 両社のプレスリリース






今週は以上です。

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2019年5月5日

2019年5月5日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • GSKのテリルジー、レルベアより効果が些か高い 
  • JNJ、アーリーダを転移性去勢感受性前立腺癌にsNDA 
  • 月一回注射のHIV/AIDS治療レジメンが承認申請 
  • 注射用ホスホマイシンは審査完了に 
  • サノフィのデング熱ワクチンが米国でも承認 
  • FDA、ベンゾザイアゼピン系睡眠薬三剤の副作用警告を強化 


【新薬開発】


GSKのテリルジー、レルベアより効果が些か高い
(2019年5月2日発表)

グラクソ・スミスクラインとInnoviva(Nasdaq:INVA)は、Trelegy Ellipta(和名テリルジー エリプタ)の第三相CAPTAIN試験の結果を発表した。Trelegyは吸入コルチコイドfluticasone furoateと長時間作用性ムスカリン受容体拮抗剤umeclidinium、そして長時間作用性ベータ2作用剤vilanterolの固定用量合剤で、17年に欧米で、今年3月には日本でも、COPD治療薬として承認された。

CAPTAIN試験は管理不良喘息症に対する効果を同社のBreo Ellipta(和名レルベア エリプタ、欧州名Relvar Ellipta)と比較した。Breoはfluticasone furoateとvilanterolの合剤で、日米欧でCOPDや喘息症に承認されている。従って、この試験は喘息症における三剤併用の意義を二剤併用と比較するとともに、Trelegyの喘息症における承認取得を企図したものと推測される。

結果は、24週後のFEV1(1秒量)トラフ値が高用量群(各活性成分を200/62.5/25mcg配合)はBreoの高用量(100/25mcg)より92mL大きく、低用量群(100/62.5/25mcg)はBreo低用量(100/25mcg)より110mL大きかった。どちらも統計的に有意。

一方、二次的評価項目である中重度喘息発作(年率、Trelegy二群合計とBreo二群合計の比較)は13%減少に留まり、有意水準に届かなかった。

こうしてみると、三剤併用と二剤併用の効果の差はそれほど大きくなく、特に、高用量における限界効用は小さいように感じられる。

喘息症のステップアップセラピーを行う場合、二剤併用で発作を十分防げないなら三剤併用に進み、発作を十分防げるようになったら二剤併用にステップダウンを検討することになる。三剤併用と二剤併用は出番が違うので比較してもあまり意味がない。Trelegyの本来の出番である、二剤併用では足りない患者を組入れた試験を行わないと真価を知ることはできないが、承認を取るためには、今回のような勝って当たり前の試験をやらざるを得ないのだろう。

リンク: GSKのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、アーリーダを転移性去勢感受性前立腺癌にsNDA
(2019年4月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Erleada(apalutamide、和名アーリーダ)を転移性去勢感受性前立腺癌に用いる適応拡大をFDAに申請した。アンドロゲン枯渇療法と併用する。RTOR(リアル・タイム・オンコロジー・レビュー)プログラムの対象に選ばれているとのことなので、早期の承認が期待される。

Erleadaは、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の前立腺癌における効用を発見した医学者が、第二世代アンドロゲン伝達阻害剤として開発し、13年にヤンセンに事業売却したもの。同年に第三相入り、18年に米国で、今年は日本や欧州でも、非転移性去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認された。アンドロゲン枯渇療法の効果がまだなくなってはいないがPSA値が急上昇して高リスクな患者に追加する。

今回の適応拡大のエビデンスとなるTITAN試験は、今年1月に中間解析で主目的(全生存期間と放射線学的無進行生存期間の有意な延長)を達成した。具体的なデータは5月末にASCO米国臨床腫瘍学会で発表される予定。

Xtandiとの臨床的な差は当初期待されたほど大きくないように見えるので、適応や市販歴のハンデを少しでも減らすことが重要な課題になりそうだ。

リンク: JNJのプレスリリース

月一回注射のHIV/AIDS治療レジメンが承認申請
(2019年4月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンと、グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアは、夫々別々に、前者の非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの長期作用性注射用製剤と、後者のインテグラーゼ阻害剤cabotegravirの経口剤と長期作用性注射用製剤を、二剤で完結する治療レジメンとしてFDAに承認申請したと発表した。欧州などでも承認申請する考え。

HIV/AIDSの成人でウイルス量を抑制できている、どちらの活性成分にも抵抗性を持たない患者がスイッチする用途が想定されている。当初は経口剤を併用するが、その後は月一回、二剤を注射するだけで足りる。臨床試験では、通常の経口剤三剤併用レジメンと効果が非劣性だった。

HIV/AIDSの治療が成功し積極的に活動できる状態の患者は、例えば海外旅行時に税関でHIV/AIDS薬の説明をしたりするのが煩わしい。月一回投与なら薬を持ち運ばなくて済むケースが多いだろうから、このような人たちに歓迎されそうだ。また、感染予防試験が良好な結果になるならば、経口剤より利便性が高そうだ。但し、筋注なので痛いのではないか。

第三相に入った頃は二剤合剤を承認申請と思っていたが、違った。長期作用性を持たせるためのノウハウを相手に知られたくなかったのだろう。JNJはヴィーヴの最大のライバルであるギリアドともrilpivirine合剤の開発販売で提携している。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認審査・委員会】


注射用ホスホマイシンは審査完了に
(2019年4月30日発表)

Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)は注射用fosfomycinを複雑性尿路感染症(腎盂腎炎を含む)の治療薬ContepoとしてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。施設査察や生産委託先での体制不備が原因である模様だ。

この委託先は北米以外の市場で販売するためのロットを生産する欧州の工場である模様。何が悪いのか、なぜFDAが問題にしているのか、良くわからない。昨年10月に承認申請、優先審査指定され当初の審査期限は6月だったが、4月30日に2ヶ月前倒しになった。諮問委員会はFDA側が不要と判定した。これまで順調に来ていただけに意外な転帰だ。FDAと協議して、委託先を変えるなり対応を検討することになりそうだ。

