【ニュース・ヘッドライン】
- ノバルティスのトリプルセラピーも第二相でアドエアを上回る
- Array社、BRAF変異大腸癌の第三相が成功
- MSD、キイトルーダは乳癌試験がフェール
- FDA、SMAの遺伝子療法を承認
- FDA、ノバルティスのPI3K阻害剤を承認
- FDA、ジャカビをGvHDに適応拡大
【新薬開発】
ノバルティスのトリプルセラピーも第二相でアドエアを上回る
(2019年3月22日発表)
ノバルティスはQVM149の第二相喘息維持療法試験の結果をATS(米国胸部学会)で発表した。
LABA(長時間作用性ベータ2作用剤)のindacaterolとLAMA(長時間作用性ムスカリン拮抗剤)のglycopyrronium bromide、そしてICS(吸入コルチコステロイド)のmometasone furoateの吸入用固定用量合剤であるQVM149のFEV1(一秒量)改善効果を、LABAのsalmeterolとICSのfluticasone propionateの併用(グラクソ・スミスクラインのAdvairの配合活性成分)を比較したところ、有意に上回った。
具体的には、高用量群(各150/50/160 mcg配合)はsalmeterol 50 mcgとfluticasone propionate(500mcg、高用量)より172 mL大きかった。低用量群(150/50/80 mcg)も159 mL上回った。尚、QVM149は一日一回吸入、対照薬は一日二回吸入する。
LAMAはCOPD維持療法薬として第一選択になり、喘息症でも管理不良患者に追加する薬として使われるようになってきた。LABAとICSを併用しても喘息発作を十分に防げない場合は、QVM149のようなトリプルセラピーにステップアップを検討することになるが、LAMAを追加しても効果が高まらないのでは意味がない。今回の第二相試験の成功は、5月5日号で取り上げたグラクソ・スミスクラインのTrelegyをBreoと比較した第三相試験と同様に、成功して当たり前、成功しなかったら衝撃が走る。
QVM149のLAMAはArakis社(05年8月に日本のそーせいが買収)がVectura社と共同開発した製剤を05年4月にライセンスしたもの。ICSは06年にシェリング・プラウと開始した喘息症用合剤開発プロジェクトの対象であったAsmanex(和名アズマネックス)の権利を09年に単独開発に切り替えたもの。
どちらも10年以上前の話で、ノバルティスの現在の経営陣は戦略的重点開発品とは考えていないように感じられる。例えば、上記LAMAだけを配合するSeebri(和名シーブリ)は米国販売権を大日本住友製薬の米国法人に譲渡してしまった。
リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: 海外医薬ニュース2019年5月5日号(『GSKのテリルジー、レルベアより効果が些か高い』収載)
Array社、BRAF変異大腸癌の第三相が成功
(2019年5月21日発表)
Array BioPharma(Nasdaq:ARRY)は、第三相BEACON CRC試験の中間解析が成功したと発表した。BRAF-V600変異を持つ転移性結腸直腸癌の二次/三次治療における三剤併用レジメンの効果をcetuximab(抗EGFR抗体)とirinotecanを併用する標準療法と比較したもので、ORR(客観的反応率)も全生存期間も有意に上回った。
このレジメンは、BRAF-V600E変異を持つ切除不能/転移性黒色腫用薬として日米欧で承認されているBRAF阻害剤Braftovi(encorafenib)とMEK阻害剤Mektovi(binimetinib、和名メクトビ)をcetuximabと併用するもの。ORR(独立パネルが盲検で査読、最初の331人の患者が対象)は26.1%と、標準療法群の1.9%を上回った。メジアン生存期間(全665人が対象)は各9.0ヶ月と5.4ヶ月でハザードレシオは0.52だった。
二次的評価項目の一つである、Braftovi・cetuximab併用群と標準療法群の比較は、ORRが20.4%対1.9%、メジアン生存期間は8.4ヶ月対5.4ヶ月、ハザードレシオは0.60だった。公式の解析ではないが、トリプレットとダブレットの比較はORRも全生存期間もトレンドに留まった。このため、三剤併用がマストなのか、二剤で足りるのか、一抹の疑念が残る。
BRAF変異は悪性黒色腫の5割で見られるが、結腸直腸癌では10-15%に留まる模様。600番目のコドンがV(バリン)ではなくE(グルタミン酸)に置換されているV600E変異が最も多く、今回のデータを見てもわかるように、既存薬応答性やメジアン生存期間があまりよくない。
Arrayは今年後半に適応拡大申請する考え。日本では小野薬品が開発し今年1月にBRAF-V600変異型切除不能悪性黒色腫用薬として承認された。今回の用途でも追加申請されるのではないか。
リンク: Array社のプレスリリース
MSD、キイトルーダは乳癌試験がフェール
(2019年5月20日発表)
MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の第三相KEYNOTE-119試験のフェールを発表した。転移性トリプルネガティブ乳癌の二次/三次治療における効果を化学療法(capecitabine、eribulin、gemcitabine、vinorelbineから担当医が選択)と比較したが、延命効果が有意に上回らなかった。
転移性乳癌はエストロゲン受容体やプロゲスチン受容体、her2の発現状況に応じて治療薬を選択する。トリプルネガティブ乳癌は何れも陰性で薬の選択肢が少なく、予後も比較的よくない。抗PD-1/PD-L1抗体の適応拡大試験も進められているが、適応拡大に成功したのはロシュのTecentriq(atezolizumab)だけである。
今回の試験とTecentriqの適応拡大試験のデザインを比較すると、まずTecentriqは一次治療で、nab-paclitaxelと併用した。偽薬対照試験なのでハードルは低い。PFS(無進行生存期間)に基づく加速承認なので、将来、全生存の解析がフェールし承認取消の可能性も残っている。
