【ニュース・ヘッドライン】
- ロシュ、経口SMA用薬試験の至適用量群のデータを発表
- アストラゼネカのBTK阻害剤、再発難治CLL試験が成功
- 第一三共のADC、加速承認用試験が成功
- MSD、ベルソムラのアルツハイマー病患者不眠症治療試験が成功
- BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール
- FDA諮問委員会、嚢胞性線維症治療用マンニトールを過半の委員が支持
- ファイザーのビンダケル、米国でも承認
- FDA、もう一つのamifampridineを承認
- ロシュのカドサイラ、早期乳癌の術後アジュバントに承認
- 家族性カイロミクロン血症候群治療薬がEUで承認
【新薬開発】
ロシュ、経口SMA用薬試験の至適用量群のデータを発表
(2019年5月6日発表)
ロシュは、SMA(脊髄筋委縮症)治療薬として開発しているRG7916/RO7034067(risdiplam)のP2/3試験の用量決定パートのデータをAAN米国神経学会で発表した。乳児期に発症する重篤なタイプであるSMAI型を組入れた試験で、仮説検証パートで用いる用量を投与した患者17人のうち7人(41%)が支え無しで5秒間静坐することができた。運動機能を評価するCHOP-INTENDトータルスコアは1年でメジアン17.5ポイント改善し、17人中10人が40ポイント以上だった。
主な有害事象は発熱、上部気道感染症、下痢、嘔吐、咳、肺炎、便秘など。
仮説検証パートは既にかなり進行しており、今年第4四半期(10-12月)にトップラインが判明する見込み。
SMAのII型とIII型を組入れたSUNFISH試験の用量決定パートの探索的薬効解析結果(n=43)も発表された。58%の患者でMFM32スケールが3ポイント以上改善した。2歳から25歳まで参加したが、11歳までのサブグループでは71%で3ポイント以上改善した。仮説検証パートは2020年第1四半期に開票の見込み。
SMAはSMN1遺伝子の先天的変異・欠損により筋力が低下する、一万人に一人の希少疾患。risdiplamはPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)とSMA財団の共同研究の成果で、ロシュは2011年にライセンスした。SMN蛋白を作ることができるがSMN1ほど量産できないSMN2遺伝子のスプライシングに介入して、SMNの全長mRNAを通常より多く生成できるようにする作用機序だ。
バイオジェンがIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスして開発したSpinraza(nusinersen)と異なり経口投与できる。これまでのデータを見る限りでは、効果が上回る可能性もありそうだ。
ロシュと米国子会社のジェネンテックは、今年下半期中に欧米で承認申請する計画。
リンク: ジェネンテックのプレスリリース
アストラゼネカのBTK阻害剤、再発難治CLL試験が成功
(2019年5月7日発表)
アストラゼネカは、Calquence(acalabrutinib)の第三相再発難治慢性リンパ性白血病(CLL)試験が中間解析で成功し、繰上げ終了する予定であることを発表した。データは学会発表の予定。
16年に子会社化したAcerta PharmaのBTK(Bruton tyrosine kinase)阻害剤で、17年に米国で再発性マントル細胞リンパ腫に承認された。今回のASCEND試験は100mgを一日二回、経口投与する群のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会が査読)を、rituxanとbendamustineまたはZydelig(idelalisib)を併用するレジメンと比較した。
BTK阻害剤はアッヴィ/JNJのImbruvica(ibrutinib)が先陣を切っており、CLLでは併用による再発治療が承認されている。一次治療も高齢者のモノセラピー試験でPFSがrituximab・bendamustine併用群を有意に上回った。
Calquenceは忍容性の点で評価が高い模様であり、今回のモノセラピーだけでなく様々なレジメンで開発が進めば、ベストインクラスとしての評価を確立できるかもしれない。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
第一三共のADC、加速承認用試験が成功
(2019年5月8日発表)
第一三共と共同開発販売パートナーのアストラゼネカは、DS-8201(trastuzumab deruxtecan)の第二相her2陽性転移性乳癌試験が良好な結果になったことを明らかにした。具体的な数値は不明だが、過去の同様な試験と大差ないようだ。予定通り、日米欧で承認申請に向かう予定。アストラゼネカにプレスリリースによると、米国では19年内に申請を開始する予定。
DS-8201はHerceptinの抗her2抗体、trastuzumabとirinotecan誘導体をリンカーで結合した、抗体薬物複合体(ADC)。日本の製薬会社は抗癌剤の開発で後手を踏んでいたが、エーザイがVEGFR阻害剤でMSDと手を組んだのに続いて、第一三共もアストラゼネカと大型共同開発販売契約を結ぶなど、存在感を強めている。
