2024年10月27日

第1078回

【ニュース・ヘッドライン】

  • サンガモ、ファブリー病の遺伝子療法を来年にも加速承認申請へ 
  • 大塚、抗APRIL抗体のIgA腎症試験が成功 
  • リベルサスのCVOTが成功 
  • Marinus、抗癲癇薬の適応拡大試験フェール 
  • シクロベンザプリン舌下錠を線維筋痛症に承認申請 
  • ACIP、肺炎球菌ワクチンの推奨範囲を拡大 
  • ファイザー、RSVワクチンの適応が18歳以上に拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


サンガモ、ファブリー病の遺伝子療法を来年にも加速承認申請へ
(2024年10月22日発表)

Sangamo Therapeutics(Nasdaq:SGMO)はST-920(isaralgagene civaparvovec)を従来計画より3年前倒しで25年下期に米国でファブリー病に承認申請する考えを明らかにした。FDAとの会議で、現在進行中の第1/2相試験の52週eGFR(推算糸球体濾過率)データに基づいて加速承認を申請することに同意を得た。102週データで臨床的便益を確認する必要があるが、FDAは、市販後薬効確認試験を実施して本承認に切替えることまではマストではない、という考えも示されたとのこと。FDAは希少遺伝子疾患の承認に際してサロゲート・マーカーを活用する方針を示しているが、臨床的便益を計測するのが困難で長期間かかる場合は加速承認で放置することを容認するのは妥協を更に一歩、進めた印象だ。

ST-920は、ファブリー病で欠乏するalpha-Galactosidase-Aの遺伝子をアデノ随伴ウイルスをベクターとして肝臓志向的に導入する。これまでに第1/2相STAAR試験に33人の患者を組入れている。ベンチャー企業の例に漏れず手元資金に余裕がないため、提携や資金調達が実現するまで第3相入りを見送っていた。

ファブリー病は複数の酵素補充療法が承認されている。23年に欧米で承認されたProtalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)のElfabrio(pegunigalsidase alfa-iwxj)のエビデンスはFabrazyme(agalsidase beta)対照試験でeGFRが非劣性だったこと。21年3月にFabrazymeが加速承認から本承認に切り替わりUnmet medical needsが改善したためElfabrioの52週eGFRに基づく加速承認が認められるかどうか不透明になったが、米国連邦職員の渡航規制により審査が遅れ、結果的に、102週eGFRに基づく本承認となった。このため、ST-920が順調に加速承認されればFabrazyme本承認後の最初の事例になるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


大塚、抗APRIL抗体のIgA腎症試験が成功
(2024年10月22日発表)

大塚ホールディングは、sibeprenlimabの第3相IgA腎症試験で主目的を達成したと発表した。加速承認申請に向け承認審査機関と相談する考え。承認されればファースト・イン・クラスになりそうだ。

18年に4.3億ドルで完全子会社化したマサチューセッツ工科大学発のイン・シリコ創薬ベンチャー、Visterraの開発品で、ガラクトースの欠損により機能不全となった免疫グロブリンAの産生において重要な役割を果たすAPRIL(A PRoliferation Inducing Ligand)に結合、阻害する。このVISIONARY試験ではACE阻害剤/ARB(SGLT2阻害剤併用可)による治療を受けている成人患者530人を組入れて、400mgを4週毎皮下注する便益を偽薬と比較した。主評価項目である9ヶ月後のUPCR(尿蛋白/クレアチニン比)が統計的に有意な、且つ臨床的に意義のある治療効果を示した。副次的評価項目である24ヶ月後のEGFR(推算糸球体濾過率)は26年初めに開票する見込み。前例に倣えば、UPCRで加速承認、EGFRで本承認切替となろう。

IgA腎症ではここ数年、次々と新薬が承認されているので、これらの薬との優越や、併用の可能性が注目される。

抗APRIL抗体では23年にノバルティスがETA受容体拮抗剤や抗APRIL抗体を開発するChinook Therapeuticsを買収、24年にはVertex TherapeuticsがBAFF/ARRIL標的融合蛋白povetaciceptを開発するAlpine Immune Sciencesを買収するなど、IgA腎症などの自己免疫疾患におけるポテンシャルに注目した企業買収が活発化している。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdf)


リベルサスのCVOTが成功
(2024年10月21日発表)

ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Rybelsus(semaglutide)の第3相心血管アウトカム試験、SOULで主目的を達成したと発表した。年末前後に欧米で効能追加申請する予定。

Rybelsusは二型糖尿病や肥満症、心不全など多くの適応を持つsemaglutideの経口投与用製剤。19~20年に米欧日で二型糖尿病薬として承認された。SOUL試験は欧米中日などの施設で心血管疾患を合併した二型糖尿病患者9560人を組入れて、標準療法に加えて偽薬またはRybelsusを一日一回投与し、心血管リスクを比較した。主評価項目は3点MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中の何れかが初回発生するリスク)。結果は偽薬群より14%小さかった。三疾患何れも偽薬群を下回った。

Rybelsusは第3相PIONEER 6試験でも3点MACEが偽薬群より21%少なく、主目的である非劣性解析は成功したが優越性は確立しなかった。心血管死は半減したがイベント数の多い非致死的心筋梗塞は18%多かった。今回は3倍の被験者を組入れたので検出力が高まったはずだが、リスク抑制効果の点推定値は見劣りする結果になってしまった。

ところで、Rybelsusは9月にEUで新規格が承認されていたことに今回初めて気づいた。活性成分が半分の量で生物学的同等性を達成しており、供給不足の緩和にも資するかもしれない。いかにして達成したのかは分からなかった。

Rybelsusの剤形の比較

従来製剤新規製剤
形状楕円形円形
用量3、7、14mg1.5、4、9mg
添加剤サルカプロザートナトリウム、
ポビドンK90、
結晶セルロース、
ステアリン酸マグネシウム
サルカプロザートナトリウム、
ステアリン酸マグネシウム
塩含有23mg23mg未満
有効期間30ヶ月(3mgは2年)3年
注:有効期間は日本と異なる。
出所:EUのSPC(製品概要)から作成


リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


Marinus、抗癲癇薬の適応拡大試験フェール
(2024年10月24日発表)

Marinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)は22~23年に米欧でZtalmy経口液(ganaxolone)のCDKL5(cyclin-dependent kinase-like 5)欠乏障害用薬としての承認を取得後、適応拡大試験を進めてきたが、第3相結節性硬化症関連癲癇発作の予防試験がフェールした。28日間当りの頻度が19.7%減少したが偽薬群の10.2%減と比べたp値は0.09だった。他の用途のデータも思わしくなかったため、これ以上の開発は打ち切り、人員削減を進めると共に戦略的代替的選択肢(身売りなど)を検討する考えであることを公表した。

ganaxoloneはCoCebsys社を子会社化したPurdue Pharmaから2003年にライセンスした中枢神経選択的GABA-Aポジティブ・アロステリック・モジュレータ。23年の売上高は19.6百万ドル、24年上期は15.5百万ドルだった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


シクロベンザプリン舌下錠を線維筋痛症に承認申請
(2024年10月16日発表)

米国ニュージャージー州の新薬開発会社、Tonix Pharmaceuticals(Nasdaq:TNXP)は、TNX-102 SL(cyclobenzaprine HCl)を線維筋痛症治療薬として承認申請した。米国では07~09年に線維筋痛症治療薬3剤が承認/適応追加承認されたが、今回承認されれば16年ぶりの新薬となる。

活性成分は5HT2Aやアルファ1、H1、ムスカリンM1受容体などのアゴニストで米国では1977年に承認され、筋攣縮などの治療に用いられてきた。Tonixの開発品は舌下錠で、活性成分とマンニトールを共晶製剤して安定性を高めたとのこと。就寝前に投与した試験で疼痛が偽薬比有意に緩和し、不眠の改善も見られた。有害事象は口や舌の感覚鈍麻など。深刻有害事象では薬物関連疑い例の急性膵炎が見られた。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ACIP、肺炎球菌ワクチンの推奨範囲を拡大
(2024年10月23日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は肺炎球菌ワクチンの推奨範囲拡大を推奨した。今後、CDCが検討した上で最終決定する。米国は予防用ワクチンの普及に前向きで、CDCが推奨すれば官民の健康保険の還付対象になるので、大きな一歩だ。