リンク: Nabriva社のプレスリリース


【承認】


サノフィのデング熱ワクチンが米国でも承認
(2019年5月1日発表)

FDAは、サノフィのワクチン子会社であるサノフィ・パスツールが申請したデング熱ワクチン、Dengvaxiaを承認した。デングウイルス感染が風土病である地域(米国ではプエルトリコ、グアム、米領バージン諸島、米領サモア)の9-16歳でデング感染歴がラボ検査により確認された人が適応になる。昨年12月に承認されたEUと異なり17-45歳が適応外だが、エビデンスが免疫原性試験だけで臨床的効用が確立していないことや、今年3月の諮問委員会でも16歳までに限定する意見が少なくなかったことを考えれば、サプライズではない。

Dengvaxiaはサノフィが08年に買収したAcambis社がセントルイス大学の技術をライセンスして開発を進めた4価弱毒化生ワクチン。15年にメキシコで承認されるなど、風土病地域を優先して承認取得を進めたが、第三相試験の分析を進めるうちに、デングウイルス未経験者が接種すると実際に感染した時に症状が重篤化する懸念が浮上した。政府が接種キャンペーンを行ったフィリピンでは訴訟沙汰になった。

デング感染は元々、最初の感染は症状が軽いことが多く感染に気付かないこともあるくらい。デング出血熱のような重篤な症例はほとんどが二回目の感染だ。キプロスの蜂パターンである。未感染者がDengvaxiaを接種すると一回目の感染と同じ効果を生んでしまうのかもしれない。本人の記憶は当てにならないので、ラボ検査を行って確認する必要がある。米国ならともかく、感染者の多い東南アジアや中南米で、ラボ検査の手間や費用が普及の妨げにならないか、心配だ。

デング熱ワクチンは武田や米国立医療研究所(NIH)のプロジェクトが第三相段階にある。ウイルスの非構造部分の遺伝子も配合しているため免疫原性が高い可能性があり、また、武田のTAK-003は二回接種、NIHのTV003は一回接種と三回のDengvaxiaより簡便だが、未感染者でも安全に使えるかどうかが普及の点では一番重要なのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィの米国法人のプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、ベンゾザイアゼピン系睡眠薬三剤の副作用警告を強化
(2019年4月30日発表)

FDAは、zolpidem(先発品はサノフィのAmbien)、eszopiclone(同、大日本住友製薬の米国子会社のLunesta)およびzaleplon(同、ファイザーのSonatga)に関する警告強化をメーカーに要請したと発表した。転倒や自傷自殺など様々な有害事象を複雑睡眠行動として包括して枠付警告し、メディケーション・ガイドを提供し、一度発生したら禁忌とした。

92年12月から18年2月までの25年余の間にFDAの有害事象報告システムに62例が登録。更に4例が文献報告されている。66例中20例が致死的。具体的な内容は、転倒による頭蓋内出血や骨折、自傷、自殺や自殺試行など。

zolidemだけでも2018年に米国で510万人が服用しており、副作用報告されるのは氷山の一角であることを考慮しても、複雑睡眠行動の発生率は決して高くない。66例中61例がzolpidemに関するものだが、圧倒的なシェアを持っているので不思議なことではない。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

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2019年4月28日

2019年4月28日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、キイトルーダの胃癌一次試験は最悪の結果を回避 
  • イーライリリー、トルツのnr-axSpA試験成功 
  • JNJのSGLT2阻害剤が糖尿病性腎症の悪化を抑制 
  • ギリアド、ASK1阻害剤の二本目の第三相NASH試験もフェール 
  • テバの抗CGRP抗体は群発頭痛試験がフェール 
  • Alder、点滴静注用抗CGRP抗体のBLAが受理 
  • CHMP、血液凝固障害用薬などの承認に肯定的意見 
  • アッヴィのスキリージが米国でも承認 
  • Portola、Xa阻害剤の解毒剤がEUでも承認 


【新薬開発】


MSD、キイトルーダの胃癌一次試験は最悪の結果を回避
(2019年4月25日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の胃癌一次治療における延命効果を標準療法と比較した第三相試験、KEYNOTE-062試験の結果を発表した。モノセラピーは非劣性検定成功、標準療法併用は標準療法と有意差なしという、諸手を挙げて喜ぶことはできない内容だった。過去の試験も成否は区々で、この癌の難しさが窺われる。

Keytrudaは米国ではPD-L1陽性胃がんの三次治療に承認されているが、第二相試験の反応率データに基づく加速承認なので、市販後薬効確認試験がフェールしたら承認取消の可能性がある。二次治療試験は一勝一敗だったが、今回の一次治療試験成功で、最悪の事態を免れる可能性が出てきたのではないか。

この試験は、PD-L1陽性(CPSが1以上)の進行胃・胃食道接合部腺腫で一次治療を受ける患者をモノセラピー群、標準療法(5-FUまたはcapecitabineをcisplatinと併用)併用群、標準療法群に無作為化割付して全生存期間を比較したもの。標準療法併用はCPSが10以上のサブグループの全生存期間や、全ユニバースのPFS(無進行生存期間)も検討した。データは6月のASCO米国臨床腫瘍学会で発表される見込み。

『海外医薬ニュース』は海外の話なのでデータを日本人に外挿できるかどうかは無視している。しかし、胃癌は日韓と欧米で予後が大きく異なることがままあるので一言付け加えておくべきだろう。Keytrudaも日本の試験、あるいはグローバル試験の日本人サブグループの成績を見てみたいものだ。

リンク: MSDのプレスリリース

イーライリリー、トルツのnr-axSpA試験成功
(2019年4月22日発表)

イーライリリーは、抗IL-17Aヒト化抗体Taltz(ixekizumab、和名トルツ)の第三相X線陰性体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)試験が成功したと発表した。米国で適応拡大申請する考え。順調に承認されれば、先に発売されたノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)にこの用途では先んじることができる。

axSpAは仙骨関節炎などを伴う疾患で、世界で450万人が罹患と推測されている。X線陽性のr-axSpAは従来は強直性脊椎炎(AS)と呼ばれていたが、症状が類似しているのにX線画像に異常が見つからない疾患もあるため、両者合わせてaxSpAとして扱うことになった。