今回のDESTINY-Brease01試験はHerceptinやKadcyla(trastuzumab emtansine)による前治療歴を持つ転移性乳癌患者253人を日米欧の施設で組入れてORR(客観的反応率、第三者評価委員会査読)を調べたもの。DS-8201の潜在能力の点では序の口とも呼ぶべき用途だ。
DS-8201はtrastuzumabがher2に結合して癌細胞の中に入り、deruxtecanが分離して細胞を中から攻撃するトロイの木馬型医薬だが、癌細胞から外に出て近隣の癌細胞を攻撃する能力も高いようだ。似たようなADCであるKadcylaより効果が高い可能性があり、第三相では直接比較している。更に、Herceptin/Kadcylaが適応にならないher2低発現乳癌や、her2陽性非小細胞性肺癌などにも開発されている。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
MSD、ベルソムラのアルツハイマー病患者不眠症治療試験が成功
(2019年5月7日発表)
MSDは、不眠症治療薬として日米で承認されているオレキシン受容体アンタゴニスト、Belsomra(suvorexant、和名ベルソムラ)を軽中度アルツハイマー病患者の不眠症の治療に用いる第三相試験が成功したとAAN米国神経学会で発表した。米国でこの試験のデータをレーベルに収載すべく承認申請する予定。
用量は米国における承認内容と同じで、10mgで開始、効果が不十分なら20mgに増量可。7割超が増量した由だ。主評価項目の総睡眠時間(ポリソムノグラフィーで計測)はベースライン時点の平均4時間半から73分増加、偽薬群は45分だったため、治療効果は28分となり、統計的に有意だった。二次的評価項目のWASO(睡眠後の覚醒時間)も偽薬比15分改善。有害事象発生率は22%対16%で若干上昇した。
リンク: MSDのプレスリリース
BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール
(2019年5月9日発表)
BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckmate498試験がフェールしたと発表した。Opdivoは様々な腫瘍に用途を広げているが、多形性膠芽腫の第三相試験は17年に二次治療試験がフェール、今回はMGMT遺伝子がメチル化されていない患者の一次治療試験がフェールと、なかなか結果が出ない。もう一本、MGMTメチル化型を組入れた548試験が進行中だが、結果判明は21年の見込み。
MGMTは、temozolomideのようなアルキル化薬によるDNA損傷を修復する酵素だが、遺伝子のプロモーター部分がメチル化していると発現が抑制されるため、多形性膠芽腫の予後やアルキル化薬応答性を予測するのに使われている。
548試験はメチル化型が対象であるため標準療法であるtemozolomideと併用しているが、今回の試験は、手術後の放射線療法とともにOpdivoを投与して、術後放射線療法とtemozolomideを併用する群と全生存期間を比較した。形の上では実薬対照試験だが、temozolomideは非メチル化には効果は期待できないと考えるならば、実質的には偽薬対照試験のようなものだ。
Nature Medicineに最近掲載された治験論文によれば、Opdivoと同じ抗PD-1抗体であるKeytruda(pembrolizumab)を切除可能多形性膠芽腫に用いる時は術後ではなく術前のほうが良い。小規模な試験なので確立した用法とは言えないが、Opdivoについてもまだ工夫の余地はありそうだ。
リンク: BMSのプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、嚢胞性線維症治療用マンニトールを過半の委員が支持
(2019年5月9日発表)
オーストラリアのPharmaxis(ASX:PXS)は、FDAの肺・アレルギー薬諮問委員会が嚢胞性線維症治療薬Bronchitol(mannitol)を検討し、16人の委員のうち9人が承認を支持したと発表した。反対も多かったことになるが、6年前の委員会では14人全員が反対だったので前進した。
Bronchitolは糖アルコールであるマンニトールのドライパウダー・インヘイラー用新製剤。欧州では12年に承認された。米国承認が遅れたのは、第一に、二本の第三相試験が一勝一敗で、偽薬比有意な差がみられた試験でも治療効果は小さかったため。第二は喀血のような重大な有害事象が特に小児で見られたため。
Pharmaxisは、13年に審査完了通知を受領した後、三本目の第三相を実施して成功させ、対象年齢を9歳以上ではなく18歳以上に限定して再承認申請、今回の首尾につながった。
但し、承認されるかどうかはまだ不透明。薬効のエビデンスは整ったが、FEV1の改善が偽薬比50-80mLと小さいことや、増悪を防ぐ効果は見られず数値上はむしろ増加したことなど、治療効果に不満が残る。