現在の成人に関する接種勧奨範囲は、65歳以上の未接種者、特定の基礎疾患やリスク因子を持つ19-64歳の未接種者、そして最新のワクチンより少ない株しかカバーしていないワクチンを接種した特定の成人だが、未接種者全員が勧奨となる年齢を50歳以上に引き下げることを一名以外の委員が支持した。反対意見は、ファイザーとMSDの製品のうち、カバレッジが広く費用対効果が大きいMSD品だけ勧奨すべきと主張した。

18~22年の感染例を元に各ワクチンのカバー率を推定したGierkeらの分析によると、19~64歳ではMSDのCapvaxive(21価)が81%、ファイザーのPrevnar 20が58%、どちらもカバーしていない株の感染例が6%だった。65歳以上においては各85%、54%、8%だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース
リンク: Gierkeのプレゼンテーション用資料(24年2月ACIP、pdfファイル)

【承認】


経口ペネムが女性の単純性尿路感染症に承認
(2024年10月25日発表)

FDAはIterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)のOrlynvah(sulopenem etzadroxil、probenecid)を成人女性の単純性尿路感染症の治療薬として承認した。感受する細菌(大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス・ミラビリス)に感染し、他の経口抗菌薬による治療方法がない、または限定的である場合に用いる。一日二回、5日間、経口投与する。新規ペネム系抗菌剤と痛風治療薬として承認されている有機アニオントランスポーターOAT-1阻害剤probenecidの固定用量合剤で、経口ペネムは初。

複雑性尿路感染症の治療に用いることは承認されていない(点滴静注用製剤と錠剤を用いた実薬対照非劣性試験が二本フェールした)。単純性尿路感染症はそれほど深刻ではないため原因菌を検査せずに薬を選択投与することが多いが、この段階でペネム系を用いると、耐性が生じた場合に切り札のペネム系抗菌剤が使えないので困ったことになる。9月の諮問委員会では適応制限が必要という意見が多かったが、培養検査で菌を確認することが推奨されているが義務付けはされなかった。

単純性尿路感染症治療薬は4月にUtility TherapeuticsのPivya(pivmecillinam)が米国では初めて承認された(欧日では既にGE化)。

リンク: FDAのプレスリリース


ファイザー、RSVワクチンの適応が18歳以上に拡大
(2024年10月22日発表)

ファイザーはFDAがRSVワクチンAbrysvoの適応を18~59歳のリスク因子を持つ人たちに拡大することを承認したと発表した。臨床試験で免疫原性が高齢者のデータと非劣性だった。重度RSV疾患のリスクを高める基礎疾患(慢性肺疾患、心血管疾患(単純高血圧を除く)、糖尿病など)の有病率は米国の18~49歳においては9.5%、50~64歳では24.3%とのこと。

RSVワクチンではGSKのArexvyが欧米では50歳以上に承認、モデルナのmResviaが60歳以上に承認されている。CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は7月の委員会でArexvyを50~59歳に推奨するには材料不足として判断を留保したが、10月24日の委員会でも60歳未満に推奨するのは時期尚早と判定した。

ACIPにおけるプレゼンによると、ギラン・バレー症候群のリスクに関しては、10月までのデータでArexvyにおける超過リスクは100万回当り7(95%信頼区間2-11)、Abrysvoでは同じく9(0-18)と推測。これはGSKの帯状疱疹ワクチンShingrix(二回接種)における同じく3~6とそれほど違わない。本人や社会全体の便益と危険は、サブグループ毎に慎重に考慮検討する必要があるようだ。要検討事項の具体例としては、特定の基礎疾患を持つ人は60歳未満でも重度RSV下部気道感染症のリスクが60歳以上と同程度か、人種によっては60歳未満でもリスクが白人より高いか、重度RSV下部気道感染症のリスクを高める基礎疾患の内容は60歳未満と60歳以上で異なるか、などが示されたようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
諮問委員会
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)



今週は以上です。

2024年10月21日

第1077回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、RSV予防用抗体の治験が成功 
  • Jazz社、Zepsyreの生き残りが賭かった試験が成功 
  • GSK、長期作用性抗IL-5抗体が慢性副鼻腔炎の第3相も成功 
  • BioNTech、抗CTLA4抗体の第3相試験を部分停止 
  • tecovirimatのエムポックス試験がフェール 
  • ギリアド、トロデルビの一部適応を返上へ 
  • CHMP、アレモなどの承認を支持 
  • ビロイが米国でも承認 
  • ヴィアレブが米国でも承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


MSD、RSV予防用抗体の治験が成功
(2024年10月17日発表)

MSDは7月にMK-1654(clesrovimab)の後期第2相/第3相試験の成功を発表したが、 IDWeek 2024(米国感染症学会週間)で成績を公表した。日本も含む多施設で初めてRSVシーズンを迎える健康な早産児や正期産児に一回筋注して150日間追跡したところ、一種類以上の症状を伴うRSV関連MALRI(下部気道感染症による受診)リスクが偽薬比60.4%小さかった。副次的評価項目であるRSV関連入院は84.2%抑制、RSV関連の下部気道感染症による入院に限定すると90.9%抑制、重度のRSV関連MALRIは91.7%抑制された。ポストホック分析だが、2症状以上を伴うRSV関連MALRIは88.0%抑制された。

IDWeek 2024では第3相実薬対照試験の中間解析結果も発表された。初めてのRSVシーズンを迎える、感染時重症化リスク因子を持つ幼児をMK-1654群とpalivizumab(Synagis)群に無作為化割付けしたところ、安全性は同程度で薬物関連の深刻有害事象は発生しなかった。RSV関連MALRI(1症状以上)の発生率は各群3.6%と3.0%、RSV関連入院は1.3%と1.5%で何れも同程度だった。

2025-26シーズンの発売に向けて承認審査機関と相談する考え。

MK-1654はRSVのF蛋白に結合する長期作用性抗体。類薬のSynagisはRSVシーズンの間、毎月投与する必要があるが、MK-1654は、Beyfortus(nirsevimab-alip)と同様に、1シーズンに一回で足りる。

尚、Synagisはアストラゼネカの子会社であるメディミューンが開発。Beyfortusも同社が開発したが販売はサノフィが行っている。

リンク: MSDのプレスリリース


Jazz社、Zepsyreの生き残りが賭かった試験が成功
(2024年10月15日発表)

米国のJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)はポリメラーゼII阻害剤Zepzelca(lurbinectedin)の適応拡大試験が成功したと発表した。25年上期に承認申請する考え。市販後薬効確認試験の一つがフェールし前途が危ぶまれたが、生き残れそうだ。本承認切替も可能なのではないか。ライセンス元であるスペインのPharmaMar(MSE:PHM)も25年上期に欧州で初承認申請する計画。

PharmaMarは海洋生物から抗癌活性を持つ物質を発掘している会社。カリブ海や地中海に生息するホヤの一種から発見した物質を雛形とするYondelis(trabectedin)が欧州で卵巣癌などに、日本で悪性軟部腫瘍に、米国で進行脂肪肉腫/平滑筋肉腫だけに、承認されている。Zepzelcaは転移性小細胞性肺癌で白金薬歴を持つ成人患者に単剤投与した第2相をエビデンスとして20年に米国で加速承認されたが、市販後薬効確認試験の一つである第3相小細胞性肺癌二次治療doxorubicin併用試験で全生存期間が実薬対照群を有意に上回らなかった。但し、ハザードレシオは0.967、メジアン生存期間は10.6ヶ月、対照群は9.9ヶ月というものなので、劣っている可能性を完全には否定できないにしても疑うほどではなかった。第三者が承認取消を請願したが、FDAは、投与量が2.0mg/m2と承認用量の3.2mg/m2より少ないことや単剤投与でないことから、却下した。