今年3月にUCBのCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)が米国で初めて、nr-axSpAの適応を取得した。今後、AS治療薬として承認されている他の新薬も適応拡大が進むだろう。

今回の第三相はnr-axSpAでバイオ薬未経験の患者を組入れて16週時点と52週時点のASAS40奏効率を偽薬と比較したところ、どちらも有意に改善した。ASDASなどの副次的評価項目もすべて成功した。数値は未公表。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

JNJのSGLT2阻害剤が糖尿病性腎症の悪化を抑制
(2019年4月22日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、SGLT2阻害剤Invokana(canagliflozin、日本はオリジンの田辺三菱製薬がカナグル名で販売)の糖尿病性腎症アウトカム試験の結果を世界腎臓学会議(ISN 2019 WCN)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。中間解析で主目的を達成したことは昨年7月に発表済みで、今年3月に米国で効能追加申請済みい。

このCREDENCE試験は二型糖尿病で慢性腎疾患(ステージ2または3)とマクロアルブミン尿を合併する4401人を偽薬群とInvokana群に無作為化割付して転帰を観察した。全員がACE阻害剤あるいはARBによる標準療法を受けた。

主評価項目の腎合併症(末期腎不全、血清クレアチニン倍化、または腎・心疾患による死亡)リスクは偽薬比30%小さかった。副次的評価項目では心血管疾患死・心不全入院が偽薬比31%、MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)が20%、小さかった。

Invokanaは心血管アウトカム試験CANVASで下肢切断や骨損壊が有意に増加したことが懸念材料だ。他のSGLT2阻害剤では下肢切断の増加は見られないので、効能が同じなら他のSGLT2阻害剤のほうが安心ということになる。

興味深いのは、今回の試験では下肢切断も骨損壊も群間の偏りはなかった由。組入れも追跡期間もCANVASの半分程度なので検出力が十分でなかったのか、それとも、CANVASがノイズの影響を受けたのか。長期試験が複数実施されたのでメタアナリシスを実施・公表してほしいものだ。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: Perkovicらの治験論文抄録(NEJM)

ギリアド、ASK1阻害剤の二本目の第三相NASH試験もフェール
(2019年4月25日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-4997(selonsertib)の第三相非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)治療試験がフェールしたと発表した。偽薬、6mg、または18mgを一日一回、48週間に亘り経口投与して、架橋性線維化が改善しNASHは悪化しなかった患者の比率を比較したところ、各群13.2%、12.1%、9.3%となり、数値上はむしろ有害だった。

GS-4997は酸化ストレス下で肝臓の炎症、線維化、アポトーシスを促進するASK-1(アポトーシス・シグナル制御キナーゼ1)の阻害薬。2月には代償性肝硬変を合併したNASHを組入れた第三相のフェールが発表されている。

ギリアドはHIV/AIDSやC型肝炎の新薬が大ヒットしたが、成功が大きければ大きいほどパテントクリフが深刻になるのが新薬開発会社の宿命で、2000年代にファイザーのCEOとして多くの大型企業買収を行ったHenry McKinnellは、LipitorのGE化リスクをVictim of Past Successと呼んでいた。

ギリアドは近年はNASHやCAR-Tなど抗腫瘍薬の開発・導入・企業買収を活発化しており、NASH領域ではGS-4997を含む複数のメカニズムの異なる薬の併用法も検討している。先般は、ノボ ノルディスクの経口GLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)と三剤併用POC試験を行う提携を結んだ。単剤で上手く行かないなら併用を考えるのは自然の成り行きで、NASHでも単剤では足りないと考えるのが主流になりつつあるようだ。今回のフェールは失望的だが、試行錯誤は続くだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース

テバの抗CGRP抗体は群発頭痛試験がフェール
(2019年月日発表)

テバ・ファーマシューティカル(NYSE/TASE:TEVA)は、Ajovy(fremanezumab-vfrm)の第三相反復性群発頭痛試験を打ち切ると発表した。中間解析で無益性認定されたため。昨年6月には慢性群発頭痛も無益中止になった。

Ajovyは、ジェネンテックからスピンアウトした中枢神経系領域部門、Rinat NeuroscienceがRN-307として開発していた抗CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)抗体。Rinatを買収したファイザーが導出、その先の会社を14年にテバが2億ドル及び後発債務6.25億ドルで買収、18年9月に米国で片頭痛予防薬として承認取得、という経緯を持つ。日本は大塚製薬が導入。

抗CGRP抗体は開発競争が激しく、イーライリリーのEmgality(galcanezumab-gnlm)も18年9月に米国承認。Alder BioPharmaceuticals(Nasdaq:ALDR)が2月にALD403をBLA(後述)。抗CGRP受容体抗体もアムジェン/ノバルティスのAimovig(erenumab-aooe)が昨年5月に米国承認、7月にはEUでも承認。

何れも適応は片頭痛予防で、群発頭痛はEmgalityが反復性群発頭痛試験は成功したものの、慢性群発頭痛試験はフェール。販売承認を得る上では一つでも成功すれば大きな違いであり、慢性患者は群発頭痛の1-2割なのでフェールしても傷は浅いが、Ajovyの結果と合わせて考えると、抗CGRP抗体は効くのか、効かないのか、判然としない。両剤の臨床試験のデザインや患者背景、治療効果の多寡などを比較検討してもらいたいものだ。

リンク: テバのプレスリリース


【承認申請】


Alder、点滴静注用抗CGRP抗体のBLAが受理
(2019年4月22日発表)

Alder BioPharmaceuticals(Nasdaq:ALDR)は、ALD403(eptinezumab)の生物学的製剤販売許可申請(BLA)がFDAに受理されたと発表した。抗CGRPヒト化抗体で、反復性や慢性の片頭痛の片頭痛発作予防に用いる。イーライリリーやアムジェンの抗CGRP/CGRP受容体抗体が皮注用であるのに対して点滴静注であることが特徴。12週に一回投与する。テバに特許侵害で提訴されたが、昨年、和解してIP実施権を取得した。