Bronchitolは欧州主要国ではイタリアのChiesiがディストリビューターで、米国はChiesiが開発販売権を保有している。
リンク: Pharmaxisのプレスリリース
【承認】
ファイザーのビンダケル、米国でも承認
(2019年5月6日発表)
FDAは、ファイザーのVyndaqel(tafamidis meglumine)とVyndamax(tafamidis)をトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)の成人の治療薬として承認した。日欧ではトランスサイレチン家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬として各2011年と2013年に承認されているが、FDAは臨床的便益の検討が不十分とみなし、心筋症試験が成功するまで承認を見送っていた。
トランスサイレチン・アミロイド型の心筋症や神経症は、トランスサイレチンを構成するテトラマーの安定性が損なわれて解離・アミロイド線維として蓄積する。tafamidisはトランスサイレチンに結合して解離を防ぐ。メグルミン塩は臨床試験で用いられた塩で、20mgカプセルを4個、一日一回服用する。遊離酸は61mgカプセルで、こちらなら1日1個で足りるが、発売は遅れるようだ。
リンク: FDAのプレスリリース
FDA、もう一つのamifampridineを承認
(2019年5月6日発表)
FDAは、Jacobus PharmaceuticalのRuzurgi(amifampridine)をランバート・イートン筋無力症症候群(LEMS)の小児(6歳から17歳未満)に用いることを承認した。成人患者向けは18年にCatalyst Pharmaceuticals(Nasdaq:CPRX)のFirdapse(amifampridine phosphate)が承認されたが、小児向けは初。
LEMSはシナプス前神経終末の電位依存性カルシウムチャネルに対する自己免疫疾患で、下肢の筋力低下や自律神経症状を伴う。小細胞性肺癌を伴うことがしばしばある。標準療法は血漿交換やステロイド。
amifampridineはカリウムチャネルブロッカーで、1990年代から人道的使用制度に基づきJacobusの製品がLEMS治療に用いられてきた。EUでは09年にFirdapseが公知データに基づき例外的環境承認され、バイオマリン社が発売したが、価格が従来品より高かったため批判を浴びた。Catalystが権利を取得して18年に発売した米国でも同じで、政治家が建値で年37.5万ドルという価格の値下げを要求した。
Jacobusが正式な承認を取得したのも、医師や患者の声に応えたものと推測される。Firdapseより安価に供給されるだろうから、Catalystには大きな打撃になるだろう。
リンク: FDAのプレスリリース
ロシュのカドサイラ、早期乳癌の術後アジュバントに承認
(2019年5月3日発表)
ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine)をher2陽性早期乳癌の切除術後アジュバント療法に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。術前のネオアジュバント療法でタクサン系抗がん剤とHerceptin(trastuzumab)を使い、病理学的完全寛解に至らなかった患者に用いる。KATHERINE試験で無病生存期間(第三者評価)がHerceptinを用いた群を有意に上回った(ハザードレシオ0.50)。
この承認はFDAのReal-Time Oncology ReviewプログラムとAssessment Aidプログラムの対象で、承認申請が完了してから12週間でスピード承認された。
リンク: ジェネンテックのプレスリリース
家族性カイロミクロン血症候群治療薬がEUで承認
(2019年5月7日発表)
Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)と子会社のAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)は、Waylivra(volanesorsen)がEUで家族性カイロミクロン血症候群(FCS)治療薬として条件付き承認されたと発表した。遺伝子学的に確立したFCSで、食事療法やトリグリセライド低下治療に十分に反応せず、膵炎のリスクが高い患者が適応になる。
FCSはリポ蛋白リパーゼの欠乏によりカイロミクロンを代謝できずトリグリセライド(TG)値が上昇、膵炎のリスクが高まる。有病者は世界で数千人、うち欧州は1,000人程度と推測されている。WaylivraはTGの分解を妨げるApoC-IIIの遺伝子をアンチセンスし、TG値を引き下げる。米国でも承認申請されたが、血小板減少症や出血リスクが見られることやリスク回避策の検討が不十分であることから、審査完了となった。
リンク: 両社のプレスリリース
今週は以上です。
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