今回のImforte試験はロシュがスポンサーでJazzも資金拠出した。進展型小細胞性肺癌の一次治療としてTecentriq(atezolizumab)と carboplatin、etoposideによる導入療法を受け疾病安定化以上の応答があった患者の維持療法として、3.2mg/m2とTecentriqを3週毎投与する群の全生存期間やPFS(無進行生存期間、独立評価)をTecentriqだけの群と比較したもの。数値は未発表。

リンク: Jazzのプレスリリース
リンク: PharmaMarとJazzのプレスリリース


GSK、長期作用性抗IL-5抗体が慢性副鼻腔炎の第3相も成功
(2024年10月14日発表)

GSKはGSK3511294(depemokimab)の第3相CRSwNP(鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎)試験二本で主目的を達成したと発表した。データは未公表。

同社は4週毎皮下注用抗IL-5抗体Nucalara(mepolizumab)を好酸球性喘息症や好酸球増多がしばしば見られるCRSwNPの治療薬として既にラインアップしているが、depemokimabはIL-5親和性を増強しFc領域を装飾して血漿半減期を延長、6ヶ月に一回の皮下注を実現した。重度好酸球性喘息症の第3相、SWIFT-1と2が成功し、米国で年内に、日欧でも25年に承認申請する予定。

今回の試験では52週時点の内視鏡的鼻ポリープ評価と49-52週の鼻閉塞尺度の両方の主評価項目で偽薬比統計的に有意な差があった。

喘息症試験の成功を発表した時は「統計的に有意且つ臨床的に意味のある」と記していたが、今回は統計的に有意であったことだが記している。何か意味があるのだろうか。

リンク: 同社のプレスリリース


BioNTech、抗CTLA4抗体の第3相試験を部分停止
(2024年10月18日届出)

FDAは、BioNTech(Nasdaq:BNTX)の抗CTLA4抗体、BNT316(gotistobart)の第3相非小細胞性肺癌試験に関して部分的な停止を命じた。同社がSEC(米国証券取引委員会)に提出した適時開示資料で明らかにした。

このPRESERVE-003試験は抗PD-(L)1抗体に応答しなかった転移非小細胞性肺癌の患者を組入れて単剤投与し、全生存期間をdocetaxelと比較したもの。IDMC(独立データ監視委員会)が中間解析でサブグループ間の違いを指摘したため、自発的に新規組入れを停止しFDAに報告した経緯があり、FDAは追認した格好だ。BioNTechは、FDAは扁平上皮腫とそれ以外で結果が異なることを懸念したのではないか、と推測しているが、おそらく、同社またはIDMCがこの懸念で部分停止を決めたのだろう。

BNT316は米国メリーランド州のOncoC4からONC-392の共同開発商業化権を取得したもの。第1/2相試験で抗PD-(L)1抗体抵抗性転移非小細胞性肺癌の27人に10mg/kgを投与したところ、ORR(客観的反応率)が29.6%(部分反応が7人、完全反応が1人)だった。G3/4免疫関連有害事象の発現率は30%だった。

抗CTLA4抗体は2品が承認されているが独特の有害事象リスクを持ち、試験成績は対象や用法などにより区々だ。

リンク: BioNTechのForm 6-K


tecovirimatのエムポックス試験がフェール
(2024年10月18日報道)

SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)はTPOXX(tecovirimat)の第3相エムポックス治療試験がフェールしたことを8月に公表したが、データがID Week 2024(米国感染症学会週間)で報告された。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導したPALM 007試験で、コンゴ民主共和国で体重3kg以上の小児と成人の入院患者597人を組入れて病変治癒するまでのメジアン期間を観察したところ、試験薬群は8日、標準療法だけの群は7日、競合リスク・ハザード比は1.13(95%信頼区間0.97-1.31)、p=0.14と、両群大差なかった。58日死亡率は両群とも1.7%だった。

TPOXXは欧米でアニマル・ルール(臨床試験を行うのは困難または非倫理的である場合に、動物における薬効確認試験とヒトの安全性試験データだけを承認申請する)に基づき天然痘治療薬として承認され、EUでは体重13kg以上の小児成人のエムポックス治療にも例外的条項に基づき承認されている。数少ない治療薬であるだけにサプライズだが、無効と決まったわけではないようだ。エムポックスは天然痘より症状が軽い模様で、ある程度以上重い患者でないと大きな便益が表面化しないのかもしれない。今回の試験の偽薬群の病変治癒期間は前提よりだいぶ短く、入院させて手厚く治療したのが良かったのかもしれない(通常は重くなければ外来で治療する)。他の臨床試験では小さい子供は組入れず、HIV/AIDSなど免疫低下患者の比率がもっと高い。これらのことから、重症化リスクの高い患者だけテストすれば成功する期待が残っているようだ。

リンク: MedPage Todayの記事

【承認審査・委員会】


ギリアド、トロデルビの一部適応を返上へ
(2024年10月18日発表)

ギリアド・サイエンシズは、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の米国における一部適応を返上する考えであることを明らかにした。主用途であるトリプル・ネガティブ乳癌などにおける承認には影響しない。

米国では白金薬や抗PD-(L)1抗体による治療歴を持つ局所進行/転移尿路上皮腫に用いることが21年に加速承認されたが、第3相TROPiCS-04試験で延命効果が化学療法群を数値上上回るだけに留まり、有害事象による死亡の増加が見られたため返上する。

Trodelvyは22年にImmunomedics社を210億ドルで買収して入手した、抗EGP-1(別名TROP-2)抗体とSN-38トポイソメラーゼ阻害剤の抗体薬物複合体。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、アレモなどの承認を支持
(2024年10月18日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのAlhemo(和名アレモ、一般名concizumab)はTFPIに結合する抗体。12歳以上のインヒビターを持つA型/B型血友病の出血予防にルーチン投与する。一足先に日本で23年9月に承認され、今年6月にはインヒビターを持たない患者に使用することも承認された。米国は23年4月に審査完了通知を受領し、適切な投与を担保するための追加施策と生産プロセスに関する追加情報などを求められた。

リンク: EMAのプレスリリース

CSL(ASX:CSL)グループのSeqirus社は二種類の三価インフルエンザ・ワクチンの肯定的意見を得た。鶏卵培養型のFluadと犬腎細胞培養型のFlucelvaxで、どちらもA/H1N1型、A/H3N2型、B/ビクトリア系統の不活化表面抗原を配合している。B型インフルエンザ・ウイルスの流行がビクトリア系統だけになってきたことを受けて、四価ではなく三価のワクチンに回帰するもの。

リンク: EMAのプレスリリース(Fluad)
リンク: 同(Flucelvax)

ドイツのLindis Biotech GmbHのKorjuny(catumaxomab)は成人のEpCAM陽性腫瘍による癌性腹水の腹腔内治療薬。全身性抗腫瘍治療が適さない場合に用いる。2008年のASCO(米国臨床腫瘍学会)における発表によると、余命2~3ヶ月の患者に投与した第2/3相穿刺術付随試験では、再穿刺術または死亡までのメジアン期間が46日と穿刺術だけの11日より有意に長く、メジアン生存期間は170日対72日で数値上上回った。症状改善作用も見られた。

腫瘍細胞のEpCAMとT細胞のCD3を架橋する三重機能性抗体(今日では二重特異性抗体と呼ぶ方が一般的と思われる)。Fresenius Biotech GmbHがTrion Pharmaからライセンスして09年にEUで上記と同じ適応の販売承認をRemovab名で得た。Trion Pharmaを設立したHorst Lindhoferは三重機能性抗体の発明者とされ、Removabは最初に承認された二重特異性抗体とされる。売れなかったのかTrionは13年に会社清算となったが、Lindhofer氏は諦めず、Lindis Biotech GmbHを設立して14年にcatumaxomabのIPやノウハウを取得した。RemovabはFreseniusから販売承認を継承したNeovii Biotech GmbHが17年に商業上の理由で返上したが、Lindhofer氏は諦めず、再承認取得まであと一歩となった。