リンク: Alderのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、血液凝固障害用薬などの承認に肯定的意見
(2019年4月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、4月の会合で、血液凝固障害の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

新薬では、まず、Doptelet(avatrombopag)はC-Mpl(スロンボポイエチン受容体)アゴニスト。観血的手術を受ける重度血小板減少症の患者に経口投与して、術前・術後の血小板輸血を減らす。米国では昨年5月に承認された。

類薬が多いせいか、開発主体は変遷した。2005年に山之内製薬が藤沢薬品と合併した時に山之内アメリカからスピンアウトしたAkaRxが権利を承継して開発。AkaRxは2010年にMGIの子会社となり、その後、MGIを買収したエーザイが16年3月にAkaRxをPBMキャピタルグループに売却、Dova Pharmaceuticals(Nasdaq:DOVA)の子会社となった。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのEsperoct(turoctocog alfa pegol)はPEG化遺伝子組換え型第VIII因子。A型血友病の出血予防・治療に用いる。NovoEightをPEG化して、頻繁に出血する患者がルーチン予防目的で使う時の投与頻度を若干減らした。米国では2月に承認されたが、関連IPを持つ第三者との合意に基づき、2020年まで発売を見送っている。

リンク: EMAのプレスリリース

アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のUltomiris(ravulizumab)は長期作用性C5補体阻害剤。 PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の治療に用いる。同社のヒット製品であるSoliris(eculizumab)と比べて半減期が長く、同じ点滴静注用薬だが三回目からは8週毎とSoliris(2週毎)より低頻度で済む。米国では昨年12月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

ヴィーヴヘルスケア(GSK、塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS合弁)のDovatoは、インテグラーゼ阻害剤dolutegravirと核酸系逆転写阻害剤lamivudineの固定用量合剤。どちらの活性成分にも抵抗性を持たないHIV/AIDS患者の初度治療に用いる。二種類の活性成分だけで完結するレジメンは初。米国でも4月に承認された。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のLibtayo(cemiplimab)は抗PD-1抗体。局所進行性・転移性の皮膚扁平上皮癌で根治的な手術や放射線療法の候補にならない患者向けに条件付き承認することが支持された。米国では昨年9月に承認。サノフィとの開発販売提携の対象品目。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのTalzenna(talazoparib)はPARP阻害剤。BRCA1/2の遺伝子に生殖細胞系変異を持つher2陰性の転移性/局所進行性乳癌で、アンスラサイクリンやタクサン、内分泌療法の治療歴を持つあるいは不適である患者が適応になる。

BioMarinから有形無形固定資産を買収したメディベーションをファイザーが買収して入手したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、これもPARP阻害剤であるアストラゼネカのLynparza(olaparib)を、卵巣癌の一次治療維持療法に用いることが支持された。生殖細胞系/体細胞系のBRCA1/2変異を持つ進行性卵巣癌で プラチナ薬ベースの一次治療に完全反応または部分反応した患者の地固め療法に用いる。LynparzaはMSDとの共同開発販売提携の対象。Avastin併用試験中。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、CHMPはイーライリリーの Lartruvo(olaratumab)の条件付き承認を取り消すよう勧告した。抗PDGFRアルファ完全ヒト化抗体で、第二相試験のデータに基づき、根治的手術や放射線療法に適さない進行軟組織肉腫にdoxorubicinと併用することが16年に欧米で条件付き承認/加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールした。

具体的には、メジアン生存期間が20.4ヶ月とdoxorubicinと偽薬の群の19.8ヶ月と大差なく、ハザードレシオは1.05と数値上は若干悪かった。PFS(無進行生存期間)の解析も、平滑筋肉腫だけの全生存期間解析も、フェールした。

条件付き承認も加速承認も、薬効や安全性が十分に確立するのを待たずに前倒し承認する制度だ。人類の英知は限られているので効くはずが効かなかった例は枚挙に暇がなく、自分の判断や直感は過たないと思っているのは傲慢で未熟な人だけである。大事なのは間違いを間違いと認めて正すこと、そして、そのための道筋をあらかじめ用意しておくことだ。患者が欲しているの新しい薬ではなく、自分に有効で副作用がそこそこな薬なのだから、迅速承認や再生医療等製品制度を作るだけでは足りず、爾後にきちんと検証して患者の信頼に応えなければならない。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


アッヴィのスキリージが米国でも承認
(2019年4月23日発表)

アッヴィは、FDAがSkyrizi(risankizumab-rzaa、和名スキリージ)を中重度乾癬の治療薬として承認したと発表した。全身性治療または光線療法の候補となる成人に皮注する。二回目は4週後だがその後は12週毎と投与頻度がJNJの抗IL-23p19抗体Tremfya(guselkumab)の8週毎より頻度が低い。臨床試験では16週時点(3回目の投与の前)のPASI90奏効率が75%、応答者の88%は1年後も効果を維持していた。

抗IL-23p19ヒト化抗体で、抗原提示細胞が発現するサイトカインに結合してT細胞がTh17細胞に分化するのを抑制する。16年にベーリンガー・インゲルハイム(BI)から共同開発商業化権を取得したもので、アッヴィが販売する。抗TNFアルファ抗体、Humira(adalimumab)の乾癬治療における存在感を活用する狙いだろう。喘息症用途ではBIがコプロモーションの計画。

アッヴィの過去のプレスリリースによると、PASI90がHumiraやJNJの抗IL-12/23p40抗体Stelara(ustekinumab)より有意に大きかったはずだが、レーベルには記載されていない。強力な販促材料になりうるデータだけに、やや失望的。