MSDは一次治療三剤併用試験も行っているので、結果が注目される。
もう一つの違いは、PD-L1によるスクリーニングの有無。抗PD-1/PD-L1抗体はバイオマーカーによる応答性予測方法も探索されていて、幾つかの癌種ではPD-L1陽性だけが適応になるが、MSDの今回の試験では不問だった模様。
一方、Tecentriqが適応となるのは、腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現検査で陽性だった患者。これまでのPD-L1に基づくスクリーニング方法は、Opdivoは腫瘍における発現状況、Tecentriqは腫瘍と腫瘍浸潤免疫細胞の両方における発現状況、Keytrudaは適応に応じて区々となっており、腫瘍浸潤免疫細胞だけは初めてた。119試験でも発現データを集めているはずなので、サブグループ分析がどのような結果になるか、注目される。
119試験のバイオマーカー・サブグループ分析と、一次治療試験の成否、そしてTecentriqの全生存解析結果が出揃った段階で両剤の違いを改めて検討することになりそうだ。
リンク: MSDのプレスリリース
【承認】
FDA、SMAの遺伝子療法を承認
(2019年5月24日発表)
FDAは、ノバルティスの子会社であるAveXis社のZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)を脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬として承認した。SMA1遺伝子の両アレル変異を持つ2歳未満の患者が適応になる。早期介入を可能にする意図か、症候性に限定しなかった。希少小児疾患用薬なので優先審査バウチャーが供与される。日欧でも承認申請中。
SMAは、脊髄神経細胞が必要とするSurvival Motor Neuron蛋白の遺伝子、SMN1の欠損が原因であることが多い。キャリアは50人に一人と多いが、発症するのは両親から欠損を引き継いだ両アレル変異のみ。
ZolgensmaはSMN1の遺伝子を遺伝子組換え型9型アデノ随伴ウイルス(AAV9)で導入する遺伝子療法。アデノ随伴ウイルスは抗体を持つ人が多いが、臨床試験に登録した5歳以下の患者でAAV9抗体を保有するため除外されたのは177人中9人、5%だけだった。
承認の根拠となった試験では乳児発症型(I型)に投与したところ、自然歴と比べて生存期間や運動機能が良好だった。急性で深刻な肝障害が枠付警告。事前に検査を行う必要がある。一部のワクチンは禁忌。
WAC(卸取得価格)は212万5000ドルと甚だ高価だが、バイオジェンのSMA用薬、Spinraza(nusinersen)と異なり反復投与ではないので、、Spinrazaの5年分の薬剤費と同程度である。最終的にどちらが割安かはZolgensmaの治療効果がどの程度持続するかに依存するので、不透明なところがある。
AveXisは、薬剤費を5年分割払いにして、効果が低下したり重い副作用が発生した場合は事後の支払いを減免するようなスキームを検討する考え。公的医療制度の様々な値引き規制に反しないよう配慮する必要がある。
高価といっても世界で数千人の希少疾患なので、総額は、例えば高血圧や糖尿病の治療薬よりはるかに小さい。類薬がGE化したのにブランド薬を使い続けるような反合理的な慣習を排するような工夫で吸収できる範囲だろう。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: AveXisのプレスリリース
FDA、ノバルティスのPI3K阻害剤を承認
(2019年5月24日発表)
FDAは、ノバルティスのPiqray(alpelisib)を末期・転移乳癌用薬として承認した。ホルモン受容体陽性でher2は陰性、そしてPI3KCA変異があり、内分泌療法歴を持つ、閉経後女性または男性が適応になる。fulvestrantと併用する。
RTOR(リアル・タイム・オンコロジー・リビュー)プロジェクトの対象で、新薬の承認につながったのは初。PI3K(phosphatidylinositol-3-kinase)阻害剤の承認も初。QIAGEN(NYSE:QGEN)のPIK3CA PCRキットがコンパニオン診断薬として同時承認された。
PI3Kの活性化変異であるPIK3CA変異は、ホルモン受容体陽性末期乳癌の4割程度で見られ、悪性度が高い傾向がある。PiqrayはPI3Kアルファを特定的に阻害するのが特徴。
臨床試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が11ヶ月と偽薬群の5.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65だった。重要な有害事象は、過敏反応、皮膚毒性、高血圧、肺臓炎/間質性肺疾患、下痢、胚胎毒性など。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース
FDA、ジャカビをGvHDに適応拡大
(2019年5月24日発表)
FDAは、インサイト(Nasdaq:INCY)のJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド難治性急性GvHD(移植片対宿主病)の治療に用いる適応拡大を承認した。臨床試験では、グレード2の患者に対する28日奏効率が100%、グレード3や4は40-50%だった。メジアン反応持続期間は、第28日から起算して16日間だった。
Jakafiは経口JAK1/2阻害剤。インサイトが開発、骨髄線維症などの治療に用いられている。米国外はノバルティスが開発販売。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
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