リンク: EMAのプレスリリース

Serum Life Science Europe GmbHのSiiltibcy(遺伝子組換え型結核菌由来抗原rdESAT-6、rCFP-10)は結核の診断薬。生後28日以上の小児と成人に投与して、2~3日後に遅延型過敏反応が現れたら陽性と判定される。含有する二種類の抗原はBCGワクチンには含まれていないので接種歴不問で利用できる。尚、EMAのプレスリリースでは承認申請者をVakzine Projekt Management GmbHと記している箇所もあるが、23年に上記に社名変更されている。元々はドイツの国策研究開発機関だったが18年にSerum Institute of Indiaが過半を保有する株主になった。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのWainzua(米国名Wainua、一般名eplontersen)はヒト・トランスサイレチンのmRNAに特異的に結合するアンチセンス薬。成人の遺伝性トランスサイレチン調停アミロイドーシス患者におけるポリニューロパシーの治療に4週毎皮下注する。オートインジェクターで自己注可。第3相試験で血清トランスサイレチン濃度を抑制し症状悪化を遅らせる効果を示した。米国では23年12月に承認された。Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製、アストラゼネカは米国で共同開発販売、欧州などでは単独開発販売している。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持されたのは、まず、サノフィの抗IL-6Rアルファ抗体Kevzara(sarilumab)を成人のリウマチ性多発筋痛症に用いること。コルチコステロイドに十分反応しない、または、コルチコステロイドのテイパリング中に再燃した患者が適応になる。米国では昨年2月に承認された。類薬である中外/ロシュのActemra(tocilizumab)が有効と考えられているが未承認。

ノバルティスのCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)は早期乳癌の術後アジュバント療法に用いる。ホルモン受容体陽性、her2陰性のステージII/III乳癌で摘出術後の再発リスクが高い患者にアロマターゼ阻害剤と併用する。閉経前/閉経期女性や男性はLHRH類縁体を併用する。米国では9月に適応拡大された。

BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE/HKEX:6160)のTevimbra(tislelizumab)は二種類の消化器癌向けに支持された。一つは、成人の切除不能局所進行転移PD-L1陽性食道扁平上皮腫の一次治療に白金薬と併用、もう一つは、成人の局所進行切除不能転移PD-L1陽性her2陰性胃/食道胃接合部腺腫の一次治療。PD-L1の検査・判定方法は数種類あるが、Tevimbraの場合、TAP(使用域陽性スコア)が5%以上なら陽性判定される。米国でも申請されているが前者は治験施設査読の遅れなどにより審査遅延、後者は審査期限未到来。

TheramexのYselty(linzagolix choline)は非ペプチド系のGnRH受容体アンタゴニスト。薬物治療又は外科治療歴のある子宮内膜症の女性の症状管理に用いる。キッセイ薬品から欧州などにおける権利を取得した。米国でも欧州同様に子宮筋腫用薬として承認されているが、ライセンシーのObsEva SAが経営破綻してしまったため、適応拡大申請したかどうか明らかでない。

薬効再審査案件では、PTCセラピューティクスのデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)に関して、CHMPは4回目の否定的意見をまとめた。14年に条件付き承認したが市販後薬効確認試験がフェールしたため昨年9月に条件付き承認の年次更新を見送るよう勧告し、再審請求を受けたが今年1月に意見維持を決定した。ところが、欧州委員会が勧告を受け入れず再検討を求めたため、新たに提出された市販後患者登録のデータなどを検討し、SAG-N(神経学科学的諮問グループ)にも諮問した。結局、結論は変わらず、否定的意見→意見維持の手続きを繰り返すことになった。

奇妙なことに、加速承認申請を拒否し、その後の薬効確認試験がフェールしたため17年に承認を拒否したFDAは、今年に入って急に軟化、7月に承認申請に至った。チグハグだ。

リンク: PTCのプレスリリース

【承認】


ビロイが米国でも承認
(2024年10月18日発表)

FDAはアステラス製薬のVyloy(zolbetuximab-clzb)を承認した。Claudin 18.2を標的とするキメラ抗体で、成人のClaudin 18.2陽性、her2陰性の局所進行切除不能/転移性の胃/食道胃接合部腺腫の一次治療にfluoropyrimidine及び白金薬ベースの化学療法と併用する。第3相試験二本で二種類の異なったレジメンに追加したところ全生存期間の延長につながった。

BioNTechの創設者夫妻が設立したGanymed Pharmaceuticalsを買収して入手した。3月に日本で、9月にはEUでも、承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース


ヴィアレブが米国でも承認
(2024年10月17日発表)

アッヴィのVyalev(foslevodopa、foscarbidopa)が米国で進行パーキンソン病用薬として承認された。レボドパとカルビドパのプロドラッグを皮下注用ポンプで24時間持続点滴する。症状管理が上手く行っていない患者に12週間投与した第3相試験でオンタイム(パーキンソン症状が発現していない時間)が2.72時間増加し、levodopaとcarbidopaを経口投与した群の0.97時間増を有意に上回った。有害事象による治験離脱率は22%で、内容は幻覚、点滴箇所反応、点滴箇所感染症など。対照群は1%だった。

22年12月に日本でヴィアレブ名で承認されたが、米国はFDAがポンプに関する追加情報を求めたり、第三者工場の製造問題の道連れになったりしたため、三巡目でやっと承認された。欧州では22年に非中央手続きで承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)・・・審査期限超過
24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil、probenecid(単純尿路感染症)
24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
諮問委員会
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)
注:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)は審査期限が来年1月17日に延期。

今週は以上です。

2024年10月12日

第1076回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • EMA、利益相反規制を強化 
  • ターゼナの前立腺癌試験で延命効果も確認 
  • キイトルーダのペリアジュバントHNSCC試験が成功 
  • PTC社、フリードライヒ運動失調症用薬の承認申請を断行へ 
  • 抗ミオスタチン抗体のSMA試験が成功 
  • JNJ、薬剤放出ディバイスの膀胱癌試験が無益中止 
  • Neuvivo、ALS用薬の承認申請を断行 
  • Aldeyra、ドライアイ用薬を再承認申請 
  • PTC社、フェニルケトン尿症治療薬を米国でも承認申請 
  • 遅報:Elevar、肝臓癌用薬を再承認申請 
  • FDA諮問委員会、バース症候群用薬の評価が分かれた 
  • Zealand社、先天性高インスリン血症の適応まだ取得できず 
  • ファイザーの抗TFPI抗体が承認 
  • ジェネンテックのPI3K阻害剤が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


EMA、利益相反規制を強化
(2024年10月10日発表)

EMA(欧州薬品庁)は諮問委員などに関する利益相反規制の強化を決めた。EU司法裁判所が不備を認定したため。今後は、承認申請されている製品と同じ疾病に用いる製品に関与している人や臨床試験の主任研究員なども対象となり、また、CHMPなどだけでなく、SAG(科学的諮問グループ)やAHEG(アド・ホック専門家グループ)、ETF(エマージェンシー・タスク・フォース)、MSSG(薬品不足対応グループ)、MDSSG(医療機器不足対応グループ)などでも利益相反管理が行われる。

きっかけは、スペインのPharmaMar(MSE:PHM)が多発骨髄腫用薬として申請したAplidin(plitidepsin)が承認されず提訴した件と、フランスのDebrégeas et associés Pharmaがアルコール依存症治療薬として申請したHopveus(sodium oxybate)が承認されず提訴した件に関する控訴審判決。前者は一部の委員が他社の競合薬の開発に関わっていることなど、後者はAHEG委員のうち2名に利益相反が認められることなどを、利益相反と認定した。EMAは両案件の承認審査をやり直すとともに、審査中の案件も一部やり直したため、エーザイ/バイオジェンがアルツハイマー病薬として承認申請したLeqembi(lecanemab)などの審査も遅延した。