リンク: アッヴィのプレスリリース

Portola、Xa阻害剤の解毒剤がEUでも承認
(2019年4月26日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、Ondexxya(andexanet alfa、米名AndexXa)がEUで条件付き承認されたと発表した。Xa阻害剤のEliquis(apixaban)またはXarelto(rivaroxaban)を服用している患者が大出血したり緊急手術を受ける時に、抗血栓作用を解毒するために点滴静注する。

米国では昨年5月に承認。欧米共に承認まで2年以上かかったのは、Portolaが健常人の凝固検査値の変化を薬効評価方法としたため。Xa阻害剤服用中に出血した患者を組入れた試験のデータを追加提出するまで承認されなかった。

米国と同様に市販後薬効確認試験の実施が義務付けられた。Xa阻害剤服用中に頭蓋内出血を発症した患者を組入れて、治療12時間後の臨床的評価とCT/MRI造影評価を偽薬群と比較する。

リンク: Portolaのプレスリリース





今週は以上です。

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2019年4月21日

2019年4月21日

【ニュース・ヘッドライン】

  • 新規抗生薬の承認から一年足らずで破産法申請 
  • SMA遺伝子療法の第三相中間データ 
  • SCIDの遺伝子療法が成功 
  • 抗NGF抗体は諸刃の剣 
  • ノバルティス、小さな抗VEGF-A抗体をwAMDに承認申請 
  • リムパーザ、欧州でも乳癌に適応拡大 


【今週の話題】


新規抗生薬の承認から一年足らずで破産法申請
(2019年4月15日発表)

Achaogen(Nasdaq:AKAO)は米連邦破産法第11章の適用を連邦デラウェア地域倒産裁判所に申請した。アミノグリコシド系抗生薬Zemdri(plazomicin)の開発に成功し昨年6月に薬物耐性複雑性尿路感染症治療薬としてFDAに承認されたばかり。一部の主評価項目でmeropenemを有意に上回るなど効果は良好だが、このクラスの抗生剤につきものの腎毒性や難聴リスクが既存薬ほどではないにしてもゼロではないことなどから、18年7-12月の売上高は80万ドルに留まっていた。

同社の株価は、急展開を予見するかのように、承認前日の12ドルから低下を始め、直近では0.1ドル台に暴落していた。

抗生剤の開発と耐性菌の出現はエンドレスなので弛まぬ研究開発が必要だが、せっかく新薬を開発しても、稀だが深刻な副作用が付き物であることや包括医療費支払制度の下では高価な新薬を使いにくいことなどから、取って置きの薬として使われないまま取って置かれてしまいがちで、売上高が伸び悩むケースが散見される。

米国は優先審査バウチャー制度が導入されたため、その新薬に関する研究開発投資は回収できるだろうが、売れなかったら販売固定費を回収できない。また、製薬会社は開発失敗したプロジェクトの損失を成功した薬の収益で回収しなければ事業が回らない。欧米や日本では医療施設に毎年一定額を課金する定額課金制度の導入も検討されているようだが、ワークするものかどうか。

Zemdriがもっと良い薬だったら違う結果になったかもしれないが、Achaogenの破産はこの問題の深刻さを示している。

リンク: Achaogenのプレスリリース


【新薬開発】


SMA遺伝子療法の第三相中間データ
(2019年4月16日発表)

ノバルティスが昨年5月に87億ドルで買収したAveXisは、10月にZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)をI型脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬として日米欧で承認申請した。米国は5月、日本も6月までに承認される可能性がある。第一相試験に基づき各地で先駆け指定を受けて承認申請に至ったものだが、今回、MDA(筋ジストロフィー協会)臨床・科学会議で第三相試験の中間解析結果が発表された。

ZolgensmaはSMN2遺伝子の相補的DNAと連続的プロモータを遺伝子組換え型アデノ随伴ウイルス9型をベクターとして導入するもの。機能しないSMN1遺伝子に替えてSMN2に欠乏するSMN蛋白を産生させる。オハイオ州のNationwide Children's Hospitalからライセンスした。RegenxBio社の技術を用いて血液脳関門通過性を持たせている由。

今回のSTR1VE試験は、月齢6ヶ月未満で発症するI型のSMA患者二十数名を組入れて一回投与し、イベントフリー・サバイバル(EFS:永続的人工呼吸なしで生存)や座位維持能力などを評価する。18年9月27日時点の中間解析で、評価対象22人(メジアン月齢は9.5ヶ月)のうち21人がEFS。10.5ヶ月に到達した患者7人中では6人となり、自然歴(50%程度)より良い結果となった。CHOP-INTEND臨床評価スコアも改善した。

死去は一人。薬物との関連性は否定された。剖検の結果、中枢神経でもSMN発現が認められた。尚、同時進行している欧州試験でも一人が呼吸器感染症と神経学的合併症により死亡し、医師が薬物関連の可能性を指摘したとのことで、今後、剖検を行う予定。

SMA治療薬といえばバイオジェンがIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスし開発したアンチセンス薬、Spinraza(nusinersen)が16年から17年にかけて日米欧で承認された。Zolgensmaは遺伝子療法なので投与頻度が少なくて済む可能性があるが、どちらもまだ症例数が少ないので、効果や安全性、価格、効果の長期的な持続性などを総合的に検討する必要がありそうだ。

米国の費用対効果評価機関であるICERは、Zolgensmaの価格が年150万ドル以下なら費用対効果が良好と判定した。Spinrazaに関しては初年度75万ドル、2年目以降は年37.5万ドルという価格は費用対効果がないと評価した。

リンク: Avexisのプレスリリース

SCIDの遺伝子療法が成功
(2019年4月17日発表)

St. Jude Children's Research Hospitalが開発したX-SCID(X連鎖重症複合免疫不全症)遺伝子療法の第1/2相試験の治験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。X-SCIDは遺伝子療法の典型的な研究対象で、20年前にフランスで治療が成功し注目されたが、白血病のリスクが浮上し急ブレーキがかかった。今度こそ良い報告が続くことを期待したい。

