2019年5月19日

2019年5月19日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ファイザー、JAK1阻害剤のアトピー性皮膚炎試験が成功 
  • 武田のレルミナ、海外試験も成功 
  • アッヴィのADC、脳腫瘍試験が無益中止に 
  • FDA諮問委員会が第一三共の抗腫瘍薬二剤を検討 
  • ロシュ/アッヴィ、Venclextaが一次治療に適応拡大 
  • バベンチオが腎細胞腫に適応拡大 
  • イーライリリーのサイラムザ、肝臓癌に適応拡大 
  • アイリーアを早期段階の糖尿病網膜症に用いることが承認 
  • EMA、ゼルヤンツの高用量について警告強化 


【新薬開発】


ファイザー、JAK1阻害剤のアトピー性皮膚炎試験が成功
(2019年5月15日発表)

ファイザーは、PF-04965842(abrocitinib)の第三相中重度アトピー性皮膚炎治療試験が成功したと発表した。12歳以上の患者に100mgまたは200mgを12週間に亘って一日一回経口投与したところ、両用量とも、共同主評価項目であるIGA(担当医総合評価)ベースとEASIベースの奏効率が偽薬群を有意に上回った。有害事象による治験離脱率は両用量群とも5.8%、偽薬群は9.1%だった。

PF-04965842はJAK1阻害剤。インターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達を阻害することにより、IL-4、IL-13、IL-31、ガンマ・インターフェロンなどのアトピー性皮膚炎に係る様々な炎症性サイトカインを抑制する。

免疫抑制剤によるアトピー性皮膚炎の治療というと、tacrolimusやpimecrolimusを思い出す。また、同社のJAK1/3阻害剤で抗リウマチ薬として承認されているXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)は承認されている用量の倍を投与した試験で心血管疾患リスクが見られた(後記参照)。

ファイザーは今回のB7451012試験のほかにも複数の第三相を行っているので、稀だが深刻な副作用に関する分析も可能になるだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

武田のレルミナ、海外試験も成功
(2019年5月14日発表)

スイス籍の新薬開発ベンチャーであるMyovant Sciences(NYSE:MYOV)は、MVT-602(relugolix)の第三相子宮筋腫治療試験が成功したと発表した。estradiolとnorethindrone acetateをベースとするレジメンに偽薬またはrelugolixを24週間、追加投与したところ、奏効率が各群18.9%と73.4%となり、統計的に有意な差があった。QOLも改善した。有害事象やそれによる離脱の発生率、そしてBMD値の変化も、大きな群間差はなかったとのこと。

もう一本の第三相の結果は今年第3四半期(7-9月)に判明する見込み。成功なら第4四半期に承認申請する考え。

MVT-602は経口ゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗剤。日本の第三相が一足先に成功、今年1月にレルミナ錠として承認された。婦人科用途での販売はあすか製薬が行う。Myovantはソフトバンクのベンチャーキャピタルなどが出資するRoivant社のグループ会社で、アジアの一部地域以外での権利を持っている。

リンク: Myovantのプレスリリース

アッヴィのADC、脳腫瘍試験が無益中止に
(2019年5月17日発表)

アッヴィは、ABT-414(depatuxizumab mafodotin、通称Depatux-M)の第三相GBM(多形性膠芽腫)一次治療試験を打ち切ると発表した。EGFR増殖型の患者を組入れて放射線療法とtemozolomideの標準的療法に追加する効果を偽薬と比較したが、中間解析で独立データ監視委員会が無益認定した。安全性面で新たな懸念が浮上した訳ではなさそうだが、他の試験の患者組入れも中断する由。

Depatux-Mは抗EGFR抗体とmonomethylauristatin Fを結合したADC。第二相再発治療試験でtemozolomide併用群の全生存期間がtemozolomide/lomustineモノセラピー群を上回るトレンドを示し、追跡調査ではハザードレシオが0.68(95%CI0.48-0.95)と良好な成績を示したため注目されていた。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が第一三共の抗腫瘍薬二剤を検討
(2019年5月15日発表)

FDAは5月14日に腫瘍学諮問委員会を招集し、第一三共の二剤について意見を求めた。TGCT(腱滑膜巨細胞腫)用薬として承認申請されたCSF-1R阻害剤、pexidartinibは12人の委員が便益が危険を上回る(承認に値する)と評価、反対は3人に留まった。一方、FLT3遺伝子のITD変異を持つ再発難治性AML(急性骨髄性白血病)用薬として申請されたFLT3阻害剤、quizartinibについては、賛成3人、反対8人と反対が上回った。

FDAの諮問委員会はFDAが提示する特定の問題について検討するものであり、また、諮問委員会の後も対応策に関する製薬会社との協議は続くので、評決と審査結果が一致するとは限らない。しかし、今回のようにFDA審査官の見解を多くの委員が支持した場合は、食い違うことは少ない。

ひとつ気がかりなのは、quizartinibの臨床試験について、インプリメンテーション面の懸念が指摘されていることだ。同社の開発後期パイプラインの花形は今回のニッチ薬二剤ではなく、抗体薬物複合体のDS-8201(trastuzumab deruxtecan)だが、こちらの承認申請用試験はキチンと行われているのだろうか?