リンク: EMAのプレスリリース

【新薬開発】


ターゼナの前立腺癌試験で延命効果も確認
(2024年10月10日発表)

ファイザーはPARP阻害剤Talzenna(talazoparib)を乳癌に加えて前立腺癌にも開発し、23~24年に米日欧で成人の去勢抵抗性前立腺癌の転移後初度治療にXtandi(enzalutamide)と併用することが承認された。厳密な適応は国によって異なり、米国はでHRR(相同組換え修復)遺伝子に変異、日本ではBRCA遺伝子に変異、EUでは化学療法が臨床的に適応にならないことが要件となっている。エビデンスとなる第3相TALAPRO-2試験は共同主評価項目であるHRR遺伝子変異陽性コフォートだけでなく全被験者の解析でもrPFS(放射線学的無進行生存期間、盲検独立中央評価)がXtandi・偽薬併用群を有意に上回ったが、HRR遺伝子変異陽性コフォートのハザードレシオが0.46であるのに対して、陰性のサブグループは事後的分析で0.70と見劣りしたことなどが影響したものと推測される。

今回、上記試験の全生存期間の最終解析が成功したことが発表された。PFSと同様に、HRR遺伝子変異コフォートも、全被験者の解析も成功した。数値は未発表。HRR変異陰性サブグループの数値が注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダのペリアジュバントHNSCC試験が成功
(2024年10月8日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-689試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。適応拡大申請に向かうのではないか。ステージIII/IV局所進行性頭頚部扁平上皮腫(HNSCC)の切除術を予定する新患患者704人を組入れて、術後に一定期間、標準的化学療法を施行する群と、術前術後にKeytrudaも投与する群のEFS(無イベント生存期間)を比較したところ、後者が有意に上回った。期中に副次的評価項目に格下げされた主要病理学的反応率の解析も成功した。同じく副次的評価項目の全生存期間はトレンドに留まっている。解析する順位が最上位に位置付けられているCPS(Combined Positive Score)が10以上のサブグループの数値が有意水準に到達していないため1以上や全被験者の正式な解析ができないと書いており、おそらく、検出力が高くなる後二者の名目p値は良好なのだろう。

それにしても、HNSCCにおける治験成績はぶれまくっている。白金薬治療歴を持つ進行患者を組入れたKeyNote-040試験では全生存期間が実薬対照群を有意に上回らなかった。但し、点推定値自体は良好で、多重解析を予定していなかったら、成功判定されていたかもしれない。CPSが20以上の患者の一次治療として白金薬レジメンと併用したKeyNote-048試験では全生存期間がcetuximabと白金薬レジメンを併用した群を有意に上回った。一方、局所進行性の患者を対象に化学放射線療法に追加してEFS延長を目指したKeyNote-412試験はトレンドに留まった。

リンク: MSDのプレスリリース


PTC社、フリードライヒ運動失調症用薬の承認申請を断行へ
(2024年10月8日発表)

PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)はPTC-743(vatiquinone)が第3相フリードライヒ運動失調症試験の長期延長試験で疾病進行を遅らせる作用を示したため12月に米国で承認申請する考えであることを発表した。Stealth BioTherapeuticsがバース症候群治療薬として承認申請したelamipretide(後述)と似たような経緯であり、最初のハードルは受理されるかどうかだろう。

フリードライヒ運動失調症の多くではミトコンドリア蛋白の遺伝子機能低下が見られる。PTC-743はミトコンドリアにおけるエネルギー・酸化ストレス経路の制御に関わる15リポキシゲナーゼの阻害剤。第3相MOVE-FAに成人小児146人を組入れて72週間治療し、mFARSの変化を比較したが、偽薬群は2.83点、試験薬群は1.22点、群間差は1.6でp=0.14とフェールした。但し、重要な指標である直立安定性サブスケールでは名目p値が0.021だった。治療時発現深刻有害事象の発現率は両群とも11%だった。

この発表からほぼ1年半経ち、今回、追跡期間を144週に伸ばしたデータと自然歴(FACOMS疾病登録)の比較で、mFARSの群間差が3.7点、p<0.0001となったことが明らかにされた。3年間の進行を半分に抑制した由。

リンク: 同社のプレスリリース


抗ミオスタチン抗体のSMA試験が成功
(2024年10月7日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジの新興バイオ企業、Scholar Rock(Nasdaq:SRRK)は、SRK-015(apitegromab)の第3相2/3型脊椎筋委縮症(SMA)試験、SAPPHIREで主目的を達成したと発表した。25年第1四半期に欧米で承認申請する考え。

同社はTGFベータ・スーパーファミリーの研究で実績を持ち、社名(水石)はその構造が水石に似ていることに因んでいる。第3相はSpinraza(nusinersen)またはEvrysdi(risdiplam)による治療を受けている2歳以上の歩行不能な2型、3型SMA患者188人を偽薬、10mg/kg、または20mg/kgを4週毎点滴静注する3群に無作為化割付けして52週間治療し、HFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale Expanded)の変化を比較した。共同主評価項目は2~12歳の156人における、2用量群プール・データと20mg/kg群の偽薬比。

2用量群プール分析ではHFMSE(ベースライン値は26点)が偽薬調整後で1.8点改善した(p=0.0192)。次順位の20mg/kg群の解析は偽薬調整後で1.4点改善したがp=0.1149でフェールした。この試験では多重性を補正するために片方が0.05超であった場合はもう片方が0.025以下なら成功判定するプロトコルだったため、前者が成功認定された。10mg/kg群が2.2点改善した(名目p=0.0121)ことが寄与した格好だ。13~21歳の32人(偽薬と20mg/kg群に割付け)の探索的解析でも好ましいトレンドが見られた由。深刻有害事象の発現率は偽薬群10%、10mg/kg群17%、20mg/kg群22%だった。

POC試験では20mg/kgしかテストしなかったが、薬力学/薬物動態面でも忍容性でも10mg/kgと大差なかったようなので、低用量だけ承認申請するのではないか。

尚、Spinrazaの類似試験では15ヶ月後のHFMSEが3.9点改善、シャム群は1.0点悪化し、偽薬調整後の治療効果は4.9点だった。Evrysdiの類似試験ではHFMSE(副次的評価項目)が1年後に0.95点改善、偽薬群は0.37点改善し治療効果は0.58点だった。

SRK-015は、筋肉の成長を抑制するmyostatinの非活性体である潜在型myostatinを標的とするIgG4ラムダ型抗体。類薬はBiohaven Pharmaceuticals(NYSE:BHVN)の抗myostatinアドネクチンtaldefgrobep alfaも向こう半年以内に第3相結果が判明する予定。ロシュも中外由来の抗体RG6237/GYM329で第2/3相試験中。

リンク: Scholar社のプレスリリース


JNJ、薬剤放出ディバイスの膀胱癌試験が無益中止
(2024年10月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、TAR-200の第3相SunRISe-2試験が中止になったことに関して声明を発表した。画期的な治療法になりうると自信を持っており、予定通り、やや異なった癌を組入れた第2相SunRISe-1試験に基づいて25年初めに米国でTAR-200単剤を承認申請する考え。

19年に買収したTARIS Biomedicalの開発品で、シリコンチューブ型ディバイスを膀胱内に留置してgemcitabineを持続放出させる。SunRISe-2試験では全摘術不適または拒否の高リスク筋層浸潤膀胱癌(MIBC)550人を組入れて、同社が開発している抗PD-1抗体JNJ-63723283(cetrelimab)と併用で3週毎に最大3年間投与する群のEFS(無イベント生存期間)を同時化学放射線療法と比較した。独立データ監視委員会(IDMC)の推奨と事前に設定された中間解析に基づき、優越性不実により中止された。