X-SCIDはIL-2受容体ガンマの遺伝子変異によりIL-4など様々なIL受容体のシグナル伝達が上手く行われず、T細胞やNK細胞が欠損・著減。免疫力が著しく弱いため無菌環境で生活する必要がある。SCIDの5割程度を占め、有病率は20万人に一人とされる。この遺伝子療法(MB-107)はex vivoでIL-2受容体ガンマの相補的DNAをレンチウイルスベクターを用いて導入するもの。

今回の試験は2歳以上のX-SCID患者8人を組入れて、低量busulfanでプリトリートした上で遺伝子導入細胞を投与し、メジアン16.4ヶ月追跡した。7人でT細胞とNK細胞の数が正常化、残りの一人は2回目を施行した。7人でIgM水準が正常化、うち4人は免疫グロブリン点滴を止めることができ、そのうち3人は標準的なワクチンに応答した。病院側のプレスリリースによると、X-SCIDを治癒したと呼んでも良い成果とのこと。白血病は発生していない。

この病院は、アメリカの人気コメディアンがブレイク前の神との約束を守って1961年に設立、小児難病の研究に特化している。MB-107の研究を主導した研究者は、NEJM論文の原稿を投稿した後に亡くなったとのことで、さぞ無念だったろう。

Fortress Biotech(Nasdaq:FBIO)の子会社のMustang Bio(Nasdaq:MBIO)が18年に世界独占開発商業化権を取得しMB-107として開発中。大手製薬会社は遺伝子療法など斬新な分野に積極的に参入しており、Mustangも開発が順調に進めば買収ターゲットになるのではないか。

リンク: Mamcarzらの治験論文抄録(NEJM)

抗NGF抗体は諸刃の剣
(2019年4月18日発表)

ファイザーとイーライリリーは、中重度変形性関節炎治療薬として共同開発中の抗NGFヒト化抗体、PF04383119(tanezumab)の長期安全性試験の結果を発表した。今回も一部の患者で有害関節イベントが見られ、多くはそれほど深刻ではないが、何年も使い続けたらどうなるのか不安だ。また、全関節置換や死亡が増加しているのも気持ち悪い。高用量群は効果が非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)より高そうだが、裏目に出た時のペナルティを正当化できるのだろうか。

骨粗鬆症治療薬でも一部の患者で骨壊死が発生したり、何年も連続使用することができない薬が承認されたり、骨は難しい。

NGFはジェネンテックが同定し、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの治療を探索したが成功しなかった。痛みや温度の感受性が高まるという症例報告があったため、今度は抗NGF抗体を疼痛治療薬として開発することになった。その後、ジェネンテックは中枢神経系部門をスピンアウト、ファイザーが買収、という経緯だ。

第三相まで進めたところで、2010年に、変形性関節炎の急速な進行(RPOA)や無腐性骨壊死、関節置換術施行のリスクが顕在化、FDAは数社が開発していた抗NGF抗体の治験停止を命じた。12年7月の諮問委員会は全員一致で開発続行を勧告したが、某社の毒性試験で末梢神経系有害事象の懸念が浮上し臨床症例もあったため再び部分的治験停止となった。ファイザーは交感神経系毒性試験を行う一方でイーライリリーとリスクシェアリング契約を結び、15年に治験停止が解除されるや、第三相を再開した。

今回の安全性試験は中重度膝股関節変形性関節炎でアセトアミノフェンに不十分反応/不耐の3021人を2.5mg群、5mg群(何れも8週毎皮注)、NSAIDs群に無作為化割付して、薬効や長期関節安全性を検討したもの。5mg群は疼痛緩和や身体機能でNSAIDs群を有意に上回ったが、もう一つの主評価項目である患者自身の総合的評価は有意差がなかった。2.5mg群は三指標とも有意差なし。何れにせよ、現実の医療ではNSAIDsでまあまあ足りる患者に抗NGF抗体を使うことはないだろうから、薬効を比較してもあまり意味がない。

80週間の関節イベント発生率はNSAIDs、2.5mg、5mgの各群が1.5%、3.8%、7.1%と有意に増加した。RPOAが1.2%、3.2%、6.3%と太宗を占め、その81%はI型(関節空間狭窄など)でII型(関節損傷・劣化)は少なかったので、酷く深刻ではないと考えることもできるだろう。とことが、全関節置換は2.6%、5.3%、8.0%と今回も増加した。死亡は偽薬群1名、試験薬二群合計が9名と、ノイズと一蹴するには大きな偏りが出ている。

関節イベントが増加するのは痛みが軽快し活動性が活発化するから、という話を聞いたことがあるが、これだけ大きな問題になったのだから、近年の臨床試験では口を酸っぱくして患者に自制を促しただろう。それでも結果が大差ないとしたら、骨粗鬆症治療薬と同様に、骨には私たちの知らないことがたくさんあると考えざるを得ない。

ファイザーは他の試験のデータと包括的に検討を進める考え。承認申請するかどうか明らかではない。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ノバルティス、小さな抗VEGF-A抗体をwAMDに承認申請
(2019年4月15日発表)

ノバルティスは、RTH258(brolucizumab)を滲出型加齢性黄斑変性症の治療薬として承認申請した。ジェネンテックからライセンスして販売しているLucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)と同様にVEGF-Aに結合するが、抗体の一部だけの短鎖フラグメントなので分子量が26キロダルトンと小さく、Lucentisの48キロダルトン、Eylea(aflibercept)の115キロダルトンと比べても小さい。

視力改善効果はEyleaと同程度。投与頻度は当初3ヶ月の後は12週間に一回とインターバルが長い。尤も、定期的に網膜検査を行って必要なら投与する治療方針の医師にとっては、それほど大きなメリットではないだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認】


リムパーザ、欧州でも乳癌に適応拡大
(2019年4月10日発表)

アストラゼネカは、PARP阻害剤Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)を転移性乳癌の二次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。BRCA遺伝子に有害変異を持つ、her2陰性の、化学療法歴を持つ患者が適応になる。