TGCTは関節の炎症等を伴う良性腫瘍。米国の新患は年16000人程度の希少疾患。殆どは切除可能で、不適な患者がpexidartinibの対象になる。移植や死亡につながり得る肝毒性が見られ、第三相試験の途中でデータ監視委員会が組入れ中止を勧告したが、目標126人に対して121人を組入れ済みだったため、解析には大きな影響がなかった。審査期限は8月3日。

quizartinibの審査期限は8月25日。日本や欧州でも承認審査中。FDAや諮問委員会が承認に慎重なのは、第三相試験のメジアン生存期間が6.2ヶ月と実薬対照群の4.7ヶ月を1ヶ月強しか上回らなかったため。ハザードレシオは0.76と悪くなく、実薬対照試験なので私は治療効果が小さいとは考えていなかったが、対照群の2割が一度も投与を受けず離脱していたとのことであり、愕然とした。試験薬群は2%のみであり、盲検にしなかった判断ミスが大きな失敗をもたらした。

リンク: 第一三共のプレスリリース(ペキシダルチニブについて、和文)
リンク: 同(キザルチニブについて、和文)


【承認】


ロシュ/アッヴィ、Venclextaが一次治療に適応拡大
(2019年5月16日発表)

ロシュとアッヴィは、夫々に、Venclexta(venetoclax)をCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。持病を持ち強化療法に適さない患者が対象で、ロシュのGazyva(Obinutuzumab、和名ガザイバ)と併用する。

Gazyvaの6ヶ月コースにVenclextaまたはchlorambucilの1年コースを併用した第三相試験では、PFS(無進行生存期間、独立評価委員会査読)のハザードレシオが0.33と、統計的に有意な差があった。詳細は6月のASCO米国臨床腫瘍学会で発表される。

FDAのリアル・タイム・オンコロジー・リビュー・プログラムの対象で、適応拡大申請が受理されてから2ヶ月のスピード承認となった。

Venclextaは、リンパ球などのアポトーシス抵抗性に係るbcl-2を阻害する経口剤。アッヴィとジェネンテックのbcl-2阻害剤やVEGFR阻害剤における共同開発プロジェクトの成果で、二次治療などに承認されている。日本でも再発難治CLLに承認審査中。

リンク: ロシュのプレスリリース

バベンチオが腎細胞腫に適応拡大
(2019年5月14日発表)

FDAは、ドイツのメルクがファイザーと共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)を末期腎細胞腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。既承認のファイザーのVEGFR阻害剤、Inlyta(axitinib)と併用する。第三相試験では、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が13.8ヶ月と、対照薬であるファイザーのVEGFR阻害剤、Sutent(sunitinib)の8.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.0002だった。

この試験の主評価項目であるPD-L1発現(1%以上)サブグループのPFSは各群13.8ヶ月と7.2ヶ月で、ハザードレシオ0.61、統計的に有意だった。

G3/4の肝毒性が9%の患者で発生し、7%の患者がどちらかの薬を打ち切った。主要有害心血管イベントが7%の患者で発生した。

抗PD-1/PD-L1抗体分野のライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)も4月にInlyta併用で同じ用途にFDAから承認された。Keytrudaは他の抗PD-1/PD-L1抗体と異なり三週間に一回の投与であることが特徴で、Bevancioの二週毎より簡便だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

イーライリリーのサイラムザ、肝臓癌に適応拡大
(2019年5月13日発表)

イーライリリーは、Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)を肝細胞腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。アルファ・フェトプロテイン(AFP)値が400 ng/mL以上(肝細胞腫の約5割が該当)で、Nexavar(sorafenib)歴を持つ患者が適応になる。臨床試験ではメジアン生存期間が8.5ヶ月と偽薬群の7.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.71、p=0.019だった。日本や欧州でも適応拡大申請中。

Cyramzaはイムクローン・システムズ社を買収して入手した抗VEGFR-2抗体。胃癌の二次三次治療に承認されている。致死的な出血が枠付警告されていたが、今回、通常の警告に緩和された。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

アイリーアを早期段階の糖尿病網膜症に用いることが承認
(2019年5月13日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)のEylea(aflibercept、和名アイリーア)を非増殖性糖尿病性網膜症の治療に用いる適応拡大がFDAに承認された。既承認の網膜浮腫を伴う糖尿病性網膜症だけでなく、浮腫のない早期段階で介入することが可能になる。第三相PANORAMA試験では、奏効率(DRSSスコアが2ステップ以上改善)が8週毎投与群が65%、4週毎群が80%となり、シャム群(硝子体注射の振りだけ)の15%を有意に上回った。増殖糖尿病網膜症の発症率は各群2%、ゼロ、12%と予防効果も見られた。

リンク: リジェネロンのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、ゼルヤンツの高用量について警告強化
(2019年5月17日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、ファイザーのXeljanz(tofacitinib citrate、和名ゼルヤンツ)に関して、血栓リスクの高い患者に10mg一日二回投与を行わないよう求める暫定的勧告を行った。既報のように、リウマチ性関節炎の高量投与試験で肺塞栓や死亡リスクが見られたため。

リウマチや乾癬の治療では5mg一日二回しか承認されていないが、既存治療不応不耐の潰瘍性結腸炎の寛解導入療法に用いる場合は10mg一日二回が標準用量で、維持療法も米国では標準用量、日欧では5mg一日二回が標準だが必要に応じて10mg一日二回も可となっている。

問題の試験はリウマチ性関節炎で承認された時のフェーズIVコミットメントとして実施されたA3921133試験。10mg一日二回投与の心血管疾患リスクや腫瘍リスクをTNF阻害剤(HumiraやEnbrel)と比較したところ、肺塞栓が3883人年の暴露で18例発生と、TNF阻害剤の3982人年で3例を大きく上回った。全死亡も3897人年で45例と、TNF阻害剤群の3982人年で25例を上回った。1000人に1年間投与すると5人多く死亡する計算になる。

EMAは、血栓リスクが高い患者の例として、心不全、先天的血栓疾患、静脈血栓、ホルモン補充療法や避妊薬、癌、大出術を上げている。また、この試験では、年齢や肥満、喫煙が肺塞栓のリスク因子だった。

リンク: EMAのプレスリリース


今週は以上です。

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