一方、SunRISe-1試験はBCG治療歴のある全摘不適/拒否の高リスク非筋層浸潤膀胱癌(NMIBC)を組入れてTAR-200、cetrelimab、両剤併用の完全反応率を検討したもの。今年のAUA(米国泌尿器学会)の発表によるとTAR-200単剤群の完全反応率(n=58)は83%、1年反応持続率は74%、深刻有害事象の発生率は7%だった。第3相はBCG歴のない高リスクNMIBC試験や、BCG後に再発し全摘不適/拒否の高リスクNMIBC試験が進行中だが、成否判明は2030年頃の見込み。

プレスリリースが妙なのは、第一に、SunRISe-2試験の成功のハードルが高いことを最初に記していること。恰も、誰かが先に発表または報道したのを受けて釈明を兼ねた声明を出したかのようだ。尤も、ClinicalTrials.govにはJanssen Research & Developmentがスポンサー兼届出者と記されているので、運営も成果発表も研究者共同治験グループが主導する試験ではなさそうだが。第二に、中止の経緯や理由がはっきりと記されていないこと。優越性が示されないため中止とあるが、通常は中間解析で有意差が出なくても粛々と続行するところだ。更に、通常なら、中間解析に基づきIDMCが中止推奨した、と書くところだろう。おそらく、IDMCは無益認定までは踏み込んでいないのだろう。

以上のことから邪推すると、IDMCが安全性または生存に関わる懸念を表明し、中間解析の結果も中止基準には触れないがすごく良いものでもなかったため中止したのではないか、と思ってしまう。学会発表などを控えて公表できないのかもしれないが、このような邪推を排するためには踏み込んだ説明が必要だろう。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


Neuvivo、ALS用薬の承認申請を断行
(2024年10月7日発表)

米国カリフォルニア州の新興医薬品開発会社Neuvivoは、NP001をALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請した。受理されるだろうか。

pH調整亜塩素酸ナトリウム製剤で、4週毎に3-5日連続で30分点滴静注を反復する。第2相試験で発症3年未満、FVCが70%以上の136人を偽薬、1mg/kg、2mg/kgの3群に無作為化割付けしてALSFRS-R(機能評価尺度)を比較したところ、ベースライン(38点)比で各群4.7点、4.1点、3.7点低下し、両用量とも偽薬比有意な差は見られなかった。肺活量の解析もフェールした。比較的良い成果があった高CRP値患者に限定して後期第2相を実施したが、ALSFRS-Rも、肺活量も、フェールした。但し、40~65歳のサブグループでは比較的良好な数値が出た。このため、今回の承認申請は適応を何らかのサブグループに絞ったものと想像される。

Neuvivoは、この二本の試験を実施したNeuraltus Pharmaceuticalsの創業者らが2021年に設立したようだ。経緯やNeuraltus社の帰趨は不明。

リンク: Neuvivoのプレスリリース


Aldeyra、ドライアイ用薬を再承認申請
(2024年10月3日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)をドライアイの兆候・症状治療薬として米国で再承認申請した。2年前に承認申請していたが、薬効のエビデンスが兆候に関しては二本あるものの症状は1本しかなかったため審査完了通知を受領。改めてドライアイ疾患チャンバー試験(1~3時間強風を当てて目を乾燥させ不快感を計測する)を成功させた。結果論で言えば、この試験を先にやっていればもっと早く承認申請できただろう。

リンク: 同社のプレスリリース


PTC社、フェニルケトン尿症治療薬を米国でも承認申請
(2024年10月1日発表)

PTCセラピューティクスはPTC923(sepiapterin)を小児と成人のフェニルケトン尿症用薬として米国で承認申請し受理された。先輩格であるバイオマリンのKuvan(sapropterin)はテトラヒドロビオプテリン(BH4)の合成類縁体だが、sepiapterinはBH4の前駆体を化学合成したもの。第3相離脱試験で継続投与群のPhe値が偽薬にスイッチした群を有意に下回った。欧州では3月に申請、ブラジルや日本でも承認申請する考えだ。2020年にCensa Pharmaceuticalsを買収して入手した。

リンク: PTC社のプレスリリース


遅報:Elevar、肝臓癌用薬を再承認申請
(2024年9月23日発表)

韓国のHLB(028300:KS)の子会社であるElevar Therapeuticsは、米国で抗PD-1抗体camrelizumabとVEGFR-2阻害剤rivoceranibを切除不能肝細胞腫の併用一次治療に再承認申請した。23年5月に承認申請したが、camrelizumabを生産するHengrui Pharmaの工場におけるCMC(化学、製造、管理)問題や、米国連邦職員の渡航制限によりロシアとウクライナの治験実施施設の査察ができないことなどから、今年5月に審査完了通知を受領していた。会合でFDAが前者は解消、後者は承認申請後で可と伝えた模様だ。

camrelizumabは中国では19年にJiangsu Hengrui Pharmaceuticals(江蘇恒瑞医薬、上海:600276)が承認を取得、23年2月には上記試験に基づき肝細胞腫に適応拡大した。rivoceranibは米国のAdvenchen Laboratoriesが中国の権利をHengruiに、それ以外の地域の権利をHLBに、ライセンスした。HLBは、その後、全世界の権利を取得しHengruiに対するライセンス元となった。中国では14年に承認取得。一般名はUSANでもINNでもrivoceranibだが中国ではapatinibと呼ばれClinicalTrials.govでは試験によりどちらかの名称が登録されている。

リンク: Elevar社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、バース症候群用薬の評価が分かれた
(2024年10月10日発表)

FDAは心臓腎臓薬諮問委員会を招集し、米国のStealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)がバース症候群の治療薬として承認申請したelamipretideについて意見を聞いたところ、薬効を認めた委員が10人、認めなかった委員が6人と、意見が分かれた。BSF(バース症候群財団)が報じたほど強力勧奨とは思えないが、いずれにせよ、採決結果は参考に過ぎず、審査担当部署がどう判断するか、そして難病薬の承認に前向きなFDA上層部が介入するか否か、注目される。審査期限は来年1月29日。

バース症候群はX染色体上のtafazzinをコードする遺伝子などに変異があり、cardiolipinが欠乏しミトコンドリア機能が低下、心不全や不整脈、白血球減少症などを発症する。40歳以上生存することは少なく、4歳までに死亡する患者も少なくない。罹患率は男性100万人当り1人、推定患者数は米国で130~150人、世界で230~250人。elamipretideはcardiolipinに結合しミトコンドリア機能を改善するとされる。

第2/3相TAZPOWER試験で12歳以上の患者12人に40mgまたは偽薬を一日一回、12週にわたり皮下投与したところ、6分歩行検査の成績が試験薬群は約443m(ベースライン値は400m)、偽薬群は444m(同413m)となり、有意な差がなかった。共同主評価項目である疲労改善効果も見られなかった。FDAは再試験を推奨したが同社は患者数が少ないことや深刻な難病であることなどから、一部の副次的評価項目の改善や、延長試験のデータ、そしてジョンズ・ホプキンズの自然歴データ19例との比較などを行い、承認申請を断行した。BSFも4200人を超える署名を集めて後押しした。

深刻な超希少疾患では十分な症例を集めるのは難しく、無作為化割付けしても上手く行くようには思えず、また、もしその疾患が様々な疾患のごった混ぜであった場合、ノイズに騙されるリスクを内在する。TAZPOWERの試験成績を見ても、12人中2人は試験薬にも、クロス・オーバー後に投与した偽薬にも、良く応答し6分歩行距離が増加している。不十分なエビデンスに基づいて承認の当否を判断するのは躊躇されるが、再試験の間に患者が死んでいくことを受け入れるのも耐え難い。かと言って、効くかどうか分からない薬を承認してしまうと、その後の新薬開発の妨げになる可能性がある。一番合理的なのは、米国には未承認薬が効くかどうか試してみる権利(right to try)が認められたので、再試験が成功し再申請するまでの間、製薬会社が患者に無償提供することだろう。

リンク: Fierce Biotechの報道
リンク: Barth Syndrome Foundationの声明


Zealand社、先天性高インスリン血症の適応まだ取得できず
(2024年10月8日発表)

Zealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)は糖尿病患者の重度低血糖症治療薬Zegalogue(dasiglucagon)を超希少疾患である小児先天性高インスリン血症に適応拡大すべく23年にFDAに承認申請したが、また審査完了通知を受領した。一回目と同様に、薬効や安全性、品質面の問題ではなく、生産委託先の査察が完了していないため。予定より遅れ8~9月に実施されたが、指摘事項が解消と認定されたかどうか、通知待ちのようだ。

この承認申請は、3週間以内の短期治療に関わるものと、ウェアラブル・ポンプによる3週超の連続投与に関わるものに分かれている。後者は追加情報の提出が必要になり、年内に回答する予定。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


【承認】


ファイザーの抗TFPI抗体が承認
(2024年10月11日発表)

FDAはファイザーのHympavzi(marstacimab-hncq)を12歳以上のインヒビターを持たないA型またはB型の血友病用薬として承認した。週一回、オートインジェクターで皮下注射して出血事故を抑制する。

体内のTFPI(組織因子経路インヒビター)に結合して、TFPIが活性化血液凝固第X因子及び組織因子・活性化第VII因子複合体と結合して凝固反応を抑制するのを妨げる。臨床試験で血液凝固因子の予防的投与を行わない群と比べて出血事故を大きく抑制し、予防的投与を行った群と比べても見劣りしない効果を示した。価格は年795,600ドルと、競合薬と同様に高い。欧州では9月にCHMPが肯定的意見をまとめた。日本では2月に承認申請された。

インヒビターがないなら血液凝固因子補充療法が第一選択だろうから、需要が本格化するのはインヒビターを持つ、ロシュの抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体Hemlibra(emicizumab-kxwh)が適応にならないB型血友病向けが、承認されてからだろう。

類薬はノボ ノルディスクのアレモ(コンシズマブ/concizumab)が昨年9月に日本でインヒビター保有のA/B型血友病に承認され、今年6月に非保有者に適応拡大した。米国でも申請されたが審査完了通知を受領し、適切な投与を担保するための施策の検討や生産プロセスに関する追加情報などを求められた。欧州でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース


ジェネンテックのPI3K阻害剤が承認
(2024年10月10日発表)

FDAはロシュ・グループのジェネンテックが申請したItovebi(inavolisib)を審査期限の7週間前倒しで承認した。成人の局所進行/転移乳癌のうち、PIK3CA変異があり、ホルモン受容体陽性、her2陰性で、内分泌療法薬による術後アジュバント療法中または完了後1年以内に再発し、その後の治療を未だ受けていない患者が適応になる。ファイザーのCDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib)、及び、選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーターfulvestrantと併用する。エビデンスとなるINAVO120試験ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が15.0ヶ月とIbrance、fulvestrant、偽薬の3剤を投与した群の7.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.43だった。副次的評価項目の全生存は未成熟で有意水準に到達していないが、中間解析のハザードレシオは0.64(95%信頼区間0.43-0.97)と好ましい方向を向いている。レーベル上の警告・事前注意事項は高血糖、口内炎、下痢、胚胎毒性。

ホルモン受容体陽性乳癌のうちPIK3CA変異は4割。PI3K阻害剤はノバルティスのPiqray(alpelisib)やアストラゼネカのTruqap(capivasertib)が一足先に承認されているが、Itovebiの適応の分かりやすい違いはCDK4/6阻害剤も併用すること。一方で、術後アジュバントでCDK4/6阻害剤を使った患者にも有効なのかは別途、臨床試験が必要だろう。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
24/11/9アステラス製薬のzolbetuximab(claudin18.2陽性胃・胃食道接合部腺腫)
24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
諮問委員会
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)



今週は以上です。

2024年10月5日

第1075回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 振り返ると奴が(負けて)いる 
  • カルケンスを未治療マントル細胞腫に承認申請 
  • エンハーツをher2ちょっと発現乳癌に適応拡大申請 
  • Darzalex皮下注の4剤併用一次治療を承認申請 
  • アッヴィ、抗c-MET抗体薬物複合体を承認申請 
  • オプジーボも切除可能非小細胞性肺癌の術前術後投与が承認 
  • レットヴィモの甲状腺髄様腫適応が本承認 
  • EMA、5アルファ還元酵素阻害剤の安全性を検討へ 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


振り返ると奴が(負けて)いる
(2024年10月2日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、後顧的リアル・ワールド研究で、転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)の治療におけるErleada(apalutamide)の延命効果がenzalutamide(アステラス製薬/ファイザーの競合薬、Xtandi)を有意に上回ることが判明したと発表した。

電子医療記録に基づいて、18年12月からの5年間にmCRPCの最初のアンドロゲン受容体阻害剤としてErleada(1800人)による治療を受けた患者の全生存期間を調べたところ、24ヶ月生存率は87.6%で、enzalutamide(1909人)による治療を受けた患者と比べてハザードレシオは0.77(95%信頼区間0.62-0.96)、p<0.019だった。

因みに、各剤のこの用途における承認のエビデンスとなったアンドロゲン枯渇療法併用偽薬対照試験では、Erleadaの全生存ハザードレシオは0.52、24ヶ月生存率は82.4%(偽薬群は73.5%)、Xtandiの試験ではハザードレシオ0.66だった。

この研究は、FDAのリアル・ワールド・エビデンスに関するガイダンスに即したもの。後顧的研究は、色々解析して差が出たものだけを発表したのではないかと疑われないよう配慮するのが一般的なので、他の適応である転移去勢抵抗性前立腺癌や非転移去勢抵抗性前立腺癌などにおける分析も発表したほうが良いだろう。p値はそれほど低くないので、もう一本エビデンスが欲しい所だ。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


カルケンスを未治療マントル細胞腫に承認申請
(2024年10月3日発表)

アストラゼネカはBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)を未治療のマントル細胞腫に用いる適応追加申請をFDAに行い、受理された。優先審査を受け、審査期限は25年第1四半期とだけ明かされている。第3相ECHO試験で65歳以上の患者を組入れて、bendamustine及びrituximabと併用による6サイクルの導入療法と、維持療法(最初の2年間はrituximab併用)を施行したところ、PFS(無進行生存期間)がメジアン66.4ヶ月とCalquenceの代わりに偽薬を投与した群の49.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.016だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟で、偽薬群の多くが進行後にCalquenceなどのBTK阻害剤にクロスオーバーしたため便益が稀薄化されている可能性があるが、ハザードレシオは0.86と好ましい方向を指している。

COVID-19が流行した影響を調整するためCOVID-19関連死をセンサリングすると、PFSはハザードレシオ0.64、全生存期間は0.75と、点推定値が上向くとのこと。本当はもっと効くと考えるべきか、感染症リスクの反映と受け止めるべきか、難しい。

適応拡大が承認されれば、17年の二次治療における加速承認も本承認に切替えられるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツをher2ちょっと発現乳癌に適応拡大申請
(2024年10月1日発表)

第一三共とアストラゼネカは、米国でEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の適応拡大申請を行った。切除不能/転移乳癌で転移後に一つ以上の内分泌療法を受けたが化学療法は未だの患者のうち、her2発現度が低(IHC法検査で2+かつISH法検査で陰性、またはIHCで1+)、あるいは極低(IHCで0だが不完全な/かすかな/かろうじて膜染色が認められる)が新たに適応になる見込み。

エビデンスとなるDESTINY-Breast06試験では、主評価項目であるher2低サブグループ713人のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン13.2ヶ月とcapecitabineなどで治療した群の8.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。探索的解析である極低サブグループ(判定が難しいせいか、治療施設の判定を中央査読)の152人では各群のメジアンPFSが13.2ヶ月と8.3ヶ月と低サブグループと大きな差はなかった。しかし、ハザードレシオは0.78と若干悪化し、症例数が少ないせいか一般的な有意判定閾値には達しなかった。
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IHC法のアウトプットは3+、2+、1+、0の4種類だが、極低は0より大きく1より小さいという新たな小分類だ。3+や2+ですら医療施設の判定とセントラルラボの判定が食い違うことがあるようなので、0と0超1未満を正しく判別することができるのか、という素朴な疑問を持つ。ASCOは1+と0の識別の信頼性にすら疑問を呈している。もしこの点に問題がないようなら、そして、her2極低発現サブグループの全生存期間が失望的なものでなければ、her2治療薬の歴史に新しい局面を切り開くことになる。