切除付随治療または転移性乳癌治療でアントラサイクリンとタクサンによる治療歴を持つ患者を組入れた第三相試験では、独立放射線学的委員会が盲検査読したPFS(無進行生存期間)がメジアン7.0ヶ月と、実薬対照群(capecitabine、vinorelbine、eribulinの中から選択)の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58、統計的に有意だった。

この適応拡大は米国では昨年1月、日本も昨年6月に承認された。欧州申請は昨年4月なので、EUの審査が遅かったわけではない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース






今週は以上です。

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2019年4月14日

2019年4月14日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • EASL:急性肝性ポルフィリン症治療薬の第三相データ発表 
  • Zogenix、ドラベ症候群治療薬の承認申請は受理されず 
  • FDA、FGFR阻害剤を膀胱癌用薬として承認 
  • イベニティが米国でも承認 
  • FDA、HIV/AIDSの二剤併用療法薬を承認 
  • FDA、Addyiのレーベル変更を製薬会社に命令 


【新薬開発】


EASL:急性肝性ポルフィリン症治療薬の第三相データ発表
(2019年4月12日発表)

RNA介入薬のスペシャリスト、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、3月にALN-AS1(givosiran)の第三相急性肝ポルフィリン症(AHP)試験の成功を公表したが、治療効果など詳細がEASL(欧州肝臓学会)で発表された。

AHPはヘム合成回路に係る複数の酵素の一つに機能喪失・低下変異があり、ポルフィリンが蓄積して臓器や神経に障害を与える。患者数は米国で2万人以下の希少疾患。急性間欠性ポルフィリン症と呼ばれるサブタイプが最も多い。

ALN-AS1はALAS1(アミノレブリン酸合成酵素1)の発現を沈黙させるsiRNA薬で、ポルフィリンの前駆体でGABAと競合して神経毒性を招くALA(アミノレブリン酸)や、PBG(ポルホビリノゲン)の合成を抑制する。欧米で希少疾患用薬指定と画期的治療薬指定を受けている。

第三相試験は日本を含む18ヶ国の医療施設で94人の患者を偽薬群と2.5mg/kg群に無作為化割付して月一回皮注による治療効果を半年間観察した。主評価項目はAIPサブグループ89例におけるポルフィリン性アタック(AHPによる入院や緊急医療、既存の治療法であるヘミンの投与)の年率発生頻度。試験薬群は平均3.2と偽薬群の12.5より74%少なく、統計的に高度に有意だった。中央値で比較すると1.0対10.7で90%少なかった。

シーケンシャルに実施された二次的評価項目の解析も、9項目中5項目が成功。その一つであるAHP全体の解析も平均で73%少なかった。一方、疼痛、疲労、悪心など症状関連指標はフェールした。

3月に公表されたように、深刻有害事象の発生率は20.8%と偽薬群の8.7%を上回った。主なものは悪心、注射箇所反応、慢性腎疾患(10.4%、偽薬群はゼロ)、疲労など。肝機能検査値が正常値上限を3倍超上回る症例は14.6%(偽薬群は2.2%)、但し何れもHyの法則には該当しない由。被験者は一人を除いてオープンレーベル延長試験に参加したとのことなので、副作用は忍容できる範囲なのだろう。

Alnylamは年央までに米国のローリング承認申請を完了するとともに欧州で承認申請する考え。

リンク: EASLでの発表要旨とプレゼンテーション・スライドのリンク


【承認審査・委員会】


Zogenix、ドラベ症候群治療薬の承認申請は受理されず
(2019年4月8日発表)

Zogenix(Nasdaq:ZGNX)はFintepla(fenfluramine hydrochloride)をドラベ症候群治療薬として開発、2月にFDAに承認申請したが、受理されなかったと発表したした。慢性投与に関する前臨床試験の不足や、臨床データセットが誤ったバージョンのものであったことが原因のようで、臨床的な効用や安全性に係る追加試験は求められていないとのこと。

ドラベ症候群は乳幼児期に全身/半身けいれん発作を発症する。8割の患者はSCN1A(ナトリウムチャネル遺伝子)の機能低下変異を持つ。fenfluramineはセロトニンなどの神経伝達物質を増強する作用を持っており、20世紀後半に食欲抑制剤として用いられたが、肺高血圧症や心臓弁膜症のリスクが表面化、米国では97年に自主回収となった。Pondimin(fenfluramine)やRedux(dexfenfluramine)を販売していたワイスはPL訴訟和解金として200億ドルを超える拠出を余儀なくされた。

Finteplaの第三相試験二本では肺高血圧症や心臓弁膜症の兆候は見られなかったようだ。Pondiminは20mg(40mgまで漸増可)を毎食前服用なので60-120mg/日となるが、Finteplaは体重1kg当り0.8mg、但し上限30mg、を一日二回に分けて服用なので、Pondiminの半分以下に抑えている。尤も、典型的な患者の体重は大きく異なるだろうからkg当り投与量はそれほど変わらないかもしれない。尚、他のドラベ症候群治療薬と併用する時は薬物相互採用を考慮して0.5mg/kgに減量する。

Pondiminや米国で人気を集めたフェンフェン療法の併用薬であるphentermineは、少なくとも米国では数週間の短期コースしか承認されていなかった。また、販売承認取得に必要な試験の種類や期間も昔と今では変わっている。今回、FDAが慢性投与に係る前臨床試験を求めたのは、これらの事情が関係しているのではないか。

具体的な内容は不明だが、もし1年以上の毒性試験を求められたのだとすると、再承認申請が相応に遅れることになる。

Finteplaは欧州でも承認申請中。日本は第三相段階の模様で、今年3月に日本新薬が独占販売権を取得した。

リンク: Zogenixのプレスリリース


【承認】


FDA、FGFR阻害剤を膀胱癌用薬として承認
(2019年4月12日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのBalversa(erdafitinib)を局所進行性/転移性尿路上皮癌用薬として加速承認した。白金薬による治療歴を持ち、同時に承認されたQIAGEN社のコンパニオン診断キットを用いた検査でFGFR3またはFGFR2の遺伝子に特定の変異/融合が検出された場合、適応になる。該当するのは転移性尿路上皮癌の2割程度、米国で年3000人程度と推定されている。

第三相実薬対照試験は昨年始まったばかり。加速承認の根拠となった87例の第二相試験では、BIRC(盲検独立評価委員会)がORR(客観的反応率)を32.2%と判定した。完全反応率は2.3%のみ、反応持続期間のメジアン値は5.4ヶ月で、やや物足りない。

尿路上皮癌は膀胱癌のうち最も多いタイプ。腫瘍学領域を席巻している抗PD-1/PD-L1抗体も承認されているが、上記第二相では抗PD-1/PD-L1不応でもBalversaに応答した癌があった由。一方、FGFR変異のうちFGFR2融合6例ではORRがなく、有効性は判然としない。

G3以上の有害反応は口内炎や爪の様々な異常、手掌-足底発赤知覚不全症候群など。FDAは、目の検査やリンの血液検査を推奨した。前者は中心性漿液性網膜症や網膜色素上皮剥離を早期に発見するためだが、後者は薬効の指標とする狙いもあり、治療開始2~3週後になっても数値が低い場合はBalversaを増量する。

Balversaは汎FGFR阻害剤。一日一回8mg(リン値が低い場合は9mg)を経口投与する。08年にAstex Therapeutics(13年に大塚製薬が買収)から世界開発販売権を取得したもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

イベニティが米国でも承認
(2019年4月9日発表)

FDAは、アムジェンがUCBと共同開発したEvenity(romosozumab-aqqg、和名イベニティ)を閉経後骨粗鬆症治療薬として承認した。骨粗鬆症性骨折歴や、複数の骨折リスク因子保有、他の骨粗鬆症治療薬に不応不耐など、骨折リスクの高い患者が適応になる。月一回、医療従事者が皮注する。効果が減衰するため最大でも12回の投与で終える。

臨床試験では、1年間の椎骨新規損壊リスクが偽薬比73%小さかった。1年目はEvenity、2年目はalendronateを投与した試験では、2年間alendronateを投与した群より50%小さかった。

心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクが枠付警告された。1年以内に発症歴を持つ患者には投与しない。アムジェンは市販後監視を行う予定。

UCBが買収した英国のバイオベンチャー、セルテックがアムジェンと共同開発した抗体医薬で、造骨細胞を抑制するスクレロスチンに結合・ブロックする。骨形成を促進し、骨吸収を抑制する。日本では今年1月に承認、2月に一日薬価1625円で薬価収載された。

アナボリック作用を持つ高価な皮注用薬で治療期間が限定されているという点で、イーライリリーのForteo(teriparatide、和名フォルテオ)と共通している。米国で02年に承認、癌原性懸念などから将来性に疑問が持たれたが、18年の全世界売上高は17億ドルと相応に成功した。長期的な治療が必要な疾患における1年しか使えない薬の位置付けは微妙だが、オルターナティブ系骨粗鬆症治療薬は選択肢が限られるので、Evenityも重宝されるのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

FDA、HIV/AIDSの二剤併用療法薬を承認
(2019年4月8日発表)

FDAは、ヴィーヴ・ヘルスケアのDovatoをHIV/AIDSで初めて抗ウイルス治療を受ける患者の治療薬として承認した。塩野義製薬が創製したインテグラーゼ阻害剤、dolutegravirとグラクソ・スミスクラインの核酸系逆転写阻害剤、lamivudineのFTC(固定用量合剤)で、この二活性成分だけで完結する(米国初)。勿論、どちらかの成分に抵抗性を持つ患者は対象外。

HIV/AIDSの治療は核酸系逆転写阻害剤を二種類とそれ以外を一種類以上併用する、高度アグレッシブ抗レトロウイルス療法が一般的。ピルバーデンを緩和するために2-4種類の活性成分を配合したFTCが複数、販売されているが、厄介なのは、核酸系逆転写阻害剤のGE化が進んできたこと。FTCではなくGE薬と別々に購入した方が安上りかもしれない。FTCのGE薬も登場し始めた。

対策としては、FTCの値下げで対応することや、新しい組み合わせのFTCを投入することなどが考えられる。GSKと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーヴも、製品開発を加速している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、Addyiのレーベル変更を製薬会社に命令
(2019年4月11日発表)

欧米で医薬品のリコールが行われる場合、殆どが製薬会社による自主的な判断である。承認審査機関の圧力があろうがなかろうが、関係ない。米国は民間企業が監督官庁の行政行為に不満を持ち訴訟を起こすことが珍しくないが、それでも、医薬品を自主回収したり添付文書の副作用警告の追加・強化はメーカーが自主的に行う。製薬会社は責任意識を持つ企業としてイメージアップを図り、当局は強制執行に付随する手間や時間を省くメリットがある。

今回、珍しいことをFDAが発表した。Sprout PharmaceuticalsにAddyi(flibanserin)の添付文書変更を命じたのだ。女性の後天性全般性HSDD(性的欲望低下障害)治療薬で、重度低血圧や失神のリスクが枠付警告されている。アルコール飲料と同時摂取するとリスクが高まる可能性があるため承認後に試験を行うようFDAが求めた。

結果、飲酒を終えてから2時間以上経ってから服用すればリスクが低下することが確認できたが、Sproutが要求したアルコール相互作用の警告解除に関しては、安全性確認試験は成功したものの、FDAはプロトコルが不適切で検出できなかった可能性があると判定、Sproutと意見が対立した。レーベルは製薬会社の著作物なのでFDAが書き換えることはできず、公式に権限を行使して変更を求めたもの。

flibanserinは5-HT1A作動/5-HT2A拮抗剤。元々はベーリンガー・インゲルハイムが承認申請したがFDAも諮問委員会も効果が穏やかで副作用リスクと釣り合わないと判定、2010年に開発中止を決めた。Sproutは11年に権利を取得、13年の再申請は駄目だったが15年に承認獲得した。飲酒の制約はマーケティング面で重要なので、安全性確認試験のプロトコルを事前にFDAとよく協議しておくべきだった。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

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