リンク: 両社のプレスリリース


Darzalex皮下注の4剤併用一次治療を承認申請
(2024年9月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)をASCT(自家造血幹細胞移植)以外の当初治療を予定する未治療多発骨髄腫に用いる適応・用法追加をFDAに承認申請した。第3相CEPHEUS試験に基づくもので、VRdレジメン(bortezomib、lenalidomide、dexamethasoneの3剤併用)に追加した群は主評価項目であるMRD(微小残存病変、感度10万分の1)陰転率が60.9%と、VRdレジメンだけの群の39.4%を上回り、オッズ比2.37、統計的に有意だった。PFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.57で有意だった。

リンク: 同社のプレスリリース


アッヴィ、抗c-MET抗体薬物複合体を承認申請
(2024年9月27日発表)

アッヴィはABBV-399(telisotuzumab vedotin、通称Teliso-V)を第2相試験データに基づきFDAに承認申請したと発表した。レセプター・チロシン・キナーゼであるcMETに結合する抗体と微小管重合阻害剤MMAEの抗体薬物複合体で、非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の25%で見られる、EGFRは野生型のままだがcMETが過剰発現しているタイプを標的とする。成人の治療歴のある患者を組入れたLUMINOSITY試験でc-MET高発現(免疫組織適合性アッセイで腫瘍細胞の50%以上が3+)の78人におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が34.6%(95%下限24.2%)、メジアン反応持続期間は9.0ヶ月、中程度発現(同じく25%以上50%未満が3+)の83人では22.9%(95%下限14.4%)、7.2ヶ月だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


オプジーボも切除可能非小細胞性肺癌の術前術後投与が承認
(2024年10月3日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を成人の切除可能(腫瘍が4cm以上でリンパ節陽性)な、EGFR変異やALK再構成のない非小細胞性肺癌に用いることを承認した。摘出術前に白金薬などによる化学療法と併用し、術後は1年間、単剤投与する。第3相CheckMate-77T試験でEFS(増悪事象など無しで生存)のハザードレシオが化学療法だけの群と比べて0.58だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが中間解析で好ましくない傾向は見られていない。

BMSもプレスリリースを出しているが、FDAのリリースで目を惹くのは、術前投与の有害事象が手術に影響するリスクに言及していること。上記試験で手術のキャンセルに至った症例は12人、Opdivo群の5.3%で、化学療法だけの群の3.5%を上回った。手術が予定より遅れた症例も4.5%対3.9%で若干上回った。

この指摘で思い起こすのは7月の、アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)に関する諮問委員会で議題に上がった、本当に術前術後両方投与する必要があるのか、というFDAの問題意識だ。ImfinziとOpdivoは既に治験結果が出ているので承認されたが、今後開始される試験は、術前又は術後と術前術後の両方を検討するよう求められるだろう(術前術後は今回で3剤が既に承認されており今更偽薬対照試験はできないだろうが)。

図表:抗PD-(L)1抗体の非小細胞性肺癌術前/術後試験のサマリー
介入時期試験名試験薬ハザードレシオ
術後IMpower-010atezolizumab0.66 (0.50-0.88)
KEYNOTE-091pembrolizumab0.73 (0.60-0.89)
ADJUVANT BR.31durvalumab有意差なし
術前CHECKMATE-816nivolumab0.63 (0.45-0.87)
術前術後KEYNOTE-671pembrolizumab0.58 (0.46-0.72)
AEGEANdurvalumab0.68 (0.53-0.88)
CHECKMATE-77Tnivolumab0.58(0.42-0.81)
注:ハザードレシオの対象はEFS(無イベント生存期間)またはDFS(無病生存期間)、偽薬対照。ADJUVANT BR.31試験はPD-L1発現>25%のサブグループのDFS。カッコ内は95%信頼区間。
出所:各種資料より作成。

リンク: FDAのプレスリリース

レットヴィモの甲状腺髄様腫適応が本承認
(2024年9月27日発表)

FDAはイーライリリーのRET阻害剤、Retevmo(selpercatinib)のRET変異のある進行/転移甲状腺腫における加速承認を本承認に切替えた。2歳以上が適応になる。市販後薬効確認試験のLIBRETTO-531試験で効果をVEGFR阻害剤のcabozantinibまたはvandetanib(医師が選択)を投与する群と比較したところ、PFSのハザードレシオが0.28と大きな差があった。メジアン値は各群、未達と16.8ヶ月。

レーベルを読んで興味深いのは、副作用の患者評価指標が薬効試験成績の箇所に記載されていること。事前に設定された副次的薬効評価項目である、煩わしい副作用を経験した時間(比率)は各群8%と24%、全く経験しなかった患者の比率は61%と30%だった。有害事象による離脱率が各群4.7%と27%と、忍容性が上回ったことと整合している。

末期癌におけるQOL調査は概して回収率が低く、信頼性を十分に担保できないことが少なくない。しかし、この試験は被験者290人中222人から、FACT GP5(Functional Assessment of Cancer Therapy item GP5)に基づく回答を取得できた。有害事象データの鏡像に過ぎないと言ってしまえばそれまでなのだが、かってはクリアできなかったFDAのハードルを、乗り越える姿を見るのは感慨深い。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA、5アルファ還元酵素阻害剤の安全性を検討へ 
(2024年月日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、5アルファ還元酵素阻害剤の自殺思慮/行為リスクに関する検討を開始した。18~41歳の脱毛症の治療薬として承認されているfinasterideの1mg錠とスプレー、良性前立腺肥大の対症療法であるfinasterideの5mg錠とdutasterideの0.5mgカプセルが対象で、まず、製薬会社に保有する情報(有害事象報告、前臨床などの研究成果、自殺思慮/自殺を抑制するための対応など)の提出を求めた。

両活性成分とも20年以上前に承認され既にGE化している。鬱病など精神面の有害事象リスクは既にレーベルに記載されているが、自殺思慮/行為に言及されているのはfinasterideの1mg錠だけのようだ(どちらもEMAによる中央審査により承認された薬ではないためEMAのサイトには添付文書が掲載されておらず、代わりに、元EU加盟国である英国のEMCサイトで確認)。今回の発議国であるフランスの承認審査機関の調査によると、これまでに自殺・自殺思慮の有害事象報告が468件あり、うち93件は死亡に至った(多くは自殺によるものと推測された)。finasteride服用者の致死例で最も多かったのは1mgだった。

尚、米国のレーベルには市販後に報告された有害事象として自殺思慮・行為が記されている。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】

PDUFA
24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
24/11推住友ファーマのGemtesa(vibegron、BPH用薬服用者の過活動膀胱)
24/11/9アステラス製薬のzolbetuximab(claudin18.2陽性胃・胃食道接合部腺腫)
24/11/13PTC TherapeuticsのUpstaza(eladocagene exuparvovec、AADC欠損症)
24/11/16Autolus TherapeuticsのAUTO1(obecabtagene autoleucel、急性リンパ芽球性白血病)
24/11/27ロシュのRG6114(inavolisib、PIK3CA変異乳癌)
24/11/28Applied TherapeuticsのAT-007(govorestat、ガラクトース血症)
24/11/29BridgeBio Pharmaのacoramidis(ATTR心筋症)
24/11/29Jazz PharmaceuticalsのZW25(zanidatamab、her2+胆道癌)
諮問委員会
24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)
24/11/19DSRMAC/PDAC:非定型向精神薬clozapine(流通処方制限の緩和)



今週は以上です。